「7」敬老の日アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
有天
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
普通
|
報酬 |
なし
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
09/17〜09/19
|
●本文
古い運河沿いの鉄工場跡地を改装して作られた作られたライブハウス「7(セブン)」。
厳ついコンクリートの外壁と大きな赤錆が浮いた鉄の扉が印象的で、来る人を拒むように聳え立つ。
「店長、17日って空いています?」と言うのは、ベテランスタッフのモモ。
親父さんが店長兼オーナーをしている時からのスタッフで、ずーっとアルバイトを通していたが、NW狩りにも飽きてこの度「7」の正社員になった。
「特にないが?」
「じゃあ、空けといて下さい。親父さんのお祝いをしますから♪」
「お祝い?」
そのモモの言葉に伝票から顔を上げる浩介。
親父さんの誕生日はとっくに過ぎっている。
「『敬老の日』ですよ。敬老の日!」
「それは‥‥親父さんが『怒る』と思うが?」
「えー、今年は大丈夫ですよ。浩介店長もいますし、なにしろ還暦祝の『赤ちゃんちゃんこ』は失敗しましたからね。折角のゾロ目です。何があっても負けません」
それに6年前、学習しました。
親父さん相手に『力づく』でお願いする方が、NWと戦う事より困難だって‥‥。
ぐっと握りこぶしをし、感慨深げに言うモモ。
「‥‥‥俺に何をしろって言うんだ?」
「場所の提供です。『7』で集まると大変ですから店長のマンションでお祝い会を♪」
さすがの親父さんも人の家や子供の前では暴れませんでしょうし。
知能犯である。
「親父さんには、旅行の写真が出来たって事で、留美ちゃん(親父さんの末孫)と一緒に来て頂くとして‥‥‥楽器を演奏は無理ですよね?」
「‥‥‥当たり前だ。防音処理した特別仕様のマンションではないからな」
近所迷惑な事は困る。と浩介。
●敬老の日無理矢理パーティ参加者募集
場所:山田 浩介宅
参加費:なし(代りに料理や飾りつけの持ち寄り)
プレゼントの上限:1万円
●リプレイ本文
人間、言ってはいけない事と言うのは幾つかある。
それで売っている芸人や役者以外の太った人に「太っている」と言ってはいけないように。
例え本当の事でも、言った方はそのつもりではなくとも、本人に取って禁句というのは誰にでもあるのである。
「還暦のお祝いの時、親父さんが暴れた理由って『お年寄り扱いされたくないのに、赤ちゃんちゃんこを着せようとした』から‥‥とか?」とベス(fa0877)。
一時集合場所になっている「7」の駐車場前で待ち合わせたモモに聞く。
「『ぴんぽ〜ん♪』でぇ〜す」と笑うモモ、手に大型の薬玉を抱えている。
「なぜに親父さんが騒ぐのか解らないですが‥‥孫のいる歳で抵抗もないと思いますよ」と七瀬紫音(fa5302)。
「シオさんは子供から『オバサン』と呼ばれて腹が立ったことないですか?」とモモ。
「‥‥留美ちゃんから見たら紛れもなくおじいちゃんだけど、やっぱり俺たちが祝うと複雑なんだろうなあ‥‥」
そう駒沢ロビン(fa2172)が、しみじみという。
「誰からその言葉を言われるっていうのは結構大事です。尤も関係なく親父さんが困った顔が見たくって、還暦は『強制的にお祝い』したんですけど」とモモ。
悪である。
「親父さんには昔、散々世話になったし迷惑も掛けたからしっかり祝わないとね。でも歌えないのは残念だな」と亜真音ひろみ(fa1339)がいう。
「しかし‥‥親父さんの家は、ドライだな」
ひろみの計画では親父さんの孫、留美をスウィーツで買収して家族からのコメントを貰う予定であった。
「あ、それ。無理」とあっさり言う留美。
「どうして?」
「治樹ちゃんとお母さん、仲悪いもん。
それに1番上のお姉ちゃんは広告代理店に勤めているんだけど、今度丸1本CMを初めて任されたって帰ってこないし、2番目のお姉ちゃんはグラビアの撮影だって海外だよ。
お父さんはお母さんが『NO!』っていうことしないから、お父さんも無理だと思うよ。それにそんな事する家だったら、家でお祝してるよ」
言われてみれば納得であるが、実はコレは留美の誤解である。
今週頭、留美が小学校に行っている間に小野田家に届いたモノ(留美の両親=(イコール)娘夫婦から親父さんへのプレゼント)があるのだ。
