紅葉狩りドラマSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/30〜12/04

●本文

 晴れ上がった冬の空にオリオン座が輝いている。
「ママ、ただいまー!」
「薫、ママ上は夕飯の買い物に行っているぞ」
 学校から帰ってきた薫を出迎えたのは、TVを見乍らこたつに入っている魔王子。

「‥‥また勝手に上がったの?」
「無礼な事を言うな、薫。ちゃんと今日はママ上がいる時に来たぞ」
 薫の友人である魔王子は、他の魔物たちと一緒に女王の命令で人間界に不思議な花を探しに来ていた。
 色々人間界の常識が通じないエム・ランドの魔物達は人間界の事を学ぶのに、魔王子を召還した事がある薫の家の隣に住み着いていた。
 と、言っても家を借りた訳でも買った訳でもなく、家と家とのほんのわずかな隙間に異空間を作って其処に住み着いたのである。
 が、どうやら出口の一部が、薫の家のどこかに繋がっているらしく事ある毎に薫の家にやってくる。

「どうなの? 花探しは?」
「上手く行かない‥‥それにこっち(人間界)は寒くって‥‥薫が召還してくれた時は温かかったから良かったけど」と凹みぎみ。
 魔王子の話によれば魔王子の住んでいた王宮付近は温暖で、かなり北に行かなければ雪も降らないらしい。
「お母様が怒った時みたいだ」これは豪雪のニュースで見ていた時の魔王子の感想である。

「今度、アルバイト代が入ったら半纏買ってくれるって言ったけど‥‥俺、持たないよ」
 薫に召還された時、人間界で物を買う時にはお金が必要だと知った魔王子。お付きの魔物(人間に近い姿の者)にアルバイトをさせているらしい。
 今、魔王子が着ている服は薫の着れなくなった服のお下がりである。

「チェルシーは?」
「ママ上にくっついて出かけている。玩具屋で見つけたブーツ(人形用)が気に入ったらしい‥‥今晩の夕飯は遅くなるようだな」
「ママは、女の子がずっと欲しいって言っていたからね」と苦笑する薫。
 薫の父親に関しては未だに魔物であると信じていないが、母親に関してはチェルシー達を見て、驚いていたがすぐに仲良くなってしまった。
 今では魔王子の身の回りの世話をする魔物に時々料理や洗濯機、掃除機を貸したり使い方を教えたりている。ついでに人間界の勉強になるからとTVを見るのも許可してしまった為、余計に魔物達は薫の家に出入りするようになってしまっていた。

「なあ、薫?」ニュースを見ていた魔王子が聞く。
「ん?」
「なんで山が赤いんだ? 火事なのか? でもそれにしては皆、楽しそうだな?」
 薫が振り向くとそこには、紅葉狩りを楽しむ行楽客が映っていた。
「ああ、紅葉。寒くなる一部の木が、葉っぱを緑から赤や黄色に変色するんだ。綺麗だから皆で見に行くんだよ」
「‥‥不思議な物だな。なあ、薫? 山だったらお母様の探す花も見つかるかな?」
「うーん? どうだろう?」
 近所の花屋で売っている物は、エム・ランドと人間界を繋ぐ門が開く満月毎に片っ端から買ってエム・ランドに送っているが「当り」が今の所ない。
「花は無理でも、遠くに行けば珍しい植物とか見れるかも知れないね」
「じゃあ、決まり♪ 今度の休み、道案内頼む♪」
「ええ?」
「1人が嫌なら学校の友達も誘えばいいだろう? ピクニックという奴だな。ママ上に言って卵焼きを作って貰おう♪」


●アニメ『魔王子、紅葉狩りに行く』声優募集
 あらすじ:魔王子と一緒に山に紅葉狩りにやってきた薫と友人達。
 ケーブルカーで山を上がり、そこから30分離れた渓谷が目的地であった。
 ところがどこを間違ったか1本道のハイキングコースを外れたらしく迷ってしまった。
 陽が暮れていく中、頼りの魔王子は寒さの為に魔法が上手く使えない。
 困っている一同の前に現れた女の子。
 彼女は一体?

 紅葉狩りの途中で迷子になった魔王子、薫達と謎の少女との交流を描くハートルフルアニメ。


●主な登場人物
「魔王子:ゾーンゼー」通称:王子、モンスター達の王国、エム・ランドの王子。ちょっと小柄なイタズラ好きの男の子。仲良しの妖精と一緒に門を抜け、人間界にやって来た。寒がりで卵焼きが好き。本名で呼ばれる事が嫌い。
「妖精:チェルシー」魔王子のファン。魔王子と一緒に人間界にやって来た。着せ変え人形サイズ。
「笹原薫」魔王子を呼び出した小学生。
「魔物」エム・ランドの住民。魔王子の世話係。吸血鬼や狼男等、人型に近い程人間の一般識をやや理解するが、通じない部分も多い。人間に近い物はアルバイトをしたりして、生活費を稼いでいる。
「謎の少女」赤い和服が似合う女の子。

