ザ・DOG=狂犬=役者アジア・オセアニア
種類 |
ショートEX
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担当 |
有天
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
8.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/08〜01/12
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●本文
●ドラマ『潜入捜査官−ザ・DOG−』お正月SP=狂犬= 役者募集
<あらすじ>
とある総合病院の外科医師が臓器売買による不当な臓器移植を行っていると言う情報を得た『犬飼(ブリーダー)』。臓器売買を斡旋している暴力団組織の壊滅と臓器売買ルート撲滅の為、 配下の犬チームAに指令を出す。
リーダー(男A)が書いた青写真はこうである。
「暴力団組織内部の対立を煽り内部分裂」と「病院への潜入を行い臓器売買ルートの判明と撲滅」
その為にメンバーをピックアップする男A。
幼馴染みで自らが犬へと誘った男Bを始めとする精鋭メンバーを募った。
暴力団組織の内部抗争を煽り、売買ルートの把握も順調に思えた矢先。
暴力団に潜入していた潜入官の一人が殺された。
動揺するチーム。
暴力団幹部Aに尻尾を掴まれた男Bが情報を流したのだ。
追い詰められていくチームA。
自らが狩られない為には漏洩情報のクローズ、裏切り者(狂犬)である男Bの早期処分である。
友を狩らねばならぬ葛藤を抱える男A。
逃げる男B。
情報収集や改竄を得意とした男Bを追いかける内に男Bの恋人が暴力団幹部に押さえられている事が判る。
男Bの処分撤回をするには、犬飼の指示である2つの組織壊滅が最低条件である。
「ダブルハンティングと彼女の救出‥‥面白いじゃないですか」
チームメンバーの志気が上がる。
‥‥‥だが、「犬飼」は男Aに男Bを処分する事を指示した。
「例外は認められない。何故ならば我々の組織は利害関係で繋がっている訳では無いからだ。如何なる理由でも我々の組織は一枚岩で無くてはならない‥‥‥君も他の者に彼を処分させるのは心苦しいだろう」
そう言うと「鳩」は引き出しの中から「犬飼」から託された物を、小さな包みを男Aの前に置く。
「彼を静かに逝かせてやれ‥‥」
見かけよりずしりと重い、その塊。男Bの命の代価‥‥。
●用語
「犬(DOG)」潜入官、サポーター、リーダーによって構成される実働部隊。
「実働潜入捜査官(潜入官)」調査対象組織に直接潜入する捜査官。
「サポーター」潜入捜査チームの補助役。潜入官を助け、情報収集・解析、回収・廃棄、配車等を行う。
「リーダー(ドッグヘッド)」実働潜入捜査チームを指揮。
上層部との連絡・交渉、一部メンバースカウト等を行う。
「犬飼(ブリーダー)」複数の犬チームを纏める纏め役。基本的に犬メンバーと直接接触は行わない。
「鳩」犬飼専属の連絡員。犬と犬飼の間の連絡、報告を行う。
●登場人物解説
『男A 20、30代』★主人公
立場:犬チームA、リーダー(ドッグ・ヘッド)
実姉を麻薬中毒にし廃人にした姉の恋人を殺害、服役中に「犬飼」と接触、「犬」となる。
犬飼(鳩経由)に男B処分を言い付けられ、その際に犬飼より拳銃を託される。
男B、殺害をきっかけに『狼』となる。
『男B 20、30代』★狂犬
立場:犬チームA、サポーター(ハッカー)
男Aの右腕にして幼馴染み。男Aの姉が初恋の相手。男Aの殺人を幇助。
全てを黙した男Aにより、逮捕されるも証拠不十分の為の不起訴処分。
後に主人公に誘われ、「犬」となる。
敵暴力団の幹部Aに正体がばれ、恋人を人質に捕られてしまう。
恋人の保身の為、チームの情報を流し、チーム全体を危機的状況に追い込む。
裏切り者「狂犬」として狩られる。男Aに殺害される。
大手情報企業に勤務。
『潜入官A 20、30代』
立場:犬チームA、潜入官(顎)
背後に暴力団Xが控える臓器売買組織に潜入。
