明日に吠えろアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/18〜09/22

●本文

『その日の朝は、珍しく七辻警察署捜査一課の一同が顔を揃えていた。
 先日、連続強盗事件の犯人を逮捕し、送検したばかりであった。
 この時間は、何時もであれば事務方の係長補と当直担当が2、3人がいれば御の字なのである。
 しかし今朝は犯人確保の際、怪我をした山根警部補に代わって新任の刑事が配属されてくる予定である。
「こう言う所ばかりは、真面目と言うかミーハーというか‥‥」』


 ディレクターの前に置かれている台本の出だしである。
 表紙には「明日に吠えろ」というタイトルが大きく書かれている。ひと昔前、人気を迫した人気刑事ドラマである。
 若手刑事が毎週必ず全力で走るシーンと個性が光る新任刑事がドラマの売りである。
 実際に刑事が殉職するシーンなどは、当時の子供たちが「刑事ごっこ」でマネをしたものであるが、今回これをリメイクする案が、TOMITVで持ち上がっていた。

「やっぱり走るんですか?」とAD。
「勿論だ。『走り』がなくては『明日に吠えろ』ではない」と監督。
「そうなると『新任刑事』役は、『体力』のある奴が必要ですね。犯人逮捕時に息切れしては、絵図らが悪いですから」とこだわりを言うカメラマン。
「課長補だけは、メガネと小言が似合う中年男性というのは譲りたくないですね」と微妙なこだわりを言う演出家。
 AD以外は、リアルに「明日に吠えろ」を見ていた世代だけに、こだわりが強い。

「AD、各プロダクションに役者の手配は、済んでいるのか?」
「は、はい」


●『明日に吠えろ「新任刑事登場」』のあらすじ

 シーン1
 新任刑事が来るのを心待ちにしている捜査一課の一同。その時、強盗殺人事件発生の放送が流れ、現場へと飛び出していく一同。
 入れ違いにやって来る新任刑事。

 シーン2
 現場検証の最中、中堅刑事と新任刑事の捜査方針を巡って確執。

 シーン3
 問題を抱え乍らも逮捕に向かう捜査一課の一同。新任刑事、逃げる犯人を追いかけ、逮捕する。
 先輩刑事達から「仲間」と認められる新任刑事。

●募集配役
 新任刑事
 中堅刑事
 犯人
 他、課長、係長、係長補等

●今回の参加者

 fa0472 クッキー(8歳・♂・猫)
 fa0588 ディノ・ストラーダ(21歳・♂・狼)
 fa0750 鬼王丸・征國(34歳・♂・亀)
 fa1180 鬼頭虎次郎(54歳・♂・虎)
 fa3066 エミリオ・カルマ(18歳・♂・トカゲ)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa4360 日向翔悟(20歳・♂・狼)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)

●リプレイ本文

●CAST
工藤明:エミリオ・カルマ(fa3066)
一文字 光:ディノ・ストラーダ(fa0588)
五十嵐 陣内:片倉 神無(fa3678)
桐生あかね:雅楽川 陽向(fa4371)
鬼王丸・征國:鬼王丸・征國(fa0750)
紀藤虎次郎:鬼頭虎次郎(fa1180)

桐嶋実:日向翔悟(fa4360)
深山悠汰:クッキー(fa0472)



●闇
 静かな住宅街、街灯だけがポツンポツンと照らす暗い坂道を悠汰が上がってくる。
「坂を上がった家から時々怪しい悲鳴が聞こえてくると、言ったのは誰だっけ?」他愛無いお化け話が歩みを早くする。

「ギャーーーーッ!」
 思わぬ悲鳴に電柱の後ろに慌てて隠れる悠汰。家から飛び出してくる帽子を目深に被った桐嶋。
「あのジャンパー‥‥」小さな声で囁く悠汰。


●刑事
 その日の朝は、珍しく七辻警察署捜査一課の一同が顔を揃えていた。
「組長、ヤマさんに代わってくる新任刑事ってどんな奴ですか?」『五十嵐 陣内(トレンチ)』とテロップが流れる。
「きっと優秀な人ですよ」『桐生あかね(ベビー)』が『鬼王丸・征國 係長(組長)』にお茶を差し出す。
「それにしても遅い‥」赤いスーツに身を包んだ『一文字 光(セレブ)』の言葉を遮るように管制センターから強盗殺人事件の一報が流れる。

