「7」店内改装アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
有天
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
1.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/06〜10/12
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●本文
古い運河沿いの鉄工場跡地を改装して作られた作られたライブハウス「7(セブン)」。
厳ついコンクリートの外壁と大きな赤錆が浮いた鉄の扉が印象的で、来る人を拒むように聳え立つ。唯一ライブハウスである証拠と言える物は、ネオン看板ぐらいである。
「浩介。この前のライブは、思ったより盛況だったな」
「ええ、おかげで銀行の融資も決まりましたしね」
箒の手を休め、階段に座る『親父さん』を見上げる浩介。
「しかし、会社を辞めるなんざ、おめぇも思い切った事をするな」
「娘に怒られましたよ。受験の時、評価に響くって‥‥うだつの上がらないサラリーマンの方がまだマシってね」と苦笑する。
「‥‥キツイな」
「全くです。でも彼等の歌を聞いて‥‥俺が中途半端じゃあ、失礼ですからね」
サラリーマンを辞め、「7」の店長一本槍にする事に決めた浩介。辞表提出迄1週間と掛からなかった。店長就任に乗り気ではなかった男とは思えない決断である。
「内装工事は、1週間だったか?」
「ええ、階段とか大きな設備は発注しましたから、なんとかなると思います。ただ‥‥」
「ただ?」
「2階のステージを見下ろす『VIPルーム』ですよ。俺は、インテリアのセンスないですからね。デザインを人に頼もうと思っています」
「あの絨毯は、600万円もしたんだぞ」と文句を言う『親父さん』。
「俺が言っているのは、親父さんの趣味丸出しの『元VIPルーム』の事じゃあ、ありませんよ。使っていない『事務所』を改装するつもりです。あの部屋は専用の給仕係が付けた『カップルルーム』にでもしますよ」
「‥‥まあ店の事は、お前に任したしな」
取りあえず苦労して手に入れた品々は捨てられないらしいと一安心する『親父さん』であった。
*****
ライブハウス「7」
外観:敷地面積200坪、築40年鉄筋2階建て鐵加工業工場跡地。
1階:倉庫とステージ、出演者控え室とヘビメタ好きのオーナーらしいコンクリートと鉄のディスプレイオーナーやご自慢のアメ車、50年代の錆びた炭酸飲料(瓶)の自動販売機やジュークボックスなどが飾られている敗退的なSF小説に出てきそうな雰囲気。
2階:事務所、応接室、ミニキッチン、トイレ、旧社長室を改造した怪しい元VIPルーム。
事務所(改装場所):
80平方メートル事務所、ステージ側全面ガラス張り、75cm幅スチールデッキあり。
事務用机と椅子20セットと事務棚などが残る。
床 ピータイル、壁一部防音措置済み。埃まみれ。
元VIPルーム:深さ10cmの絨毯、マホガニーの机、重厚なワインレッドカラーの革製高級ソファーセット、カウンターバー、ピンボールにダーツ、西洋鎧、壁にはプレミア・ギターと動物のトロフィー(はく製)が飾られている。
●裏方募集
空間デザイナー&警備員、雑用係募集。
●リプレイ本文
●10月6日
浩介は集まったメンバーの顔を見渡して挨拶をする。
「朝早く、台風の中来てくれてありがとうございます。店長の山田 浩介です」
「やー、普段こういう世界に縁がないので非常に興味深いですよ」と磯野兵衛(fa4673)。
「あっしの本業は脚本家で空間デザイナーって奴は分からんが、まあ、年の功ってやつでそれとなくいい感じの、作ってみようじゃないか」護国院・玄武斎(fa4159)。
「磯野さん、護国院さん、そう言ってくれると助かります」
●警備
「実は俺が心配しているのは、警備なんだよ」
ステージの改修業者の側を抜けて、普段裏に隠されている鉄の大扉を油圧ポンプを操作し乍ら開ける。そこには幅3m程度の用水路があり、すでに少し雨水が溜っていた。
「この用水路は台風の時に水を引き込んで河の増水をコントロールするんだ。が、普段から時々子供が落ちる」
「その冗談笑えないデース」
恐ろしい事をあっさり言う浩介に警備担当の白海龍(fa4120)、斑鳩・透馬(fa4348)、磯野が顔を見合わせる。
「違法駐車は殆ど大型トラックだから、今夜と五十日(ごとうび)開けがヤマになるだろう」
