−ザ・DOG−第5話アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/26〜01/30

●本文

●深夜ドラマ『潜入捜査官−ザ・DOG−』第5話:「穢れなき翼」役者募集
 <あらすじ>
 とある都内の高校で発生した心中事件。飛び下りたのは2人の少女。
 一人は不登校の虐められっ子 青木 香(あおき かおり)。
 もう一人は教師達からも人望が厚い生徒会長 佐々木 愛子(ささき あいこ)。
 一見、共通点がない二人を繋ぐものは?
 学校に影で蔓延する売春ルートを撲滅せよ。

 <本編1stシーン>
 月のない晴れの夜。学校の屋上に立つ二つの影。
 フェンスを乗り越える二人の少女。
 屋上のぎりぎりの所に立つ二人。
 お互いを見つめ合う瞳には固い決意と悲哀、二人は固く手を繋ぐとそのまま地面に飛び下りていった――。

 薄暗い喫茶店、ドアの表には「Closed」という看板が掛かっている。
 明るく小洒落た感じの内装は、若い女性に人気がありそうな店である。
 カウンターやテーブル席に座る男女のシルエットは、高校生や大学生ぐらいであろうか?
 20代とも30代ともつかない‥‥店主であろうか?
 坦々と彼等を前に話す。
「現場からも自宅からも遺書等は見つからず、香と愛子を繋ぐ接点は小学校の時同級生だったと言う以外は見つからなかった為に『香が自殺しようとしているのを止めに入った愛子が巻き添えで死んだ』というのが表向きの警察発表だ。確かに二人は親友だったようだが、愛子は妊娠をしており、香は大検に合格して家族には来年大学を受験すると言っていたそうだ。愛子には、家族が知る恋人というのは、いなかったそうだ。つまり子供の父親は不明ということだ。自殺の理由があるとすれば愛子であり、香にはなかった訳だ。また彼女達の通っていた高校の生徒達の姿が多くホテル街で確認されている。大掛かりの売春組織があると睨んでいるが現在の所、表(警察)の網には引っ掛かっていないようだ。調べてこの裏にある膿を白昼の元に晒すのが今回君達の任務だ」


●製作ノートより −概要−
 犯罪組織撲滅の為にだけ組織されている司法の犬たち。
 元死刑囚や犯罪組織に肉親を殺された家族たち等で構成されている潜入捜査官。
 警察機構に属さず、逮捕権、銃の携帯等一切ない『非合法』の組織。
 彼等を待っているのは、偽りの名前と裏切り者という呼び名。
 誰も本当の彼等を知らず、一時的に与えられた偽りの顔、偽りの中の孤独で辛い仮の生活‥‥‥。


 彼等を突き動かすのはただ一つ、「悪を許してはおけない」という捜査官達の熱い思いだけ。
 自らを『使い捨ての駒』と知り、
 悪行を潰す為に自らも悪を行う矛盾、
 仲間を見殺しにする非情さを抱えて葛藤し乍ら戦うダークヒーロー達。

●用語
「犬(DOG)」潜入官、サポーター、リーダーによって構成される実働潜入捜査チーム(部隊)。
「実働潜入捜査官(潜入官、顎)」調査対象組織に直接潜入する実働潜入捜査チームの捜査官。
「サポーター」潜入捜査チームの補助役。潜入官を助け、情報収集・解析、回収・廃棄、配車等を行う。
「リーダー(ドッグヘッド)」実働潜入捜査チームを指揮。1チーム1リーダー。

●登場人物解説
『店主 20、30代』
 立場:リーダー兼サポーター
 若い女性向けの喫茶店を開業している。

 他、潜入官(外見10代)サポーター(10〜20代)


「今回は潜入場所が高校や繁華街。登場人物で必要なのは『裏で糸を引いている人物』『青木 香・佐々木 愛子の家族』『教師』ぐらいだろう。まあ自由度高い分、密な打ち合せが望ましい。あとリクエストするとしたら『殺人をするな』だな」と紫煙を吐き出す鬼塚ディレクター。

●今回の参加者

 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa4079 志祭 迅(26歳・♂・鴉)
 fa4614 各務聖(15歳・♀・鷹)
 fa4905 森里碧(16歳・♀・一角獣)
 fa5196 羽生丹(17歳・♂・一角獣)
 fa5264 新崎里穂(20歳・♀・兎)

●リプレイ本文

●CAST
 青羽蒼   : 羽生丹(fa5196)
 千葉奈津美 : 新崎里穂(fa5264)
 霧生 侑斗 : 志祭 迅(fa4079)
 館 由紀彦 : 伊達 斎(fa1414)

