人の心に住まう闇アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
有天
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
10Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
153.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/18〜10/20
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●本文
「全く大したものだよ。お前の知合いは‥‥‥楽しませてくれる」
サイロの爆発に巻き込まれた際に負った顔の傷を切り裂いたシャツで被っている孝一。
隠しておいたジープに負傷したよしりん☆を後部座席に押し込み山道を走っていた。
応急処置にストッキングで作った止血帯は余り役に立たない様子で腹部に受けた破片からよしりん☆は出血が止まらないでいた。
「辛かったら半獣化していろ。たしか超回復が使えただろう?」
高低差に併せて複雑にギアを切り替え、スピードを落さないまま疾走するジープ。
「‥‥‥言うわね。私が後ろからあなたを襲うとか思わないの‥‥‥」
チアノーゼを起こしかけ、唇が紫色になっているよしりん☆。
「今のお前に俺を殺せる力はないからな」
空き部屋のランプを確認し、1軒のホテルの駐車場にジープを入れる孝一。
入り口のキーを操作し、よしりん☆を抱きかかえたまま部屋へ入る。
郊外ではカップル向きに駐車場から直接フロントや他の利用客と顔を合わせずに部屋を利用出来るだけではなく会計迄が済ます事が出来るタイプのホテルが存在するのである。
ベットの上によしりん☆を寝かせるとジープの中から救急箱を持って来る孝一。
よしりん☆の傷を調べ、今度は獣化するなと言う。
「破片を取り出す。獣化すると肉が盛り上がって破片が身体の奥に入り込むからな」
ベットカバーを引き裂き、手枷・足枷とベットの端によしりん☆を括り着け、タオルで猿ぐつわを噛ませようとする。
「悪いが麻薬も麻酔も持っていないからな。お前は20年前絶えたが、あれから20年経った。猾い方法をお互い覚えたからな」
舌を噛まないようにだよ。
人間、発作的に苦痛に耐えかねての選択だけではなく、痙攣や硬直から偶発的に舌を噛む事があるのだ。
嫌がるよしりん☆に優しく諭す表情は、二人が出会った頃よしりん☆に向けられた物と同じであった。
洗面桶に水を張り、ナイフでよしりん☆の服を丁寧に切り裂く。
***
「クソ、やっぱりよしりん☆が戻って来ていないぞ!」
歩いて帰れる距離ではないが、爆発現場から姿を消したよしりん☆を心配して、よしりん☆が宿泊したホテルにやって来た獣人達。
フロントはよしりん☆からルームサービスも電話の取り次ぎも断られたまま、チェックアウトの記録はないという。
ドアには『Please do not cause it(起こさないで下さい)』そう掛れた札が掛かったままである。
「携帯電話やメールは?」
「全然反能なし」
「あの孝一っていうクソ親父‥‥‥あのダークサイドがまさか連れて行ったってことはないよな」
夜明け近く迄付近を探したが、どこからかの通報によって地元警察が爆発した工場跡地にやって着て、にっちもさっちもいかなくなっていた。
「よしりん☆さんが大人しく捕まるはずないと思います。でも‥‥」
ギリギリ迄粘った現場には誰とも知らない大量の血が残されていた。
***
「気絶したか‥‥‥」
これではよしりん☆の特殊能力で傷を塞ぐ事は出来ない。
よしりん☆の身体をベットの端に寄せシーツを外し、止血体を作り、よしりん☆の腹に巻く孝一。
孝一自身の傷は獣の力で血が止まっていた。
シャワーを浴び、全身についた埃と血を洗い流す。
ホテルに備え付けられた冷蔵庫からビールを取り出し、プルトップをあける。
苦い琥珀の液体を咽に流し込み乍ら孝一は楽しそうに言った。
「‥‥‥さて、どうするかな?」
●リプレイ本文
「狙いは‥‥よしりん☆さんって‥‥わかって‥いたのに‥‥守れなかった‥です。‥‥酷い事されていないと‥‥良いですけど‥」
『休憩タイムも必要だ』とメロンパンを皆に配っていた湯ノ花 ゆくる(fa0640)がポツリと言う。
