神の座 十二迷宮Aアジア・オセアニア
種類 |
ショートEX
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担当 |
有天
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
09/16〜09/20
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●本文
――神と言うモノが『善』と誰が決めたのであろう?
それは人間の驕りがそう言わせたに過ぎないのかも知れない。
少女は全てを持っていた。
幼い乍らも美しさも家柄も大人を凌ぐ知力や権力も、
否、たった一つ持つ事が許されなかったもの。
それは家族と友。
生涯を通じ、親友と呼べる者を作る事が許されなかった。
特別な存在として‥‥‥。
少年は全てを失っていた。
両親を亡くし、兄(姉)弟とはバラバラになってしまった。
残ったものは、己だけだった。
否、親友やライバルと呼べる者だけが彼が持つ事が許されたもの。
特別な戦士として己の技を磨く事だけが彼を支えた。
少年は少女が大嫌いだった。
自分と対して変わらないのに、気分次第で権力を振りかざし、大人達迄も翻弄する。
少年は、少女が己の命と引き換えに世界を救うのだと聞いた時、驚きを隠せなかった。
「話は本当なのか?!」
「‥‥相変わらず、落ち着きがない人ね」
顔をまっかにして部屋に飛び込んで来た少年を見て、少女は冷めた表情で言う。
「お嬢様はこれから大事な禊に入る。お前は出て行け!」
護衛を兼ねた大男の世話係が少年を遮る。
「五月蝿い! 俺はこいつと話しているんだ!」
ジロリと少年は男を見上げる。
少年がちょっと本気を出せば、この縦横の体格差が3倍以上ありそうな男等、3秒も掛からずにのして仕舞うだろう。
少年は一般人に拳を振う事を禁じられているが、身体の一部を硬質強化して相手の拳を無効化したり、周囲の磁場を変質させ、身体を大地に根を下ろした大木のように人の力では動かさないようにする事等、朝飯前の事だった。
神を守る戦士‥‥それが少年に課せられた役割だった。
「‥‥‥それが私の存在理由(役割)だから」
少女は笑う。
少年は初めて少女が笑うのを見た。
寂しい笑いだった。
「あなたは神を守る。私は神の為に死ぬ。そういう決まりなの」
少年は納得が行かず、禊の間まで着いて来る。
禊が終われば、山の頂上にある神殿で1人朝を待つ。
朝日が上ると同時に少女は、神官の手によって神の元に旅立つのだと言う。
「私は、神の前で‥‥人間を滅ぼさないで下さい。ってお願いするのよ」
少女もまた少年と同じ、家族のいない身の上だった。
集められた子供のうち、素質のありそうな子供だけが、戦士あるいは神の声を聞く贄として選ばれる。
贄は俗世の穢れを知らず、自由な心のまま神に捧げられるのだと。
「自由だって? 冗談じゃない、お前の何処が自由だと言うんだ!」
少年の言葉に目を大きく見開く少女。
「死んだら、泣いたり笑ったり、太陽や雨を、風を感じたり、そんな事が出来なくなるんだぞ!」
少女の心が揺らぐ。
「でも‥‥私はその為に‥‥」
「目に見えない神様が俺達に何をしてくれた? いつもの氷のように冷静なお前になれ!」
人の気配に声を小さくし、こう告げる。
「いいか? 必ず朝日が上る前に迎えに行く。だからお前も希望を捨てるな」
影のようにこっそり部屋を出る少年と入れ違いに少女の禊を手伝う為に少女達が入って来た。
●アニメ「神の座 十二迷宮」声優募集
<あらすじ>
邪神に捧げられようとした少女を救う為、少年達は迷宮に向かう。
少年に与えられた時間は12時間、仲間を集い、少年達は神に反逆する。
その幾手を阻むのは12の迷宮とその守護者達。
少年達は少女を助け、邪神を退ける事はできるのか?
