姫様漫遊記アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/23〜03/27

●本文

 ナレーション――
『天下太平世は情け、火の元の国を東西に分けての関ヶ原の戦いも遥か昔話になってしまった江戸の世。将軍様の末の末のそのまた末の姫に「あんず姫」という姫様がおりました。
 あんず姫様は大層美しく‥‥俗に言うグレイビー(great beautiful)な少女でありました』

「ちょっと待て、このナレーションを本気で流すのか?」と鬼塚。
 大体グレイビーの使い方が違うだろうが。と突っ込む。
「そうですよ♪ 時代考証丸ごと無視の超娯楽的時代劇です☆」とよしりん☆。

 ――TOMI−TVの春の新作ドラマの打ち合せ風景である。
 よしりん☆が抱えているアニメやファミリー向けドラマがこの春一段落するのであるが、新作は貴重なアンケートや視聴者の投稿やそしてよしりん☆も前からやってみたかったという点で娯楽時代劇が採用されることになったのである。

「よしりん☆も『桃様、斬る!』とか『三匹の生臭坊主』とか好きですが、前企画した時は他の脚本家の方が時代劇を手掛けていたのでタイミングを見ていたら『ザ・DOG』の方が思ったより急がしくって☆」
 てへっ☆ っと笑うよしりん☆に冷たい視線を送る鬼塚。
 丁度二人が関係する『ザ・DOG』も現在の所予定通り、4月に春休みSPを大々的に放送予定である。
 好評であれば、この番組も何回か続けてみようと言うことで、テスト版が作られる事になった。


●娯楽時代劇ドラマ「姫様漫遊記」
 将軍の末姫「あんず姫」、将軍の側室「かさね」の子である。
 この「かさね」は元々は庶民の出、紀州の廻船問屋舟木屋の娘であったが、見習い奉公で大奥に上がった所、お手付きになったのである。目出たく姫(あんず)を授かったのである。
 将軍様には正室との間に若宮が何人もおり、あんず姫には全くお世継ぎ騒動は関係ないので、あんず姫はすくすくと真直ぐに優しく美しい姫に育ち‥‥‥ただし、一つだけ欠点が合った。お忍び歩きが大好きなのである。
 母かさねと一緒に大奥に入った舟木屋の女中よねの子「あさぎ」とは、生まれた時からの親友でお忍び歩きにも必ず着いて来る。
 そんな二人が流行りの歌舞伎を見に行った帰り立ち寄った茶屋でふと庶民に流行っている「お伊勢参り」の話を耳にする。

「妾もお伊勢参りとやらに行ってみたい」とあんず姫。
 あんず姫の母、かさねは冬に風邪を患った後、床に臥せったままである。
「先日、権現様(日光)にお参りに上がったが母上様はちっとも良くならない。やはり自ら苦労して歩かねば、神様も妾の願いを叶えて下さらないのだろう」
 母想いは良い事だが、これを聞いたあさぎはびっくりした。
「あんず様、『入鉄砲に出女』と噂に聞く関所には手形と言う物が無ければ女は通れないと聞きますよ。その手形を貰うのもとても大変だと聞きますよ」
「だがあさぎ。妾が表立って動けば権現様の時のように行列を作らねば成らぬ。面倒だし、あれは財を圧迫する。お付の者も周りに住まう者も迷惑だろう」
 ぜんざいを啜るあんず姫。
 ここで隣に座っていた遊び人風の男が声を掛ける。
「うっかり聞こえちまったが、なんだいお嬢ちゃん方はお伊勢に行きたいのかい? それも手形なしで」
 男の言葉に顔色を変え、懐にしまった懐剣を握るあさぎ。
「おいおい、別に俺は人攫いって訳じゃ無いぞ。お嬢ちゃん達から見れば胡散臭そうに見えるだろうがな」と男はにやりと笑う。
「芸人なら関所に手形はいらねぇぜ」
「芸? 芸ができれば手形とやらがいらぬか?」
「あたぼうよ。芸人は浮き草、大地にどっかり根を下ろしている訳じゃねぇ。各地をふらふら風に吹かれた浮き世暮し。手形には地主やら大家やら、その地の顔役の身元を保証すると言う口利きが必要になるが、芸人達はそんなものがねぇからな」
「なる程、よく判った。幸いな事に妾は琴と踊りが上手だ。芸人にもなれよう」とあんず。
「おいおい、琴かよ。本当に良い所のお嬢さんなんだな。まあ踊りができるんだったら、知合いの旅一座で踊り娘を欲しがっていたからな。あんたは別嬪さんだから、多少下手でもOKはでるだろう」
「よし乗った」
「あんず様いけません。そんな事をしたら‥‥お父上様やお母上様がお悲しみになりますよ」
「大丈夫だ。どうせ1、2ヵ月の事だろう? 籠って行を成すと言っておけば、今日のように『いえ』に身替わりを頼めば良い」
 いえというのは、座敷きに籠って姫の身替わりをしているやはり舟木屋から来た女中である。
「あさぎが行かなくても妾は行くぞ」
「あんず様、お一人なんてとんでもない!」
「よし、判った。俺は人足集めの『たか』っていうんだ。明日、気が変わらなければ今日と同じ時間にここに来ねぇ。旅一座を紹介してやるよ」
 斯くして翌日、同じ茶屋にいるあんず姫とあさぎ。
 たかに連れられて、旅一座に入る事になった。