五十日というのは、鉄、造船、木工、生産業界の納品締切が月の5と10の着く日に集中しているのに由来する。その為に道路が大変混むのである。時々帰路が面倒になるトラッカーが勝手に駐車することがあったのだが、交通法が規制され厳しくなった今、休業中の店鋪や工場前の駐車場を狙って多かった違法駐車に拍車が掛かったのである。
「あと、俺もうっかりしていたんだが『体育の日』に近所で祭りがある。ウチも駐車場でライブをやる事になった。メリットはドライバーが交通規制を嫌って8、9日は、違法駐車をしないって事になるだろう」
「逆にいえば人が大勢やってくるって事だろう? 大丈夫なのか?」
「問題はそこなんだ。この日が一番やっかいで大変になるだろう」
「やっかいだと? 浩介、お前も乗り気だっただろう」後ろから野太い声が掛かる。
「オーナーの『親父さん』こと獅子頭 治樹さんです」
「俺が獅子頭だ。む! そこのタキシード! 着替えは持って来ているのか?」とシュルウ(fa4628)を指差す。
「相方を見ろ! 準備万端じゃねえか!」
ジーパンにTシャツ、御丁寧に頭にタオルまで巻いて出て来たムク(fa4664)の肩を叩く。
「勝手にコンビを作らないでください。悪気はないので、二人とも年寄りの冷や水と聞き流すように」
「‥‥段々口が悪くなるな」
「親父さんの仕込みがいいんです」
先に親父さんを部屋から追い出した、浩介は‥‥
「で透馬君だったか? 君は今日だけ警備担当なのかな? できれば他の日も警備をしてくれると助かるんだが?」
「良いよ。子供とか落ちると大変だからな」
●強敵は浩介?
「護国院さん、お待たせして申し訳ありません」
浩介は、改装場所である2階事務所跡に待たせていたご隠居に会釈をする。
「オーナーの獅子頭だ。今回はVIPルームの改装プランを聞きに来たぞ」
反対にずかずかと玄武斎の前にやって来て遠慮なく品定めをするように全身を見る獅子頭。
「脚本家ってのは、いつも悪魔の尻尾をつけているのか? ディスプレイに尻尾は勘弁して欲しいぜ」
「ディスプレイにお尻マネキンを並べて悪魔の尻尾をつけるとかのディスプレイは面白いですね」
「浩介、お前はふざけているのか?」
「ハロウィンの、ですよ。退廃的ってのも面白いかと」
「店長に聞きたいが、予算はどのくらいかね? 高けりゃ良いってわけじゃないが、VIPと言うからには高級感が欲しいところさね」
「インテリアに掛けられる予算は食器類を含めて500万円、内装は300万です。これには防音材や床と壁の補強、スプリンクラー等の消防設備は入れていません」
「全部併せて約1000万円か‥‥」
軽く1件店が開ける金額である。
「カップルルームを見積もってもらったら、2億近かったですからね。正直売り飛ばしたくなった物が何点かありますが」
「その冗談は笑えねぇぞ、浩介」
「店長は、雰囲気をどうしたいね?」
「‥‥そうですね。1階がサイバーパンクしていますし、俺が発注した階段もスチールですから、金属のイメージがある物をお願いできますか? 護国院さん」
少し困った顔をするご隠居。
「あっしのイメージは、ガラス張りの面の両脇にカーテンを配して、黒い革製の高級感あふれる4人掛け用ソファーを設置。部屋のガラス面してない隅2箇所に花瓶と季節の花という感じやね」
「そうですね‥‥チケットは2枚売りが一番多いですし、ソファーは2人掛けにしましょう」
「だー! 俺を無視して話をするな!」
打合せの結果、黒と銀を基調としたアメリカンスタイリッシュで落ち着きある大人の雰囲気のVIPルームに決定した。
「増々カップルルームが浮くな‥‥」頭痛の種は減らないようである。
●ハッカイの場合
「失敗デス‥‥」
夏の制服を用意して貰ったハッカイであったが、気温20度湿度90%。
これだけならなんとかいけたかもしれないが、敵は暴風雨。台風である。カッパを着ても鳥肌を立てての警備になる。
幸いな事に「7」は両国の近くにある。ハッキリ言えば道を歩けば力士に当る。浩介は、近くの用品店に車を出した。すこし探せばXLだろうがXXLでもすぐに手に入るのである。
「まあ明日からは天気も回復して温かくなるが、気をつけるように」と浩介から注意を受ける羽目になった。
実際、晴れてからはハッカイはある意味その巨漢ゆえ、別な意味で非常に目を引き警備員として役に立ったのだが‥‥。
●透馬の場合
今シーズン最大の風雨と言われる台風であることが幸いしたのであろうか?