●リプレイ本文
●CAST
修羅‥‥‥相麻 了(fa0352)
計都‥‥‥美森翡翠(fa1521)
凍雅‥‥‥慶徳(fa5991)
羅豪‥‥‥清須佐武朗太(fa6002)
贄の少女‥御鏡 雫(fa4224)
ER‥‥‥美森翡翠(2役)
少年‥‥‥御鏡 雫(2役)
悪神‥‥‥明王院 蔵人(fa4238)
●失われた神格
何故、我の心は常に猛るのだろう──。
少なくとも‥‥それが何時の時代の事であったか等自分自身でも思い出せない遥か昔──。
我は『人々を鍛え育む“父性”の権化たる荒ぶる御霊を持つ男神』と人々に崇め奉られていた──。
人々に試練を与え、それを人々が乗り越え、成長する姿に我は喜びを感じていた。
人の秘めたる大いなる可能性を感じて──。
だが、何時しか我に対抗しうる、抗う気骨を持ちたる武士(もののふ)はいなくなってしまった──。
ソレの側に、何時の間にか大きな黒い翼を持った人とも獣ともつかないモノが立ち、
「しょうがないさ。皆、面倒な事は嫌なのさ。誰かに押し付けて仕舞えるのなら面倒事は押し付けたいんだよ」と言う。
ソレは首をゆっくりと回し、人とも獣ともつかぬモノを見る。
「大体あんたも変っているのさ。反対する仲間の元を飛び出した挙句『嫌われ者の役』なんてさ。普通は、したがらないのにさ」
そう、したり顔で言う。
──人を鍛える為には必要な事だ。
「でも、あんたの思惑はハズレて、みーんな、あんたの言うことしか聞かない『良い子ちゃん』の集団になっちまった。
挙げ句、あんたが頼んでもしないのに、天候が崩れたのは『祈りが足らない』。地震が起ったのは『祈りが足らない』。疫病が‥‥‥って、勝手にあんたのせいにして大量の生贄を求めて隣国を滅ぼした王もいたよね。お陰であんたは人の業に掴まって、嘗ての神性(神の資質)を失っちまって、ここから動けない」と、それは笑う。
──そう言うお前はどうなのだ?
「俺か? 俺は自由だ。少なくともあんたら神とは違って、生まれながらの天邪鬼。
何にも縛られない、ただの『悪鬼』よ。
もっとも何を持って悪鬼なんだか、俺には、ちっとも判らないけどな‥‥。
所詮、俺を他の尺度で測ろうってのが無駄なんだけどよ。まあ、他のヤツには判らないんだろう。
あんたを含めてな。だから俺は、あんたより強いのさ」
そう言って、カカッとそれは笑う。
──どうしたら自由になれる?
「簡単だ。枷を外せば良い」
そう言って、にやりとそれは笑う。
──枷?
「一番簡単で一番重い枷は、あんたの名前だよ。名前を捨てれば、あんたはそれだけで、かなり、自由だ」
それは翼を揺らし笑う。
「神名いや、真名と言った方がいいか?
あんた自身(神の資質)を示すの真実の名前と今のあんたに矛盾があるから真名が枷になるのさ」
──真名を捨てる。
「そうさ、簡単なことだろう? 今のあんたには邪魔な存在でしかないんだし。かなり楽だぜ?
全てを忘れて‥‥心の、荒ぶる御霊の赴くまま‥‥最高だと俺は思うぜ。
というか、ソレこそが本当の神の姿ってものじゃないのか?
下らない人の尺度で測られ、そこに『ちんまり』と収まってしまう。
それは、かなり正しくないように俺は思うぜ?」
──今の我は、人の尺度に‥‥収まった小さな存在?
「ああ、悪りぃ。言葉が過ぎたな。ちんまり収まった小者じゃないな。
人にいいように使われている‥‥お前はただの『使い魔』だな」
ぎゃははっ‥‥そう笑って、それは空へと飛んでいく。
──我が『使い魔』だと?
我が、神である我が、人に使われる下らない使い魔と同じだと?