●姫様漫遊記 役者募集

「平たく言うと姫様をこっそり守る若侍や忍者、盗賊、隠密やら旅芸人達が東海道を行き、途中でばったばったと悪人を倒す時代劇な訳です♪」とよしりん☆。
「ただ、あんず姫もあさぎも普通の娘なので刀や長刀が上手いとかありませんので、退治は周りの方ですね。あとは、集まった役者さん達で倒される悪役を決めて頂きますが、個性的なキャラクターがいいですね♪ それとお色気(入浴シーン)は欲しいので役者さんには頑張って脱いで欲しいと♪」
「親父かお前は」と鬼塚。
「えー? いーじゃ無いですか。うっかりで上手い物好きのオチ担当と美人の入浴シーンは最近の王道だと思うんです☆ 女忍者や女剣士、芸人やら姫様やら交代で」
「お前‥‥‥なにげに、この企画気に入っているな?」
 計画的なよしりん☆にげんなりとする鬼塚。
「まあ、連続して撮るかは、視聴者の反応次第だな」
「その辺りは心得ています」

●今回の参加者

 fa0182 青田ぱとす(32歳・♀・豚)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1435 稲森・梢(30歳・♀・狐)
 fa3306 武越ゆか(16歳・♀・兎)
 fa3982 姫野蜜柑(18歳・♀・猫)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)
 fa5442 瑛椰 翼(17歳・♂・犬)

●リプレイ本文

●CAST
 あんず姫‥‥‥‥‥‥姫野蜜柑(fa3982)
 お結(ゆい)‥‥‥‥武越ゆか(fa3306)
 刹那‥‥‥‥‥‥‥‥神楽(fa4956)
 英之介‥‥‥‥‥‥‥瑛椰 翼(fa5442)

 お夏(月光の刹那)‥夏姫・シュトラウス(fa0761)

 肥満の国の局‥‥‥‥青田ぱとす(fa0182)
 町娘 お稲(いね)‥稲森・梢(fa1435)

 流離の浪人 健‥‥‥九条・運(fa0378)
 隠密シュシュット‥‥?


●Welcome to 美しい国、肥(ひ)っぽん!
 薄暗い行灯の光に映し出される局。
 身体を肘置きに預け(みしみしと鈍い音)長煙管をゆったりと吸う。
「最近の若いモノは、細身を追求して不健康でおじゃる。西洋でもお腹のでっぱった太股ぱっつんな写実的な絵が美しいと聞いたぞよ?」
 用人を見つめる細い目が、くわっと開かれる。
「オンナの魅力は、柔らかい曲線! つまりは脂肪なのじゃ! よいな、年貢米を民に返し、女は朝と夕、二度のご飯と寝る前のおやつを義務付け、どんどん太らせていくのでおじゃる。昼飯は禁止! 昼の作業で思いっきり空腹になったところに、夕にドカ食いなのじゃ! 過食令を国に布くのじゃ!」
「ははっ!」

 ***

 天晴れな晴天、何処迄も突き抜けるような青空の下、旅一座は大八車が行く。
 赤く染めた長い髪を襟足で結び、着流しに打掛けを羽織った英之介が、ゆっくり着いて来る。
 街道沿い、周囲を見渡し何やら真剣に考え込んだと思いきや。
「んー‥‥綺麗なお姉さんは好きですか? ‥‥つーかなんつーか‥‥いなくね?」
「英之介殿、それは失礼であろう。確かに多少ふくよかな者が多いとは思うが」とあんず。
「この国って、局地的裕福な人ばかりなのね」と一番人気の踊子、お結。
 胸だけ単純に比べればお結の平均3倍はある。
 尤も腰の太さは4倍ありそうであるが。
 すぐに疲れる為か横になっているその姿は、河岸に上がったマグロかトドである。
「うむむ‥‥ふくよかなる事は国の潤い。国が栄えている印と聞いたが‥‥」

