神の座 十二迷宮Bアジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 09/16〜09/20

●本文

 ――神と言うモノが『善』と誰が決めたのであろう?
 それは人間の驕りがそう言わせたに過ぎないのかも知れない。

 神殿と迷宮の入り口に灯が灯る。
 生け贄の少女が神殿に入ったのだ‥‥‥。
「人類が宇宙に行く世の中になったと言うのに、俺達は1人の少女に平穏を願うのか‥‥」
 男の見た少女は、幼かった。
 故郷に置いて来た幼い妹を思い出し、胸が痛くなる。

 家族を、世界を守る為、神を守る為に男は神の戦士になる事を望み。
 更にその中での高みを望み男はその地位を得、地上から山頂の神殿へと続く迷宮を預かる身になった。

「神がお望みなら、仕方がない事だ‥‥」
 長いローブに身を包んだ別の迷宮の住民が男の前に現れた。
「聞いたか? あの少女を奪え返す為に迷宮を通り抜けるチャレンジャーがいるそうだぞ」

 まれに少女を奪い返しに来る親族がいるのだ。
 ‥‥大体の少女は、天涯孤独の身であった。
 遥か神話の昔の時代は強制的に天涯孤独にさせられるものもいたというが、それらや外敵から神殿を守る為に迷宮の住民達が存在する。
「役目を忘れてはいけませんよ。あなたは優しすぎるきらいがある。心を鬼にしなくては‥‥」
 別の住民が男の前にまた現れた。
「あの男のように判りやすいのも困りますが‥‥」
 ローブを被った男の視線の先には、純粋に力(正義)を求める為に残虐な行為で悪評が高い男が守る迷宮がある。


●アニメ「神の座 十二迷宮」声優募集
<あらすじ>
 邪神に捧げられようとした少女を救う為、少年達は迷宮に向かう。
 少年に与えられた時間は12時間、仲間を集い、少年達は神に反逆する。
 その幾手を阻むのは12の迷宮とその住民(守護者)達。
 人を遥かに越える神の力を代行し、迷宮を守る戦士である迷宮の住民達の取った行動とは?

●今回の参加者

 fa1170 小鳥遊真白(20歳・♀・鴉)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa4421 工口本屋(30歳・♂・パンダ)
 fa4773 スラッジ(22歳・♂・蛇)
 fa4946 二郎丸・慎吾(33歳・♂・猿)
 fa5394 高柳 徹平(20歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●CAST
 第1迷宮「雲野鋼水」‥‥‥‥‥工口本屋(fa4421)
 第5迷宮「ベノム」‥‥‥‥‥‥スラッジ(fa4773)
 第7迷宮「G」‥‥‥‥‥‥‥‥草壁 蛍(fa3072)
 第9迷宮「アラン」‥‥‥‥‥‥二郎丸・慎吾(fa4946)
 第11迷宮「エリセル」‥‥‥‥小鳥遊真白(fa1170)
 第12迷宮「ミストルティン」‥高柳 徹平(fa5394)


●神の座 十二迷宮
 陽が傾き、太陽が涙を流す。
 空が青から金、橙、朱、赤、紺、藍と変化し、闇を纏う。
 麓から山頂の神殿を繋ぐ道と迷宮に灯が灯る。

 迷宮の全ての灯が消え、山頂の神殿に朝日が差し込む。
 復活の時(日の出)に併せ、一つの小さな命が神に捧げられる。
 人の世の平穏を願う為に──。

 ──古から続く慣習である。

 人身御供の生け贄等、悪しき慣習。とそう説く者もいるだろう。
 だが76年毎に繰り返されるこの儀式を止める者はいなかった。

 ──否、止める事ができる者がいなかったのだ。

 生け贄に選ばれた者の家族には、多くの謝礼が神殿から、村から贈られた。
 だが、そんなもので大事な家族が奪われる苦しみを癒す事はできない。
 娘(息子)を取りかえす為に迷宮に乗り込んだ。
 だが、誰1人神殿へ辿り着く事が出来なかったのだ。

