女王様と吸血鬼アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 1Lv以上
獣人 5Lv以上
難度 難しい
報酬 38.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/22〜08/26

●本文

 ――TOMI−TVの社員用ラウンジ。
「もう大丈夫なのか? というかお前、夏休みを取ったじゃなかったのか?」
 出社したよしりん☆に声をかける鬼塚ディレクター。
 二人は大学の同窓であり、TOMIにおいては同期である。

 体の傷は救出者に癒えていたが、精神面を考えて強制的に休む事を上司から命ぜられたのである。
「部屋の大掃除とか出来なかった事も出来たし、残りはお母さんやおちびちゃん達(ペット達をよしりん☆はこう呼ぶ)と遊ぶつもりでいたけど‥‥気になった事があって出て来ちゃったわ」
 机に広げられているのは。報道局の資料室への出入り申請書であった。

「NWが実体化した男がハマっていたと言うサイトだけど‥‥‥」
「ああ、あの悪趣味な裏サイトか」
 鬼塚は、証拠として保存された残虐極まりない悪質な暴力サイトを思い出して鼻に皺を寄せる。
 バイオレンス系の仕事に良く関わっている鬼塚であるが、そういうモノが根っから好きな訳ではない。
 男がハマっていたサイトはよしりん☆が救出されると同時に閉鎖され、全てのデータが消去されていた。
「‥‥‥鬼塚はあの手が嫌いよね」
 薄く笑うよしりん☆。
 このよしりん☆の笑い方には見覚えがあった。
 22年前とあの事件直後と同じである。溜息を吐く鬼塚。
「‥‥お前、何考えている?」
「さぁ? 私にも判らないわ。確証がない事は言いたくないし‥‥今、心配しているのはコレ」

 ノートパソコンに表示されているのは、閉鎖されたサイトの掲示板のログ。
「この『吸血鬼』って男‥‥発言の書き方から判断すると『女性がなりきり』で書いたとはちょっと思えないから、敢えて『男』って言うけど。このクズ男、この事件を起こした可能性があるわ」
 小さな新聞記事のスクラップを指し示すよしりん☆。
 そこには、全身の血を抜き取られた変死体の記事が載る。
「調べてみたら、過去に2年間に遺体の発見場所は、まちまちだけど5件類似したものがあるの」とよしりん☆。
「その『吸血鬼』って野郎が関わったってのか?」
「可能性はある。と思っているわ。少なくともあのサイトに出入りしていたディープユーザー達にとって、他の人は生きようが死のうが関係ない、自分のS趣味を満足させる道具でしかないわ。被害者は、私が調べた範疇では自殺マニアっぽいんだけど‥‥」
「だとしたら、警察に通報する範疇だろう?」
 S野郎の趣味を満足させる殺人だろうと自殺幇助だろうと、少なくとも『ただの脚本家』が首を突っ込む所じゃないだろう? と鬼塚。
「地元の新聞社に問い合わせをした所、酔っ払いの証言として片付けられたモノの中に『獣人』らしい人影を見たっていうのよ」
 サイト運営者は獣人であった可能性が高い。
「だとしたらWEAに連絡だろうが‥‥」
「ええ‥‥でも中国での騒ぎもあるし、WEAもそう暇じゃないわ。ある程度こちらで裏を取ったり、犯人を捕まえて突き出したりが必要だと思うの。それに‥‥」
「それに?」
「殴られっぱなしって言うのは、性に合わないのよ」
 よしりん☆は薄く笑った。

「‥‥悪いが、お前らの知合いで腕が立つ、暇な奴はいるか?」
 電話の相手にそう話す鬼塚。
「よしりん☆に付き合って『吸血鬼』って名乗る馬鹿を探すのを手伝ってやってくれ‥‥‥ああ、かなりヤバい野郎だ。場合によっては、やり合う事になるかも知れない。だが、一番心配なのは‥‥よしりん☆だ。あいつ‥こっちの取り越し苦労ならいいが‥‥‥‥‥いや、何でもない。兎も角、『吸血鬼』には仲間がいる可能性がある。充分、注意するように言ってくれ。少なくともよしりん☆を襲った奴の仲間なら、人間であれ、獣人であれ、人の命なんて塵ほどにも思っていない奴らだからな」

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa3135 古河 甚五郎(27歳・♂・トカゲ)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4554 叢雲 颯雪(14歳・♀・豹)

