「7」モニター募集アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 やや難
報酬 3.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/01〜12/05

●本文

 古い運河沿いの鉄工場跡地を改装して作られた作られたライブハウス「7(セブン)」。
 厳ついコンクリートの外壁と大きな赤錆が浮いた鉄の扉が印象的で、来る人を拒むように聳え立つ。唯一ライブハウスである証拠と言える物は、ネオン看板ぐらいである。

「‥‥‥静かだ。親父さんが来ないとこんなに静かなのか」と、スタッフルームでしみじみしているのは店長の浩介。何時も何かしらにつけ「7」に出没するオーナーは、町内会の温泉旅行に行っている。帰ってくるのは1週間後である。ぼんやりとカレンダーを見乍ら、ふと、浩介ある事に気が付く。
「そういえば、折角残したカップルルームの利用者が少ないな」

 電話一本で予約ができるカップルルームだが、今一つ人気がない。
 深さ10cmの絨毯、マホガニーの机、重厚なワインレッドカラーの革製高級ソファーセット、カウンターバー、ピンボールにダーツ、西洋鎧、壁にはプレミア・ギターと動物のトロフィー(はく製)が飾られている。
「まあ、そうだよな。あそこだけ良く言えば『お城』だが、悪く言えば怪しげなホテルだもんな」

 最近、追加された裸婦画を思い出すとつい溜息が出る。各々は決して粗悪品等ではなく、一流品なのは営業マン時代回った高級クラブ等で培った目で判る。全部揃うとどうも俗っぽくなるのは、親父さんの収集に統一性がないからかも知れない。
「親父さんがいないうちにNWが出ましたとか言って、片付けてしまうのも一つの手だが‥‥‥怒るだろうな」と溜息を付く。
「‥‥紅白戦にしてみるのも楽しいだろうな」

 ガサリ‥‥‥。
 机に突っ伏し「ああでもない」「こうでもない」と悩む浩介の耳が、ぴくりと動いた。誰もいないのを確認し、音の方向を確かめるべく犬耳を生やす。ガサガサガサ‥‥。
「そこだ!」
 殺虫剤を黒光りする物体に噴射する。ブシューーーーッ!
 先日自宅で出たのを新聞紙で叩き潰した所、中身が出ているのを娘から「キモい」と言われ、殺虫剤を40歳にして初めて使い始めた。
 動かなくなったゴキブリを見ながら「やっぱり、殺虫剤は好かないな」と、くしゃみをする。
 準工業地帯に隣接する「7」である。営業を開始してから、周辺のゴキブリがエサ(残飯)を求めてひっきりなしにやってくる。食料になりそうなポテトチップの袋等はきちんと大きなプラスチックケースに入れて、通り道に駆除剤と粘着シートを仕掛けているが、浩介の目から見ると余り効果がないように思える。
「‥‥ついでにゴキブリ退治もして貰うかな? 勝者は最終日祝賀会。敗者は罰ゲームで店のゴキブリ退治の手伝いをしてもらう」等とのんびり構えていたが‥‥‥。

 ***

「キャー!」
 閉店後、カップルルームの清掃をしていたスタッフが悲鳴をあげる。慌てて階下にいた浩介始め、残っていたスタッフ達がカップルルームに駆け付けると、そこには彼女しかいなかった。
「すみません。グラスを割って、親父さんの大事な絨毯にワインを零しました」と青ざめ乍ら言った。
 ふと見ればスカートから覗く足に血が滲んでいる。スタッフルームで手当てをと、浩介が促す。
 浩介と二人っきりになったのを確認すると彼女は震え乍ら言った。
「店長‥‥おっきなゴキブリみたいな‥‥50cmはありました。あれ‥多分、NWです。足を齧られました」
 そう言って見せる傷口は抉られたようになっていた。彼女は親父さんが店長を兼ねていた時からのスタッフで、獣人だった。

