AN 小さな贈り物アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
有天
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/14〜10/16
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●本文
「いいコンサートだったな」
「うん‥‥」
クラウンとナイト、並んで縁側に二人の並んで座る姿は、和洋の人形が並んでいるように美しい。
前日終了したばかりのラストコンサートの余韻を楽しむように眼が細める。
コンサート中にしていた顔の半分が隠れるマスクは今は外されている。
視線を小さな外庭に落とすと赤い彼岸花が咲いている。
「‥‥これからデートなんだろう?」
いいのか準備は?
そうクラウンに尋ねるナイト。
「うん‥‥」
「そうか‥‥」
「パティやユリアは?」
「パティは買い物って言っていたな。ユリアはプラネタリウムといっていたが‥‥」
言葉を濁すナイト。
本日15日は月曜日である。
(「休館日じゃねぇのか‥‥?」)と心配するナイト。
エースは渋谷に渡米するクラウンへのプレゼントを買いに出かけ、クイーンは時々行っているプラネタリウムでクラウンへプレゼントを買いに出かけたのだった。
***
「‥‥失敗‥しました」
プラネタリウムの前で立ちすくむクイーン。
クラウンにあげる予定していたプレゼントがこれでは手に入らない。
たっぷり30秒ほど考えたクイーンは、電車を乗り継ぎ誕生日祝いをして貰った海浜公園の芝生の上に居た。
「‥‥ここなら、きっとあるはず‥‥」
シロツメクサを見つめそう言うクイーンだった。
「うーん、うーん、何がいいやろ?」
普通の旅行アイテムはすでにクラウンは持っている。
だからって時間つぶしの本やビデオは目に悪いだろうと考えるエース。
「音楽‥‥CDとか? あ!」
何かひらめいたようである。
「うーん、でもうち歌を作ったことないし、ドラム以外の楽器できへんし‥‥」
ショーウィンドウ相手に「反省」ポーズを取るエースだった。
「‥‥さてと、俺も出かけるか」
クラウンを送り出したナイトが玄関の戸締りをする。
「問題は何をあげるかだが‥‥」
ナイトは空を見上げた。
●リプレイ本文
「歌を贈りたいか‥‥正しい人選だ、うむ」
そう言ってエースの頭を撫でる希蝶(fa5316)。
「でも‥うち、歌った事がないねん。タテちゃん、教えてくれへん?」と言うエース。
「タテもあんまり人に教えるくらい上手じゃないから一緒に気合いで頑張るにゃ!」と神代タテハ(fa1704)。
「大丈夫、皆で頑張れば良い曲になるさ」
「うん、宜しく御願いします」
ぺこりと頭を下げるエース。
「楽器やスタジオは大丈夫なのにゃ?」
「大丈夫、電話を貰った時点で助っ人に連絡済!」と蝶。
時間は少し遡る──。
自室で前日のライブの余韻を思い出す四條 キリエ(fa3797)。
「今頃、どうしているのだろう?」
そんな事を思っていた所に蝶から電話が掛かってくる。
「歌のプレゼントねぇ。OK、断然協力しちゃう! は? スタジオを押さえていない? エースらしいっていうか‥‥」
蝶の言葉に苦笑するキリエ。
「ツテでスタジオを押さえとくよ」
***
雫紅石(fa5625)に連れられて来た店には調香師がブレンドしたオリジナル香水も販売している。
「うわっ、すげぇタイトル」
官能的な甘い匂いを放つ香水の名前を見て笑うナイト。
そんなナイトを見ていた嶺雅(fa1514)が言う。
「ナイトくん、前より良く笑うようになったネ」
「え、そうかな?」
「うん。いろんなコトあったケド、これからの変化もナイトくんにとって大きいじゃないカナって思うんだヨ。ソロ活動するって聞いたしネ」
「‥‥耳が早いな」と苦笑するナイト。
