ザ・DOG=春SP=演アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 04/26〜04/30

●本文

●ドラマ『潜入捜査官−ザ・DOG−』=春の大爆発SP= 役者募集

<序章>
 何処迄も白い雪原を逃げる男。
 薄い灰色のシャツに同色のズボン、足は裸足で運動靴を履いている。
 男は何処かに軟禁されていたのか?
 無精髭にバサボサの頭、痩せ細った顔色の悪い顔に球の汗を掻き、何度も雪に倒れ乍ら必死に逃げている。

 男を追い掛ける一団。
 色々な年齢の男女が混ざっている。
 ただ同じ所で生活をしていたのか、男と同じような服を着ている者も多い。
 違うのは、首から不思議な形をしたネックレスを下げている所と手には色々な物を持っている点だろう。
 ある物は特殊警棒、ある物は包丁、ある物は棒きれ、またある物は鋤や鍬‥‥‥何処から手に入れたか短銃やライフルを持っている。

 逃げる男は監視の目を盗んで施設を抜け出し、必死に山を下っていた。
 人のいる所、県道に出れば助かるかも知れない。

 追い掛けて来る一団の先頭は、監視をしていた男だ。
 上役から殴られたのかも知れない。
 曲った鼻から落ちたと思える鼻血が乾いて顔にこびり着いてる。
 男を逃せば、監視していた男も同じ目に遭う恐怖からかも知れないが、鬼のような形相で追い掛けて来る。

 乾いた雷鳴のような銃声が響く。
 鈍い熱い痛みを感じて逃げていた男は、雪の上に倒れる。
 追っ手の誰かが撃ったのである。
「く‥‥‥」
 追い付いた追っ手に取り囲まれる男。
 男を取り囲むどこか歪んだ狂喜の目。
「手間取らせやがって、公安の犬が‥‥‥ヤレ」
 監視の男が命令をする。
 降り降ろされる得物、雪の上に鮮血が散った。

 ***

 最近、若者が集まる繁華街のある駅前等で派手な勧誘で注目を集めるとある宗教団体。
 一部ワイドショーで家族と団体とのトラブルが放送されマスコミからも注目されている。
「カタルシスだ!」
 警察と公安がマスコミを抑えていたが、過激な一部狂信者とも言える者達が、交番に卵をぶつけるから警官を襲う者迄多々いる。いざ捕まえてみれば「殉教だ」と取調室で自殺を図る者から団体から派遣されたと言う有能な弁護士に簡易裁判であっという間に払い下げられて行く者。
 年齢性別職業も様々‥‥中学生から有名IT企業の社員迄様々であった。
 公安では団体を要注意団体としてマークし、内定を始めた。

 ――だが、内通者がいるのか送り込んだ捜査官は、ようとして行方知れずになるか。
 ミイラ捕りがミイラになる始末‥‥‥。
 ようとして団体の足がつかめず、苦境に立たされていた。
 そんな中、とある捜査官が命がけで入れた報。
 とある暴力団が管理している倉庫に大量の武器が運び込まれる極秘ルートが襲撃されると言う。


 円卓‥‥‥『総纏』に呼び出される『犬飼(ブリーダー)』。
 暗い部屋に黒い影が蠢く、犬飼だけを強いスポットライトが照らす。
『「法の真理」ト言う団体ヲ知ってイルカネ?』
 マイクロホンから流れる声は、器械で合成処理されている。
「連日マスコミに取り上げられてる新興宗教団体ですね。公安が『テロ予備団体』とマークをし始めたと聞いております」
『「テロ予備団体」デハナク、奴らハ「テロリスト」ノ集団ダ。奴らヲ野放しニシテオクノハ国家ノ為ニナラナイ!』
 別の男が吠える。
『ソノ「法の真理」ト言う団体ガトアル暴力団ノ倉庫ニ大量ノ武器ガ近日中ニ運ビ込マレル。ソレヲ狙ってイル。コレヲ壊滅シテ欲しい』
「それは犬達の対応レベルを越えていると思われますが? 公安か警察、もしくは税関の両領域ではないでしょうか?」
 坦々と答える犬飼。
『国家ノ一大事ダ! ソレを‥‥‥』
 激高する男を別な男が抑える。
『公安ヤ警察‥‥奴らハ毒ノヨウニ静かニ勢力ヲ伸バシテイル。潜入シタ公安ノ捜査官デ行方知れずニナッタ者モ少ナクナイ』
「‥‥‥公安が動いている中、犬を放てと言う訳ですか‥‥公安にこちらの正体がバレる可能性があるとは思いますが?」
『ソノ「リスク」ハ承知シテイル』
 暫く犬飼は考え込んだ後、こう口を開いた。
「‥‥では、武器携帯を禁じられている犬達に武器使用許可を頂きたい。少なくとも他の『犬飼』からやあなた方から『狼』が放たれないように」
 ざわざわとした沈黙。
『‥‥‥我々ノ「預かり知らぬ所」デ何ガ起ろうト我々ハ知らヌ。犬飼ハ狩人達ノ為ニ犬共ヲ放てバ良い』
 犬飼は深く頭を下げると光の中から静かに出て行った。