トラックが傷付くのを恐れたのか違法駐車を試みるトラッカーは現れなかった。
暴風雨の中、懐中電灯を片手にカッパを着て歩く小柄の透馬を気にして、近所の工場で働く男から「夜勤の買い出しのついでだ」と肉まんを押し付られる始末であった。
轟々と叩き付ける雨音を聞き乍ら‥‥
「なんだか、気が抜けるな。別の本も持ってくれば良かったな‥‥」
待機時間を潰す為に持って来た推理小説も読み尽してしまった透馬にとっては長い夜だった。
●磯野の場合
台風の進路がそれた為か透馬の巡回時間に比べて、風雨も弱くなって来ている。
「何かが起きる可能性は極めて低いとは思いますが、高級な家具や設備を運び込む可能性があるので用心に越したことはないと思います」
もっともな意見であったが、この時間に運び込まれたのはVIPルームのスチールデッキに取り付けられる階段と親父さんが足を滑らせて骨折した狭い階段の代りに取り付けられる階段2基であった。
「こんな時間に怒られませんか?」
「昔は24時間営業の工場とか多かったし、第一この時間が一番人通りが少ないし、この辺の人たちは馴れているから」
普段は閉めらている正面の鉄扉を全開にし小型クレーンで運び込まれる様子を嬉しそうに見つめる浩介。
「俺はこの店で一番好きなのが正面扉なんです。格納庫みたいで‥‥そう言えば、磯野さんは親父さんの『あの』カップルルームが好きらしいですね?」
「ええ、素晴らしすぎて涙が出てくるほど‥‥理想的です!」
「正式にオープンしたら恋人とでも来て下さい。1回タダにしますよ」苦笑する浩介だった。
●シーク、ムクの場合
「ガラス? 30mmの鉄芯入りだからそうそうには割れないと思うが‥‥」
ムクに言われて用意した段ボールを渡す浩介。
「いいえ、窓じゃなく。食器とか‥‥」
「‥‥VIPルームの壁を1mずらすから振動で割れるかな? カップルルームの割れ物も運び出して貰えるかな?」
自ら仕事を増やしてしまったムクであった。
「とりあえず、中の事務机と椅子、事務棚は外に出しちまっておくれ。そのほうが中のサイズが把握しやすくなるさかい」
ご隠居の指示を受けて、ムクや他のスタッフと一緒に2階から机や椅子などの家具を運び出す。
取り付けられているのは広いがステップがむき出しのスチール階段。下を覗けば足下が見えるという殆ど骨組みと言った代物である。
「こんな所で落ちたら最悪‥‥‥」
「ああ‥‥デッキから紐で吊るして降ろしたほうが良かったかな?」
「中身が無くなったら、次は掃除機と雑巾がけだな。外に出した奴も雑巾で綺麗にしとこうか」とチェックが厳しいご隠居。
言うのは簡単であるが、やる事が山盛りである。
●『体育の日』ライブ当日
「悪い子はイネガー」
「きゃーっはは♪」
ライブ当日、予想に反し小学生が大挙して押し掛けるという事態が発生してしまった。どう見ても子供に遊ばれているとしか見えないハッカイ。
「最早、警備じゃないな。良いんだか悪いんだか‥‥」
「良いんじゃねえか? ハッカイのナマハゲ、受けているようだしな」
磯野の提案で作られた揃いのStaffジャンパーを着て立つ浩介と親父さん。無休で進められている工事もライブ中は休憩である。手の空いた者は渡されたジャンパーを着て、駐車場脇の出店で串焼き等を摘む。ライブも無事に進みそうだ。
後半の3日間は、警備担当者たちの連係プレイもあり違法駐車もなく平穏無事に済み、最終日の午前中にご隠居、厳選のインテリアが運び込まれたのであった。
「お疲れ様! また何か会ったらよろしく頼むぜ!」
全ての作業が終了した後、近くのちゃんこ屋で親父さん主催で鍋パーティが催されたのであった。