 そんな一行は宿を決め、2階の通りに面した部屋に入る。
 向かいの飯屋で白飯をガッツいている女達。
「おっ、皆良く食うねぇ? ‥‥俺も腹減ったー。飯だ、飯ー!」
「英之介さん、まだ宿帳が来ていないのに夕食が出て来る訳がないだろう」
「えいちゃんって呼んでよ? 刹那ちゃん」
「ちゃ、ちゃん?」
 英之介のノリに着いていけない男装剣士 刹那。
「ねえ、先にお風呂に入らない? ここ、温泉なんですって」
 宿の栞を読むお結。
「うむ、妾も温泉は初めてだ」
「じゃあ決まり。食事の前に入っちゃおう♪」
 だが温泉から戻って来たお結は不機嫌であった。
(「チラ見したら、皆、結より裕福!」)
「すみません。団体さんが入っちゃって、遅くなりました」と仲居(お夏)が夕食のお膳と宿帳を持ってやって来る。
「お夏? そなた、お夏ではないか?」とあんず。
「‥‥な、何を言っているですかお客さん。‥‥わ、私はお夏なんて言うあんず様の幼馴染じゃありませんです、はい!」
 転げるように部屋の外に飛び出して行くお夏。
 床に落ちていた雑巾を踏み、ゴロゴロ‥‥ガッシャーン!!
 見事な転がりで、突き当たりの壁にぶち当るお夏。
「間違いない。あれは、お夏だ」

 置かれたお膳はどう見ても1食で1日分を軽く越す量であった。
「むむ‥無念‥‥米には八十八の神がおり、食べ物を粗末にすると民を無下にした事と同じ」
 溜息ならぬ、げっぷをするあんず。
 食が細いと言わないが、皆、大食いではない為、残してしまった者が殆どだ。
 唯一完食したのは、お結。
「あれを食いきったのか‥‥」
「踊ると良い運動になるのよ。それにジェラ魂が叫ぶのよ! 裕福になれと!」とお結。
「叫んだらお腹空いたわ。夜食にお茶と唐芋の薄塩揚げでも貰って来ましょう」
 まだ食うのかよ。と突っ込みを入れつつ、腹ごなしに散歩を提案する英之介。

 町を歩けば、嫌がる太った娘に痩せ細った父親が泣き乍ら飯を食わせている。
「普通、食べれると言うのは幸せな事だが‥‥この国はどうも変だ」
 そんな一行の脇を通り過ぎる輿。中から側を歩く用人に声が掛かる。
「この国はやんごとなき ふくよかなる国でおじゃる。郷に入れば郷にしたがいたも。あの旅芸人をふくよかにするのじゃ!」
「ははっ!」

 ***

「低速高圧! 肉流攻撃(みゐとすとりゐむあたつく)!」
 その忍者達は突然襲って来た。
 丸まるとした体型からは想像が付かない早さで繰り出される技。
 相手をする刹那や英之介は刀を振う度、口から物が逆流しそうである。
 その度に「堪えろ! 『勿体無いの尊(もったいないのみこと)』様がお越しになって祟られる」とあんずが怒る。
「‥‥ま、真面目に働きます‥‥って‥‥げふ」と英之介。
 胃のむかつきが腕を鈍らせる。
 手に饅頭や餡子玉、天麩羅を握ってにじり寄る忍者達‥‥‥見ているだけで胃がむかつく。
 まさに危機一髪である。

 じゃららーん♪
 何処からともなく聞こえる南蛮琵琶の音。
 壊れた古寺の塀の上に黒い笠、獣の皮の胸当てに袴、赤い上衣、白い襟巻きに南蛮琵琶の男(健)が立つ。
「訳は知らないが、食い物を粗末にしてはいけねぇぜ」
 ちちちっ。と指を振る健。
「まだ仲間がいたのか!」
 どよめく忍者達。
「肉流攻撃!」
 丸い身体を生かし高速で転がる弾丸のような肉体は、健が立っていた塀を破壊する。
 ひらりと忍者達とあんず達の間に降り立つ健。
 懐から胡椒玉を取り出し、相手に投げ付ける。
「へーくしょん!」 
「今だ!」
 くしゃみが止まらなくなる忍者達の隙を付き、あんずの腕を取って走りはじめる健。
 海を望む松原に漁師小屋が1つ。
「俺が奴らを引き付ける! 皆はここに隠れていろ!」
 健に言われるがまま、小屋に身を隠す一行。
 薄闇を目立つ白い襟巻きを転がり乍ら追い掛けて行く忍者達。

