暇なら来ない?誕生会アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
有天
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/14〜09/16
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●本文
「Happy,Happy,HappyDay♪ 素敵な誕生日♪」
フンフン♪ と楽しげに鼻歌まじりに商店街をスキップしているのはヴァニプロのロックバンド、アルカラルナイトのドラム ダイヤ・エースことパトリシア・由子・北倉。
エースの余りにも楽しそうなニコニコ顔に通行人もついつられる。
本日はメンバーであるスペード・クイーンことユリア・ブライアントの誕生日である。
ぴょんぴょんと楽しそうにスキップしているエースの姿は、とても20歳とは思えないあどけなさがある。
例え半獣化してもそういうコスプレをしているのだと、信じていもいい程の脳天気さである。
「ケーキを作って、お花を飾って‥‥どこか借りてお祝するのと家でお祝するのとどっちがいいんだろう?」
自分のお祝いはファンタジーランドで皆で遊んだ後、知合いのライブハウス「7」でのサプライズパーティだった。
本来余り体が丈夫ではないクイーンは、余り遠くに迄で1人で出かける事は少ない。
「うーん、うーん? どうしよう?」
クラウンには、自分で幹事をやると言ったが良いアイデアが浮かばない。
「あ、そうだ♪」
こういう時はお友達に聞けばいい。
もしかすると一緒にクイーンの誕生日を祝ってくれるかも知れない。
パティはポーチから携帯電話を取り出し、電話を掛ける。
「あ、もしもし? うち、パティやけど‥‥今、暇?」
●スペード・クイーンことユリア・ブライアントのお誕生日パーティ参加者募集
プレゼント:上限1万円を目安
●リプレイ本文
本日、ハイキングを兼ねたクイーンの屋外誕生日パーティを葛西にある自然公園で行う事にした一行は、千音鈴(fa3887)と笙(fa4559)が用意した2台のヴォクサーX4WD に分乗し、ANをピックアップするためにANの寮に向かう。
「朝弱いとか聞いたが‥‥ユリアさんは、ちゃんと起きれたのか?」
玄関に対応に出たクラウンにそう訪ねる笙。
「いま、キースが起こしとるよ。昨日久しぶりに珍しく眠れなかったみたいなん」とエース。
暫く待っているとナイトに引きずられるようにやって来るクイーン、不機嫌そうに眉間に縦皺が寄っている。
だがツインテールをくるくるカールさせたのはどう見てもクイーン自身とは思えない。
「俺の力作。可愛かろう」
そういうナイトの左頬には大きなミミズ晴れが走っている。
「ああ、コレ? 無理矢理起こそうとするといつもこうだよ」と苦笑するナイト。
「‥‥‥朝が弱いというのは」
「多少、低血糖とか低血圧とかも関係しているけど『寝起きが非常に悪い』んだよ。我が従兄妹殿は」
んで、本日の猛獣使いは誰だ? と皆を見回すナイト。
「その役目慎んで引き受けよう」
そう言ってクイーンを『お姫さまだっこ』で抱える笙。
「もし辛いようだったら車で寝てていいぞ」
スタスタと一番助手席が揺れないからとクイーンを自分の車の助手席に乗せる。
「んじゃあ、私は兄貴の後ろね」とちー。
運転は誰がするんだ? と訪ねると希蝶(fa5316)が運転するのだと言う。
「やっぱりここは、兄貴を観察をしないと」と主張したが、自分の車の後部座席に座る事で落ち着く。
置き土産にと助手席のクイーンに何かを耳打ちするちー。
湾岸を走る笙のミニバンが急にハンドルを取られたように一瞬蛇行する。
「何? 横風?!」
笙の後方を走っていたちーの車の中で皆で楽しく歌い乍らハンドルを握っていた蝶が吃驚する。
湾岸なので思わぬ横風にハンドルを取られる事があるのだが。
果して風だったのだろうか?