「使い魔が悪けりゃあ、ただの『道具』だ!!」
雲の間に姿をくらましたのか、ソレからは人とも動物ともつかぬ姿をしたモノの姿は見えない。
ただ、声だけがはっきりとソレに聞こえる。
ソレは怒りに任せ雷撃を飛ばすが手ごたえはない。
「人に振り回され、良いように使われている。
それが嫌なら‥‥‥あんたが『神』だというのなら、人が触れることが出来ない。
『高み』に上って見せるがいい!!」
●『彷徨える少女』イア
「この拳が真紅に燃える! 敵を倒せと叫んで唸る! 轟け拳よ! 『修羅竜聖拳』!!」
叫びと共に繰り出される修羅の超音速の鋭い連打が、迷宮の守護者を襲う。
するり‥‥。
「何?!」
修羅の拳が守護者の体を確かにヒットしているはずだが、全く空を切るかのように手ごたえがない。
「だから無駄だって言ったでしょう。坊や」
第一、拳と言うのは、こういうのを言うのよ。
己の迷宮が血で汚れる事を嫌った次の迷宮の守護者は、一つ手前の迷宮で仕掛けてきたのだった。
『誰か一人でも良い。誰かが時間までに一番奥の神殿に辿り着いて、あの馬鹿を祭壇から引き摺り下ろせれば‥‥』
そう言って仲間を先に行かせたのだが‥‥どうやら簡単には通らせてもらえないらしい。
長い黒髪をした女守護者が、妖艶な笑みを浮かべたまま、ゆったりとしたしぐさで髪を掻き揚げる。
キラリ──。
星が煌く様な輝きが一瞬の修羅は見たような気がした。
と、同時に複数の激しい拳を受けたような痛みと衝撃を食らい、迷宮の壁にしたたかに叩きつけられる。
クレーターが開くように大きく壁が抉られる。
「ぐあぁぁぁーーー!」
更に追撃を食らい叩きつけられた壁も脆く崩れ去る。
「大体ね、傲慢なのよ。何を持って『善』、『悪』って決めるの? 自分の願いを何でも聞いてくれるのが善? そう言う考えは『傲慢』っていうのよ。‥‥尤も『神』というのも大抵『傲慢』なものなんだけど」
「‥‥なんだ‥よ‥‥ソレは‥‥‥神様っていうのは‥‥弱い‥者を‥‥助けて‥‥」
瓦礫に埋もれながら修羅が息も絶え絶え言う。
「違うわね。少なくとも、この神は。己の傲慢で人を弄ぶ。尤もここの迷宮を守る守護者‥‥私を含めて『傲慢』なんだけど」
言葉を続けようとした守護者が何に気がついたように、ふと言葉を切る。
「‥‥あら、嫌ね。貴方と遊んでいたら他の子達が私の迷宮のところまで辿り着いたじゃない」
己の迷宮のある方向に顔を上げて言う迷宮の守護者。
「私も結構忙しいんだから、そろそろあなたも死になさい」
修羅に無数の光速拳が叩き込まれた。
***
「‥‥修羅?」
階段を駆け上がっていた凍雅が、ふと足を止める。
「どうした? 凍雅?」
「嫌‥‥‥今、修羅に呼ばれた気がしたのだが‥‥」
<回想シーン>
少女を助ける助力を親友の凍雅に求める修羅。
「修羅、お前の行動は俺達の存在自体を否定する行為だぞ?」
崇める神を守るために鍛えられた『神の戦士』である誇りはどうした?
そう、凍雅が修羅に問う。
「誇りなんて糞食らえだ! 第一、俺が崇め、守る神は、弱いものを踏みにじり、世の中の安泰のために生贄を求めるような下らない神なんかじゃない」
凍雅を睨み返す修羅。
名の如く修羅が熱く燃えるほど、冷たく冷徹になっていく凍雅。
「百歩譲って我等を謀って、生贄を求めているのが別のモノだとしよう。だが、神殿までの途中にある12の迷宮はどうするつもりだ?」
様々なトラップが仕掛けられているだけではなく、ソコを守る守護がいる。
守護者は修羅や凍雅達、神の戦士達の頂点極めた兵(つわもの)が守っているのである。
「それでも俺は、あいつを助けてやりたいんだ!」
