温泉DEデートReturnアジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
有天
|
芸能 |
3Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
易しい
|
報酬 |
不明
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
09/11〜09/13
|
●本文
親父さんは温泉旅行に燃えていた。
先日、折角皆から教えてもらった温泉旅行は、
「えー? こんなギリギリぃ? あたし、イベント行くんだけど?」
「‥‥‥その日、仕事」
「もっと早く言ってくれなきゃ、予定入れちゃったわよ」という反応に玉砕したのであった。
「‥‥‥すみません、お義父さん」
舅と婿の関係は悪くないが、妻(親父さんの娘)に気を遣って不参加である。
唯一賛成してくれた末孫娘 留美(12)は塾の集中合宿日と重なる事が発覚し、そちらが優先された。
「折角教えてくれた奴らに申し訳立たねぇぜ。それに‥‥」
それに結構、楽しかった。
親父さんは口髭を捻り乍ら、そう言う。
「じゃあ、連休を外して行きますか?」
親父さん(獅子、66歳)、浩介(犬、41歳)、親父さんの孫 留美(兎、12歳)、浩介の娘 愛(狐、12歳)。
しっかり温泉宿を予約しているので、夜の宴会もOKである。
このメンバーだけで行くと『訳あり家族』にしか見えないと言う「7」の店員モモのアドバイスに従って暇そうな知合いにも声をかける事になった。
●集合場所:「7」前駐車場
1日目:新宿→箱根湯本(立ち寄り湯&足湯、玩具博物館)→ガラスの森(工芸体験)→小湧谷(泊)
2日目:小湧谷→早雲山→ケーブルカー&ロープウェイ→桃源台→観光船→箱根関所→箱根湯本(泊)
3日目:箱根湯本→湯本駅周辺散策→新宿
参加費(宿泊費/交通費含む):大人3万円、子供1万5千円
「今回は行き先がハッキリしているから参加する奴も遊ぶ目星が着けやすいだろう」
1日目はゆったり美術館や博物館を周る予定である。
「そうですね。2日目の関所の側には関所資料館があったり、旧街道を上がると資料館があったりするのでハイキングを盛り込んでも良いでしょうしね」
●リプレイ本文
「太陽が暑い‥‥溶ける‥‥焦げる‥‥」
紅雪(fa0607)に引きずられる様に「7」やって来た橘・月兎(fa0470)は、何もしない内からぐったりしていた。
「どうした?」
「2週間ぶりに太陽をまともに見た気がする‥‥」
仕事か? と訪ねる親父さんに紅雪は逆だと答える。
「仕事が休みだった事を良い事に家に籠っていたのよ」
私は朝から私と月兎の分のお弁当を用意して来る程気合いが入っているのに。と恋人である月兎を軽く睨む。
「そうだな‥‥うかつだったな」
皆に周遊券と旅の栞を配っていた浩介が、紅雪と月兎を交互に眺め乍ら言う。
ちなみにこの栞、事細かく書いてある為に織石 フルア(fa2683)から突っ込まれた代物だ。
「どうかしたんですか?」と全身黒ずくめのハディアック・ノウル(fa0491)が訪ねる。
特急電車内で販売している特別弁当を人数分予約してしまったという浩介に、
「任せて下さい。弁当の2つや3つ、軽いものです」
そう胸を張るハディ。
弁当は無駄にならないようである。
「この前は済まなかった!」
親父さんを目の前にしていた覆面を投げ捨て、土下座をする群青・青磁(fa2670)。
なんのこっちゃ? と怪訝そうな親父さんに向かって言葉を続ける。
「前は親父さんを煽ってやりたくもねぇ女装をさせちまって悪かった。みんなが女装を楽しみにしていたと知って‥‥俺は義理と人情の板ばさみで結局、親父さんを裏切ってしまった。もうあんな騙すような卑怯なことは二度としねぇ」
ずっと心の中で引っ掛かっていた。と言う群青。
「あ‥‥ああ‥‥‥あれか。気にするな」
そう言い乍ら、目で留美と愛の姿を探す。
二人はフローと水威 礼久(fa3398)と挨拶をしていた。
「周りがガタガタ言おうが、最終的にやると決めたのはこの俺だ。気にするんじゃねぇ」