 ***

「と言うのが昨夜だ」と浩介は各プロダクションに声を掛けて集まったメンバーに言葉を続ける。
「君たちにして貰うのは、ライブ出演者やスタッフを装い『客を守る』事とモニターを装い『カップルルームのNWを駆除する』事の2つだ。あ、カップルルームの中の物は余り派手に壊すなよ」
「えー?」と避難の声が上がる。
「明後日はモニターの予定が入っているし、スタッフに人間の子も混じっているからな。NWがいるから営業できませんという説明は、出来ないんだよ。カップルルームの隣のVIPルームは、元々今回閉鎖しているから2Fに客は出入りしない」
 つまり上手くやれば2Fに人間が立ち入らないのが唯一の救いである。

「あ、そうだ。モニター役は後で感想を聞くからちゃんと考えておけよ。歌も手を抜くなよ。1階の立ち見席は、ちゃんと通常営業するから」
 別の意味で親父さん以上我が儘な浩介店長はこう言った。


●カップルルーム、贋モニター募集
 ライブハウス「7」内カップルルームのモニターを募集します。
 2名様迄
 モニター応募者はライブ演奏への投票権を有します。


●出演者募集、紅白戦
 テーマ 愛 または 恋
 ピアノ&ドラムは、貸し出し可能
 ライブでの演奏は、タイトル・歌詞・曲は、オリジナル限定


●スタッフ募集
 カップルルーム専任の給仕スタッフ1名
 その他

●今回の参加者

 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa2492 アマラ・クラフト(16歳・♀・蝙蝠)
 fa2521 明星静香(21歳・♀・蝙蝠)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4040 蕪木薫(29歳・♀・熊)
 fa4657 天道ミラー(24歳・♂・犬)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)

●リプレイ本文

●ゴキブリNWは空を飛ぶ夢を見るのか
 集まったメンバーたちは各自の担当を確認していく。

 赤組(ユニット名:rougeoiement):天道ミラー(fa4657)、慧(fa4790)
 白組(ユニット名:リアン) :亜真音ひろみ(fa1339)、アマラ・クラフト(fa2492)、明星静香(fa2521)、DESPAIRER(fa2657)
 客(NW担当):蕪木薫(fa4040)
 スタッフ(NW担当):早切 氷(fa3126)

「ハロウィンは仕事で来れんかって旦那だけ来たんよね。今回は私が1人でお邪魔したんよ」と薫。
「旦那?」薫の自己紹介を聞き、首を傾げる浩介。
「レインボーアフロにピーナッツ貰ったって」
 浩介、思い出しました。と手を打つ。
「曲の判定やけど‥‥両方の感想言うんやのーて、どっちか決めなあかんの? うち以外のお客さんは判定せんのかな?」
「判定はしますよ。1F客席全体で1点、蕪木さん1点、俺が1点。2点以上で勝ちです」

「ライブ後の宴会、楽しみにしてるよ。気前のいい店長はそんなケチケチして勝者だけとは言わないよな」
「どうかな?」ひろみの突っ込みに嘯く浩介。

「ゴキブリそのものは好きでこそありませんが特に苦手ではありません。慣れています」
 ディーの「『馴れています』ってなんですか?」とゴキブリが苦手な静香、顔を引きつらせる。
「ん〜、とりあえずオレはNW退治に専念するかね。でもせっかくの機会だし、ライブを聞くのもいいもんだとは思うんだけどね〜」最近、ちょっと音楽に興味が出て来たんだよね。と氷。
「私はNW戦って初めてで‥‥」とアマラは不安そうである。
「うちも先に片付けた方が良いと思うよ。観客がいない分、楽やろうし」
「『練習をスタッフも見て良い』とかにすれば、上には行かないんじゃないですか?」
「僕は見張りしようかな?」と慧。
 かくしてNW駆除は、開店前に実施される事になった。

