AN ラストフレーズアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 5.5万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/11〜10/13

●本文

 死ぬのが恐いとか思った事はなかった。
 どちらかと言えば、この汚い身体から解放されて楽になると思っていた。
 だけど、今‥‥‥‥‥‥あたしは、死にたくない──。


「何時から見えていませんか?」
 細い懐中電灯を右目の上に翳していた医者が言う。
「見えなくなったのは‥‥‥1週間ぐらい前から見えたり見えなかったりです。それまでは耳鳴りと軽い目眩があって‥‥ずっと忙しかったから疲労か風邪だと思っていたんです」
 暗くカーテンを仕切られた診察室の中、V系パンクバンド「アルカラルナイト」のリーダー、クラブ・クラウンが答える。
 カーテンの仕切りが取り払われ、明るい光が診察室を満たす。
 眩しそうに顔をしかめるクラウンの顔を見つめる医者が言う。
「少し右の顔も麻痺が出ているね‥‥もっと早く来ないと駄目だよ」
 右頬に触り、筋肉の張りを確かめる医者。
 カルテに振り向き、さらさらと何かを書いて行く。
 クラウンの側に付き添うように立っているナイト。

「‥‥‥次はMRIだって」
 着いて来なくてもいいのに。診査着に着替えたクラウンが笑う。
 ナイトは女装していた。
 化粧をして立っていれば、充分少女に見えるナイト。
「こうしていれば、ずっと側で診察を見ていられる」と言うナイトだったが、流石にMRI検査室迄は入れない。

 ***

 恐くて病院に着いていけないと言うエースに付き添って、エースとクイーンは時間潰しの為に「7」にやって来ていた。二人から症状を聞いた浩介が、やがて口を開く。
「多分、脳か神経に障害があるんだろう。腫瘍や血の塊が出来て脳を圧迫するだけとは単純に言えないだろうが‥‥少なくとも神経伝達の異常とかの類いだろうな」
 まあ、素人診断ではなく、ちゃんと医者に行ったのは良い事だ。と言う。
 浩介の言葉に顔を見あわせるエースとクイーン。
「‥‥‥それって頭を手術するん?」
「それは医者が判断する事だろう」
「手術になったら花梨ちゃん、髪の毛切らへんといけんのやろ?」
「パティ‥‥心配する‥所が‥‥微妙に‥‥違い‥ます‥‥‥まあ、あなた‥‥らしい‥ですが‥‥」
「だって‥‥手術とかになって色々お医者さんが話してくれても、きっと難し過ぎて、うち、よう判らへんと思うもん」
「まあ、切る事になるだろうな。それに病気のレベルにもよるがリハビリも今迄行って来た類いよりは本格的な物になるだろう」
(「それでも右目の光は戻らないかもしれない‥‥‥」)
 その言葉を飲み込む浩介。
 なんにしても診察が終わらなければ何も判らないのだ。

 ***

「‥‥‥そうですか、やはり手術は必要ですか」
 マネージャーが溜息を吐く。
「うん、実際手術をしても元に戻るかどうかは判らないって」
 手術事態が成功しても他の原因で後遺症が残ったり死亡するケースもあると医師から説明された。
「アルバム記念のコンサートのつもりだったけど、ファイナルコンサートになっちゃうね」と笑うクラウン。
「‥‥‥事態が事態だけに、社長にも今回の事話しますよ?」とマネージャーが言う。
「うん‥‥‥」
 会社から引退勧告を去れるのかと思っていたアルカラルのメンバー達だったが、社の下したのは無期限の活動休止だった。
「それって‥‥‥」
「何時あなたが戻って来てもいいように‥‥との処置だそうです」
「ありがとう、マネージャー」

●今回の参加者

 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa1514 嶺雅(20歳・♂・蝙蝠)
 fa1704 神代タテハ(13歳・♀・猫)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa3661 EUREKA(24歳・♀・小鳥)
 fa3797 四條 キリエ(26歳・♀・アライグマ)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa4738 MOEGI(9歳・♀・小鳥)
 fa5316 希蝶(22歳・♂・鴉)
 fa5625 雫紅石(21歳・♂・ハムスター)

●リプレイ本文

 スタンバイ直前の楽屋でクラウンの右手をマッサージする雨堂 零慈(fa0826)。
 それを優しく見つめるクラウン。
「‥‥今日は、ナイト殿と一緒にピアノを弾くのだろう?」
「笙もセコンダしてくれるって言ったし」
「華模様2007」をピアノの1台をクラウンとナイトが連弾、もう1台を笙(fa4559)が弾くと言うのだ。
 その笙の気持ち等知らん顔で視線の先にいるクイーンは、Tyrantess(fa3596)と何やら話し込んでいる。
「病気を治し、また歌えるさ‥‥絶対に‥‥そうでないと拙者が困るからな‥‥」
 拙者の曲を花梨には作ってもらう約束だろう? そうレイジが言う。

