明日に吠えろ 裏付けアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 05/09〜05/13

●本文

『その日の朝は、珍しく七辻警察署捜査一課の一同が顔を揃えていた。
 殺人事件の犯人を昨夜遅く逮捕したばかりであった。
 明けて今朝から開始した取り調べは難航していた。
 犯人と思われた男の供述が不自然なのである。
「誰かを庇っているんでしょうか?」
 刑事部屋に戻った若手刑事が、誰に訪ねるでもなく呟く。
 側に立つベテラン刑事がコーヒーを差し出し乍ら言う。
「本当に奴が犯人かどうかこれからが正念場だ。何しろ今まで俺達が調べた事が間違っていないか、奴の証言が本当か1つ1つ確認して行く作業だ」
「そうそう、よくTVでは捕まえたら『終わり』だが俺達はそうは行かないからな」』

 ディレクターの前に置かれている台本の出だしである。
 表紙には「明日に吠えろ」というタイトルが大きく書かれている。ひと昔前、人気を迫した人気刑事ドラマである。
 若手刑事が毎週必ず全力で走るシーンと個性が光る新任刑事がドラマの売りである。
 実際に刑事が殉職するシーンなどは、当時の子供たちが「刑事ごっこ」でマネをしたものである。が
 昨年残暑が厳しい9月にリメイクを行ったが、再びこれをリメイクする案がTOMI−TVで持ち上がっていた。

「やっぱり走るんですか?」とAD。
「勿論だ。『走り』がなくては『明日に吠えろ』ではない」と監督。
「そうなると『若手刑事』役は、『体力』のある奴が必要ですね。犯人逮捕時に息切れしては、絵図らが悪いですから」とこだわりを言うカメラマン。
「課長補だけは、メガネと小言が似合う中年男性というのは譲りたくないですね」と微妙なこだわりを言う演出家。
 AD以外は、リアルに「明日に吠えろ」を見ていた世代だけに、こだわりが強い。

「AD、各プロダクションに役者の手配は、済んでいるのか?」
「は、はい」


●『明日に吠えろ「裏づけ」』のあらすじ
 七辻警察署管轄内で起った殺人事件、とある女性が殺されたのだった。
 殺人場所は彼女の家。
 犯人として捕まったのは、彼女と交際中の男性だった。
 アリバイのない男。
 状況証拠(遺留品を含む)は男を犯人だと示す。
 だが微妙な部分が食い違っている男の証言。
 男は殺人現場に偶然居合わせたのかも知れない。
 そして真犯人を庇っているのかも知れない‥‥‥。
 捜査一課の面々は、その可能性を心に秘め、裏づけ捜査を開始した。

 シーン1>聞き込み捜査をする刑事達と署内に残って偽犯人を取り調べる刑事。
 シーン2>浮かび上がって来る矛盾、浮かび上がる真犯人像。偽証を続ける偽犯人は黙秘を始める。
 シーン3>アリバイが崩された真犯人は逃亡する。追い掛ける若手刑事。必死に飛びかかり逮捕する刑事。
 ラスト>取り調べを行っていた刑事から真犯人が逮捕された事を聞かされた偽犯人が真実を話す。

●募集配役
 若手刑事(外見20代、性別不問)
 中堅刑事(鞭役)(外見20代後半〜、男)
 中堅刑事(外見20代後半〜、性別不問)
 ベテラン刑事(飴役)(外見30代〜、男)
 偽犯人(拘留中)(外見20代〜、性別不問)
 真犯人(年齢性別不問)
 他

●今回の参加者

 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa1790 タケシ本郷(40歳・♂・虎)
 fa2903 鬼道 幻妖斎(28歳・♂・亀)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)
 fa4840 斉賀伊織(25歳・♀・狼)
 fa5256 バッカス和木田(52歳・♂・蝙蝠)
 fa5556 (21歳・♀・犬)
 fa5559 黒羽ほのか(20歳・♀・鴉)