 白井 舞 : 槇島色(fa0868)
 中野初美 : 森里碧(fa4905)
 加嶋冴  : 各務聖(fa4614)

 青木嗣人 : マリアーノ・ファリアス(fa2539)


●喫茶店『スノウフレーク』
 白い清潔感のある明るい店内、ゆったりとした椅子。
 最近オープンしたばかりだと言う割にマスターお勧めのマフィンセットの評判もあって、店内は何時も女性客で溢れていた。
 今の時間帯は近くの高校の下校時間とマッチする為に生徒が多く出入りしていた。
「ねえ、バレンタインはどうする? 誰かにあげるの?」
「チョコだけじゃ、不味いよねぇ‥‥服、買っちゃったし」
 少々大人びた感じのある少女、奈津美が言う。
「また買ったの? 良くお小遣い続くよね」
「続いていないよぉ、マジ困ったぁ。『えんこー』でもしようかなぁ」
 罪悪感が全くないのかさらりと言いのける奈津美だが、会話の内容はかなりヤバい。
 店員が注文したケーキやらを持って来たので一時話が中断する。
「あ、ゴメン。あたし、トイレ」
 ポーチを持って席を立つ少し奈津美。
「早く戻って来ないとマフィン食べちゃうよ〜」
 フォークでマフィンを突く真似をする少女。
「食べたらコロす! いや、スペシャルパフェ奢らせる!」

 トイレに入るとポーチから煙草を取り出し、火をつける奈津美。
 美味しそうに紫煙を吸い込む。
「高校生のフリも楽じゃないわね」
 便器に水を流し、校章を象ったマイクに囁く奈津美。
「トイレで密談ってエロいって感じよ。『マスター』?」
 会話の全てを録音しているのを知っている故の冗談である。
 潜入官である奈津美は、スノウフレークのマスターでもあるリーダー、由紀彦の指示で香・愛子が通っていた高校に学生として潜入していた。
「当たり前だけど2人の件は『緘口令』が引かれているわね。お陰で下手に聞いて回るもんだから、侑斗はマスコミじゃないかって教頭に目をつけられたわよ」
 奈津美は便器の中に煙草の吸い殻を捨て、マウススプレーを臭い消しに口と服にかける。
 水を流し、何ごともなかったように店内に戻る。
 ――そして「誰よ、マフィン食べたのは?」

 * * *

 閉店後、奈津美のハードディスク録音された言葉に苦笑するマスター。
 今回のメンバーでスノウフレークに尤も不自然なく来れるメンバーは奈津美だけである。
 昨今、多くの女性が来店するスイーツの有名な店に男1名だけでもやってくる来るのは大分珍しく無くなり、大人向けの店ならば「なるべく見ない」というエチケットは守られる。だがスノウフレークは女子学生が中心である。そう度々来店すれば必要以上に注目を浴びるのである。
 ましてや非常勤体育教師として潜入したサポーターの侑斗が、スノウフレークに出入りしたのを見れば神経質になっている女子生徒達の噂にあっという間になるだろう。
 そして奈津美と同じく潜入官の蒼は、別の意味で目立っていた。七三分にきっちり着込んだ学生服である。この2つの点からマスターは、蒼と侑斗の2名が営業時間内に学校から直接スノウフレークに来るのを禁じた。それ故、隠しマイクを使用する事になったのである。


●汚された翼、飛べない鳥
 加嶋冴は、目立たぬ生徒であった。
 大きな期待を寄せる両親からのストレスにより深夜歓楽街をうろついていた所を学校のOBだという生徒指導員に補導されたのである。
 以来それをネタに客を取るよう強要されたのである。

 ――メール着信を知らせる携帯。
 判っている。誰から来たのか‥‥私に届くメールは『仕事』のメールだけ。

 誰から掛かって来ない携帯電話。
 友達と呼べる人もいない。
 繁華街で私前から知っていたという不良に『仕事』がバレ‥‥

「なんでこんな事になったのだろう?」
 
 鞄をベンチに置いたままフラフラとプラットホームの端にやって来る加嶋。
 全てをそのまま放り出してしまいたい。そんな考えがよぎる。

 ――電車が進入して来るのが見える。落ちかける加嶋の腕を掴む蒼。
 吃驚する加嶋ににっこりと笑いかける蒼。
「携帯、忘れたよ。2年の青羽って言うんだけど、良かったら相談に乗るけど?」

