女王様と蛇退治アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 7Lv以上
難度 難しい
報酬 90.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/12〜09/16

●本文

「蛇が出たぞー!!」
 半鐘の音が山に響き渡る。
「あら、本当に出るのね」
 近所の知合いの家の軒先で麦茶を貰っていたよしりん☆が言う。
「だから言ったでねぇか。ほんに出るって」
 よしこちゃんちは、昔から蛇には強かったでねぇか。一発追い払ってや。
「うーん‥‥まあ、ついでだし」
 蛇獣人でTOMI付き脚本家のよしりん☆、夏休み&有休消化の為に貰った長期休暇の残りを消化中、仕事で知り合った知人らと温泉に向かう序でに田舎にお里帰りである。
 田舎と言っても生家はなく、春先に更地にしたのを確認する為に立ち寄ったのだが、先日来何故か山から巨大な蛇が里に降りて来て、田畑を荒らし、ついでに人を襲うという。

 よしりん☆が小さい頃は人の指位の太さで1m。という大ミミズに畑で出くわしたが‥‥、
 ここは中越である。
 今年の少なかったとはいえ雪が降る。
「おっきい蛇って言ってもねぇ‥‥‥南米とか赤道近くなら大きいでしょうけど‥‥2m位?」
「そんな小さくね。牛よりでっけぇ」

 眉唾と思っていたが、本当に大きいらしい。
 通った跡は草がなぎ倒されている。
「太さ(胴回り)40cmはあるわねぇ‥‥‥アナコンダでもどっかのマニアが捨てたのかしら?」
 最近では捨てられた南米産の小鳥が群れで繁殖したり、ワニガメが公園の池で繁殖する地球温暖化である。
 まあ蛇なら蛇同士、外国産でも話は通じるか。と呑気に山に入ったが‥‥‥。

「ちょっと‥‥冗談じゃないわよ!」
 必死になって逃げ回るよしりん☆。
 敵は額にコアを持つ、4mはあろう蛇型NWであった。
 それも羽根が着いて空を飛ぶは、何か訳の判らないモノが口から飛んで来る。
 その訳の判らないモノが触れた植物がみるみる枯れて行く。
「ああ、もう! あんたはククルカン? それともケツアル・コアトルのつもり? こんな事ならもうちょっとNWについても勉強するんだったわ!」
 ひたすら完獣化姿で山道を逃げて行くよしりん☆。
 空飛ぶ蛇がいるのなら、服を着て走っている蛇に出くわしても誤魔化しが効くだろう。
 今いる場所は観光地ではなく、山に囲まれた鄙びた農村である。
 例え人間が見たとしてもどこかのTV局か映画会社の着ぐるみだろうと思うくらいで理解出来ないだろう。
 人は度の過ぎた理解し難いモノと遭遇すると勝手に自分の中で知っているモノと置き換えて精神の安定を計ろうとする生き物である。
 それに美味しそうなエサである獣人を前にしていればNWも人間(里)に目が行かないだろう。
 時間稼ぎをし乍ら山頂を目指す。

 ポーチから携帯電話を取り出し、旅の同行者に電話をする。
「私よ。今、何処? 悪いけど、これから言う山の山頂に来て頂戴。温泉で一風呂の前に、NWで一汗流す事になったわ」

●今回の参加者

 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2196 リーゼロッテ・ルーヴェ(16歳・♀・猫)
 fa3135 古河 甚五郎(27歳・♂・トカゲ)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4554 叢雲 颯雪(14歳・♀・豹)

●リプレイ本文

 よしりん☆から緊急の連絡を受けた旅の一行は鞄や車に隠して『こっそり』持って来ていた武器を取り出す。
 今回の敵は4mの大蛇NWで単に大きいだけではなく、羽根で空を飛ぶというのである。
「天敵はテスカトリポカ‥‥鏡、持って行きます?」と古河甚五郎(fa3135)は揶揄をする。
「何というか、ここ最近NWにもDSにもよしりん☆さん、大人気みたいだよね」
 そう苦笑するリーゼロッテ・ルーヴェ(fa2196)。
「本当によしりん☆は最近散々だな。厄年か? これが終わったらお祓いしてもらったほうがいいんじゃないか?」
 逆に尾鷲由香(fa1449)は真面目な顔をして言う。
「温泉‥‥これぞ、倭の情緒。‥‥楽しむ為にもよしりん☆を全力で補佐し助けるわよ」と竜華(fa1294)が、体をほぐすために揺らす。
 そのたびに白炎という愛称にふさわしい白い毛並みが揺れる。
「最近嫌な依頼があったから、気分転換と一緒に羽休めって思っていたのに。あー、もうっ! サイアク!」と言うのは叢雲 颯雪(fa4554)。
「でも温泉の前の一運動だと思えば、そう腹が立たないわ。事が済んだ後が楽しみ‥‥‥というのもね」
 それに折角の山奥だから射撃訓練をしたいって言っていたじゃなかった?
 そう神保原和輝(fa3843)が笑う。
「まーねー」と颯雪が答える。