●リプレイ本文

●CAST
 亀山真人‥‥‥鬼道 幻妖斎(fa2903)
 大神厳悟‥‥‥犬神 一子(fa4044)
 桐生あかね‥‥雅楽川 陽向(fa4371)
 狩野冴‥‥‥‥斉賀伊織(fa4840)
 幸田長治‥‥‥バッカス和木田(fa5256)
 宮路ほのか‥‥黒羽ほのか(fa5559)
 大戸重太郎‥‥タケシ本郷(fa1790)

 北村裕也‥‥‥虹(fa5556)

 小谷成二‥‥‥グリモア(fa4713)

 麻木紗羅、紗耶‥‥槇島色(fa0868)


●裏付け捜査
『バン!』
 西日が差し込む取調室の中、裕也の座る机を大きな音を立てて叩く大神厳悟(巌(ゲンコツ))。
「いい加減に本当の事を吐いちまえ!」
「だから、俺が紗耶を殺したって言っているんだよ。確かこの前買ったCDだかDVDの話をしていて、何時の間にか喧嘩になって‥‥つい、カッとなって写真立てで殴っちまったんだよ」とイライラと爪を噛む裕也。
「なんだ、その態度は!」と怒鳴りパイプ椅子から立ち上がる巌。
「そっちこそなんだよ! 警察が犯人を脅して良いのかよ!」と負けじと立ち上がる裕也。
 調書を取っていた亀山真人(プリンス)が慌てて顔を上げる。
「まあまあ‥‥‥」と幸田長治(コウさん)が二人の間に入って双方をなだめる。
「拘留期間もまだまだたっぷりあるし、まあお互い長くて短い付き合いになるんだゆっくりとね」

 ***

「第一通報者が犯人だったというのはよくある話だけど。この事件、何となく釈然としないんだよねぇ‥‥何となく‥‥‥」と刑事室に戻って来たプリンスが言う。
「どの辺りがですか?」とお茶を差し出し乍ら桐生あかね(ベビー)が訪ねる。
「証拠や証言は犯人を示してるのに、何かが欠けてるのよね」と狩野冴(メガネっ子)が答える。
「鑑識からデータ上がって来ました。しかし、凶器と言い張る‥‥『写真立て』は検死結果と傷も殴打回数も合いません。抵抗創傷考慮してもね。指紋だけは、被害者の麻木紗耶と妹の麻木紗羅、そして北村裕也‥‥間違いなくベタベタですがね」とコウさん。
「どう言う事です?」と赴任して来たばかりの新人刑事、宮路ほのかが質問する。
「なんだ、所見を見ていないのか? 北村はカッとなって、殴った。って言うには傷の数が多いのさ。まるで永年の恨みを晴らすかのようにな。それに‥‥」と巌。
「それに?」
「傷の形だ。『写真立て』しては、1個1個の傷がデカいし形状ももっと複雑なんだよ。これで顔を潰していれば北村ではなく妹を引っ張って来るんだが」
「妹の紗羅はその時間アパートにいたと言う証言がありますが‥‥不謹慎ですよ」
「何にせよ。現状で北村は地検に送検出来るだろうが、こちらも決定打に欠ける。もう一度、現場周辺の再度の聞き込みと北村、麻木紗耶と紗羅の周辺、そして紗羅のアリバイを証言した小谷成二の荒い直しだ」
「「「「はい!」」」」


●疑惑
「‥‥お前は馬鹿か? だからあれ程『聞き込み』の際はチャラチャラしたガキの服じゃなく『年齢相当の服を着ろ』といってあるだろう!」
 だからお前は何時迄経っても面だけじゃなく半人前なんだ。とオカンムリな巌。
 私服で聞き込みしていたベビー、事もあろうに生活安全課に補導されそうになったのである。
「大変な目に遭いましたね」と宮地。
「大丈夫、いつもの事だから」とベビー。
「‥‥‥ここの課の人達って皆、ニックネームがありますよね」
 亀山にはプリンス、大神には巌、そして桐生にはベビーというニックネームがある。
「なんでもかなり前から伝統的にあるみたいよ。巌さんは頑固な岩みたいだからだけど、もう一つのあだ名はゲンコツなんですよ。もう本当に厳しいんだから!」と苦笑するベビー。
「私もニックネームがもらえる日が来るんでしょうか?」と宮地。
「大丈夫だ‥‥」
「半人前コンビ、喋ってないでさっさと聞き込みの続きをしろ!」
「「はーい!」」
 どうやら少しは捜査一課でやって行けそうだと思った宮地だった。