暴力団幹部Aが率いる組織Aに潜入。
潜入官Bと連動し、暴力団幹部ABを煽り、組織壊滅を画策。
尚、潜入官Bとは対立組織の暴力団構成員として接触。犬の連絡等は、男Bとのみ接触。
男Bが尻尾を掴まれた際に『死亡』。
『潜入官B 20、30代』
立場:犬チームA、潜入官(顎)
背後に暴力団Xが控える臓器売買組織に潜入。
暴力団幹部Aと対立する暴力団幹部Bが率いる組織Bに潜入。
潜入官Aと連動し、暴力団幹部ABを煽り、組織壊滅を画策。
尚、潜入官Aとは対立組織の暴力団構成員として接触。犬の連絡等は、男B以外のサポータとのみ接触。
『医師A 20代以上』
暴力団Xが開催する裏賭博にハマり、多額の借金を抱える。
借金のカタに臓器摘出手術を行う。
『暴力団幹部A(男) 30代以上』
情報漏洩に潜入官Aを疑い、男Bと接触している事を掴む。潜入官Aを殺し、男Bの恋人を拉致。
命と引き換えに情報を求める。
犬を操作し、対立する暴力団幹部Bを無き者にし、自ら頂点に立つ事を狙う。
男AまたはBに殺害される。
「‥‥登場人物の最低は、この位か?」とプロデューサー。
「そうですね☆ 他には犬チームAのサポーター、男Bの『恋人(女)』『暴力団幹部B』などの暴力団X関係者とかですね」
まあ、医師Aとか、病院へのサポーターは仕出しでもなんとかなると思いますが‥‥とディレクターの鬼塚。
「今回は『男臭い』話になるな」
「そうですね☆ 男Aの心情がメインです♪」 脚本家のよしりん☆。
「ところで潜入官は、完全に過去を捨てるが、サポーターが『表向き、普通の生活をしている』っていうのは役者どもは知っているのか?」
ふと、疑問に思った鬼塚。
「そう考えていない人が多いでしょうね☆ それに『犬は殺しをせず、”狼のみ”が殺しをする』という図式になかなか気付いて貰えませんね。犬達は白昼の元に晒すのが目的だから『司法の犬』なんですけど」とよしりん☆、溜息を着いた。
「まあ今回は特別に男Aが幼馴染みで友人男Bを殺害し、『犬』から『狼』に堕ちるから余計混乱するかもな」と鬼塚、苦笑する。
●リプレイ本文
●序章 深い闇に蠢くもの
――雨雲が厚く垂れ込む暗い夜。護岸に当る波の音と遠くで出航を知らせる船の警笛が鳴る。
人気のない埃臭い倉庫の中、浮かび上がる全身黒尽くめの若い男の姿ともう一つの影。
男の足下に転がされ、猿ぐつわをされ恐怖を浮かべる中年の男。
鈍い空気音が繰り返され、鉛の弾が中年の男に撃ち込まれる。
その度に潜った悲鳴が上がる。
「‥‥‥精度が悪いな」
灯台の光が入り、一瞬倉庫にいる若い男「狼」の姿がハッキリと見える。
「まあ、流れ品ですしね。それよりも消音器はリクエスト通りですよ」
密輸ブローカーは目の前の惨劇に眉をしかめ乍ら言う。
「苦しませるつもりはなかったが‥‥まあ、お前もそれだけ事をしたという酬いだ」
つま先で足下の男をひっくり返す狼、男の恨みがましい目と合う。
「俺も近い内、お前と地獄で会うだろうが‥‥その時はよろしく頼むぜ」
誰とも聞こえぬつぶやきと薄い笑いを唇に浮かべ、止めを刺す狼。
「代金だ」
輪ゴムで纏められた札の束をブローカーに投げ付ける狼。
1、2、3‥‥と枚数を数えるブローカー。
「少し多いね」
「こいつの処分代だ」
冷たくなった男を足で示す。
「これじゃあ足らないね。もう30万、船員達の酒代にもなりやしない」
「足下を見るな‥‥‥」と狼。
「見ているつもりはないよ。原油高騰で外洋に出る船は数が減ったし、公安だってそうバカじゃない。面倒ならきちんと自分で始末すべきだろう? 『夏目』さん」
狼がブローカーの胸ぐらを掴み、締め上げる。
「その名前をどうして‥‥」
ガシャリ
闇から突然現れた男達、安全装置を外された銃口が狼の背中に集まる。
手を上げ、仲間を制すブローカー。
「広い情報網がなければ、こちらもやっていけないよ。足下が掬われない為にも身元がハッキリしない奴とは取り引きをしないのさ」
「その名前の男は、もういない‥‥‥」
ブローカーを突き飛ばす狼。
「ああ、そうだったな。失礼した、『狼』さん」
