獣人求む!雪山賛歌アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/23〜12/27

●本文

「‥‥‥38度7分。コータ先輩、完璧に風邪もひきましたね」
「あだま(頭)までいだい(痛い)がら変だどは思ったんだ‥‥ねづ(熱)ばで出てひたか‥‥‥」
 コータは、民宿の天井を恨めしそうに布団の中から見ていた。
 コータは弱小パフォーマンス集団の主催である。偶然なのか類ともなのかメンバーは、なぜか全員獣人である。
 先日行われたTV局主催のアニメイベントを見ていた地元主催者からスキー場の山開きにちなんだ「雪まつり」での仕事が舞い込んだのであった。

 コータ達の貰った仕事は、2つ。
「昼、雪まつりメイン会場でのダンスやジャグリング、手品を含めたパフォーマンス」「夜、第2会場のスキー場でのパフォーマンス」である。
 主催者はコータ達を「きぐるみ」でダンスや音楽を披露するパフォーマンス集団と思っているらしく、昼は子供向けに動物やらが沢山出ている事、夜は地元スキー場のゲレンデでカップル&ファミリー向けのパフォーマンスを見せろと言う訳だ。

 地元特産品食べ放題と温泉に吊られてやってきたコータ達だが、主催者が用意してくれた歓迎会の席でコータ始め数名が「アタった」のだ。
 正確に言えば日頃から食べ馴れていない高級食材を食べた為に体が受付けず、数名が下痢や腹痛を訴えたのだ。更にコータは湯冷めも加わり、風邪を引いてしまったのである。
「うぐぐ‥‥高級和牛食べ放題に温泉の夢は散った‥‥へっぐしゅん!」
 薬を貰って、少しはマトモに喋れるようになったが、まだまだパフォーマンスを見せる所迄は回復していない。

「この前連絡取った連中とか、知合いとか‥‥手の開いている奴がいれば声を掛けて集めてくれ、報酬は少ないが牛鍋と温泉に何名か引っ掛かるかも知れない」
「コータ先輩、悪徳商人ですか?」コータから風邪を貰ったシジュウカラが恨みがましそうに言った。
「非常事態だ。待っている子供達がいるんだ! ここで力をみせ‥‥‥」
 がばりと布団から飛び起き、ガッツポーズを決めようとして、そのままひっくり返る。
「安静にしてろって医者が言っただろうが。ったく、学習力ないんだから」副主催でエレキギター担当のカズキが言った。
「しかし携帯繋がるのかな? まあ宿に電話かFAXがあるだろう」
 ウンウン唸っているコータを横目にカズキは溜息を着いた。

「うーん? 曲? 実はまだ出来てない。まあ、昼は子供向け、夜はムーディーで‥‥宴会の席で聞いた限りではお決まりだけど、音楽の最中にトーチを持ってスキーで滑り降りて欲しいらしいぜ。それなりに運動神経が良い奴希望?」と電話の相手に言う。

「寒さに弱い和楽器は無理だろうな。ウチのドラマーだってかなり嫌がっていたし‥‥楽器は持ち込みだけだ。ウチには貸出すとか大手じゃないし、第一山の中腹なんだから‥‥‥移動の足? 麓の駅から一応バスが通っているぜ、1日上下2本だけどな。後は時間さえ言ってくれればウチのワゴンで迎えに行くから」


●ミュージシャン&パフォーマー求む!
 テーマ:雪
 演奏は、歌詞・曲・タイトル、オリジナル限定


「主催者の要望は『きぐるみ』だそうだが、ウチは『きぐるみ集団』じゃねぇぞ。お前も獣人ならこの意味は判るな?」
「カズキ先輩、電話口で相手を脅すのは良くないと思います」と後ろからジャンガリアンハムスターのダンサーが恐る恐る言った。
「脅してねぇだろうが、これが俺の『地』だ。ったく、こういうのは苦手だぜ」

●今回の参加者

 fa0352 相麻 了(17歳・♂・猫)
 fa0824 ベクサー・マカンダル(13歳・♀・鴉)
 fa2396 海風 礼二郎(13歳・♂・蝙蝠)
 fa3860 乾 くるみ(32歳・♀・犬)
 fa4550 リリン(18歳・♀・豹)
 fa4559 (24歳・♂・豹)
 fa5218 荊木・星河(16歳・♂・豹)
 fa5261 星野麻理(18歳・♀・兎)