「そういえばゆーりさん、ハイプロでデビューなんやってね。うちらの分迄、頑張ってね」
「由子ちゃん‥‥私は貴方に勇気を貰ったわ。由子ちゃんは、いつも頑張ってた。だから私も勇気を出して、新しい一歩を踏み出せたのよ」とEUREKA(fa3661)が言う。
「ANの皆に会えて良かったわ。ラストライブ‥‥楽しんでいきましょ」
「うん♪」
「タテは寂しいのにゃ」
 灰と黒の縞々パーカーでやって来た神代タテハ(fa1704)。
「タテちゃんもゆーりさんが言うようにライブを楽しんでいってや」
 タテの頭を撫で乍ら、そう笑うエース。
「今日もびしばし本気で行くわよ?」というゆーりに。
「うん、うちもゆーりさんに負けへんように本気全開やよ♪」

「半年か‥‥そんな短い時間に、目まぐるしい程に様々な事があったな‥‥」と笙。
「そーだな。目まぐるしかったけど、結構充実していたよ」とナイトが笑う。
「しかし、未来って分かんないもんだね。でもきっと手術だってきっと大丈夫! 私はそう信じてる」と四條 キリエ(fa3797)が言う。
「あたしのパパも長期入院中だから余計に心配なんだけど、大丈夫だよね。こんなにみんなが応援してるもん、絶対元気になるよねっ」とMOEGI(fa4738)。
「うん、大丈夫だよ」
 単に手術の成功率でいけば、かなり低い。
 病院のカンファレンスを何回も受け、納得しての渡米(手術)である。
「ほら、そんな顔をしない。これからコンサートだろう?」
 もえぎの両頬を『もににっ』と軽く引っ張るクラウン。
「今日のコンサートを最高、最上な物にしてくれるんだろう?」
「俺もゲストだけど頑張って最高をみせるよっ!」
 嶺雅(fa1514)が、もえぎの背中を元気づけるように叩く。
 レイの歌う『MOON』は一度お見合いの席でナイトに贈られた曲である。
「今回はAN皆に心を込めて贈りマス。あの時以上に気合い入れて歌うからねーっ」

 クラウンの病状を聞き、特製フェイスマスクを作って来た雫紅石(fa5625)。
 ゴシック調の黒いステージ衣装に併せた革と布のマスクである。
 目の周りから頬骨に掛けて白くクラブのマークが抜かれている。
 良く見れば一番上の枝部分に小さな王冠(クラウン)が斜に描いてある。
「イメージ以上だよ。ありがとう、ティア」
「少しでも熱を持ったりしておかしかったら言ってね」
 冷却剤も持って来ているから。とティアが大きな仕事用バックを叩く。
「うん、ありがとう」
「使う使わないは別として、衣装の雰囲気に合わせたコサ−ジュ作ってみたんだ」
 メンバー達にトランプのマークが入ったコサージュを渡すキリエ。
「‥‥蝶の分はマ−クないけど」
 ぺろっと舌を出すキリエ。
「うーん、寂しいから自分で蝶マークを刺繍しちゃうぞ!」

 誰もが最高のコンサートを望む。
「んじゃあボチボチ、行くべ?」
 ナイトがおどけてみせる。
 出演者が円陣を組み、クラウンが掛け声をかける。
「行くよ、ラストコンサート! 皆にあたしらの最高を見せるよ!」
「「「「「「おーーーー!」」」」」」
「えー、ここで一発。クラウンの代打ちでずーっと参加してくれていた希蝶から一言!」
 ナイトに急に振られて吃驚し乍ら『景気付け』の掛け声をする事になった希蝶(fa5316)。
「皆の旅立ち、華々しく飾ってやる! これは『終わり』じゃなくて『新しい始まり』だと俺は思うから、クラウンが戻って来た時、また新しいANが始まるんだよ!」
「最高のAN、ファンの目に耳にやきつけてやれ!」と笙が言う。
「「「「「「おーーーー!」」」」」」

「花梨‥‥‥」
 ステージに向かうクラウンを呼び止め、優しいキスをするレイジ。
「お守りだ。頑張れよ」
「うん」
「‥‥若いってイイねぇ」
 二人の姿を見てにんまりと笑うキリエ。
 ステージに向かうクラウンの後ろ姿が、まばゆい照明の光と拍手と歓声に包まれる。


