ライブハウス7 EP0アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
有天
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/13〜09/18
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●本文
古い運河沿いの鉄工場跡地を改装して作られた作られたライブハウス「7(セブン)」。
厳ついコンクリートの外壁と大きな赤錆が浮いた鉄の扉が印象的で、来る人を拒むように聳え立つ。
唯一ライブハウスである証拠と言える物は、ネオン看板ぐらいである。
山田浩介(40)は、十数年ぶりに訪れたその場所を懐かしいと思う反面、荒れた外観を見て落胆した。
「聞いていた以上に酷いな」
浩介の青春時代、インディーズバンドを紹介する多くのTV番組があり、空前のバンドブームと言われていた。
家が近いのもあり、浩介も他の若者たちと同じように「7」に入り浸っていた。
浩介も大人になり就職をしたことによって「7」から自然と遠のいていたが、先日たまたま古いバンド仲間と偶然出会い「7」が半年以上店を開けていないのを知った。
「なんでも親父さんが体を壊したらしいぜ」
「あの人が? 病気とは縁がなさそうだったろう」
「階段を踏み外したんだと。まあ、親父さんも歳だし、ちょっと気が弱くなったんじゃないかな?」
「普通は、隠居の年齢だからな」
浩介は、友人と別れたその足で「親父さん」の家に向かった。
「そりゃあ、俺も店を畳みたくないさ。だがな、浩介。元々、俺が道楽で始めたライブハウスだ。娘なんかは『引退する良い機会だ』ぐらいしか思っていねぇよ」
「しかし‥‥」
「‥‥そういえば、おめぇ。楽器会社の営業だってな。なんならアフター5、ウチで『雇われ店長』やってみるか?」
そう言われて事の次第を妻に話せば「受けないのは『恩義』に反する」「あの店がなければ私たちは出合ってなかった」、挙句「薄情者」とまで罵られ、翌日の弁当代を貰えない始末であった。
渋々、上司に相談した所「ライブハウスに来る客や出演者にウチの商品を紹介できる」「近くのマンションで新規顧客開発」だとすんなりOK出てしまった。
覚悟を決めた浩介は「親父さん」から鍵を借り、「7」にやって来たのだが‥‥
「とりあえず清掃だな。あと、宣伝か‥‥オープン前にミュージシャンを集めてデモライブでも行うか。誰か芸能界に詳しい人いたかな?」
腰の高さまで生えた雑草を見ながら溜息を着いた。
道路に面した「7」の壁に「臨時アルバイト募集」の張り紙が張り出され、各プロダクションに「出演者募集」の問い合わせが回った。
*****
ライブハウス「7」
準工業地帯の旧運河(現用水路)沿いにある創業20年を誇るロック専門の老舗ライブハウス。
前店主兼オーナーの体調不良により半年間閉店中。
1階には、倉庫とステージ、出演者控え室(エアコンなし)とオーナーご自慢のアメ車等が飾られており、移動は出来ますが、撤去は出来ません。
2階には、事務所、応接室、ミニキッチン、旧社長室を改造したVIPルームがあります。
エアコンは2階だけあり、駐車場は現在草が生えています。
●リプレイ本文
●工場跡地とミュージシャン
「カナ、住所はここで間違いですよね」と不安そうに相方のシンに確認をする渦深 晨(fa4131)。
「うん‥‥事務所から貰った地図にはそう書いてあるけど‥‥」と玖條 奏(fa4133)。
人通りの少ない工場街に場違いともと言える一団が傘を差して立っていた。
「もう全員集まっているんだね。待たせたかな?」とサラリーマンが声を掛ける。
「俺が、店長の山田だ」
