長蟲アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 1Lv以上
獣人 10Lv以上
難度 難しい
報酬 153.9万円
参加人数 8人
サポート 1人
期間 10/10〜10/12

●本文

 薄暗く何処かから漂って来る消毒薬の「ツン」とした鼻を着く刺激臭に混じって、香が漂って来る。
 靴の音だけが冷たく響く。
 警察病院の死体安置所に呼び出されたよしりん☆。
 所轄警察の刑事だろう壮年男と若い男が二人は安置所のドアの前でよしりん☆を待っていた。

「同僚の鬼塚 孝太郎さんと奥さんの友美さん、お嬢さんの茉莉菜ちゃんに間違いありませんか?」
 冷たいベットの上に横たわる3体の遺体を示す刑事。

「‥‥‥間違いありません」
 ゆっくり吐き出すように言うよしりん☆。
「この連休中、鬼塚さんと御連絡は?」
「いいえ‥‥私は長期休暇中で。奥様から3日程前に珍しく日曜日に休みが取れたと。家族で21日『時代祭』を見に行くんだとメールが来たきりです」
 変色した痣と抉られた傷が顔、手と所構わず着いている。
「この傷に心当たりは?」
「いいえ? ‥‥動物の傷っぽく見えますけど」
 嘘であった。
 大きな獣に抉られたような傷は、獣化した獣人による傷だろう。
「ええ、そうなんですよ。御夫婦の全身に着いている傷は獣に襲われたような傷なんですが、こんな傷見た事ないんですよ。検死した医者は熊とか大型獣でなければ無理だろうと言っています」
 ここにね。大きな歯形がついているんですが、鋭い牙で抉られて‥‥とても野犬とかの類いじゃなく、熊や虎といった大きな獣だろうと言っているんですよ。
 壮年の刑事が鬼塚の脇腹当たりを白いシーツの上から指し示す。
「‥‥‥彼等が住んでいたのは都内です。虎が逃げたとかって‥‥サーカスですか?」
「いやいや、物の例えです」
 鬼塚の嫁は虎獣人だった。
「それに変な事は、まだまだありまして‥‥‥」
 刑事をゆっくり振り向くよしりん☆。
「なんですか?」
「爪ですよ」
「爪。何かを掻き毟ったんでしょう。奥さんの爪が剥がれているんですが残った爪の間から、御主人の皮膚の破片が出てきまして‥‥」
「‥‥‥奥さんが鬼塚ディレクターを掻き毟ったと? 何でです?」
 よしりん☆には容易に想像が着いた。

 あの男だ。
 あの男が子供の命を盾に、鬼塚夫婦に殺し合いをさせたのだ。
 それも獣化させて‥‥‥。

 そう思うよしりん☆。
 ぎっと真一文に結んだ唇が震える。


「‥‥‥冷静ですね。俺は知合いに脚本家とかいませんから判りませんが、普通もっと取り乱すもんじゃないんですかね?」
『鬼塚達の両親に連絡しますので‥‥‥』
 そういって頭を下げ、安置所から去って行くよしりん☆の後ろ姿を見つめる若い刑事。
「うーん‥‥今回の件、直接関わり合いはなさそうだが、何か知っているな」
 お前、張り付いておけ。と壮年の刑事が言う。
「えー、俺がですか?」
「東京に出張、それもあんな美人の張り込みだ。楽しいだろう?」
「そんなぁ‥‥これからすぐですか?」
「早ければ早い方がいいだろう。あの調子じゃあ、やっこさん。鬼塚夫婦の両親に連絡が取れた途端遺体を東京に持って帰ると言うだろう」

 ガッ! 力任せに正拳をトイレの壁に叩き付けるよしりん☆。
「あの男‥‥‥許さない」
 ギリギリと強く握りしめた爪が掌を傷つけ血を流していた。
 押し殺した嗚咽が病院のトイレに流れた──。