 さて、よしりん☆が山腹をグルグル逃げ回っている間、ある者は使い慣れた武器を、また、ある者はメロンパンを手に取り、山頂を目指す。
「なんでメロンパンなの?」
 湯ノ花ゆくる(fa0640)の手に握られた2個のメロンパンを見て、こう質問したのは富士川・千春(fa0847)。
「良かったら、私、もう一丁持っているんですけど使いますか?」
 先日のNW戦以来、ゆくるを尊敬の目で見るようになった颯雪は、そうゆくるに訪ねる。
「大丈夫‥デス‥‥ゆくるは‥ちゃんと‥‥武器を‥持って来たのデス」
 そういってメロンパンを指し示す。
「『万が一見られたらどうするの? 自分の立場を考えなさい。大体、旅行に駄目よ』と‥‥よしりん☆さん‥‥が‥言いま‥‥したので‥偽装‥です」
 ぱくりとはるちーと颯雪の目の前でメロンパンを齧ってみせるゆくる。
 中にはスレッジハンマーと弾丸が隠されていたのだった。
「『獣人たる者、何時NWに襲われるか判らぬ。備えあれば憂い無しなのじゃ』‥‥と親しく‥している人が‥‥言って‥‥いました」
 よしりん☆と姉と慕う女性の物マネを2つも入れた為に息切れをしてしまうゆくる。
「く‥‥苦しい‥‥です‥‥」
 ぷはーぁと大きく深呼吸するゆくる。
「でも‥まさに‥‥その通り。ついでに‥‥おやつ‥にも‥‥なり、‥‥この形状‥理想的‥デス」
 もう一口メロンパンを齧るゆくる。

 ***

 よしりん☆より先に山頂に着いた一行は、簡単な打ち合わせを行う。
「蛇に翼はいらないわよね。まさに蛇足よ」とはるちー。
「狙うのはまずは翼よね。蛇の上を空を飛べる人達で塞いでもらって逃げ場を封じつつ、空を飛ぶ能力を剥ぎ取って、速やかな止めを狙うのが一番ね」と白炎が同意する。
「そうですね。飛べない私のような猫獣人に飛べる敵は辛いです」
 そのかわり地上に落ちたら任せてください。とロッテがいう。
 第一攻撃目標は動きを封じる為にも翼ということになる。
 攻撃はよしりん☆を追いかけてきたNWに対して、囮を立て、攻撃をするのだという。
「蛇らしく視野と聴覚範囲が狭く嗅覚と振動と熱源に敏感なのを期待して、臭覚のヤコブソン器官と温感のピット器官を潰すか撹乱の準備は必要ですよね」
「そうよね。蛇が暖かいのと機械の低周波が好きで発電所やボイラーの下なんかに住み着いているわよね。あと、匂いや振動で敵を感知するのをルアーに応用できるわよね」
 コガとはるちーは目潰しを作るという。
「ゆくるも‥‥鞭に‥発煙筒を‥つけて‥‥囮を‥作りマスね‥‥」
「後、怖いのは蛇獣人も使える『尻尾きり』よね」と白炎が言う。
 うっかり見ちゃうと手が止まるから、私は胴や頭を攻撃よ。
「とぐろも要注意です。防御姿勢だけど、力を溜めて飛びかかって来ることがありますよ」
「でも形が丁度良い的よね。虚闇撃弾を纏めて撃ち込みたいわ」とはるちー。

 ***

 一行が待ち受ける中、現れたよしりん☆は坂を駆け上がってきたスピードそのままに連絡を受けた頂上の茂みに体を滑り込ませ身を潜める。
 合流場所によしりん☆の後ろを迫いかけて現れた蛇NWは4mだが、実際目にするとそれりはるかに大きく感じる。
 そしてその背に折り畳まれた羽根は、翼というよりトンボの羽根をに近い。
 姿が見えなくなったよしりん☆を求め、ゆっくり頂上の広場に身を進ませるNW。
 はるちーの仕掛けた「はたらきうし+携帯電話のバイブレータ(タイマー)」が『ブルブル』と震える。
 ぬいぐるみに襲い掛かったNWだったが、すぐに食べ物(獣人)ではないと知る。
 NWは怒った様にぬいぐるみを放り投げる。
「あ、意外と賢い‥‥」
「しっ!」
 小さな呟きに反応し、鎌首を擡げるNW。