俺こそ、お前ぇに辛い思いをさせちまったと気になっていたんだぜ。と親父さん。
お互い、温泉の湯と一緒に掛け流しちまおうぜ。と群青を立たせる。
***
さてさて、なんやかんやと言いつつ箱根湯本に着いた一行。
「さて、どうするか?」
駅のホームからかっぱの名前が着いた足湯と露天風呂がある立ち寄り湯を見上げて親父さんが言う。
「2泊目は同じ湯本ですし、3日目にゆっくりと湯本駅周辺を散策すれば宜しいと思いますよ」と紅雪が言う。
「足湯に入ってみたいです!」
しゅた! と「7」から新宿駅に到着する前に燃え尽き、特急電車の中で寝ていた宇藤原イリス(fa5642)が手をあげる。
立ち寄り湯はいいのか? という親父さんに「興味はあるけど‥‥もうスーパースパ用に服の中に水着を着ているんです」と白状するイリス。
立ち寄り湯は普通の温泉なので裸になる必要がある。
「取り敢えず軽く足湯でよろしじゃないですか?」と白楽鈴(fa5541)が同意する。
「何も見ないうちにか?」と親父さん。
「玩具博物館位はいいんじゃないいか?」
湯本駅から博物館迄は5分の距離で、タイミングがあえば無料送迎バスを利用する方法もある。
「玩具がいやなら隣のオルゴール博物館をみるのも手だぜ?」
もっとも双方ともそれほど大きな博物館ではないので30分から1時間もあれば回れてしまうと聞き、先に玩具博物館に行く事になる。
親父さんのおごりでミュージアムショップで売っているあんこ玉を片手に坂道を下る。
いよいよ足湯体験である。
「足だけでも結構温まる物だな。何より脱がなくて済むのが良い」
いけないと思いつつ自分の胸と紅雪の胸元を見比べてしまうフロー。
「足の疲れが取れます〜♪」とフレアスカートの裾を持ち上げて入っているイリス。
この後は一度駅に戻って、駅前からバスでガラスの森がある仙石原へと向かう。
キラキラと輝く様々な国内外ガラスを展示しているガラスの森美術館。
親父さんは、一度体験工房でフュージングを経験している。
「サンドブラストにフュージング? 初めて聞くが‥‥」とフローが首を捻る。
「サンドブラストは簡単に言えば、ノズルの先から高圧で噴射される砂を操作してガラスに絵を書く方法だ。フュージングは色棒ガラスの破片を組み合わせて絵を書く張り絵みたいなもんだ」
得意気に言う親父さん。
7月に箱根に来た成果だろう。
「なるほど、こういう物が出来るのか」
紅雪は移動途中で割るといけないから、発送ができるか受付に確認する。
フローはサンドブラストで音符を、紅雪は猫を彫ると言う。
留美と愛はフュージングに挑戦で浩介が付き添っていた。
その姿をイリスが楽しそうに写真を撮っていた。
一緒に最初面白そうに眺めていた鈴であったが少々待つのにも飽きてきて、お土産コーナーへとやってくる。
「あれ? 水威さん、ここにいたんですか?」
「ああ、お土産を買おうと思ったんだが‥‥女性は何を喜んでくれんだろう」
それこそ数十万円するオブジェやアンティーク複製からネックレスやイヤリング、指輪、携帯ストラップ、箸置き、キーホルダーを始めとする様々なガラス製品がクレイスの頭を悩ます。
「‥‥‥それは『親しさ』によるんじゃないんですか?」
好きな相手からのプレゼントであれば数百万のダイヤでも100円の玩具の指輪でも嬉しいものである。
適当に親しい相手から中途半端なものを貰えば、それだけの価値しか自分は評価されていないのかと女性はシビアである。
一方姿の見えない男性陣はレストランで冷えたビールを片手にカンツォーネのライブを堪能していたのであった。
そして本日の宿、小湧谷へと移動する。
あるものは夜の宴会に備え、仮眠をし、あるものは水着片手にスーパースパへとやって来る。
「うを〜♪ 広い〜☆」
思わず裏返った歓声をあげる赤い水着を着たイリス。
普通にジャグジーやらサウナもあるが、エーゲ海や死海をモチーフにした風呂やら音が出るオブジェが飾ってあったりウォータースライダーがあったり‥‥‥ジャングル風呂に滝のような巨大な打たせ湯、コーヒー風呂や緑茶風呂、酒湯等様々なものがある。
「物凄い数だな‥‥」
果して宴会前に回りきれるのだろうか?