門扉の錠を外し、一同を中へ促す。
「まあ立ち話もなんだし、店内を見てもらったほうが早いだろうな。これでも人、1人通れるだけ何とか、草むしりをしたんだよ」
降り積もった埃の中、浩介が行き来した足跡がくっきり残る。
「半年分の埃か‥強敵だな」と唸る佐武 真人(fa4028)。
簡単な掃除と聞いていたが、エントランスでさえ結構な広さである。平然としているのは、来た事がある亜真音ひろみ(fa1339)ぐらいである。
「懐かしいね、変わってない。昔、よく深夜に忍び込んでは唄の練習してて見つかった事があるけど、親父さんから『窓から入らず表から入れ』って怒られたよ」
「親父さんは『間違った事でもするならコソコソせずに堂々しろ』って言うかなら」と浩介。
「‥‥デビュー前にも色んなトコ回ったけど、ここは初めてだな」とラシア・エルミナール(fa1376)。
「親父さんの方針で、出演者を募集しなかったからね。『ライブをするなら好きに自由に使え』って感じ?」苦笑する浩介。
「今回2階に一般客を入れない事にしたから、掃除は1階と草むしりだけでいいよ」と浩介は、営業スマイルで言った。
●大掃除
屋内清掃は、ひろみ、ラシア、カナ、真人。
「ステージの床は、ピッカピカに磨かないと」とカナ。
「さすがに半年も放置状態だと埃とかすごいだろうから、換気をしっかりやって水を少しづつ撒いて埃が舞うのを防ぎながらだね」とひろみ。
「床は水を流してデッキブラシで擦ってくれれば良いよ。ボロ布は、倉庫にあるから好きなだけ使ってくれ。俺は、草むしりを手伝うから」と浩介。
草むしりは、ジェンド、シン、笙、メイが担当する事になった。
「日焼けはいやだけど‥ちゃんと対策すれば問題ないですよね」
「曇っている時でも、紫外線量が多いそうだ。それに秋に入ったとは言えステージ前に陽射しで倒れる訳にはいかんし、帽子と軍手も忘れずにな」
そうシンに言い乍らも鏡に写る自分の姿に「‥何処のおっさんだって姿だな」がっくりする笙(fa4559)。
「あっついぜ」と文句を言いながらもどこか楽しそうにぷちぷち草をむしりしているジェンド(fa0971)。
暗い雰囲気を漂わせ「世界征服には、まず小さなライブから。小さな一歩を踏み出せずして何故大きなことが成せようか」とか「クックックッ‥‥」と怪しく笑ったりしている魔導院 冥(fa4581)。
こちらも頭がヒートしているのか「そうだな。『小さな事からコツコツと』が基本だな」どこかの政治家のようなツッコミを言う浩介。
ちなみに慣れない労働の楽しみと言えば、食事である。
ひろみとラシアが用意したサンドウィッチとおにぎり、特製ブレンドコーヒーが振る舞われ、浩介が買って来たチョコレートと地元名物の人形焼きは甘党の二人の奪い合いに発展した。
●デモライブ当日
「遅くなったが、開店祝いだ」と笙から花束を押し付けられれる浩介。
「40男に渡す花束じゃないぞ」
「セントーレアは『幸運』、桃スイトピーは『門出』って花言葉だったか?」
「‥‥‥ああ、そうか。うん、ありがとう」緊張していのかいつもと様子が違う浩介だった。
開演時間を知らせるスタッフの声ににゾロゾロと客達がホールに移動する。「7」の今後を決める大事なライブがスタートした。
●T.R.Y.
オープニングは、「T.R.Y.」シンとカナのユニットだ。
『start×START×start』
ジャズロックをベースにした曲がスタートすると同時に暗いステージが反転、一気にライトアップされる。
アップテンポでノリのいい、シンとカナのイメージにぴったりな曲である。
「「ここから始めよう 新たな一歩
まずは踏み出せ その場所から」」
「 何もない? そんなことはない!
己の身が あるじゃないか 」
「 周り見渡せ 何が見える?