ANは解散後、エースとクイーンは大学に通い乍ら当面は事務所の手伝いをし、必要に応じてバックバンドとして地味に活動するのだと言う。
ただナイトだけは「STAR DUST」の件もあり、ソロデビューが冬に決まっていた。
「前も言ったけど、ナイトくんにとって些細なコトでも、何かあれば話して欲しいヨ。それでもってナイトくんの変化を傍で見て行けたら嬉しいナ」
「ありがとう、レイさん」
にっこりと微笑むナイト。
***
(「何かあったら言えと言ったが、何があってからじゃなく、ある前に連絡をして来なくてどうする?!」)
クイーンの呼び出しに応じ、公園に向かう笙(fa4559)はイライラと車のハンドルを切る。
空いた車線に無理やり割り込みクラクションを鳴らされる笙。
駐車場に車を止め、広い園内を探す笙。
(「それに、何故、俺が蹴られたりしなければならない。女心は分からん‥‥」)
必死に20分も探した所でシロツメクサの上で突っ伏している赤い髪が見える。
「ユリアさんっ!」
苦しげに閉じられていた瞼が少し上がり、その瞳が笙を捕らえる。
「‥‥遅い‥‥です」
それだけ言うと、瞼を閉じるクイーン。
そう言い乍らも安心したのか、ほんの少しだけ苦しげな表情が和らぐ。
クイーンを抱きかかえ、日陰に移動する生。
「‥‥状況から察するに、四葉のクローバーを探していたんだろう? ‥‥こればかりは俺が代わりに探しても意味ないだろうし、具合が良くなったら一緒に探そう」
溜息を吐く笙。
濡れたタオルを額に乗せ横になるクイーンの側に座る笙。
青い空に飛行機雲が一つ筋を残していく。
その白を蒼と黒と藍の瞳が追う。
「ユリアさん。『時間』と言われて『素直に待つ』と言ったのが悪かったのか? 頭撫でたのが『子供扱い』の様で気に入らなかったのか‥‥?」
ポツリと言う笙。
笙を睨んだ後、ぷいっと背を向けるクイーン。
「‥‥全部か?」
思わず空を見上げてしまう笙。
「私は‥笙から‥みれば‥子供かも‥知れま‥せん。‥‥でも‥私も‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥です」
「え?」
よく聞き取れず、顔を近づける笙。
「‥も‥いい‥です。‥それ‥以上、近づく‥と‥鼻を‥齧り‥ます」
益々笙の顔を見ようとしないクイーン、よく見れば項がほんのり赤くなっている。
「どうやって?」
「こう‥‥です!」
振り返ったクイーンは、笙の思わぬ顔の近さに驚く。
そのまま、のしかかるようにクイーンの上に体重を預ける笙。
「お、重い‥‥」
笙が細身だろうと154cmのクイーンにとっては重い。
「こっちは、今すぐにでも拐いのを我慢しているんだからな。噛まれるのなら‥‥こっちが良い」
「な‥‥‥‥」
笙の顔が近付き、クイーンの言葉の続きを笙は唇で塞ぐ。
始めはジタバタしていたクイーンだったが、やがて笙の深いキスに引き込まれ、応じる。
甘く長いキスから解放されたクイーンは赤く頬を染め、吐息を吐く。
「機嫌が直ったようだな」
やれやれ‥‥と言ったように立ち上がる笙。
「いい加減、クローバーを探すか‥‥‥」
***
「でも、素敵よね」
「何が?」
香水を調合した帰り道、オープンカフェに入ったレイ、ティア、ナイトの三人。
「十万羽鶴よ」
ナイトは当初、クラウンに千羽鶴ならぬ十万羽鶴を贈ろうとして途中で断念したのだという。
「クラウンへの気持ちと回復の願いを込め乍ら1つ1つ折る鶴。でも3人では出発には間に合わないわね」とティアが溜息を吐く。
「『ファンサイト』でファンの子にもお願いするって言うのは、どうカナ?」
ファンサイト? とティアが尋ねる。
「アマチュアの時から応援してくれている子達が開いてくれているサイトがあるんだよ」
そう説明するナイト。
「皆もきっと参加したいって思うんだよネ。それに皆で折れば、きっと出発までに出来上がるよっ♪」
***
「‥‥‥うちには歌の才能がないんや」
