King qualificationアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
有天
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/19〜08/23
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●本文
「パンナドー、パンナドー!」
赤毛の少年、クリストファーが、友人の姿を求めバラ園を彷徨う。
『王子様、王子様‥‥炭焼きの‥人の子が王子様を探しているよ』
茨が刺がびっちりと着いた蔦を震わせる。
茨の森の小さな空間、丁度小柄な少年が一人座れるくらいの‥‥兎の退避場に蒼麻色の髪をした少年、パンナドーが眠っている。
茨に声を掛けられ、眼を覚ます。
「‥‥‥イタっ!」
何処で眠ってしまったのか忘れたようである。
刺がパンナドーの額を傷つける。
恐怖におののき、茨がその身を震わせる。
「あ‥‥うん、大丈夫。幾ら僕がうっかりものでも大事な友達を傷つけるような事はしないよ」
そうにっこり笑う。
それに君を傷つけたら、兎君達が困るだろう?
パンナドーの足下を子兎達が跳ね回っている。
「パンナ‥‥」
「僕はここだよ、クリス。どうしたの?」
茨が分かれて出来た道をパンナドーが歩いて来る。
「王様と女王様が呼んでいるよ」
「君をわざわざ呼ぶなんて‥‥余程僕が怒りそうな内容か、皆に僕が嫌われているか‥‥」
卑屈に笑いそう言うパンナドーに眉を顰めるクリストファー。
「そんな事を言うもんじゃないよ。きっと皆、忙しいんだよ」
パンナドーはモンスター達の王国エム・ランドにおいて特異な存在だった。
成人の儀を前に大人を凌ぐ強い魔力。
普通の魔物ならば呪文を唱えるべき所を頭に思い浮かべるだけで済むのだった。
故に誰もが王子であるパンナドーを腫物のように扱っていた。
そんな中、王国で唯一の人間、迷い人と呼ばれるクリストファーだけが、パンナドーを怖がらず接してくれていた。
「忙しい?」
「聞いていない? 『悪しきもの』が攻めて来たんだって、西の砦がそいつに襲われて、大人も子供も、砦にいた人は皆殺しになったんだって。皆、大騒ぎをしているよ?」とクリストファーは自分よりやや背の低いパンナドーに視線を落す。
「そうか‥‥砦が‥‥『悪しきもの』の噂は聞いている。でも誰もその姿を見た者はいないって言うじゃないか」
王宮の廊下を歩くパンナドーとクリストファー。
「そう、誰も姿を見た事がない。もっとも『悪しきもの』に攻められた町は全滅しているからな」
手に長弓を持ち、銀と水晶で出来た胴巻きを身につけた全身が銀細工で出来たようなポニーテールの少女が二人に声をかける。
「君は?」
「私はギュンタージュ、渾沌と闇の王カスケード、雪と氷の王グドーの子。二人が遅いので迎えに来た。王達と予言者が広間で待っている」
背の高い、どこか冷たい表情のギュンタージュは、二人を急かす。
「美人だけど、おっかない」
そう笑うパンナドーをジロリと睨むギュンタージュ。
顔見合わせ、肩を竦めて笑うパンナドーとクリストファー。
二人のその仕種を見て、意外そうな顔をするギュンタージュ。
「なに?」
「‥‥‥いや、なる程。あなた達が選ばれたのは、そういう事か‥‥」
「なんなの?」
「こっちの話だ。急げ」
3人が広間に着くと、そこには色々な国からの使者が集まっていた。
中央にパンナドーの父王、ギュンタージュの父王らしい黒と銀で身を包んだ背の高い男、金と赤で綴られた楔帷子を着た男とその子供らしい少年。
妖精達がちょこちょこと走り回りっているその中心に‥‥独り抜き出た背の高い男とも女とも判別の着かぬ人物。大きな7本の角、光彩のない瞳と長いローブ‥‥予言者とも呼ばれる神族であると知る。
『これで全員、旅に出る勇者が全員揃いましたね』
鈴のような声がパンナドーの直接頭に響いた。