●用語
「犬(DOG)」潜入官、サポーター、リーダーによって構成される実働部隊。
「実働潜入捜査官(潜入官)」調査対象組織に直接潜入する捜査官。
「サポーター」潜入捜査チームの補助役。潜入官を助け、情報収集・解析、回収・廃棄、配車等を行う。
「リーダー(ドッグヘッド)」実働潜入捜査チームを指揮。
 上層部との連絡・交渉、一部メンバースカウト等を行う。
「犬飼(ブリーダー)」複数の犬チームを纏める纏め役。基本的に犬メンバーと直接接触は行わない。
「鳩」犬飼専属の連絡員。犬と犬飼の間の連絡、報告を行う。
「総纏」非合法な組織「犬」の最上層部、公安や警察、閣僚経験者や経済界等良識者全12人で構成される。


●登場人物案
「犬関係者」複数、年齢性別不問
「公安関係者」複数、20代以上、性別不問
「宗教関係者」複数、年齢性別不問
「暴力団関係者」複数、20代以上、性別不問
「その他」複数、年齢性別不問

 ***

「遅くなりましたが、春のSPです♪ 今回の敵は、暴力団の倉庫に搬入される前の武器を狙う狂信者になります。まあ公安の人以外はALL敵ですので、ドンパチ&大爆発ありです☆」とメイン脚本家のよしりん☆。
「よしりん☆としては、最後敵アジトか輸送車輌の爆発が見たいなぁと♪」
 役者達を前によしりん☆の発言を聞き顳かみを押さえる鬼塚ディレクター。
「‥‥‥一部の者は耳にしていると思うが、犬の1stシーズンは本編は残り第8話。前後編2回放送分を以て終了する。尤も外伝が1本あるから後3本とも言えるが‥‥2ndシーズンは娯楽性を強くしたいと思っているんでな。今回のSPは、それの長い目で見た告知とも言える」と鬼塚。

「今回、役によっては『見せる銃撃』トレーニングも受けて貰うつもりだが‥‥先に言って置く。幾ら娯楽物だと言っても一般に対して説得力がある演出を提案しろ」と鬼塚。
「使いたい武器とか車両、衣装は、裏方さんに言って用意してもらって下さいね♪」とよしりん☆。

●今回の参加者

 fa0169 最上さくら(25歳・♀・狐)
 fa0182 青田ぱとす(32歳・♀・豚)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa1435 稲森・梢(30歳・♀・狐)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa4840 斉賀伊織(25歳・♀・狼)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)
 fa5689 幹谷 奈津美(23歳・♀・竜)

●リプレイ本文

●CAST
 大野 裕子‥‥‥‥MAKOTO(fa0295)
 西野 梅香‥‥‥‥美森翡翠(fa1521)
 蘇我 勇‥‥‥‥‥森里時雨(fa2002)
 崎森 勇二‥‥‥‥神保原・輝璃(fa5387)
 倉橋 泉‥‥‥‥‥幹谷 奈津子(fa5689)

 朝倉 洋子‥‥‥‥稲村・梢(fa1435)

 法の真理 教祖‥‥最上さくら(fa0169)
 新山みち代‥‥‥‥青田ぱとす(fa0182)
 矢上 唯‥‥‥‥‥斉賀伊織(fa4840)

