「7」里親募集アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/06〜12/10

●本文

 古い運河沿いの鉄工場跡地を改装して作られた作られたライブハウス「7(セブン)」。
 厳ついコンクリートの外壁と大きな赤錆が浮いた鉄の扉が印象的で、来る人を拒むように聳え立つ。唯一ライブハウスである証拠と言える物は、ネオン看板ぐらいである。

 先日のゴキブリNWに引き続き浩介は、難題を抱えていた。
 猫である。
 夏の終わり、店の裏にある用水路と壁の隙間に段ボールの空き箱が積まれたり、エアコンの室外機を設置してあるが、その隙間に猫が住み着いてしまったのである。
 最初に気が着いたのはバイトの女の子であった。
 体中のあちらこちらにかさぶたが着き、目やにだらけのキジトラを見つけ、餌をあげたのがきっかけだった。
 猫好きの彼女は、バイトが休みの日でもせっせと通い、猫の世話をして彼女が呼べば「にゃあ」と答えて甘える迄になっていた。
「まだ触らせてくれないんですが、食事時だけぎりぎりまで近付いてくるようになったんです。寒くなる迄に頑張って捕まえて手術して、里親さんを見つけてあげるつもりです」
 実家にいた時から猫ボランティアをしていたという彼女曰く、まだ生後半年前後、まだ飼い猫になれる。ということなので浩介も強く彼女が猫の世話をする事を止めなかった。

 ‥‥だが「店長、やられました。子猫が産まれていました」
 彼女の腕の中でキジ虎2匹、白黒ハチ、真っ黒の子猫がマフラーにくるまれていた。
「ぼちぼち体重も増えたし避妊だなって思っていたんです。でも妊娠して太っていたみたいで‥‥」
 1日だけ彼女がいくら呼んでも出て来ない日があり、その日に産んだらしい。
 NW騒動の際は、親子共々奥に隠れて無事だった。
 子猫達はモゾモゾと彼女の腕の中で温かさを求めて動いている。
 そのまま保健所に渡してしまえ。と言えればいいのだが、本来動物好きの浩介である。眉をへの字にしているアルバイトに溜息まじりにこう言った。
「判った。とりあえず子猫が風邪を引くから店の中に入りなさい」

 ***

 アルバイトのアパートも浩介のマンションも動物飼育不可である。必然的にメインの世話は「7」の中で行われる。生後1ヵ月半前後と見られるの子猫達は離乳は済んでいるので比較的世話が楽だが、好奇心の塊でちょっと目を話した隙にあっちこっちに遊びに行ってしまう。
「クロ(仮)! ケーブルを齧るな! 感電したらどうする?」
「うわわっ! シマ(仮)が排水溝にハマってる」
 一騒動である。近所の動物病院やネットの里親掲示板、近所のスーパーやタウン誌にも広告を載せたが、どうしても白黒おハチのお婿入り先だけが決まらない。

「で、君たちの出番だ」
 集められた出演者を前に浩介は言った。
「猫をテーマに曲披露をして貰う。勿論、この『ハチ(仮)』の里親が決まるようにだ」

●ハチ(仮)
 腹 白、背中 黒、真ん中割れの前髪のように耳、頭頂部 黒、顔中央 白
 四肢 白タビ、瞳 金緑
 性格 遊び好き
 オス 雑種

●出演者募集
 テーマ 猫
 ピアノ&ドラムは、貸し出し可能
 ライブでの演奏は、タイトル・歌詞・曲は、オリジナル限定


 浩介の足下で「よろしく」と言いたげに「にゃあ」とキジトラが鳴いた。

●今回の参加者

 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2899 文月 舵(26歳・♀・狸)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3867 アリエラ(22歳・♀・犬)
 fa4657 天道ミラー(24歳・♂・犬)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)

●リプレイ本文

●「ハチ(仮)」は「八」
「初めまして、『アドリバティレイア』明石丹です。宜しくお願いします」と明石 丹(fa2837)。
「猫ちゃんに里親さんが見つかるように、頑張るですよ〜!」とアリエラ(fa3867)。
「マコちゃん、アリーちゃん共々、どうぞ宜しゅうおたの申します」と文月 舵(fa2899)が頭を下げた。 
 アリーちゃんもちゃんと挨拶せんと。と舵に突かれている。
「噂はかねがね聞いているよ。こちらこそ、よろしく」と苦笑する浩介。

「子猫の里親探しとは、優しい御仁が多いようじゃの」と冬織(fa2993)。
「冬織さん、ミラー兄と一緒に『monochrome KITTY』で参加するね」と慧(fa4790)。
 親父さんは来るの? との質問に、ライブの前夜には帰ってくるぞ。と浩介、「親父さんは俺以上に辛口だからな」とにやりと笑う。

