魔王子EX、ジュオン・ジアジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 有天
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 03/17〜03/21

●本文

『ジュオン・ジ』‥‥‥それはモンスター達の王国エム・ランドを中心にここ何千年か流行っているカードゲームである。
 人間界のカルタに非常に良く似たゲームで対になっている36種類の魔法カードを使うゲームで、発案者の麒麟大宗曰く『呪音(文)字』と名付けたゲームである。

『リーダー(Reader)』と呼ばれる読み手が、よくシャッフルした読み札専用カードの山の一番上から順番にカードに書かれている文字を読み、『グランダー(Grander)』と呼ばれる捕り手が対の絵札を取る。手札のサイズも人間界のカードとそうサイズが変わらない。ゲームの最後の札を読み上げた時『カードを一番多く持っている者が勝ち』というゲームである。
 大きく違っている事と言えば2つ『手札を取る迄そこに書かれている事象が起る』事、そして『勝利者は1つだけ命令をすることが出来る』という権利を持つ為、契約に縛られるモンスター達に取ってはとても重要な意味を持つ。

 例えば、ここに1人の可愛らしいワーウルフの娘がいたとしよう。
 彼女には将来を誓い、両親も認めたゾンビの恋人がいたとする。
 それに対し、ワーウルフの娘が大嫌いなシーマンが彼女との結婚を夢見、ジュオン・ジを申し込んだとする。
 ゾンビが勝てば、シーマンが二度とワーウルフの娘やゾンビ、その家族の前に二度と現れない事を誓うとする。
 シーマンが勝てば、、ワーウルフの娘は恋人と別れてシーマンと結婚をする、そういう契約を魔法カード『ジュオン・ジ』に対しするのである。
 一族の存亡を掛けた戦いにまで発展する事が多かったモンスタ−達の争いの妥協案として考案されたのが『ジュオン・ジ』である。
 ワーウルフ一族の財産をシーマンが勝手に一人占めする等のゲーム開始時魔法契約書に書かれていない願いの追加は、許されていない。
 呪を恐れる他の者に殺されてしまうか、『ジュオン・ジ』に掛けられた魔法が発動されるのである。

 後は、途中で中断が出来ない。と言った所である。
 中断や違反行為をした場合、「頭がおかしくなったり」「恐ろしい姿に変えられたり」「永遠に暗闇の中、出口を求めて彷徨ったり」等、想像を絶する恐ろしい行為が起ると言う噂があるゲームである。
 それでも暇つぶしのスリルを求めて一般家庭で楽しむ簡易タイプ、国を上げて行われる複雑なタイプ、様々な『ジュオン・ジ』が出回っている。
 ちなみに国を上げての『ジュオン・ジ』は隠す場所も森の中、湖の中、物売りのおばちゃんの籠の中と色々であり、何年も続くのが普通である。
 ついでを言えば、過去に行われた領土を掛けての『ジュオン・ジ』は魔法や武器の使用可能な事が多く、奪い合いの際、死傷者が出る始末である。
 そして、その『ジュオン・ジ』が久しぶりにエム・ランドで大々的に執り行われる事になったのである。

 事の起りは、晩冬に氷の魔物が人間界に未許可で渡航した事が発端である。
 昔は力のある魔物が自力跳躍により「満月の門」や月の魔力を帯びた「鏡の門」等を抜けて人間界に行き来していたが、500年程前凶悪な魔物が王家の兵を振りきり人間界に逃亡してからは、エム・ランドの王族の許可かエム・ランドの遥か北方、女王の故郷よりも更に北に住む天空人と呼ばれる「神属性」を持つ一族の許可がいるのだった。
 その他の手段と言えば「満月の夜人間界からの召還」で「満月の門」を抜け人間界に行くしかないのだ。
 ここ数十年、ハッキリ言えばエム・ランドの王子、魔王子の友人にして名付け人である笹原薫が正しい音程とリズムで唱える迄いなかったのである。
 モンスター達は「いつ呼ばれるか判らない」「犯罪者がいる」「手続きが面倒」な人間界に行く事に熱心ではなくなっていた。

 だが、氷の魔物が女王と共に帰国した際、王様の判断で「人間界に流行しているメイド服」で王宮(東京ドーム12個分)の掃除を1ヵ月させる事により「おとがめなし」とした。
 それがいけなかったのかエム・ランドに久しぶりに『人間界ブーム』が起ったのである。

 魔王子が女王の命令と言えども人間界にいつまでもいる。お付きのモンスター達も噂では楽しそうである。(冬の寒さで凹んでいた。王子の我が儘に振り回されている等、悪い情報は届いていない)
 そんなのはズルいぞー! という事になったのである。
「異国での華麗なる生活」と言うのは、どこでもステータスのようである。