そう凍雅に噛み付く修羅。
「この判らずや! もう、いい!! 俺1人でもあいつを助ける」
今まで厳しい顔をしていた凍雅が微笑を浮かべ、クシャクシャと修羅の頭を撫でる。
「修羅、お前は全く‥‥一度言い出したら聞かない。お前の想いは確かに受け取った。この凍雅も共に進もうぞ」
<回想シーン終了>
「修羅‥‥」
「凍雅さん、きっと大丈夫ですよ」
ああ見えてもしっかりしていますから。
そう赤い髪を揺らして言う計都。
***
『‥‥‥ねぇ、まだ生きているの?』
暗い迷宮の中、倒れ伏した修羅に問う少女。
修羅からの答えはない。
微かに上下する胸だけが生きている証である。
気にした様子もなく言葉を続ける少女。
『あなたと彼女、仲が良くなかったのになんで助けたいの? 私に知る限り、何時もあなた達はケンカをしていたわ』
僅かに修羅の唇が動く。
『‥‥そうね、理不尽かもね。でも、世界中に理不尽な死を迎える人はいるは大勢いるわ。その理不尽さに神様だってこの世の中をリセットしたいって思うかも知れないわよ? まあ、それをさせない為に‥‥‥彼女は神に言葉を届けるメッセンジャーになる為、生け贄になるんでしょう? もし彼女を助けたら、神様に声が届かす世界は滅びるかも知れないわよ?』
「‥‥あ‥‥あいつ‥‥も‥‥救って‥‥そいつらも‥‥救う‥‥‥」
修羅の唇がはっきりと言葉になる。
「それ‥が‥俺の‥‥俺達の拳‥‥だ‥‥‥」
にっこりと笑う少女。
『じゃあ、私もほんの少しだけ力を貸してあげる‥‥』
修羅の傷が見る間に塞がり、消えかけたチャクラに火が灯る。
『後は自分の力でなんとかしてね』
「‥‥‥燃え上がれ、俺のチャクラよ!!」
再び強く‥‥‥否、先程より強く燃えがあった修羅のチャクラを見て、微笑む少女。
少女を見る修羅。
長く地を這う程に伸びた緑の髪、青瞳に大地色の肌‥‥その姿は、ほんのりと光を放ち乍らも向こうがぼんやりと透けて見える。
「あんた‥‥‥」
『ああ‥‥気にしないで、あなたは戦いの中でチャクラを進化させたの。普通の人には私は見えない。私の言葉は聞こえない。‥‥私はあなた方が「神」と呼んでいるものよ』
「だったら!」
『私には、世界を守る為に戦う事は出来ないの‥‥正確に言えば、強く人の世界に干渉する事を基本的に禁じられているの。私は世界に「存在しないもの」だから‥‥』
それに私は回復させる事はできるけど‥‥戦う力を持っていないの。
申し訳なさそうに言う少女。
「そうか‥‥色んな神様がいるんだな。あんたを俺はなんて呼べばいい?」
『名前? イアとでも呼んで‥‥「真名」は教えてあげられないわ。アレに私がいると気付かれてしまうから‥‥‥』
「真名?」
『物事の心理を示すもの』
なんだか難しいな。と頭を掻く修羅。
「でも、一つはっきりしている。俺を助けてくれてありがとう、イア」
修羅の言葉に眼を丸くするイア。
『あなたなら‥‥あの娘だけではなく。彼も助けられるかもしれない──』
そういうとイアは優しく微笑んだ。
***
その迷宮は他の迷宮と違っていた。
他の迷宮が人を阻むためのものだとすれば、その迷宮は白く清潔に保たれ、優しい音楽が満ちていた。
「この前見たTVで言っていた。迷路を使った心理療法があるんだって‥‥」と計都。
「なんだ、それは?」
「うん、普通は迷路って方向感覚がわからなくなって、不安になって精神がストレスを感じるんだって。でも適当な刺激は脳を活性するとかなんとかって、どっかの偉い先生が言っていた」
「なんだか良く判らないな。ここで引き合いに出す理由はなんだ?」
「えー‥‥なんとなく遊園地の迷路を思い出すなぁって」
