暇潰し2アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
有天
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
8.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/30〜05/04
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●本文
古い運河沿いの鉄工場跡地を改装して作られた作られたライブハウス「7(セブン)」。
厳ついコンクリートの外壁と大きな赤錆が浮いた鉄の扉が印象的で、来る人を拒むように聳え立つ。唯一ライブハウスである証拠と言える物は、ネオン看板ぐらいであるこのライブハウスでヴァニシングプロからCDデビューしたヴィジアル系メタパンクバンド「アルカラル・ナイト」のシークレットライブが行われる。
このシークレットライブは彼女らのシングルCD「華模様」に封入してある抽選券でアルカラルのHPからライブに申し込んだ客だけが参加出来る特別なライブである。
開催予定日がずれ込んだのには訳があるリーダーのクラウンの不倫騒動である。
もっとも3年も前の話で不倫どころか相手の男とは二人っきりであった事等一度もないのだが、そこはそれメジャープロダクションからデビュー仕立ての外見の綺麗な(特に遊んでいるような)クラウンは良いネタなのである。
「‥‥音が‥‥ハシリ‥すぎです」とクイーン。
「全くだ。苛つくのは判るけど」とナイト。
「どこが!」と噛み付くクラウン。
「そういう時こそ浩介さんを‥‥」エース。
「俺はお守りか?」と店長の浩介。
そう言い乍らもひょいとステージ上がって来る浩介。
「‥‥‥なんだよ」
浩介に見つめられてたじろぐクラウン。
「お前ら、休憩だ。1Fスタンドの物なら何を食っても良い。クラウンは来い」
浩介に店長室に引っ張り込まれたクラウン。
クラウンをソファーに座らせ、浩介は前の椅子に座る。
「クラウン。お前、アルカラルをどうするつもりだ」
「え?」
「お前は、辞めても良いと言ったそうだな?」
「‥‥‥辞めたくはないけど‥‥でも‥‥」
「でも?」
「迷惑を掛けたくない‥‥早いうちなら皆に迷惑掛けないし‥‥」
いつもの威勢の良さは何処へやら、どうやらこちらがクラウンの本質らしい。
椅子を立つ浩介が飲み物を入れて戻って来る。
マグカップにホットココアが入っている。
「たしか花梨は冬でも夏でもホットココアだったよな」
再び椅子に座る浩介。
「お前は別に不倫をした訳じゃない。好きな男に曲を贈っただけだ。堂々としてればいいんだ」と浩介。
「でも‥‥」
「今回のライブはウチにも直接問い合わせが来る。マスコミも混じっているだろうが純粋にお前らアルカラルの歌が好きで来る客もいるんだ。そいつらはお前がどんな奴でも構わない。今のお前が好きで来る事を忘れるな」
くしゃりとクラウンの頭を撫でる浩介。
「自分を信じろ、自信を持っていいぞ‥‥」
「うん‥‥」
頷くクラウンを部屋から送り出す浩介。
「‥‥さて、そう言ったがどうするか?」
今回のシークレットライブに押し掛けるマスコミは適当に雲に巻けば良い。
幾らヴァニプロに所属していようがアルカラル・ナイトは所詮新人だ。
相手も誰でも知っている超有名音楽プロデューサーであれば別であろうが相手の男もそこそこ業界で顔が売れている程度である。読者の関心はすぐに他に移るだろう。
芸能記者も暇ではないはずだ。
だが‥‥‥。
引き出しに入れられたファックスの束にはクラウンを誹謗中傷する内容と「7」へ対しても有り難い警告の数々が書かれている。
「親父さんに知れたら犯人を八つ裂きにしかねないな。まあ俺も暇じゃないし‥‥それとは知られず、適当にお茶を濁して適当に警告者から店とクラウン達を守ってくれる閑人を探すか」
●アルカラル・ナイト情報
ヴァニシングプロから2007年3月30日CDデビューしたヴィジアル系メタパンクバンド。
●クラブ・クラウン(本名:桐嶋 花梨):バンドリーダー、ギターとメインボーカル
●ダイヤ・エース:ドラーマー
●スペード・クイーン:キーボード
