AN FL開園25周年記念アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/18〜09/20

●本文

 ファンタジーランド。その名を知らぬ者はいないと言ってもよいほどの、大規模遊園地である。魅力溢れる世界観とそれに基づいた数多くのアトラクションは老若男女の心を捉えて放さず、たとえ平日であっても多くの来園者で賑わっている。
 一年の間には数多くのイベントがあるわけだが、ファンタジーランドではそれらを活用し、その時だけの限定で色々やるものだから、人々はつい引き寄せられてしまうのだ。「限定」――ああ、なんと甘美な響きである事か。

 今回の限定はどんな限定かというと、「ファンタジーランドの開園25周年限定」である。キリのいい年数での誕生日イベントとくれば、元からお祭好きのファンタジーランドの事、天井知らずの盛り上がり方となる。その盛り上がり方についていけるか否か。それがファンタジーランド通と評されるかどうかの分かれ目となるのである。

 ***

「マネージャーからさ。25周年記念の入場券貰ったんだけど、どうする?」
  ヴァニシングプロ所属ヴィジュアル系メタパンクバンド「アルカラルナイト」のリーダー、クラブ・クラウンがメンバーを見回して聞く。
「勿論、行くに決まっているじゃんか!」とハート・ナイト。
「うちも!!」とダイヤ・エース。
「‥‥‥」
 こくこくと頷くクイーン。
「ただ、欠点が一つ」
 なんだ? と訪ねるメンバー達。
「入れる日が限定で、その日はお昼迄インタビューだ」
「‥‥って事は遊べるのは半日か?」
「そーゆー事」
「じゃあ、乗れるのは2つぐらいなんね」
「そーゆー事」
「‥‥何に‥乗り‥ます?」

 うーん? と暫く考えて、
「オーソドックスに『コーヒーカップ』とか?」とクラウン。
「ああ、確かにガキんちょの頃は乗ったが、最近乗らねぇしいいんじゃないか?」
「ハイ、ハイ! 『ドリーム・オブ・ザ・ホィール』もうち乗りたい!」

「ドリーム・オブ・ザ・ホィール」
 俗に言う観覧車である。
 高さ40m、1ゴンドラ4人定員、1周15分。
 プリンセス・キャッスルと並ぶファンタジーランドで1、2の高さを競う建造物である。
 ファンタジーランドの海側に設置され、カラフルなゴンドラからは東京湾を一望できる。
 ガラスの馬車をイメージしたスケルトンゴンドラ(足下もスケスケ)が90度毎に計4つ機設置され、晴れた日には富士山が見えたり、夜には東京湾を望むイルミネーションとライトアップされたプリンセス・キャッスルやパレードを望める隠れビュースポットである。
 其れ故、利用者がファミリー層よりカップルが多かったりするのはファンタジーランド通の常識である。

「そーだね。2つ回って、パレードを見て‥‥その後は自由行動でもいいだろうし」
 斯くして暇そうな友人らに電話を駆けるメンバー達。
「ねえ、一緒にファンタジーランドに行かない?

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa3661 EUREKA(24歳・♀・小鳥)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa4578 Iris(25歳・♂・豹)
 fa5316 希蝶(22歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

「タダ券♪ タダ券♪ やっほう!!」
 一緒にCDの取材に同行していた希蝶(fa5316)。
「テンションが高いな。あんまり来ないのか?」とナイト。
「自分じゃなかなか遊びに行ったりしないし、誘ってくれてサンキューな☆」と嬉しそうである。

「由子ちゃん、可愛いー♪」
 白いウサ耳付き帽子を被ったエースに抱き着くEUREKA(fa3661)。
「ゆーりさん、く、苦しい‥‥」
「そういえば、雨堂君は?」
 エースを抱き締めたままのゆーりが尋ねる。
 クラウンと一緒にいるだろうと思っていた雨堂 零慈(fa0826)の姿が見えない。
 笙(fa4559)は、はしゃぎすぎる一般から壁宜しくクイーンを守るために側に立っている。

「朝から混み具合を見て来るって朝、メールくれたけど‥‥」とクラウンが言う。
 その頃レイジは予約チケットを取る列に並んでいた。
(「そろそろ皆、集まっている頃だな‥‥‥」)
 待ち合わせ時間はとうに過ぎている。
 クラウンと一緒に着けようと買ったお面が寂しそうに手の中で揺れていた。

「俺はファンタジーランドって‥‥実は初めてカモ」
 そういう椿(fa2495)は、何時の間にかポップコーンを抱えている。
「えーと‥‥栄養補給に買い込んでイイ? 俺、お腹空くと行き倒れるヨ」
 指差す先にはキャラクターの形の飴やチョコが並んでいる。
 色とりどりの包み紙に包まれたキャンディーのレイとチョコをゲットしてほくほくとする椿。
「これで暫く持つカモー♪」