●リプレイ本文

「意外と寒いわね」と体のラインがハッキリと判る薄いワンピースを着ている星野麻理(fa5261)。
 駅ターミナルの脇には、雪掻きされた雪が寄せられている。
「遠い所、助かる。俺が連絡したカズキだ」
 駅ターミナルに横付けされた黒いワゴンで一同を出迎えるカズキ。
「コータはまだ寝込んでいるのか? 慣れんモノに中る気持ちは‥‥分からんでもないな‥‥」と笙(fa4559)
「ああ、だいぶマシになったがな」
「食中りは、発酵食品でお腹の調子整えて、あったかくして寝るといいよー」と荊木・星河(fa5218)。
「アイツのは単なる『貧乏病』だ。『食中り』とか言うと牛が可哀相だ」とむっつり言うカズキ。
「時間が惜しいので、宿に行くぞ」
 さっさと乗れとばかりにスライドドアを開けるカズキ。
「すみません。僕らを始め、カズキ先輩も『感謝』しているんです。だけど先輩は『かなり口が悪い』ほうなのでよく誤解されるんですが、ケンカを売っているわけではないんです」
 一緒についてきたダンサーがペコペコと謝り乍、参加者たちの荷物を積んでいく。

「暇があったらスノボもやりたいけど、時間あるの?」とセイガ。
「今日は、これから宿で打ち合わせだ。24日、25日で祭りは終わりだが天候が崩れれば、その分伸びて遊ぶ所じゃなくなる」とカズキ。
「大丈夫ですよ。天気予報では『晴れ』ですから。ゲレンデは23時までリフトも動いていますし、宿はスキー場から徒歩5分ですから」
 カズキの心配を他所にダンサーの言う通り、良い天気となり絶好の祭り日和となった。


<雪祭りメイン会場>
 正午から商工会議所前に設置された特設ステージでパフォーマンスが始まる。
 出演順はベクサー・マカンダル(fa0824)と海風 礼二郎(fa2396)の漫才、笙とカズキらによる音楽とダンス、相麻 了(fa0352)の体操(MC:リリン(fa4550))となっている。
 体操が終わった後に餅つき大会が予定されているので、当初予定より見物人の数が多い。

●THE MANZAI
「「どうも〜、こんにちは」」
「ベクサーです」
「レイです」
 雪を固めた上にプラスチック板を敷き詰めた簡易ステージに完全獣化したベクサー(鴉)と半獣化のレイ(蝙蝠)が登場する。
 舞台袖で見ていたカズキの表情が曇る。
 役員席に座るクライアントの眉間に縦皺が寄っているのが見えたからだ。
 理由は簡単、コンビならコンビらしく半獣化なら半獣化、完全獣化なら完全獣化で統一した方が見栄えが良いのだ。
 クライアントのご機嫌が麗しくなくなった場合は、二人の高級和牛食べ放題の夢は消えるのである。
 そんな外野の思惑など関係なく二人の漫才が始まる。

「さてさて今日は雪祭りに御呼ばれしまして。皆、楽しんでますか?」とベクサー。
 開場から「はーい!」という元気な声が帰って来る。
「元気が良いですね。それに本当に良い天気に見舞われて良かったですね」とレイ。
「そうですね。でもさすが雪山、こんなに良いお天気でも東京に比べて寒いですね」とベクサー。
 へっくしょん!
 クシャミの真似をし、ぶるぶると身を震わせるレイ。
「キミ‥‥‥‥なんかあったかそうな格好してるね」
「あったかいよ。羽毛100%だし」とベクサー。
「でも、なんでカラスなのさ」とレイ。
「これしかなかったんだから、しょうがないよ。それより何でお前、コウモリの羽だけ着けてるの」
 中途半端な。と言って、つんつんとレイの翼を突っ突く。
「こっちの方がいいって、絶対。オシャレなオプションっぽいでしょ」と切り返すレイ。
「バカ言ってるんじゃないよ。頭悪い人だよ」
 そういうと「どん!」と力強くレイの背中を押すベクサー。
 舞台からゴロゴロと派手に雪まみれで転がり落ちていくレイ。客席から笑いが上がる。
「良い子はマネしたら駄目だよ。お友達が怪我をしちゃうからね」とベクサー。
「僕は怪我をしてもいいの?」とレイ。
「大丈夫。頭の悪いのキミは怪我をしないから」と自信たっぷりに言うベクサー。
「その自信は何処から来るんです」
 まだまだ続くベクサーとレイの漫才。
 舞台上の方からソリで滑り降りたり、お互いのソリとぶつかり合ったり。
 コミカルな動きに客席から笑い声が上がる。
 再び役員席を覗くカズキ。ゲラゲラと笑うクライアントを見て安堵する。
 どうやら二人分の肉確保は出来たようである。