 功刀 章吾‥‥‥‥片倉 神無(fa3678)


●裁き足るは貴き御頭、迷い足るは悪しき罪人
 駅前の商店街で流れる音楽。
 薄灰色のシンプルな上下の服に身を包んだ様々な年齢の男女が道行く人にビラを配る。
『あなたは選ばれた人間なのです。この狂った世界からあなたなら逃れられることが出来ます』
 一瞥した青年は興味なさそうにビラをクシャクシャと丸め、道に投げ捨てる。
 熊のぬいぐるみを抱えた少女(梅香)がそれを拾い丁寧に伸ばす。
 広げたビラを同じ内容が書かれたビラの上に重ねると再び道行く人に声を掛ける。
「お願いしまーす」
 強い風が梅香の手からビラを奪う。
 ビラが側を通りかかる男(勇二)の足に引っかかる。
 勇二はちらりとビラに目を這わすが興味なさ下に、そのまま梅香に手渡す。
「小さいのに大変だな。親とか何にも言わないのか?」
「パパとママは死んじゃいました。だからおばあちゃんと一緒に教団に入ったんです」
 梅香の側には、祖母らしき女性の姿はない。
「でもおばあちゃんも去年死んじゃったけど教祖様はカームと一緒にいていいって言われました。だからいます」
「カーム?」
 梅香は抱きかかえていたぬいぐるみを差し示す。
「カームは、おばあちゃんが貰ったんです」
「そうか、頑張れよ」
 そう言って立ち去る勇二の後姿を見ながら、ビラと一緒にこっそり手渡された写真を見る梅香。
「これが、おばあちゃんの代わりの人‥‥」
 そこには金髪の長い女性(裕子)が写っていた。

 白を基調にした教団内部。通路を通る教祖。
 教祖を目にしある者は額を床に摩り付けるよう平伏し、ある者は熱に魘されるうわ言のように教祖を讃える言葉を繰り返す。
「教祖様、教祖様、教祖様‥‥お導き下さい。教祖様」
 必死に拝むように教祖の姿に手を合わせる新山に教祖が近づく。
「そちの悩みを言うが良い。妾がその悩みを全て解決してお前の魂を導いて進ぜよう」
 蛙の様に床に這い蹲る新山。
「夫が『子供を返せ』って言うんです。あたしは正しい法の道を進もうとしてるだけやのに‥‥教祖様、教えを破るような事をして申し訳ありません!」
「そちが悪いのではない。その夫が間違っているじゃ。残念乍ら、そちの夫は『神に選ばれない』。いや‥‥『選ばれる価値のない者』なのじゃな。そちが更に徳を積み、そちの中から『選ばれざる者を排除』出来るようになれば、更に魂の上がるのじゃよ」
「へ、へぇーーーっ!」
 新山は大げさに見える程、平伏する。
「『来たる日』の為に妾もそちの夫‥‥いや、元夫に天罰が下るように神に祈ろう。そちも精進をするのじゃ」
 側近の男が新山に継げる。
「祈祷料はいつもの通り下の受付に行って手続きをすれば、お前から預かっている通帳と印鑑でこの場で修行を続け乍ら、専任担当が教団の口座に振り替えをすることが出来るからな」
「へ、へぇーーーっ! ありがとうございます」


●裁き足る資格、驕りし愚者の夢
 新山が運転するホロ付トラックが少し寂れた倉庫街の端に止まる。
「良いか、エンジンをかけたまま待っていろよ。これは教祖様のお導きたる世界を作るための大事な1歩なのだ」
 教団幹部はそう言うと助手席を降り、トラックのホロを跳ね上げる。
 揃いの服に身に纏った信者達は、自分が武器と思える獲物を各々手にわらわらと出てくる。
 そんな中、一人長いバックを担いだ矢上が降り立つ。
「頼んだぞ」
 幹部が矢上の肩を叩く。
「言われるまでもないですよ。ヤクザなんてこの世には邪魔なだけよ。それに教祖様の声を聞かない奴も‥‥邪魔者の排除は、私に任せて貰えればいいんです」
 元公安の矢上。
 パートナーの洋子を裏切り教団に公安の捜査官である身分を明かし、幹部に取り立てられたのである。

