「7」お嬢様大作戦アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
有天
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
不明
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参加人数 |
10人
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サポート |
2人
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期間 |
04/05〜04/08
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●本文
古い運河沿いの鉄工場跡地を改装して作られた作られたライブハウス「7(セブン)」。
厳ついコンクリートの外壁と大きな赤錆が浮いた鉄の扉が印象的で、来る人を拒むように聳え立つ。唯一ライブハウスである証拠と言える物は、ネオン看板ぐらいである。
浩介は悩んでいた。
うっかり軽い気持ちで行った雛祭りライブ、別名メイド祭りは予想以上に好評だったのだ。
出演者が萌えな少女だったり、美女と間違えそうな青年だったり‥‥そこまでは浩介の頭でも理解できた。
綺麗だったり、可愛かったり、それは理解出来る。
だが、何故自分のメイド姿が受けたのか、
そして親父さんのメイド化にプレミアが着いたのか理解不能だった。
だが、確実に店に設置したアンケートBOXには、その手のリクエストが沢山寄せられていた。
店長としてはここで集客率をあげたいと言う気持ちもある。
「‥‥だが、あの姿は」
浩介を悩んでいた。
そんな浩介を後押しする声があった。
「店長、普通にメイドも受けていたんですし、4月4日にオカマならぬ『メイドと執事』祭りとかにすればいいんじゃないんですか?」とベテランスタッフ。
「そうだな‥‥」
だが浩介は知らなかった。
ベテランスタッフが、親父萌えという微妙なジャンルに最近ハマってしまったのを。
辺りを確認して電話をするベテランスタッフ。
「あ、クラウンさんですか? 4月4日『メイドと執事』コスプレ祭りやる事になりましたから♪」
『本当? 親父さんや浩介ちゃん用メイド服もばっちり?』
「ええ、勿論です♪ 今回は親父さんも着れるようにキングサイズもマニアな店から入手済みです♪ ただ、今回上手くやらないと親父さんと店長も『執事』という逃げ道がありますから、参加者のより一層の団結が必要です」
ベテランスタッフは萌えていた。
いや、燃えていたとしか言いようがなかった。
浩介や親父さんが会う人会う人、皆からメイド姿リクエストを受け、げんなりするのと反比例するようにベテランスタッフは親父達のメイド化に燃えていた。
その手の方御用達のネットショップのカタログを見乍ら研究も余念が無いようである。
「でもナースもまあまあだけど‥‥可愛く無いなぁ、やっぱりメイドだよね」
●「お嬢様大作戦」観客募集
ライブハウス「7」にてコスプレライブを行います。
ビートが効いた音楽に乗ってお嬢様気分を楽しんでみませんか?
参加条件:『ドレスコードあり』
和洋中のお嬢様らしい服装で御参加下さい。
男性のスーツ着用
※皮ジャンやライダースーツ、ノーネクタイ等の場合、入場をお断りする場合がございます。
*1Fは立ち見席のみ、飲食物の持ち込みをお断りしてい折ります。
エントランスにあるスタンドバーにて飲食はお願い致します。
●料金表
『ライブチケット価格 3000円』
『VIPルーム+ワンドリンク +席料1000円』
『カップルルーム+フリードリンク +席料3000円』
●料理一律 1000円
フォーチュン・カップケーキ
チョコフォンデュ
フルーツグラタン
メロン粥
焼き林檎プティング
クレープ・シュゼット
パンナコッタ
ビックパフェ
桜のロールケーキ(限定)
桜のフロマージュ(限定)
カクテル類など飲み物とナッツ類は無料
●出演者募集 メイド服または執事服を必ず着用の事!
テーマ 『高貴なる魂』
ジャンル、グループを問わず、ソロ(奏者、歌手のみ)参加も可能
ピアノ&ドラムは、貸し出し可能
ライブでの演奏は、タイトル・歌詞・曲は、オリジナル限定
楽器のジャンル問わず
音源を持ち込む場合・バックバンドが必要な場合は、スタッフにお申し付け下さい。
報酬:3万円
*バックバンドサポート「アルカラル・ナイト」データ
G:クラブ・クラウン、B:ハート・ナイト、Key:スペード・クィーン、ドラム:ダイヤ・エース
●スタッフ募集 メイド服または執事服を必ず着用の事!
