魔王子、雪と戯れるアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/27〜01/30

●本文

 晴れ上がった空に冴え冴えと輝く満月。
 その寒いの空にまるで湖に張った薄氷りが割れるような「ピシッ」という乾いた音が響く。

「今夜も冷えるなぁ」
 薫の家のコタツで「炬燵虫」と化している魔王子。
 TVでは気象予報士が日本海側での大雪を予報している。
「ウチの近所では、雪は降らないのだな?」
「そうだね、僕の家があるのは太平洋側だし」と薫。
 地元TVにチャンネルをあわせる薫。時間帯的にやはりここでも天気予報をしている。
 細かいエリア別の予報を見て「あれ?」と声をあげる。
「うちの近所は、こっちは雪? ええ、大雪って?」
 目をパチパチさせる薫。
「どうした?」
「明日の天気予報。こっちのチャンネルじゃあ、雪だって」
「なに? 寒いのか?!」
 寒さが苦手な魔王子に取っては一大事だ。

「情けない‥‥‥」
 そんな台詞と一緒に窓が凍り付いたと思った瞬間、どぅと大量の雪と共に窓やドアが一斉に開く。
「誰だ!」
「全く持って情けない。それが王子のする姿か‥‥」
 頭には冠を被り、全身が水晶と銀細工で出来たような女性が居間に現れる。
 女性の吐く白い息に触れ、一瞬で居間が凍り付く。
「お母様!」
「ええ、権兵衛のママ?」
「左様、私はエム・ランドの女王、渾沌と闇、雪と氷を司る魔物の王『ギュンタージュ』」
 ちらりと家具が凍り付いたのを見つめ、美眉を顰める。
「そこな少年、薫と申したな。お初にお目に掛かる。魔王子は我が侭故、何時も迷惑を掛けているであろう」
「あ、初めまして‥‥今晩は、笹原薫です」
 今時TVの時代劇でしかお目に掛からないような古い言葉遣いに目をぱちくりさせる薫。
「お母様が人間界にいらっしゃると判れば、予めそれなりに用意をしたのに」
「どうせ、どこかに隠れてしまうつもりだったのでしょう。王子の考えそうな事は判ります。それに緊急の用だったのですよ」
「緊急?」
「ええ、私が何時もしているネックレスを覚えているでしょう。あれが盗まれました」
 女王が言葉を話す度に居間のつららが太くなる。

 女王の首を飾るネックレスは、女王には余り相応しくない地味で目立たないネックレスである。
「酔狂な物を盗むやつがいるなぁ」と魔王子。
「あれには私の魔力が封じ込めてあるのです。お陰で私の力が溢れる今、エム・ランドは壊滅状態」と溜息を吐く。その瞬間、大きな氷柱が居間に出現する。
「王様に至っては、立派に氷柱になっていらっしゃる位で」と、もう一つ溜息を吐く。
 氷柱が1本増える。
「実家の山に籠っている間にドワーフに新しいネックレスを作って貰うにも、途中の街道は魔法飛行や瞬間転位が禁じられているので被害が増える一方‥‥」
「うわーっ、お母様! 溜息をお止め下さい。薫が氷ってしまいます!」
「あら?」
 魔王子の名付け人である薫は魔王子の魔力に守られているとは言え、女王の魔力の比ではなく、うっかり魔王子が集中するのを止めてしまえば氷柱になってしまう。実際、笹原家を中心に周辺一体の家が凍り付いていた。

 ガス台の火で凍り付いた毛布を溶かし、薫に掛ける魔王子。
「じゃあ、ネックレスはエム・ランドで女王様が力を解放しない分‥‥余剰分の冷気っていうか魔力が入っている事になるんですか?」
 寒さで歯の根が合わない質問をする薫。
「そう言う事ですね」
「犯人は判っているのですか?」
「ええ、まだ400歳程度の若い氷の魔物です」
 美眉を顰める女王。
「人間界に来ているのも判っているです」
「だから迷惑も省みず、自ら人間界にいらしたのですか!」と頓狂な声をあげる魔王子。
 じろりと女王に見つめられて、首を竦める魔王子。
「私ならネックレスの魔力を追えますからね」
 うーん、うーん。と悩む魔王子。
 このまま居座られ、ネックレスを追い掛ければあっという間に日本中が氷柱と化すのは、時間の問題だ。
「判りました。俺が探します。お母様はエム・ランドにお戻り下さい」
「断ります。私の失態です。私、自らが動く事により事態は収束するはずです。第一、王子ではネックレスの力を追えぬでしょう」
「どの位、離れていても判るんですか?」と薫。
「地球の裏側でも判ります」
「えーっとじゃあ、女王様の指示を聞き、僕らが探すって言うのはどうです? 盗んだ魔物も女王様自らいらしたと聞いたら返すにかえせなくなると思います」
「それはあるなあ。お母様が怒ると恐いのは、周知の事実だ」
 魔王子の言葉に女王のこめかみに青筋が立つ。
 その瞬間、大きな雪の塊がどこからか飛んで来て魔王子を直撃する。
「一理ありますね」コホン! と咳をする女王
 そういうと女王は両手を胸の前で合せると何か呪文を唱える。
 ぽん! 手の中から小さなフワフワとした白兎のような生き物が現れる。
「この子が私の言葉を伝えます。私は何処で待っていればいいのですか?」
 斯くして女王は、北極海の上で待つ事になった。
「やるな、薫」
「あそこなら幾ら凍り付いても今は冬だし。この前のTVで地球温暖化で氷が溶けて困っているって言っていたしね」