 ──神殿へと続く12の迷宮。
 そして、その守護者。
 それが人を永年阻んで来たのだ──。

 家族を取り戻す為に迷宮に挑んだと判れば、残った家族が村中から激しい差別と虐めに遭う。
 それ故、いつしか人は諦めてしまった。
 全てを失うよりは、まだ金品を貰った方が諦めがつくと‥‥‥。

 ──そんな時代が長く続いた。

 だが、それを撃ち破る者が出て来たのだ。
 それも仲間内から──。

 神殿が神の言葉の代弁者なら、神の力を代行するのが『神の戦士達』であった。
 人を守り、助け、そして時には数多の敵を倒す。
 時には『恐怖の代行者』として。
 その戦士達の頂点を極める12名が迷宮の守護者であった。

 生け贄の少女と知己である下位の戦士4人が少女を奪い返す為に迷宮に挑んだのだ。
 それに対する守護者達の思いは様々であった。

 あるものは困惑し、
 またあるものは侮蔑を、
 またあるものは己の仕事がやっとまっとう出来ると喜びを持って、
 迷宮の守護者として役目をこなす為、それぞれの迷宮へと入る。


●第1迷宮「雲野鋼水」
 竜聖拳を駆る少年と彼に同意する戦士達が一番最初に辿り着いた迷宮を守るのは、人徳が厚く多くの弟子を抱える雲野。
「お師匠様‥‥」
「お前が気に病む事はない。負けは、負けだ」
 あっけらかんと言う雲野。

 ──少し時は戻る。

「1人づつとは言わず、全員で来ても俺は構わんぞ」
 迷宮一の強力(ごうりき)でも名を鳴らす雲野。
 実際、少年達の音速の拳を顔に直接受けても平然としていた。
「俺達は更に先の神殿が目的だ。あなたは強い。だが、全員であなたと戦うより1人でも先の迷宮に進んだほうが効率がいい」
「‥‥そうか。まあ、いい1人目を片付けたら、2人目、3人目と俺は後を追う。それの繰り返しで、お前達は迷宮を出る事無くお仕舞いだ」
 弟子達と大差ない少年達と拳をあわせることになった雲野は少年らを『掟を破る者達=(イコール)反逆者』だからと問答無用に無差別に倒そうとするのではなく、何故12迷宮に挑むのかその本質を理解しようとした。
「何故、愚かにも迷宮に挑む?」
「それは‥‥」
 雲野の意外な反応に躊躇する少年。
 どう説明すればいいだろう?
 神が悪だから?

 少年の心を見透かしたように言う雲野。
「過去の歴史に生け贄と言う行為を行った民族や宗教は多い。
 動物を生け贄にするもの、人を生け贄にするもの。様々な願いの代償として神に命を捧げる。
 己の意思で己の命を捧げるものは殉教と言われる讃えられてきた。
 他を犠牲にする行為は単純に良しといえないだろうが、大きい犠牲を払う行為により多くの民が心の平穏を保ち、安泰にすごすことが出来る。
 他動的行為は蛮行、自動的な行為は善行と言うのは簡単だ。
 だが、少なくとも俺達の神は、命の代価を安いものとは思ってはないだろう。
 実際俺達、神の戦士は単に神殿を守るという役割だけではなく、民を守るためにいる」
 そう、実際少年も初めは強制であったが、今は人を守る為の神の戦士という立場が好きだった。
 教師のような雲野の言葉は少年に迷いを齎す。
 答えられない少年に雲野は言葉を続ける。
「戦士として飾った言葉などではなく、お前の思いを、その拳に託して俺に示して見るがいい」

「甘い、甘い、蜜より甘い!! お前の実力はそんなものか!!」
 雲野に挑んだ少年は、雲野に翻弄されていた。
 悪くはない戦闘センスであると雲野は少年を相手にしながら思う。
 技は荒っぽく、まだ戦士として勅令を受けていない自分の弟子達のほうが技術だけでいけば上であろう。だが誰にも教わるではなく。戦士本人の資質、戦闘センスは雲野も驚くほどである。
(「よく育てられている‥‥惜しいことだ」)
 このままで行けば仲間3人と共に処罰、場合によっては処刑されるかもしれない。
 自分が少年らを倒し、幼さ故の短絡思考と取り直せば死なずに済むかもしれない。
 だが自分に挑む少年には迷いがない。
 己の信じていた神をあっさり「悪」と180度反対に考えたのは何故だろう?
 そんな疑問が生じる。