咽を摩り、にやりと笑うブローカー。
――画面一杯に暗い空が広がり暗転。
●狩るべき獲物、集う犬
総合病院・聖馬堆病院の外科医師「犬塚裕子」が臓器売買による不当な臓器移植を行っていると言う情報を得た犬飼(ブリーダー)。臓器売買を斡旋している暴力団組織の壊滅と臓器売買ルート撲滅の為、 配下のドッグヘッド「夏目 馨」に指示が下る。
――もうもうと紫煙が立ち篭め、騒々しい迄の合成音が鳴り響くパチンコ店。荒々しく裏口から出て来るベスト姿の店員「夏目 馨」。ポケットの中から煙草を取り出し、火を着けようとする。石が磨耗しているのか中々着かずイライラとする男。脇から男の前にライターが突き出される。
「夏目さん、狩りの時間です」
銀行の外回りのような地味なスーツ姿の男、鳩(連絡員)が声をかける。
「フリーになって犬達のリストと指示書が入っています。いつもの事ですが取扱いに注意して下さい」
そういうと馨にライターにデータカードを重ねて渡す鳩。遠目に見れば鳩からライターを受け取っているようにしか見えないだろう。受け取ったデータカードをポケットに落とし込むと何ごともなかったように煙草に火を着ける馨。
「仮染めの時間は楽しかったですか?」という鳩。
「丁度、飽きて来た所だよ」といい、ポリバケツにベストを放り込む馨。
カーテンの閉められた薄暗い部屋、ビールの空き缶と吸い殻の山が目立つ机、コンピューターディスプレイの灯だけが明々と辺りを照らす。白カットソーにジーンズというラフな私服姿の馨が見つめるディスプレイに映しだされている聖馬堆病院の理事「四ツ谷清慈」と外科医師「犬塚裕子」、暴力団白鷹会の幹部「神埼竜童」。
犬飼の調べによれば犬塚裕子はストレス解消の為に始めたギャンブルに狂い、神埼が代表となっている消費者金融に借金をしたのが事の始まりのようである。雪だるま式に増える借金のカタに言いなりになっているのだろうというのが、犬飼の見解である。だが一外科医の単独で行える程、臓器売買は簡単ではない。貧困層をターゲットにした二昔以上前の東南アジアであれば提供者の体から臓器を取り出すだけ取り出した後、碌な処置をせずに放り出すという行為もあるだろうが、ここは日本である。病院ぐるみと考えるのが適切であろう。
「どこまで誰が関わっているか、調べる必要があるな‥‥大きな狩りになりそうだ。人選は慎重に行わなければならないな」
そういうと馨は、キーボードの隣に置かれた缶ビールをごくりと飲んだ。
データを読む馨、リストアップされた待機メンバーのリストに懐かしい名前を見つけ目を細める。
画面上に浮かぶ名は「梁瀬祐輔」、馨の幼馴染みであった。
梁瀬祐輔は、大手の情報処理会社に勤める表の顔を持つが、名うてのハッカーでもある。
――召集されたメンバー達のリストと交代に馨の部屋を訪れる犬達の姿がが画面に映し出される。
銀行の窓口に座っていそうな千鳥格子のベストを着た「秋津 空」、チャコールグレーのスーツ姿の「森崎 崇史」‥‥そして大きなパソコンの箱をを抱えたグレーのスーツ祐輔が現れる。馨と握手をする祐輔。
馨の部屋がパソコンで溢れる作戦室へと変わっていく。
配線が溢れる部屋の中でキーボードに向かう祐輔。
聖馬堆病院の所属している医療ネットワークから病院のサーバーにアクセスする。
「馨、見てくれ。面白い事が判ったよ」そう馨を呼ぶ祐輔。
「聖馬堆病院は神埼が所属している白鷹会の舎弟企業だ。元々は違う経営者が運営していたのを乗っ取って、今の理事が入り込んだらしい」公安のサーバーにあった白鷹会幹部リストに四ッ谷の名前があったよ。という祐輔。
「‥‥と言う事は、売買は四ッ谷の指示か」腐ってやがる。と鼻に皺を寄せる馨。
「ああ、犬塚医師が前の病院から移って来た時期を見ると、彼女も狙われたんだな。多分、白鷹会主催するカジノとかで借金が故意に増えるようにされたんだろうな」
「そいつに関しては自業自得だろう。セレブって奴は『秘密のカジノ』とかに憧れる馬鹿共だ」
切り捨てるように言う馨に苦笑する祐輔。
「だが、証言させるには丁度良い証人だな。適当な所でこっちで保護できるように手配する必要があるな」