●ハート・ナイト:ベースとサブボーカル
●リプレイ本文
初日、ミュージシャン達の顔合わせを行うより30分遅れて、今回警護に当る一同が「7」のスタッフルームに集まる。
「俺が店長の山田だ。大体の所は聞いていると思うが、今ウチの店は嫌がらせを受けていてな。嫌がらせ自体は、『極度のおせっかい』程度の警告文がFAXで日に何回か送られて来る程度なんで、まあ通常なら無視をして構わない程度なんだが、4日後にヴァニプロ主催のシークレットライブが行われる。どうやら『おせっかい焼き』はそいつを妨害したいらしいんで協力頼む」
そう言って一同を見回す浩介の脇にANのマネージャが立つ。
「ま、細けえ事情はよく知らんが、無事シークレットライブをやれるように励むとするかね」と犬神 一子(fa4044)。
「なんにせよ、危害を加えるには方法は二つしかあるまい。すなわち、事前に何かを仕掛けておくか、あるいは直接何かをするか、じゃ」とドワーフ太田(fa4878)。
「私は基本的に女子更衣室(楽屋)、トイレなど、女性しか立ち入れない場所の警備を担当する」と言うのは沢渡霧江(fa4354)。
「『7』の図面を貰えるか?」というのは、神代アゲハ(fa2475)。
妹の手伝いで「7」に出入りしていた事はあっても1回である。
「ああ、去年内装を変えた後のでいいか?」と浩介。
「充分だ」とアゲハ。
「警備員間の連絡はトランシーバーでいいな? 携帯電話では面倒だしな」とヘヴィ・ヴァレン(fa0431)。
「私も賛成だ。連携した警備をしたいな」とキリエ。
「俺は4個ある」とヘヴィ。
「俺も2個あるだ」とアゲハ。
高遠・聖(fa4135)、わんことキリエは各々1個ずつ。
七枷・伏姫(fa2830)と雨堂 零慈(fa0826)はトランシーバーを借りる事になる。
「ほい、店長にもだ」
トランシーバーと1個、浩介に投げ渡すヘヴィ。
「俺もか?」
「当たり前だ。万が一があったら、店長が他のスタッフに指示を出すんだろう?」
「まあ、そうなんだが‥‥」
「先の事件の時に風間夫人の写真を撮っておいたんで、それを皆に見せておくよ。こういった場合『先入観』に囚われると視野が狭くなるんで、あくまでも『見かけたら警戒しておく』程度に覚えておいてくれ」と聖が写真を配る。
「あー、入手した情報だと『風間 康明』はライブに来るらしいぞ。夫人同伴か、どうかは判らんが」と浩介。
風間 康明というのは、クラウンの不倫騒動の相手である。
「凄い厚顔と言うか‥‥ある意味、スゴイと感心するべきなのかな?」と聖。
「『転んでも唯で起きない』位の神経がなければ芸能界で生きていけないんだろうな」
「ヴァニプロの方で断らなかったのか?」
「彼がプロデュースに関わったのは事実ですから。呼ばないで下手にある事ない事言われるのも困りますからね。招待して、断るのは向こうの勝手ですので。尤もこちらもいらっしゃるとは思いませんでしたが‥‥」とマネージャー。
「客の為のライブであって、マスコミ連中じゃねえってのを忘れてるんじゃねえのか?」とヘヴィ。
「本来はな。シークレットとか限定と言い乍ら業界やマスコミ関係者が席の殆どを占めるのは、業界内にどれだけコネクションを持っているか、どれだけプロダクションがプッシュしているのかの指標になるんだよ。それにマスコミが来る事により情報番組内で取り上げられたりすれば、安い宣伝費用だ」と浩介。
「アルカラルは200人の一般客に対し、ヴァニプロ関係を中心とした芸能関係者50人とマスコミ20人。力が入っている方ですよ」とマネージャー。
「だが大体、『疑惑』でしかねえんだろ? 何を根拠に言ってるのかは知らねえが、本人が否定するのは向こうも分かり切ってんだろうが」とヘヴィ。
「『疑惑』だからいいんだよ。堂々と『不倫宣言』されたらマスコミもここまで騒ぎ立てないだろうな」と浩介。
「彼等は暇なお茶の間のいい餌なのさ」
「しかし、そうなると荒事は避けられぬでござろう。懐に特殊警棒を忍んでおいた方が良いでござろうか?」と伏姫。
「下手に騒ぎを起こした犯人を殴って骨折でもさせれば、こちらが叩かれる。芸能人というだけで妬まれるのがこの業界だからな」とキリエ。