オルガンのような優しいメロディが迷宮に響く。
「誰も仕掛けてこないな。ここも無人の迷宮なのか?」
「なんにしてもいい加減迷宮を抜けてもいい頃だと思うが‥‥」
そう言う一行の目の前に光が見える。
出口だと飛び出すが、そこは迷宮の入り口である。
「馬鹿な、迷ったのか?」
「もう一度だ」
何度繰り返しても迷宮の入り口に戻ってしまう。
「くそ、どういう仕掛けになっているんだ?!」
時間だけが無駄に過ぎていく。
「ここは僕に任せて。『騰蛇』‥‥」
計都のチャクラが静かに燃え上がり、その手の中に地獄の黒き炎を呼び出す。
炎は形を変え、多頭蛇に変化する。
「敵を探して‥‥」
しゅるり。と計都の掌から抜け出す蛇。
「こっちだよ」
蛇を追いかける一行。
幾つもの角を曲がり、小さな部屋へと辿り着く。
部屋には道化師の少年が一人、手回しオルガンを回している。
「君が、ここの守護者だね?」
「何、それ? 僕はここでオルガンを回せって頼まれただけだよ?」
「しらばっくれても駄目だよ。僕は蛇に敵を探してってお願いしたんだ。そうしたら君がいた」
少年はまるで老人が物を良く見ようと眼をすぅっと細めるような仕種をする。
「僕らの邪魔をしないで通してください。敵とはいえ、小さい子に暴力を振るうのは僕は望みません」
「‥‥目に見えるものが全てとは限らないよ。それに君らはもう僕の術中にいる。僕の勝ちだ」
部屋が突然暗くなり、床を覆う石がボコボコとひっくり返る。
そこから亡者がうじゃうじゃと這い出してくる。
「炎よ。僕に力を貸して‥‥『煉獄掌』!!」
炎を纏わせた計都の拳が亡者達を焼き尽くす‥‥かに見えたが、次から次へと新しい亡者が、焼け焦げ手足を失った亡者の残骸が再び起き上がり、計都達を襲う。
「お止めください、師よ!」
凍雅の叫びにハッとする計都。
自分が見ているのは、亡者の大群である。だが凍雅が戦っている相手は凍雅の師匠らしい。
「皆、惑わされないで! これは幻だよ!」
「何?!」
計都の炎が守護者に襲い掛かる。
フッと幻が消える。
「ここは僕に任せて、皆は先に進んで」
仲間を先に行かせ、少年と対峙する計都。
「可愛い顔をしているのに怖いことだ。面倒極まりないが、お相手しよう」
肩を竦めて見せる守護者。
「僕の炎よ。皆の力となれ! 『朱雀』!!!」
激しく燃え上がる計都のチャクラ。
闘気と生命(いのち)を燃やし、身に纏う計都。その炎は火の鳥。
凄まじいスピードで守護者に体当たりをする。
「‥‥見事だ」
倒れ伏す守護者は老人に変る。
「僕の‥見ていた‥‥姿も‥幻‥‥あなたの‥‥本当の‥‥姿と‥‥心は‥‥‥‥」
最後まで言葉を紡ぐ事無く床に倒れ付す計都。
(「ゴメン‥‥君は僕が守るって約束したのに‥‥行けないや‥‥」)
その瞳は固く閉じられた。
***
「よくここ迄来な‥‥‥だが、これ以上は進ませない。
反逆者は全てここで永遠に朽ち果てる事ない氷の中で罪を神に請う」
美しい守護者が修羅達の前に進み出る。
「少女を犠牲にしながら、それに何の不審を抱かぬとは何という傲慢!
力を持ちながら、それを正しき道に用いぬのは不仁!
お前らに流れる血は、何色をしている!」
「若いな‥‥逆に問おう。何を持って『生け贄の儀』を無意味と決め付ける?」
慣例的に行う行為は真に無意味な物事になのか‥‥逆に頭ごなしに無意味だと言う決め付ける理由は、何もないだろう?」
人は変化を恐れるものだ。それ故、誰も生贄が必要かどうかなんて気にしていないのさ。
そう笑う守護者。
「だが、何かを手に入れる時には代価が必要だ。あの少女もまた生贄となるべく我儘を尽くしてきた。ソレに対する代価は払うべきではないのかな?」