●アニメ「King qualification(王の資格)」あらすじ
モンスターの王国エム・ランドに突如襲い掛かった病魔のような「悪しきもの」。
その正体、誰にも判らず、ただ心に闇よりも暗いシミのようにその魔物の心に悪しきものが住み着く。
捕り憑かれたもの、その心だけではなく、姿、魔力も全て変わる。
全てを憎み、全てを恨み、全てを破壊せずにいられず‥‥‥エム・ランドは混乱を極めていた。
その悪しきものを退ける為に北方に住む神族より天啓が下る。
選ばれし少年達は集い、それを退ける力を得る為に旅を続ける。
●主な登場人物
「全てを与えられ、祝福されし者」王子パンナドー 属性:光と風と土と木、後の「光と風と大地と実りを司る魔物の王」エム・ランドにいる12人の王の1人で統括者となる。
小柄な男の子だが、大人顔負けの魔力を持つ為に心無い者からは「忌王」と呼ばれているが、天然と思われる程明るい性格をしている。
「渾沌と闇、雪と氷の王女」ギュンタージュ 属性:闇と水 、強い魔力を持ち、容姿に似合わない力と深い知識を持つ為に他兄弟を押し退け、氷(水)のモンスター達の国の王となる第一候補と言われている。背の高い美少女。
後にエム・ランドにいる12人の王の1人で統括者となり、パンナドーの妻となる。
「浄化の炎と踏み締める大地、金の王子」イフリートのグフター 属性:金と火、世襲制ではない竈(火)の国で2代続けて王になるであろうと言われているイフリートの少年。背が高く、イフリートらしく、ちょっと乱暴者だがある種のカリスマ性を持つ。後にエム・ランドにいる12人の王の1人で統括者となる。
「彷徨える無垢なる者」人間のクリストファー、パンナドーの友人、王宮で炭焼きをしている少年。
「愚かなる道化」妖精マリブ 属性:風と土、飛行能力あり。
●他
「神族」ギュンタージュの住む北方の氷の国よりさらに北に住む神話の一族。
人間が言う神聖魔法に近い能力と特異な能力を持ち、モンスター達に予言者または賢者とあがめられている。
「人間」迷い人。何十年かに一度、妖精の輪(満月、もしくは新月)または偶然が重なり開いた鏡等にできる特殊門を越えてエム・ランドに迷いこんできてしまった人々。モンスターの村や町で住むのを拒み、森の奥や王宮の片隅で生活している者が多い。基本的に魔法は使えない。まれに特殊能力(アンチマジックや癒し)を持つ者もいる。
「悪しきもの」正体不明の勢力。
人(モンスター)に取付く邪念の塊と解釈。一部には神族との勢力バランスを保つ為、自然発生するものという説もある。本ストーリィより500年未来、パンナドーとギュンタージュの子によって退治されます。
「亡びの国」1000年前に滅んだ砂漠の王国。旅の目的地、悪しきものを滅ぼす何かがあると言う。
●リプレイ本文
●CAST
パンナドー‥‥‥エマ・ゴールドウィン(fa3764)
ギュンタージュ‥笹木 詠子(fa0921)
グフター‥‥‥‥藤井 和泉(fa3786)
クリストファー‥メル(fa5775)
マリブ‥‥‥‥‥美森翡翠(fa1521)
魔犬ビリー‥‥‥森村・葵(fa0280)
エルヴィー‥‥‥アルヴィン・ロクサーヌ(fa4776)
青年(悪しきもの)‥‥‥‥‥九条・運(fa0378)
●王の資格
『汝らを運命が守護せり、汝らの行く手に障害あれども恐れる必要なし、汝らが和を成したなれば───
輪なき時は如何なる強大な力あれど、意味は無し。
さあ、手を取り合い進むが良い。
錨は巻き上げられ炎の時代がきたれり』 (預言者エルヴィーの言葉より)
心無いものが言う。
ご覧、忌み王達一行が行くよ。
王達が扱いに困った王子達を、
厄介者払いに誰も帰ってきたことがない「亡びの国」へ、
ありもしない遺物を求めて出かけていくよ。と。
そう影口を叩く者の姿も現れぬ分だけ気が楽かもしれない。
集めた薪を炎にくべながら、パンドナーはクリストファーに苦笑する。
視線の先にはベソをかいているマリブ。