 ***

「行った様ですね」と刹那。
 魚臭い蓙の影から出て来る。
「全く恐ろしい敵だった」と魚臭い網の下から出て来る英之介。
「しかし奴ら何者だ?」とあんず。
「あれは、お局様の手下です」とお稲。
「うわ! 誰だ‥‥って綺麗なお姉さん、今晩は♪ 一緒に夜明けの甘茶でも‥‥」
 ガスっ!
 鞘毎、英之介の脳天に刀を食らわせる刹那。
「‥‥手が滑った」
「局とは何者だ?」
「この国の‥‥領主、お局様です」とお稲。
「話が長くなるのであれば茶が欲しい」とあんず。
「あ、気がつきませんで。この辺りの名物です」
 餡がたっぷりと入った饅頭を勧めるお稲。
「‥‥饅頭はいい」

 涙乍らに過食令の話をするお稲。
「お局様は自分が減量に失敗し、反動で体重が二割五分増しになった腹いせに過食令を布いたのです。それも段々過激になり、最初1日2回であった食事が5回になり、おやつは3回取るべしと‥‥『米が無いなら菓子を食べればよいでおじゃる』などとやりたい放題‥‥」
「道理で綺麗なお姉さんがいない訳だ」と英之介。
「そういう事ならば、その局やらとに妾が馬鹿げた令を解くよう話してやる」とあんず。
「あんずさん‥‥此処の領主がどのように考え、領民をどのように扱おうが、本来私達の口に出す筋合いでもありませんが」と刹那。
「主足る者が己が気分で民を苦しめる等、以ての外。それに年貢米に手を着けたとなれば、それは幕府への謀反とも取られ兼ねぬ。お取り潰しともなろうならば余計民が苦しむのだ」
「ま、なんにせよ。取り敢えず宿に戻って風呂に入らねぇ? どうも魚臭くって」と英之介。
「臭いですか?」とお稲。
「「「かなり」」」

 ***

 あんず達が局の所に乗り込むと知ったお結。
「おのれ、ド局、許すまじ! 結も行くわ!」
 実は皆が知らぬ間に宿に「猪口霊糖」を始めとする南蛮渡来の珍しい菓子がお局から届けられていたのだった。お結はする事もなかったので、その珍しい甘味を一人食べていたのである。
 そこ迄は良かった。
 先刻風呂に入った時に体重計りに乗らなかったのを思い出し、一人風呂場に行き、体重計りに乗るお結。
「変ね?」
 いつもの分銅の量では、天秤棒は斜めである。
 分銅を動かすお結の見たものは、裕福になった計りの数値と己の腰回り。
 そして今に至る。
 翌日、お局の屋敷で芸を披露する手筈を取り付けた一行であった。

 座敷きの奥で肘置に身を任せた局が座る。
 庭ではお結が早変わりを見せ舞っている。
「うむ、見事な舞いでおじゃる。褒美を遣わすのでおじゃる」
 局が手を鳴らすと南蛮菓子の山がしずしずと運び込まれていく。
「お局様に褒美よりお願いがございます。現在、布かれている過食令を撤廃して頂きとうございます。そうして頂ければ忍の件、不問と致しましょう」とあんず。
「旅一座風情が意見しようと言うのか、片腹痛いのでおじゃる。それに何を証拠にそのような。この不埒者共を捕らえるのじゃ」と局。
「どうあっても白を切るか‥‥えいちゃん、せーさん、『説得』せよ」とあんず。
「なんで、私が‥‥」と刹那。
 そう言い乍ら、相手を倒している所が面倒見が良いと言えよう。
「‥‥緋天烈火斬! ふっ‥‥他愛もない。次は誰の番だ?!」
 溜っていたのか、刀を握ると人が変わったような英之介。
「結の花変化の舞を受けてみよ!」
 掌底が決まり、ひっくり返る用人。
 びりっ!
 力んだはずみに腰の所が切れる。
「キーーっ! 信じられない!」とキレたお結。
「皆、すごいな‥‥」
 やや呆然気味のあんず。
「あんず様、危ない!」
 塀の上にいた白装束の忍者が声をかける。
「ん? そなた‥‥」
 声を掛けられ呑気に後ろを振り向くあんず。
「シュシュゥゥゥット!」
 あんずに向かって振り降ろされた用人の刀は、意図したものか偶然か、絶妙な間で乱入して来た仮面迄もが赤い南蛮忍、シュシュットにより邪魔をされた。
 ドンガラ、ガッシャン!
 両足飛び蹴りの勢いが殺される事なくシュシュットは、そのまま用人共々座敷きの奥に消えて行く。
「そなた、お夏ではないか? 高い所は平気になったのか?」
「わ、私はあんず様の幼馴染みのお夏じゃないです。お庭番『月光の刹那』です」とお夏。
「お夏、後ろに蛾が飛んでいるぞ」
「ええっ!」
 吃驚し、塀から落ちるお夏。
「‥‥‥やっぱりお夏か」
 ガラガラと音を立て、座敷きの奥から戻って来たシュシュット。
「シュシュッと見参! 人呼んで流離いの隠密! 隠密シュシューーット!!」
 元気よく決めポーズを決める。が、誰も気が付いてくれない。
 お夏は誤魔化す為なのか、手近な灯篭をぶんぶん投げたりするので更に凄まじい騒ぎである。
「ええい、人の話を聞け!」とシュシュット。