 少年の腕をむんずと捕まえ、そのまま上に放り投げる。
 空中の為、体制の立て直しが出来ない少年に腕を捻りながら放った掌『螺子重(ねじがさね)』で激しい衝撃を叩きこむ。迷宮の天井に叩きつけられた少年の体に更に2撃目『閃槌』を放つ。
 閃槌の衝撃で天井にヒビが入る。
 落下していく少年の顎に雲野の靴の爪先がめり込み、そのまま蹴り上げられる。
「我が『閻魔』をただの蹴りと思うなよ」
 再び天井に叩きつけられ、そのまま床に叩きつけられる少年。
 顎先に正確に決まったというだけではなく、重く鋭い雲野の蹴りは少年に大きなダメージを与えた。

「何故、勝てぬと判っているのに戦いを挑む?」
「漢というものは‥‥勝てぬと判っていても、友や己の信念の為、時には立ち向かっていくことが必要だ‥‥」
 それに──。と少年は言葉を続ける。
「それに俺は、あいつの本当の、心の底から笑う笑顔が見たい!」
 その言葉を聞き、眼を丸くする雲野。
 そんな単純な理由で12迷宮に挑むのだという。

 堪え切れない様に雲野が笑い出す。
 目の前の少年は、多分まだはっきりと自分自身でも気がついていない生け贄の少女への淡い恋心に駆られ‥‥ただ助けたいという純粋な気持ちで難攻不落の迷宮に愚かにも及んだというのだ。
「負けだ、負け。俺の負けだ!」
 元々乗り気ではなかった命令であるが、完全にやる気がうせてしまった雲野。
 先程まで迷宮に満ちていた闘気とチャクラが今は感じられない。
 雲野の態度にきょとんとする少年。
「やる気が失せた。お前の勝ちだ」
 さっさと行け。とばかりに手を振る雲野。

 ──それが1時間前である。
「本当に宜しいかったのですか?」
「俺の眼とて節穴ではない。邪悪かそうじゃないか位は判る。あの少年は純粋だった。
 それに俺とてお前らが生け贄に選ばれたなら‥‥と思ったら途端やる気が失せてしまった」
 苦笑する雲野。
「‥‥それでは第1迷宮の守護者としての役目を放棄したことになります」
 貴方や‥場合によっては弟子達共々罰せられる事になるでしょう。
 第1迷宮に様子を見に来た神官が雲野に言う。
「彼らを通したのは俺だ。何故、弟子達が罰を受けなければならない?」
 神官に怒気をぶつける雲野、神官が短い息を呑むような悲鳴を上げる。
「れ、連帯責任‥‥です」
「なんだと?」
 蛇に睨まれた蛙のように縮み上がった神官が、側に控えていた黒衣の男の後ろに慌てて隠れる。
「‥‥貴様は何者だ? 迷宮は守護者と神殿の者しか入れぬ聖地だぞ」
 男の纏う黒いチャクラに鼻に皺を寄せる雲野。
 男が暗い笑いを唇に這わせる。
 次の瞬間、激しい雷撃に第1迷宮が崩壊した。
 足元に転がる崩落した天井の残骸に押し潰された雲野や神官に一瞥もくれず黒衣の男を僅かながら息のあった雲野の弟子が見つめる。
「あ、悪‥‥し‥」
 急速に暗く狭まっていく視界の中で最後まで言葉を言うこともなく弟子は絶命した。