「折角だから店長にギターを頼もうかと思って、たしか開店セレモニーの時『弾ける』って言っていたよね」と亜真音ひろみ(fa1339)。
「確かに大体の楽器は弾けるぞ、客の前でデモンストレーションするからな」ドラムとかピアノとか、他の楽器の事とか考えなかったのか? と浩介。
「でも弾けるんだろ? 弾かなきゃ腕も鈍るし、いいだろ?」
 結局、ひろみに押し切られ浩介が手伝う事になった。

 ***

「ん〜とね、提案なんだけれど‥‥ビラを作ろうかとおもうんだけれど、どうかしら?」と富士川・千春(fa0847)。見に来てくれたお客さんにもアピールできるでしょう? とのことである。
「いいんじゃないか? 皆が皆飼う気満々で来てるわけじゃないだろうしね」と丹。
「絵は『謎生物』しか書けぬで文字担当じゃな」前衛画伯らしい冬織。
「ビラには『チョコやネギ類を食べさせては駄目』とか注意書きを書くといいよね」初めて猫飼う人も安心出来るしね。と天道ミラー(fa4657)、詳しいので猫を飼っているのかもしれない。
 ワープロじゃ味気ないからと手書きでビラを作ることになり、絵はアリエラとひろみが担当する事になった。

 絵のモデルとして子猫が出演者控え室に連れて来られる。
 前髪をばっちり額の真ん中で「八の字」に分けているのような子猫。
「ほぅら、またたびだぞ」とひろみ。
「こっちは猫じゃらしだぞ」とミラー。
 ビラ作りに取りかかる迄、暫く時間が掛かるようである。
 赤ん坊なんだから、適当にしとけよ。と浩介に釘を刺されてしまった。

 ***

 ビラも出来上がり、いよいよライブであるがその前に一仕事。
 黒い猫耳カチューシャのミラー、大きなリボンを猫耳風に結んだ冬織。
 衣装に着替え、エントランスで出来上がったビラを配る出演者達。
「実際に見て貰った方が良いよ」と白の猫耳フードパーカーを着た慧と「ねこねこロック♪ ねこねこ〜♪」と歌い乍ら、アリエラが子猫を連れてきた。
 その瞬間からエントランスは撮影会場と化した。
 出演者達と子猫は交代で客と一緒にツーショットを撮られていたり、何故か冬織が慧とミラーの写メを撮っていたり、何時の間にか全体写真を撮っていたりする。
「皆、テンション高いな‥‥」40歳の浩介には、ややついていけない世界になっていた。

 ***

●monochrome KITTY 『糸の行方』Vo:☆慧&★冬織、AG:ミラー、Dr:舵 

 ※
 『  ころころ転がる毛糸玉この先は何処へ繋がってるの?  』
  ☆「ボクはそれが知りたくてあっちへこっちへ駆け回る」
 『  ころころ転がす毛糸玉糸の先追いかけスキップLalala  』
  ★「青い空陽だまりの中」 『  ボクは今日も元気いっぱい  』

   「 いつもの場所でうとうとお昼寝
     添い寝は迷い子のテントウムシ 」
 『  お日様が気持ちいいそれだけでご機嫌  』
   「 自慢の白い靴下ちょっぴりオスマシ
     でも遊ぶの大好きやんちゃがバレる 」
 『  金緑の瞳くるくる一緒に遊べたらご機嫌  』 

  ★「気紛れなのは猫(ボク)だから仕方ない」
   「 ツマラナイのは嫌い寂しいのも嫌い 」
  ☆「優しいのも猫(ボク)だから仕方ないだから」
   「 キミがツマラナイのも嫌いキミが寂しいのも嫌い 」
 『  ボクはキミの光になれるかな?  』

 ※Repeat

   「 糸の先はきっとキミそんな未来の予感 」
   「 手を伸ばし待ってて 」 『  ボクは今日も元気いっぱい  』


 淡く白い花びらのような照明が舞う中、ドラムのカウントで曲が始まり、スポットライトが慧と冬織を照らし出す。アップテンポで軽快なドラムのリズム、ギターが猫が跳ね回るようなポップロックのメロディを奏でる。照明が白から優しい黄色、オレンジへと変わる。間奏では子猫の華やかさと可愛らしさを感じさせるギターソロ。再び明るい白照明に変わりステージを照らす。ラスト、照明を絞り、糸に見立てた細く絞った白い光だけが浮かび上がる。ギターの爪弾くようなフレーズで曲が終了し、舞台は真っ暗にフェードアウトした。