公園の駐車場でナイトに散々小言を言われるクイーンは『しれっ』としていたが、運転手の笙は顔を赤くし乍ら口元を片手で隠し乍ら荷物を下ろしていた。
「追加プレゼント貰えたみたいね、兄貴」感謝してよー。とちーが笑う。
「おしいな、あと8人。水族館は20人いると団体割引きになるんだよね」
そこら辺のおばちゃんに声を掛けてみようかな? と蝶が言う。
「へー、ここには鳥もいるのね」と入り口に置かれたパンフレットを見るちー。
「そう、ペンギンとかもいるよー。食べられないけど可愛いよね」と蝶。
食えたらもっといいのかよ。と微妙な突っ込みをナイトする。
***
取りに来るのは少し面倒だが、邪魔になるだろうと『無料』のコインローカーに荷物を預け、本館3F 東京湾が一望出来るアクリルドームからエスカレーターで暗い館内に入る。
室内の空調の為か慢性頭痛持ちのクイーンは一瞬目眩を起こす。ふらつくクイーンを支える笙。
「大丈夫‥‥です。すぐに‥‥慣れます」
実際、入り口すぐの水槽で嬉しそうにクラウンと 雨堂零慈(fa0826)並んで鮫を見ていた。
「水族館はあんまり来たことねーんだが、なかなか面白いな。変な顔したのや派手派手しいの、トゲだらけのとかいろいろいるしよ」
世界の様々な魚を珍しそうに見るTyrantess(fa3596)。
「圧巻にゃー」と神代タテハ(fa1704)は感心し、
「マグロ‥‥何この速さ!?」とちーが絶句する。
鮪の回遊を集中して展示している半ドーナッツ型になっている水槽を良く見る為に中に入る一行。
この場所は円形シアターに見立て、階段式になっている為に休憩を兼ね座って展示をゆっくり見る客が多い。
「ここは――マグロ尽くしを思い出すな‥‥」と笙。
「マグロ‥‥高級品‥‥カツオにスマ‥‥照焼き、塩焼き、お刺身‥‥美味しそう」
ぺったりと水槽に張りつく蝶の前から慌てて殺気を感じたのかカツオが逃げて行く。
「鮪の何処が好きなんですか?」と七瀬紫音(fa5302)がクイーンに訪ねる。
たっぷり30秒程の沈黙が続いた後「美味しい所」と答えるクイーン。
どうやら生物として好きな訳ではないらしい。
海鳥の展示コーナーでは、ちーの鳴きマネでエトピリカが仲間がいるのかと不思議そうな顔をしてコーラスする姿は一行の笑いを大いに誘ったのだった。
***
9月中と言えどもまだまだ暑い陽射しを避け、日陰に陣取る一行。
ロッカーと駐車場から持って来た色々な品物をレジャーシートの上に並べる。
「これがあった方がパーティーっぽいだろ?」
そう言ってクーラーボックスからノンアルコールシャンパンを取り出すタイ。
他のジュース類は近くの自動販売機で購入である。
シオ手製のチョコミントのドーム型ケーキ。飴細工でクイーンとアルカラルの名前が飾っている。
そこにローソクを20本立てるちー。
「これ、誰が持って来たん?」
タッパーに入った煮物に苦笑するエース。
「私よ。痛むと嫌だから冷凍して、丁度良くお昼に解凍さ‥‥あれ?」
割り箸で煮物を突っ突くちー。
まだ解凍仕切れずシャリシャリしている。
「‥‥し、新感覚の煮物って事で」と目を逸らすちー。
シオの手鞠寿司にタコス、笙の野菜メインのおかずとパエリアもどき。
タテは三段重ねのお重弁当。
「タテのばーちゃんの特製なのにゃー♪ 味は保証付きにゃー」
雫紅石(fa5625)が持って来たお重は洋風である。
白身魚と海老のフライ、唐揚げ、ミートボール、温野菜サラダ、バジリコのスパゲティー、2種類の厚焼き卵、サンドイッチにオニギリと大ボリュームである。
「本格的だね」
「そうよ。前の日から頑張ったもの」
ドライフルーツと蜂蜜のカップケーキ、チョコレートケーキを並べ乍ら、えへん。と胸を張るティア。
「男じゃなかったら、嫁に欲しいな」とナイト。
「あら、男でもお嫁さんになってあげるわよ」とティアが笑う。
「遠慮しておきます」とナイトも笑う。
蝶の季節のフルーツの盛り合わせ。と豪華絢爛である。
飲み物が回り、ローソクに火が着けられる。
誰とはなしにハッピーバースデーが歌われ、レイジが草笛でメロディをつける。
「誕生日おめでとう、クイーン!!」と蝶が、
「クイーンさん、Happybirthday!」とシオが、皆が思い思い、クイーンに祝いの言葉の言う。
拍手が上がり、クイーンがローソクを吹き消す。
レイジがそれをカメラ撮影する。
「祝いにギター披露と行きたい所だが、持参してないので‥‥エアギターやる!」
クイーンもエアキーボードを演奏だ!