 国民達の不満を聞き、賞品として「平民でも王族・貴族でも関係なく人間界へ1年間の留学許可」を掲げ、一大『ジュオン・ジ』が行われる事になったのである。
「大勢が行くと不味いので、行けるのは1人にしよう。わし(王様)チームと女王チームに別れ、そこの代表者1名を留学させる事にしよう」と王様。
「そうですね。各チームは代表者を人間界に留学させるべく協力して『ジュオン・ジ』に充たるようにしましょう」と女王。
「読み手は公平を来たすように『薫』にして貰おう」と王様。
「僕、エム・ランドの文字なんて読めないよ」
 春休みを利用してエム・ランドに来ていた薫が素頓狂な声を上げる。
「大丈夫じゃ。札を見れば頭の中に言葉が浮かぶ特別なカードを使用するのでな。それにそなたがカードを読み上げると同時に空に内容が表示されるようにしよう」
「読み手を襲う馬鹿者からは、俺が守ってやるから安心しろ」と魔王子。
「ええ?!」
「では、不正をする輩はオウムになるようにしましょう」
 いそいそと巻き物を用意して、契約内容を書き留める女王。
「後、あれだな。探査魔法の使えぬ者もおるだろうから札の探知レーダーも貸出すかな?」


●アニメ『魔王子、ジュオン・ジ』声優募集
 あらすじ:モンスター達の王国エム・ランドで国を上げて行われる事になった魔法カルタ「ジュオン・ジ」大会。
 賞品は『人間界へ1年間の留学許可』。国中にまかれたカードを巡って、バトル&魔法、飛行許可でひっちゃかめっちゃか大騒動。
 春休みを利用して遊びに来ていた薫も巻き込まれてしまう。

 エム・ランドで行われる一大ゲーム。魔王子と薫たちの交流を描くハートルフルアニメ。


●主な登場人物
「魔王子:ゾーンゼー」通称:王子(権兵衛:薫のみ)、エム・ランドの王子。ちょっと小柄なイタズラ好きの男の子。寒がりで卵焼きが好き。本名で呼ばれる事を嫌う。
「笹原薫」魔王子を呼び出した小学生。
「魔物」エム・ランドの住民。人型に近い程人間の一般識をやや理解するが、通じない部分も多い。
「女王」魔王子の母親、エム・ランドの女王。エム・ランドにいる12人の王の1人、渾沌と闇、雪と氷を司る魔物の王、ギュンタージュは通り名。
「王様」魔王子の父親、エム・ランドにいる12人の王の1人で統括者。のほほ〜んとして見えるが光と風と大地と実りを司る魔物の王。

●今回の参加者

 fa0280 森村・葵(17歳・♀・竜)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa3764 エマ・ゴールドウィン(56歳・♀・ハムスター)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)
 fa4946 二郎丸・慎吾(33歳・♂・猿)
 fa5256 バッカス和木田(52歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●CAST
 王様チーム)
 ハルピュア‥‥白井 木槿(fa1689)
 フラン‥‥‥‥二郎丸・慎吾(fa4946)
 マージョリカ・ジョリー‥‥エマ・ゴールドウィン(fa3764)
 御隠居‥‥‥‥バッカス和木田(fa5256)