●PLAY THE MUSIC
 笙がエレキギターを演奏すると言う事なので、カズキがベースを弾く事になった。
 ファミリー向けのステージに合わせて、オリジナル曲とポピュラーなクリスマスソングを交えて演奏されていく。
 軽やかな鈴の音とギターが鳴り響く。見ている子供達の頭がリズムに乗ってぴょこぴょこ動く。
 誰でも知っている賛美歌をポップスアレンジにした物を優しく歌う笙。
 乗り易いミドルテンポのインスト曲では、演奏をし乍ら片手バク転などのダンスを披露するサービスの入れようである。
「あ! 危ない!」
 バク宙の着地の際にプラスチックの床に溜った雪解け水で滑る笙。
 カズキに腕を支えられ、転倒は免れたようである。
「気をつけろ、怪我をしたらどうする?」
 てい! 完獣化しているダンサー達が雪溜まりにダイブしたり、観客の手を繋いでくるくるとダンスをして入れている間に次の曲が始まる。
 ちょっとしたアクシデントは子供達をドキドキさせるカンフルになったようだ。

●ニンジャにゃん・ショー
 バックバンドとダンサー達はステージ上にそのまま残り、雪だるまやマットレス、跳び箱等が用意されていく。
「は〜い♪ リリンお姉さんだよ! 良い子のみんなぁ、こんにちは〜!」赤い水玉が着いたフリフリの衣装で登場するリリン。
「こんにちは〜!」の他に、ゆらゆらと揺れる尻尾を見た子供達から「にゃんこ〜!」と声が帰って来る。
 小さい子には猫だか豹だか見分けが着かないようだ。
「これからこの会場のみんなに会いに『ニンジャにゃん』がやって来るよ。ニンジャにゃんは、にゃんこだけど、忍者。古き戦国の世から続く忍法ニャンコ流を極めた超一流の忍者なんだよ」
 リリンのMCを割って『にゃあ〜おん』と、猫の鳴き声が入る。
「あれれ、もう会場のどこかに来ているのかな? みんなぁ、大きな声でニンジャにゃんを呼ぼうねぇ」

「せ〜の!」
「「ニンジャにゃ〜ん!」」
 舞台中央に設定された雪だるまのハリボテがゴトゴトと動き、「ぱかっ」と割れる。
 完全獣化し忍者装束のジョーカーが現れる。
「オッス! 俺はニンジャにゃん、宜しくな!」
 挨拶代わりに跳び箱40段飛びを決め、ビシリと決めポーズをするジョーカー。
 歓声と拍手が沸き起こる。
「さあ! みんな、ニンジャにゃん体操いってみよう!」
 ジョーカーの掛け声を合図に、曲がスタートする。

【ニンジャにゃん体操】歌、作詞:リリン
 「は〜い、みんなニンジャにゃん体操始まるよぉ〜♪」

♪♪♪
 右手と左手お空にあげて、にんにんx2
 お胸の前で忍者のポーズ、にんにんx2
 雪が降っても寒さに負けず、ニンジャにゃん体操1,2の3

「象のポーズ」(台詞に併せて上半身を屈め、右腕を象の鼻のように動かすジョーカー)

 お手てを顔に‥‥‥‥
♪♪♪

 覚え易い単調なメロディーと子供達の大好きな「真似っこ」遊び。
 子供達も一緒に象や兎のマネをする。
 最後には一緒に体操をしてくれたお友達には「にゃんシール」をリリンが配り、更に子供達と一緒に撮影会をしたりと予定の時間は大幅に送れたが、大盛り上がりのうちにお昼のパフォーマンスは無事終了した。
「後、1日この調子で頼むよ」
 どうやら肉の追加は、確実のようである。