●アニメ『魔王子、雪と戯れる』声優募集
 あらすじ:女王のネックレスを取りかえす為に女王の分身「雪兎モドキ」と一緒に雪山にやって来た魔王子と薫一行。寒さで魔法が使えない魔王子と薫達は無事に女王のネックレスを取り戻す事ができるのか?

 雪山で迷子になった魔王子と薫たちが出会った雪の精との交流を描くハートルフルアニメ。


●主な登場人物
「魔王子:ゾーンゼー」通称:王子または権兵衛、モンスター達の王国、エム・ランドの王子。ちょっと小柄なイタズラ好きの男の子。仲良しの妖精と一緒に門を抜け、人間界にやって来た。寒がりで卵焼きが好き。本名で呼ばれる事を嫌う。
「妖精:チェルシー」魔王子のファン。魔王子と一緒に人間界にやって来た。着せ変え人形サイズ。
「笹原薫」魔王子を呼び出した小学生。
「魔物」エム・ランドの住民。魔王子の世話係。吸血鬼や狼男等、人型に近い程人間の一般識をやや理解するが、通じない部分も多い。人間に近い物はアルバイトをしたりして、生活費を稼いでいる。
「雪の精」冬の一時期だけ山に独りでいる。寂しがりやで人間好き、人目に触れる際の姿は愛らしく「ゆきんこ」とも呼ばれる事もある。
「氷の魔物」女王のネックレスを盗み、人間界へやって来た若い魔物(400才)雪の精の知合い?
「女王」魔王子の母親、エム・ランドの女王。渾沌と闇、雪と氷を司る魔物の王、ギュンタージュは通り名。
「兎モドキ」女王の分身、白兎っぽい風体をしている。人間や魔物が理解出来る言葉を喋る。

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa1406 麻倉 千尋(15歳・♀・狸)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa3764 エマ・ゴールドウィン(56歳・♀・ハムスター)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)
 fa4286 ウィルフレッド(8歳・♂・鴉)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)

●リプレイ本文

●CAST
 魔王子‥‥‥ウィルフレッド(fa4286)
 チェルシー‥白井 木槿(fa1689)
 デュラン‥‥藤井 和泉(fa3786)
 ぎゅん太‥‥麻倉 千尋(fa1406)

 笹原薫‥‥‥パイロ・シルヴァン(fa1772)

 ティウィン‥グリモア(fa4713)
 雪の精‥‥‥姫乃 舞(fa0634)
 女王‥‥‥‥エマ・ゴールドウィン(fa3764)


●スキー場は危険が一杯?
 女王の分身のぎゅん太に連れられてスキー場にやって来た魔王子達、一行。
 そこは偶然にも秋、紅葉を見に来た山であった。
「灯台もと暗しだね」とボソリ呟く白いスキーウェアの薫。
「さ、寒い‥‥」
 黒いハーフコートに黒いタイツ、手袋、マフラー代わりにぎゅん太を巻いている魔王子。
「権兵衛、寒いって言わなければ気分だけでも寒くなくなるよ」と薫。
「王子様はデリケートなんだからしょうがないでしょう」
 魔王子のポケットから顔を覗かせるチェルシー。
「やっぱり、寒い〜‥‥羽根が凍っちゃいそうだよ‥‥」
 薫のママに買ってもらった黒い毛皮のコート、黒いリボンのヘッドドレスに毛皮のマフとロリゴス姿である。
「チェルシー、北極海に比べれば暖かいですよ。静かにしないとぎゅん太が気配を追えないでしょう」
 氷で作ったベンチに座り白熊を従え、アザラシの子を抱く女王を思い出すデュラン。本人は「騎士」の称号を魔物なので、魔力で寒さを感じないがスーツ姿はスキー場に寒々しい。
「デュランを見ているだけで寒くなるの! 早く終わらせて帰ろうよ」
「まじめにやらないと、えむ・らんどがほろんじゃうの〜」
 吹雪で閉業しているスキー場。
 薫は、管理センターに話を聞きに行っていた。
「この吹雪は満月の夜からだって。それまで雪不足でスキー場が開けない位だったのに急に降り出した。って管理のおじさんが言っていたよ」
「どうやらネックレスを盗んだ氷の魔物がここにいるのは間違いないな」と魔王子。
「だけどやって探す? ゴンドラも止まっちゃっているし」
「やっぱり歩くしかないだろう」