「ああ‥‥」ちらりと時計を見る祐輔。
「どうした? 何か予定が‥‥ああ、優香ちゃんとの待ち合わせか」時間大丈夫か? と表情を和らげる馨。
「大丈夫だよ。まだ、もうそろそろ出かけたいのは山々だが」と苦笑する祐輔。
「空、そっちはどうだ?」銀行の裏コードから白鷹会の裏金ルートを探っていた空を呼ぶ。
「あまり良くないです。意外とマネーロンダリングの方法が巧妙で追うのにもう少し時間が掛かります」
「白鷹会に入っている2人からは?」
「連絡はないです」
空の言葉を聞き、少し思案する馨。
「‥‥今日は早く上がって頭の切り替えが必要な時期かも知れないな」
* * *
時間より早く着き過ぎたのだろうか? 否、約束の時間より遥かに遅い。
腕時計で時間を確認する裕輔。
だが待ち合わせのファミレスには、裕輔の妹「優香」の姿はない。
不安を覚える裕輔。その時裕輔の携帯電話に優香からメールが届く。
『これを読んで振り返ると死ぬ‥‥かも(≧∇≦)』
慌てて振り返る裕輔。
「裕輔にぃーかくごー」裕輔の頭にトートバックがヒットする。
「優香‥‥」
「にぃに、さっきから私が手を振っていたのも気が着かなかったでしょう?」あははっと笑う白のフード付ロングコート姿の優香。
「兄に向かって丼臭いと言うな。大体なんで東京に来るんだ? 学校はどうした? 虐められたのか?」
「やだなーにぃに、健忘症? それに心配性だなー。ほら、こないだ看護士になりたいってメールしたの覚えている? 学校の説明会があるの。ちゃーんと外出許可も貰っています」とVサインをしてみせる。
「でも折角東京迄来るんだからにぃにの顔が見ない手はないもん」友達はホテルに行っているのよ。と笑う優香。
「ついでにコートとか言うなよ」苦笑する裕輔
「あ、それ良い案♪ 渋谷に行こうよ」
●裏切り者『その名は狂犬』
暴力団組織白鷹会への揺さぶりは順調に見えていた。潜入官の崇史らが内部抗争を煽り、細かい売買ルートや取り引きの把握も順調に思えた矢先、潜入官の一人が消えたのだった。
その連絡を馨に齎したのは、空であった。空は裏金ルートの調査だけではなく、崇史の専属サポートも行っていた。行方不明になったのは崇史が潜り込んだ四ッ谷派と敵対する神埼派に潜入している潜入官だった。空経由で崇史から齎された情報に動揺する馨。
その潜入官を専属サポートしてたのは祐輔である。本来その報告は祐輔からされるべきであり、当の祐輔は馨の部屋に昨日から姿を現していないのだ。
一つの考えがよぎる‥‥まさか、という気持ちがその考えを否定する。
祐輔を「犬」へ誘ったのは馨自身である。
馨自身は実姉を麻薬中毒にし廃人にした姉の恋人を殺害し、服役中に犬飼から「犬」に誘われたのだった。祐輔は馨を助け、殺人を手伝ったのだ。
だが逮捕起訴されたのは馨だけだった。
「祐輔には、優香がいる。いいか、奴を殺したのは俺だ。お前は、俺を止めに来たが間に合わなかった。いいな?」
馨は男の死体を前にそう言うと警察に通報し、自首をしたのだった。
馨が「自分一人で殺害を行った。祐輔は止めようとして追い掛けて来た」と言い張り、検察側も祐輔に関しては証拠不十分であった為に不起訴になったのだ。
其れ故誰よりも馨が信頼し、自分と同様に悪を憎んでいる。と思っていた祐輔が裏切ったとはにわかに信じられないでいた。
だが、偽造カルテと紹介状で患者として聖馬堆病院に入り込んだ空から齎された報告は紛れもない事実だった。
直接、聖馬堆病院のサーバーにアクセスして金の流れを把握しようと潜入したのである。道に迷ったフリをして病院内をうろつき、医師達の控え室のあるエリアに侵入した空。
「‥‥ここも駄目か」
しっかりとした施錠の為に医師達の端末からの侵入は出来なさそうである。
溜息を着く空の耳に無駄話をするナース達の声が聞こえる。
慌てて近くのエレベーターに飛び乗る空。
「あ、嫌だ。霊安室に行くエレベータじゃない」
地下階に着いた空、今乗って来たエレベータからは外に出る事は出来ない。警備員に会ったなら、堂々と迷子になったと言えば良い。そう覚悟を決めて、通路に出る空。