そう心配するフロー。
気軽に子供3人を遊ばせ乍ら‥‥と思っていた鈴も思わず頷く。
色々な温泉を体験するなら一緒に行った方が良い。レンタル水着もあるぞ。と浩介に言われて同行したクレイスは、姉から依頼された『親父さんの背中を流す』任務を先にこなすべきだったと少し後悔する。
「全部回ったらのぼせそうだね」
イリスの言葉に全員が無言で頷いた。
一方、残ったメンバーはゆっくり宿の温泉を堪能する。
近所にスーパーなスパがあろうと宿の大浴場や露天風呂は別である。
嫌な思いでは水ならぬお湯で流そう。と群青と親父さんがお互いの背中を流し。
仲良く部屋に備えつけの浴衣と丹前を抱えて風呂に向かった紅雪と月兎、暖簾の前で「ちゃんと出て来る迄待つ」よう紅雪が月兎に注意していた。
その女湯で「チカン!」と声が上がる。
慌てて飛び出して来るハディ。
「ち、違います。誤解です〜」
袋を持った中年の男が女湯の暖簾を潜ったのを追い掛けて来たのだった。
だが男は宿の従業員で女湯の番をしている女性従業員からゴミを受け取りに来ただけあった。
丁度風呂から出て来た浩介と紅雪、月兎が必死に弁明をしたお陰で説教だけですんだのだが‥‥‥。
「だから外は嫌なんだ。紅雪が大丈夫だからって行ったから来たけど‥‥‥」
月兎がげんなりと言う。
「橘様もそう言わずに、これを差し上げますから」
紅雪様と一緒に楽しんで下さい。と時間があればこっそりやろうと持って来た花火を月兎に押し付ける。
尚、この日の宴会は喜悲がはっきりした。
親密度が進んだ御機嫌な親父同士。
湯当たりをして『ぼー』としている若年者。
ホテルから怒られただけではなく浩介から説教を食らった全身黒男。
不機嫌そうに眉間に縦皺を寄せる一見30代達。
親父達のカラオケをBGMに宴会が引けた後に思いを馳せる女。
(「他の人と一緒の旅行だと籠る事が出来ないからいいわね」)
あとで従業員を捕まえて花火ができる所がないか聞かなくては。
東京に比べれば夜は肌寒い箱根であるが、鈴虫の鳴く中、月兎と花火を楽しむのにはそう悪くはないだろう。
そう、こっそり考える紅雪だった。
***
2日目は浩介の立てたプランに+α(プラスアルファ)の行動をするもの。別プランで動くものと行動が各々別れる。
ハディは自作の徳利と御猪口を作るために陶芸体験に赴き、月兎は箱根関所がある箱根町まで同行し、あとは自分のペースでゆっくりと見て回った後、本日の宿に向かうと言う。
残りは、箱根町から箱根旧街道を上がり、名所を巡り乍ら畑宿一里塚を目指す。
宿に頼んだ弁当を受け取る。
「こいつも後で皆で食べようぜ」とクレイスが食べると7年寿命が伸びると言う黒卵を更に皆に配る。
杉並木を過ぎ、ケンペルとバーニーの碑までは緩やかな坂である。
ここから先は石畳の続く旧勾配の上り坂である。
振り返れば芦ノ湖が展望出来る場所であるがこまめに休憩を入れても運動不足の都会人には中々キツい坂である。
段々口数が少なくなる一行。
「‥‥‥もう駄目です」
ぺたりと地面に座り込むイリス。
今回の旅のメンバーの中で一番身体が小さいが、一番荷物が多い。
「大丈夫か、宇藤原?」とクレイスが飛んで来くる。
「もう歩けません‥‥‥」
へにゃ。と力なく笑うイリス。
車が通行可能な権現坂まで戻るよりも展望広場迄上がって休憩を取る方が近いだろう。
そこから石畳のバス停迄行く方がいいだろう。という浩介。
「有名なきな粉持ちが売っているお茶屋さんは?」とイリス。
「石畳の隣のバス停だな」