 * * *

 取りあえずゴンドラを目標に山頂目指し、歩き出す魔王子達。
 ゴゥと風が目の前を通り過ぎる。
「デュラン?」
 先頭を歩いていたはずのデュランの姿が見えない。
「薫!」
 慌てて後ろを振り返る魔王子。
「‥‥ここにいるよ」
 少し後ろを歩く薫の姿に安堵する魔王子。
「これ以上は無理だ。戻ろう」
「でも、どうやって?」
 轟々と吹く風に足跡は消えていた。
「ねっくれす、とってもちかくなの〜」
 ぎゅん太がぴこぴこと耳を動かす。

 吹いていた風がぴたり止まる。
「ねぇ、あなた達。私と一緒に遊ぼうよ!」
 木の陰からひょっこり姿を現す白い着物を着た少女、銀髪に薄い水色の瞳。
「氷の魔物?」
 魔王子のポケットからチェルシーが身を乗り出す。
「ぎゅんたのねっくれす、みつけたの!」
 雪の精に駆け寄るぎゅん太。
「え? きゃーっ!」
 驚いて逃げようとする少女。
「ネックレスを盗んだ魔物?」
「判らん、捕まえて話を聞こう!」

 * * *

 ――一方、
「ふむ、王子達と逸れたか?」
 雪原に1人立つデュラン。
「王子に何かあっては騎士の名折れ、探しますか‥‥」と溜息をつく。
「‥‥こんな所に人か? 人ならば雪菜と遊んでやってくれないか?」
 銀髪に白銀の輝きを持つ服、薄い色の瞳‥‥氷や雪の眷属特有の冷たい印象の美しい面立。
「嫌‥‥魔物ですよ。『女王様のネックレス』そう言えば判るでしょう」
「‥‥ふん、大人しく返すとでも思うのか?」
「元より素直に返してくれるとは思っていないですよ。人間界に逃げた罪人が」
 身に纏っていたスーツの輪郭がぼやけ、代りに黒い甲冑が姿が浮かび上がる。
「デュラハンか‥‥」
 氷の魔物の手の中で氷の剣が出現する。
「名前を聞いておきましょう。貴方は私と違って首が無くなったら死んでしまうでしょうからね」
 そういうとデュランは笑った。

 * * *

「降参、参ったぁ」
「暑〜い、咽乾いた〜」
 息を切らせ、雪の上に大の字になる魔王子と薫。
 少女を捕まえる為に追い掛けていたはずが、何時の間にか「追いかけっこ」なっていた。
「だらしないぞ」と笑って近付いて来る少女。
「捕まえた!」
 チェルシー、魔王子のポケットから飛び出す。
「ずる〜いって、まあいいわ。あなたは小さいし」
「これでも一族じゃ標準サイズなんだから」
 怒るチェルシー。
「あははっ、ゴメン、ゴメン。私は雪菜、あなたは?」
「あたし、チェルシー。王子様のファンなの♪」
「ぎゅんたは、こおりのまものがもっていったねっくれすをさがしにきたの」
「それって‥‥ティウィンが持って来たネックレスの事かな‥‥?」
 雪菜は首から大事に架けたネックレスを引っ張ってチェルシーとぎゅん太に見せる。
「ぎゅんたのだいじなねっくれす、みつけたの!」
「なに?」体を起こす魔王子。
 雪菜の周りを跳ね回るぎゅん太。
「ぎゅんたのねっくれす、かえしてなの! ぎゅんたのねっくれすないと、えむ・らんどがほろんじゃうの!」
 雪菜の架けているネックレスを見る魔王子。
「‥‥確かにお母様のネックレスだな」
「うん、女王様のネックレスだよね。でも‥‥この子が盗んだんじゃないよね」とチェルシー。
「確か女王様は若い魔物って言ってたけど、彼女じゃ若すぎるよね」
 雪菜とネックレスを見比べる薫。
「じゃあ誰かが彼女にあげたって事? そいつが犯人?」
 魔王子たちの話を聞いて、泣きそうな顔をする雪菜。
「お願い、ティウィンの事を怒らないで! ティウィンは、私の為にネックレスを持って来てくれたの!」