●第5迷宮「ベノム」
 トラップマスター(罠師)の二つ名を持つ守護者ベノムにとって今回の騒動を喜んでいた。
「絶妙のタイミングだ。俺はついている♪」
 生け贄の儀式は76年に一回彗星の到来に併せて行われる。
(なので正確に言えば75.6年毎なのだが)
 長くなったとは言え、運が良ければ一生の内2回見れるかもしれないが、迷宮の守護者として遭遇するのは1回あれば多いほうである。
 それ+(プラス)挑戦者である。
 自分はなんてラッキーなんだろう。と細笑んでいた。
 他の守護者や神官にバレたら「不謹慎」と罵られるだろうが、自分の迷宮の罠を堂々と試せるのだ。
 笑みも零れようと言うものである。
 だが、仲間から白い眼で見られるのも心苦しく使用人達には「戦闘に巻き込まれると非常に危険である」と言って遠ざけている。
 神殿が許せば暗視仕様の監視カメラを備え付けたかったところである。
(コレについては、勿論迷宮を何だと思っているという神官達の大反対とうっかりケーブルを発見されて攻撃されたら機材が勿体無いだろう。と言う同僚(他迷宮の守護者)に言われて諦めている)
 さすがに第1迷宮の崩壊には吃驚したが、第2、第3、第4と不在とはいえ迷宮を通り抜けて来る少年達にワクワクしていた。
「あれを乗り越えて来てくれるんだ‥‥あいつらがどこまで行けるか少々楽しみだ。あっけなく逝ってくれるなよ」
 ぺろりと唇を舐めるベノム。

 少年達は進む毎に激しくなっていく罠にややゲンナリしていた。
「ここも罠ばかりって事は、守護者が不在なんだろう? このまま壁に穴を開けて直進したいぜ」
「も〜っ、そんなことばかり言って。本当の敵が攻めてきた時どうするんですか?」
 赤毛の少年が黒髪の少年に文句を言う。
 第2迷宮に遅れて入った黒髪の少年は侵入者を阻む像ごと第2迷宮の入り口扉を壊していた。
「諦めろ、こいつはそう言うヤツだ」
 第1迷宮でのダメージから回復するまでは固まって行動することにしていた少年達だったが、次の道はY字に分かれている。
「右に行くか、左に行くか‥‥」
 ここで二手に分かれることになる。

「じゃあ、俺とお前はこっち」
「僕らはこっちだね‥‥」
 どちらが先に出口に着いたとしても先に行く。
 そう決めて、ベノムの更なる罠の待つ迷宮を進む少年達。
 だが、幾つかの落とし穴を通り抜けた後、またY字路である。
「さっき通った所だな」
「なんで判るんだ?」
「さっき通った時に壁の石に印をつけて置いた」
 黒髪の少年の質問に氷の名を持つカンフー着の少年が答える。
 だがコレは間違いである。
 ベノムがご丁寧に二人が通った後、先回りして壁石を交換したのである。
「じゃあ、反対か‥‥」
 誤った道を選択する二人。
 迷宮深く迷い込む──。

 段々イライラを隠せなくなってくる黒髪の少年。
「落ち着け、こういう時こそ冷静になれと師が言ってた」
「だが‥‥こうしている間にも時間はどんどん過ぎて行っている」
 次の二股があったら分かれようと言う黒髪の少年。
「大丈夫なのか?」
「ああ、だいぶ回復した。第一、時間が勿体無い」
 この言葉をすぐに実践する羽目になる。
 黒髪の少年が片手を着いた先が隠し扉になっていて、くるりと反対側の落とし穴に落ち込んだ。
 カンフー着の少年が後ろを振り向いた時、黒髪の少年の姿はなかった。

「クソ、何だってんだよ!」
 少年が落とし穴から這い出し、隠し扉を壊し、通路に戻ってきた時、友であるカンフー着の少年の姿はなかった。
「なんだよ。先に行っちゃったのかよ」
 少しぐらい待ってくれてもいいのに‥‥。そういいながら迷宮を進む。

