魔王子、雛祭りアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/03〜03/07

●本文

「王子様と薫は、入っちゃ駄目−!」
 そういってチェルシー達は、魔王子たちを部屋の外に押し出した。
「残念、雛あられとやらを食べ損ねた」と魔王子。
「雛あられならまだ残っているよ。たしかママが棚に‥‥」
 薫の家で行われる事になった雛祭り。
 チェルシーが来てからママがこっそり、そしてせっせと雛人形をつくっていたのだ。
 3月3日、ある意味これほどお披露目に相応しい日は無い。
 ママから雛人形と雛祭りの事を聞いたチェルシーは、薫の友人の女の子達も招いて雛祭りをする事になったのである。
 お内裏様にお雛様、雛あられに菱餅、三人官女に笛や太鼓の楽士‥‥ぼんぼりや桃の花を飾ってまでの本格的な雛祭りである。
 それ故「男の子は禁止」なのである。


●アニメ『魔王子、雛祭り』声優募集
 あらすじ:人間の女の子、魔物も入り交じっての雛祭り。少女達から出て来るのは、男の子たちへの不満?
 それともおのろけ? それとも呪いの人形?
 人間と魔物の交流を描くフルアニメ。


●主な登場人物
「魔王子:ゾーンゼー」通称:王子or権兵衛、モンスター達の王国、エム・ランドの王子。ちょっと小柄なイタズラ好きの男の子。仲良しの妖精と一緒に門を抜け、人間界にやって来た。寒がりで卵焼きが好き。本名で呼ばれる事が嫌い。今回、あまり出番なし?
「妖精:チェルシー」魔王子のファンでヤキモチ焼き。魔王子と一緒に人間界にやって来た。着せ変え人形サイズで薫のママのお気に入りで衣装持ち。
「笹原薫」魔王子を呼び出した小学生。魔王子を権兵衛と呼ぶ。「名付け人」今回、あまり出番なし?
「魔物」エム・ランドの住民。魔王子の世話係。吸血鬼や狼男等、人型に近い程人間の一般識をやや理解するが、通じない部分も多い。人間に近い物はアルバイトをしたりして、生活費を稼いでいる。

●今回の参加者

 fa0155 美角あすか(20歳・♀・牛)
 fa1406 麻倉 千尋(15歳・♀・狸)
 fa1689 白井 木槿(18歳・♀・狸)
 fa1772 パイロ・シルヴァン(11歳・♂・竜)
 fa3764 エマ・ゴールドウィン(56歳・♀・ハムスター)
 fa3786 藤井 和泉(23歳・♂・鴉)
 fa4181 南央(17歳・♀・ハムスター)
 fa4286 ウィルフレッド(8歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

●CAST
 チェルシー‥‥白井 木槿(fa1689)
 グリッターナ‥麻倉 千尋(fa1406)
 島谷 奈緒‥‥南央(fa4181)
 ママ‥‥‥‥‥エマ・ゴールドウィン(fa3764)

 魔王子‥‥‥‥ウィルフレッド(fa4286)
 笹原薫‥‥‥‥パイロ・シルヴァン(fa1772)
 デュラン‥‥‥藤井 和泉(fa3786)
 プッチ‥‥‥‥美角あすか(fa0155)


●女の子、女の子、女の子!
「ご招待ありがとうございます。このような催しは私共の世界にはありませんの」
 うやうやしく薫のママに頭を下げるグリッターナ。
「ぐり子ちゃん、待っていたよ♪ 今日は一緒に楽しもうよ♪」
 いつもはアップにしている栗毛の髪を下ろし、冠の代りに紫色のすみれを飾っている十二単のチェルシーが手を振る。
「凄いなぁ‥‥私の家にあるのは、お内裏様とお雛様二人だけの小さなセットなの」とママ力作の七段飾りを見つめる奈緒。
「ちょっとズルして豪華にしているけど」と白酒を運ぶママは淡い桜色の着物を着ている。
 指し示す方を見れば、ぬいぐるみやビスクドールも整列している。
「エム・ランドでもやればいいのにね。沢山お花を飾って、おしゃれして‥‥いーっぱいお喋りするの」
「この一番上の男の子、王子に似てますわね」
「やっぱりぐり子ちゃんもそう思う?」とチェルシーが黒い瞳をキラキラさせて言う。
(「良かった。王子もチェルシーも本当に馴染んでいるのね」)
 聞こえないように口の中で呟き、ほっと胸を撫で下ろす。