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa0932 RASEN(16歳・♀・猫)
 fa1013 都路帆乃香(24歳・♀・亀)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa4286 ウィルフレッド(8歳・♂・鴉)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4658 ミッシェル(25歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●CAST
 魔王子‥‥‥ウィルフレッド(fa4286)
 チェルシー‥白井 木槿(fa1689)
 タツ‥‥‥‥ミッシェル(fa4658)

 笹原薫‥‥‥パイロ・シルヴァン(fa1772)
 青山 俊輔‥‥姫乃 舞(fa0634)
 銀野ひかり‥‥RASEN(fa0932)
 ママ‥‥‥‥都路帆乃香(fa1013)

 謎の少女‥‥雅楽川 陽向(fa4371)


●紅葉狩りはデンジャー?
 天気は上々、晴天に見回れた魔王子一行。
「きゃ〜♪ 本当に赤い〜♪ 不思議ぃ〜♪」
 落ちている紅葉を拾い、くるくると魔王子の周りを飛んで回るチェルシー。
「ねえねえ王子、タツも冷やしたら赤や黄色になるかな?」
「慎んでお断りします」
 ケーブルカーの発着場に絡まっている蔦に挨拶をしていた蔦の魔物 タツが恐ろしそうに言った。

「なんでタツが着いてくるんだ? アルバイトはどうした?」
 半纏が買えなくなったらどうすると魔王子。
「お休みを貰いました。やはり私としても紅葉には興味ありますから」
「まあ、いいじゃない。『タツオ』君が荷物持ちをしてくれているから、ママはラクチンでいいんだけど?」
 タツオというのは、タツのバイト中の名前である。
 タツは何故か掃除機が大のお気に入りで、住処の掃除どころか笹原家の掃除も手伝っている。
 なので、現在ママのお気に入りNo.2の座に輝いている。
 ちなみにNo.1は言わずと知れたチェルシーである。
 魔王子はあのウネウネした本性をママにばらしてみたいという衝動に駆られるが、優しそうに見えるママも怒ると恐いらしいと薫から教えられ我慢をしている。

「薫も権兵衛もちゃんと弁当持って来たか?」とシュン。
「私もサンドイッチ作ってきたわよ」とひかり。指に絆創膏が何ケ所もついているは御愛嬌。
 紅葉狩りの楽しみと言えば紅葉もそうであるが、お弁当もそうである。
「勿論、卵焼き入りだ!」ビシッとサムズアップを決める魔王子。
「後で俺のハンバーグと取り替えっこしようぜ! 薫のかーちゃんの卵焼き、旨いもんな」
 シュンに「やらん!」と速攻で答える魔王子。
「ママ上の卵焼きは、俺の物だ」
 どうやら魔王子の我が侭は健在らしい。

「ねぇ、王子は学校には通わないの?」
「はい、そこ! 王子に勝手に話し掛けない!」とチェルシーがひかりに突っ込む。
「チェルシー、今日のブーツ良く似合っているわね」
 ママに買って貰ったばかりの赤いブーツをチェルシーは履いてきていた。
「え、そう? ふふん♪ でも、あげないよ? お気に入りなんだから♪」
 誰も履けません。突っ込むと長引きそうなので、軽くスルーするひかり。
「しかし皆、重装備だな?」
「シュンが軽装過ぎるんだよ。山は気温の変化が激しいから夕方になると冷え込むよ」
「でも、それにしても‥‥」と王子やタツの格好を見るシュン。
 厚手のコートにマフラー。タツに至っては毛糸の帽子迄被っている。
「エム・ランドは、殆どの場所が人間界で言う春の陽気なんですよ」とタツが答えた。

 頂上の発着場でお弁当を済ませ、目的地の渓谷に向かう一向。
「ねぇ? もうそろそろいい加減、渓谷に着くはずじゃないの?」
「‥‥道に迷ったかな?」
「大丈夫なのだ、あっちに紅いのが見えるから、そっちに向かって真っ直ぐ進めばいいのだ」と魔王子。
「その自信は何処から来るんだよ?」と突っ込む薫。
「山の中なら母上の花も見つかるかもしれないから好都合なのだ」
「その冗談、笑えないわよ」とひかり。
「迷子、迷子!? どどど、どうしましょう」とタツ。
 本人は青くなっているつもりらしいが、今一つ判らない。
 それに戻ろうにもルートがはっきりしない。
「とりあえず山頂を目指そう。別の尾根に来ていても発着場は見えると思うし」

 山頂を目指す一向。
「なんだか街よりずっと寒い‥‥」と魔王子のポケットに潜り込むチェルシー。
「ふむ、薫。お前のマフラーも貸せ」
「ええ? もう1本しているじゃないか。僕だって寒いよ」
「ではタツ、お前のを貸せ」
「私も嫌ですよ〜」
 慣れない山道に思うように進めず、あっと言う間に陽が傾いていく。
「権兵衛って魔法が使えるんだろ? パーッと元の場所に移動させるとかできないの?」
 シュンの言葉で魔法を思い出した一同。
 期待に満ちた眼で魔王子を見るが、魔法が使えればとっくに移動していると言われ、意気消沈する。


●千鳥
 舞っていた少女は、ここ数年聞いた事がない人間の声にふと動きを止める。
 恐る恐る木立から顔を覗かせると人間と魔物が一緒にいる? 何故?