 女王チーム)
 ウスドン‥‥‥森村・葵(fa0280)
 デュラン‥‥‥藤井 和泉(fa3786)
 バスカヴィル‥‥バッカス和木田

 チェルシー‥‥白井 木槿
 女王‥‥‥‥‥エマ・ゴールドウィン


●トロール、ウスドンの場合
 ずんぐりむっくり岩のような肌を持つトロールであるウスドン。
 はっきり言って彼の参加目的の第一は、女王から誉めて貰う事である。
 二番目に人間界への留学である。
 何処で聞いたか「人間界は美味い物が沢山あって、気立ての良くて可愛いおば様が沢山居る」「毎日お祭り騒ぎで退屈しない場所」という微妙に間違った情報を得ていた。
 毎日お祭り騒ぎをしているのは、もっぱら魔王子が騒ぎを起こしている為だったりするのである。
 そして何より、彼はエム・ランドでもレアな趣味。年上のお姉様好き、そう彼は熟女好きであった。
 故に女王のNo.1ファンを自称している彼であったが、女王自身が聞いたら氷柱にされかねないかも知れない。
 人間でも魔物でも女性に年齢の話は、禁句である。
 だがそんな事は知った事ではないウスドン。
 ジュオン・ジが始まった早々妄想は暴走する。
「オラが大活躍してチームが勝ったら、女王様に褒めて貰えるに違いないだ! もしかするとそれ以上にご褒美も‥‥じ、女王様ー!」
 綺麗な美眉を3mm程上げる女王。
 腰を振り乍ら、妙な身悶えをし叫ぶウスドンに、さり気なくない氷の礫が直撃する。
 因にサイズは直径5m強。
 礫と言うよりは岩だろう。
 これが王様の攻撃ならばペナルティだろうが、ぶつけたのは同じチームの女王である。
「わー‥‥みんな気合入ってるねー‥‥」とチェルシー。
 ちなみにチェルシー、今回は傍観者である。
 魔王子や薫と一緒に城のデッキで観戦である。
「おー、見事な直撃じゃな」
「‥‥あの人、大丈夫なの?」
 双眼鏡で覗く薫。
「‥‥同チームでもして良い事と、していけない事はありますから」
 さらりと言う女王。
「トロールは、丈夫じゃからな。頭も多少冷えて良いじゃろう」
 氷の塊の下からのそのそと出て来るウスドン。
「女王様の愛のムチだよ! 女王様がオラを見て下さるだよ。女王様ーーーっ!」
「余り状況に変化は、ないようだな。さすがトロール」と変な関心をする魔王子。
 ウスドンにもう一発、氷の塊(直径10m)が落下した。


●ハーピー、ハルピュアの場合
 太股から上は人、下は鳥の足。人で言う腕の部分が翼のハーピーであるハルピュアは、ウスドンと違って真面目に留学希望者だ。
「このジュオン・ジに勝利して『留学の権利』をモノにするのは、わたくしですわ〜」
 おっとりとした口調で喋るハルピュア。
 一族の中では、どちらかと言えば引っ込み思案の方である。
 人間界に留学すれば自信になり、積極的な性格になるだろうと両親から勧められてのエントリーである。
 が、対外的には攻撃的で激しい性格と言われるハーピー一族。
「そのカードはわたくしが先に見つけたのですもの! 絶対に渡しませんわ!」
 物凄い勢いで、カードに突っ込んで行くハルピュア。
 街中を地面すれすれに高速飛行する。
 翼が起こす風圧でつむじ風が起こり、爪が掠めた街路樹が音を立てて、まっぷたつになる。
「大人のハーピーじゃなくて良かったですわね。大人でしたら建物が壊れて被害が大きくなった事でしょう」と女王。


●ダークエルフ、マージョリカ・ジョリーの場合
 褐色の肌に尖った耳、髪で隠れた顔に覗くのは、吸い付きたくなるほどのセクシーなポッテリとした唇。
 魔女のとんがり帽子に申し訳程度の黒くぴったりボディーラインが出る際どい皮の服に太股まである編み上げのブーツ。
 長手袋を嵌め、ゆったりと長煙管から紫煙をくねらせている。
「はぁ〜、ん‥‥皆、元気よねぇ」
 気だるげに言うマージョリカ。
 このいつも気だるげで全てがかったるいと言うマージョリカが、何故ジュオン・ジに参加したのだろうと、皆が不思議がっていた。
「ん、ふふっ‥‥」
 思い出し笑いをするマージョリカ。
 何を思い出したかというと、氷の魔物(男)が着ていたメイド服である。
「あれ、可愛かったわね‥‥」
 うっとりと思い出したように言う。
 そう、彼女、マージョリカの興味は『人間界の服』である。
 数百年前にエム・ランドに資料として持ち込まれた服より先日宮廷で見たメイド服(お供の魔物達のバイト代で購入されたのは、知られていない)の方が、ずっとマージョリカの好みに合っていた。
 そしてやはり魔王子の土産として持ち込まれた雑誌(お供の魔物達のバイト代で購入されたのは、知られていない)に載っていたゴスロリ服が、更にマージョリカの好みに合って、とても気になるのであった。
 女性としては当然なのかもしれないが、当然ながら通貨感覚がないエム・ランドの住民であるマージョリカは、ゴスロリ服もメイド服も行けば貰えるものだと思っていた。
「セクシーに絞ったウェスト‥‥たっぷりとしたリボンとレース、きっと誰よりも私に似合うはず‥‥うふふ‥‥」
 ウスゴンとは別な意味で危ない雰囲気のマージョリカであった。