 * * *

 デュランの剣が氷の剣を弾き飛ばす。
 ティウィンは氷の礫を巻き上げ、デュランに叩き付けようとするが、剣圧で弾き飛ばすディラン。
 わずかな間にティウィンは新しい氷の剣を作り出す。
 それを見てデュラン「地の利は向こうか、忌々しい‥‥だが、こちらも伊達に騎士ではないのですよ」
 剣を構え直すデュラン。

 * * *

「私は雪の精なの。私が『人間の子供と遊んでみたい』って言ったから、ティウィンが冬が長くなれば、雪がもっと降ればって、それで‥‥」
 雪菜からぽろぽろと流れた涙は氷の粒だった。
「千鳥が言っていたな。雪の精は皆が寝てしまうから独りぼっちだと」
 顔をあげる雪菜。
「私を知っているの?」
「秋にこの山を朱に染めるのが仕事の紅葉の精だ。まだ山の全てを朱に染める前にお前が来た時一度だけ見たと、狐からお前の事を教えて貰ったと言っていたな」
「狐は冬眠しないから‥‥そう狐とその子は喋れるの、いいな。私は動物と喋れないの。人間の子供としか話す事が出来ないの」
「誰かと一緒に居たい気持ちはわかるかなっ。私だって王子様と一緒がいいもの」とチェルシー、ぎゅっと魔王子の袖を掴む。
「秋、冬、春、3人の精が住んで山を守っている事になるね」と薫。
「雪菜、お母様のネックレスを持っている限りこの山は永遠に冬が続く。雪割草を見て、綻ぶ子供達の顔を見ることも無いのだ。何、今年の冬は終わっても四季は巡って、また冬が来る」と魔王子。
「‥‥動物達も困るよね。春が来なきゃ食べる物が無くなって死んじゃう」
「もっと前向きに考えて、女王様の側仕えになってみるとかは?」と薫。
「ありがとう。でも平気、他の子が頑張っているなら私もここで頑張らなきゃ。冬が寒くないと春に芽が出ない植物もいるから」
「‥‥お母様は公明正大だ。ちゃんと話せば、きっと判って下さるはずだ」
「そうだよ。泥棒は泥棒だけど、皆でお願いすれば女王様もきっと判ってくれると思うよ?」
「‥‥うん」
 雪菜は涙を拭くとぎゅん太の首に女王のネックレスを架けた。
「じゃあ皆で氷の魔物を、ティウィンを探しに行こう」

 * * *

「こっちにまものがいるよ」
 雪の上をぴょんぴょんと跳ねていくぎゅん太。それに続く雪菜。
 必死に追い掛ける魔王子と薫。
 近くなる剣の音。
「止めて! ティウィン、私はもう大丈夫だから!」
「雪菜?」
 雪菜の姿を見て、怯むティウィン。つかさずデュランの剣が振り下ろされる。
「行け、ぎゅん太! 止められるのはお前しかいない!」
 ぎゅん太をデュランの目掛けて力一杯投げ付ける魔王子。
「だあぁぁ?!」
「おちる、おちるの!」
 デュランの視界を塞ぐぎゅん太、落っこちまいと必死にデュランの兜にしがみつく。
「戦い合う必要なんかないよ!」
 後ろからデュランにタックルする薫、その衝撃でゴロンと首が落ちる。
「危ないじゃないですか! 過って斬ったらどうするつもりだったんですか?」
 首を落としまま、文句を言うデュラン。
「‥‥デュラン、ぎゅん太を潰している」
 デュランの頭の下敷きになって目を回しているぎゅん太。
「お気を確かに!」
 ぱちり。と目を覚ますぎゅん太。
「『この無礼者!』」
「お母様?」
「「「ギャー!!」」」
 一瞬で巨大な氷柱ができる。

「ティウィン、私は皆に会えたし、それで満足だよ。それに私の為にティウィンが泥棒になるなんて嫌だよ。女王様に謝って、お願い」
「雪菜‥‥女王様に謝るにも俺に会ってくれるかなんて判らないぞ」
「その辺は大丈夫だ。お前が雪菜にやろうとしたネックレスは、お前が考えているより重要な魔法アイテムらしくってな。今、こっちに来ている」
「女王様が?」
 ぎゅん太をティウィンの前に置く魔王子。
 ぎゅん太の口から女王の声がする。