 ***

 鬼塚ディレクターの初七日が過ぎると同時にTOMI−TVに辞職届を出したよしりん☆は、引き止める上司にこう言った。
「このまま、ここに残れば第2、第3の被害者が出る可能性もあります‥‥」
 そう言いTV局を後にする。
「‥‥‥誰か手伝える人、いる? 鬼塚の『敵討ち』がしたいのよ‥‥」
 そう電話口の相手に伝えるよしりん☆。

「おやっさん、あの女。TV局、辞めちまいましたよ? どうします?」
 若い刑事が焦ったように先輩刑事に指示を請う。
『とりあえず尾行を続けろ。何か俺達の想像出来ない所で何が怒っているのか‥‥とりあえず、気を着けて行けよ!』

●今回の参加者

 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3135 古河 甚五郎(27歳・♂・トカゲ)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

 鬼塚の人徳だろう。
 よしりん☆(fz1046)の呼び掛けに応じた8人がTV局近くのカフェに集まった。
 表向きはアメリカ式に「よしりん☆独立後1作目作品のプロット撮影の為の有志による打ち合わせ」という事になっている。
「鬼塚の弔い合戦だな。あんないい人を許せないぜ」と尾鷲由香(fa1449)が拳を打鳴らす。
「鬼塚美学炸裂の犬を制作中でしたのに‥‥頓挫してしまいました」と古河 甚五郎(fa3135)。
「‥‥DOG‥‥2ndシーズン‥‥楽しみに‥していたんですけど‥‥もう撮れないんでしょうか‥‥」
 真っ赤な血の様なジャムをかけたメロンパンを食べつつ、そう言う湯ノ花 ゆくる(fa0640)。
 鬼塚ディレクターの急死で頓挫した撮影も近い内に代りのディレクターが選ばれ、撮影される事が決まっている。だが今迄の鬼塚・よしりん☆コンビ独自の濃い番組カラーはなくなるだろう。
「鬼塚さんの追悼は‥‥いい番組作らなきゃですね」とコガ。
「‥‥鬼塚さんの‥‥仇討ち‥‥ゆくるも‥‥協力します‥‥」
「それにしても奥さんや子供、無関係な人まで‥‥‥‥許せないよネ」とマリアーノ・ファリアス(fa2539)。
「そのDSは、私も嫌いですね」とパトリシア(fa3800)が言う。
 パティは今回の一件は、気軽に触れられる事だと考え、一線を引いている。
「パーっとやっつけて、パーっと成仏出来るようにして、その後パーっと精進落としを兼ねて景気付けに行きません?」
 そういう佐渡川ススム(fa3134)に「不謹慎です」と月詠・月夜(fa5662)が言う。
 口では茶化して見せている佐渡川とて腸が煮えくり返っている。
 それでなければ、復讐と言う現代日本で非合法とされているよしりん☆に協力を申し出ないだろう。
「まあ、この手の感情は借金みたいなもんだからな、利息に未来を食い潰されない様にさっさと返済しちまおう」と九条・運(fa0378)。
「悪いわね‥‥‥」と静かに笑うよしりん☆。