●リプレイ本文

 よしりん☆からデータをコピーしてもらったり、残虐系裏サイトにアクセスしてのたうっている成人組。
「焼肉の恨みとは言え‥‥泣きたいです‥‥」と古河 甚五郎(fa3135)。
「好き者もここ迄くれば病気だな」と溜息を吐く神保原和輝(fa3843)。
 戦中の記録資料から日本国内では放送されなかった海外メディアによって撮影された内戦国の資料映像から警察から流れた事故記録まで様々であるが、見ている方がおかしくなりそうな不快な映像の連続に全員(よしりん☆を除いて)僻々していた。
「‥‥口直し‥目直し‥‥自分で進んでこんなモノ、見るもんじゃねえ‥‥」
 ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)は、福々とした子犬と子猫が無邪気にじゃれ回る動画を見乍ら涙していた。

「何が楽しくってこんなのを見るんでしょう?」
  各務 神無(fa3392)苛ただしく紫煙を吐き出し乍ら思いを口にする。
「‥‥他者が破壊される行為、死と言うものを目の辺りにする事で自分が優位に立っていると安心するもの、自分が生きていると実感するもの、自分の残虐性を満足させるもの‥理由は様々でしょうね」
 淡々と言うよしりん☆。
「よしりん☆さん、あなたは平気なの?」
「‥‥‥慣れでしょうね。映像は映像でしかないから‥それに資料として見る時は、そこに込められたメッセージ性や被害者(被害者家族)の気持ちを一々考えていたら、それは資料ではなくなってしまうわ」

「死んだ人は18才から31才迄‥‥‥未婚の女性って以外外部共通項はないのかな?」とベルシード(fa0190)。
「死亡原因は外因性ショック死。着衣の乱れも目立った外傷もなし‥‥‥左腕の動脈に注射痕?」
 検分書を目にした泉 彩佳(fa1890)が言う。
「何か道具を使って強制的に全身の血を吸い出したと私は思っているわ」
「特殊能力ではないだね。もしかしたらこの部分は、よしりん☆さんを襲った人のように人間が関与しているのかな? それに‥‥注射の痕は足とかの人もいるんだ。これってお医者さんとかなのかな?」
「周囲を汚さずに適格に動脈を狙えるって事は、それなりに医療知識がある程度あるって事だが‥‥指紋や遺留品が残っていないのはさすがだな‥‥」
 捜査資料のコピーを見ていた神保原和輝(fa3843)が呟く。
「5人のうち3人は同じ自殺を取り扱っているサイト‥‥元々は同じように1人で悩みを抱えている人の相談サイトだったらしいんだけど、途中から心中募集やら自殺幇助者募集とかサイト運用者の意図と別なサイトになってしまったからって、そこは閉鎖されているけど、そこには『吸血鬼』っぽい男は書き込みをしていたわ」とよしりん☆。
「‥‥‥サイアク。吸血鬼なんか名乗ってバカみたい! 吸血鬼を模した嗜好的な殺人手法? ‥‥‥巫山戯(ふざけ)ないで! それに殺された自殺マニアもサイアクだよ‥‥‥。利己的に命を奪うのも自己中に自分の命を落とすのも‥‥命を軽々しく扱う人なんて皆大ッ嫌い!」
 叢雲 颯雪(fa4554)の剣幕に苦笑するよしりん☆。
「熱くならないで、颯雪‥‥気持ちは判りますが‥‥」と神無。
「だって‥‥!」
「私自身、こう言う手合いは反吐が出るほどに厭わし‥‥でも、熱くなれば必要以上に颯雪は無理をするのでしょう? そうなれば颯雪が危険な目に遭ってしまう」
 そんな颯雪を見たくありません。と神無が、颯雪を嗜める。

 ***

 TOMIに出かけると言うよしりん☆に同行すると言う尾鷲由香(fa1449)。
「あんたがまた狙われている可能性も捨て切れない。姑くあんたの護衛を神無や和輝と一緒にする」
「‥‥別にそう無茶な事はしないわよ。折角、拾ってもらった命ですもの」
 そう苦笑するよしりん☆。
「とにかく、無茶するなよ。人が傷付くのは嫌なんだ」
 むすっと言うイーグル。
「一度ある事は二度。二度ある事は三度あるっていうけど、三度も死に掛ければ充分よ」
 くすりと笑ったよしりん☆は、イーグルの頭を子を諭す母のように優しく撫でた。