ふと、好奇心に狩られて開いているドアを覗く空、手術着を着た犬塚が見え、慌てて身を隠す。
手に持つ何かをクーラーBOXに詰め、憔悴した様子で部屋を出ていく犬塚。空が見ている事に全く気がついていないようである。犬塚が出て来た部屋に滑り込む空、むせ返る血の匂いに顔をしかめる。
恐る恐る白い布が被せられている台に近付き、布を捲りあげる。
かつて人であったそれを見て嘔吐する空。紛れもなくたった一度だけだが顔を合わせた行方不明の潜入官であった。
* * *
祐輔の持ち出したデータを確認する馨。
祐輔が姿を消すのと同時に馨達が把握していた白鷹会の口座データが1つ消えていた。普段の祐輔ならば改変したという痕跡すら残さずにいるのだが、素人同然のその荒っぽい痕跡は馨の知る祐輔ではない。
「何か、意図があるのだろうか?」
必死に考えを巡らせる馨。
祐輔の裏切り、任務失敗、撤収と犬飼に連絡するのは、まだ早い。
そして何より祐輔が裏切り、潜入官を死に追いやったのであれば自分自身の手で決着を着けたかった。このチームは自分が編成したのだ。
* * *
「‥‥森崎さんも気を付けて下さい」表情を固くして言う空。
「ま、こちらのサポーターは空ちゃんですから安心ですね☆」と崇史。
「そんなの判りませんよ。私だって生皮剥がされたら、うっかり言ってしまうかも知れません」
ぶるり。と身を震わせる空。
「で、彼はどうするって?」
「此方は変わらず壊滅せよと‥‥」
「ふーん、狂犬はどうするの?」
「私や夏目さんで狩ります」
ふーん。といつもと変わらぬ崇史。
「しかし、神埼って男は根っからの暴力団の割に意外と目端が利くんですね。僕の着いた四ッ谷は暴力団員っていうより、やっぱり欲の皮の突っ張った糞医師ですねぇ。顔に似合って危険薬物バイヤー‥‥いや、水増しで浮かせて売っている卸し元ですよ」なんであんなのが暴力団の幹部なんでしょう。とのんびり言う。
「まあ、下の奴らも似たり寄ったりで、それなりで楽なんですがね。時にどうします?」
「は?」
「折角のホテルですよ。一緒に手を繋いで出ますか? それとも別々がいいですか?」シチュエーション的にはお固いOLとヤクザのヒモっていう関係がいいですよね☆
なんでこんな男の担当なのだろう‥‥そう思う空だったが、逆に気を使わないのが気楽で良いのかも知れない。人間の残骸を見て、落ち込んでいた気分が少し軽くなった気がする。前向きに考えれば、崇史なりの気遣いなのかも知れない。
余裕を無くせば、他に目が回らず適格なサポートが出来なくなる。少なくともこの男を無駄死にさせる事はしたくない。少なくとも私は死なせる為に犬をやっている訳ではないのだ。
「じゃあ、腕を組んで出ましょうか」そう言って笑った。
●「人」として
少し時間は遡る。
仕事帰りにいつもの通り馨の部屋に向かう祐輔。祐輔には似合わない可愛らしい着信曲が流れる。私から掛かって来た事がすぐに判るように。そう言って優香が祐輔の携帯に無理矢理登録していった曲だ。
「優香?」
「よお、初めまして『お兄ちゃん』。元気な妹だな、健康そうで何よりだ」低い男の声。
「‥‥誰だ?」
「神埼と言えば判るか? 楽しい真似をしてくれたなぁ、御礼に妹は丁重に預かっているぜ」
「妹は関係ないだろう‥‥妹は無事なのか?」
「兄ちゃんが、声を聞きたいってよ」
黒いダブルのスーツを来た神埼の足元に転がる優香。
「残念乍ら喋りたくないそうだ」
くっくっと咽を鳴らして笑う神埼。
「妹に手を出したら殺してやる」
「物騒な事を言う兄ちゃんだな。俺は平和主義なんだ。楽しく取り引きと行こうぜ」
●プライド
情報収集や改竄を得意とした祐輔、祐輔の勤める会社には何時の間にか長期休暇届が出ており、そちらから祐輔を追いかける事は出来なかった。祐輔の借りていたアパートを家捜しする馨。
渋谷にある若い女性向けブティックの真新しいショピングバックを見つける馨。中には綺麗に梱包されたプレゼントボックスが入っている。祐輔が優香に買った物であろう。
がさごそとゴミ箱をひっくり返し何かを探す馨。見つけたレシートは、祐輔が来なくなった日の前日である。