 満足そうにソレを心眼で見つめるベノム。

「さて‥‥友と思っていたものに裏切られる気分はどうかな」
 静かにチャクラを燃やすベノム。
 双眼が怪しく光る。
 黒髪の少年の前に友の幻が現れる。

 だが──。
「『金剛竜聖拳』!」
 敵は思いもしない所からベノムを襲った。
 血を吐き、床に打ち伏せられるベノム。
「悪いがあの子らの邪魔はこれ以上させない」
 少年が実の姉のように慕う少年の拳の師である少女の拳がベノムを貫いたのだった。
 守護者であるベノムのチャクラと連動して動くトラップである。
 今やその機能は全く果たされていない。
「幻‥‥? 守護者の力なのか???」
 狐に摘まれたような顔をして幻とトラップが消え去った迷宮を通り抜ける少年達。
「緻密に計算された俺の罠が‥‥。いや、緻密だからこそか‥‥‥‥」
 己の胸から流れ出た大きな血溜まりの中、ベノムは絶命した。
 

●第7迷宮「G」
 己が迷宮が血で汚れるのを嫌い、第6迷宮で黒髪の少年と対峙したGはこれを退ける。
 絶命を確認しなかったが、確実に光速の連打は少年の内臓を悉く粉砕した。
(「あれで生きていたら、まさに神の気まぐれ(奇跡)‥‥ね」)
 もし生きていたのならば、あの少年は通してもいいだろう。そう考えるG。

 だが今、黒髪の少年と自分が戦っている間に迷宮を通り抜けようとしているイタズラっ子達には『お仕置き』が必要だろう。
「まあ、色々な試練(罠)を仕掛けておいたから、そう簡単に抜けられないでしょうけど‥‥」
 迷宮入り口の扉は、高圧放電の余波で焼け落ち、入り口に設置したアンカーポイントビームを照射する獅子の像は壊れていた。
「『電気障壁』と『引力光線』を破ったのね。まあ、しょうがないとはいえ‥‥このゴシック調の扉は気に入っていたのに」
 慌てて中に入るG。

 迷宮の中も外の扉や像といい勝負の荒れ具合である。
「誰か、居ない?!」
 使用人を呼ぶG。
 迷宮の被害状況と少年らの場所を確認する。
「そう‥‥第5の試練まで行ったの。意外とやるわね」
 あの坊やのお友達だからかしら、ね。と凄みのある笑いを浮かべるG。
「でも、第6の試練でお友達と一緒の運命よ」
 所詮は下位の戦士である。
 自分の光速の連打を受ければ黒髪の少年と同じ運命を辿るだけである。

「まあ‥‥それもクリアして第7の試練、私の必殺技を受けて生きていたら‥‥ちょっと太刀打ちできないわね」
 そう苦笑するG。
 7つ目に用意している試練はGの奥義『エクセリオン・ノヴァ』。
 チャクラを激しく燃やすことにより擬似閉鎖宇宙空間を出現させ、そこで重力崩壊による超新星出現を再現する。特殊な技である。

「コレを受けて生きていられたら見逃してあげるわ、坊や!」
 楽しそうに笑うG。
「見なさい。星の終わり逝く様を! 『エクセリオン・ノヴァ』!!」
 少年の目の前に擬似宇宙空間が出現した。

「‥‥全く。本当に神様って言うのは、我儘で傲慢ね」
 神殿へと続く階段を見あげるG。
 7つの試練を乗り越え、少年らはGの迷宮を通り過ぎていった。
 今頃彼らはどの迷宮まで上がったのだろう?
「見かけによらないタフっていうか‥‥悔しいけど運命の女神が坊や達に微笑んでいるってことよね」
 実際の所、最大奥義『エクセリオン・ノヴァ』を凌がれてしまえばGの出来る事は殆どないのだ。
「まあ、他の守護者のお手並み拝見ってことで私は高みの見物をさせて貰いましょう」
 そう言うと戦闘で中が崩れてしまった自分の迷宮を見てGは苦笑した。


●第9迷宮「アラン」
「やれやれ、面倒な事になりましたね」
 愛用の手回しオルガンは何処にしまったのだろう?
 アランが迷宮の守護者となって久しいが、初めての珍事に困惑の表情を浮かべる。
「まあ、守護者らしく守護者のやるべき仕事をしますか‥‥」
 そう言うと少し古ぼけた愛器が見つかった。