●デュラハン、デュランの場合
 デュランの参加理由も一般の魔物達には、内緒にされている。
 本来、魔法契約によりフェアであるべきジュオン・ジだが、賞品が珍しいものになると罰や魔物として恥ずべき行為(契約違反)をまれにする違反者が出る。
 今回のジュオン・ジ、珍しいものではあるが、物凄く珍しい賞品ではない。
 人間界への留学を望む声が多かったので開催されたジュオン・ジであったが、蓋を開けてみれば王様や女王が考えるより参加者が少なかったのである。
 実際問題、交流がなかったので生活できるのかという不安な部分と凶悪な犯罪者がいる。よくよく考えたら、あのイタズラ好きの魔王子と同居かもしれない。
 お触れから実施まで少し間が開いた為に国民の中にそんな不安が出てきたのだろう。
 だが、それを差し置いて参加した参加者達は、一歩間違えれば違反者となる。
 契約違反を犯した場合、ジュオン・ジ自体の魔力によって違反者はオウムに今回なる訳だが、魔法が完了するまでに時間が生じるのである。
 つまりやる気になれば幾らでも違反が出来るのだ。
 その歯止め役として騎士クラスのデュランが、女王から選ばれ、命を受けたのである。
 本来であれば、王様側からも指定されるべきなのであろうが、事前に参加者から聞いた希望配属チームは、王様4:女王2である。
 王様が隠密に処理するために騎士を選出し、チームに紛れ込まさせれば力の差は大きくなってしまう。
「ま、デュランの負担が大きくなるが、しかたあるまい」
「そうですね。デュラン、頼みますよ」と女王。
「はっ! トラブルがあった場合は迅速に対処いたします」

 そうは言ったものの、王様と女王様の命は、密命である。
 違反者が出るまでは、普通の参加者のフリをして札取りをしなくてはいけない。
 何度か人間界に行っているデュランは、魔王子に振り回されている(魔王子のわがまま以外の要因もあるのだが)現状を知っている分、やや気が重い。
「万が一、私が勝ってしまった場合は、私が行かなければならないのだろうか‥‥」
 真面目なデュランは、手を抜くという考えは思いつかないようであった。


●イフリートの少年、フランの場合
「よーし! おいらも負けないぞ!」
 赤く高温で燃え盛る炎の塊が人型になったようなイフリートの少年、フラン。
 札を追って街中に出現した為に大変な目にあっている。
 つまり全身、火である為に可燃性のある洗濯物などをうっかり干している現場に居合わせようなものならばジュオン・ジに参加していない普通の魔物から「火事になるからあっちに行け!」と攻撃を受ける始末である。
 逆に中には「濡れた洗濯物が乾くから、しばらくそこにいろ」とか「竈の火種に髪の毛を1本くれ」など様々である。
 女王の書いた違反行為は、ジュオン・ジおよび参加者(監視役の王様・女王、読み手である薫も含まれる)に対しての違反行為である。
 参加していない魔王子や一般の魔物は、ジュオン・ジ参加魔物を攻撃できるのである。
「おいらが何をしたって言うんだよ!」
 ぷんぷん! と怒るフラン。
 気が荒いと噂の上位魔物であるイフリートであるが、フランは子供である故にちょっかいを出されるのであろう。
「火事になるからあっちに行け!」等、大人のイフリートであれば鼻先で言った相手を笑い、その相手ごと立派な火事を起こしている所だろう。
 余談であるが、イフリート達が着用している衣類は特殊魔法加工のされている衣類である。
 クラスの高い土系魔物、例えば女王の首飾りを作った上位ドワーフに相当する魔物が魔法を施して作り上げている高級品である。
 フランは、父親に言って札を取るために魔法の手袋を借りていた。
 ジュオン・ジの札は通常、紙か木である。
 まれにコレクション用として金属で作られることや玉を使って作られることがあるが、今回使用されている札は木を薄く剥いで作ったものである。
 属性が「火」であるフランが触れば、たちどころに燃えてなくなってしまうだろう。
 魔法の手袋を使えば札が取れるのである。
 だが、手から火の玉を発生させたりすることは着用中できないので、移動中は手袋を外している。
「あ! しまった。先刻の婆ちゃんの所に手袋を忘れた!」
 パンケーキと引き換えに、竈の火熾しの手伝いをしてきた家に手袋を忘れたようである。