「帰っていない?」
馨は祐輔の友人を名乗り、優香の寮に電話を掛けたのだった。不信がり中々口を割らない寮母に祐輔から昔聞いた優香の同級生や寮の同室者の名前を言い並べ、優香の所在を確認しようとした結果、得た答えである。
電話を切った馨は、すぐさま待機をしている空へ連絡を入れる。
「神埼のここ数日間の動きを、いつもと違った動きがないか大至急確認してくれ」
「空ちゃん、珍しいですね☆ ん、こっちは順調ですよ」
空から電話を受ける崇史。
「うーん、4日前位かな? 急にバタバタと‥‥」ふと何か思い当たる崇史。
「ああ、彼がいなくなった前の日ですね。ふーん‥‥僕はこのまま継続しますよ。何時でもお膳立てが良い様にね。どうも舐められたままってのは気に入らないですから」
崇史の報告を元に4日前の行動を洗い直す空。神埼が聖馬堆病院、敵対する四ッ谷を深夜訪ねているのである。
祐輔の置き土産、病院に設置されている防犯用監視カメラとリンク、記録しているHDDに神埼と部下が担ぐ不振な大袋が写し出されていた。手土産と言うには大きすぎるその袋は、神埼が帰る際にはなかった。つまり病院内に何かを置いて来たのだ。
ばらばらになっているパーツを一つづつはめ込むように確認しなが得た推論。
祐輔の妹「優香」が神埼に押さえられた為に神埼に情報を流したのであろう。
「あの馬鹿、一言言えばいいのに‥‥」
「森崎さんからの報告では、神埼はかなり危険な男です。神埼のいいなりになったとしても優香さんが無事に帰って来る確立はかなり低いです。それに‥‥」
「ああ、全くだ‥‥神埼と刺し違える気なら祐輔も病院の近くにいるな。一気にハンティングをかけるぞ」神埼と四ッ谷、優香の同時救出だ。そう馨がメンバーに告げる。
誰よりも愛する者を守れるようになりたい‥‥そう思い人ではなく「犬」を選んだはずであった。
だが大切な者を守るため、心を持つ人である故、迷い思い、迷う祐輔の気持ちは馨達にもよく判る。
「Wハンティングと彼女の救出‥‥面白いじゃないですか」
祐輔の裏切り以降、暗くなっていたチームメンバーの志気が上がる。
●Wハンティング『狩られるのは奴らだ』
長い暇を持て余す患者達がエレベーター前の長椅子の上で花札をしている。売店や見舞いのクッキーやチョコと言った菓子が景品である。
「何をしているんです!」
ジュースの入った紙コップが飛び散る。唇を震わせ、怒りを表にする犬塚。
「先生、ほら暇つぶしですよ、ねえ」
「お金をじゃなく、余ったお菓子とかそういうのだから」
「関係ありません! 病院内で賭をするなんてもってのほかです! これは没収します!」
犬塚の金切り声が響く。
イライラと花札をドクターコートのポケットに押し込み足早に立ち去る犬塚。
ナース達のヒソヒソ話しが聞こえる。
八つ当たりなのは、犬塚自身も百も承知である。自分の弱さのせいでズルズルと理事長と神埼の言いなりになっている。だが警察や医師会に告発する勇気もなくここ迄来てしまった。
神埼の指示で睡眠薬を投与し続け、眠り続ける少女。彼女の行く末が案じられるが‥‥。
「私にはどうする事も出来ない」
恨めしそうにポケットの中の花札をゴミ箱に叩き込む犬塚。
その犬塚の後ろから声をかける空。
「外科の犬塚先生ですよね?」
* * *
「ちっ! あれ程、安い挑発に乗るなと言ったのにあの馬鹿共‥‥」
崇史が口火を切った事件であった。
神埼が見つめるTVではレポーターが新宿で起った発砲事件を伝えている。
『‥‥昨日よりお伝えしております広域暴力団白鷹会系傘下の暴力団同士の抗争はついに発砲事件に発展し、死者1名重軽傷者3名‥‥‥通行人よる被害は今の所確認されておりませんが、これを発端に警察による調査が‥‥』
忌々し気にTVのスイッチを切る神埼。
「誰か、車を出せ! 四ッ谷に、聖馬堆病院に行くぞ! 小賢しいロートルが。麻薬だけで満足してりゃいいものを、今日こそ引導渡してやる!」
* * *
「な、なんですか? 貴方達は?」
淡いベージュのマオカラーのスーツにドクターコートを着た四ッ谷が上ずった声をあげる。