「それは彼女が自ら望んだ事であるまい!」
「知らないのか? 生け贄は自ら望んだ者しか成れないのだよ。強要は『魂が歪む』と言ってね」
驚愕の表情を浮かべる修羅や羅豪たち。
「どうせ、選択肢がなかっただけの事よ。俺達のように」
「‥‥‥そう、我らもまた神官に選ばれ、神の戦士になるべく自ら望んだ。
生け贄もまたそれを自ら選択する」
「月に人が行ける今。何もしてくれない神の為に生け贄なんて、おかしいよ!」
「目に見えるものが全て正しいとは限りらないな。
大体、何が正しいか等、所詮、後世に生きた。勝った者が好きに言う。
嘗て善神と呼ばれた神が征服者の神によって悪魔に変わるなど良くあるように‥‥‥」
(「神を歪めるのも、また人よ」)
誰にも聞こえぬように口の中で呟く。
「下らぬ話をした‥‥さあ、我らは相入れぬ位置にいる。掛かって来るがいい、反逆者よ」
守護者の凍気が高まり、迷宮の壁が一気に凍り付く。
「此処は俺に任せ、先に行け、修羅!」と羅豪。
「しかし!」
「必ず後から追い付く」
「‥‥‥判った。上で待っている。死ぬなよ!」
後ろを振り返らず先に進む修羅達。
「1人残り、私を足留めするつもりか? 無駄よ」
守護者の手から小さな氷の短剣が握られていた。
走って先に進む修羅の背中を狙って「ひょい!」と投げる。
見る見る大きな氷の塊になっていく。
「『伏魔天翔』!」
羅豪の闘気が塊を砕く。
「‥‥‥1人残った事を後悔するぞ」
「此処は退かぬ。俺に大義がある以上、此処で退いては大義が汚される」
「大義ね‥‥まあ、いい。自分の信じる大義を胸に暖かく慈悲深い氷の中で眠れ‥‥永遠に」
「礎となるのなら、むしろ本望。だが、俺はここでは倒れぬ。友と共にこの戦いに己の今まで生きてきた証を立てようぞ!」
羅豪のチャクラが更に燃え上がった。
「俺の『降魔掌』を受けて最後まで立っていた者はおらん」
「俺には、それこそが傲慢だと思うが‥‥まあいい。己が『井の中の蛙』である事を知り、棺の中でゆっくり後悔するが良い」
巨大なチャクラが破裂した。
***
「こうして武人と名高い貴方と対峙しようとは‥‥」
目の前に立つ男は、守護者の中で最強を誇り、最後の迷宮を守る守護者である。
人望も厚く同じ武を志すものとして凍雅も憧憬を抱く守護者を目の前に神の悪戯に困惑する。
否、感謝しなくてはいけないのだろうか?
『二人で戦ったほうがいいのではないか?』
そう言う修羅に先に行け。と言う凍雅。
「必ず追い付いてみせる。 俺を信じ、お前は必ずその想いを貫いて見せろ!」
第一、先の迷宮で時間を取られた。
誰かが朝日が昇る前までに神殿に辿り着かないでどうする?
そう修羅に諭す凍雅。
「すまない凍雅。‥‥死ぬな‥‥」
守護者の脇を通り過ぎる修羅。
「今生の別れは済んだか。一人で俺の相手をしようという心意気は潔いがな。戦う前に相手を見極めるというのも大事な事だ」
「あなたは確かに強い。だが、こちらも負けられぬ理由がある。御相手頂こう」
凍雅の冷たいチャクラが燃え上がり、その拳に凍気を纏う。
「『天狼拳』!」
連続して繰り出される拳を冷静に見極める避ける守護者。
「悪くはない拳だ。さが無駄な動きが多い。2つも3つも手段を用意する必要は無い、唯一つを鍛え上げてこそ必殺となる」
凍雅の拳を指一本で止める守護者。
そのまま、トン! と軽く凍雅の拳を押し戻す。
「最初に言っておく、我が断空の刃の前に防御は無意味‥‥退くなら見逃す。進むというなら、越えて見せろ!」
守護者のチャクラが一瞬のうちに膨れ上がる。
──ィイイン!