 ドアを飛び出していく一同。一文字、古ぼけたジャンパーを着た工藤と廊下をすれ違う際、一瞬目が会う。不思議そうに見つめる工藤。
「本日付けで配属を賜った工藤明です!」ドアを開け、一礼をする『工藤明』。
「皆、事件で出てしまったが‥‥自分も出る所だが、来るかね?」ジャケットを羽織る鬼王丸。
「はい!」
 一人課に残る『紀藤虎次郎 課長(おやっさん)』。
「‥‥慌ただしい『新任』だ‥‥まあ、ウチらしいと言うべきかな?」


 遺体が搬出された床には、白線と血の跡。鑑識官が床に這いつくばって落ちている毛等を採取している。鬼王丸の元に聞き込みの結果が次々と報告される。
「組長、被害者は山縣巌 56才。深山運輸の所長をしています。第一発見者は、隣の主人です。旅行中の奥さんから『連絡が取れない』と電話が入り、今朝確認した所、遺体を発見したそうです」と一文字。
「組長、昨夜の午後11時30分頃、裏のアパートの住人が被害者らしい悲鳴を聞いています」手帳を見乍ら報告する桐生。
「それならすぐ通報して欲しい所ですよね」
「誰だ?」何時の間にか捜査の輪に加わっている工藤に驚く五十嵐。
「本日付けで配属になった工藤です」と工藤。

 遅れて来たのに図々しいと五十嵐から現場から放り出される工藤。現場を見つめる悠汰に気付く。
「どうした? 何か用?」
「‥‥僕、犯人を見たかもしれない」


●容疑者
 深山家のリビングで向き合う桐生と『深山悠汰』
「じゃあ悠汰君は塾の帰り、いつもあの道を通るんだ」
「バス停から一番近いんです」
「あのお家がオジサンが、お父さんの運送会社の人って知っていたの?」
「う、うん‥‥」
 悠汰は口籠った。
「悠汰君の見た人って、この中にいるかな?」桐生は、悠汰の前に何枚かの写真を並べた。
「帽子被っていたし、良く判らないよ‥」
 逃げていく犯人の後ろ姿が、悠汰には父親のように見えたのだった。もし自分のせいで大好きな父親が捕まったら‥‥そう思うと証言が出来なかった。


 鑑識から上がった証拠を元に浮かび上がる容疑者像。
「大江芳輝、被害者の部下になります。一昨年、執行猶予付きで刑務所を釈放されて、去年から深山運輸勤務しています。被害者に借金の申込をして断れていたと言う証言もあり、その辺りが動機だと思われます」白板の前に立つ一文字。
「山縣夫人から金品の被害状況を確認した所、該当はありませんでした」と五十嵐。
「鑑識からの報告でも物的証拠は、大江を全て指し示しています」満足気に一文字が言う。
「強盗ではなく怨恨による殺人か‥‥逮捕状を請求するに足りる物的証拠は揃った訳だが‥」と鬼王丸。
「俺は反対です。犯人を見たという少年の『ウラ』が取れていません」工藤が反対をする。
「君はプロファイリングよりも少年の曖昧な証言を信じると言うのか?」
 睨み合う工藤と一文字。

 会議の間中、黙っていた紀藤が口を開く。
「‥‥工藤君は、どうして現場にこだわる?」
「『百の事件には百通りの真実がある』‥生前よく父が言っていた言葉です。俺達は、常に新しい真実を発見しなきゃいけない。そう思います」
「‥‥借金の件、ウラ(証言)は一人だけだったな?」
「おやっさん、証言をした『桐嶋実』の身元とアリバイのウラは取ってあります」と一文字。
「‥‥もう少し調べてからの方が、俺は良いと思うが?」紀藤の言葉で捜査方針が決まった。

「トレンチ、工藤と組め」紀藤の言葉を受け、五十嵐と工藤にコンビを組ませる鬼王丸。
「組長、俺が『新米』と組むんですか?」
「俺は『工藤』です」
「五月蝿ぇ、遅れてくる手前ぇなんて『新米』で充分だ!」


 工藤と組んで聞き込みを続ける五十嵐。
「何で俺がこんな若造と‥‥」そう言いつつも鬼王丸が自分と組ませた理由が良く判る。
「俺、一人でもできます!」
「ちょっと位、愚痴らせろ新米。初めてのヤマで熱くなるのは判るが、昔は殺しの現場に『情』があったが、今時の事件は手前ぇの理想は通じんぞ。プロファイルってのも大事だ」と五十嵐。
「でも過去のデータより現在(いま)の声を大事にしたいと、俺は思います。俺は‥‥‥あの子の素直な心を信じたい」