音響、照明、他
報酬:3万円
「‥‥アルカラルのメンバーを呼んだのか?」
怪訝そうな親父さん。
「はぁ‥‥インストアライブも好評だったようですし、メイドと執事はビジュアル系だと‥‥」と胃を摩り乍ら浩介。
「しかし彼奴ら‥大丈夫なのか?」
「ええ、それが心配です。何を企んでいるのか‥‥」
爆弾を抱えた状態でコスプレライブは、行われる事になった。
●リプレイ本文
「いらっしゃいませ、お嬢様♪」とにこやかに入場客を迎えるのは、シックなロングメイド服の雫紅石(fa5625)。
ホールの中で客を迎えるスタッフは、メイド7:執事3というところであろうか?
今回、スタッフはメイド服かイブニングスーツ(タキシード)を着れば、どちらがどちらが着ようと男女不問である故、ティアや由里・東吾(fa2484)のようにメイド服を着ている男性も多くいる。
そんな中、燕尾服(主人:ホスト役)で立っているのは、顔を引きつらせた親父さん。
スーツもタキシードも、勿論燕尾服とは縁がないので本人的にはかなり苦痛であったが『メイド服よりは遥かにマシ』と大人しく着たが‥‥。
「店長室に篭っていた方がマシだ」
「我慢してください。群青さんだって覆面を取っているんです」とタキシード姿の浩介。
「歌うんだったら覆面だろうが、ズラだろうが関係ない。スタッフはスタッフだろうが」
「それはそうですが‥‥群青さんの一言がなければ、丸め込まれそうだったじゃないですか」と浩介。
『狼覆面演歌歌手』と言う微妙な肩書きを持つ群青・青磁(fa2670)の発言がなければ親父さんは60%の確立、浩介はメイド服を受け取る寸前まで至っていた。
だが、野球で言えば『9回裏2アウト出塁0』の状況からホームランのラッシュにより気が付いてみれば大差で逆転勝ちという所であろう。
「丸め込まれそうになったのは、お前だろうが。メイド服マニアな癖に」
「誤解をされそうな発言は止めてください。本気にする人がいますから」
――時間は、少し戻る。
「今日もよろしくにゃ♪」
神代タテハ(fa1704)が兄の神代アゲハと共に楽屋入りする。
「‥‥‥‥あの‥‥‥これ、似合ってる、でしょうか‥‥‥?」
二人より先に楽屋入りしたDESPAIRER(fa2657)。
メイド服も初めてだが、恋人のアゲハと同じ仕事に入ったのは初めてなのでどうも落ち着かない様子である。ディーがステージ衣装として持ち込んだのはシンプルなロングのメイド服。
「よく似合っているよ」とアゲハが微笑む。
ほんのりと頬を染めるディー、尤もそれが判るのは彼女を良く知っている者だけだろうが。
「店からメイド服を借用したい。出来れば2着」と織石 フルア(fa2683)。
「2着?」
「兄の伝ノ助が、音響の手伝いをする」
うなずくフロー。
「ドレスを着て来たはいいが‥動き辛い。1着は兄さんが着る」
「ああ‥‥そういう事なら判った」と天井に視線を向ける浩介。
フローは伝に「スタッフ用の着衣」だとメイド服を手渡す。
30秒程手渡されたメイド服を見つめた伝。
「そりゃま、お仕事では時々女装もしやすけど‥‥」
「大丈夫、兄さんならきっと似合う」
斯くしてフローの思惑通り、座敷童子‥‥クイーンの関心は、伝に向けられていた。
「調子はどうだ?」
様子を覗きに来た浩介がフローに声を掛ける。
少し考えた後にフローが、浩介に尋ねる。
「休憩の合間にピアノを弾いてみたいんだが‥‥」
「ピアノ?」
「『アヴェ・マリア』なら弾ける」
「‥‥‥どうせならステージに出てみる気はないか? 今日は出演者が少ないし、ディーの前に入れれば構成上問題ないと思うが?」と浩介。
だが結局、音響の仕事を優先させたフローはステージに上がることはなかった。
***
「しかし今度はまた‥‥変ったお祭り騒ぎを考え付きましたね」
「ほっとけ。今回は俺の案じゃない。スタッフだ」と浩介。
念入りに偽乳や黒髪の鬘まで着けたユリは、詰襟ロングスカートのメイド服だった。
「男でも似合う奴が着れば似合うもんなんだな」と群青。
「自信作です」とユリ。
どうやらコスプレと言うより本人には、特殊メイクの一貫らしい。