何度目かの録音し直しに凹むエース。
「エースさんの作った曲、とってもたくさんの『ありがとう』が詰まった歌にゃ」
大丈夫にゃ。とタテに慰められているエース。
「これは歌のピンチヒッターに私?」
笑うキリエにエースのうるうるとした涙目が注がれる。
「‥‥冗談を本気にしない。大丈夫だよ。上手に歌おうとしなくたって気持ちは一杯感じるからさ」
「本当?」
くしゃくしゃとエースの頭を撫でるキリエ。
「エースらしく歌えば良いからさ。何しろ、彼氏の俺が保証!」
あ、それは関係ない? 一人ボケツッコミをする蝶にくすりとエースが笑う。
「んじゃ、このままもう一度!」
おー! と皆で気合いを入れた所にキリエの携帯に電話が掛かってくる。
「‥‥‥うん、判った。近場に来たら連絡して。綺麗仕上げてあげるから任せなさい♪」
そういって電話を切る。
「何?」
「笙からだよ。四葉のクローバーを栞するんだってさ。録音が終わったら雑貨屋を見に行こう」
一緒に乾燥剤やら色々買うからさ。とキリエ。
今度はエースの電話が鳴る。
「え、うん、アレの続き? うん‥‥‥皆に聞いてみる」
「どうしたにゃ?」
「なんか、キースが途中で放り出した『十万羽鶴』を皆で完成ようって事になったみたい。皆に手伝って欲しいんやけど‥‥」
「一緒に折って折って折りまくるよ!」とキリエ。
「万羽じゃなく十万な辺りがナイトな感じで良し!」と蝶が笑う。
「タテもお家に電話してお泊まりなのにゃ、タテも一早く良くなるようにお手伝いするのにゃ!」
***
「なんか違う物になる。もう一度、鶴の折り方教えてっ!」
「これは、ちゃんと千羽鶴になっているみたいだな」
全国から送られて来た折り鶴を色別に別ける者、不足しそうな色を折る者、あるいは慣れない手付きで糸を繋ぐ者。
「もうちょっと折っておけよ。千羽鶴、十個で諦めるか、普通?」
「いーじゃねぇか、それでも万はあるんだから」
わいわいと騒いでいる所に応援のCelestia(fa5851)がやって来る。
「悪い、遅くなった」
「助かるよ。何しろ、人が足りないから」
そんな中、宅配便がまた届く。
「なんにせよ。レイジ、様様だな」
雨堂 零慈(fa0826)からクラウンを誘って1泊2日、二人だけの小旅行に行きたいと言われた時、当初「渡米直前に体力が落ちたらどうする?」と反対したのはナイトだった。
が、説き伏せられ許可したのが結果的、功を奏したようである。
「あいつら、今頃上手い物食って、温泉でのんびりなんだぜ」
「なんでも隠れ家的な旅館だと言っていたな」
「帰って来たら何かおごらせようよ」
羨ましいぞー。という声が上がる。
結局二日目の昼になっても十万羽鶴は終わらず「風呂が壊れた」という理由を作って空港側のホテルに直行するようにレイジに電話する事になる。
それでギリギリ間に合う折り鶴の山。
「暫く、折り紙はいい‥‥」と誰かが言った。
●帰る場所
「皆の方が病人みたいだね」
出発ロビーに並ぶぐったりした顔を呆れたように見るクラウン。
「んー、なんかさ。最後だと思ったら盛り上がっちゃって徹夜しちまったし」
大きな欠伸をし乍ら答えるナイト。
そんな様子をカメラで撮っている笙。
「忘れない内に、これ‥‥‥」
セラがクラウンにMDを渡す。
「ANの曲をオルゴールにしたんだ。機内持ち込みが出来ないって聞いたから、先に音だけ渡しておくよ」
メンバー全員、4つのオルゴールを合せるとメドレーになるようにしたのだと言う。
「本物は向こうに届くようにしてあるから」
「俺のは?」
「エースさんを取られたような気がするから、希蝶さんの分はないよ」
そう笑うセラ。
「俺からは海外のお供の梅干ー! ‥‥というのは冗談で、ミサンガ! 皆でお揃いダヨ!」
レイがそう言ってミサンガをクラウンに着ける。
「うちとタテちゃんと蝶さんからはCD、聞いてや」
「皆の気持ちがガッツリ入っている。最高の曲だよ」と蝶が言う。