「お饅頭に‥‥きな粉餅に甘酒‥‥」
このハイキングの最大のお目当ては名物のきな粉餅である。
「俺がおぶってやるよ」
クレイスが自分の荷物を置き、イリスに背を向ける。
「姉貴からも頼まれているしな」
「クレイスさんが疲れたら私も交代でおぶります」
そう言ってクレイスの荷物とイリスの荷物を持つ鈴。
「気持ち悪くなったら言って下さいね」
鈴に声を掛けられた時は死にそうであったが、暫くしてすぐにあちらこちらを見る余裕が出て来たようだった。
景色が綺麗。鳥が飛んでいる。と貰ったチョコや飴を嘗め乍らはしゃぐイリス。
「甘味たち、待ってなさいッ!」
これにはその場にいた全員が苦笑するだけだった。
だが結局イリスは翌日の事を考え、甘酒茶屋バス停から鈴に付き添われ、先に本日の宿屋がある箱根湯本に向かう事になった。
尚、この日の宴会は軽めに終了し、一部のモノが旅館の卓球やレトロなゲームに興じていた。
その頃、とりあえず宴会をキャンセルしひたすら眠ったイリスは、ハイキングの疲労も無事抜け、独り湯上がりのコーヒー牛乳を堪能してた。
「ぷはっ! おいしーっ! これがあるから‥‥止められないんだよね」
***
3日目、今日は各自自由行動である。
フローは1番風呂から部屋に戻ると丁度浩介が帰りのキップを配っている最中だった。
月兎、紅雪は駅の周辺を散策するのだと言う。
「昨日の疲れも残っていますし、二人で小物屋や民芸店に入り、売り物を見て回りながらお土産を買い求めた後は駅の近くの喫茶店で集合時間まで時間を潰すつもりです」
「私はどうするかな? 下手に出歩けば駅周辺と言えども迷子になりかねん‥‥」とフローが言う。
「私も昨日の疲れが残っている感じがするから今日は駅前だけで見て回るだけにしようかな?」とイリスが言う。
親父さんらも疲れの見える留美と愛と一緒に湯本駅周辺をぶらぶらする予定である。
駅の周辺は15分も歩けば滝やら有名なお寺やらまだまだ名所があるという。
「初日に出来なかった貰い湯をしてもいいしな」
「俺は九頭竜神社に行こうかと‥‥月次祭が今日あるんだ」
ぼそりとクレイスが言う。
ほんのり頬が赤く見えるのは気のせいじゃないようだ。
箱根神社の一角にある商売繁盛の神社であるが、ここ数年恋愛成就の神として人気が高い。
親父さんは頭の中で教えて貰った事を思い出す。
月次祭の時は、フェリー発着場から特別に船が出るはずである。
陸路で参拝しようとすると箱根神社からかなり遠い。
「私も着いて行ってよいですか?」と鈴。
クレイスの予測ではキリギリ間に合うはずである。
「別行動で電車に乗り遅れそうな場合、連絡をくれ。置いて行くから」
乗り遅れたら普通に払い戻して、券を買い直して東京に戻るように。と浩介が苦笑し乍ら言う。
一見無情に見えるが12人と言う大人数分のチケットの取り直しは結構面倒なのである。
他の荷物を宅配で自宅に送る手配をした後、最小限の荷物だけを持って個別行動開始である。
月兎と紅雪、クレイスと鈴、それぞれのグループの後ろ姿を見送り、出発迄1時間となった所で浩介はフローとイリスに駅前にあるカメラ屋でプリントアウトを頼むのがいいだろう。と薦めてみた。
帰りの電車の中で寝るのもよし、撮った写真を見乍ら思い出を振り返るのも楽しいだろう。
各々の色々な思い出が出来た箱根旅行だがまだまだ続く。
『家のドアに辿り着く迄が遠足』とフローは言ったが、まさにそうである。
親父さんはこう言った。
「さて、どうするか?」