魔王子、現るアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 11/05〜11/09

●本文

 古の昔より闇に湧き出る異形の姿‥‥狼男に吸血鬼、人の世界と薄い次元の壁を1枚隔て存在する魔物の世界。モンスターたちの王国エム・ランド。王宮に今日も悲鳴が上がる。

「ひぇーっ! 王様の大事にしていた壷が割れている!」と蛇女の女官が叫ぶ。
「うわー! 女王様の大事なお花が!」と狼男の庭師が悲鳴をあげる。
「これは一体何の騒ぎだ?」と王様。
「どうやら王子様のイタズラにございます」とドラゴンの大臣。
「なんと? 王子は何処に?」

 王宮の中庭、月の見える丘の上に聳える大きな樹。
「やれやれ、また王子はイタズラをしたのだな?」
 枝を震わせ、梢に隠れる王子に笑いかける木の精霊。
「割れたのは、偶然だよ」
「そうだよ、あたし見ていたもん。王子様、悪くないよ。ちょっと手が滑っただけだもん」と王子の周りをキラキラとした光をまき散らし小さな妖精が飛び回る。

「女王様の花は?」王子の頭の上から声がかかる。
「あれは、猫のマリーのヒゲをちょっと切ろうとしたら逃げ‥‥!」
「見つけましたぞ、王子。王様の壷は情状酌量の余地はありそうですが、女王様の花に関しては有罪ですな」
 吸血鬼の男が、逃げようとする王子の首根っこを押さえる。
「王子、王様と女王様がお待ちです」

 大広間に連れて来られる魔王子、中央の玉座に王様と女王様が座る。
「王子、お前が割った壷は隣国から友好の印と貰った大事な壷。わしが大事にしているのを知っていただろう?」
「あれが割れたのは偶然です。うっかり手を滑らせたんです」と王子。
「全く困った奴だな。だが、うっかりというのであれば次に気をつけるように。しょうがない、壷は魔法でなんとかするか」と溜息を着く王様。
 ずっと目を閉じて黙っていた女王が口と目を開く。それに併せて広間の床が一瞬で凍り付く。
『うわ! 滅茶苦茶怒っている‥‥』寒さもあって身を震わせる王子。
「私の大事にしていた花壇を‥‥花を折った理由は?」
「ええっと、それは‥‥」
「あの花壇は、魔法で使う大事な花が植わっていると教えたはず‥‥特にお前が折った花は100年に1度しか花を着けない大事な花だったんですよ!」
「まあまあ、女王。王子も反省しているようだし」と王様がなだめる。
「王様は何時も王子に甘い事ばかり、今日と言う今日は許しません! 1週間の外出禁止です!」

 ***

「ちぇっ! お母様ったらあんなに怒らなくても、1週間の謹慎って言ったら折角の満月が過ぎちゃうよ」
「そうだよね。折角、王子も10才になったんだし、門が開いた時に人間界に遊びに行けるのにね」

 アナウンス『満月の夜、2つの世界を隔てる扉が開く。エム・ランドの子供は10才の誕生日を迎えると、人間界から呼び掛けの呪文に答えて人間界に行く事ができることになっていた。もっとも魔力の強い大人は、王様の許可をもらえれば呼び掛けの呪文を必要とせず、自分の力だけで扉を越える事ができるのであった』

 ***

 夕暮れ時の下校風景。
「やい、薫! 約束していたのになんで来なかったんだよ」リーダー格少年が声をかける。
「え‥‥だって、昨日は塾があるって‥‥」
「そんなこと、お前言ってなかったじゃないか! 嘘つき!」薫を突き飛ばす少年。
「そんな‥‥」
「あんまり嘘をつくとお化けに食べられちゃうぞ」
 嘘つきとはやし立てる子供達。
「‥‥お化けなんていないよ」おどおどし乍ら答える薫。
「10月31日は、お化けの日だったぜ」
「それは『ハロウィン』っていって、ヨーロッパのお祭りで‥‥」
「ブブーッ! 残念! この前、姉ちゃんが魔法の本を買って来たぜ。それによると満月の夜に化け物を呼び出せるんだと」
「えー、面白いじゃないか。今度の満月、呼び出してみようぜ」と別な少年が言う。
「そういうのは、ふざけてやっちゃ駄目だって」
「なんだ、薫。お前もやっぱりお化けを信じているんじゃないか」とリーダー格。
 薫を無視してあっという間に満月の夜、学校の校庭に集まる事が決まる。
「わくわくするなぁ。今度こそ絶対来いよ、薫!」
「‥う、うん」