 ***

 丹念な聞き込み捜査の結果、紗羅がアパートにいたと言う時間帯、銀行のATMに並ぶ紗羅の姿が監視カメラに映し出されている。
 一方、相変わらず俺がやったと言い張り続ける裕也。
「たしか麻木紗耶とは妹の紗羅の紹介で君は付き合い始めたんだったよな」とコウさん。
「そうですが、それが何か?」
「‥‥最近、お前を巡って二人の中が険悪だったみたいじゃないか」と揺さぶりを掛ける巌。
「んな訳ないじゃないか! 紗耶は紗羅をとても大事に思っていたし、紗羅だって‥‥‥! もう、いいっしょ? 俺が殺った、つってんだろ?!」
 その後、全てに黙秘をする裕也。

 ***

「どうやら北村は『犯人が紗羅』と考えている様ですね」
「モテる優男は苦労が多いようだが、迷惑な話だ」
「北村が紗羅を庇っているのは間違いないだろうな。だが紗羅が犯人だとすると凶器はなんでしょうね?」
「紗羅は事件の前日硬貨を銀行で両替えしています」とメガネっ子。
「スティック状の硬貨の束で殴るとかですかね?」
「悪くないが女の手で握れる棍棒はタカが知れているし形状が違うだろうな」
「‥‥‥‥小袖」
「なに?」
「なんかの小説で読んだんですが、江戸時代位の日本では女子供が袖に五文銭の束や石とかを袖や巾着に入れて振り回して暴漢を撃退する護身術があったとか聞きます‥‥」
「なる程確かに振り回すから小さな力でも立派な武器になるし、証拠隠滅の為に銀行に頻繁に両替えに行く理由になるな。だが、当てるのは大変だろう」
「だから何度も紗耶を殴ったんですよ」

 紗羅のアリバイを証言した小谷成二を参考人として事情聴取するとあっさり金の為にアリバイ作りに協力した事を言う。
「勘弁してくださいよー。俺はアリバイの証言を頼まれただけで事件の事については知りませんよー。ちょっとパチンコですっちまったんで懐が寂しいなぁって考えていたら紗羅が声を掛けて来たんですよー」
「どうやら麻木紗羅が真犯人で決定でしょうな」


●99%の嘘、1%の真実
 繁華街を走る紗羅、追い掛けるメガネっ子と宮路。
「私が裏に回りますから、そっちお願いします」
 そう言って脇道に入り込むメガネっ子。
「待てぇぇ」
 大声を上げ、黒髪を振り乱しながら紗羅を追い掛ける宮路。
 紗羅は脇から飛び出して来たメガネっ子と激しくぶつかり転ぶ。
「麻木紗羅、麻木紗耶の殺人容疑で逮捕する」
 紗羅の手に手錠がはめられる。
 肩で息をする宮路にプリンスが冷たい缶コーヒーを差し出す。
「ほら、ご苦労さん」


●隠れた真実
 取調室のドアが開き、メモとカツ丼がコウさんの所に届けられる。
「麻木紗羅がたった今、逮捕されたそうです」
 コウさんの言葉に驚き乍らもどこか安堵の表情を浮かべる裕也。
「なぁ、刑事さん。あいつ、悪いヤツじゃねぇんだよ・・・」
「カツ丼と‥‥自販機のじゃないお茶です。ウチの大神からのおごりですよ」
 コウさんは告げ、差し入れられたカツ丼を裕也の方へ押しやる。
「これから紗羅はどうなる?」
「‥‥真実を話してもらうだけです。何故、実のお姉さんを殺さなければならなかったのか、どうやって殺したのか‥‥‥そして北村さんも本当の事を話して下さい。それが紗耶の供養に一番なりますよ」
 割り箸を割り、丼の蓋を開ける裕也の眼からぽたり涙が落ちる。
「彼女も姑くは温かい丼とは縁遠くなりなますね」
 もそもそと箸を動かし無言でカツ丼を食べる裕也。
「北村さん、あなたにはこの後、捜査の進展を遅らせた偽証罪に問われる事になります‥‥‥今後のあなたの証言により‥‥たぶん書類送検だけに終わると思いますが」