<第2会場 スキー場>
 ライトアップされたスキー場はムードたっぷりであるが、氷点下の中でのパフォーマンスである。
 ステージ周りにファイヤーストームが組まれて幾分温かくなっているが、幾分である。
 当初、半獣化姿で踊る予定にしていたマリも完全獣化で踊ることになった。
 半獣で露出の高い姿では、確実に風邪を引く。
 獣人でも日焼けもするし、アレルギーや花粉症にもなる。勿論、寒ければ風邪も引くのである。
「それに俺としてもバニーはセクシーだと思うが、コミックなら兎も角ファミリー向けじゃないし、カップル向けのムーディーでもないから別なものが良いと思うぞ」とカズキ。
 一応、これでもマリに気を使っての発言らしい。

 笙らミュージシャンは、ギリギリまで指をカイロで温めている。
「笙、お前のスキー板も頼んでおいた。他の奴等と一緒に滑っていいぞ」とカズキ。
「演奏はいいのか?」
「良くない。マリとセイガのダンスで15分、他に6曲演奏する。だが、必ず全曲にサックスがいる必要が無い。だから滑って来い」
 TV局の時の礼だ。それにサイガも出ずっぱりじゃなくラストは滑ると言っているぞ。
 そう言うとカズキ、ぷいっと横を向いてしまった。
「俺は昼にばっちり練習済み!」羽織袴姿で完獣化しているサイガ。笑った豹の笑顔が恐い。
 つられて苦笑する笙。
「じゃあ、遠慮なく滑らせて貰うよ」

 選ばれた曲はジャズを意識したしっとりしたバラード系インスト曲。
 サックス、ベースのメロウな旋律が夜のゲレンデに静かに流れる。
 サイガから「ユーロビート調に編曲された雪関連の童謡」というリクエストは、メジャーな映画音楽からピックアップしアレンジされた。
 クリスマスの次は、お正月だと紋付袴でダンスにチャレンジするサイガ。
 完全獣化なら連続バク転を綺麗に決めてVサインを出す。

 ゲレンデのライトを最小限に絞り、ゲレンデに設置されたスピーカーから賛美歌をアレンジした曲が流れている中、トーチを持った獣人達がゲレンデを滑り降りて来る。豹(セイガ)、カラス(ベクサー)、コウモリ(レイ)に続いて、豹耳&尻尾 半獣姿のリリンに笙。ゲレンデ管理アルバイト(有志)と一緒に滑り降りて来る。
 舞い上がる雪煙がキラキラとライトに光る。人と獣、大きなツリー。
 その光景はクリスマスの夜をより幻想的な雰囲気にしていた。

 全員がトーチを空に掲げると花火が上がる。
 歓声が上がり、無事「雪まつり」は閉幕した。


<民宿>
●Let’s 宴会
「『雪祭り』成功! カンパーイ!」とコータ。
「役立たずの癖に何、音頭取ってんだよ。お前は」とカズキ。
 結局パフォーマンス中は参加しなかったコータだったが、宴会にはちゃっかり復活して参加している。
「また、腹壊すよ」とレイ
「そうそう、コータの分も俺が食べてやるから安心しろ」とセイガ
「大丈夫♪ 今度は先に胃薬飲んでおいた」とVサインを見せるコータ。
「じゃあ、安心してお肉食べれますね」とにっこり微笑むマリ。
「やっぱり『働かざるもの食うべからず』、その肉は私のものだ」とベクサー。
「肉、肉、焼肉〜♪」‥‥これはジョーカー?
「スキヤキもあるぞー!」
「ビールお代り♪」
「お前ら、野菜も食え! 灰汁を掬え! 柱に昇らず、ちゃんと席に着いて食うんだ!!」
 カズキの声が、宴会場に響く。

 一方、リリンと笙は川が一望できる露天風呂で雪見を楽しんでいた。
 空には細い猫の爪のような月が浮かび、せせらぎが一日の疲れを優しく癒してくれる。
「お肉もいいけど、やっぱり疲れを取るのはこれが一番っていうカンジぃ♪」
 う〜ん♪ と伸びをするリリン。
「そうですね」にいる笙から間仕切り越しに声が掛かる
 笙の前に漂う小さな御盆の上には雪兎と徳利。
「リリンさんも如何ですか?」
「リリンちゃんは、のぼせちゃうと大変なので遠慮しときますぅ。それに男湯に押し掛ける訳にもいかないですしぃ」
 それぞれ今日の疲れをゆっくりと癒し、明日へエネルギー充填中である。

 ‥‥そして翌日、帰りの電車を待つ間、各々買い物やスキー、スノーボードを楽しんでいるメンバーと裏腹に宿で布団を並べている笙とコータ。
「お前ら、馬鹿だろう」とカズキが言ったとか言わなかったとか。