そして姉達もまた留美との生活時間サイクルの差の為、留美の知らない所でプレゼントを贈っていたりする。
平たく言えば留美以外、お祝いが済んでいるのだった。
「そーいえば、群青さん。マスクはいいの?」とモモ。
狼覆面演歌歌手という肩書きを持つ群青・青磁(fa2670)だが、モモが見る限りいつも素顔である。
「一般常識はあるぞ。被ってたらご近所に怪しく思われて迷惑をかけちまうからな」と群青。
「会場外でのコスプレは禁止されている」と微妙な発言をするのは、織石 フルア(fa2683)。
よく見ればベスなども一般人避けに変装している。
「皆、優しいなぁ」とモモ。
「そーいえば、なにげにフローさんは何を持って来たんですか?」
「先日の温泉旅行での写真画像データをプリントアウトした物と、自家製の漬物数種+α(プラスアルファ)のパック詰めだ」
「旅行の写真ですか? 僕俺も見せて貰いたいです!」とロビンが言う。
「飾り付けは秋の風情を楽しむ感じがいいかも? 全部は揃わないかもしれないけど、秋の七草を花瓶に飾りたいよね」
萩・ススキ・葛・女郎花・藤袴・桔梗・撫子‥‥でよかったんだよね? と浩介のマンションへの途中、花屋に立ち寄るベス。
「いいんじゃないんですか? 秋っぽくって素敵です」とレジェ(fa5925)。
「店長さんのお宅は一般家庭ですからやり過ぎないようにしないといけませんよね。でも調理の手伝いが僕は出来ないから、うっかり凝っちゃいそうですが」と笑う。
「ススキといえば‥‥お月見もできないかな?」とベス。
「今日は天気予報だと昼間、月が見えると言っていたんだよ」
「昼に月ですか?」
レジェが怪訝そうな顔をする。
「‥‥ぴゃ? 本当に見えるぅ!!」
見あげた空に薄ぼんやりと白い月が上がっていた。
***
やいのやいのと必要なもの買い足しながら浩介のマンションにやって来た一同。
「ベスです。今日は一日お世話になります」ぺこりと頭を下げるベス。
「お久しぶりです、ご家族は初めまして。留美ちゃんもどうぞ宜しくー」ロビン。
「いつも‥‥‥‥親父さんや、店長さんには、お世話に、なっています‥‥‥‥」とDESPAIRER(fa2657)。
「いつも、店長さんには‥‥色々と‥‥お世話になってます。これ、つまらないものですが」と、水族館のお土産を子供達に渡すシオ。
と浩介一家に挨拶をする。
「早速だけど台所を借りるよ」とひろみ。
「何を作るんですか?」
「そうだな‥‥メニューは赤飯、ちらし寿司、松茸のお吸物と焼き物、刺身盛り合わせ、焼きナス、河豚の唐揚げ、揚げ餅、鯛の塩竃焼、氷頭なますに牡蠣のみそ風味焼だな」
後は大吟醸をつける。というひろみ。
コース料理のようである。
「僕は友人の家から今年の新米を頂いたので、それを使って『ちらし寿司』を作ってきました。インスタントじゃないよ!」
ジャーン! と巨大なオケを掲げるロビン。
「『ちらし寿司』が被りますねぇ?」
メニューとか事前に話し合ったんじゃなかったんですか? とモモ。
「一応、僕のは海老や鮭などの魚介中心のちらし寿司だし‥‥ひろみさんのは、五目ですから」とロビン。
「でんぷん・卵・ウインナ等が様々な具が乗っている『彩り稲荷寿司』はセーフですよね。ひじきの煮物とドーナッツも」とシオが焦る。
「‥‥ひろみさんのは‥‥凝っていますね。私は持ってきたのですが‥‥」
そう言って3段重を取り出すディー。
「これは‥‥」
中身を見た一同は、やや困惑の表情を浮かべる。
「なにか?」
中は、昆布巻き、お煮しめ、紅白の蒲鉾等、微妙におせち料理っぽい。
「お祝い事ですから縁起のよさそうなものを中心に重箱に詰めてきましたが?」とディー。
一人笑いをこらえている浩介。
日本古来の祝事に伴う食事というのは、大体がおせち料理っぽくなるのである。
「所でケーキは作らないのか?」とフローがメニューを見て尋ねる。
「祝い事にはやはりホールのショートケーキだろう。作るのなら手伝うぞ。ケーキは焼きたてが一番美味いんだ」
スポンジが焼けるまでひろみ達に調理場を任せ、飾り付けをする事にしたフローやベスたち。
「飾りつけはこれしか知らないんだが‥‥これでも良かっただろうか?」
色とりどりの紙の鎖に星型に折った折り紙やらを見せるフロー。
「それは壁に飾ろうよ」と愛が言う。
「あ、私も手伝います」とシオ。
「そういえば留美は何を送るつもりなんだ?」
フローが留美が乗った椅子を支えながら尋ねる。
「治樹ちゃんへのプレゼント?」
あ、やっぱり贈らなきゃ不味い?