「‥‥これは対じゃないんですね」
 一体だけ雰囲気が違う古びた女雛を見つけるグリッターナ。
「この子は骨董屋さんから修復依頼を受けているのよ。棚の奥に仕舞っているんだけど‥‥何時の間にかショーウィンドゥ内にいるんですって」とママ。
「へぇ、お外が好きなのかな?」とチェルシー。
「持ち主か誰か待ってるのかも知れないわね」とママが言う。
「私はそういうの苦手、なんだか恐くって‥‥そうだ。三色ゼリー持ってきたの。よかったら食べてね」
 恐い話は打ち切りとばかりに小さなバスケットに入った器を示す奈緒。
「わー、綺麗♪ 奈緒のゼリーも飾ってから食べようよ」
「そうですわね。ママのお料理が冷めてしまいますし、お昼にしましょう」とグリッターナ。

 一方廊下で炬燵にあたっているのは、魔王子、薫、デュランである。
 昼食に錦糸卵たっぷりのちらし寿司に蛤のお吸い物を貰ったが、如何せん廊下である。
 ドアから漏れ聞こえて来るはしゃぎ声が、気持ちを暗く寒くしていく。
 ぷっちといえば、何時呼ばれてもいい良いようにとドアの前でウロウロしている。
 独り涼しい顔をして緑茶を啜っているのはデュラン。
「ぷっちも炬燵に入ったら?」と薫。
「わしゃー人気者やけん、お呼ばれする準備は万端しとかにゃーならんだぎゃ」
「王子である俺が呼ばれないに猫であるお前が呼ばれる訳がない」
「本当は女の子達と一緒に遊びたいんだ」
「そ、そんな事にないみゃー。女共にだけだと色々不都合があるだろうから付き合ってやるだけだぎゃ」
 ギャーギャーと文句を言いあう2人と1匹。

 ドアがバタンと開くとグリッターナが一言。
「あんた達は静かにするって言う事が出来ないの? デュラン様を見習って男らしく静かにしていなさい!」
 そう言うとドアを閉め、リビングに顔を引っ込めてしまった。
「デュラン、この裏切り者! ここは男同士一致団結して温かいリビングに戻る所だろう」
「そうだぎゃ」
「私は普段から女性の意思を尊重しますよ。女性同士だけでお話したい事もあるでしょう」
 さらりと言うデュラン。
「僕の部屋に炬燵を持って行かない? いつまでも廊下にいると風邪を引いちゃうよ」と薫。
「私はいざと言う時の為に廊下に詰めるべきだと思います」とデュラン。
「雛祭りで『いざ』って言う事はないと思うけど‥‥」
「だったらデュランだけをここに残して、炬燵は移動だ。薫、そっちを持て」と魔王子。
「えー、二人で持つの?」

 ***

「全く子供なんだから!」とグリッターナ、五月蝿くないようにとドアに魔法を掛ける。
「ねえ、奈緒ちゃんもお雛様ばかり見ていないでこっちで食べようよ」
 先程からじーっと雛飾りを見つめている奈緒。
「‥‥‥こん‥‥な‥‥」
「おーい?」
 奈緒の前に跳んで行くチェルシー。
「こんなもの‥なくなってしまえばいい。何が、雛祭りか‥こんなもの!」
 奈緒はそう言うと飾られていた高杯を叩き落とす。
 バラバラと雛あられが床に散らばる。
「奈緒ちゃん、止めて!」
 チェルシーやグリッターナが止めるのを振払い、奈緒がどんどん雛壇を壊しはじめる。
「『こんなもの、こんなもの! あの方がいないのに! どうして、私だけ‥‥』」
 どこか目の焦点が合っていない奈緒。
「誰かに操られているの? あたしとチェルシーだけじゃどうしようもないわ」
 グリッターナはそう言うと高速解除の印を結ぶ。

