火消し屋 今日子アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/29〜06/02

●本文

 ――黒い煙が視界を塞ぐ。
 防護服と面体(酸素マスク)、ヘルメットで守られているとは言え、パチパチと燃える音が不安を掻き立てる。
 充分な酸素を担いで来たと言うのに面体は息苦しく感じる。
『山崎、太田、252(要救助者)は発見できたか?』
 佐々木の声が無線から響く。
 バティを組んでいる太田が答える。
「1階では発見できません。これから2階に突入します」
『気をつけろ、意外と炎が強い』
 太田の言葉に酸素の残量を確認する今日子。
 現場にいた近所の野次馬によれば火災現場となった民家には老人が孫と一緒に住んでいると言う。
 昼中であれば老人も孫も出掛けている可能性は高いが、今は深夜である。
 寝ている可能性は十分高い。
 1階には誰もいなかった。
 2階の居室にいる可能性は高い。
 玄関口に2階に上がる階段があるのを思い出し、玄関に戻る太田と今日子。
「気をつけて昇れよ。床下に炎が回っていたら床が抜ける可能性があるからな」
「はい」
 こういう場合、今日子が先行するのが二人の間の暗黙の了解であった。
 簡単に言えば太田が先行し床が落ちた場合、今日子が太田を引き上げる事は体格と体重の差から出来ず、かえって太田の落ちる反動に引きずられて今日子も2階から1階へと落ちる可能性が否定出来ないからであった。

 コンビニ袋を下げた若い男が野次馬をかき分けて、警察官の前に進む。
「すみません、通して下さい!」
 警察官と若い男の押し問答が佐々木の耳に入る。
「どうした?」
「俺の家なんです、通して下さい」
 聞けば、火災現場の民家に住んでいる孫と判明する。
 老人は現在入院中で家には誰もいないと言う事であった。
「山崎、太田、家には誰もいないそうだ。これから森本隊の邪魔にならないように戻って来い」
 消火活動は明け方迄行われ、建物の損壊は半焼となった。
 たっぷりと水を含んだ木材から上がる水蒸気が明るくなって行く空に立ち上っていく。


●ドラマ「火消し屋 今日子」
 一癖二癖ある佐々木小隊に配属された消防署唯一の女性ポンプ隊員、山崎 今日子。
 今日は地元ケーブルTVのクルーが密着取材だと張りついている。
 日常訓練やレポート書き、同僚の食事を作る今日子(食事当番の太田と今日子がカメラが回っている間だけ替わってもらったヤラセ)‥‥そういった合間に見せる今日子の消防に対する思い。
 そして大火災を知らせる署内アナウンス。
 今日子の地域も隣接地域の応援に狩り出される。

<消防関係者CAST>
 山崎 今日子小隊員(20):主役、消防士
  母親は既に死亡、中学生迄は消防士がキライであった。
  高校生の時、親友が事故で死亡した事をきっかけに消防士を志す。
  高校卒業と同時に消防学校に入学。
  この春消防学校を卒業後、ポンプ隊に配属された新人。
  地区初の女性ポンプ隊員であり、其れ故地元メディアから何かと注目されているが、それを苦痛だと思っている。
  父親、一雄は消防指令補(他担当地区ポンプ中隊長)

 太田小隊員(20代後半〜、男):消防副士長
  山崎のバディパートナー。
  高校迄男子高、大学は体育界系で女性に対して苦手意識を持つ。
  熱血感で消防大好きのガタイのとても良い男。

 土谷機関員(30代〜、男): 消防士長
  ポンプ車輌の運転を行う機関員。
  佐々木小隊のお父さん的存在、唯一の妻帯者。

 佐々木小隊長(20代中〜、男):消防司令補
  山崎が所属するポンプ小隊の隊長
  エリート、キャリアの為に現場経験が少ないのが欠点。
  太田とは別の意味で熱血感で消防大好き男。

 森本(20代、男):消防士
  山崎と同期で同じ消防署に配属された新人消防士。
  佐々木隊と組んでいる田所隊(ポンプ)に属する。
  それ故、今日子と森本は何かと比較される。
  今日子と森本の関係は、ライバルであり、戦友でもある。