「あなた達、どこから来たの?」
 魔王子達が振り返ると薄闇の中に赤く染め上げた着物の少女がいた。
「ん? お前も道に迷ったのか?」とシュン。
「道に‥‥そう、大変ね。私は違うわ。ここの山に住んでいるの」
 余り大変と思っていないような返答をする。
「そこな人外の女、何をしている?」と魔王子。
「人外って、まさかキツネ、タヌキ?」
 薫の言葉に苦笑し、少女がくるりと扇を片手に舞う。
「舞っていたの。私の仕事だから」
 少女の脇に生えるまだ色付いていなかった紅葉が紅へと変わる。

「ほう、雅なものだな。わが臣下に取り立ててつかわす。俺はエム・ランドの王子だ。女、名を名乗れ」
「‥‥千鳥、舞を誉めてくれてありがとう。でも私は誰とも行けないの」
 千鳥と名乗った少女は困ったように魔王子に言う。
「私がどこかに行ってしまったら、ここの子達は紅葉する事が出来ないから。葉っぱを落とさないと冬の寒さで葉っぱが氷ってしまうのよ」
「王子、植物達が言っています。寒くなるとこの辺は雪が降るそうです。枝や葉を保つのに沢山エネルギーを使います。根っこや枝が氷ってしまうと栄養を体中に回す事が出来ずに餓えて死んだりするそうです」
 タツが植物達の声を代弁する。
「だから私は踊って、皆が葉っぱを落とす準備を手伝うのよ」
 くるりと千鳥が舞う。
 くるりくるりと舞う度に赤や黄色に彩付く木々。
「そうか、大変な仕事をしているのだな。俺は母上に差し上げる花を探している」
「お花探しているの? 私、知ってるよ」

 千鳥に案内された一面の花畑、秋桜や女郎花、竜胆等色々な秋の花が咲いている。
「うわぁ、この時期に花が咲いてるって吃驚だな」
「この山にこんな場所があるなんて知らなかった」
 驚いている一同に千鳥は笑って言った。
 ここだけは少し窪地で温かいから、まだ私が舞うのは先なのだと。
「他の人は、どうして来たの?」
「僕達は権兵衛に付き合ってピクニック。紅葉が綺麗だから楽しいだろって」
「ぴくにっく? それ、お花なの?」
 エム・ランドの魔物達以上に人間を知らない千鳥の質問に笑いが絶えない。
「千鳥はひとりなの? 寂しくない?」
「寂しくないよ。皆、いるし」と山の植物を見回す。
「私が寂しかったら桜の精もだよ。桜の葉っぱも紅葉するから話をしたことがあるの。桜達が教えてくれたから桜の精がいるって知ったけど、あの子も1人で桜を咲かせる為に舞うんだよ。でも雪の精はもっと寂しいよ。皆、寝ちゃうんだもの。誰ともお話が出来ないよ」

 夕暮れが近付き山は増々朱に染まる。
 魔王子達が花を摘んでいる間に姿を消していた千鳥が戻って来た。
 足下に狐が1匹。
「この子が道を知っているって」
 狐の道案内で山頂の発着場を目指す一同。思いの他すぐに山頂に辿り着く。
 どうやら後もうちょっとだったらしい。ぎりぎり最終に間に合った一同。
 山を下るケーブルカーの中から千鳥に声をかける。
「千鳥、帰り道教えてくれて有り難うな」シュンが手を振る。
「楽しかったわよ。またね☆」チェルシーがポケットから手を振る。
「私も楽しかった!」
 千鳥が笑顔で答える。
「じゃあ、来年もまた皆でここに来るよ!」
「遊びにくるからね」とひかり。
 名残惜しげに手を振る一同。
「絶対、約束だよ!」
 千鳥が手を振る度に発着場の木々が色付く。
 忘れないでというように紅く染まる紅葉がケーブルカーを追う。

「薫と一緒にいると変な奴に会うよなぁ。退屈しなくていいけどさっ」
「酷いよ、シュン」
「あははっ‥‥って変な奴って俺か?」と魔王子。
 爆笑する一同。お前迄何を笑っているとコズかれるタツ。
「千鳥のお花、女王様も気に入ってくれるといいね♪」チェルシーが言った。
「うん‥‥」魔王子は少し寂しそうに笑った。

 ――次の満月の夜。

「薫、今帰ったぞ」
 勉強机に向かっていた薫の元に現れた魔王子。
「花、どうだった? アタリ?」
「イヤ、ハズレだった。アタリだったら、人間界に戻って来れないからな」
 魔王子の言葉にびっくりする薫。言われてみればその通りである。
 女王の望む花を手に入れれば、魔王子達が人間界にいる理由はない。

「これで薫とも一緒にいられるし、また千鳥とも会える」
 王子の指先でくるくると小さな千鳥の葉が舞っていた。