『特別に見学を許可する』浩介がOKを出した為に普段は練習風景すら見る事が出来ないスタッフ達がこぞって1Fフロア集まる。それを確認し、氷は結界を張った。
 作戦は、氷とミラーがカップルルームに入り、そのまま氷は紛潜陰行を実行し気配を消す。ミラーが鋭敏聴覚で方向を探り、NWが出て来た所を蕪木の金剛力増で捕まえ、攻撃をするらしい。氷は半獣、ミラーと蕪木は完獣化しNWを待つ。

「うわわっ、飛んだ!」
 囮のミラーにノコノコと出て来たゴキブリNW。
 簡単に退治できるかと思ったが、逃げ足がかなり早くミラーと蕪木の間を嘲笑うかのように逃げ回る。
 パラディオンの結界以内でこれである。元はどれだけ早いのやら考えただけでも恐ろしい。
「ぎゃー! 足に昇られた!」
 自ら触るのは良いらしいが、触られるのは駄目らしい蕪木が悲鳴をあげる。
 ぶんぶんと足を振り回し、NWを壁に叩き付ける。
 鈍い音を立てて半身を潰されたNWだが、まだ体液をまき散らし乍ら逃げようとする。
「コア、コアはどこ?」
 ぎぎ、ぎぃ! NWが顎を上げて攻撃しようとした際、顎下にコアの煌きを見つける。
「オレに任せろ!」
 氷がライトバスターを突き立てる。
 コアが破壊され溶解していくNWを見乍ら、「結構頑張ったよな、オレ達」と氷が呟く。
 壊れ易い物は浩介が昨日の内に絨毯の清掃業者を呼ぶと言って、あらかた荷物を出してあった。
 なので壊れた物と言えば、ライトバスターで切れた噂の600万円の絨毯、壁とカウンターバー、額縁と言った所である。
「修理代って請求されないよね」


●白組(ユニット名:リアン)『彷徨い人』
 Vo:ひろみ、ディー
 G:アマラ、B:静香

「 数多の夜を越えて行く
  人は誰もが孤独な旅人
  自分を癒す誰かを探し
  いずれは誰かに巡り合う 」

「 あなたに出会ったのは
  ただの偶然 大きな奇跡
  あなたは悲しい人
  私と同じ傷を持っているから 」

「 凍りつくような風の中
  誰かを求め彷徨っていた 」
「 でも今は私がいる
  二人 温もりを分かちあえる 」
「 あなたは凍えないかい?
  僕のせいで傷つかないかい? 」
「 あなたがいれば大丈夫
  あなたがいるから強くなれるよ 」
「「あなたと二人 歩けるのなら
  もう迷わない これから先は
  一緒に歩こうあの楽園へ
  ずっと ずっと‥‥‥  」」

 曲スタート時、背を向け唄っていたヴォーカル二人だったが、お互いに手を伸ばし何かを求めるように空を掻き、そして向き合う。愛しくお互いを見つめ合いながら、お互いに愛しい相手を想い、想いを籠めて歌い上げていく。


●カップルルーム
「さて、お楽しみのライブやね〜」
 WEAから紹介された清掃業者はNWの残骸を綺麗に片付けてくれた。
 親父さん当たりが良く見れば壁やら棚等に傷が付いているのに気が付いたかも知れないが、切れたクロスや絨毯は応急処置に接着剤で止めたり、抉れたカウンターの傷はパテが塗り込まれ、塗装をし、白赤双方の音楽を楽しんだラッキーなスタッフは、浩介に尻を叩かれオープン時間迫る中、大急ぎで昨日搬出した家具を元に戻したのであった。おかげでなんとかそれらしい形は保っている。

 ヨーグルトリキュールとドライジンをベースにしたホワイトムードを片手にゆったりとソファーに腰掛けている薫。眼下では白組の歌が始まっている。室内にあるスピーカーとモニターを消し、あえてステージ側の窓を開けて、ライブの雰囲気を楽しむ。力強いひろみと伸びのあるディーの声が観客席の歓声に消される事なく届いてくる。天井が高い「7」は内装工事で少しは解消されたが、素人では2F迄マイクがなければ声が届かない人の声に優しくない構造なのである。
「あんなふうに歌えたら気持ちいいだろうねぇ」
 薫の隣には、カップルルーム専任用お仕着せを着てフィンガーチョコを摘んでいる氷が座っている。
「私はこんなナリやし普通の男の子を誘惑できる程でもないけど‥‥」と薫の顔が氷に近付く。