●ファイナルライブ「ラストフレーズ」
「皆、今日は集まってくれてありがとう! 1曲目からガンガン飛ばしていくよーーーーっ!!」
 クラウンの掛け声に答えるように歓声が帰って来る。

 ステージでは再現不可能と言われた「Town of crime」の激しいフレーズが会場を包む。
 そういってもCDの完全再現ではなく今回のコンサート用にアレンジされた物である。
 ゆーりのシンセに笙のアルトサックスが唸る。
 CDではゆーりがヴァイオリンを担当したが、代りにここではナイトが弾く。
 ステージからもノリノリの観客が見える。

 半分過ぎたところでゲストミュージシャンによる演奏である。
 私服のようなラフなグレーのTシャツに黒ベストという姿でレイがステージに登場すると歓声が上がる。

【MOON】Vo:嶺雅 P:笙
♪♪♪〜
「call me  call me」
(ピアノの優しく柔らかいメロディに静かに語りかけるようなレイの歌声)

 ココに、ずっとココにいるから 何時でも俺の名前呼んで欲しい
「tell me  tell me」
(音階上げ、力強くレイの声に負けじと響くピアノ)

 無理した笑顔はイラナイ
 ツラい時こそ俺に全てぶつけて叫べ
(段々と思いを込めるように力強く大きくなる声とピアノ)

 一人悩む夜より
 二人語り明かす日が多くありますように
(語るようにゆっくりとしたテンポに下げながら、歌声とメロディは思いを受け止めるように力強く響く)

 call me tell me call me tell me
(囁くようにゆっくりと‥‥静かなメロディが続く)

「Dear My Friend...」
(レイの歌声だけが語るように余韻を残し響き、曲は終了した)
〜♪♪♪


「今回の曲はクラウン、覚悟しろよ。絶対泣かせてやるからな?」
 タイの過激なMCで曲は始まった。

【Over Nights】 Vo&G:Tyrantess B:MOEGI Key:笙 Dr:EUREKA
♪♪♪〜
(会場の壁にサビのフレーズが大きく映し出される)
 Over hundreds of nights
 幾百の夜を越えても 変わらない想いが あるはずだろ?
 Don’t know when,but someday
 願いは叶うさ きっとまた会える‥‥‥‥この場所で
(ドラマティックに盛り上がるギターのフレーズ。
 観客席をゆっくりと1人1人の顔を照らし出すように照明が回転する)

 Over thousands of nights
 幾千の夜を越えても 消えない絆が きっとある
 Don’t know when,but someday
 待っているから きっとまた会おう‥‥‥‥この場所で
(力づくのびるタイの声。タイの声に併せるように口ずさむファンの姿が照明に浮かび上がる)

 Over many many nights
どれだけの夜を越えても 待ち続けられると ここに誓う!

「そうだろ、皆!」タイが観客先にマイクを向ける。
「「「「「おーーーーーっ!」」」」」という声が観客席から帰って来る。

 Don’t know when,but someday
 信じているから きっとまた会おう‥‥‥この場所で

「ラスト、一緒に!」タイが観客先にマイクを向ける。

「「「きっとまた会おう‥‥‥‥この場所で」」」
(大コーラスで曲は終了した)
〜♪♪♪

「‥‥‥ありがとう、すっごいマジ泣けた‥‥今日は、何があっても泣かないって決めたんだけどさ。皆のハートが『ガツン!』って来たよ」
 クラウンの言葉に会場から拍手が起る。
「皆もさ、TVとか見てくれいるから判っていると思うけど、ANは今日で活動を中止する」
 止めないで! と会場から声が掛かる。
「うん、本当は止めたくない。今日もさ、ずっとあたしの代りにギターをしてくれて、もう『5番目のメンバー』みたいな蝶やあたしらの『妹分』って紹介したいMOEGIを紹介しようと思っていた」
 今日もギターで参加してくれているけどね。
 クラウンの言葉にもえぎと蝶にスポットライトが当る。
「皆に支えられて、今ANはいる。あたしがいなくなってもやっていけるって思った事もある。‥‥でも、あたしはずっとANの1人でいたい。あたしはもっと皆と同じ歌を共有したい‥‥‥」
 ずっと一緒だよ。そんな声が掛かる。
「だからあたしは米国に行って手術を受ける。必ずあたしは皆の所に戻って来る」
 観客席から拍手と歓声が起る。
「だから今日の為に曲を書いた。『ラスト・フレーズ』聞いて欲しい」
 ナイトが舞台袖からクラウンのギターを持って来る。
「あんまり上手く弾けないけど、勘弁ね」

【ラストフレーズ】アルカラル・ナイト
♪♪♪〜
 両手を 伸ばして
 思いを 抱き締・め・て
(震えるクラウンの手を後ろから抱きかかえるようにして手を添えて弾くナイト)