その目に映る 仲間がいるだろ 」
「「ここから始める 新たな一歩
先に待つものなど 予想する必要はない」」
「 さあ歩き出せ 希望を胸に宿し 」
「 Don’t afraid! 勇気がいるのは最初だけ 」
「 まずは踏み出せ その場所から 」
「 深く考えないでjumpで飛び出せ 」
「「it’s my stage!」」
普段からユニットを組んでいるだけにお互いの声を知り尽しているシンとカナの澄んだ声が響き渡る。
「『勇気のいるのは最初だけ』か‥‥」どうやらこの駆け出し店長と新生「7」も期待されているらしい。
浩介はスタッフから待ちわびていた「客」の訪問を告げられる。
「まあ上でも音は聞けるし‥‥‥ダンスは残念だけど諦めるか」
●NO NAME
ピンスポットが二人を照らし出す。
『月虹―7colors―』
真人が低音で始まる前奏を演奏する。
その和音を強めにリズムにした刻んでいくリズムに併せて、笙がスタンドマイクを中心に力強いステップを踏む。
アップテンポで力強いピアノロックである。
「偽物の星輝く 眠りを知らない街
明る過ぎる光が その姿隠すけれど
ねえ 月にも虹がかかるって知ってるかい
作り物の笑顔で 何となく居るだけの場所
本当に欲しいものは 見つけられぬまま
だけど そう 目に映るものだけが全てじゃない」
やや抑えてメロディーを聞かせるようにピアノが変化する。それに併せて笙のハスキーボイスも強く伸びていく。
「No more sighs
きっと誰もが皆 激流の世界に彷徨い
No more tears
それでも確かな何かを この手に掴もうと
俯かず 夜空の遥か月仰ぐ」
徐々に強く弾きアクセントするが、色を示す部分はしっかり声を通すように押さえ目に。
「Red Orange Yellow Green
Blue Indigo Purple
抱えた想いの色 空に解き放て
やがて見えるだろう 月に煌く虹
希望の証 7colors」
和音でリズムを刻み‥‥
『ジャ、ジャン!』
余韻を残さない真人のピアノが、笙のポーズとばっちり決まる。
浩介は、会場の拍手を聞きながら「客」たちの様子を伺う。
●デイブレイク
トリを飾るのは、「デイブレイク」やはり今宵一夜限りのスペシャルユニットだった。
ラシアとひろみのツインヴォーカル、ジェンドとメイのダブルギター。
ヴォーカル二人が舞台中央に立ち、両袖に黒い服を着たジェンドと黒ゴスドレスに蝙蝠の羽を背負ったメイが立つ。
ひろみの左腕には、トレードマークのペインティングが施されている。
マイナーコード基調とした スローテンポのロックバラードが演奏される。
『Break the world』
ゆったりとした静かな出だしからイントロはスタートした。
「 宵闇の街 孤独に満ちて
伸ばされた手も 握り返せず 」
「 求めても届かない 掴めないこの温もり
こぼれだす涙さえ 冷たく消えて 」
リフを刻むジェンドのギター放つ歪んだ重めの低い音が情緒的に曲に深みの幅を持たせる。
「 心閉ざし偽り続ける 『tell me why』 コーラスのメイの声が重なる。
冷たい瞳 」
「 ビルの隙間から差し込む月光(ひかり)
仰ぐドラマのように ただ 」
あがくように歌うひろみの声に併せ、ギターが盛り上がりを作るように強くなるが一瞬音が切れ‥‥
「「染められた蒼い影 『薄れてく』 消え行く街とまるで溶けていくように」」
二人の声が力強く響く。タイミングをはかり再びギターがメロディーを刻む。
「「閉じた世界も終わりを迎える 『Breaking heart』
全てと引き換えに」」
後ろに控えていたジェンドとメイが替わってセンターに出てくる。
お互いのギターが交互に挑発的に音を競い合うが、単に激しいだけではなく哀愁を帯びた音色を響かせる。
ツインギターに一層観客たちが盛り上がる。
「 そして全て無くし創る 新しい世界を たとえそれが禁断でも 」
歌詞に併せ、盛り上げていくギター。
「 祈り捧げ 愛を抱いて 」
「 狂いの果実握り締めて 」
「「覚めぬ夢と希望抱いて 新世界の鍵を開けよう」」
再びイントロのような静かなクリアな曲調となり聞くものを魅了した。会場から割れんばかりの拍手が響く。
今回のライブは、浩介にとって発見の連続であった。三組のグループ各々から学んだ事は多い。
なんとかして「7」を再開するべきだ。と浩介は決心した。
●裏事情
アンコールが続くステージをブラインドの隙間から眺める浩介。
「ライブ前にひろみが、教えてくれましたよ。『デイブレイク』は『夜明け』って意味だって‥‥‥こんなところでこっそり見ないで、堂々とセンターで見てくればいいんですよ。親父さん」
「ふん!娘には、『寄り合い』だって言ってあるんだ」
「立派な『寄り合い』ですよ」
普通では決して狭いと言い切れない社長室には、浩介と親父さんの他、銀行の融資担当者、町内会、商店会、鋼業組合の役員達が雁首を揃えていた。
どうやら目出たく銀行の融資は、決まりそうである。
「『tell me why』、生まれ変わるか‥‥なんとか正式オープンのメドは着いたが、次は改装か‥‥俺も覚悟を決めなきゃ駄目かな?」苦笑する浩介であった。