 * * *

 中野初美は、生徒会のメンバーだった。
 つい出来心で図書室においてあった期末の試験問題を盗み見た現場を押さえられたのと内申書を盾に脅されて売春組織のメンバーに引き込まれたのである。
 本人は嫌で嫌でしょうがないのであるが、変な所に生来の真面目さが出て、今では愛子の後任生徒会長、白井の片腕となり組織を仕切っていた。
 なるべく脅迫・強要されて犯罪行為に手を染めていると言う感覚ではなく皆も行っている手軽で高額を稼げるアルバイトをしている。そう思わせた方が情報の漏洩や密告が少ないのである。中野は、白井以上に注意を払って仕事に向かわせるメンバーをチョイスして白井に報告をしていた。
 学校内に売春組織に関わっていない教師やOB、PTA役員も多くいるのだった。
 そして愛子の自殺はメンバー達に大きな動揺を与えていた。実際、適当な理由を着けて仕事を断って来る要領の良いメンバーも出て来ている為、買い手とメンバーを補充する為に中野は交際サイトなどで「仲間募集」等をする始末であった。
 そんな時、中野は「奈津美」の噂を聞き付けたのだった。
 何しろ本人がお金を欲しがっているし、売春にも手を染めた事があるようだ。
 仲間に引き入れるのはそんなに難しくないだろう。
「千葉さん? 生徒会の中野だけどちょっといいかしら?」


●足らないパーツ
 更なる詰めの為に蒼は死亡した2人が何か情報を残していないか調べていた。だが、彼女らがやり取りしたメールには証拠となる痕跡が見つからなかった。
「‥‥しょうがない、もう一度学校のサーバーを洗い直すか」
 現在のネットワーク管理担当者は蒼から見れば素人だ。サーバーのパスワードを探り、ドライバを適当に外しフリーズをさせる。それを直してやる。何度かそれを繰り返して担当者の心を掴んでいた。蒼が「耐ウィルスソフトとセキュリティソフトのアップグレードを代りにしてやる」と言うと喜んで鍵を渡すと担当者は宿直室に引っ込んでしまった。侑斗が足留めをしてくれる予定である。
 蒼は漏れがないように香・愛子のデータを洗い直していく。

 ――カタン。

 誰もいないはずの隣の職員室から音がした。
 どうする? 内ポケットに隠している特殊警棒を服の上から探る蒼。
 泥棒なら泥棒で下手に騒いで捕まえたとなれば面倒である。
「追い払えば良い」
 そう考えて蒼は職員室に向かう。

 赤い髪をした若い男、少年と言った方が正しい子供が机を開けようとして鍵で苦戦しているのが見える。
 香の弟、青木嗣人であった。
 姉と愛子の死に不信を持った青木嗣人は独力で謎を解こうと学校に潜入したのである。
 蒼は香の家族から情報が得られていない事を思い出し、嗣人に近付く。
「こんな時間に探し物?」
 慌てて逃げようとする嗣人を捕まえる蒼。
「何すんだよ!」
「君、『殺された』香さんの弟だよね。2年の青羽って言うんだけど、君も証拠を探しに来たの?」
 蒼の言葉に驚き、抵抗を止める嗣人。
「アンタ、何か知ってんのかよ?!」
「まだ何も、香さんは自殺理由がないからそう思って調べているだけ」
「そうだよな、俺だってこんなに探しているのに‥‥姉さんが死ぬ訳がないんだ。だけど誰も信じてくれなかった」
「良かったら話を聞かせてくれないかな? 近くにケーキの美味しい店があるんだ」

 * * *

 親身になって話を聞いてくれる蒼に徐々に心を開く嗣人。
 嗣人が犬達に齎した情報は重要だった。
 犬達の把握していないオンラインストレージの所在を知っていたのだ。
 嗣人は「パスワードが判らない」と言ったがハッカーである蒼にとっては対した事ではなかった。
「あと‥‥姉さんから貰った携帯に変なメモが入っていたんだ」
「見て良いかな?」
 嗣人から携帯を受け取り、文章を書き写す蒼。
「何か判ったら連絡する」
 そう言って嗣人を家に帰す蒼。
 香の残したメモは蒼の想像した通りパスワードだった。
 香の日記から「愛子から相談を受けていた売春組織の黒幕が自分の父親である事を知った」事実を知った。
「なんかやり切れないな」
 この事実が露見すれば嗣人は香だけではなく父親迄失う事になるだろう。
「だがこれで少なくとも警察が動く証拠は、ほぼ揃ったね。『ハンティング』開始だな」
 マスターがメンバー達に命ずる。
「売春組織のリーダー、生徒会長『白井舞』の身柄を確保せよ。」