 社員以外立ち入り禁止部署に用があると言うよしりん☆。
 和輝と由香は、社内ならば襲われる事もないだろうともう1人の依頼人鬼塚に会っていた。
「あの人に‥‥よしりん☆さんに昔、何があったのです?」
「昔って、どれ位だ?」
「鬼塚さんが電話で言いかけた『取り越し苦労』の事だよ」とイーグルがいう。
「やられっ放しでは性に合わない‥‥そんな気概が、兄に似ているような気がするけど、その他に先に進み過ぎるが故の脆さを抱え込んでいるように見えるよ」と和輝。
 二人の言葉に頭を掻く鬼塚。
「悪いが、俺は当事者じゃないし‥‥ハッキリした事は判らない。俺が知っているのは、22年前‥‥あいつが大学生の時、惚れて付き合っていた男がいた。当時のよしりん☆は家族ってのに憧れが強かったんで、俺と仲間達は、そいつとよしりん☆が結婚すると思っていたよ。だが半年程あいつが突然行方不明になった時‥‥」
「ちょっと待って、行方不明って? 誘拐?!」
「判らん‥‥それはよしりん☆から聞いていないんでな。兎も角、半年経って大学に戻って来たあいつは、女優を目指す辞めて脚本家になると言った‥‥」
 あいつの資料庫に行った事があるか? それこそ、あいつが書く「ザ・DOG」のサポーターの部屋だよ。あいつは資料だと言うが、常に東西で起った膨大な犯罪記録がファイリングされている。
「だから、俺らは‥‥」
「それ以上は、鬼塚の想像でしかないわよ」
 何時の間にか戸口に立っていたよしりん☆。
「プロデューサーが探していたわよ」
 バツが悪そうにドアを出て行く鬼塚。
「‥‥今回の『吸血鬼』は鬼塚さんの言っていた22年前の件と関係あるのですか?」
 和輝が思い切ってよしりん☆に尋ねる。
「私は違うと思っているわ。少なくともこのやり方はあの人の趣味じゃないわね‥‥だけど‥」
「‥‥だけど?」
「あの人は鷹獣人だったわ」

 ***

『私は都内に住む高校3年生です。半年後に大学受験を控え〜(中略)現在家出をしながら場所を探しています』
 可愛らしいポップなホームページ。
 希望に満ちたブログ内容は、最新の日付に向かうに従い、不安と生きる事への恐怖、死への羨望が強く滲む。
 アヤが考えた囮のホームページである。
「嘘でも気分が悪い‥‥」とむっつり言う颯雪。
 颯雪が考えた囮ホームページは真面目な中学三年生。
 やはり受験のストレスと人見知りな性格から長期に渡って虐めを受け、肉体的・精神的ストレスを抱えている少女のホームページ。
 自作CGIプログラムによるブログはパッと見、1日で作り上げたデータかどうか等素人目には不明である。
 残された手がかりを元に辿り着いた吸血鬼が出入りしそうなサイトに各々自殺願望とその手伝いをしてくれる人物を探している事を仄めかすメッセージを残している。

「上手く引っかかってくれるといいけど‥‥囮と会う場所とかこっちの指定で出来れば張り込みも下見も出来るしね。絶対、この前の鷹獣人だったら絶対捕まえてコテンパにしてやるんだから」とベル。
 まず、言霊操作で特殊能力を封じるでしょう‥‥リベンジを誓う分、シミュレーションにも力が入る。
「まあ、待ち伏せは難しいでしょうね。この手の人達は自分達が犯罪を犯している自覚があるから、いきなりその日1時間後に渋谷のモアイ前で会いましょう。とか言うことが多いから」とよしりん☆が言う。
「そんな人が多いところで会うのか?」
 望遠視覚と鋭敏視覚で遠距離から監視‥‥半獣化を考えていたヘヴィが唸る。
「木を隠すなら森の中、人を隠すなら人混みよ」
 特に今回誘き出す『吸血鬼』は単なる自殺幇助だけはなく、自殺希望者からその手伝う代金として金品を受取っているのだという。
「こういうパターンの場合、大体、幇助側が電話した時には待ち合わせ場所がよく監視できるところにいるのよ。待ち合わせ時間になっても行かず、1、2時間相手を待たして本当に死にたい相手か見極めるのよ」
「この『吸血鬼』は益々絶対許せないよ‥‥神無姉‥無茶しないって言ってたけど、それでも無茶をするかも知れない。その時はゴメンね?」と颯雪は神無を見つめて言う。
「颯雪が傷付けられるのを見たら‥‥捕まえるように言われていても私はその男を赦せそうも無い」
 そっと颯雪の頬に触れる神無。