「どや? うちの旦那とイチャイチャしてみいへんか?」
「はぁ?」
 人妻からのお誘いも初めてだが、それも自分の夫はどうですか? と言われたのは氷、初めてである。
「うちの旦那そういうの気にせえへんから問題ないよ。全然」
「カブキサン、オレの方が気にします」

 カップルルームで意外な攻防が繰り広げられているとは知らず、白組のメンバーが演奏を終え、盛り上がりを見せて袖口に戻ってくる。それなりに名前の売れている白組メンバーに対して、知名度のやや低い赤組。
「聴いてくれてる人達の心が、あったかくなると良いな‥‥」ミラー、緊張し乍らも袖口を出て行った。


●赤組(ユニット名:rougeoiement)『Briliant World』
 Vo:慧
 P:ミラー

「“愛を知って世界が煌めいた”なんて おとぎ話と思ってた
 一人の存在が 世界を変えるだなんて
 でも本当だった 君がその人だった

 フツウでタイクツ モノクロ世界な僕の毎日が
 君と出逢った途端 まるで冬から目覚めたみたいに輝き始めた

 他の誰でもない 君が 君だけが
 僕の瞳映る世界 全てを 煌めかせてる
 生きている事の喜びを 心の温かさを
 何も知らずにいた僕に教えてくれたんだ

 ひとりでは辿り着けなかった 輝きと温もりに満ちた世界
 僕は今 君と いる」

 中世的な声でしっとりとバラードを歌い上げるケイにミラーの情感を込めた深みのあるピアノ。
 歌い終わった二人は舞台前方に進み、観客席に各々の薔薇を投げ込む。
 薔薇を受け取った運が良い観客が声をあげる。難い演出である。


●判定
 カップルルームの薫、先程とは別人のように悩んでいる。
「白組は‥‥せやな、前半はゆっくり、後半はアップテンポのロック、曲調は個人的に好みやねん。せやけど赤もええよな、情熱的かつしっとりで‥‥演出もライブとして重要やねんな。どっちか選べ、言われたら‥‥」
 散々悩んだ挙げ句に「赤組」に投票する。
「‥‥男の子ばっかりやからとちゃうよ」と浩介を睨む。
「判っていますよ」と浩介、にっこり笑う。

 ――そして浩介から勝利チームが発表された。
「3対0で勝者、赤組」
 思わぬジャッジに喜ぶミラーと慧。

「歌唱力、演奏のテクニックだけで評価した場合は、問題なく白の圧勝だったと思う。だが今回はカップルルームの推進、全体の演出も評価対象としたので俺は赤組に投票した。1Fも今日は女性客が多かったのとクリスマスが近いせいか、僅差だったが赤の勝利となった。後、ひろみのファンの子かなぁ? 男装して欲しかった。という意見があった」と浩介。
 カップルルームの事を考えなかったら、俺は白に投票したかな? ミラーと慧は、浮かれていないで今後も精進するように。と浩介、しっかり釘も刺す。

「さて勝利チームだけで祝賀会の予定だったが、野郎だけでは潤いがないので全員で慰労会だな」
「どうせいつもの『ちゃんこ屋』だろう?」とひろみ。
 ち、ちっと人さし指を立てて振る浩介。
「おでん屋だ」
 カップルルーム推進とゴキブリNW駆除で集められたメンバーは揃っておでん屋で打ち上げ会となった。

「関西風の味付けなんね。旦那に持って帰りたいわ」
 こうして皆でおでんを堪能している間、誰もいない「7」の中では二度とゴキブリが出ないようにと殺虫剤が焚かれていたのだった。