「『梁瀬優香』は何処にいる?」
「入院患者の事は、受付かナースセンターに聞いてくれないと‥‥」
「白鷹会の神埼から預かった娘だ」
「白鷹会?」
荒々しく四ッ谷の襟を締め上げる馨。
「しらばっくれるのは止めようぜ。あんたの所の医者が神埼がここによく出入りしているって教えてくれたぜ?」
「ああ、あの時代遅れの‥‥ええ、存じ上げていますよ。でもウチは真っ当な医療機関ですから‥‥」
「真っ当? 取りあえず帳簿が真っ当かどうか微妙だけど、帳簿は国税局に贈ってあげたわ」と空。
「なに?」
「後、厚生労働省と医学倫理委員会? カルテは専門用語が多くて良く判らなかったから、専門家に任せたわ」
「部外者がカルテを持ち出せる訳がない! 二重に鍵が掛かっているんだぞ!」
「保管場所はこの人に聞いたわ」
空に押し出される犬塚。ぺたりと力なく四ッ谷の前に座り込む。
「恩を仇で返しやがって! 借金まみれでどこの病院でも拾って貰えなかったお前を拾ってやった僕の病院に泥を塗やがったな!」
犬塚を蹴る四ッ谷。
「乱暴は良くないぜ。『医術は仁術』を唱う大先生が弱い者苛めは」
ちくり
暴れる四ッ谷の首筋に何かを注射する馨。
「なにを‥‥‥」
「ああ、この病院で処方されている安定剤だな。もっともこれを手に入れたのは、渋谷のヤンキーを締め上げて手に入れたから、多少混ぜ物が入っているかもな」
馨の言葉を最後迄聞く事なく昏倒する四ッ谷。悲鳴をあげる犬塚。
「止めて! 殺さないで!」
ヒステリックな犬塚の声が上がる。
「別にお前の生死は興味がない。それより『梁瀬優香』は何処にいる?」
●堕ちたる犬「狼」
「手前ぇらは、向こうを捜せ!」
聖馬堆病院にやって来た神埼は理事長室に四ッ谷の姿がないのを確認すると手下達にこう言った。病院内をくまなく探すが、どこにも見当たらない。ふと神埼はある事を思いつき、地下階へと降りていく。
霊安室の床に倒れ伏す四ッ谷を見つけ、胸ぐらを掴む。
「馬鹿が! 手前ぇのせいで、組は偉い打撃を喰らっちまったぜ!」
答えぬ相手に乱暴に床に叩き付ける。
「それは事項自得っていうんだろう?」
暗闇から湧き出るように現れる馨。
「お前だけは許さない‥‥」
「はっ! お前がリーダーか! やってくれたな、ここまで俺を追い詰めたのは誉めてやるよ!」だがここ迄だな! そういうと神埼は献花台に置かれた燭台で馨に殴り掛かっていった。
狭い霊安室の中、びゅんびゅんと風を切る燭台。線香立てが転がり手向けの花が神埼の振り回す燭台で粉々になる。
「お前の手下もここで俺が殺してやった! 手下と同じ場所で死ぬんだ、有り難く思え!」
線香立てに足を取られ体勢を崩す馨、その頭へ振り下ろされる燭台。灰を投げ付ける馨。
「くっ!」
一瞬の隙を尽き、ボディブローを喰らわせる馨。
強かに頭を壁に打ち付け、脳しんとうを起こす神埼。
「お前だけは、生かしておけない!」
そう言うと馨はもう1本の燭台を振り下ろした。
――駆けつけた警察官が見たのは頭を殴打され絶命している神埼と血に塗られた燭台を握る青ざめた四ッ谷の姿であった。
* * *
ハンティング結果を鳩に報告する馨。
鳩から返って来た言葉は労いの言葉ではなく「梁瀬祐輔」の処分であった。
「何故だ! ハンティングは成功だったはずだ! 四ッ谷は対立派閥の神埼を殺した罪と麻薬密売、臓器売買で有罪決定なはずだ! 臓器密売ルートも白鷹会という主軸を失って壊滅したはずだ!」
鳩に詰め寄る馨。
「例外は認められない‥‥何故ならば我々の組織は利害関係で繋がっている訳では無いからだ。如何なる理由でも我々の組織は一枚岩で無くてはならない。上部は今後も同じ行為を繰り返す可能性を懸念している。俺や君のように全てを失っている者は少ない‥‥君も他の者に彼を処分させるのは心苦しいだろう」
そう言うと鳩は引き出しの中から犬飼から託された物を、小さな包みを馨の前に置く。
「彼を静かに逝かせてやれ‥‥」
見かけよりずしりと重い、その塊。『梁瀬祐輔』の命の代価(拳銃)。