 教団に入信しているとある暴力団関係者から齎された情報によりこの埠頭にある暴力団の所有する倉庫内に大量の銃が隠されている事を知った教団は、強奪計画を立てたのだった。
 尤もその情報を齎した暴力団関係者は、短時間に行われた過度の麻薬摂取により今はもういない。
 矢上は古巣である公安と暴力団に嘘の情報を流し、現在この倉庫の警備は手薄になっている。
 対面の倉庫の屋根に上がる。
 警備は正面の二人だけである。
 矢上はライフル銃を構え、正確にまず一人の頭を打ち抜く。
 動揺するもう一人もすばやく打ち抜く。
 それを合図に信者達はドアを壊し倉庫内に進入し、銃を全て盗んで行ったのであった。


(「頭が重い‥‥」)
 ここ数日、新規入信者として教団本部に来てからと言うもの、頭がすっきりしたことがない。
 敵本拠地への連日の緊張感とややこしい教義の講座と厳しい修行の為に体と頭の疲労バランスが取れないためなのかもしれないが、裕子は連日不眠に悩まされていた。
 頭の中に綿の塊を突っ込まれたようなモヤモヤとした違和感と赤く焼いた鉄の輪を頭に被せられたような激しい痛み。
 まともな思考が出来なくなっている感覚に裕子は苦しんでいた。
 新規入信者は施設内の行動を一定期間制限されているのもあるが、教団内に先に潜入している梅香と接触出来ない事にイラ着いている自覚がある。
(「何もかもが忌々しい‥‥全てぶち壊したくなる」)
 そんな危険な考えが裕子の頭をよぎる。
 これこそが教団が講義の一端だと言って繰り返し見せるビデオに仕込まれたサブリミナルの効果だとは裕子は気が付いていなかった。
 だが勇二からサブリミナルビデオについて情報を得ていたのでそれに対してはある程度の対策をしてきたつもりだったが、実際の効果は出ていないということになる。
 講義の休憩時間中、痺れる頭をリフレッシュさせるべく顔を洗いに行った裕子は手を滑らせハンカチを落とす。
 熊のぬいぐるみを持った梅香がそれを拾い、裕子に手渡す。
『マヤクツカウ、スイコマナイコト』
 梅香が送って来たモールス信号に愕然した裕子だったが、
「そっちがそう言うことなら、いざと言う時手加減がいらないね」
 にやりと笑う裕子だった。

「‥‥たく、おせぇな。一体何やってんだか」
 勇はその日、最近所属したばかりの暴力団「鷹誓会」の事務所である兄貴分を待っていた。
 その男は、勇の担当する仕事の上司で、麻薬の売人である。
 裕子からの連絡で教団が信者のマインドコントロールに麻薬を併用しているのが判り、取引先と思われるこの「鷹誓会」に潜入したのだった。
 上手いこと売人のパートナーとなったが、当の売人が2、3日前からやってこないのだった。
「あの野郎‥‥まさか手前ぇでヤクに嵌ったか?」と言うのは「鷹誓会」きって武道派と言われる功刀である。
 麻薬の売人が商品である麻薬を味見することがある。
 麻薬に嵌れば商品に手を付け、単に売り上げが減るだけではなく、アシが付きやすくなる。
 それ故、売人は「嵌らない」強い意志がある者だけが選ばれるのだが、やはり所詮は麻薬である。
 強い依存性を持つ、毒なのである。
「もし奴が嵌んだったらルールを侵しやがって‥‥ブッ殺してやる!」
「アニキ、大変だ! うちの倉庫がやられた!」
「なんだと?」
(「‥‥ちっ、どこかの暴力団を襲うと聞いていたがココかよ!」)
 心の中でした舌打ちをする勇。
(「何処の誰がそんな間抜けを‥‥待てよ? 確か、アニキの愛人がどこかの宗教に入信したのはいいが、嵌って困るって言っていたけど‥‥まさかな」)
 そんな中、勇の携帯にメールが届く。
「なんだ、こんな大事な時に、女か?」
「すみません、ちょっと‥‥良い奴なんですが、すぐメールしないとむくれるんで」と事務所の外に出る。
 メールを確認すると泉からであった。
 内容は? と言えば、正しく勇が予想したとおり、売人の男は愛人に薦められて「法の真理」に入信し、麻薬付けになった挙句に銃の事を話した。という事であった。
(「しかし、後手ばかりで上手くいかねぇな」)
 勇はぼやきたい気分であったが、それを吹き飛ばしたのは次に勇二から届いたメール内容である。
 元々適当な時期に捕まえられろというのだったが、おそらくすでに殺されているであろう売人が情報をリーク、リークした先は「法の真理」であると告げ、暴力団を煽って「法の真理」自体にもダメージを与えろという。
 それに合わせて「法の真理」の不正も暴くつもりだという。
(「Wハンティングも良いけど上手くいくのかねぇ?」)
 メールを削除して高誓会の事務所に戻る勇。
「あー、功刀さん。いいですか?」