尤も化粧は少し勝手が違ったようでティアにアレコレ確認しながら化粧をしていた。
「俺や店長や親父さんみたいなオヤジが着たらキモイだけだろうがな」と執事用のジャケットを着る群青。
「大丈夫ですよ。良かったら群青さんもしてみませんか? お手伝いしますよ?」とにっこり笑うユリ。
「慎んで断る。やはり男の渋みを持つオヤジには執事服に限る」と群青。
「折角のイベントなんだし、着てみましょうよ? その方がきっと盛り上がりますって」と新井久万莉(fa4768)。
「執事服をか?」と親父さん。
「メイド服よ。この手の潤いが無いと人生楽しくないし、タテも親父さんのコスプレ、見てみたいよねー?」と久万莉。
「浩介さんは(メイド服を)着ないのか?」とフロー。
「兄さんともお揃いになったし、浩介さんともお揃いになったら楽しそうなのにな‥‥」
ジーっと浩介を見つめるフロー。
「普段の自分と違う姿になるのは、結構楽しいですよ」とユリ。
ディーは、無言で圧力を掛けている。
「お客さんが残念がってましたよ。二人のメイド姿を記念に見に来たけど着てないね。って」と先程迄楽屋に差し入れを持って行っていた七瀬紫音(fa5302)。
「‥‥‥他人の潤いの為にハジなんぞ掻きたくない」と親父さん。
「でも皆の言う事にも一理ありますよ。お客さんが喜ぶなら、全力をつくすのがホスト役の『魂』ってものでしょう」とユリ。
「たしかにそうだが」と浩介。
「親父さんがメイド姿になるのを私も見てみたいんですけど‥‥ダメですか」
ウルウル目で上目遣いに見るシオ。
「「うっ‥‥‥」」
さすがにこれにはグラリとくる親父達。
「一生懸命に頑張っている女の子の姿を見ていると、つい応援したくなってしまいますね」とお仕着せのタキシードを着込んだダミアン・カルマ(fa2544)。
「メイド服じゃなかったら俺も応援したいが‥‥」と親父さん。
「オモシロ半分にシャシンでも撮られてネットに載せられ末代までの恥になるのがオチだろう」
揺るぎない自信を持って言う群青の言葉には、親父乍らの説得力がある。
「それにメイド服‥‥着るのなら本人が心の底から着たいと思って着るのが一番だ。無理に着せるべきではない‥本人も着られるメイド服も可哀想だ。妻や子もそんな親の姿を見れば悲しむ」
コーナーに追い詰められた親父さん達をちらりと見て、ぼそりと言う群青。
群青の言葉で素面に返った親父達は、声を揃えてこう言った。
「「正しく、その通りだ!!」」
こうして脆くも親父さん達のメイド化作戦は、玉砕したのであった。
「だ〜か〜ら〜『皆で協力しないと駄目』って言ったじゃないですか。女の子の可愛いお強請りには二人とも親父ですからグラっとしたみたいですけどね」とVIPルーム用のナプキンを畳んでいたベテランスタッフが溜息を着く。
「店長は雛祭りの時に御家族にメイド服を来たのがバレないように‥‥初めはライブに呼ぶ予定だったのを急遽来ないようにしたらしいんですから、お嬢さんの話をしちゃ駄目ですよ」
「二人とも警戒しますからしばらくは二人の前でメイドの話は厳禁ですよ。適当な時期をこっちで見て、企画しますから」とメイド賛同者達の顔を見ていう。
「嫌がって‥いる‥‥姿も‥倒錯的で‥‥素敵ですが‥‥しょうがありません。‥to‥be‥next‥‥chareng‥と言う事で」とクイーン。
「皆さんも気持ちを切り替えてライブに専念してくださいね」と言うベテランスタッフであった。
設営をし乍ら事の次第を見ていたダミアン、苦笑し乍らこう言った。
「お子さんやお孫さんにお願いされていると感じたら‥‥親父さんや浩介さんも断りきれなくなっちゃったかもしれないね」
「うちの娘は、ハウスの親父をやり始めてから半年口を利いてくれない」とむっつりと言う浩介。
「俺の娘や孫もこんな馬鹿な事は思いつかねぇよ」
娘や孫に頭が上がらない親父達であるが、父親としてのプライドがある。
それが何かと言われれば、親父だからである。
――そして現在、ライブに至る。
「ま〜ぜ、ま〜ぜ、ま〜ぜまぜ♪」と歌い乍ら、客のコーヒーをかき混ぜるティア。