蝶の言葉にすくりと立つクイーン。
「ほらほら、皆も立つ! 曲目は『花模様』だよ!」
クラウンにウィンクをするクラウン。
「うわ‥‥なんか恥ずかしくねぇ?」と言い乍らも立つナイト。
ほらほら、とエースやクラウンを立たせ、AN+蝶によるノリノリのエア『花模様』が披露される。
「うわ‥‥ビデオ持って来るんだった」
だが、これは別な効果を齎した。
遠巻きで「本物か似た人か」と見ていた周囲の一般人も「まさか本人達でエアをやる」とは思っていなかったので「似た人」と注視を止めたのだった。
もっともそれには誰も気が着かなかったようであるが。
一暴れしていよいよお待ちかねのランチパーティであるが取り分け箸を握ったのは笙であった。
「ちゃんと今回取り分けたものは食べる事‥‥勿論、キースさんもな?」
爽やかな笑顔と裏腹に絶対的な強制を含んだ笙が差し出す皿の上には野菜が多い。
それを見て顔を引きつらせるクイーンとナイト。
「私の煮た人参が食べられないって言うの」
ちーに言われ、必死に人参を飲み込むナイト。
ティアと笙とサラダを散々見比べた後、諦めたように口にするクイーン。
食事が終わると各々がクイーンの為に選んだプレゼントを手渡す。
レイジからは塗の櫛と簪。
蝶からは夜なべで作ったと言う黒のシルクのコサージュ。
ティアからは「袖無しの服とかもっとお洒落が楽しめるように」と、手編みのレースのカーディガンが贈られた。
ゴソゴソと茂みの中から大きな袋を取り出すタテ。
袋の中身は熊のヌイグルミだという。
「私のは大きくて、ちょっと大荷物になりましたので、お部屋の方に御願いして置いてあります。なので楽しみに帰って下さい」とシオ。
「私からの贈り物はこれ、『pinkクローバー』。私物だけど、受取って貰えたら嬉しいわ」
首にかける振りをして、小さな声でクイーンに耳打ちするちー。
『好きな人って一人に決める必要ないと思うの。私の彼、私の他にも恋人がいるのよ』
その言葉に目を丸くするクイーン。
「自分の気持ちを決めるのは、他の誰でもなく自分よ」
四葉でGoodluck!