飛来する攻撃の最初の音が凍雅には聞き取れなかった。
身に纏った凍気の壁が近接攻撃を弱め、また、投射攻撃を逸らすはずであった。
「がはっ!」
守護者から放たれた手刀にカンフー着が断ち切られ、肉を裂き、血を吐く凍雅。
凍雅は守護者のモーションを見切ったつもりだった。
(「早くはなかったはずだ‥‥」)
今までの戦いで光速拳スピードにも眼が慣れ、己の拳もこの戦いの中で鍛えられている自負があった。
だが──。
防げたと思った手刀は己の身を断ち切った。
(「強い‥‥」)
この戦いの目的とは違う思いが己の中でふつふつと燃え上がるものを感じる凍雅。
武人の業ともいえよう。
強い敵に出会えた喜びに体が震える。
「常にクールであれ、とは師の教え‥‥だが、この熱き想いは全て凌駕する」
(「すまない、修羅‥‥俺はお前のところにいけないかもしれない‥‥」)
「俺の一撃を何とか、凌いだか。さすが、あの男が取らぬといっていた弟子を取り、自ら仕込んだ。というべきなのかな?」
「あなたは師を知って居られるのか?」
「名高い方だからな。だからと言って手加減をするつもりはないが‥‥」
次の一撃で倒させて貰おう。
手を高く構える守護者。
「お互い次の一手で決まりです」
静かに守護者を見つめていた凍雅がくわっと、眼を大きく見開く。
「我が前に立ち塞がる者は覚悟を決めよ! 我が最大奥義『絶・天狼掌』を受けてみるがいい!」
最大極限の凍気を一気に放つ凍雅。
衝撃と衝撃が激しくぶつかり合い、迷宮は轟音と共に一瞬で崩れ落ちた。
●悪神
『神は迷わず、顧みず。
我が誤りと申すならば、その命を持って正してみせい‥‥』
「望むところ、食らえ! 『金剛竜聖拳』!!!」
超音速から繰り出される連続拳。
紙一重を交わしていく悪神。
『どうした? そんな拳では当たらんぞ』
「まだまだ! 燃えろ、俺のチャクラよ!」
修羅のチャクラが激しく燃え上がる。繰り出す拳のスピードが徐々に上がっていく。
『これは‥‥』
修羅の拳は繰り出すたびに、星が煌く様な光を纏う。
戦いの中進化した修羅の拳は光速の拳をなり、ついに悪神の頬にヒットする。
否、その身に纏う黒いチャクラに阻まれ、わずかに髪を切った程度であった。
「くっ‥‥」
『‥‥面白い。我が体に傷を着ける者等久しくおらなんだ』
暗い笑いを浮かべる悪神。
『どれだけ我を楽しませてくれようぞ』
***
ド、ドォオオーーン!
激しい雷光が神殿の天井を吹き飛ばす。
悲しげに見つめるER。
『これが私に出来る精一杯の加護‥‥』
迷宮から神殿を見上げるERの身体から放たれた癒しのチャクラが全迷宮を被って行く。
「修羅‥‥」
苦痛の呻き声を上げ、迷宮で倒れた計都、凍雅、羅豪が息を吹き返す。
「俺も‥‥今、行く‥‥」
よろめき乍らも神殿を目指す3人。
だが、すぐによろけ、膝をついてしまう。
「共に‥‥共に戦うと‥‥誓ったのに‥」
「こんな所で‥‥修羅があそこで待っているのに!」
「指をくわえて‥‥何の為の足だ!」
必死に神殿に一歩でも近付こうと、床を這いずる3人。
思いは一つ、たった1人で戦う友の事。
「「「修羅っ!!」」」
***
『どうした、人間? それで終いか?』
ゆっくりとした足取りで歩く悪神。
大きな闇が迫って来る感覚が修羅を襲う。
「強い‥‥とてつもなく‥‥これが、神の力なのか? ‥‥だが、むざむざと」
『人間としては頑張ったほうだろう。だが‥‥』
悪神に蹴り上げられ天井に叩きつけられた修羅。
床に落下する前に再び壁に蹴りつけられる。
圧倒的な力の差に嵐に弄ばれる木の葉のように翻弄される修羅。
「がはっ‥‥!」
(「駄目なのか? 友に助けられしこの命、アイツを助けるまでは‥‥」)
例えこの身砕けようとも‥‥そう思い、ここまで来た。
あいつの、いつも憎まれ口を叩く、生意気な‥‥あいつの、あいつの余りにも悲しい笑顔が。
寂しい笑顔が心を占める。
(「心の底からの本当の笑顔が見たい‥‥」)
そして生きる喜びを感じさせてやりたい‥‥。
なのに──。
急速に小さくなっていく修羅のチャクラ。