 特別イベントにごった返すファンタジーランドの中は、うっかり余所見をして友人と逸れたら2度と会えないのではないかと言う位、人が多かった。
「凄い人出ですね」
 姫乃 舞(fa0634)は多すぎる人混みやや面喰らっていたが、どこか楽しそうである。
「予想以上にバカに混みだし、飲み物でも買ってきて飲みながらゆっくり待とうぜ」とTyrantess(fa3596)。

「何処も彼処もカップルとグループばかり‥‥男1人でどうすればいいんだよ」とIris(fa4578)は溜息を吐く。
 開演記念の文字に釣られてきたはいいが、何をするのにも並ぶ。
 誰かと来れば時間潰しに喋っても良かったのだろうが、不幸にもイリスは独りであった。
(「帰っちまおうかな?」)
 そんな言葉が頭を過る。
「あー、イリス君発見! 1人?」
 タイとジュースを買いに列を離れたゆーりがイリスに声をかける。
「ええ、まあ‥‥」
「なら一緒にどう?」
「いいのかな?」
「俺は構わないぞ。美形が増えるのは楽しい」
「じゃあ、決定。イケメン一名様ゲーット!」
 レイジも戻って来て総勢12人で園内を回る事になる。

 ***

「コーヒーカップですか‥‥ふふ、皆で乗ると楽しそうです」
『カップ・アンド・ソーサー』を目の前に感慨深げなマイ。
「はい、はーい! 面白い事、思いついた!」
 グループ分けをどうするか皆で考えていた所、蝶が何かを思いついたらしい。
「こーゆーファンシーなアトラクションを『敢えてデカイ野郎4人で乗ってみよう』企画!」
 小さいカップにデカい男がギュムギュム、グルグル‥‥。
 言い出しっぺの蝶、椿、笙、イリスが1つのカップに乗り込む。
「何とゆーか本当に『膝つき合わせて』って感じダネ」と楽しそうな椿。
「回すからには思いっきり回させてもらおう」と怪しい闇笑いを浮かべる笙。
 ブザーが鳴り、最高回転数を目指してハイパーなスピードでハンドルを回す男4人は壮観である。
「あははははは!!! 回れ、回れ、もっと回れ!!」
 蝶が切れたように笑い続けている。

「俺も結構回す方だけど、あっちはテンション高いな」と呆れ顔のナイト。
「ハンドルはエース君よろしく! 私はイケメン4人衆を写メらなくてはっ!」とカップから身を乗り出すゆーり。
「‥‥ムービーの方が良かったンじゃねぇ?」
 そう言いながら、ちゃんと安全ベルトを締めていたか? とゆーりを心配するナイトだった。

「クイーンさんは回転する乗り物は大丈夫ですか?」
「‥‥‥ハイ・パー‥で‥回さ‥な‥‥ければ‥‥‥多分‥‥‥」
 今一つ自身がなさ気に言うクイーン。
「私も酔いやすい方ですから‥‥あまりぐるぐる回さない様にしますね」
 クイーンとマイ、付き添いのクラウンはのんびりグループ。
「わ、結構慣性がきますね‥‥ハンドルが重いです」
「‥‥‥‥‥‥」
 必死に回転しないようにハンドルを握るマイだったが、すでに死亡しているクイーン。

 そしてレイジ、タイ‥‥2人っきりだと会話に間が空くと言われてエースが乗り込む。
「‥‥」
「‥‥‥‥」
 沈黙を破って口を切ったのはタイだった。
「あの時は助かったぜ」
 何を言っているのだろう?
 心当たりのないレイジは怪訝そうな顔をする。
「江の島の時に礼をあの時は言いそびれちまったから、礼を言っとかねーと、と思ってな」
 俺が礼を言うのがそんなに意外か? とタイが言う。
「‥‥いや、意外と言うか‥‥礼を言われるほどの事ではない」
「‥‥‥‥‥‥よし、判った。俺らしく、コーヒーカップは全力で回してやるから覚悟しろ!」
 男4人グループに対抗するようにガンガン、ハンドルを回し出すタイ。

 再びブザーが鳴り、カップが止まる。
「うわーっ、地面が揺れてる♪」と蝶。
「なかなか壮絶な状況になってるわね♪」
 景気良くカップを回した分、眼を回してふらつく一行を楽しそうにゆーりが撮影し続ける。
「ゆーりさん、よろけた所は写メるな‥‥」と笙。
「ちゃんとメールで送ってあげるから安心して」
「俺にも送ってー。素晴らしきメモリー後で笑えそう」
 やっぱりヘロヘロになりながらも楽しそうに言うイリス。