 暫く黙秘を続けていた紗羅は、裕也が証言を始めたと聞くと、己も動機に着いてぽつりぽつりと話し出す。
「紗耶はそう‥昔からなんでも‥‥私のものを‥後からやって来て‥まるで始めから‥‥自分のものだったというように‥全部私から取り上げる」
 じっと暗い机の上を見つめる紗羅。
「裕也の事を‥‥素敵な人がいるって‥‥紗耶に教えたのは私‥‥でも‥ずっと‥‥密かに想っていたのに‥‥紗耶は‥自由奔放で我が侭で‥‥そんな‥紗耶が許せなかった」
 紗耶に対する憎しみの思いを吐き出す紗羅。
「刑事さん‥私は‥紗耶を‥殺した事を‥‥後悔は‥してないわ‥フフフ‥‥」と紗羅は呟いた。
「あんたにどんな理由があれ、殺人は殺人だ。それも計画的な殺人なね。今、後悔を出来ないと言うのなら、それも良いだろう。あんたはこれから充分、後悔する時間が与えられるんだからな。それに‥‥あんたは北村裕也があんたを庇って犯人に名乗りあげる事を計算してダイイングメッセージをわざと残しただろう。つまりあんたは北村裕也が好きだと言ったが、その程度の自分勝手な人間だと言う事だ」

「今回は宮路の粘りがちだな」
「全く、何度失敗してもめげないが良い刑事になる素質とも言えるがな」
「そう言えば、まだニックネームが宮路にはなかったな」
「そうだなぁ‥‥こんなのはどうです? 君の名前は今日から『タンポポ』だ」とプリンスは笑って宮路の肩を叩く。
「どうせならもうちょっと格好良い名前がいいですよ」とタンポポ(宮路)。
「タンポポって可愛いですよね♪」とベビーがお茶を机に置き乍ら言う。
「そうかな? 野に咲く可憐な花って感じが私にぴったりとか?」とタンポポ。
「何度踏まれても立ち上がる‥‥まるで雑草のような逞しさだからね」とプリンス。
「もしくは、ただの雑草(刑事)って事だ。まあ、時には人を和ませたりするかもしれないがな」
 真犯人逮捕であったが、どこかすっきりしない捜査一課の面々だったが、所詮自分らは刑事である。
 人を裁く事は出来ない。
 ただ、偽りの鎧に包まれた犯人を捕まえるのみである。

(「‥‥良くやった」)
 大戸は捜査一課から上がって来た報告書、地検への書類に目を通し乍ら、小さく呟いた。
 キャリア組の大戸が現場にいた際、現場の刑事が誤認逮捕で離職をする様を見ている。
 メディアからは生温い、警察は頭を下げれば、担当者の首を斬れば良いと思っている等と散々叩かれているのを見ている。
 誤認逮捕された一人の人生を大きく狂わすではなく、誤認逮捕した刑事の人生も狂わす‥‥‥そんな事態は避けられたようである。
 懸念すべき点はあるが、今夜は久しぶりに飲む酒は上手くなりそうだ。
 そう大戸は思った。

●楽屋裏
「‥‥タケシ君、残念なお知らせがあります」
 あがったばかりの台本を手渡し乍らよしりん☆が、タケシに言う。
「ええっ? 署長役駄目ですか?」とタケシ。
「駄目です、『ニックネーム』は。捜査一課内でまとまりを持たせる為のニックネームですので。課長だったら良かったんですけどね」