 山崎 一雄中隊長(40代〜、男):消防司令補
  今日子の父親、今日子の配属先と隣接する地区を担当するポンプ中隊長
  今日子がポンプ隊に属している事を余り快く思っていない。
  部下からの信用は厚いが、今日子の評価は「寡黙な頑固ジジイ」

<その他CAST>
 TVクルー(レポーター、カメラマン、音響、照明、AD)他

「と言う訳で、またまた外見重視のヒューマンドラマだったりします。身長159cm以下または小学生のような外見をお持ちの方は、ポンプ隊員をする事が出来ません」とTOMI付脚本家のよしりん☆。
「そして今日子以外の女性隊員は、事務屋(広報、予防、検査・調査官)だったりする訳ですが、頑張って打ち合わせてCASTとあらすじをお決め下さい」

●今回の参加者

 fa0791 美角やよい(20歳・♀・牛)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa1180 鬼頭虎次郎(54歳・♂・虎)
 fa2459 シヅル・ナタス(20歳・♀・兎)
 fa2605 結城丈治(36歳・♂・蛇)
 fa5556 (21歳・♀・犬)
 fa5602 樋口 愛(26歳・♂・竜)
 fa5778 双葉 敏明(27歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

●CAST
 山崎 今日子‥‥美角やよい(fa0791)
 太田 和樹‥‥‥樋口 愛(fa5602)
 土谷機関員‥‥‥結城丈治(fa2605)
 佐々木小隊長‥‥双葉 敏明(fa5778)

 山崎 一雄‥‥‥鬼頭虎次郎(fa1180)

 森本小隊員‥‥‥河辺野・一(fa0892)
 榊消防士‥‥‥‥虹(fa5556)

 柊レポーター‥‥シヅル・ナタス(fa2459)


●祭り上げられて‥‥
「こういう取材にヤラセってなんだか納得がいかないわね」と美春はカメラを構える同僚に食い付く。
「美春ちゃん、ドキュメンタリーだって視聴者に判りやすい演出ってのは必要じゃないのかな?」
「そんなの言われなくっても判っているわよ」
 カメラマンに言われる迄もない。
 嘘になりすぎない程度の簡単な演出(ヤラセ)は、どこのドキュメンタリー番組でもやっていることである。だが美春にとって今回のドキュメンタリー番組の取材は特に意味を持つ。
 最近では女性消防官は珍しく無くなって来たが、女性ポンプ隊員の取材である。
 ここ数年前迄は男性との体力格差や生理的格差を理由に採用されなかった現場であるが、設備の技術革新により全国でまだ数名程度であるが採用され始め、そして今回この派出所に新規に配属になったのである。
 レポーターも男女格差がない。平等と言いつつも差別や格差がある。
 故に単なる取材対象と言うだけではなく、今回の取材対象、山崎 今日子にはある種思い入れが強かった。
「どうせなら、火事でも起きないかしら?」
「不謹慎だな。小さい派出所とは言え、消防士の前でその発言は」と佐々木小隊長。
「そうね。でも彼女が本心を見せてくれないんですもの」

 美春の視線の先に森本と今日子が太田の指導を受け乍ら、放水ホースを丸める作業をしている姿をカメラが撮影している。
 綺麗に素早くホースを丸める事が出来ず、太田から怒られる今日子。
「すみません、ちょっと緊張しちゃって‥‥‥」
「緊張もへったくれもあるか、総監が来ようが総理大臣が来ようが、ホースはちゃっちゃと『巻く』それだけだ!」
「なんだか、不自然なのよね。まだ森本さんでしたっけ? もう一人の新人さん。彼の方が素直な表情を見せてくれているわ」
 美春は今日子だけではなく佐々木隊のメンバーや佐々木隊と組んでいる田所隊の新人、森本に対しても今日子に対しての印象や消防についての思いを取材していた。
「なんだかギクシャクしているのよね、彼女。緊迫した現場では自分の本性っていうのかしら? 自分の心を隠すなんて暇がないじゃない? だから、そう思っただけよ。気分を害したらゴメンなさい。でも、彼女も現場には行った事があるんでしょう?」
「何度もね」
 そう答える佐々木。