「駄目だよ、修羅。諦めちゃ‥‥倒して、神を!」計都の思いが。
「もし神が『善』なるものならば、この想い、修羅と共に永遠なれ!」凍雅の願いが。
「正道を歩むものの拳が負けて、どうして大義を余に知らしめる事が出来ようか!」羅豪が叫ぶ。
『これは‥‥?』
3人から迸るチャクラが修羅の体へと流れ込んでいく。
「力が‥‥友よ‥‥お前達は倒れて、なお、この俺に力を貸そうと言うのか‥‥」
修羅の体が金色のチャクラに被われ、光輝く。
「ぬおおおお! 俺のチャクラは今、猛烈な勢いで爆発している!!」
その眩しい輝きに眼を細める悪神。
「激しく燃えろ、俺のチャクラよ! この拳が、金色に燃え上がる! 悪神倒せと叫んで唸る!」
「滅せよ、悪神! これが俺の最高の拳『飛翔竜聖拳』!!!」
無数の光速拳が悪神に向かって放たれる。
初めはかすりもしなかった拳であったが、更に加速し、悪神のチャクラもすり抜けヒットする。
『なにィ!』
突き上げるような連続した拳が悪神の体を空高く持ち上げる。
『クッ!』
体を捻り、修羅の拳から逃れる悪神の後ろに回りこむ修羅。
両手を組み、そのまま上から下へ。
力一杯、悪神を地上に叩き落すつもりで振り下ろす。
落下する悪神を追うように自ら、高速で落下しながら連続した拳を繰り出す修羅。
だが、悪神もやられるだけではなく暴風のような大風を起こして反撃する。
風に身を縛られ、受身も取れず強かに地面に叩きつけられる修羅。
体勢を立て直そうとする悪神。
だが、体が上手く動かない。
見れば小さな少女が悪神の体にしがみ付いている。
『‥‥もう、宜しいでしょう?』
『お前は‥‥』
巨大な雷が落ちたような大轟音と眩いばかりの光の渦が神殿を多い尽くす。
その衝撃で崩壊する神殿──。
●戦いの後
──渾沌と闇の中、それは目覚める。
嘗て人に悪神と呼ばれたソレではなく、本来のそれのカタチ。
黒い長い髪は宙の黒さ。
「気がつかれたのですね」
ERが男神の側に立つ。
「俺は負けたのか? あの人間達に」
「はい。しっかりと負けました」
どことなく嬉しそうに言うER。
「‥‥‥そうか。手間を掛けたな」
不思議と怒りはなかった。
かえって気の遠くなるような那由他の年月、己の中に蟠った汚穢が、永年のつかえが取れたように、己の心が何者にも縛られず清々しいのに気がつく。
「俺が己を見失ってどれだけになる?」
「とても長い間でした」
「そうか‥‥」
ERの穏やかな瞳がそれに注がれる。
「その間に人間は私達の手の届かぬ所に行ってしまいました。最早、彼らに私達の試練も加護も必要ないのでしょう」
「皆は?」
「私達を必要とするもののが現れる迄、眠る事に決定しました」
私はあなたを待っていました。
そう笑うER。
「共に眠りましょう」
「俺自身、悪夢の中にいたようなものだが‥‥起きたばかりだが、再び眠るのか」
苦笑する男神。
「今度は私と共に‥‥悪夢ならば私が起こして差し上げます」
そう言って男神に手を差し伸べるER。
***
──瓦礫の中から空を見上げる少女。
最早、神殿の跡形は、数本の柱と僅かに残った金色の台座だけ。
台座に座った少女の膝上に頭を預け、満身創痍の修羅。
「目の錯角?」
低い位置から高い位置に流れる流れ星が見えると少女が言う。
「流れ星は地球に落っこちて来るゴミが摩擦で燃えているのが光ってみるんだろう」
馬鹿にしたように修羅が言う。
「ゴミとか言わないでよ。本当にデリカシーがない男ね!」
怪我人の修羅を台座の上から叩き落す少女。
「あいたたっ! 何すんだよ、この野蛮女!」
(「‥‥よかった‥‥いつものお前が一番だぜ‥‥」)
言葉の後ろを少女に聞こえぬように口の中で呟く修羅。
先程死線を乗り越えて来たばかりの者達の会話とは到底思えない子供のような罵り合いをしている修羅と少女を呆れたように見る凍雅達。
「止めろ、お前達。みっともない」
羅豪が叱咤するがかえって、羅豪は『オヤジ臭い』と茶々を二人から入れられる始末である。
「なんか、二人いい感じじゃない?」と計都。
「「どこが!!」」
少年達の笑い声が、明け行く夜空に響き渡った。
−END−