「今回、犬として一時的な感情に負け、神埼を君が殺した違反行為は上も承知している‥‥これでチャラだそうだ」
苦々しくいう鳩。
「俺の身替わりに祐輔を殺せと言うのか!」
「違う! 二人死なせるよりは、どちらか一人を選んだんだ。お前はドッグヘッドとしてこの後も多くの闇を刈り取る事ができるだろう。自分の命を投げ出してもだ! だが、梁瀬駄目だ! 自分の命よりも正義よりも妹を取った。人として当たり前な行為かも知れない。だが彼では駄目なんだ! 彼では絶対的な正義は守る事は出来ない!」
馨はこの鳩が激高するのを初めて見た。
にやにやと腑抜けのように笑い、馨をからかう姿しか覚えがなかった。
「彼では‥‥駄目なんだ。馨、君でなくては‥‥頼む‥‥」
「俺は‥もう俺は人ではあり得ない。俺は‥‥‥浅ましい獣だというのか」
――山村近い小さな壊れかけた家。祐輔の実家である。
「やぁ、遅かったじゃないか」
まるで遅刻して来た馨を責めるように言う祐輔。
「ここで僕達は初めて会った。ああ、この傷はチャンバラごっこをして着けた傷だ。ちゃんと残っているんだね」
「祐輔‥‥」俺は今どんな顔をしているのだろう? そんな事が頭をよぎる。
「‥‥分かってる。僕を処分しに来たんだろう」
「祐輔‥‥逃げないのか?」
「どこに? 神埼に情報を流した時から覚悟は出来ているつもりだよ」
下を向く馨。
「優香ちゃんはどうする‥‥」
「優香は強い娘だ。もう僕が居なくても大丈夫」
「‥‥‥‥」
「でも馨、君が来てくれて良かった。犬飼も粋な事をしてくれるよね」
明るく笑う祐輔。
「‥‥僕は犬が、組織が、大嫌いだった。君が僕や優香を思って一人で刑務所に入った事も‥‥僕には重荷だった」
ぽつりぽつりと喋る祐輔。
祐輔の言葉に驚き、顔を上げ祐輔を見据える馨。
「‥‥‥よせ」
「‥‥だから馨が僕を犬に誘った時、僕は断れなかった。ずっと犬を止めたいと思っていた」
「よしてくれ。そんな言葉、お前から聞きたくない!」
「馨‥‥」
「止めてくれ!!」
悲鳴に近い叫び声を上げ銃のトリガーを引く馨。
狭い部屋に響き渡る銃声に驚き、鳥が飛び立つ。
「‥‥済まな、い‥‥かお‥‥」
「あぁーーーーーっ! 祐輔、祐輔!」
祐輔の亡骸を抱き、慟哭を上げる馨。
――燃え上がる小さい家。馨の思い出と共に一晩中燃え続け、朝靄と共に全ては消えたさった。
* * *
優香が目を覚ました時、事件は全て終わっていた。
泣いているクラスメイト達のぼんやりとした目で見つめる優香。
白い天井を見つめ「どうして皆、泣いているの?」と呟く。
頭の中にもやが掛かったように昼夜関係なく睡魔が襲う。
ふと気が着けばチェストの上に置かれているショピングバック、寮に送られて来たのを持って来たとクラスメイト達が言う。ピンクのリボンに包まれたプレゼントボックス。中は優香が渋谷で祐輔に強請ったコートが入っていた。
「にぃに?」
優香が昏睡状態に陥っている間、祐輔が利用している車が東京湾で発見されたのである。
スリップしたタイヤ痕から何かを避けようとしてハンドルを切った所、タイヤ止めを乗り越えて転落したのだという連絡が警察から入った。と告げるクラスメイト。
「まだ見つかってないけど、多分無理だろうって‥‥‥」
「嘘だよ、だってにぃにが私を置いていくなんて‥‥嘘だよ!」
ベットの上で、泣き崩れる優香。
――退院した優香。海の見える墓地を上がっていく。
結局、梁瀬祐輔の遺体は見つからず、主のない墓が建てられたのだった。
誰か来たのであろう。火の着いた線香と真新しい花が飾られている。
「誰だろう、お友達かな?」
優香、持って来た花と線香を備える。
「にぃに、これから聖馬堆病院の裁判に行って来るね。どうか私に勇気を下さい」
――白い線香の煙が青空に消える。
●CAST
夏目 馨:風祭 美城夜(fa3567)
梁瀬祐輔:伊達 斎(fa1414)
森崎 崇史:Even(fa3293)
秋津 空:斉賀伊織(fa4840)
神埼竜童:桐生董也(fa2764)
四ツ谷清慈:バッカス和木田(fa5256)
梁瀬優香:阿野次 のもじ(fa3092)
犬塚裕子:稲森・梢(fa1435)