 工藤の思いとは裏腹に悠汰の証言は曖昧な部分が多く、『証言』としては不十分と判断された。落ち込む工藤。
「工藤さんの考え方は、間違っていると思いませんよ。『プロファイル』を証拠として裏着けるのは、現場の聞き込みですから」と工藤にお茶を差し出す桐生。


●ジャンパー
「何かが違う」自分の見た違和感に、父親のジャンパーを箪笥から取り出し何度もは見る悠汰。
「そうだ‥‥何処に誰がいるか判るように、ちょこっとずつデザインが違うって‥‥」
 悠汰は独り父親の会社に向かった。人気のない事務所の中に入り込み、ロッカーを一つ一つ開けて確認していく。
「あった‥‥」あの夜見たジャンパー。縫取りに『桐嶋』の文字。

「もしもし、深山悠汰です。工藤刑事をお願いします」悠汰の声がオープン回線から響く。
「あかねお姉さんよ。工藤さんは出かけているの」
「僕、今、お父さんの会社で確認したんです。犯人は桐嶋‥‥」突然切れる電話。
「もしもし、悠汰君! ‥‥課長!」桐生、紀藤に振り向く。
 頷く紀藤、無線に向かう鬼王丸。

「全車に告ぐ。至急、深山運輸に向え! 桐嶋が、悠汰君に危害を加える可能性がある」
『『了解! 現場に急行します』』
 一文字の赤いスポーツカーが、赤色灯も鮮やかに交差点をスピンターンをする。
「自分も現場に向かいます」上着を掴む鬼王丸。
「‥‥判った。ベビーも組長と一緒に現場に向かえ」
「はい!」


「僕の計画は完璧だった‥‥チクショウ‥‥どうして僕だけがこんな目に遭うんだ。全部あの野郎が悪いんじゃないか‥‥」
 事務所の床に倒れている悠汰。側に立つ『桐嶋実』がビクリと遠くから聞こえるサイレンに体を震わせる。
「裏に回ります! 五十嵐さんは表を!」と工藤。
「おう!」階段を駆け上がる五十嵐。

「クソ! ドアに鍵を!」
「退いて下さい」一文字が弾を撃ち込み鍵を壊す。踏み込むが、屋根を走って逃げていく桐嶋。
 一文字が銃を構え直す間もなく下に降りる桐嶋。脇道を走り抜け大通りに向かう。
「ここ迄来れば‥‥」
 追い掛けていくる工藤に気が付き、再び走り出す桐嶋。追い掛ける工藤。

「あ、工藤さんです!」桐生が助手席から目の前を走り抜けていく桐嶋と工藤を指差す。
 渋滞の為に思うように追いつけない一文字と鬼王丸の車。桐嶋と工藤、大通りを駆けていく。桐嶋、ついに足がもつれ倒れ込む。全身で押さえ込み手錠を架ける工藤。
「桐嶋実、児童監禁の現行犯と殺人容疑で逮捕する!」
 ようやく駆けつけてきた一文字たちに、親指を立ててガッツポーズ見せる工藤。


 桐嶋は、供述を元に凶器が発見され、送検される事が決定された。
「工藤は、良く桐嶋が窓から逃走すると判ったな」と鬼王丸。
「トレンチさんと一緒に再度事務所に行った時に、泥棒が逃げ易い窓だなと‥‥」
「刑事より泥棒が向いているんじゃないか?」笑う五十嵐。
「課長、トレンチさんと工藤さん並んで立つと『トレンチコート』と『ジャンパー』でコンビみたいですね?」と桐生。
「‥‥『トレンチ』と『ジャンパー』か‥‥よし! 工藤君は今日から『ジャンパー』だ」
「ええ!」
「けっ、おやっさんに反論なんて100年早えよ。『ジャンパー』」と五十嵐。
 一課に笑い声が響く。

 報告書作成に時間が取られ、他の一課メンバーより遅く署を後にする工藤。愛車に乗った一文字の側を通り過ぎようとした所、持っていた花束を投げ渡される。
「ようこそ一課へ‥『ジャンパー』。今回はキミに軍配が上がったが、何時も上手く行くとは限らないよ」
 花束に驚き乍らも笑顔で受け取る工藤。 一文字、そのまま車を走らせて出ていく。
「ありがとう、セレブ」

 これでやっと一課全員に認められたと安心する工藤。 星空を見上げ‥‥
「あ‥どうせなら寮迄送ってもらえば良かった」