 ***

 休憩のティータイムの後、観覧車「ドリーム・オブ・ザ・ホィール」に向かう一行。
「観覧車か‥‥小さい頃に一度乗ったきりだから楽しみだなあ」と楽しそうな表情を浮かべるイリス。
「そろそろ景色も綺麗に見える時間でしょうか」とマイ。
 ファンタジーランドの中でプリンセス・キャッセルに序での大きさを誇る「ドリーム・オブ・ザ・ホィール」。
 今の時間ならば夕焼けが楽しめる時間である。

「笙はクイーンと話があるみたいだし、もし二人の方がいいってんなら俺は空きのあるナイトたちの方に移るか?」
 ‥‥‥美形3人と一緒ってのも、なんか逆ハーレムみたいでいいかもな。と言うタイ。
 思わずタイの服を掴むクイーン。
「‥‥タイも一緒に‥‥」
 こうしてイリス・マイ・ゆーり・エース、椿・蝶・ナイト、タイ・笙・クイーン、レイジ・クラウンと別れてゴンドラに乗ることになった。

「わぁ、眺めが良いですね。こうして見ると、凄く綺麗ですね‥‥」
 キラキラと夕日を反射する東京湾を眺めて、感嘆の声を上げるマイ。
「なんだか、女の子の中に俺がまざる事になっちゃって、ちょっと気が利かなかったよね‥‥もし女の子同士を邪魔しちゃったらゴメンね」と苦笑するイリス。
「全然、問題無しやよ〜」
「若い子に囲まれて、ゆーりお母さん照れちゃうわ‥‥照れるといえば、由子ちゃんの彼氏探しはどうなったの?」
「えー‥うーん‥‥‥うち、魅力的やないし‥‥」

「? なんでエース達のゴンドラは揺れているんだ?」
 心配そうに上のゴンドラを見上げるナイト。
 オール強化プラスチックで出来ているスケルトンゴンドラに乗り込んだ男3人。
「床まで透明ってのが面白いね。一番高いトコまで行ったら、どんな感じなのかな? ‥‥是非とも下を確認せねば!」と蝶。
「高所恐怖症じゃないけど俺は猫獣人だからどうも、ここまで透けていると落ちつかねぇ」と下を見ながらナイトが言う。
 シート部分も他のゴンドラとは違い、スケルトンにする為クッションがない。
 その言葉に苦笑する椿と蝶。
 ナイトの為に話題を変える。
「そー言えば、3人とも歌って演奏しての人達だヨネ。それに俺とナイトさんは女装仲間デス」と椿。
 俺の場合、ゴスロリとか可愛い系は辛くなって来たケド。と笑う。
「言われて見ればナイトと椿って成長前と成長後って感じで似てる」と蝶。
「そうかぁ? でも俺は椿みたいにマルチじゃないぜ」とナイトが言う。
「だから身長を含めて、成長前と後なんだよ」
「‥‥どうせ俺は168だよ」

「『I am master of all I see』‥‥‥‥見晴らしのいいところに来ると、ついこう呟いてみたくなるんだ」
 頂上に到達したゴンドラの中でそう話すタイ。
「言ってみれば自分に自信を持つための呪文みたいなもんだが、二人には特別教えてやるよ」
 もっとも、最近はわざわざこのために高いところに登ったりはしてねーけどな。
 タイの話を熱心に聞いているクイーン。
(「二人とも赤い髪が光に映えて綺麗だな‥‥」)
 ぼんやりと二人並んで座るタイとクイーンを見つめる笙。

「隣に座っていい?」
 対面に座っていたクラウンはレイジの返事を聞かずに右隣に座る。
 レイジの肩に頭を乗せ、レイジに凭れ掛かるクラウン。
 そんなクラウンにドキマギしながらレイジは初めて出会った頃の思い出話や仕事の話をしたりする。
 どこか上の空のクラウンに心配そうなレイジ。
 怪我をしてから一向に回復を見せないクラウンの右手‥‥思い出しても自分の不甲斐無さに腹が立つやら悲しいやら‥‥そんな複雑な思いが去来するレイジ。
 無言のまま水平線に消える夕日を見つめる二人。
 やがて頂上にゴンドラが到達する。
「花梨、拙者は不器用な男だ‥‥それでも拙者は花梨の事が好きだ‥‥これからもずっと‥‥」
 クラウンの頭を引き寄せ、深い口付けをするレイジ。
 ちょっと吃驚した表情を見せ、そして微笑み‥‥少し悲しそうに笑うクラウン。
 左の眼から流れる涙が夕日に光る。
 驚愕の表情を浮かべるレイジ、自分の声が震えているのが判る。
「いつから‥‥いつから右眼が見えていない?」