ぺろっと舌を出す留美。
「もし、まだ決まっていない様なら『肩叩き券』は『お勧め』だぞ。私も留美くらいの時に祖父母にそれを贈ったんだが、予想以上に喜ばれたものだ。きっと親父さんも喜んでくれるだろう」
「うん、似たのは作ってみたんだ。お誕生日に『肩叩き券』はあげちゃったんだ‥‥」
マンネリとか思われるのは癪だし‥‥。
そういいながら、ゴソゴソとポケットから折りたたまれた『留美と遊べる券・11枚綴り』と書いてある紙を取り出す留美。
「あたしも来年、中学生だから治樹ちゃんとは遊べなくなると思うんだ。だから作ったんだけど、お母さんが怒ったんだよね」
同じので平気かなぁ? と留美が言う。
「‥‥‥‥‥‥多分な」
「留美さんは『肩叩き券』ですか‥‥」
だらりと汗を掻くシオ。
シオも冗談交じりの『肩叩き券』も作ってきたのだ。
「どうしたの?」
「いえ‥‥なんでもありません」
(「危うく留美さんと被る所でした‥‥ちゃんと別物を用意してきてよかった‥‥」)
そうこっそり胸をなでおろすシオだったが、これには落ちがついてしまった。
***
さてさて騙されて浩介宅にやって来た親父さんは、案の定「そう」と知って不機嫌である。
元気よく『祝! 敬老の日』と書かれたプレートが乗るケーキを親の敵ばかりに睨んでいる。
「敬老の日は、人生の先輩に感謝して敬意を払う日なのは確かです。ですから、皆さん親父さんが若々しいのは『よぉっく』承知してます。これからもずっとお元気なのは重々承知です! その上で、です」とロビン。
「何故怒る。日頃世話になってる年長者を労い敬うのは当然の事だろう。私達の望みは親父さんがいつまでも元気でいてくれる事だ‥‥が、その意気があるなら問題無さそうだな」とフロー。
「みんな、いつも、お世話に、なっていますし‥‥‥‥。
『祝ってあげたい』と、いうより‥‥‥‥みんな、『お祝いしたい』んですよ‥‥‥‥。
‥‥‥‥よろしければ‥‥‥‥その気持ちを、受け止めて、くれると、嬉しいです‥‥‥‥」とディーが畳み掛ける。
「親父さん‥‥親父さんが元気なのはみんな解ってます。だから、これからも健康で元気で居て欲しいと言う‥‥みんなの気持ちを無気にする気ですか?」
ここまでは良かった。
少しトーンを下げて「留美ちゃんの前ですよ」
そう付け加えたシオ。
それを聞いてムッとする親父さん。
「余計なお世話だ」
どうやらシオの一言は多かったようだ。
(「うわぁあ‥‥噂に聞く親父さんの暴走?」)
だらりと汗を掻くレジェ。
「折角みんなが祝うって言ってるんだ。素直に祝ってもらったらいいんじゃねぇか。俺もあと数年もすれば祝われる側だが‥‥今日の親父さんほどこんなに祝って貰えるかどうかわかんねぇな。親父さんは俺なんかと違って人徳があるからな。羨ましいぜ。俺も親父さんみてぇにみんなから尊敬されて祝われる漢になってみてぇもんだ」と群青。
「何を言いやがる。後何年もしねぇうちに、お前ぇもしっかり良い爺になるぜ」
ご機嫌が少し直ったようである。
「折角、皆が親父さんの為に用意した席です。たまには、よろしいじゃないですか」
浩介が苦笑しながら言う。
「む‥‥まあ、な」
「はい、はーい! 親父さんの『負け』って言うことでお祝いの乾杯でーす♪」