城を出て2日、転移魔法の使えるギュンタージュが父王カスケードから託された門外不出の座標地図を元に数回のジャンプを繰り返し、今やエム・ランドの版図の端まで来ていた。
だが、生まれも育ちも考え方も違う5人は早くも衝突していた。
「もういや‥‥なんでマリが選ばれたかわかんない」
花の精、マリブが言うのをギュンタージュがなだめる。
「俺達は遠足に行くんじゃないんだぞ」
「これから暫くは一緒なんだもの、仲良くしよう? 亡びの国に着く前に疲れちゃうよ?」
グフターを諌めるクリストファー。
「全くコレだから子供達だけで行かせるのは心配だというのに‥‥何故、他のものはついて来ぬのだろう」と魔犬ビリーがマリブとギュンタージュを慰めるように体を摺り寄せる。
「簡単だ。弱いからだ」
そう、正体の判らぬ『悪しきもの』と戦うだけではなく、亡びの国までの途中何が出るか判らないのだ。
大人の魔物でも進んで来るのは変わりものだけである。
「‥‥どうせ私は変わり者だよ」
ふん。と鼻を鳴らすビリー。
「お前は何が出来る? 口から炎を吐くことが出来るのか? それともその牙で敵を引き裂くことが出来るのか?」
「平和を愛する私は戦いなどしない。嫌いな奴の脚におしっこをかけて嫌がらせをするだけだ、ただの犬だしな」
ビリーがグフターにおしっこをかける真似をする。
「良いコンビだ」
驚くグフターを面白そうに見るパンドナーとクリストファー。
「おい、人間! 今、笑っただろう」
「僕?」
「そうだ! 大体、こいつやこいつ(マリブやビリーを指差す)よりもっと役に立たないお前がどうしてここにいる?!」
「それは僕も聞きたい。僕は兎も角、クリスは‥‥人間にも神族に近い特殊能力がある者がいると聞くけど‥‥」
君なら何か知っているでしょう?
そうギュンタージュに尋ねるパンドナー。
「君達、水と闇の魔物の中で銀水晶の瞳を持つものは、人とは違うものが見えると聞くよ?」
(「‥‥そうか、クリストファーの力を知らぬのか」)
ギュンタージュの目から見ても特殊なオーラがあるのは判ったが、今まで見たことがないものであった。
ギュンタージュが皆を見回す。
「我等は連合という事で各種族を代表してここに集まっている。それが各国の思惑が色々あってでもだ。それに北方神族であるエルヴィーの予言は外れぬ。皆も聞いたように皆で選ばれた者同士、協力し合って進むしかない」
つまらぬ事で時間を取らず、夕食支度をしよう。地図によればこれから先、水を汲める場所もないようだ。
明日早々長期保存の効く食料と水を確保するべきだろう。
パンドナーよりほんの少しだけ年上であるはずのギュンタージュがこの一行のリーダーを務めていた。
グフターと同い歳のはずだが、ギュンタージュの言う事をおとなしく聞いているのは、実力第一位主義のイフリートだからかもしれない。
翌朝、水と食料を確認すると転移を行う。
ガラガラと戦火に炙られ脆くなったレンガがグフターの斧槍に突っつかれ、崩れ落ちる。
「だいぶ前に滅びた街だな」
「ここも『悪しきもの』に襲われた街なんだろうか」
廃墟の中をゆっくりと先に進むパンドナーとグフター。
「私が預かった地図にはこの街は書いていなかった。ここ100年か200年の間に出来た街のようだが‥‥」
「なんだか‥‥亡霊が出そう」
そう言うとマリブはギュンタージュの後ろに隠れてしまう。
街を調べる一行。
「あれ、誰か来たよ?」
クリストファーの声に警戒する一行。
頭から向日葵を生やした青年がロバに乗って歩いてくる。
「この街に‥‥我々以外に生きる物がいる?」
「それはこっちの台詞だよ。亡霊にしては生きが良すぎるし、この辺じゃあ盗賊も出ないしなぁ‥‥」
「僕らは盗賊じゃないよ。預言者の言葉に従って旅をしているものだよ。貴方は?」
「俺? 俺はこの町でパン屋を営んでいたものだよ」
別の街に2週間ほど用事で出かけていたら‥その間にこんな有様になっていたよ。と青年は言う。