 ***

 限定パレードの場所確保は必死である。
「むぅ‥‥よく見える場所確保出来るかしら?」と心配そうなゆーり。
「こっち、こっち!」
 おっきなクッキーの袋を抱えながら椿が皆を呼ぶ。
「皆、前にどうぞ」
「いいの?」
「残りは皆デッカイから後ろでも見えるヨ」と椿。
「前が恥ずかしかったら抱きかかえる程度はするが――希蝶さんは無理」と笙。
「え〜、ケチ」
 そんな事を言いながら皆で楽しくパレードを見た後は、自由行動である。
「あたしは、明日の下準備もあるし先にレイジに送ってもらって帰るよ」
 そう言うクラウンにぴったり寄り添うレイジ。
「俺も帰るよ。すごい楽しかったし今日は一緒してくれてありがとう、だね」とイリス。
「閉園まで居たい所ですが‥‥皆様、今回は誘って下さって有り難うございました。また一緒に遊びましょうね」
 にっこりとマイは笑う。
「俺は二人を送って行こうカナ? 今日は凄く楽しかったデス。また一緒に遊ぼうネ♪ 次は一日中!!」

「私たちはショップとかを見てから帰るわね」
 右手にエース、左手にナイトをキープするゆーり。
「俺もショップに行くー!!」
 じゃーん! とマイバックを右手、左手にタッパーを握る蝶。
「タッパー?」
 レシートを入れてもらうんだよ。と蝶が言う。

 ぶらぶらとその辺を見て回るうちに何時の間にかグループがバラけている。
 笙とクイーンはいつの間にか2人切りになっていた。
 スタンドの飲み物を買って並んでベンチに座る笙とクイーン。
 皆といる時はそうでもないが、笙と二人っきりに成るとどうも意識してしまってどこか落ちつかないクイーン。
 居心地悪そうにゴソゴソと体を揺らす。
「食べ物の好き嫌いは殆ど無し。珈琲はブラック派。好きな色は蒼‥‥‥‥天敵は――妹」
 唐突に自分の事を喋り出す笙にきょとんとするクイーン。
「俺の事よく知らないって言ってたから、情報提供?」
 くすりと笑う笙。
 だが、すぐさま神妙な顔をして言う。
「誕生日の祝いに‥‥こんな大事なもの、俺なんかが貰って良かったのか?」
 笙の手に握られている小さな兎の毛のお守り。
 じいっとそれを見つめるクイーン。
「‥‥オーパーツでも‥‥なんでも‥ない‥‥‥ただの‥お守り‥です。‥‥でも‥あの時‥‥‥笙に‥‥貰って‥欲しかった。迷惑‥‥でした‥か?」
「いや‥‥」
 少し考えた後、言葉を継ぐ笙。
「俺はユリアさんの事、気がついたら護りたいと思ってた――好きになってた。けど、これは俺の勝手な想い‥‥」
 笙の言葉に狼狽するクイーン。
 笙の妹から事前に聞いていたが、実際本人から聞くのはまた別である。
「私は‥‥」
「ユリアさんが誰を好きかは別問題‥‥俺32だし」
 そう言って微笑む笙。

 ──閉園を告げるメロディが静かに流れる。
「皆の所へ戻ろう」と手を差出す笙。
 困惑しながら手を差し出すクイーン、立上がり際にその手に口づけをする笙。
 平手が飛んでくると思った笙に対し、帰ってきたのはクイーンの言葉だった。
「‥‥年齢は‥‥関係‥ありません‥‥‥‥‥‥‥私は‥‥笙が‥‥好きです。‥‥‥私は‥‥笙の‥笑った顔も‥困った‥顔も‥‥好きです。でも‥‥私の‥この‥気持ちが‥‥私には‥‥理解‥できない。‥‥‥私は‥タイ‥が‥‥好きです‥‥‥でも‥‥その‥気持ちと‥少し‥‥違うのは‥‥判ります。でも‥‥私は‥‥この事を‥考えると‥‥胸が‥苦しくなる‥‥‥‥だから‥‥‥‥時間を‥‥下さい‥‥」
 愛や恋と言うものをした事がないクイーンには理解できない感情だった。
 タイに対する感情は、どちらかと言えばキースや花梨、パティに近い家族に対するような深い愛情だろう。

 クイーン、20歳にして体験する初恋だった。