「判った。なるべく素手で取り押さえるようにしよう。そうなると未然に防ぐのがベストでござるな‥‥拙者もいざという時に迅速に動けるように出来るだけ精確に建物の構造を把握しようとしよう。それと電気系統の切断等の嫌がらせを警戒して配線や消火器などの位置も把握しておこう」と伏姫。
「キュービクルを素人が壊すのは、命がけだがな。無知故にとんでもないこともしかねえが」とわんこ。
「7」で扱っているキュービクルは低電圧だが、それでも家庭用電源の数万倍ある。知識なく下手に触れば感電死をするだけではなく、上手く遮断装置が働かなければ波及効果で付近工場一帯が停電する代物である。
「尤も内部ブレーカーに妙な細工をされればステージが自体成り立たなくなるから確認しとかねえといけないのには代わりねえな」とわんこ。
「それにスプリンクラーに仕掛けをするとかもあるぞ」
「そのラインは防火用水用のパイプと同じで人目につかない所を走っているが」と浩介。
「そうなるとスプリンクラーの心配は誤動作だけか。寸志に関しての注意書きと一緒に火気厳禁の旨を書いた張紙を客の目に付く所に貼っておくか」とヘヴィ。
「通常の店内電源のブレーカーはスタッフルームに集積しているようだが、ステージや1F客席関連のブレーカーはミキシングルームや照明制御室辺りか?」とわんこ。
「ああ」と浩介が答える。
「後で暇な時でいい、拙者の防犯カメラの死角チェックを付き合ってくれぬか?」と伏姫。
スタッフルームの端に置いてある監視モニタ見る伏姫。
画面には通路等が映っているが、浩介の示した図面には設置角度や死角について記載がない。
「そうだ。手紙が投函された範囲、FAXの送信場所は近いのか?」と聖。
「すまん。うちのFAXは古いタイプでな。相手が設定していないとFAX番号が判らないんだ」と浩介。
「残念だな。二つが近い場所なら、チケットの送付先と照合したかったんだが‥‥」
「高遠殿、妨害者は外部だけとは限らない。臨時スタッフに不審者が混じる事も考えられるからな‥‥」とレイジ。
レイジはAN達の身辺警護を申し出て、通常マネージャーが運転するメンバーのバンの運転手をしている。
「‥‥それ‥ならば‥‥是非‥スカート‥‥を‥‥アイリッシュ‥‥スカート‥‥は‥‥‥戦士の印‥です」
正式にはスカートではないのだが、どちらにしてもレイジから「真顔でNo!」と言われる事を百も承知で突っ込みを入れるクイーン。
クイーンもまたレイジをクラウンとは違った意味で気に入っている一人であった。
「何にしても一番のネックになるのは、シークレットライブ前夜と当日じゃろうな」というドワーフの予想通り、特に不審者や不振物等は店内外に見つからなかった。
──そしてライブ当日の朝を迎える。た。
アルカラルのメンバーやミュージシャン達が最後の通しをしている中、わんこが天井灯やバーに異常がないか点検をしている。
「いいか、メンバーへの寸志は必ずスタッフが預かれ。そして俺らを経由するすように徹底しろよ」とヘヴィがスタッフ達に指示を出す。
混乱を避けるため芸能関係者とマスコミ各社は、一般客より1時間前に入場する。
受付役のスタッフが、マネージャーから渡された名簿と客を照合して、2Fへと案内している。
『風間夫妻がやってきたぞ』
エントランスで入場者をチェックしていた聖が警備担当者らに(トランシーバーを通して)声を掛ける。
『怪しいやつが野郎ならヘッドロック掛けて事務所まできてもらやいいが、女だとそうはいかねえんで応援を頼む』とわんこ。
『会場で成り行きを見物する可能性は充分考えられるが、スキャンダルの発端となった音源ネット流出事件の手口から考えて直接手を出してきたりはしないだろう』と聖が答える。
ヴァニプロから出演者達にいらぬ動揺を与えないようマスコミ各社にお達しがあったので、風間にマイクを向けているのは芸能記者ではなく音楽関係者である。
エントランスから招待客が移動するとマスコミ関係者達もまた指定された1F立見席に移動する。
その後開場となりチケットが当たった一般人が入場する。
見る限り挙動不審者は入場者に見あたらない。
1F客席にアゲハ、聖、ヘヴィ。2F客席をドワーフ。
屋内外の電気設備関係をわんこ。
出入り口を中心に屋外担当するのは伏姫。