●ハンティング
 放課後、白井舞は生徒会室で売春組織のメンバー達に斡旋のメールを送っていた。
 いつもであれば中野が顧客の希望にあったメンバーを先にピックアップしてくれるのだが、まだ生徒会室にはやって来ていなかった。
 白井には一つの予感があった。
 数日前から、そう中野が新しく加わったという奈津美を紹介してくれてからだろうか?
 白井が使用しているノートパソコンや資料を誰かが弄った形跡があるのだ。
 香・愛子が死んでから全てがどうでも良くなっていた。
 元々好きでこの組織の運営行っている訳ではない。家の面子のを保つ為である。
 香の父親、青木からの援助は必要である。
「家を守る為の道具である」小さい時から父親から言い聞かされた事なので自分の事はいい‥‥‥だが、白井は入学以来の友人であったはずの2人、香・愛子を巻き込んだ事を後悔していた。
 初めのきっかけは、愛子への嫉妬だった。
 人望も厚く誰からも愛され幸せそうな愛子。
 愛子をホテルに騙して連れ込み香の父親に抱かせたのは自分だった。
 それをネタにメンバーに引きずりこんだのだが‥‥噂で聞いた愛子の妊娠、相手は時期的に青木であろう‥‥そして、元々親友だった香が何かのきっかけでそれを知ったのだろう。
 自分のせいで2人が死んでしまった‥‥‥そう、考えると白井は涙が止まらなかった。
 捕まるのならそれでもいい‥‥幾ら後悔しても2人は戻らないのだ。
 暫く考えた末に白井は奈津美にメールを送った。

「生徒会室に来て下さい。   ――白井」


 生徒会室に現れた奈津美と蒼、そして臨時教師の侑斗。
「これが千葉さんのお仲間?」と苦笑いをする白井。
「皆さんは、警察の人なのかしら?」
 ぽつりぽつりと犬達に自分が売春斡旋をしている理由を話し始める白井。
「このDVDに顧客データと二人の遺書の入っていますわ」
 そういってDVDを差し出す白井。
「もう全てに疲れてしまいましたわ。それに香と愛子‥‥2人の事を思うと、わたくしはなんて酷い事をしてしまったと‥‥‥」
「自分で2人が死んで本当に後悔しているのなら、自分でDVDを持って警察に行くべきね」
 奈津美は、冷たく白井に言う。
「自分だけが可哀想なフリをして‥‥逃げ出して、他の人に責任を押し付ける」
 見下したように話す奈津美。
 頭を垂れる白井からDVDを取り上げる蒼。
「気が変わってDVDを消去されても困るし、コピーは貰っておいた方がいいな。マスコミに送りつけても良いだろうしね」

 * * *

 警察署の前に車を止め、白井を降ろす侑斗。
「俺達が調べた限り2人は『逃げ道』を選んだ訳じゃない。『抗議』と『世間』が自分達を注目するよう、マスコミや警察が動けば『組織が潰れる』と考えてな。2人の行動が正しいかどうかは不明だが‥‥君を助けたかったのだと思う。少なくても死んでしまった2人の為にも頑張らなくてはいけないのは君の義務だ」
「教師っぽい事言うじゃない」と奈津美が侑斗を茶化す。
「‥‥少なくてももう1人死なせる所だったその罪の重さを知るべきだな」
 白井が警察署の扉の向こうに姿を消すのを見届けると車は静かに発進した。
 それと同時に有名新聞社、TV局のFAXが一斉に動き出す。

 * * *

 薄暗い喫茶店、ドアの表には「Closed」という看板が掛かっている。
 営業時間内であれば白い清潔感のある明るい小洒落た感じの店内、喫茶店『スノウフレーク』。
 音を消したTVモニタには、マイクとカメラを前に頭を下げる校長と教頭が映し出されている。
「‥‥ご苦労様、といった所かな‥‥これは僕からの奢り」
「暫くまたコーヒーとお別れね」
 マスターはそう言うとブレンドを奈津美の前に置いた。
 表向き死亡した事になっている奈津美だが、逃亡の可能性がある凶悪犯ともなれば他の潜入官のように仮染めの生活を送る事もなく、任務終了と同時に元の刑務所に戻されるのである。
 眉をしかめる奈津美。
「‥‥僕とした事が、珈琲が少し苦すぎたようだね‥‥」
 ――後味の悪い事件であった。

 * * *

 ――季節は移り、桜が舞う。
 母方の親戚に引き取られた嗣人。髪を黒く戻し、学校の制服を着て土手で立っている。
 手には彼に宛てられた1通の手紙が握られている。
「‥‥嗣人」
 振り返る嗣人の前に立つ蒼と由紀彦。
「‥‥‥ようこそ、犬へ」
 ――1人の少年が悪を狩る為に闇に踏み込んだ瞬間である。