モモが親父さんを薬玉の下に座らせ「気が変らないうちに乾杯です」と音頭を取るモモ。
勝手にグラスを回し、さっさと飲み物をついで行く。
「はい、「「「「「カンパーイ!!」」」」」」
いいのか、それで? と言う程、人権無視である。
どさくさ紛れのお祝いだが、お祝いはお祝いである。
皆で飲んで騒いで、ゲームをしたり、楽しく盛り上がる。
さてさて、いよいよメインイベント。
親父さんへのプレゼントである。
「ヴァジュルヌーヴォーをどうぞ♪」とベスがリボンを掛けたワインを渡す。
「俺からは、祝いに泡盛とハブ酒だ!!」と群青が一升瓶と泡盛の瓶を手渡す。
「僕からのプレゼントです。『和風アイスペールととっくり』のセットです」
ロビンのプレゼントは、トング付きのアイスペールは「やたら編み」の篭の中にガラスの器が納まっているおり、徳利は竹の形をそのまま生かしたものである。
「これで、美味しくお酒飲んで下さい」
シオからは琉球ガラスのロックグラス、ぐい飲み、酒瓶のセットである。
微妙にロビンと被る。
(「‥‥今日は危ないです、微妙に誰かと被ります」)
こっそりドキドキしているシオ。
「娘さん夫婦やお孫さんたちと‥‥ご一緒にどうぞ‥」
ディーは、そう言って親父さんに和菓子の詰め合わせを渡す。
「梅干と、胡瓜と茄子の浅漬けと、イナゴの佃煮だ」
持ってきた佃煮は食事の箸休めだろう。と思っていた一同は、プレゼントと聞いてやや目を丸くする。ソレに対し、
「むぅ、プレゼントには少々渋すぎただろうか?」
後は旅行の写真しかないのだが。とフロー。
「いや? ワインには合わねぇだろうが、ハブ酒や泡盛には合うだろう?」
親父さんの言葉にほっと胸をなでおろすフロー。
「本物の写真にしたい物があったら言ってくれ、後程写真屋に頼んで送るから」
そして、親父さんに宛てたオリジナル曲の譜面と『感謝−ロックバージョン−』のCD、親父さんへの感謝や想いをしたためた手紙を手渡すひろみ。
「ここは一発、読むべきでしょう」とモモ。
「止めろ、木っ端ずかしい」と親父さん。
「えー、ここは『感動』のシーンでしょう」
やいのやいのと言われ、恥ずかしいと言いながらも手紙を読み聞かせる事になるひろみ。
BGMは音量を絞った『感謝−ロックバージョン−』が掛けられる。
「今のあたしからは考えられない程荒れていた昔、怖いものなんて何もなく日々喧嘩に明け暮れていた、あの頃‥‥親父さんと初めて会ったのはそんな時だった──」
親父さんへの感謝の気持ちを読み上げるひろみ。
「‥‥いつか自分の娘が『7』を訪れる時まであと二十年は長生きして欲しい」
読み終えたひろみは改めて親父さんに手紙を手渡すとパチパチと拍手が起こる。
「まあ、あれだ。少しは考えておく‥‥」
照れ隠しにぶっきらぼうに言う親父さん。
【感謝】
♪♪♪〜
一人ならきっと今もあの時のまま
音に出会う事もなく闇の中を彷徨いもがいてばかりで大切なものにも気付けなかった
偶然と奇跡の出会いがなければあたしは今のあたしにはなれなかった
ここにいられるのはあなたのおかげ
あなたの笑顔がここにはあるから
あたしはここにいられる
いつもそっと支えてくれてありがとう
〜♪♪♪
こうして敬老日の祝いは、なんとか無事終了した。