●古城の亡霊、バスカヴィルの場合
 古城の亡霊‥‥単純に言えば人間界で言う地縛霊である。
 普通で考えれば古城に縛られ、城から移動できないのが普通であるが、それはそれ。
 バスカヴィルの場合、「騎士の亡霊」と一山幾らの輩と単純にまとめて欲しくない為に「古城の亡霊」と名乗っている。
 多分「古城」と着いた方が威厳を感じさせるからかもしれないが、エム・ランドで城は余り多くない。
 王族といえども木を組んだ館や岩や崖を利用した住まいに住んでいることが多い。
 少なくとも彼、バスカヴィルに取ってエム・ランドの本格的な城といえば、彼の属性:闇、水‥‥つまり女王の実家の城か、エム・ランドの中央に位置する王宮しかないのだ。
 はっきり言って女王の城を自ら住まう「古城」と言う等、丸い部屋を四角く履く、四角四面の超絶理不尽に厳格者としては厚顔ではない。
 彼が「古城の亡霊」と呼ばれる始めたのは、当時中世だった欧州である。
 適当な住まいを探していた所、丁度いい具合に主が死んだ古城があった。
 その鄙びた落ち着いた具合が、バスカヴィルの趣味にあったのである。
 主の子が都から呼び戻されるまでの間にちゃっかり居座ったバスカヴィルが「古城の亡霊」と言われる迄そう時間は掛からなかった。
 バスカヴィルは、ある意味メイド頭以上にメイド達の掃除を監視し、掃除が甘いと花瓶を割ったり(バスカヴィル言うには、(真偽は判らないが)避けていた)、時には亡霊の馬を曳き、蹄や轍跡を廊下に着ける為に走り回ったのである。
 それでも更にサボる輩には、魔犬(愛犬)を嗾ける始末であった。
 間借りさせてもらっている分の世話賃のつもりだったらしいが、やられた方は迷惑千万であろう。
 当時を振り返るバスカヴィルは、「我輩があの若造の人間を一人前の領主にしたのだ」と必ず話すのである。
 そしてバスカヴィルはエム・ランドに戻ってきた際、人間界で住んでいた城を真似て住まいを作った。
 どちらかといえば立派な館といった方が通りがいいかもしれない、派手ではない地味な城を作り上げ、現在愛犬と住んでいる。

 そんなバスカヴィルが、ジュオン・ジに参加する理由は唯一。
 遠縁にあたるデュランの監視である。
「‥‥ええい、生温いわデュラン! いかな魔界とはいえ、更なる無秩序が加速されぬよう、我輩がしっかり見張るのである!」
「‥‥」
(「あなたの方が無秩序でしょう!」)
 デュランは、出そうになる言葉を必死に飲み込む。
 遠縁とはいえ、一族の年長者に啓を払うのも騎士たる役目。
 そう思いながらも後ろから殴りたくなるデュラハンであった。


●インキュバス、ご隠居の場合
 ご隠居の留学希望は、余りにも判りやすかった。
「いんやぁ〜、最近の娘は‥‥ふぉふぉふぉ‥」
 魔王子が持ち込んだ雑誌に写っていた水着姿のグラビアアイドルが気に入ったのである。
 別に成年誌に載る超セクシーな訳ではなく、子供が買える少年誌のグラビアだが、その可愛らしい笑顔がエロ爺‥‥いや、インキュバスであるご隠居のハートに火をつけたのである。
 登録理由の説明を訳の判らない言葉で誤魔化したのは、受付に女王が座っていたからに他ならない。
 下ネタ冗談が通じる女性と通じない女性がいるが、女王は間違いなく後者である。
 本来、女王に対し優位な属性(光と木)を持つご隠居であるが、それは格の差と言えよう。
 女王の冷たい視線が突き刺さり、うっかりすれば凍りつきそうであった。

 だがそんな事は忘れて、るんるん♪ なご隠居。
 理由としては、ピタピタの服を着ているセクシーな美女。マージョリカ・ジョリーと鋭い爪は怖いが清純可憐なハルピュアがいるからだ。
「一挙、両得ぢゃ☆」
 何か間違っている気がするが、敢えて突っ込んではいけない。
「ダークエルフのおねぇさんや、老い先短いこの爺の願いを聞いてくれるかのぉ」
「ふふっ‥‥いいわよ。お爺ちゃん♪ 先に私のお願いを聞いてくれたら、お爺ちゃんのお願いを聞いて、あ・げ・る♪」
 ご隠居のお願いは、タカが知れている。
(「どうせエロ爺のお願いなんて‥‥『もふもふ』か『ぱふぱふ』よね。あの可愛い服の為なら好みじゃないけど安いものよ。それにいざとなったら‥‥」)
 うふふっ‥‥と妖艶な笑みを浮かべるマージョリカ。
 同一チーム内での札の取り合いは、禁止されていない。
 つまりご隠居が取った札をマージョリカが取り上げても問題がないのだ。
 こうしていつの間にやら微妙な共同戦線が張られるのであった。