「しかし‥‥オマケ(刑事)はどうしましょう?」
「今後も付き纏わられたり、NW化されたりすると面倒だから自然に追い払わないとな」と佐渡川が言う。
 この後、よしりん☆が目星を着けた廃コンクリート工場へと向かう予定である。
「よしりん☆さんには泊まるホテルとは別に自分名義で旅館を予約しています」
 でも頼んでいいのは『水』だけですよ。とコガが言う。
「非常口からこっそり抜け出してもらう訳か‥‥だけどそういう所こそ見張っているんじゃない?」
「マリスに任せて、カラスを買収するからネ」
 うんこ爆弾ダヨ。とお菓子を手に笑うマリス。
「それにネ。知合いにも邪魔してもらうように頼んであるんダヨ」
「序でに車の前後に隙見て釘でも仕掛けましょう♪」とコガが楽しそうに言う。
「なら私も光学迷彩でドスでパンクとか、小鳥さんに御願いして毛虫とか糞とかの爆弾攻撃もしてもらいます」と月夜が更に過激な事を言う。
「皆さんの案が全部失敗したら『思いっきり殴り飛ばして気絶』させます」とパティが言う。
「‥‥それは不味いでしょう?」
 さすがのよしりん☆も止める。
「だって、コソコソ人の後ろを付け回して『変質者』って言えば大丈夫です」
 ちゃんと後で出頭すれば未成年だから大丈夫です。と自信を持っていうパティに『絶対、駄目!』と恐い顔をして言うよしりん☆。
「幾ら公式捜査じゃなくても張り込み中の刑事を殴ったら、下手したら書類送検じゃ収まらないんですよ。だから、絶、対、ダ、メ!!」
 よしりん☆の剣幕に目をパチパチさせるパティ。
「なんにしても抜け出せる時間は限度があるし、明け方までには戻らないとな」と佐渡川が言った。

 ***

 カラスや雀の爆弾攻撃にも予期せぬパンクにもめげずに張り込みを続行しようとした刑事は、よしりん☆の車を追尾する事が出来なくなった。
 理由は簡単、マリスの頼んだ応援、ブリッツ・アスカのバイクが目の前で転倒したからである。
「緊急配備されないと良いわね‥‥」
 バックミラーをちらりと見たよしりん☆は、そう苦笑した。
 ホテルにチェックイン後、執筆の為と言い、ルームサービスも電話の取り次ぎも断るよしりん☆。
「多分、大丈夫とは思うけど‥‥」
 迎えを待ち乍ら『起こさないで下さい』そう書かれた札をよしりん☆はドアにかけた。

 ──細い鋪装していない山道をゴトゴトと走る車のヘッドライトだけが明るく山肌を照らす。
 ゆくるの車の中では、袋から飛び出したメロンパンが運転席と助手席に溢れていた。
「ちょっと‥‥‥楽しい‥‥デス」
 車から降り、薄闇に黒く灰工場のシルエットが浮かび上がるのを見つめる佐渡川。
「さて、‥‥やりますか」


●闇の住民
「よく‥‥臆もせずよく来たな佳子」
 男はふんわりと一行の前に舞い降り、倉庫の中に山積み積みされた砂利山の上に立つ。
「孝一‥‥何故、鬼塚を‥‥奥さんや子供迄殺したの」
 必死に感情を押し殺し、それだけを言うよしりん☆。
「お前が俺の所に戻ってきやすいように‥‥この世界に未練がないようにしただけのことだ」
 楽しかったぞ。あの夫婦がもがき殺しあう姿は。そう笑う孝一。
「そんな事の為に‥‥‥あの子を殺しただけじゃ気が済まなかったの?!」
「俺の優しさだと言ってくれ。あの子が生きていたら、両親が戦う姿を見て嘆き悲しんだだろう‥‥いや、それとも狂喜したかな?」
 今にも飛びかかろうとするよしりん☆に無理矢理メロンパンを放り込み止めるゆくる。
「敵に‥乗せられる‥‥‥必要は‥ありません。‥‥冷静に、落ちついて‥‥‥デス」
 側で聞いたイーグルが混乱する。
「たんま。鬼塚さんから聞いた話は、22年前こいつとよしりん☆さんが元恋人で‥‥‥子供がいた?」
「そうよ。認めたくないけど。私はこの男の子供を産んだ‥‥‥おばかさんな私はその時この男を信用していたのよ。妊娠した事を一緒に喜んでくれると思っていたわ。でもこの男は違った。私が妊娠したと知ったこの男は私を監禁してなぶりものした。それは‥‥私が自分の撒いた種。でもこの男は産まれたばかり私の子供をNWに食べさせた‥‥‥」
「そう、あの時のお前は美しかった。狂気と憎しみと悲しみと絶望に身を焦がし乍ら子供の命乞いをした」
 無気味な笑いを張りつかせて孝一が言う。
「ここでお前にさらなる絶望を与えてやろう。俺のテスカトリポカとトナティウが、仲間を引き裂く姿を存分に見るがいい」
 砂利をかき分け現れる巨大な2匹のムカデ。
「手厚い歓迎が待ってたみたいだぜ?」と佐渡川が不適に笑う。
「ツガイは生別れて貰いましょう」とコガ。
「生きの良い餌が8匹。存分に楽しんで食らうがいい」
 男の言葉に鳥のようなかん高い声をあげ、ムカデというには不似合いな巨大な羽根を広げる2匹のNW。