「知りつつ守れなかった自分が悔しいぜ」
尾鷲由香(fa1449)が唇を噛む。
「HEY、レディース。なってしまった事を悔やんでばかりいてはいけまSE−N。今、出来る最善を考えるべきDE−SU!」
イーグルの治療をしていたジョニー・マッスルマン(fa3014)が言う。
「まだ私子供で‥‥大人の事情は分からないし、怖いけど‥‥けど、私達の大切な芸能界の仲間を傷つける人は許せませんっ!」と角倉・雨神名(fa2640)が言う。
「駄目ですね、似た背格好の宿泊客はいませんね」
あんまり詳しく聞くと警察が動いている今、こっちが怪しまれます。と古河 甚五郎(fa3135)が言う。
「5分、10分を惜しんで作戦全体が、グダグダになるのは拙速に過ぎます。作戦を立てるべきでしょう」
連絡を受けた応援に駆け付けた巻 長治(fa2021)が言う。
「今、判っている事を整理しましょう」
1、よしりん☆を連れたDSは、簡易ホテルに宿泊したカップルの服を金品を奪った。
2、DSが泊まったと思われる部屋から大量の血が発見されている。
これは「簡単に入れるホテルに隠れているんじゃないか?」と言う佐渡川ススム(fa3134)の提案で、爆発現場近くの簡易ホテルをサーチペンデュラムで確認した所、反応があり、駆け付けた際に判った事実である。
「これにより被疑者不明で緊急配備の検問が掛けられていると思います」
警察の検問が上手く行けば県内に留まり、間に合わなかったら他に逃亡しているのだと言う。
「あの、よしりん☆さんに張りついていた刑事さん、あの人に聞くのはどうでしょう?」
そう、うかなが言う。
「刑事さんは鬼塚さんが殺された事件を追っていたんでしょう? それでよしりん☆さんを尾行していた‥‥だったら、何か聞けるかも知れません。私も鬼塚さんとお知り合いで、狙われている気がするって近付くのは駄目ですか?」
暫く考えた後、巻が言う。
「私が聞く方が良いかも知れないですね。実際『ザ・DOG』関係で何度かお仕事を鬼塚さんやよしりん☆さんと会っていますから‥‥実はタチの悪いストーカーに狙われているが、鬼塚Dの件もそのストーカー絡みかもしれない。そう聞いていた事にしましょう」
「嘘はないし、いいんじゃないか?」
「鬼塚さんの事も有り、暫く隠れるつもりだった。と聞いている。だが、大至急連絡を取る必要できたが連絡が取れないので、探している。これで話の筋が通るでしょう」
「だが、あのDSはどうする? 俺達は孝一って名前しか知らない」
「それは‥‥」
思い出したようにイーグルが言う。
「よしりん☆の秘密の資料室に行けば判るかも知れない。前、鬼塚さんが言っていたんだ。よしりん☆が集めた膨大な犯罪資料が集まる資料室が有るって言っていたんだ」
「少なくとも自宅には、そんな場所はなかったですよ?」
よしりん☆の自宅に一度言った事があるコガが言う。
「でも、もしかしたらよしりん☆のペット達が何か知っているかも知れませんね」
それに刑事さんを探すものは、やっかいですよね。彼の所轄に出向いたりしたら、事が大きくなりすぎますからマンションを張り込んでいてくれるとラッキーですね。
ここでは幸運女神は獣人に微笑んだようだ。
何も知らない若い刑事はよしりん☆のマンション入り口付近で張り込みをしていた。
警察手帳は管理人の説得に役立ち、刑事も巻らの言葉を信じてよしりん☆の部屋に向かう。
ギャンギャンギャン!
チワワが2匹が、侵入者達を吠えたてる。
「う‥‥今日もハイパーな、ナイス女傑ですね」
コガの足に噛み付きそうな勢いのチワワを一匹抱き上げる。
「他にですね。梟と大型犬と猫がいるので気を着けて下さい」
呼ばれたとばかりに奥からのそりとマスチフがやって来る。
「犬が‥‥パワーアップしていますね」
「ここんちは、何匹いるんですかっ!」
さすがの刑事もマスチフには驚いたようである。
刑事が部屋の中を確認している間もチワワは怒って吠え立て、一部の猫は怯えて部屋中を駆け回り、一部は絨毯に粗相をする。人懐っこい猫は引き出しを開ける側から引き出しの上にのっかり「撫でろ」と催促する。
そして極め、マスチフはその大迫力な巨体で刑事の品定めするかのようにゆっくりと周りを回る。
「‥‥とりあえず動物達を何とかしてくれませんか?」
音をあげる刑事。
「うかな、お散歩に連れて行きますね」