●またたびにねこまっしぐらでよっぱらい
 空に魔法文字が浮かび上がる。
 札が読まれたのだった。
「股旅?」
「『マタタビに猫まっしぐらで酔っ払い』やね!」
 今回は何日も読み手の薫をエム・ランドに拘束するわけにも行かないので、札は見つかりやすいように、読まれると同時に発光するようにしている。
 目が悪かったり、飛行能力がないために広範囲を探査できない魔物には、探査装置(どう見てもダウジングのL字棒)が貸し出された。
 ウスドンは、沼地で嵌っていた。
 その体重の重みでズブズブと沈んでいく。
「ありゃりゃ、困っただよ?」
「お先に♪」
 フランが、ウスドンの上を軽々と飛んでいく。
「酷いだよ。困っている魔物を見捨てるんだべ?」とウスドン。
「ウスドンは、女王様のチームですから〜」とハルピュア。
「彼女らの言い分は、正しいですね」とデュラン。
「情けない! それが男子のするマネか!」とバスカヴィル。
「そんな事を言ってもしょうがないだべ」と半泣きのウスドン。
「‥‥ふと思ったんですが、トロールは土属性ですよね。地面に念じれば出れるんじゃないんですか?」
 デュランに言われて、ぽやっとした顔を浮かべるウスドン。
「そうだべ、オラはトロールだったべ」
 それでも時間が掛かるウスドンをデュランとバスカヴィルが手伝い、何とか沼から脱出する。

 札は、森の中の小さな広場にある祠に隠されていた。
「きー! そのカードはわたくしが先に見つけたのですもの、わたくしのものですわ!」
「おいらが見つけたんだ!」
 喧嘩をしているハルピュアとフラン。
「んふっ♪ 頂き♪」
 そう言ってマージョリカ札を取った途端、何処からともなく巨大な猫達がぞくぞくと集まってくる。
「な、なに?」
「うるなぁ〜ん♪」
 どこか酔っ払った猫の鳴き声。
「嘘! 札が『マタタビ』なの?」
 くんくん、と札の匂いを嗅ぐが土と草の匂いで判らない。
「いやーーーーっ!」
 札に集まってくる巨大猫達。足の踏み場もない程、広場を埋め尽くす。
 後から追いついた女王チーム。
「オラの前に道はない、オラの後に道は出来るべ! ‥‥猫は‥‥排除なんて出来ないだよ。もふもふして可愛がるべさ」
 巨大猫の尻にしがみつくウスドン。
 猫達に邪魔をするなとばかり、猫パンチを食らうが‥‥幸せそうである。
 そしてマージョリカも押しつぶす。
 まるでマージョリカは、猫の海で溺れているかのようである。見えるのは、札を握った右手のみ。
 巨大猫の背中をひょいひょいと渡って来るご隠居。
「ほい♪ ありがとう」
 マージョリカの手から札を受け取った。

 王様チーム:ハルピュア(0)、フラン(0)、マージョリカ(0)、御隠居(1)
 女王チーム:ウスドン(0)、デュラン(0)、バスカヴィル(0)


●のろいのきりでめのまえまっくらおさきもまっくら
「のろいのきりでめのまえまっくらおさきもまっくら? 何、これ?」
 読み手が、札の意味が判らないので、言葉が伝わる捕り手も混乱している事だろう。
「呪いの霧で目の前真っ暗お先も真っ暗」
 チェルシーは、薫のの札を読む。
「今頃、札の周りは真っ暗な暗闇よ。光属性や闇属性が有利だけどが、今回はハンデで札が光るからきっと現場はすごい事になっているよ」
 実際、札のある岩場はすごい事になっていた。
 崖っぷちに立つ木の上に札は、あったのである。
「よしゃあ、もうちょっと‥‥」
「「くっ‥‥」」
 重いウスドンを担ぎあげるデュランとバスカヴィル。
 一番体重が軽いデュランをウスドンとバスカヴィルで担ぎ上げるべきだと思うが、ウスドンは背が小さい為に体格のいいバスカヴィルとのコンビだとデュランが崖から落ちる心配があるのである。
「お先に♪」とフラン。
 またもや飛行能力がある王様チームに後れを取ると思った瞬間、全てが真っ暗になった。
「きー! 見えない!!」とハルピュア。
 鳥目のようである。
 薄ぼんやりと光、札。それにめがけて体当たりをするハルピュアだったが、目測(真っ暗なので目測もないものだが)を誤り、フランと一緒に崖の下に落ちていく。
「ここはワシが‥‥ムムッ?」
 ご隠居が光を集めると、札の弱い光がかき消される。
「うふふ‥‥こういう時は、木さん‥私に札を頂戴‥‥お願いね‥‥」
 闇と木の属性を持つマージョリカが、札が止まっている木にお願いをする。
 木は枝を曲げ、マージョリカに札を渡す。
 マージョリカは満足そうに微笑み、札を胸元にしまう。
 同時に黒い霧は晴れた。