●アニメ『魔王子、現る』声優募集
 <あらすじ>
 満月の夜、小学校の校庭に集まる少年達。地面に魔法陣を書き、呪文を唱える。
 その呼び掛けにより魔界との扉が開かれた。やって来たのは小さい魔物の男の子「魔王子」。
 常識知らずでイタズラ好きの魔王子と少年達の1晩だけの交流を描くハートフルアニメ。

●主な登場人物
「魔王子」通称:王子、モンスター達の王国、エム・ランドの王子。ちょっと小柄なイタズラ好きの男の子。仲良しの妖精と一緒に門を抜け、人間界にやって来た。
「妖精」魔王子のファン。罰として部屋に閉じ込められていた魔王子を助け、一緒に人間界にやって来た。
「薫」魔王子を呼び出した小学生。
「少年たち」薫の同級生。
「魔物たち」エム・ランドの住民。王様の命を受け、魔王子を連れ戻しにやって来た魔物。吸血鬼や狼男等、人型に近い程人間の一般識をやや理解するが、通じない部分も多い。壁抜けをしたり、お金という観念がないので、買い物をしてもお金を払わない等。

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa2870 UN(36歳・♂・竜)
 fa3470 孔雀石(18歳・♀・猫)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa3802 タブラ・ラサ(9歳・♂・狐)
 fa4286 ウィルフレッド(8歳・♂・鴉)
 fa4658 ミッシェル(25歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●CAST
 魔王子‥‥‥ウィルフレッド(fa4286)
 チェルシー‥白井 木槿(fa1689)
 アーグ‥‥‥UN(fa2870)
 デュラン‥‥藤井 和泉(fa3786)
 リュシア‥‥パトリシア(fa3800)
 タツ‥‥‥‥ミッシェル(fa4658)

 笹原薫‥‥‥パイロ・シルヴァン(fa1772)
 白崎剛‥‥‥タブラ・ラサ(fa3802)
 綾瀬 蓮‥‥姫乃 舞(fa0634)
 孔雀 麻衣‥孔雀石(fa3470)


●魔王子と少年達
 剛が姉の本棚から持ち出した魔法書を見乍ら校庭の地面に魔法陣を描き上げる薫達。
 いざ呪文を唱える事となったが‥‥。

『へブルの神、わが主エホヴァの名にかけ、万軍(サバオト)の主の名に、メトラトンの名にかけ、
 魔神の言葉、大竜の神秘にかけ、われは呼ぶ。
 森の精と地の霊よ、悪魔コエリよ、アルモンシン、ギボル、ヨシュアよ、エヴァム、
 ザリアトナトミクよ。
 ‥‥‥来たれ、  来たれ、   来たれ!』

「舌噛みそうな呪文だな」と溜息をつく剛。
「失敗して、恐いお化けが出てきたらどうしよう?」と蓮。
「というか、誰が読むの?」
 結局、他の皆に代わって呪文を詠唱をする事になった薫。


 ――呪文を唱えだして2時間、さすがに飽きてくる。
「ねえ、帰ろうよ」と蓮。
「そうだな。さすがに寒くなってきたし」と体を震わせる剛。
 陽が沈み東の空低く、赤く無気味な満月が浮かんでいる。
 諦めムードが漂い始めた中、突然雷のような閃光と突風が起り、目を閉じる薫。
 恐る恐る目をあける薫達の前に立つ魔王子。どう見ても同じ位の男の子である。

「薫君、呪文間違ったんじゃない?」
「妖精みたいなのがいるし‥‥一応、成功だと思うけど」
「魔物って言ったら、もっとこう角とか牙とかが生えたりとかするもんだろ?」
 こそこそと相談する薫達。だが、意を決して質問を始める。
「ねえ、キミ、本当にお化け?」
「名前は、なんて言うんだ?」
「そこの女の子、妖精だよね」
 魔王子は何も言わないで立っている。