 ***

 結局、囮(アヤのHP)に吸血鬼を名乗る男が引っ掛ったのは5日目の朝であった。
 都内中をアヤを引きずり回し、吸血鬼と会えたのは夕方であった。
 閉園間際、人気の少ない新宿御苑のハズレ‥‥電車が線路を走る音と車のクラクションが遠く、アブラゼミの声と閉園を告げるアナウンスだけが空に響く。
「貴男が『吸血鬼』さん?」
「そう、貴女は望み通り美しいまま、痛みを感じぬ永遠に覚めない死の快楽を‥‥私は貴女がいたという証拠、貴女の死に逝く姿をVTRに留めるだけ‥‥と言いたい所ですが、貴女と同じ夢を希望する女性がいる限り、私は現世に留まるので警察や一目を一時避ける為に幾らかのお金を頂きますが‥‥なぁに、貴女が今迄受けた現世の苦しみから解放される対価だと思えば安いものです」
 何処か芝居がかったような台詞を言う男。

「この前の男と違うよ、全くの別人だ」
 双眼鏡を片手にトランシーバーに囁くベス。
「ああ、良かった。アンケートは正しかったんですね」と答えるコガ。
 アンケートから推測された種族は虎か獅子。
 鷹とはかけ離れた獣人であった。
「‥‥敵がどうあれ、クズには変わりないわ。WEAに捕まえて引き渡しましょう」

「あれれ?」
 毛に被われた獣の手がゆるゆると解け、人の手に変わる。
「獣化禁止だぁ」
 男がゲラゲラと笑う。
「あの人から聞いているぜ。あの女を護る獣人に言霊操作をする奴がいるってな。それに幾ら俺様でも多勢に無勢ってね。体が小さくても獣の力は侮れねぇ‥‥‥第一、人目のある場所で獣化はいけません。って先生に習わなかったかぁ?」
 それに‥‥と男は言葉を続ける。
「吸血鬼ばかりお行儀よくやっていると、たまガキがヒイヒイ命乞いをするのを見るのも楽しいだろうぜ」と品定めをするように一同を見回す。
「黙れ、変態! 聞いている方がムカつく!」
「人をなんだと思っているのよ!」
「弱っちぃもンは強ぇえもンに踏みつぶされるもンだ」
 じゃあ、あのNW化した人間はどうなのよ! 仲間じゃなかったの?! と誰かが叫ぶ。
「仲間? 冗談じゃない。ちょっとスリルのあるゲーム‥‥アノ時はNWを憑かせる媒体に人間が必要だったからな」
 人間なんて単に俺らより数が多いだけで弱っちぃ馬鹿な奴らだぜ。
 弱っちぃもンなんて幾ら死んでもいいじゃねぇか。
 男はそう鼻でせせら笑う。
「この前のアレは楽しかったなぁ‥‥お前らもNWを狩るのは楽しいだろう? 獣の本能の赴くまま、力で力をねじ伏せる瞬間‥‥ゾクゾクする。上手く行くか判らなかったが‥‥折角あの人が日本に帰って来た『祭り』だ。盛大にしたかったからな」
 中間達でNWを追い詰め弱らせ、コアだけを取り除き、密閉した容器にコアとDVDと一緒に放置したのだと言う。
 思ったより上手く行ったンで俺らもびっくりだが‥‥。と男は続ける。
「お前らの仲間が邪魔しなければ、それこそ‥‥ステーキを腹一杯食って、その上NWのデザート‥‥思い出しても残念だったぜぇ」

 ブツリ。
 男の言葉に何かが切れた。
 そう、堪忍袋とそれを人は言う。
「獣化を封じたからって何よ! あんたなんて人の姿で充分よ!」
 実際、男は一同の力を甘く見ていた。
 あっという間に袋叩きにあい、昏倒する男。
 簀巻きならぬガムテープでグルグル巻きにされた男が皆の足元に転がる。
「口ほどにもない奴だな」
「このまま放置したらNWにでも食われて死ぬかな? そのほうが世の為人のためだと思うけど」
「駄目よ。生きて仲間の居所を吐かせなきゃ」
「そうですよ。‥‥思ったより根が深そうです。情報を引き出さないと」
「この男が言った『あの女』というのはよしりん☆さんに間違いないでしょうが‥‥『あの人』っていうのは、あの鷹獣人なんでしょうか?」
「少なくともこういうクズが、まだいるって事は確かよね」
 この場で八つ裂きにしたい気持ちをぐっと堪え気絶して動かなくなった男の横腹を力一杯蹴飛ばす颯雪。

 ***

「そう、鷹獣人ではなかったの」
 吸血鬼捕獲成功の報を自宅で聞いたよしりん☆。
「皆には怪我はなかったの? ‥‥そう、良かったわ」
 そう言うと携帯電話を切るよしりん☆。
「‥‥あの人が‥‥日本に帰って来ている‥‥」
 ガラス越しに映るよしりん☆の瞳に深い闇が落ちた──。