 シューシューという息が止まる。
 どうやら完全に見つかったらしい。
「しょうがない! 攻撃だ!」
 白炎の掛け声の元、一斉砲火を浴びせる。

 怒ったNWは尻尾を振り回し、広場の石を撒き散らす。
 山頂はNWの隠れるものもないが、攻撃を防ぐ壁になるような岩もない。

 バラバラと小石が飛んでくる。
「痛、痛、痛っ!」
 防御力が低い颯雪が小さい悲鳴をあげる。
 防弾チョッキとライダースーツで防御力を高めている白炎でさえ、飛んでくる石から目を守る為、おちおち構えも取れない。
 思わぬ攻撃が地上部隊を苦しめる。

 そして鎌首を上げたその姿は2階からの攻撃に等しく、
 NWが飛び掛ってくるのを必死に瞬速縮地で避けるロッテ。
 4mもある敵だ。その姿は車が突っ込んでくるのにも似ている。
「ぶつかったら一溜りもありません!」

 ズッズーン!
 単に突っ込まれただけでも地面に大穴が開く。
 地上部隊の苦戦に上空からゆくる、はるちー、和輝が攻撃を開始し、紅を構えたイーグルが高速で突っ込んでくる。
 大きく口を開き、砲弾を発射するNW。
「わ、わっ! なんか飛んできた!」
 暗い闇のような塊が、はるちーとゆくるの側を通り抜ける。
 一瞬、攻撃が止まった隙に大きな羽を広げ飛び上がるNW。
「翼を授かった蛇はさしずめ、ググマッツやケツァルコアトル然り‥‥人に文明を授けた文明神と言うけれど‥‥コイツばかりは、違うみたいだな。こいつは存分に仕留めても誰からも文句は言われまい‥‥‥」
 そういうと和輝は「オティヌスの銃」をNWに向け、発射する。

 スピードでイーグルや和輝に全く適わぬと知るとNWは攻撃目標を変え、比較的スピード差が少ないはるちーとゆくるを追いかけてくる。
 それでも届かないと知るとNWは続けざまに闇弾を口から吐き出す。
 飛んで来る弾を避けながら、はるちーがコールドボウを放つ。
「蛇の癖に生意気!」
 矢が当たり、動きが鈍ったところで飛行隊は、羽根に攻撃を集中させる。


 一方地上と言えば‥‥‥。
 時速60kmは秒速16mである。
 熟練した射撃手である颯雪は「ぐるぐるの眼鏡」の効果もあり、敵味方を見分け攻撃をかけている。
 だが至近を目まぐるしく敵味方入り混じって飛びるのでロッテは中々攻撃のタイミングが取れない。
 射撃の出来ない連中は口惜しそうに空中戦を見つめる。
 そんな中、ごそごそと携帯ガスボンベやら、なにやらを組み合わせ、手作りの目くらまし投擲弾を作っているコガ。
 出来上がった代物を百炎に「投げてください」、ロッテに「投げるので銃で撃って下さい」とお願いする。


 矢が当たり、動きが鈍ったところで飛行隊は、羽根に攻撃を集中させる。
「避けて下さい!」
 コガの掛け声で白炎が投擲弾をNW目掛け力一杯投げつける。それを打ち抜くロッテ。

 予想もしない目の前の爆発に怯むNW。
 羽根をイーグルの投げ付けた紅が、和輝のソルジャーガンが貫く。
 地面に大きな地響きをたて叩き付けられるNW。

 発煙筒が焚かれ、炎と煙がNWを混乱させる。
 白炎の爪がNWを抉り、コガが土砂を積んだ堤の支えを斧で割る。
 NWに大量の砂と石が襲う。
 集めた蔓で作った臨時のロープが掛けられ、動きを封じられるNW。

「そっちの締め付けと、私の締め付けとどっちが強いかしら?!」
 空中戦では指を加えてお預けを食らったうっぷんを晴らすべく金剛力増を発動させ、NWの胴を締め付ける白炎。
 苦しみの余り巨体をくねらせ、怪力で戒めを切ろうと激しく暴れ回るNW。
 ロッテがNWの背中に零距離射撃を試み、コガは尻尾きりでNWの目を奪うと、怪しい爆弾をNW尻尾にガムテープで張り付けて、側から飛び退く。
「逃がさないよ!」
 イーグルとタイミングを計り、イーグルがNWにヴァイブレードナイフを突き立てた瞬間、颯雪が鋭敏脚足で近付き、同時に二人で放雷紫爪を振う。
 ヴァイブレードナイフを伝い、鱗表面を電気が走る。
 コガの爆弾が誘爆した。
 骨がむき出しになり、皮一枚で身体にくっ付いている尻尾ではもう攻撃もできないだろう。