 王様チーム:ハルピュア(0)、フラン(0)、マージョリカ(1)、御隠居(1)
 女王チーム:ウスドン(0)、デュラン(0)、バスカヴィル(0)


●おいでませ☆てまねきするよどろぬまが
 突如として辺り一面が底なし沼に変化する。
 絶対的に不利なのは、ウェイトが重い、女王組。
 その上、沼の中から泥の手(マッドハンド)が甘い囁き声と共に沼の底へと引きずり込もうとする。
 マージョリカは、蔦に魔法をかけて札を取ろうとしたが、そのまま沼へと引きずり込まれる。
「ふふ‥‥楽しいわ」
 赤く頬を染めるマージョリカ。
 ぬるぬるとした泥の感触と蔦が絡まり‥‥マージョリカの中のスイッチを何が押してしまったのだろう。
 怪しいその姿に純朴少年フランがビビり動けなくなる。
「キー! どうしてですの! どうしてですの! そのカードはわたくしの物ですわ!」
 マッドハンド相手に爪を振るうハルピュア。
「ここは、やはり‥‥」
「うむ‥‥」
 顔を見合わせるデュランとバスカヴィル。
「なんだべ?」
「我輩が沼を凍らせる。その間におぬし、走って札を取れ」
「へ?」
「きっと、女王様もお喜びになるだろう」
 ぼそりとデュランがウスドンの耳元で囁く。
「やってやる、やってやるだよ!」
 バスカヴィルがそういうと印を結び、デュランがむんずとウスドンの腕を掴む。
 ぐるぐると砲丸投げの要領で自分の体重を上手く使い、ウスドンを加速させるデュラン。
「行ってきなさい!」
 気合と共にウスドンは札へと飛んでいった。

 王様チーム:ハルピュア(0)、フラン(0)、マージョリカ(1)、御隠居(1)
 女王チーム:ウスドン(1)、デュラン(0)、バスカヴィル(0)


●まさか、にわとりとことりとわにさかさま
「『まさか、鶏と小鳥とワニ逆さま』って‥‥大変!」とチェルシー。
 札が読まれると参加者達の視界が上下逆転した。
 つまり足元が空で地面が上である。
「? のながにな(何がなの?)」
 自分の言葉にびっくりする薫。
「?れあ」
「この札は、次の札が読まれるまでこのままなの。視界だけでなく言葉も逆なの。だから早く札を取って、薫に次の札を早く読んでもらわないと目が回っちゃうよー」とチェルシー。

 札は小さな箱の中にあった。
 ただし、少し大きな箱に鍵が掛かって入っていた。
 その箱は、更に少し大きな箱に紐でぐるぐる巻きにされて入っていた。
 札の入った箱が入った箱の更に入った箱は、大きな箱に入っていた。ただし、周りを囲む茨の枝。

 マージョリカが茨に命令するのは厄介だった。
 呪文を逆に唱えなければいけなかったのだった。
 何度も失敗し、マージョリカはへとへとになってしまった。

 紐を切るために取り出したナイフでバスカヴィルは、うっかり自分の手を切ってしまった。
 幸いな事に幽霊だったので怪我をしなかったが、自分の手元がおぼつかないことにショックをやる気を失ったようである。

 フランは悩んだ。
 錠前を焼き切るほどの大きな炎は、まだ使えない。
 くらくらと眩む目も最悪だ。
 今回の戦いは札1、2枚が勝負になる。
 まだまだ札はある。
 そう思ったフランは、これ以上目が回らないようにと、目を閉じた。

 ハルピュアは、くるくると目を回しながらもしっかりと足で箱を掴み。
 鋭い爪で錠前ごと箱を引き裂いた‥‥でもやっぱり、目が回って倒れてしまった。

 ご隠居は、酒を飲めば、このゆらゆらにも対抗できるだろうと大量の酒を飲み始めたが‥‥その前に動いたのはデュランである。

 デュランは、ゆっくりと己の頭を天地逆に持ち替えた。
「すまいましてけまがムーチのらちことんせまきだたいをだふのこ、がんせまりあけわしうも(申し訳ありませんが、この札をいただきませんとこちらのチームが負けてしまいます)」
 そう言って最後の箱を開け、中の札を取り出した。