 がちゃーん! ぱりーん!
 廊下に者が壊れる大きな音が響く。
「やった! 『いざ』が来た!」と嬉しそうな魔王子。
「女の子達の前では言わない方が良いよ」と薫。
「全く同感です」
「そうだぎゃ、髭を抜かれるだぎゃ」とぷっち。
 スーツからさっと騎士の姿に戻るデュラン。
「‥‥でもデュランも何か起れば良いなとか思っていただろう」

 ***

「ママがジュースを買いに行っていてくれた良かったよ」
 リビングの惨劇にげんなりする薫。
「何をぼんやり見ているのよ!」とグリッターナが文句を言う。
 雛飾りが飾られていたリビングは台風が通ったような状態になっていた。
「やっぱり温かい部屋で食べる雛あられは最高だぎゃ」
 ぷっちーは、我関せずを決め込んだようだ。
「いや、やはり私は女性に手をあげるという事は‥‥」とデュラン。
「俺もイタズラはするが、女に手をあげるのは王子としては不味かろう」
 変な所でプライド高い魔王子。
「何、格好着けているのよ! 人々を守れないようなヘナチョコじゃ、人の上に立つ資格なんかないわ。大体、奈緒さんがこんな事する訳ないでしょう。何かに操られているのよ」
「ああ、なる程」
「そう言う事であれば、彼女を捕まえなければ話になりませんね」とデュラン。
 ごそごそと懐から小さな茨の輪を取り出す。
「それは罪人を拘束するアイテムだろうが」と魔王子。
「ではどのように?」
「こうするのだ!」
 そう言うと魔王子は奈緒が踏んでいた赤い飾り布を上に引っ張りあげる。
 脚を取られ転ぶ奈緒に皆で一斉に飛びかかり布でぐるぐる巻にする。
「‥‥なんだかのり巻きみたいだぎゃ」

 ***

 奈緒を中心に取り囲むように立つ魔王子たち。
「取り敢えず何かが取り憑いている感じよね」とグリッターナ。
「精神転換や行動操作の魔法とかではなく?」
「ええ、魔法じゃないわ。形跡が残るもの」
「誰だか知らないけど、御人形が可哀想だよ。折角綺麗に飾ってもらって‥‥あたしだったら泣いちゃうよ」
 チェルシーは床に落ちている女雛を拾い上げ、埃を払ってやる。
「‥‥え、なあに?」
「どうした? チェルシー」
「今、声が聞こえたの。『悪くないよ。可哀想だよ』って誰かが言ったの」
「不思議だね。家具とか壊れているけど、人形は一つも壊れていないや」
 ママが戻って来る前に少しは片付けておこうと人形と壊れた物を分けていた薫が言う。
「ねえ、君。もしかして人形じゃない? 古い人形って魂が宿るとか言うよ」
 奈緒に取り付いたモノは押し黙ったままである。
「そういえば魔法教科書にも古い物に魂が宿るって書いてあったわね。そうなら本体の人形を壊せばいいのよ。私が指示するわね」
 銀色の羽根が憑いたステッキを取り出すグリッターナ。
「でもママは、御人形を壊すのは可哀想だと思うわ」と買い物から帰って来たばかりのママが言う。
「皆、お部屋で運動会を始めたの?」

 ***

 ママとチェルシーの説得により奈緒に取り憑いた人形は、何処の家で飾られていたか、母から娘へ、娘からその娘へと、一緒にお嫁入り道具として代々色々な家で飾られていたかぽつぽつと話し始める。
「そっか‥‥あなたはお雛様なんだ」とチェルシー。
「『家の主が住まいを帰る度に一人欠け、二人欠け‥‥ついに残ったのは私とあの方だけ‥‥でも気が着けば私、独り‥‥暗い箱の底にいるよりはあの方にお会い出来るかと窓の外を長い間を見ていた‥‥けれど、お会い出来るはずもない‥‥私は独りぼっち』」
「お内裏様と離れ離れ‥‥」
「独りぼっちは寂しいわよね」
 ママとチェルシーは仲良くハンカチで目頭を押さえる。
「気持ちは判るけど、他の皆に八つ当たりはいけないわよ」とグリッターナ。
「ねえ、可哀想だから探してあげるんでしょ? 大丈夫だよ。王子様は優しいんだから、ね、ね!」
 目と鼻を赤くして迫るチェルシーに苦笑する魔王子。
「そうだな」
「うーん、でもどうやって?」と薫。
「ここはやっぱり、頼りになる名探偵達に頑張って貰いましょう☆」
 そう言うとママは、雛人形を修理を依頼した骨董屋にいそいそと電話を掛けに行った。