 爆発の隙にゆくるがNWの口を狙って攻律音波のMAX攻撃を行えば、さすがのNWも下顎が吹き飛ぶ。
「これで‥‥怪しい‥の‥出ません!」
 おまけ‥デス。と空からNWの顎に向かって突撃し乍ら弾を叩き込む。
 追い討ちをかけるようにはるちーがNWの頭に向かって虚闇撃弾の総攻撃をかける。

 ドウゥっ!
 ついに力尽きたNWが倒れる。


「ほぅ‥‥アレを倒したのか。意外とやるものだな‥‥」
 高性能の望遠レンズを覗いていた男が、感心したように口を歪めて笑う。
 暗色の網と周りに溶け込む迷彩のカバー、相手からレンズの光が反射しないように気をつけて配置された望遠レンズ。
 気配を殺して淡々と監視者に徹する。
 彼にとっては慣れ親しんだ作業場である。
 野生を相手にする彼にとって、野生を忘れた獣人から気配を消す事等朝飯前の事である。
 先日捕まった自称『吸血鬼』の男等、彼に取っては『取るに足りない存在』であるが、それでも彼の手の者に違いがなかった。
 故、どれ程の者が佳子に協力するのか見てみたかったのである。
 それだけの為にケツァルと名付けたNWを山里に放したのだった。
「お前の悲鳴は美酒にも優る‥‥さて、次はどれだけ俺を酔わせてくれる?」
 目の前の結果に満足した男は次の仕掛けの事を考え、楽しそうに笑った。


 力尽きたNWが倒れる。
 瞳は力を急速に失って行くが、気は抜けない。
 ハブは首を落しても首だけで襲い掛かって来ると言うが、敵はそれ以上にやっかいなNWである。

 コアを見つめ白炎がよしりん☆に訪ねる。
「コアって生物なの?」
「『然りでもあり否でもあり』ですよ。『切った爪や折れた歯だけを単に見て、生物か?』と問えば、否ですが、それを生成したのは紛れなく生物です」
 なんだか難しいわね。と白炎が苦笑する。でもそれなら崩振粉砕もある程度効くのかしら?
「白華崩拳!!」
 白炎は崩振粉砕を発動させコアへ爪を振うが、軽い傷が着くだけでびくともしない。
「崩振粉砕は『生物』だけじゃなく『生物製の物体』へダメージを与える事が出来ないから当然かも知れないわね」
 生物製の物体‥‥‥つまり爪や皮膚、毛、革、歯が含まれる。
 コアは後から埋め込まれたものではなく、憑いた生物の中で生成されるモノで現在もWEAで解析が行われている正体不明のモノである。
 振り向きざまに金剛力増を込めた正拳をコアに打込む白炎。
 ピシリと音を立ててヒビが入る。
「なるほどねぇ、つまり私の場合は金剛力増とかの方がコアには向く訳ね」
「そうですね。特殊能力は個性がありますから」

「ねえ、ねぇ。そこで大人の会話をしている間にNWが逃げちゃうよ」
「そうだよ。折角の温泉なのにさ。さっさと片付けちゃおうぜ」とイーグル。
「んじゃあ、イーグルさん。代りに砕いておいて」
 あっさり言うよしりん☆。
「なにっ?!」
 紅の破壊力、イーグルの攻撃力を冷静に判断したのだと言う。
「白炎さんの次に『パワーがある』はイーグルさんですもの。イーグルさんが白炎さんの入れたヒビを拡張させて割る事が出来なかったら、WEAの処理班が来る迄ここを離れられないわ」
 コアの硬さはNW毎に違い、ある種個性だとも言える。
 自分達で処理出来なければ、WEAが来る迄出来る事(逃げない様に監視)をするしかない。
 つまり温泉は『お預け』だというのだ。
「頑張れ、尾鷲さん!」
「今日はソレだけが『楽しみ』でしたので、よろしく」と和輝。
「お風呂上がりの‥牛乳と‥メロンパンの‥組み合わせは‥‥最高デス。とても‥楽しみ‥デスね」とゆくる。
「折角の温泉ハーレム‥‥‥実現させて下さい!」とコガが拳を握る。
「旅館ではお刺身の特上舟盛りが待っているわよ。ホタテの貝柱を噛み締めると口の中でじわーっと旨味が広がるのよね」とプレッシャーを掛けるよしりん☆。

「皆の温泉の思い‥‥叶えてやるよ!」
 コアに向かって力一杯、紅が振り下ろされた。