お茶でも1杯どうだい? 良かったら、他の街の様子を教えてくれると嬉しいな。と人懐っこそうに笑う青年。
青年の家だという、かろうじて家の形を保った建物に招待される一行。
「ここは『悪しきもの』に滅ぼされた街?」
「どうだろう? 噂は聞くけど何しろ現場を見たわけじゃないからな」
帰ってきたらこうだったし‥‥、皆を葬るのが精一杯でそんな事を考える余裕なんてなかったよ。
「しかし、彼女には嫌われたみたいだな」と苦笑する。
青年とパンドナー、クリストファーから少し離れた後ろから着いてくるギュンタージュとグフター、マリブ。
ビリーはどこかに隠れてしまったようだ。
「ああ‥‥君だけじゃないよ。僕も嫌われているようだよ。当然の反応だとも言えるけど」
あれで笑えばもっと可愛いのに。と苦笑するパンドナー。
「一緒でやっていけるのか?」
「向こうにその気があればやっていけると思うよ」
「向こうにはその気がないように見えるけどな‥‥あれは悪意だろう」
「僕の周りは悪意で一杯だよ‥‥唯一違うのはクリストファーだけだよ」
「そうかな? どうしてそうと言える? 彼に聞いたのか?」
「しかし、彼女には嫌われたみたいだな」と苦笑する。
青年とパンドナー、クリストファーから少し離れた後ろから着いてくるギュンタージュとグフター、マリブ。
ビリーはどこかに隠れてしまったようだ。
「そうかな? 彼女は責任感が強いから余計そう感じるのかもしれないけど‥‥心配なのは、パンドナーを誤解している所だよ」
あれで笑えばもっと可愛いのに。と苦笑するクリストファー。
「一緒でやっていけるのか? 嫌、彼女は兎も角、彼だな」
「イフリートは実力社会だからね。魔物でもない‥‥人間の僕は足手まといだって思っているみたいだね。このエム・ランドでは僕ら人間は『異質』だ‥‥でもそんな僕を唯一必要としてくれるのはパンドナーだけだよ」
「そうかな? どうしてそうと言える? 彼に聞いたのか?」
「待て、何か可笑しい?!」
青年とパンドナー、クリストファーから少し離れた後ろから着いて歩いていたギュンタージュとグフター、マリブ。
「‥‥そうだ。人間等、役に立たない。荒地に追いやってしまえばいい‥‥」
「ごめんなさい、ごめんなさい‥‥マリを嫌いにならないで‥」
「グフター? マリブ?」
とろん。とどこか焦点が合わぬ目をしたグフター。
見れば、涙を流すマリブも同じ状態である。
いつの間にかギュンタージュの真後ろに青年がいる。
持っていた弓を青年に振り下ろすが、がっちりその手に捕まえられる。
「何故、本心を隠す? パンドナーが恐ろしいと‥‥お前には見えているはずだ。奴の力がどれ程のものか‥‥きちんとコントロールできるようになればお前の国を脅かしかねないと‥‥」
怪しい笑みを浮かべ、青年(悪しきもの)が囁くように言う。
『兄に代わって国を守るのだろう? 奴に言ってやればいい「‥‥そのまま心を抱えておけば『闇』に飲み込まれてしまう」とな‥‥奴はお前が手を下さなくても勝手に滅んでくれる』
「エルヴィーが‥‥彼を‥パンドナーを‥‥必要だと‥‥‥‥言ったのだ」
『中途半端を抱え、本心を隠した者が必要なのか? それに奴を選んだのは、王だろう?』
ギュンタージュの目が大きく見開く。
「選んだのは‥‥王?!」
『そうだ‥‥ゆっくり奴が滅んで行くのが待ちきれぬならこの弓で射ればよい。一瞬だ‥‥』
掴んでいた弓を放す『悪しきもの』。
矢筒から矢を2本抜き、ゆっくりと番えるギュンタージュ。
弓を引き絞り、そのまま弦を離す。
唸りを上げ、鏑矢がパンドナーとクリストファーの間を通り抜ける。
流れるような動作でそのまま矢継ぎ早に『悪しきもの』にもう1本の矢を射る。
『悪しきもの』に届く前に矢は散り散りに飛散する。
「心を操る闇属性の私としたことが、お前の『甘言』に騙されるところだった‥‥」
ぎりっと唇を噛むギュンタージュ。
「‥‥五月蝿い、お前に僕の何が判る?」