「言葉が判らないんじゃないの?」と薫。
「俺は剛。お前、名前は?」指を最初自分を示し、次に魔王子に指を向ける剛。
「僕、蓮。キミは?」剛の真似をする蓮。
「僕は薫。君の名前は?」
 呆れたように溜息を着く魔王子。
「そっちがその気ならこっちで名前を決めてやる! お前は『権兵衛』だ、『権兵衛』!」
「やっと『名』を着けたな。これで喋れるし、魔法が使える」とじろりと薫達を一瞥する魔王子。

「下らない事に時間を取られた。チェルシー、すぐに花を探しはじめよう」
「王子様、でもこのままだったらすぐに見つかっちゃうよ?」
「そうだな」
 そういうと魔王子は自分の顔に手を当てて、まるで粘土をこねるようにこねくりまわし‥‥。

「僕の顔そっくりだ!」と薫。
「どうだ? 凄いだろう」と得意げな魔王子。
「薫、服を交換しよう。俺はお前に変装する」
「ええ?」
「いーじゃん、薫。楽しそうだぜ」と剛。
「こんな遅い時間に校庭で騒いでいるのは、誰?」
 騒ぎを聞き付けた、宿直の孔雀先生がやってくる。

「あなた達、こんな遅い時間迄校庭で何をやっているの?」
「追っ手の目くらましだ」
「ええ?」
「あなた達、人の話を聞きなさい!」と叫ぶ孔雀。
「五月蝿い、アーグみたいに空気の読めない女」と孔雀の顔に手を伸ばし、こねこねと‥‥。
「『口なし女』の出来上がり♪」と満足げな魔王子。

「だ、駄目だよそんな事しちゃ」
「そうだよ。先生の顔を元に戻してやってよ」
「別の顔にするのはできるけど、元に戻すのは月が沈む迄できないぞ」と魔王子。
「ええ?」
「むー! むー!」涙目で抗議する孔雀。
「しょうがないなぁ」と『にっこり笑ったままの顔(固定)』を作る魔王子。
「これならいいだろう?」

「では、案内を頼む」と何処迄もマイペースの魔王子、さすが王子様である。


●魔物訪来
 誰もいなくなった校庭の魔法陣が再び光り始める。雷のような閃光と突風が起り、魔法陣に立つ人影。
「人間界に無事着いたようだな」とデュラン。
「王子様の臭いがします」と鼻を鳴らすリュシア。
「ここは寒い。早く暖かいエム・ランドに戻りたい」とタツ。
「女王様のお怒りの最中に王子は‥‥まったく。見つけ次第お戻りいただかなくてはならん」と大きな体をした漆黒のドラゴンが体を揺する。
 アーグの翼がデュランにぶつかり、ころりと首が落ちる。
「アーグ、気をつけて下さい。なんでも人間界では普通首は取れないらしいですしね。騒ぎを起こしては『エム・ランドの恥』ですからね」
「‥‥‥判った」
 騎士であるデュランに睨まれアーグが体を震わす。

 ***

「‥‥人間界の物って壊れやすいんですね」
 魔王子の臭いを追ってきたリュシア。前方不注意で三本目の電信柱を折った所だった。
「何故か、注目を集めているようですね」とタツ。
 注目されない方が変である。
「折角、アーグが目立つだろうと別行動とさせたのに‥‥我々も別々に行動しましょう。リュシア、タツ、王子を見つけたら早急に魔法陣に戻るように」
「「はい」」

 ***

 あちらこちらを珍しそうに覗く魔王子。屋台の前でぐーっとお腹が鳴る。
「薫、これはなんだ?」
「これは焼き鳥っていう食べ物だよ」
「主、この串を貰うぞ」
「200円」と親父。
「200エン?」
「権兵衛、お金を払わないと駄目だよ」
「『お金』ってなんだ?」
「変な事を言うガキだな。物を買う時はお金だろう? それともお前は泥棒か?」
「あんた、王子様になんて事を言うのよ!」帽子に隠れていたチェルシーが親父の鼻を蹴り飛ばす。
「うわぁ! お化け!」
「これ、代金です! ゴメンなさい!」と魔王子の手を引っ張って逃げて行く薫達。