 王様チーム:ハルピュア(0)、フラン(0)、マージョリカ(1)、御隠居(1)
 女王チーム:ウスドン(1)、デュラン(1)、バスカヴィル(0)


●たかなみとよせていずるはうみのつき
 ざっぶーーーん!
 寄せては返す白い波の間に、広い海に浮かぶソレは、ジュオン・ジの札の周りに一面に浮かんでいた。
「高波と寄せて出ずるは海の月‥‥クラゲね」
 色とりどり、赤青黄桃‥‥色々な色のクラゲが所狭しと浮かんでいる。
 ご丁寧に時々、ビックウェイブとなって海岸に立つ参加者を襲う。
 まだ、先程の揺れやら酔いやらの影響からか、クラゲから逃げられず刺されている者も多い。
「この状態では、私が札を取れませんね」とデュラン。
「この札はおいらが貰うよ」
 そう言ってフランは、波とクラゲを避け、札を拾う。
 フランが札を拾うと同時に海は消えうせ、一面の花畑が広がった。

 王様チーム:ハルピュア(0)、フラン(1)、マージョリカ(1)、御隠居(1)
 女王チーム:ウスドン(1)、デュラン(1)、バスカヴィル(0)


●わらうかど、ひとこえかけてときかけて
「我輩向きの札が出たな」とバスカヴィルは嬉しそうに言った。
「『笑う角、一声掛けて時駆けて』‥‥厄介な場所で」と苦々しく言うデュラン。
 王宮の洗濯部屋である。
 札があったと思しき場所の上に何処からともなく大量のシーツが降ってきた。
「‥‥つまりコレを畳めと?」
「らしいな」
 諦めた様にシーツを1枚取るデュラン。
 シーツを黙って畳み始める。
 他の者達も「ある程度減らさねば札も取れない」そう判断し、うず高く積まれたシーツを恨めしそうに見ながら畳み始める。
 一人嬉しそうなバスカヴィルは、そこが曲がっている。定規で測ったようにピッチリと畳めと。
 こんなやり方があるか、1からやり直せ!
 何処から取り出した? という乗馬鞭を握って、参加者達を指揮する。
「我輩がしっかりサボらないように見張るのである!」
 どれだけ判らないが日が傾きかけた所で最後の一枚を畳み終える。
「うむ!」
 満足そうなバスカヴィルに対し、へとへとの一同。
 床に張り付いている札をバスカヴィルはゆっくりと取り上げた。

 王様チーム:ハルピュア(0)、フラン(1)、マージョリカ(1)、御隠居(1)
 女王チーム:ウスドン(1)、デュラン(1)、バスカヴィル(1)


●ぱふぱふとわふわふまふまふもっふもふ♪
「?」
 空に浮かぶ文字を見て、誰かが言った。
「あんな札、あった?」
「わしが作ったのを混ぜて置いたんぢゃよ☆ 楽しいぢゃろ?」と嬉しそうなご隠居。
「‥‥それって、ジュオン・ジへの妨害行為になるのかしら?」
「でもたまに新しい札が組み込まれたりするよね?」
 ヒソヒソ、コソコソ話を始める。
「なんですの! それ?! 『人間界で華麗なる生活』を過ごす予定でしたのに!! とんだ邪魔ですわ! 誤算でしたわ!」
 怒り狂うのは、ハルピュア。まだ札があると思っていたのに、ご隠居のイタズラで札がなくなってしまったのである。
 どうしてくれよう? とご隠居ににじり寄った所できらっと何かが光り、空から目の眩むような光と共に氷の礫の嵐がご隠居めがけて襲ってきた。
「あいたた‥‥光の天使の爺ぢゃよ〜☆ ユニークで豊かな愛の文字を広めるのぢゃ♪ 王様も女王様もユニークが足らんのぢゃ!!」
 更に礫は酷くなり、他の者まで巻き込む始末。
 わたわたと皆で逃げ回っていると‥‥ぱふっ。大きな綿なのだろうか?
 それが皆、前に舞い落ちる。
「へぇっくしゅん!」
 誰かが大きなくしゃみをした。
 それをきっかけに巨大な綿が空から綿が大量に落ち来る。
 遠見鏡を見ていた女王達。
「これは、まぁ‥‥ジュオン・ジが新しい札と思ってくれたようですね」
 ほっと溜息を着く女王。
「全く、肝が冷えたのじゃ‥‥妨害行為ならばご隠居がオウムになるだけじゃが‥‥」
 やれやれと言う王様。
「でもご隠居は、取り札を作って置いたのかしら?」とチェルシー。
 全ての取り札を取る迄ジュオン・ジは終わらないのだ。

 そして‥‥この後の事は、誰も知らない。