●開かれた地獄の釜、罪深きガリアンを引き裂き足るケルベロスの顎
 兵隊を詰め込んだトラックが教団本部のある山道をひた走る。その後ろを追い駆けるタンクローリー。
 教団の門扉を突き破り、敷地に突入すると同時にわらわらと暴力団員達が銃やら刃物やらを振りかざし飛び降りてくる。
 逃げ惑い悲鳴を上げる一般信者達に容赦なく銃弾を浴びせる暴力団員達。
 それに対し、防戦を決めた教団の狂信者達が暴力団から奪い取って来た銃で応戦する。
 宗教と暴力、信じる所が異なるがある意味狂信者同士の戦い故に、その姿はまさに地獄絵である。

「おらおら! 退くんだよ!」
 勇と功刀を始めとする武器を強奪された暴力団は、盗んだ先、教団の殴り込みをかけてきた。
 今はその真っ最中である。
 怒号と銃弾が飛び交う中、犬達もドサクサに紛れ行動を開始する。
 裕子は窓ガラスを叩き割り、教団事務所内部に入り込む。
 泉から教団壊滅に必要な資料を探すように言われている裕子は、書類の序にロッカーに隠されていた盗まれた銃の一つ、ハミルトンM870を発見し、頂戴することにした。
「怪我したくなかったら退きな!」
 派手にハミルトンをぶっ放す裕子。
「あははっ! 良いね。この雰囲気♪」
 銃と血と消炎に飲まれ異常なまでのハイテンションになる裕子。
 弾を撃ち尽くすとトンファーのようにクルクルと回転させ敵の殴り倒しながら歩いていった。

 ライフル銃を乱射して応戦していた矢上だったが、弾切れをおこし狙撃ポイントから移動を余儀なくされる。
「動くな!」
 ゆっくりと声の方を振り向くとそこには狂信者達に処分されたはずの洋子がいた。
「洋子さん‥‥死ななかったのですね」
「ええ、お陰さまでね」

 洋子が矢上の裏切りにより狂信者達に連れ去られた後、様々な暴行が加えられ教団側は公安の動きを探ろうとした。
 だが、たまたま洋子のモデル並みの容姿にスケベ心を起こしたの一人が仲間の目を盗んで洋子の監禁場所にやってきた。
 激しい暴行により床に倒れている洋子に男が襲いかかろうとした瞬間、背中に包丁を突き立てられ絶命する男。
 それをいつものように熊のぬいぐるみを抱えたまま、冷ややかに見つめる梅香。
「助けてくれるの‥‥?」
 そう尋ねる洋子に「悪い人に思えませんでしたから」と淡々と言う梅香。
 ぬいぐるみの背中の糸を解き、中からシングルアクションで撃つ事ができる手のひらに隠れそうな小さなハンドガンを取り出しす梅香。
「護身用銃だそうですが使えますか?」
「ええ‥‥勿論よ」
「今、外では逆上した暴力団が教団にトラックで乗り込んで来て、蜂の巣を突っついたような大騒ぎになっています。今なら逃げられるでしょう」
 そう言い乍ら洋子にハンドガンを手渡す梅香。
「何故、逃がしてくれるの?」
「‥‥‥‥あなたは、死んだママに少し似ています。そんな理由じゃいけませんか?」
「ありがとう。でも今はまだ逃げるわけには行かないの。私にはやることがあるから‥‥あなたは?」
「ちょっと変な人が多かったけど優しい人も多かったからいたけど、ここはもう駄目ですので、逃げます」
 あっさり言う梅香に苦笑する洋子。
「そう、じゃあ私も用が済んだら逃げることにするわ。無事に逃げられるといいわね」