 ***

 コンビニの前で親父が追って来ないのを確認し、一休憩。
「そういえば、権兵衛はさっき『追っ手』って言ったけど、何かしたの?」
「女王様の花壇を壊しちゃったの。だからお部屋で閉じ込められていたんだけど、私の愛の力で出してあげたの♪」と自慢げなチェルシー。
「なんだ、あんまり魔物も変わらないんだな。俺もしょっちゅうやらかして母ちゃんに怒られるし」と剛。
「そうなのか?」と魔王子。
「でもね。王子様は優しんだよ。女王様に差し上げる珍しいお花を探しているんだから」とチェルシー。
 折角仲良くなった魔王子に花を探してあげたいところだが「学校にある花じゃ珍しくないしな」溜息を着く薫。

「王子、見つけました」と後ろから魔王子に抱き着くリュシア。
「リュシアさん、僕が見つけたんですよ」とタツ。
「こらぁ! 王子にあんまりくっついちゃダメーっ!」狼耳を引っぱり、抗議するチェルシー。
「俺は王子ではないぞ。顔をよく見るがいいハンサムな王子ではなく、その辺にいる人間だろう」
「私の鼻は誤魔化せませんよ。一緒に帰りましょう♪」

 ぐ、ぐーぅ。立派な腹の虫が、鳴った。
「えへっ、ご飯、まだだったんです」リュシアの尾がパタパタと揺れる。
「月の扉が閉まる迄まだ時間がありますし、人間界を少しだけ楽しまれるのもいいかと」
 唐揚げ弁当とミネラルウォーターであっさり買収されるタツとリュシア。

「ちょっとだけですからね」


●月の扉
「全く戻って来ないと思ったら。さあ王子‥‥お出掛けの時間は終わりですよ」とデュラン。
「見つけましたぞ! 王子!」とアーグが空から舞い降りてくる。
「なんで帰らなきゃいけないの? 王子様だってもう10歳なんだから人間界に来って良いじゃない!」
「チェルシー、王子は女王様のお言い付けを破ったのだ」
 チェルシーに体当たりされ、ごろりと地面に転がるデュランの生首。
「うわっ、本当に出たっ!?」
「本当に本当の魔物だぁっ!」
 ドラゴンのアーグやデュランに吃驚する剛と蓮。

「デュラン様、もう少し、もう少しだけお時間を」
「もうちょっとだけですから、私からもお願いします」デュランに懇願するタツとリュシア。
「2人共ありがとう。でも、もういい。花は見つからなかったが、他の物が見つかった。学校に戻ろう」

 ***

 月は西に大きく傾きかけ、魔王子達がエム・ランドに帰る時間が迫ってきた。
「え、もう帰っちゃうの? せっかく友達になれたのに」
「またいつか遊びに来いよ。待ってるからな」
「ええい、人の子風情が王子に馴れ馴れしい口をきくな!」というアーグ。
「またな、薫。今度はもっと上手く呪文を唱えろよ」と笑う魔王子。

 魔王子達が魔法陣に入り、デュランが剣を空に掲げると魔法陣が光を放ち始める。
「‥‥俺は『ゾーンゼー』だ。薫、俺の真の名は、魔王子『ゾーンゼー』忘れるな!」

 雷のような閃光と突風が起り、目を閉じる薫達。再び目を開いた時、地面に描かれた魔法陣は綺麗になくなっていた。
「帰っちまったな」
「何だか夢でも見てたみたいだ‥‥でも楽しかった」
「魔王子達、いつかまた会えるかな」

 薫達の前に現れた人騒がせな魔物達はこうして去って行った。

 ***

 次の満月、塾から帰ってきた薫。
「薫ちゃん、お友達が待っているわよ」
「友達? 剛かな?」階段を上がって行く薫。

「薫、お母様‥‥っと、女王陛下におかれては花の一件に興味を持たれ、暫し人間界で探す事になったので、よろしく」
「ゾーンゼー!」
「余りその名で呼ぶな。王子でいい」

 ――小さな訪問者の騒動は暫く続きそうである。