願ったり叶ったりで堂々と部屋から動物達を連れ出す一向。
獣化したススムが動物達によしりん☆の仕事部屋の場所を聞き出し、その場所へと向かう。
湾岸沿いの貸し倉庫に秘密の資料室はあった。
電気つけると同時にエアコンが稼動する。
堆く積まれ、ファイルホルダが詰まったキャビネット。
犯罪関係を中心に集められた書籍類が収められた本棚。
起動したままのパソコンがネットワークの海の中から絶えず事件情報を吸い上げている。
机の上に山積みされた書籍と新聞の切り抜きの束。
「ここからあいつのデータを探すのかよ」
ややうんざり気味に言うススム。
「データベースとかあるかもしれないですね」と起動していないパソコンを起動し、巻が言う。
「こんな所に動物の写真集がある」
本棚の一角に場違いな写真集が収まっていた。
「鳥、関係が多いな‥‥」
「この写真家、結構好きなんだよ。表情とか凄い細かくって綺麗で」
イーグルが写真集を手に取る。
「ちょっと‥‥たんまです。名前‥‥‥影沼、孝一です」
ゆくるが写真家の名前を指差す。
「この写真を撮ったのが、あいつ? 信じられないよ」
イーグルが複雑な顔をする。
「あたってみる価値はありそうだな‥‥出版元が全部同じか」
写真家 影沼 孝一の取材をしたいと言う連絡を出版元から入れると丁寧に滞在先の新宿のホテルを教えてくれた。
『ラッキーですね。丁度先生は当社との打ち合せで帰国されていますから。ああ、こちらから取材の事は連絡入れておきますね。先生は人嫌いな所がありますので、いきなり訪ねになられても御会いにならないと思いますので』
「よろしく御願いします」と電話を切る巻。
「私はこのまま影沼 孝一について調べます。NWを2体も使うDSです。瞬間転移で転移される可能性があります」
そう巻は言った。
影沼 孝一の泊まっているホテルは、設備の整った高級ホテルであった。
雨堂 零慈(fa0826)は出入りのクリーニング業者を装う予定であったが、ホテル内でクリーニング施設を持っている為に断念せざるおえなかった。
ホテルに戻って来た孝一は1人だった。
それを取り囲む一行。
「よしりん☆を何処にやった」
「‥‥これは俺とあいつの問題だ。ガキ共は嘴を突っ込な」
「そんな事は関係ない。あんたは子供をNWに食わせた。それだけで十分、関係あるぜ」
周りに聞こえない程の小さな囁きにススムの怒りが込められている。
ホテルマン達が心配そうに見つめている視線を感じて、苦笑する孝一。
「常識のない奴だな‥‥まあ、いい。俺は気分が今、良い。話を聞いてやるからついて来るがいい」
夜の公園にやって来た孝一達。
ただならぬ雰囲気に関わりあいを恐れたカップル等が慌てて逃げて行く。
一歩、公園の闇に進む毎に目の前の孝一の中から黒い闇が滲み出してくるように感じる。
ゆっくりと振り返った孝一は紛れもなくダークサイドであった。
ピリピリとした殺気と幽気が頬を刺す。
「もう一度言う『手を引け』。他人が嘴を突っ込むのは不快だ」
「お前とよしりん☆の問題ならあなたに殺された鬼塚さん一家こそ不快でしょう」
「アレは俺の機嫌を取る為に俺を奉り上げている連中がやったことだ。俺が自ら動く時は、ああいう詰めの甘い事はしない。佳子に見せなければ意味がない事だからな」
「あんた、本当に外道だな‥‥」
怒りで噛み締めた奥歯がミシミシと音を立てる。
「待ちなよ」
「止めるのかよ?」
「あたしだって今すぐにでも倒したいけど、あの血を忘れたのかい?」
イーグルが今にも飛びかかりそうなススムを止める。
「あんただってよしりん☆を死なせたくないはずだ。こちらには神光霊癒を使える者がいる。一時休戦して、よしりん☆の治療させてくれ。じゃなかったらヒーリングポーションをよしりん☆に渡してくれ」
イーグルの言葉にすぅっと眼を細める。
ゾロリ‥‥‥と孝一の中の闇が動く。
「他人の佳子に何故、そこ迄肩入する?」
「大事な友達だからだ」
「友達、ね。友達の為に命をかけるか‥‥」
「頼む。この通りだ!」
孝一の前で土下座をするイーグル。
「‥‥‥ヒーリングポーションを持ってこっちに来い」
孝一の前に進み出るイーグル。
ヒーリングポーションを差し出すイーグル‥‥‥その腕を掴み、鳩尾に正拳を叩き込む孝一。
息が詰まり、膝つき、蹲るイーグルの頭へそのままに孝一のキックが襲う。
「尾鷲さんっ!」
「それこそ余計なお世話だ。あれは俺のモノだ」