 ***

 パティが歌う天界からの声の抗力が倉庫内と言う限定された空間では効果があり、ジワジワとNWを苦しめる。だが、その攻撃の痛みがNWを更に凶暴にする。
 直前予知は優れた特殊能力だが使える回数は4回×6分、連続使用しても24分間だけ敵の攻撃予測ができる。イーグル本人が使えば回避力も格段だが、これを人に伝えるとなると別物である。
「右上からくる! ああ、そっちじゃなくって左!」
 外見上殆どそっくりなNWを見分ける所から正しく伝える必要があるので結構面倒である。
「ええい、ちょこまかしやがって!」
 袋叩きだ! と意気込んでいた運達だったが。
 1匹を攻めれば、反対側からもう1匹が攻めてくるNWの攻撃に翻弄されていた。
 佐渡川が体を躱して、後ろに廻り込めば、もう一匹が突っ込んで来る。
 灰代傀儡で作り上げた偽マリスの体に片方がグルグルと巻き付けば、片方は粘着糸を吐き動きを封じようとする。
 壁を利用して駆け上がり、そのままNWの尻尾に取付こうとするコガにもう1匹がスピードを着けて突っ込んで来る。。
 必死に月夜が毛布を投げて目くらましをするが、そのまま砂利山に突っ込み、砂利をまき散らすNW。
 もう1匹に噛まれそうになり丸めた毛布を大顎に突っ込むが難無く毛布を引き裂いて行く。
「くっそぉ、あの野郎が操作しているのか?」
 今迄にも複数のNWと同時に対峙した事があってもここ迄連携が取れているのは見た事がない。
 さらに百足は複数ある足を利用して1匹で2人同時に襲う事が出来るようである。
 つまり2×2、同時に4人が攻撃される。
 ゆくるとイーグルがよしりん☆の護衛についているので、かなり厳しい状況である。

 空飛ぶベルトコンベアーのような巨大な百足NW。
 天井近くを飛ぶNWに向かって月夜がトンプソンM1のトリガーを引く。
 最早何度目か判らないアメージンググレースを更に力を込めて歌い上げるパティ。
 地上攻撃ではコガの尻尾きりやマリスの灰代傀儡が効を成していたが、空の目くらましを運1人に任すのは、かなりきつい状況である。
「私はいいからNWを退治して!」
 飛行スピードだけを見れば、運、ゆくる、イーグルに及ばない2匹のNW。
「大丈夫、無茶はしないわ」
 ゆくる、イーグルを見比べ約束をするよしりん☆。
「‥‥‥判りました。‥‥突っ込むのは‥‥コアの‥‥位置が‥‥‥判明してから‥‥デス」
「任せておいて!」
 大きく翼を広げ朱槍「紅」を片手に飛び上がるイーグル。