 誰よりも 伝えたい
 思いが 届くように
(クイーンのキーボードとエースのドラムが優しくリズムを刻む)

 誰よりも 伝えたい──


『必ず‥‥‥ 帰るよ──』
〜♪♪♪


 アンコールはANのデビュー曲「華模様」を全員で演奏し全ステージを終了した。


●サプライズ
「お疲れさまにゃーっ♪」
 タテが頬を真っ赤にして花束を持って来る。
「あのね、タテが作ったの。お守りにゃ♪」
 クラウンに黄色と透明な石が繋がったブレスレットを渡すタテ。
「黄色はね、元気の出る色なんだよ」
「ありがとう、タテ」
 クラウンがタテを抱き締める。

 ステージ後半「僕らの旅」から感情移入してしまって泣き通しだったもえぎがクラウンに抱き着く。
「ANの事忘れないよ。妹分って言ってくれた事も」
 苦笑し乍ら飲み物とタオルをもえぎに渡すクラウン。
 ちーんと鼻をかんで一息ついたようである。
「‥‥あの、さ。あたしこれからもANの曲歌っていきたいと思ってるんだけど‥‥正式にANの『妹分』を名乗らせて貰ってもいいかなぁ?」
「ありがとう、もえぎ」
 くしゃりと頭を撫でるクラウン。
「よろしくね。妹君」

「またステージで会いましょう」
 にっこりと笑ってANメンバーを抱き締めるゆーり。

「おつかれー! 今度ステージを一緒にする時は、腕更に磨いとくから待ってろよ!!」
 名前は勿論『ジョーカー』な♪ と蝶が言う。
「こっちも腕がサビないようにしておかなきゃな」とナイト。
「その為には野菜も食べろよ! クイーンは保護者がいるから平気だが、ナイトは直しとけよ! 好き嫌いなんて贅沢は敵なんだぞ!!」
「俺は『嫌い』なだけで食えるんだ」

「『またな』としか言わんぞ、俺は。必ず帰って来ると信じてるから‥‥帰国したらWedding Liveか?」と笙。
「それって『W(ダブル)』? おぁっ?!」
 そう言うナイトの脛を思いきり蹴り飛ばすクイーン。
「花梨さんは雨堂さんが支えている。だから俺はユリアさんを支えたい。何時までも待つから‥‥待つけど、その間も何かあれば呼べよ?」
 クイーンの頭とくしゃりとする笙の脛をクイーンの蹴りが直撃する。
「っつぅ‥‥俺が何をした?!」
「‥‥自分の、胸によく‥‥お聞きなさい‥‥」
 更衣室の奥へと消えるクイーン。
「一周り上の癖に女心の判らない奴‥‥」
 ナイトが呆れたように言う。
「何、なに?」
 1人状況が判らないエースがうろたえる。
「女心と秋の空だな。という訳でクイーンの気持ちをちょこっと理解すべく俺と付き合わない?」
「はい〜ぃ?」
 声の裏返るエース。
「まぁ‥‥STEP UPでもいいからさ。俺、エ−スの一生懸命さ好きだし」
 ケロっとして言う蝶。
「うち、うち‥‥‥うぇぇ‥‥」
 うろたえるエース。
「クイーンの判定は?」
 着替えて戻って来たクイーンがエースの後ろに立つ。
「‥‥蝶、萌え系‥‥性格‥良好‥‥しっかりモノ。‥‥‥クイーンに‥‥‥『野菜』と‥言わなければ‥‥‥許可」
「『野菜』の条件付きかよ」
 呆れるナイト。
「んじゃ、お試し期間と言う事で」
「由子ちゃんの選択権は、無視なのね‥‥‥」
「姐さんは生ぬるく見守っておくよ。皆、欲張りに幸せにおなり」と笑うキリエ。

 こうしてサプライズがついてANのファイナルステージは終了した。

 誰もいないホールでコンサートの余韻を楽しむクラウンにレイジが声をかける。
「お疲れさま。コンサ−ト‥‥すごく良かった」
「ありがとう」
 レイジのマッサージのお陰だよ。そう笑うクラウン。
「花梨‥‥拙者に約束して欲しい‥‥必ず病気を治し再び歌うと‥‥それと旅立つ前に一日、その‥‥花梨と一緒に一夜を過ごしたい‥‥暫く会えないから深い思い出を作りたい‥‥」
 赤面し乍らそういうレイジの唇を微笑みを浮かべたクラウンの指が押さえる。
「馬鹿ね‥‥‥こういう時は何も言わずに連れていってくれればいいのよ」

 クラウンだけではなく、ANのメンバーにとっても思い出深い1日になった。