 たしかに佐々木にもいつもより今日子がぎくしゃくをしているのを感じていた。
 本署の広報だけではなく、様々な取材等が来る度に今日子は段々単純なミスを繰り返すようになっている。
 この状況で出動が係らなければいい‥‥そう思う反面、現場にいる今日子こそが本当の姿であろうという美春の意見には同意見であった。
 佐々木は、今日子が実際に新規に配属される事を知った時は少し驚きがあった。
 佐々木としては、あまり女性には危険なことをさせたくない。という思いが少しあったのだが、実際、今日子と共に出動回数を重ねる毎に女性である。男性である。そういう小さい事にこだわっていた自分を見直す良いきっかけになった。と、今は思うようになっていた。
 だが取材を理由に火災は待ってくれない。
 派出所内の赤色灯が回転し、火災発生を告げるアナウンスが流れる。
「消防本部より入電、緊急応援要請。緑区青葉○丁目○番○号、複合型大型店鋪施設にて火災発生」


●黒い迷路、巨大ショッピングセンター
「ほい、おまっとうさん」
 土谷が運転する小型ポンプ車がタイヤを軋ませ現場のショッピングセンターに勢い良く到着する。
 中ではバランスを崩し、前につんのめった今日子が佐々木のヘルメットで危ういバランスをとっている。
「土谷‥‥機関‥員‥‥何度、言ったら‥‥」と佐々木。
「まあまあ、そう目くじら立てなさんな。景気付さ。落ち込んだって何かがよくなる訳でもない。気楽に行こうよ」と呑気に土谷が言う。
「確かにな。取材なんて俺達の性にあわないものにずーっと突き合わされて肩が凝った」と太田。
「‥‥すみません、私のせいで」と今日子。
「別に山崎のせいじゃないだろう。キャンペンガールの1日署長が来ても、山崎が来ても、取材は取材だ。キャンペンガールは美人で目福だが、どちらも肩が凝る。俺もお前もああいうのは苦手だ。それだけだろう?」
「あれ? 太田さんは喜々としていつもより指導に熱が入っていませんでしたか?」
「サービスだ、サービス。さっさとサービスして帰ってもらうのが一番。兎も角、五月蝿い取材がいなくなったんだ、ま、いつも通り作業をして、さっさと消火するだけさ」
「そうだな。さっさと消火して、さっさと帰ろう」

 ***

「‥‥そういえば、ここ、今日オープンでしたね」
 そういってバルーンが飾られているショッピングセンターの入り口を見上げる今日子。
 ショッピングセンターという大物に遭遇する事がない佐々木隊にとって黒い煙をあげるそれは陸に打ち上がった巨大な鯨のようにやっかいな代物に見える。
 実際、佐々木隊や田所隊の他にも応援車輌が多数見受けられる。
「オープニングセレモニーをしていた会場と火災発生現場は幸いにも離れているらしい」
 移動中、次々と本部より齎された情報を整理する佐々木。
「に、しては燃えているな」と太田。
 空に見るからに有害と書かれた黒煙が上がっている。
「特別消火隊も来ているのか?」
「これでけデカイ場所だからな。出火原因はなんでもパーティ用に飾り付けたモールに引火したらしい。どうやらある程度はスプリンクラーの初期消火で延焼を抑えてるらしいが‥‥規定の連動型の煙探を設置しなかったらしいので、発見が遅れたらしい」と佐々木。
「良くテンナント許可が下りたな」
「クイックマッサージ店で待ち客に出すお茶をいれるポットから出火したらしいな。元々区画割りをしたスペースではなく通路の一部を区切って作った簡易店鋪らしいぞ。火の元になりそうなものを扱わないという油断だろうが‥‥‥」
「この規模なら店鋪毎に防火管理者やら消火隊が編成されているんじゃないんですか?」と今日子。
「名ばかりだったろうな。あったとしても出来たてのホヤホヤでどこに何があるかも判らないだろうよ」と太田。
「一つ言えるのはこれだけデカい敵だとウチや田所の装備では『蛙の面にションベン』程度で役に立たないだろうと言う事だ」と佐々木。
「じゃあ、何で『町火消し』の俺達が呼ばれたんだ?」と太田。
「捜索だよ。オープニングレセプションなら関係者だけだが、オープニングセレモニーと来たら、一般人も店内に入れているはずだ」と佐々木。
「‥‥‥つまりこのだだっ広いスペースに、いるかいないか判らない525(要救護者)を探せと?」
「そういう事だ。二人とも気合いを入れて、キリキリ探せよ。救助隊や田所隊に負けるんじゃないぞ」