「来ないで下さ〜い!」
 お夏が引っこ抜いた植木を振り回し、
「シュシュット必殺撃!!」伸身の二回宙転からの飛び蹴りが炸裂し、
 庭に広がる阿鼻叫喚の地獄絵図。
「あわわ‥‥」
 残るは局、ただ一人。
「うむ、この辺で良かろう」と独り悦に入るあんず。
「どうする? 後はあんた独りだ」とシュシュット。
「局よ‥‥妾の顔を見忘れたか」とあんず。
(葵の紋が襖のある座敷き、上座に座るあんず姫(正装)のカットが入る)
「あなた様は‥‥」
 動揺するお局。
「貴様の悪行、お上はすべてお見通しだ。大人しく縛につけい」とあんず姫。
「私が集めた証拠も幕府に報告します」と涙目で言うお夏。
 肩をがっくり落とし、恐縮する局。


●大円団
 宿を離れる用意をしている一行の前に現れた旅装束のお夏。
「あんず様」
 膝を折り、畏まるお夏。
「お夏か‥‥今日は何用だ?」
「この『月光の刹那』新たに命ぜられましたのは、あんず様の護衛にございます。道中、御一緒させて頂きます」
「お夏、妾が『駄目』と言うと思っていないだろう」
「はい! 駄目と言っても着いて行きます」
「可愛くない‥‥」
 お夏の頬を両手で抱え、こつん。と己の額をお夏の額に合せるあんず姫。
「妾はこの旅の道中、悪を成敗し、世直しを決めたのだ。母上様の他、お夏迄もが妾の心配事を増やすのは、まかり成らない。妾の供をし、お伊勢様に行くのだ。よいな?」
「はい!」
 嬉しそうに笑うお夏。
「って事は、行き先は伊勢か! 伊勢海老が俺を呼んでるぜ!!」と英之助。
「お伊勢参り、結も付き合うわ! 毎日合掌して、局地的貧困から脱出よ♪」とお結。
「‥‥それは微妙に何か違う」と刹那。
 わっはっは‥‥一同の笑い声が、明るい空に響いて行くのであった。

 ***

 さてその後、過食令から解放された国の女達。
 一度太った身体を急に痩せさせれば、かえって身体を壊したり、逆に激しく太ったり‥‥。
 中々どうして一度大きくなった胃袋は小さくならない。
 過食令の時代より女達のふっくら度が増した気がする。
 挙げ句、あんず姫一行の強さに憧れた女達が、手軽に始められるダイエットの一貫で相撲をしていたりするから、今では男達に代わって俵を担ぐ女達も出て来る始末。
 でも働けば腹が減る。
 只でさえ減っている国の財は、益々減る一方。
 はてさて、この先如何なる事になろうかと思う時に誰かが言った。
「どうせなら相撲で有名になろう。観光客が来て国が潤おうかもしれない」
 斯くして女相撲は江戸や大阪で巡業を行う程となり、肥満の国は女力士の国として有名になったという。
「躍動する脂肪! ‥‥わらわが浅はかでおじゃった。この美しさこそ、この国に相応しい至高の、或いは究極の肉感でおじゃる!」
 心を入れ替えた局は、全ては強く美しき女性のために政治を改めたのであった。

 ――完