「すごい格好ですね」
 乾いた血の跡と加えれた暴行の数々を示す痣や傷でボロボロの姿の洋子を馬鹿にしたように見つめ、鼻で笑う矢上。
「ええ、三途の川の渡しに嫌われて戻ってきたわよ。あなたを逮捕するために」
「下らないですね。だから洋子さんは駄目なんですよ」
「動くと撃つわよ!」
 正面に構えられたハンドガンを見ても動じた風のない矢上。
「『動くと撃つ』? だから駄目なのよ。止めるつもりなら殺すつもりならないと‥‥」
「矢上 唯! あなたを機密漏洩の現行犯で逮捕します!」
「殺すなら‥‥グダグダ言っていないでさっさと撃つべきよ!」
 ライフル銃の砲身を持ち、洋子に襲い掛かる矢上。
 洋子のハンドガンが火を噴き、矢上の胸に大きな知の染みが広がる。
 狂った笑みを浮かべ倒れている矢上を見つめる洋子。
「そうだ‥‥私も早く逃げなきゃ‥‥‥‥」

「ひーっ! 助けてや〜!!」
 激しい銃声と誰かが火をつけたのか、廊下を黒い煙が這ってくるのを見て、我に返る新山。
「こんな所にいたら焼け死んでまう!」
 慌てて先日の倉庫襲撃の件以降、教団から与えられた個室に駆け戻ってくる。
 沈み船からネズミが逃げ出すのと同じように教団に見切りをつけた新山。
 私物を鞄に詰め込んだ所で思い出す。
「そうや、通帳と印鑑帰して貰わな」と事務室に慌てて飛んでいく。
 だが、まさに火事場泥棒。ドサクサに紛れて教団の金庫を壊され中身はすでに全て持ち去られた後であった。
「そんな殺生な‥‥」

「ここの一番偉い、教祖ってのは、どこのどいつだ!」
 荒々しく代表者室のドアを蹴り開ける功刀。
「騒々しい方じゃの。妾が、この『法の真理』の代表で教祖じゃ」
「手前ぇが教祖か‥‥よくも舐めくさったマネしてくれたな。こちとら面子が丸潰れだ。この落とし前、どう着けて貰うか?」
 トカレフの銃口が教祖に向けられる。
「ふ‥‥戯けた事を。アレは、そち達のような間抜けな人間が持つべきものではない。我等のような優れた指導者にふさわしい者が持つべき道具じゃ」
 すらりと神棚に掲げられていた御神刀を抜く教祖。
「けっ、よく言うぜ。そういやぁ、うちの田島が厄介になっているようだな」と功刀。
「田島? ああ、元暴力団の男じゃな。愛人に付き添われ、自堕落な生活から抜け出すためにわが教団に入信したのじゃ。二人、真の夫婦となりという矢先、修行についてこれず死んでしもうたのじゃ。哀れな事じゃのう。そちもこのままでいけば碌な死に方をせんのじゃ」
 にやりと笑う教祖。
「『碌な死に方』ね。田島を処分しやがったな。こっちの手間は助かるが、俺の腹の虫はそんなもんじゃ納まらないぜ? 手前も田島と一緒に地獄に行きな」

「ちっ! 狂っていやがるぜ!」
 履き捨てるように言う功刀。
 教祖の為には命はいらないという狂信者の数が弾の数より多く。教祖の命を取る所か、命知らずの狂信者の為にこちらの命を失いかねない状況に陥り、教団の建物から退却を余儀なくされる。
 そこで目に入ったのは、勇が乗りつけたタンクローリーである。
 鍵がついている事を確認し、タンクローリーに乗り込んだ功刀は、タンクローリーを急発進させ、そのまま教団に突っ込む!
 頑丈な造りの教団施設の端が少し壊れる程度なのを確認した功刀は、再びタンクローリーをバックさせ、今度は勢いを付けて突っ込む。
 玄関ドアを突き破り止るタンクローリー。
 ずるずると功刀が壊れた運転席から這い出してくる。
「あんたねぇ、死んじゃったら折角の捜査が前のめりエンドとかになったら勘弁しろぉ! って感じ、判る?」と勇。
「‥‥何だ、それは」
 衝突した衝撃で頭から血を流している功刀が問いただす。
「あー、あんたには関係ない話だったよね」
 勇のパンチが功刀の鳩尾に綺麗に決まる。
 体が折れた所に、テンプルにストレートが決まる。
「さぁて、退避退避。下手したら爆発するから遠くに逃げなきゃな」
 昏倒した功刀担ぎ教団本部を後にする勇。