 オルガンのような優しいメロディが迷宮に響く。
「誰も仕掛けてこないな。ここも無人の迷宮なのか?」
「なんにしてもいい加減迷宮を抜けてもいい頃だと思うが‥‥」
 そう言う一行の目の前に光が見える。
 出口だと飛び出すが、そこは迷宮の入り口である。
「馬鹿な、迷ったのか?」
「もう一度だ」
 何度繰り返しても迷宮の入り口に戻ってしまう。
「くそ、どういう仕掛けになっているんだ?!」
 時間だけが無駄に過ぎていく。


 しゅるり──。
「うわっ」
 思わず声を上げたランの足元を炎で出来た蛇が張っていく。
 敵の攻撃の一種だろうか?
 蛇を追いかけるように少年達がアランのいる部屋へと入ってくる。
「君が、ここの守護者だね?」

 どうやら術は効いているらしい。と安堵するアラン。

「何、それ? 僕はここでオルガンを回せって頼まれただけだよ?」
「しらばっくれても駄目だよ。僕は蛇に敵を探してってお願いしたんだ。そうしたら君がいた」
 少年はまるで老人が物を良く見ようと眼をすぅっと細めるような仕種をする。
「僕らの邪魔をしないで通してください。敵とはいえ、小さい子に暴力を振るうのは僕は望みません」

 アランは老人のような姿をしている。
 だが、少年たちには押さない子供の道化師に見えるらしい。


「その宝石のような瞳も、真実が見えないなら価値はガラス玉以下‥‥目に見えるものが全てとは限らないよ。それに君らはもう僕の術中にいる。僕の勝ちだ」
 部屋が突然暗くなり、床を覆う石がボコボコとひっくり返る。
 そこから亡者がうじゃうじゃと這い出してくる。
「炎よ。僕に力を貸して‥‥『煉獄掌』!!」
 炎を纏わせた少年の拳が亡者達を焼き尽くす‥‥かに見えたが、次から次へと新しい亡者が、焼け焦げ手足を失った亡者の残骸が再び起き上がり、計都達を襲う。
「お止めください、師よ!」
 カンフー着の叫びにハッとする赤毛の少年。「皆、惑わされないで! これは幻だよ!」
「何?!」
 少年の放ったチャクラの炎がアランに襲い掛かる。
 フッと幻が消える。
「ここは僕に任せて、皆は先に進んで!」
 仲間を先に行かせようとする少年と対峙するアラン。
「可愛い顔をしているのに怖いことだ。面倒極まりないが、お相手しよう」
 肩を竦めて見せるアラン。

「鎮魂歌『曇天』。この曲を聴いて無事な人はいません。君はそれでも止めませんか?」
「僕も引けません‥‥炎よ。皆の力となれ! 『朱雀』!!!」
 激しく燃え上がる少年ののチャクラ。
 闘気と生命(いのち)を燃やし、身に纏う少年、その炎は火の鳥。
 凄まじいスピードでアランに体当たりをする。
「‥‥見事だ」
 倒れ伏すアランは、幻が解け、少年には子供から一気に老人に更けてしまった様に見えた。
「僕の‥見ていた‥‥姿も‥幻‥‥あなたの‥‥本当の‥‥姿と‥‥心は‥‥‥‥」
 最後まで言葉を紡ぐ事無く、アランの隣、床に倒れ付す少年。
(「私の役目も終わった‥‥長かった‥‥」)
 アランにとって守護者という役割は重荷でしかなかった。
(「これで‥‥‥‥思い‥‥切り‥‥‥‥‥」)
 アランは大好きなオルガンを演奏し、人々が笑う幻影が一瞬見えた。
(「ほぉら、これからオルガンの演奏が始まるよ。皆、喧嘩しないで僕は逃げないから‥‥」)
 楽しい幻影を見つめながらアランは、息を引き取った。