地面に倒れたイーグルに冷たい視線を注ぐ孝一。
「なら、力づくで聞き出すだけだ」
ススムが孝一に一撃を食らい乍らも孝一の関節を狙う。反対側の手は器用な尻尾が抑えている。
鈍い音を立てて靱帯が切れる音がする。
「へっ‥‥‥ざまぁ」
孝一はそのままススムに頭突きを食らわせる。
そのまま空へと跳躍し乍らシャツを袖を切り裂き、即席のバンテージを作る孝一。
降り注ぐ飛羽針撃に苦戦するゆくる。
レイジがシャイニンググローブを光らせ、刀を浴びせるが、ゆくるとレイジは空中戦で孝一に劣る。
相手の高速飛行で逆にピンチに陥る。
物陰に隠れたジョニーがうかなを背に守りながら状況を心配そうに見ている。
「気が進まないけど‥‥」
油断していたとは言え、実力の違いを思い知らされたイーグルが覚醒する内生を飲み下す。他に2錠、獣の咆哮と躍動する獣脚がある。全部を使わなければ勝てないかも知れない。
「‥‥‥!」
イーグルの投げた朱が孝一の翼を貫く。失速して、地面に叩き付けられる孝一。
「こんな所で‥‥この俺がっ!」
落ちたはずみに肋骨が折れ、肺に刺さったのか、大量の血を吐き出す。
戦いに慣れたDSとはいえNWなしでは数々の場を踏んで来た獣人らを同時に相手するのは、厳しい部分があった。
「多勢に無勢だ。諦めろ!」
「俺を止めたかったら、殺す事だな」
死闘は6時間に及んだ。
地面に倒れ伏す孝一にやはり満身創痍のゆくるが聞く。
「聞いて‥‥みたい事が‥あります。どうして‥‥22年前に‥‥一度終わったのに‥今頃になって‥‥よしりん☆さんを‥‥‥求めたんですか? 本当は‥‥何を望んでいたんですか?」
「‥‥子供には関係がないことだ‥‥」
ゆっくりと眼を閉じる孝一。
望んだのは小さな幸せだった。
36年前失った小さな幸せ──。
──22年前、名を捨て、DSとして暗躍を始めたばかり孝一にとって生きる毎日が戦いだった。
そんな中、偶然出会った女(佳子)は孝一にとっての安らぎだった。
互いに居場所を求めた傷付いた心が、初めから用意されたピースのようにぴったりと嵌る。
お求め合い、貪るように愛を交し、互いに離れられない。
──そんな感覚だった。
佳子と会い、肌を重ねる度に強くなる思い。
愛する妻と子に囲まれ、幸せに生きる──。
死と暴力と血に塗られた生活しか知らなかった孝一にとっては夢のようだった。
孝一自身もDSと生きるのではなく、真剣に普通の暮らしを考え始めていた時に偶然知った事実。知らなかったとは言え、幼い頃に死んだと思っていた実の妹と関係を持ち、子供が出来たと言う事実に孝一は愕然とする。
1人で姿を消す事も考えた。
だが、残った佳子やその子供が万が一事実を知った時の事を考えるとそれは出来なかった。
愛しいと思う思いと嫌悪感が孝一の心を締める。
堕胎を勧める孝一に佳子は「1人でも産む」と頑として首を縦に振わなかった。
事実を話せぬ孝一の心に亀裂が入った。
愛しさが、憎しみと怒りに変わる。
佳子への思いが、孝一を狂気へと駆り立てた。
(「お前の為なのに!!」)
孝一は佳子を監禁し、ありったけの愛情と暴力と狂気を注ぎ込んだ。
そんな中、佳子は孝一の暴力に耐え、鎖に繋がれ乍らも子を産み落とす。
それを取り上げ、従えていたNWトナティウに孝一は食べさせた。
トナティウが孝一と共にある限り、子供の墓標は孝一と共にある。
だがそんな思い等、若い獣人達には関係がない事である。
工場での戦闘でトナティウも失い、そして己も間もなく命を失うだろう。
全ては闇に帰る。
「悪くない感覚だ‥‥‥」
まだ動く手でズボンのポケットを探る孝一。
銃でも取り出すのではないかと警戒するが、取り出されたのは古びた真鍮の万華鏡だった。
佳子にそれを届けるつもりでホテルを出たが、忘れ物を取りに帰って来た所で一行と遭遇したのである。
「こいつを‥‥佳子に渡してくれ」
繁華街の一室にある闇医者を教える孝一。
「佳子は、そこにいる」
万華鏡に込められたメッセージを佳子は気がつくだろうか?
歪んだ笑みを浮かべたままDS影沼 孝一は死亡した。
──1夜明けて、TOMI−TV。
「もう、大丈夫なんですか?」
コガがよしりん☆を見かけ声を掛ける。
「ええ‥‥」
「よしりん☆さん、あの‥‥あなたの作品は彼へのメッセージだったんですか?」
よしりん☆は答えの代わりに歪んだ笑いを口に浮かべた。
完──。