「何処に行くんですか?」と大きなバックを抱えた教祖に梅香が声を掛ける。
「ああ、ちょっと建物が危険なので大事なものを持って避難しようと思っているのじゃが、梅香も一緒にどうじゃ?」
「折角ですが、私は一緒に行けません。何故なら貴方は一連の騒動の責任を取って逮捕されるからです」
「なんじゃと? そちは‥‥」
「そう言うことだよ。あんたには、本当に世話になったよね。梅香がいなかったら頭が痛くて死にそうだったよ。この落とし前、付けてもらうよ」
 にやりと凄みのある笑いをする裕子。


●御魂に安らぎ在れ
 洋子が建物から離れてすぐ大爆発をする教団本部。
 大きな爆発音と共に火柱が天を突く。
 タンクローリーが破損した際、流出したガソリンに何かが引火したのかもしれない。
 燃え上がる業火を唖然と見つめる洋子の後ろをサイレンを鳴らし、赤灯を掲げた黒塗りのセダンの列が迫ってくる。
「あの子らは一体‥‥」と呟く洋子。

 泉が纏めたレポートと回収した資料が勇二から犬飼に報告される。
「自分達こそが正義で、外界を錯綜する情報や人間達は全て敵と言う意味では、あいつらは何らテロリストと変わりなかったと思うが、これが済んだら宗教の自由とやらに何がしか制約を付けて貰いたい所だよ。あんたらが何に対しても寛大にし過ぎた結果がこれだ」
 公園のベンチに背を合わせで座る犬飼にそう言う勇二。
 犬飼は受け取った資料を確認して、ベンチから立つ。
「犬には表舞台の話等、関係ない話だな‥‥そう言う話は、政治家にするべきだよ」
「じゃあ、あんた達は一体‥‥!!」
 振り返った勇二と犬飼の目が合う。
「『犬』は『犬』、人間の世が平穏であるための駒に過ぎない。『犬』は人の枠から外れた獣を‥‥獣故の嗅覚で狩り出す。主である人間の為にね。唯、それだけだ‥‥」
 そういうと犬飼は、静かにベンチから離れた。

 薄暗い部屋に置かれた円卓、それを囲む12人の総纏。 
「予想と少々異なりますが、無事に事が済んだようですな」
「全く以って。しかし‥‥」
「ええ、全くです。犬側に死傷者がいなかったのは全く以って遺憾でしたな」
「あの男が、『犬飼』が『犬の命を守るため』に銃を使用許可を求めたのも意外でしたが」
「まあ、非常になりきれない部分と言うか‥‥」
 苦笑する男。
「それはたいした問題じゃない。問題なのは‥‥」
「危険な『アンフェア』な『犬』がいる事ですな。『司法の犬』足る『犬』が『嬉々として銃を乱射している』という事は非常に不味い」
「彼らは最早『犬』ではなく『狼』でしょう。犬が狼になりうる危険性は兼々我等『総纏』も重々認識していましたが、これ程比率とは‥‥増えすぎた狼は秩序を乱します」
「『狼ら』が群れる危険性という事は、ありえるのでしょうか?」
 比較的若い声の男が年長者の男に質問をする。
「どうかな? 犬達も元々任務毎に召集し、任務終了後チームは解散。狼の掌握は、我等『総纏』の直接管理だが、奴らが組んでいるという情報は現在ないが可能性は否定できないだろう」
「そうですな。可能性はありますな。このシステムが出来て40年。時代も人も大きく変わった。我等もぼちぼち見直しが必要時期でしょう」
「早急に我等の組織に仇なしそうな狼、犬のピックアップをさせましょう」
 議長役の男がそう言うと──

 ──画面は暗く暗転した。