パンナドーの体を虹色の光が淡く包む。
「この僕の‥‥預言者の言葉を信じた‥‥父上の‥‥思いの為だけに生み出されたこの僕の‥なのに‥‥僕は誰かを傷つけたくて、こんな風に生まれた訳じゃないんだ! だけど、僕に手を差し伸べてくれたのはクリスだけだった! 僕はクリスを信じる!」
『悪しきもの』の作り上げた心の牢獄が音を立てて崩れ落ちる。
「パンナドーと僕は似ている。僕はエム・ランドに来てからずっと‥‥僕は‥元の世界でも、こちらでも必要とされていないかった‥‥だけど、パンナドーは僕を必要としてくれた。皆と違うのだってちょっと魔力が強いだけの傷つきやすい男の子だよ。それに僕が始めてエム・ランドで出来た友達だよ。僕が彼を信じなくってどうするんだい?」
クリストファーが『悪しきもの』を見つめる。
「僕をパンドナーの所に帰してくれるね」
パンナドーとクリストファーの間を鏑矢が通り抜ける。
憑きものが落ちたようにがくりと膝を着くグフターだったが、力尽き、地面に落下するマリブを片手で必死に受け止める。
「ぐふ‥‥まり、助けてくれるの?」
「弱者を護るのは強者の義務だ、気にする事ではない。気にする位なら、強くなれ」
そっとマリブを地面に下ろすグフター。
「許せないのは、お前だ‥‥卑怯なマネを」
「ぐふ、魔力あげる。魔法使って!」
マリブの魔法は、第3者の魔法の効力や使用量を増やす互助系魔法である。
斧槍を構えるグフター。魔力を高め、呪文の高速詠唱を取り掛かっているギュンタージュ。
「なに、何? 俺を退治するの?」
ギャハハッ、さいこー! と笑う『悪しきもの』。
「いーぜ、幾らでも、叩き切るなり、氷漬けにしようが体なんかは幾らでもある。好きにしていいぜ。お前らがこの体を串刺しにする瞬間、別の誰かになるだけだ」
『悪しきもの』の言葉に愕然とする3人。
「誰だか知らないムカつく君ごと、関係ない別の人が死んでしまうんだね‥‥」
「うん‥‥でも、大丈夫だよ。僕は君を信じているよ。だからきっと助けてあげられるよ」
手をつないだパンナドーとクリストファーが『悪しきもの』の前に立つ。
『何が出来る? お前達のような中途半端に?』
「一人で出来なくても僕には『一緒の時を過ごしてくれる』友達がいる」
つないでいない手を『悪しきもの』に向けるパンナドー。
そのパンナドーを庇う様にに炭焼きのエボリを構えるクリストファー。
ギュンタージュの瞳にオーロラに似た魔力の輝きが映る。
「これは上級魔法の『魔力の強制解除』と『精神治療』? 呪文なしで使うのか?!」
「「去れ、『悪しきもの』! ここは貴様のいる場所じゃない!」」
「‥‥やれやれだね」
『悪しきもの』から開放された青年が旅立っていくのを見を来る一行。
「しかし‥‥アレが『悪しきもの』なら厄介だね。通常の護符やアンチマジックアイテムじゃ歯が立たない訳だよね」
『悪しきもの』の魔力に晒され、壊れた護符を投げ捨てるパンナドー。
「‥‥今回は上手く退けたが、そのような不安定な力を戦力として勘定は出来ぬぞ」というギュンタージュ。
「うん、今回は運が良かっただけだよ。‥‥僕の力は‥‥‥‥‥エルヴィーが『亡びの国』に行けって言ったのは、やっぱり何かアイテムがあるのかな?」
「どうだろう?」
クリストファーに照れくさそうに声を掛けるグフター。
「弱いという認識を撤回するつもりはない‥‥が、その意志、賞賛に値する」
「うん、ありがとう」
そして今回のことで心が近づいたもの、更に遠くなってしまったもの、悲喜こもごもである。
が、悪しきものの軍勢を止めることは適わず、一刻の猶予もなかった。
旅を再開した一行は苦難を乗り越えて『亡びの国』の国境に辿り着く。
「ここが、亡びの国‥‥」
息を呑むクリストファー。
砂埃のはるか向こうに小さく建物が見える。
「ここからは地図に載っていない未知の場所、気をつけるべきだ」とビリー。
夕焼けが、一行の不安を掻き立てるように血の色に景色を染め上げていた──。