 ***

 何とか骨董屋から女雛が流れて来た経路を追いかける魔王子と薫達。
 薫のリュックにはママが預かった女雛が入っている。
「やっぱり『呪いの雛人形』と言うのは効くな」と魔王子。
「あんまり『呪い』って連呼するのは可哀想だよ」と薫。
「別に良いのだ。チェルシーやぐり子だけではなく奈緒やママにも迷惑を掛けている。反省は必要なのだ」
 きっぱりと言う魔王子。
 質屋を辿り、どうやら元の家を探し出す魔王子達。

「え、ない?」と声をあげる薫。
 家人の話によると幾ら探しても女雛が見つからないので男雛に新しいお嫁さん、つまり新しい女雛を作ってもらおうと、とある人形作家に依頼し、今、男雛が手元にないのだというのである。
「じゃあ、新しい女雛が作られる前に何とかしないと」と薫。
「お嫁さんが2人は不味いだろうな」
「おばさん、その作家の人の家を教えて下さい!」
「そうね。折角見つかったんだから、新しい女雛を作って頂くのを止めて頂かないと」
 いそいそと宅急便の伝票を探しに行くおばさん。
 伝票に書かれた連絡先に電話をかける。

 もう男雛は作られてしまったのだろうか?

「もしもし、笹原さんのお宅でしょうか?」
 おばさんの一声に顎が外れる位あんぐりと口を開ける薫と魔王子だった。

 ***

「全く薫の家に合ったとはな」
「ママもママだよ。さっさと開ければいいのに!」
「だって今日はお仕事しない日なのよ。それに受け付けた順番に開けないとどれが一番早く頼まれたか判らなくなるんですもの‥‥」
 結局、男雛はママの仕事場から見つかった。
 男雛を見つめる奈緒(女雛)。
「『やっと‥‥』」
 奈緒の頬を一筋の涙が流れる。
 ふっと力が抜け、くたくたとへたり込む奈緒を支えるデュラン。
「奈緒さん、大丈夫?」
 グリッターナが奈緒に声をかける。
 一瞬、びくりと人形を見て身体を震わせるが「‥‥大丈夫。今‥『ゴメンなさい。ありがとう』って‥‥良かったね会えて、もう寂しくないね」
「うん。全く人騒がせな奴だが、まあこういうのも良かろう」
「でも折角の雛祭りが台無しだね」
「はい、はーい♪ 提案でーす♪ 皆でお雛様になろう」とチェルシー。
「なんだそれは?」
「折角出会えたお内裏様とお雛様にあやかって皆でお雛様になれば、きっと離ればなれになってもまた会える気がするの」
「いい案ですわね」
 グリッターナは魔法のステッキを取り出し一振りすると銀の光が皆を包み込む。
 少女達が十二単姿に、魔王子達が束帯姿に変わる。
「私もですか?」とデュラン。
「丁度3対3なのに、デュラン様は私に恥を書かせるのですか?」
 そうグリッターナに迫られ、折れるデュラン。
「わしゃー菱餅がええだぎゃー」とぷっちー。
「ぷっちーは菱餅というよりは『ぼんぼり』か『梅の花』じゃない? 丁度ブチが梅みたいだし」
 そう言ってスティックを振るグリッターナ。
「な、なんでだみゃー! 虐待だみゃー!!」
 ピンクと白のブチになったぷっちーが文句を言う。
「折角だから写真を取りましょうね♪」
 そういってママがカメラを構える。
「はい、チーズ☆」
「なに? チーズがどこにあるだぎゃ」
「こら、ぷっちー!」
 チーズを探して走り回るぷっちーのお陰で結局マトモな写真が一枚もなくなってしまったがそれはそれで楽しい物である。

 チェルシーがパタパタとママの所に跳んで行き、桃の花を簪のように挿す。
「えへ。ママも女の子だから、今日は主役だよね♪」
 小さな思い出が一つ増えたようである。