「元気の出るあったかい曲にゃ♪」
「笙や‥キリエが‥‥手伝って‥‥くれました」
そう言って四葉のクローバーの栞を渡すクイーン。
「ありがとう、みんな」
「私からはヌイグルミよ」
そう言って着物来た竜とパンクっぽい服を着た小鳥のヌイグルミを袋から取り出すティア。
「竜はクラウンに、小鳥はレイジさんに」
二つのヌイグルミを並べると胸元に四つ葉のクローバーが浮かんで見える。
「ありがとう‥‥」
そう言ってヌイグルミを受け取るクラウン。
懐から指輪を取り出したレイジが言う。
「花梨‥‥あの時、この指輪は受け取ってもらえなかった‥‥だが、今は受け取って欲しい‥‥手術して治って帰って来たら‥‥結婚して欲しい。『いい』と言うまで‥‥絶対に‥‥離さない‥‥」
そう言ってクラウンを抱き締めるレイジ。
「‥‥いや、よ」
クラウンの言葉にびっくりするレイジ。
「‥‥‥そんな事を言ったら、このままずっと抱き締めていて欲しい。アメリカなんて行きたくない。アメリカに行ったからって治る保証はないし、今はまだ右手だってちょっとは動く‥‥‥このまま、もしかしたら病気だって進行しないかも知れない」
皆の前で初めて漏らすクラウン弱音。
「でも、治すって決めたんだ。病気に怯え乍らじゃなく、ちゃんと前を向いていられるように」
クラウンが腕を回し、レイジを抱き締める。
「指輪なんていらない。あたしはもうレイジの全てを、全部覚えたから。そっちの方が百倍勇気をくれる。病気を治して、あたしは帰る。ここがあたしの居場所だから‥‥だからその時、ファンや皆の前でちゃんと婚約しよう」
ロビーに出発を告げるアナウンスが流れる。
ナイトがレイジの肩に手を置く。
「あたしは必ず帰るわ。あなたの元に」
レイジがゆっくりと腕を離す。
「‥‥約束だぞ」
「はい‥‥‥」
「元気で帰って来い」
「またパワフルな歌聴けるの、楽しみにしてるよ。いっといで!」
笙が声を掛け、キリエがハイタッチをする。
「パティの事はちゃんと守ってやるぞ! だから安心して行って来い!!」
「ああ、任せたよ」
「元気になって帰ってくるように笑って見送るにゃ」
つっついたら泣き出しそうなタテ。
エスカレーターで下がっていくクラウン。
「あたしがいなくてもちゃんと、戸締まりとかするんだよ。近所から五月蝿いって‥‥」
「知るか。五月蝿いのがいなくてノビノビだ!」
「なんだって?!」
「周りの迷惑だ! ちゃっちゃと行ってちゃっちゃと帰って来い!」
そう言って手を振るナイト。
「後は任せたよ!」
小さい小箱をクラウンに投げるナイト。
「香水だ。帰りに使え」
手を振る花梨の姿が階下へと消える。
「‥‥‥行っちゃったね」
「うん‥‥」
「この後はどうするんだ? あの寮をそのまま使うのか?」
「多分な。二人とも学校が都内だしな。まあ、問題は家より食事だが」
「食事?」
「俺が、仕事に出ている時だ。パティは料理ができるが、ユリアは作れないからな」
「ご飯難民‥は‥問題‥です」
「じゃあ、ユリアは本気で俺のとこ来ないか? 時々でも」と笙。
「野菜‥ばかり‥出て‥来そう‥‥な‥所は‥‥嫌です」と即答するクイーン。
「んじゃあ視察っちゅうことで、笙の家で打上げだな」
「なに?!」
「ユリアを知らない家には預けられん。それにいつから『さん』がなくなったか、たっぷり従兄として聞かせてもらわないと」
「断る!」
「‥‥‥まったくロマンもヘチマもないわね」
「まあ、らしくっていいんじゃない?」
秋の空は青く晴れ渡る──。
***
──病院からのカンファレンスを終えて、帰って来たクラウン。
予備検査の為に長く伸ばしていた髪は少年のように今は短く切られている。
『荷物が届いている』と言われて部屋に慌てて行くクラウン。
ドアを開くと溢れるばかりの折り鶴の山。
どうみても十万所の数ではない。
「全く、馬鹿なんだから」
笑うクランの耳に小さなオルゴールの音が響いた。
END