「では、最後に雫の愛を加えさせていただきますね♪ ふー、ふー、ふー♪」
ティアにコーヒーを冷まして貰っている男性客はてれんと鼻の下を伸ばしている。
「‥‥‥全く見事なもんだ」
【none title】神代タテハ G:神代アゲハ
♪♪♪〜
(真っ暗なステージにパっと明るい星型の光が浮かび上がる。キラキラと流れる星の中、流れる曲はライトポップ。
タテの衣装は、白いリボンに揃いの黒いステッチリボンが入った白いエプロン。
ゆったりとした広がりを見せる袖と腰にポケットが着いた黒い膝丈のワンピース。
白いレースがあしらわれていた靴。WEAの映画「メイド in JAPAN」のオーディションで使用したものだという。
可愛らしく歌い上げるタテの声を支えるメロディは、アゲハの軽快なギター。兄妹ならではの息の合ったリズムに響く)
いらっしゃいませませご主人様♪
常世の試練に疲れた♪
あなたの高貴なる魂♪
癒してあげましょ♪
ご奉仕しましょ♪
(星が煌く中、柔らかいその声は楽しげに響き、ノリノリの曲は余韻を残さず終了した)
〜♪♪♪
【僕らの旅−チャレンジャー−】アルカラル・ナイト
♪♪♪〜
(板付きで始まったその曲は、TOMI−TVでの放送予定ファンタジーアニメのエンディング曲。
人前での披露は、初になる。
曲中の盛り上がりに併せて、ダミアンが操作する照明が激しく動く。
終盤、吹き渡る風ようなピアノの響きの中、呟くような台詞が余韻を残し、
絞られていくスポットライトの中、ピアノのメロディ、ウィンドチャイムが共に静かに消えて行く。
真っ暗になったステージの中、バンブーチャイムのポコポコとした音だけが静かに残る)
〜♪♪♪
【Polestar】DESPAIRER
♪♪♪〜
(スローなバラードのメロディーが響く、スポットライトに照らし出されるディー。
高貴なる魂のありかを讃えるようにディーの高く澄んだ声が、更に高く伸び上がる)
Like the polesta
休むことなく 夜空を統べて光を放つ
Like the polestar
輝き続ける 例え我が身が燃え尽きようと
(誇り高きものの優雅さをもかもし出すその曲は、絞られていくスポットライトの光の中、
ディーの豊かな声の余韻を残し、ステージは終了した)
〜♪♪♪
尚、気に入られた群青にはライブ終了後「似たような体型だから持って行け」と親父さんから『クレリックタイト』が贈られたのであった。
***
帰り支度をし乍ら久万莉が作ってくれたオニギリを食べているアルカラルのメンバーに声を掛けてきたのは、スタッフの仕事が一段楽した雨堂 零慈(fa0826)であった。
「デビューの時は仕事で行けなかったからな‥遅くなったが祝いの花束だ」
「ありがとう。うれしいよ」
大きな花束を受取り嬉しそうにするクラウン。
「会う時は着物ばかりだからレイジのタキシード姿は新鮮だね」とクラウン。
「変か?」
「ううん、良く似合うよ。メイド服より‥‥薦めた方としては変だけど、メイド服よりも100倍格好良いよ」
「幾らクラウン殿の頼みでも拙者は侍の端くれ‥‥洋服は着れても婦女子の服は絶対に着れん」
レイジの言葉を聞いて、くすりと笑うクラウン。
楽屋入りをした直後、当然のように親父さんと浩介に挨拶代わりにメイド服を薦めた序に同席していたレイジにもメイド服を薦めてみたのだ。
「見た目のイメージって言うのは、大事だよね。尤もそれが本質とは限らないんだけど‥‥」と笑う。
V系というイメージを常に身に纏い続けているが、本当のクラウンというのは別にあるのだろうか?
もっと親しくなれば今見ているクラウンは、別な顔を見せてくれるのだろうか?
そんな思いがレイジによぎる。
「クラウン殿‥‥恋人とは言わない‥‥友達でいて‥‥くれるか?」
「なぁんだ、残念。あたしらはお友達じゃなかったんだ。それにあたし、今フリーなんだけど」と笑いかけるが、レイジの真剣な目を見て苦笑するクラウン。
「OK。こんなあたしで良かったらお友達でよろしく」
謎めいた微笑を浮かべ乍、クラウンは口の中でこう続けた。
『尤も‥‥あたしなんてレイジには似合わないよ‥きっと‥‥』