メンバーのガードをするレイジは舞台袖に。
バックヤードを中心に警戒するのは、キリエ。
「今の所、不審な事ものはないが‥‥こうなると注意するのは、メンバーのステージと楽屋の間の移動だな。尤も単なる『嫌がらせ』の取り越し苦労ならいいが」とキリエ。
「‥‥その為に拙者がいる」とレイジ。
そして各々の色々な思いを秘めたシークレットライブが始まる──。
7曲目【花模様2007ピアノVer】が終了した際にステージが真っ暗になる。
「おい、なんで電気がつかないんだ?」
ザワザワと客席が騒ぎ出す。
8曲目はゲスト出演者達の演奏である。7曲目と8曲目の間に2度目の短い休憩が入りピアノを移動させるために照明が点く予定であった。
だが、客席までもが真っ暗であった。
アルカラルのメンバーの側に駆け寄るレイジ。
懐中電灯を片手に制御室に辿り着く浩介は、床に転がって眠るスタッフに安堵する。
どうやら犯人は誘眠芳香を使用したようである。
スイッチを操作し、照明を段々と着ける浩介。
『これから10分間の休憩に入ります』
そうMCが場内に告げるのを確認すると浩介は溜息をついた。
外にいるわんこ、伏姫からは不振な事はないという。
照明制御室にはスタッフ通路からしか移動できない。
「出口を固めて!」
そう言うとキリエは制御室に向かって走っていく。ギュウギュウ詰めではないが、そこそこの人数が1Fにはいる。
ライブ生中継があるとは聴いていないが暗視カメラを持ち込んでいるマスコミもいるかもしれない。
そしてこの手のライブをこっそりネット中継しているマニアがいるリスクを考えるとヘヴィは半獣化できなかったが、ペンライトを点けて客達を掻き分けて進むヘヴィ。
「くそ、どいてくれ!」
ご丁寧にスタッフ通路まで真っ暗である。
スタッフには人間も混じっていると聞き、犯人追跡に半獣化を諦めていたキリエだったが、ここまで真っ暗であれば瞬時に変身できる半獣化ならば構うまいと、半獣化して通路を走るキリエ。
通路を走ってきた何者かに勢いよく突き飛ばされる。
弾みで落ちたトランシーバーを拾い上げ、元来た道を不審者を追いかける。
だがキリエは鋭敏視覚を持っている訳ではないので不審人物との中々距離が縮まらない。
不審者の行く手を阻む伏姫とわんこ。後ろから追いつくキリエとヘヴィ。
こうして不審者は確保された。
だが捕まえた不審者はヴァニプロ関係者を名乗る人物から「サプライズをするからと持ちかけられた」という。
不審者が偽犯人を務め、AN達が探偵役になって偽犯人役を追いかけると言うサスペンス風のショートコント。
だが追いかけてきたのはANではなく、必死の形相の警備員達である。
恐ろしくなって不審者は逃げ出したのだと言う。
「心当たりは?」とキリエ。
「判りません。少なくとも私は会社からは聞かされていません」とマネージャー。
「‥‥今回のこれがお節介焼きが警告した内容なのか?」
どこか拍子抜けしてしまった一同であった。
***
打ち上げパーティが関係者を含めた身内だけで「7」で行われている。
「あつーぅ♪ 外の空気、吸ってくるよ」
酒の酔いを醒ますために裏口から外に出るクラウン。
「7」の真裏側に位置する枯れ用水路の堤の上に飛び乗り、夜風に当たる。
「クラウン殿」とレイジが後ろから声を掛ける。
「レイジ‥今日はレイジ達のお陰で最高のステージが最後まで出来たよ。本当にありがとう」
にっこりと笑うクラウン。
今回の件はAN達には伝えていないと聞いていたが、誰かが耳に入れたのかもしれない。
「いや、拙者達はやるべき事をやったに過ぎない」
「‥‥それでもありがとう」
クラウンは、もう一度微笑んだ。
「その‥クラウン‥‥花梨殿がよければ‥‥拙者を一人の男として見て欲しい‥‥似合わないとかなんて関係無い‥‥だから‥‥」
クラウンの指がレイジの唇を塞ぐ。
「‥‥なら、言葉じゃなくて‥‥態度で示して」
クラウンはレイジの頭を両手で抱く。
そうして月明かりの中、二つの影が一つになる。
「‥‥‥‥スキよ。レイジ」
照れくさそうに言うクラウン。
もう少し、一人で風に当たるというクラウンを残し、「7」に戻るレイジ。
──そして15分後、戻ってこないクラウンを心配したナイトが用水路で頭から血を流し倒れるクラウンを発見した。