 ***

●『仔猫の舞曲(ボレロ)』Vo&AG:千春、G:アリエラ、B:丹、Dr:舵

 「  夜中に車道の真ん中 白線を綱渡り
    その上で踊るのさ 仔猫のボレロ

    金網の中 塀の向こう 路地裏が踊り場
    気が付けば朝 いつか見たネオンサイン

    影を孕んだリズム 胸に白いセーター
    誰にも見られないよう黒いコートで踊るのさ


    昼間に歩道を横切り 人ごみをかきわけ
    影の中 踊るのさ 仔猫のボレロ

    あたたかい場所で見た 胸の中が踊り場
    気が付けば夜 いつも見る夢の中

    闇に呑まれたリズム 首には赤いベルト
    誰にも分からないよう遅いテンポで踊るのさ


    身体が踊り疲れても心が躍りだす

    帰るにはまだ早い 日没の時間

    尻尾を揺らし ボレロ 宴は終わらない

    影を孕んだリズム 胸に白いセーター
    誰にも見られないよう黒いコートで踊るのさ  」


 弾むような千春のアコースティックギターで曲が始まった。ダンスを誘うようなギターの音色にエレキギターとベースが柔らかさが加わり、伸びのある千春の声と軽快な曲調は段々と早くなる。柔らかな子猫のステップは観客を魅了した。

 ***

「大丈夫。シンプルなコードのバラードだから」とひろみから示された歌詞とコード見る浩介。
「少し前迄は、あたしも前はあの子と同じような感じだったんだよな」
「なる程、猫がひろみで、君が恋ぶっ‥‥」ゴッ!
 頭にひろみが投げたマイクを直撃で受ける浩介、続く言葉は永遠に不明である。

●『迷い猫』Vo:ひろみ

 「  その手のひらに握り締めたのは未来
    いきなり放り出されたこの世界で君は何を見る?
    この風景を君はどんな風に感じる?

    生まれたばかりの子猫のように怯えないで
    母親の温もりと同じような暖かさは与えることは出来ないかもしれないけど
    同じく生まれた兄弟のように君を支えてあげるよ
    君は一人じゃない

    風のように世間を渡ってきた俺だから
    君の淋しさが身に染みて分かるんだ
    君にはきっと俺が必要なんだ
    だからずっと側にいさせてほしい

    野良猫のように自由気ままな俺だから
    はらはらさせてばかりだけど
    君の為なら全ての時間を割こう
    それで君の笑顔が見られるなら
    俺は俺のまま君の飼い猫になる    」


 ピンスポットの中のひろみ、静かに流れるギターの音に高らかに響く声。余韻を残し乍ら照明が暗転する。

 ***

 レパード柄のジャケットを着た丹、白いバルーンミニワンピにリボンのアリエラと黒のメッシュカーディガン着た舵がステージに上がる。すぐに曲に入らず、丹が観客席に語り掛ける。
「猫のいる生活をイメージして作りました。小さな生命の中にあるキラキラした存在感。歌を聞いて一緒にくらしたいって思ってくれる人が少しでもいればいいな。そう思います」

●アドリバティレイア 『ハンター』Vo&B:丹、G:アリエラ、Dr:舵

 「  シロクロシロクロ そして煌き帯びたEYES
    何を見つめているの生まれながらにハンター
    眩しい朝は御機嫌に爪を光らせて
    透明な羽でもあるのか飛ぶように軽い
    今は小さな手も いつか何かを掴むだろう

    狭い路地裏 木漏れ日抜け道
    一番幸せに眠れる秘密の場所
    伸びた背中が何よりも心地良いシルシ
    大の字で寝転ぶ 丸くならなくて良いの?

    静かな夜は喉鳴らし寄りそって
    薄青の光りに包まれる 今はオヤスミ
    どんな夢見ているの生まれながらのハンター  」


 ドラムのカウントで始まった曲はアップテンポで軽快なロック。カラーライトがクルクルと回り、弾むリズムと軽快なメロディで楽しく盛り上げていく。サビからはメロディが変わり、それに併せて照明も間接照明に変わる。ヴォーカルをメインとした優しく包まれた雰囲気をかもし出す。ラスト、照明が強く三人を照らし、音も力強く再び盛り上げながら伸びやかに音を広げて響く。

 ***

 ライブは大成功であった。
 実際、何人かがハチ(仮)に興味を示し、後日連絡します。と言ってくれたのだ。
「良い飼い主さんが見つかると良いね」と慧。
「そうどすな。しっかり面倒見てくれはる御人が見つかったらええんやけど」と舵。
 ライブが終わって控え室に戻って来た出演者達は、背中の上で寝てしまった子猫の為にカエルのように床に這いつくばったまま動けなくなっている親父さんを見る事になる。
「‥‥‥てめぇら、笑ってないでどうにかしろ」

 だが結局、最終的に条件の会う引き取り手が見つからなかった。
「しょうがない。あそこに頼むか‥‥」と、どこかに電話を掛ける浩介。
「あ、姉さん? 俺、確か最近ウチの材木置き場に鼠が出るって言ったよね? 引退したタマに変わって、活きの良いの、1匹どう?」
 かくして浩介の実家にお婿入りが決まり、子猫は無事冬を越せそうである。
 赤い首輪を着けたハチの写真が貼られた浩介の机の上でキジトラが大きく伸びをした。