 ――海にスキー場の様子が映し出されているのを見つめる女王。

「『罪は罪、盗みそのものは看過できぬが‥‥友への助けと何故申さなかった? 雪の精も我らが眷属、私はそれ程頼り無い王か?』」
「いいえ‥‥」
「『自ら北極海に参じれば「ネックレスの件」不問とするよう王に取り計らおう。それにそこな雪菜が望むなら、今暫く里にいられる様アイテムを授けよう』」
「おお!」
「やったね♪」
 歓声をあげる魔王子たち。

「てんいげーとがひらくの〜」
 ぎゅん太の前に直径5m程の円が現れる。
「ほっきょくかいにいっちょくせんなの」
 ティウィンとデュランが円に飛び込むと円はぴたりと閉まる。
「ぎゅん太、なんで行かないんだよ」と焦る魔王子。
「まほうのあいてむわたすの〜。それに‥‥『私ならばすぐに門を開け、エム・ランドへ戻る事がすぐにできますからね。時間が経てば経つ程、ティウィンには不利になるでしょう』」

 ――氷の手枷をしたティウィンとデュランを従えた女王、海に映る魔王子達の姿を見つめる。

「大丈夫なのですか?」
「『多少魔力を使用するので、こちらに波及効果が少々出る程度ですよ』」
「どの位?」
「『日本列島丸ごと1週間程大雪かしら?』」
「喜ぶべきなのか?」
 寒くなると聞いて顔が引きつる魔王子。
「取りあえず学校は休校かな」
「じゃあ良い事だな。雪菜とゆっくり遊べる」と魔王子。
「これからまほうあいてむじゅよなの〜、りょうてをだして〜」
 雪菜に両手を出すように言うぎゅん太。
「まほうのべすと、きているとあつくないの〜。でもきているあいだは、ゆきはふらせられないの〜」
 雪菜の手の上でぎゅん太が白い毛皮のベストに変わる。
 女王達がエム・ランドに帰ったのだろう。空から雪が降って来た。
「あ、大事な事を忘れていた」
 唐突に言う魔王子。
「え? なに?」
「雪菜は里に降りた事がない。つまり誰も帰り道を知らないと言う事だな」
「ええ?!」
「ま、なんとかなるか」と呑気に言う魔王子であった。

 * * *

「ふむ、そなたがティウィンか。全く持って、そなたのせいで大変な目にあった」と王様。
 エム・ランドの中央王宮、謁見の間に控えるディラン、ティウィン(氷の手枷は外されている)、王座に座る王様と女王。
「この度の事は女王やディランから聞いたが、雪の精の為とは全く持ってヒューヒューだな」
 女王に睨まれ、ゴホンと咳き払いをする王様。
「あのネックレスはわしが女王を‥‥女王の父王や諸王達に嫁に貰うのを許可して貰う為に作った物で、わしとお揃い『ペアルック』になっておるのだ♪」
「しかし間違えて、わしのネックレスを持っていかなくて良かったな。わしの魔力が封じ込められておるからな。ネックレスがないわしが女王の故郷に何時迄もいると『愛の地熱』で万年凍土が溶けて花が咲くは、氷山が溶けて洪水になるはで、散々諸王達に文句を言われる事と言ったら‥‥尤もそれも楽しい青春の1ページだが。ちなみにわしが女王にしたプロポーズは‥‥」
 自慢げに言う王様、女王に脇を突っ突かれる。ほんのちょっぴり頬が赤い女王。
「王様、『裁き』を‥‥」
「ああ『裁き』か、そうだな」
 うーんと考える王様。
「おお、そうだ! 先日、王子から土産に貰った本に書いてあったぞ。なんでも人間界では『メイド喫茶』なるモノが流行っているそうだな。人間界の文化を紹介するする為にも、そなたにして貰うとしよう。氷の魔物ティウィン『未許可で人間界に行った罪』で1ヵ月間宮廷の清掃を命じる。ただし『メイド服』で」
「王の寛大な処置に感謝しなさい」
 ディランは、自分は氷柱になっただけで良かった。とこっそり胸を撫で下ろした。

 中庭で黒い膝丈のワンピースに白いドレスエプロン、フリフリのヘッドドレスで箒を握るティウィン。
 メイド頭の豹獣人に「ティウィン、早ぅ終わらせよ」と突っ突かれていた。
「しかし妙な流行が人間界にはあるな」と王様。
「全く、私達には理解できませんね」と女王。
「‥‥くっ、人間界は恐ろしい所だ‥‥がそれ以上に恐ろしいのは王様か」