●第11迷宮「『リリティア』エリセル」
「よくここ迄来な‥‥‥だが、これ以上は進ませない。
 反逆者は全てここで永遠に朽ち果てる事ない氷の中で罪を神に請う」
 美しき守護者エリセルが少年達の前に進み出る。
「少女を犠牲にしながら、それに何の不審を抱かぬとは何という傲慢!
 力を持ちながら、それを正しき道に用いぬのは不仁!
 お前らに流れる血は、何色をしている!」
 体格の良い少年の言葉に苦笑するエリセル。
「若いな‥‥逆に問おう。何を持って『生け贄の儀』を無意味と決め付ける?」
 慣例的に行う行為は真に無意味な物事になのか‥‥逆に頭ごなしに無意味だと言う決め付ける理由は、何もないだろう?」
 人は変化を恐れるものだ。それ故、誰も生贄が必要かどうかなんて気にしていないのさ。
 そう笑うエリセル。

「だが、何かを手に入れる時には代価が必要だ。あの少女もまた生贄となるべく我儘を尽くしてきた。ソレに対する代価は払うべきではないのかな?」
「それは彼女が自ら望んだ事であるまい!」
「知らないのか? 生け贄は自ら望んだ者しか成れないのだよ。強要は『魂が歪む』と言ってね」
 驚愕の表情を浮かべる少年達を見つめるエリセル。
「やはり知らなかったのか‥‥哀れな」
「どうせ、選択肢がなかっただけの事よ。俺達のように」
「‥‥‥そう、我らもまた神官に選ばれ、神の戦士になるべく自ら望んだ」
 チョイスは神官だが、最終的なYes、Noは‥‥生け贄もまたそれを自ら選択するのだよ。とエリセルは言葉を継ぐ。
「月に人が行ける今。何もしてくれない神の為に生け贄なんて、おかしいよ!」
「目に見えるものが全て正しいとは限りらないな。
 大体、何が正しいか等、所詮、後世に生きた。勝った者が好きに言う。
 嘗て善神と呼ばれた神が征服者の神によって悪魔に変わるなど良くあるように‥‥‥」
(「神を歪めるのも、また人よ」)
 誰にも聞こえぬように口の中で呟く。
「下らぬ話をした‥‥さあ、我らは相入れぬ位置にいる。掛かって来るがいい、反逆者よ」
 エリセルの凍気が高まり、迷宮の壁が一気に凍り付く。

「此処は俺に任せ、先に行け」と先ほどエリセルに食って掛かった少年が足止めを申し出る。
「しかし!」
「必ず後から追い付く」
「‥‥‥判った。上で待っている。死ぬなよ!」
 後ろを振り返らず先に進む少年達を見つめるエリセル。
「1人残り、私を足留めするつもりか? 無駄なことよ‥‥」
 エリセルの手に小さな氷の短剣が何時の間にか握られていた。
 走って先に進む少年の背中を狙って「ひょい!」と投げる。
 小さなナイフは見る見る大きな氷の塊になっていく。

「『伏魔天翔』!」
 羅豪の闘気が塊を砕く。
「あいつらの邪魔はさせぬ。俺は退かぬ。俺に大義がある以上、此処で退いては大義が汚される」
「大義ね‥‥まあ、いい。自分の信じる大義を胸に暖かく慈悲深い氷の中で眠れ‥‥永遠に」
「礎となるのなら、むしろ本望。だが、俺はここでは倒れぬ。友と共にこの戦いに己の今まで生きてきた証を立てようぞ!」
 少年のチャクラが更に燃え上がった。
「俺の『降魔掌』を受けて最後まで立っていた者はおらん」
「俺には、それこそが傲慢だと思うが‥‥まあいい。己が『井の中の蛙』である事を知り、棺の中でゆっくり後悔するが良い」
 巨大なチャクラが破裂した。

「『プリズムコフィン』を破ったのは賞賛しよう‥‥だが、さすがに『コキュートス』からの脱出は無理だったようだな」
 氷柱と化した少年の隣に座り込むエリセル。
 少年から食らった『降魔掌』がエリセルの内臓に大きなダメージを与えたようである。
 こんな事態でなければ友になれたかも知れないが‥‥そう呟くエリセル。
「少し疲れたな‥‥」
 そう言って目を閉じるエリセル。