そう笑うちー。
「これは俺からだ」
そう言ってエメラルドスターをクイーンの首に下げるタイ。
「これ、俺の瞳の色にそっくりだろ? 『俺はいつでも側にいる』って親愛の印だ。それに、俺ももう一つ持ってるから、お揃いにもできるしな」
「ありがとう‥タイ‥‥」
複雑な気持ちでタイを見つめるクイーン。
ちーに先日質問された際、答えたのは本心だった。
タイに対する気持ちは、他の友人達ともメンバー達とも自分の中ではっきりと違うと言う事は判る。
だがそれが愛情なのかそれとも憧憬なのか自分自身でもまだ判らないでいた。
遊びであれば何人とも同時に付き合える。
実際不特定の男女と同時に割り切った関係を続けた事もあった。
だがパートナーとなれば別という気持ちが何処かにある。
クイーンの心を察してか、言葉を続けるタイ。
「で‥‥風の噂で聞いたが。クイーン、なんかいい感じになってる相手がいるんだって? 俺はそれはそれでいいことだと思う」
「ただ、俺はクイーンのことが好きだし、クイーンも俺を好きでいてくれると嬉しい。そのことだけは忘れないでくれよ?」
俺もかなり気が多い方だしな。でも、その全部がホンモノだと俺は言い切れる。そう続けるタイ。
タイが複数の男女と付き合っているのは、業界的にそれなりに有名な話である。
「いろいろ辛い思いしてきたんだろ? だからこそ、俺はもっともっとワガママでいいと思ってる。運命ってやつに不当に搾取された分まできっちり返してもらわねーとな。俺もクイーンも」
だろ? とウィンクをするタイ。
ここまで本心を晒してくれた事をクイーンは嬉しく思った。
「私は‥‥貴女を‥本当に‥好きになって‥‥良かった‥‥‥貴女の強さに‥‥憧れ‥‥貴女の‥‥優しさが‥‥大好きです。‥‥‥私は‥貴女に‥‥永遠に‥変わらぬ‥友情を‥‥ここに‥‥誓い‥ます」
貴女の敵は、私の敵です。
クイーンはそう言ってタイに口づけをする。
「私が‥貴女の為に‥何ができるか‥‥判りませんが‥‥何か‥あったら‥‥言って‥‥下さい」
そう言ってタイを抱き締めるクイーン。
夕日が沈む東京湾を見下ろす観覧車の中、笙に誘われ二人きりでゴンドラに乗るクイーン。
「疲れていないか?」
首を振るクイーン。
「俺が可哀想とか思わなくていいぞ? ‥‥俺で良ければ何時でも呼べ」
空の色がオレンジから赤へ、深い藍に変わって行く。
「ユリアさんを抱き上げて運ぶ事等、俺には容易い事だ」
「‥‥‥ありがとう」
ポケットからリボンが着いた小さな包みを取り出す笙。
「さっきは渡すタイミングがなかったからな」
ユリアさんに幸あれ。そう言ってハイクロス333をクイーンの首に架ける笙だった。
***
「今日は疲れただろう? シャワーだけにして早く寝なよ」
そうクラウンが声をかける。
「うん‥‥」
クイーンはシオから贈られたビーズクッションを抱き締める。
「‥‥いい‥抱き‥心地‥です」
タイの誠意に、精一杯自分なりに気持ちをつけたクイーン。
だが、笙は自分に取ってどんな存在なのだろう?
少し前迄は単なるミュージシャン同士で、次は良いお兄さんだった‥‥。
ばふっ。とクッションに顔を埋めるクイーン。
「ちょっといいか?」
ナイトがドアの外から声をかける。
横になっているクイーンの隣に座り、こう続ける。
「誰が好きとかって結果を急ぐ事じゃないと俺は思うぜ」
今、俺は好きな人がいるよ。最近迄俺も気がつかなかったけど。とナイトが笑う。
クイーンが今迄見た事がない程の優しい笑顔である。
「その人は男で、彼女もちゃんといる。今でも俺は自分がホモとか両刀とか思わないしな。たまたま好きになった相手が男で‥‥俺も別にその人とキスやHがしたい訳じゃない。その人がいつも笑顔でいれば良いと思っているだけだから‥‥その人が困るのを見たくねぇから、コクる気もない」
身体を起こすクイーン。
「『他人』に言う気は全くないけどさ」
まあ、そういう『好き』もあるって事だ。
そう言うとクイーンの部屋を出て行くナイト。
「急がない‥本当の‥‥私の‥‥気持ち‥」
クイーンはじっと胸に下げられた十字架を見つめた。