 天井近くに逃げようとするNWの間を飛び回り、ゆくるが羽根に向かってスレッジハンマーを叩き込む。
「ゆくるばっかりに良い格好させないぜ!」
 運が火炎砲弾をNWの頭に叩き込む。
「ほら、もう一発!」
 広げた大顎に更にもう1発叩き込む。
 じわりじわりと地上近くにNWを撹乱しつつも押し戻して行く。
「私も剣に変更♪」
 流石に咽が痛くなって来ちゃった。とパティが、ソードofゾハルを構える。
「マリスもちゃんといるんだからネ」
 マリスがNWの尻尾に紅を振り下ろし、尻尾に装備したガントレットが節目掛けて抉っていく。
 最大級の虚闇撃弾を放ったゆくるがそのままNWを呪縛し、一気に吸触精気せんと齧りつく。
 どぅっと音を立てて床に落ちたNWが奇声を上げて最後の抵抗を試みる。
「‥‥沈め」
 爪に細振切爪を乗せ一気にコアを本体から切り離す佐渡川。
「気を抜くなよ! まだもう一匹いる!」
 もう一匹がコアを破壊させまいと突っ込んで来る。

 ***

「来い!」
 ふいによしりん☆の腕が孝一に掴まれた。
「まさかテスカトリポカが殺られるとはな。佳子、何故俺がこの廃工場を選んだか判るか? お前のトカゲがこういうのに詳しかっただろう」
「まさか‥‥」
 大きく目を見開くよしりん☆。
 コガはNW退治の必殺攻撃法として、サイロに残っているコンクリートの生成材料を利用した粉塵爆発を狙っての仕掛けを作る為に何時の間に戦線から離脱してこの場にはいない。
 無論、生石灰もそのままでは可燃しないが水と化学反応する時に生じる熱エネルギーは、素人が考えるよりも遥かに膨大で、粉塵爆発は素人が考えるよりも激しいエネルギーを生じる。
「生石灰にアルミが混じっていたらどうなる?」
 化学変化が更に活性化する事を示唆する孝一。
 工場自体が罠だったのである。
「放して!」

 ***

「サイロは密閉型でスプリンクラーがないでしょうから何処に粉塵を発生させるかですよね。やっぱりミル(粉砕機)ですかね。グラインダーの上に旨く落ちたら粉々でしょうし‥‥‥」
 工場に到着と同時に大まかな場所とトラップの有無は確認していたコガ。
 長い配線を引きずり乍ら、ミルを目指して進むコガ。
「ふ‥‥爆発事故、怖いですね☆ ガムテはムカデに勝つのです。‥‥‥と、ここはミルの隣の棟ですか」
 1本道を間違えたようで変な場所に出る。
 鼻がムズムズしくしゃみをするコガ。
「嫌ですね。風邪でしょうか」
 ふと床に溜る白い粉を見つける。
 良く見れば天井からサラサラと白い粉が少量ずつだが降り積もっている。
「天井裏に生石灰ですか!!」

 ***

「大変です、罠です! 皆さん、大至急ここから出て下さい!」
 慌てて戻って来たコガが叫ぶのと同時に孝一がNWに命令を下す。
「トナティウ! 天井を突き破れ!」
 NWの体当たりに天井が崩れ、白い生石灰が雨のように倉庫に降り注ぐ。
「ゲームはお終いだ。小僧共!」
 孝一は暴れて抵抗するよしりん☆を引きずり乍らスプリンクラーの配線を断ち切る。
 激しい警報機のベルの音と同時にスプリンクラーが水をまき散らす。

 ほうほうの体で逃げ出す運達が分厚いドアを抜け出た瞬間。
 凄まじい轟音と共に工場が爆発し、爆風で吹き飛ばされる。
「くそっ! もう1匹のNWはどうした?」
 佐渡川が問いに答えるように探魔の杖を使うが、反応がない。
「逃げたか、倒したか‥‥兎も角付近にはいないようです」
「ねぇ‥‥よしりん☆さんは?」
「まさか、あのDSと?」
 轟々と燃える工場を前に立ちすくむ一行。
 明けの近い明るくなっていく空にパトカーとポンプ車のサイレンが遠く響いていた。