●第12迷宮「ミストルティン」
「こうして武人と名高い貴方と対峙しようとは‥‥」
 少年は目の前に立つ男 ミストルティンを見てこう呟いた。
 ミストルティンは、守護者の中で最強を誇り、最後の迷宮を守る守護者である。
 人望も厚く、同じ武を志すものとして多くの少年がミストルティンに憧憬を抱いていた。
「否、感謝しなくてはいけないのだろうか?」
 カンフー着の少年が興奮したように言う。
『二人で戦ったほうがいいのではないか?』
 黒髪の少年が小さな声でカンフー着の少年に言っているのが聞こえる。
「先に行け、必ず追い付いてみせる。俺を信じ、お前は必ずその想いを貫いて見せろ!」
 第一、先の迷宮で時間を取られた。
 誰かが朝日が昇る前までに神殿に辿り着かないでどうする?
 そう黒髪の少年に諭すカンフー着の少年。
「すまない‥‥死ぬな‥‥」
 脇を通り過ぎる黒髪の少年を黙って見つめるミストルティン。
「今生の別れは済んだか。一人で俺の相手をしようという心意気は潔いがな。戦う前に相手を見極めるというのも大事な事だ」
「あなたは確かに強い。だが、こちらも負けられぬ理由がある。御相手頂こう」
 カンフー着の少年が冷たいチャクラを燃やし、その拳に凍気を纏う。
「『天狼拳』!」
 連続して繰り出される拳を冷静に見極め避けるミストルティン。
「悪くはない拳だ。さが無駄な動きが多い。2つも3つも手段を用意する必要は無い、唯一つを鍛え上げてこそ必殺となる」
 少年の拳を指一本で止めるミストルティン。
 そのまま、トン! と軽く凍雅の拳を押し戻す。
「最初に言っておく、我が断空の刃の前に防御は無意味‥‥退くなら見逃す。進むというなら、越えて見せろ!」
 ミストルティンのチャクラが一瞬のうちに膨れ上がる。

 ──ィイイン!
 飛来する攻撃の最初の音は衝撃の後やってきた。
 ミストルティンの手刀を見切れず、服と身を着られた少年が膝をつき、血を吐く。
 手応えの浅さにミストルティンの眉が顰まる。
「ふむ‥‥さすがというべきなのかな?」
 素質のある若い武人と出会えた喜びに己の目的を一瞬忘れそうになるミストルティン。
 武人の業ともいえよう。
 それはまた少年も同じらしい。
「常にクールであれ、とは師の教え‥‥だが、この熱き想いは全て凌駕する」
「俺の一撃を何とか、凌いだか。さすが、あの男が取らぬといっていた弟子を取り、自ら仕込んだ。というべきなのかな?」
「あなたは師を知って居られるのか?」
「名高い方だからな。だからと言って手加減をするつもりはないが‥‥」
 次の一撃で倒させて貰おう。
 ミストルティンはそう言うと手を高く構える。
「お互い次の一手で決まりです」
 静かに守護者を見つめていた凍雅がくわっと、眼を大きく見開く。
「我が前に立ち塞がる者は覚悟を決めよ! 我が最大奥義『絶・天狼掌』を受けてみるがいい!」
 目の前に立つ少年の凍気が一気に大きくなっていく。
 衝撃と衝撃が激しくぶつかり合い、第12迷宮は轟音と共に一瞬で崩れ落ちた。


●戦いの後
「‥‥無様なものだ。生き返るなど」
「まあ、そんなには悪くないと俺は思うがね」
「本当に神様って傲慢よね。死んだ人を勝手に蘇らせるのは死者に対しての冒涜よ」
 少女神の力で蘇った守護者達。
 共通して言えるのはかなりバツが悪い。
「ですが、考え方を変えれば、神殿なき今、人々のよりどころに私達がなれるということです」
「確かにな‥‥」
 紺から銀、金へと変っていく明け方の空を見つめる守護者達。
 何人かが迷宮を去り、何人かが迷宮に残る形になるだろう。
 それも一つの時代の変化である。
「神様と決別するにはいい朝かもしれないな」
 昇る朝日にポツリと誰かが言った──。