 ***

「あら、山崎さん、今日はお休み?」
 近所の主婦がコンビニ袋を下げた一雄に声を掛ける。
「ええ、今日は休みです」と一雄。
「そう。でも大変ねぇ。親子で消防士さんなんて」
「はあ‥‥‥」
 一雄にとって今日子が消防士を選んだのか理解できないでいた。
 少なくても中学生迄は、死んだ妻(今日子に取っては母親)の死に目に立ち会わなかった自分を、消防士という仕事を憎んでいたはずであった。
 そして、また消防の仕事がどれだけ危険かを理解しているつもりだった。
 何を好んで自分と同じポンプ屋の道を選んだのか‥‥‥副隊長辺りが見れば、苦笑いをして「全く、今日子さんに鬼の中隊長も頭が上がらないですね」と茶化される事であろう。
 親バカでも良い。
 鬼と恐れられる中隊長でも娘は可愛いのだ。
「でも私だったら娘が火災現場にいるなんて考えただけでもゾッっとしちゃうけど‥‥さすが消防士さんよね。お嬢さんが現場にいらっしゃるのにお買い物なんて‥‥」
「現場に出ている限りは、自分の娘だろうと他の隊員だろうと消防士の端くれですから‥‥休める時は休み、仕事では全力を尽す。それだけです」
「でも私だったらTVを見たら飛んで行っちゃいそうですわ」
「TV?」
「あら、御存じなかった? 今日オープンするショッピングセンターで火災ですって。レポーターが市で初の女性ポンプ隊員っておっしゃるから山崎さんのお嬢さんだと‥‥」
 主婦への挨拶もそこそこに家に飛び込み、TVをつける一雄。
 美春が現場から中継をしていた。
「ええぃ、お前じゃない! うちの娘を映せ!!」

 ***

 焦げた化学物質の匂いが鼻を突く。
 面体には新鮮な空気を消防士に与える事はしても空気の消臭効果はない。
 煙と鼻を突くキツイ臭いにパニックを起こして人もいるだろう。
(「急いで点検しなくてはならない」)
 下りている防火シャッターの通用口を引っ張る今日子。
「?」
 開かない。
 防火シャッターと防火扉の避難用出入り口はロックが掛からない構造になっている。
「何か引っ掛かっている?」
 今日子がドアを蹴るが、全く歯が立たない。
「退け、山崎」
 太田が身体を生かした体当りをかますがびくともしない。
 斧を梃子の要領で使い、隙間にねじ込み捻ると、ようやくほんの少し隙間が開くが白い煙に阻まれ、なにが扉を塞いでいるか判らない。
「埒が開かない。別ルートを探すか?」
「太田さん、そうするとこの扉の向こう側のエリアに到達するには、かなりの回り道になりますよ」
 途中で見た案内図を思い出しながら、現在位置を確認する今日子。
「確かにそうだが、装備を取りに行くよりは遥かに早いだろう」
「斧1本って所がスピード重視で力技の太田さんらしいけど‥‥」
 遅れて到着した森本が二人に声を掛ける。
「森本、お前は持って来たのか?」
「ちゃんとエンジンカッター持って来ましたよ」
 防火シャッターが火花を散らして切断されて行く。

 切断されたシャッターの隙間に身体をねじ込んで前に進む隊員達。
「足元に気をつけろ、今日子」と太田が声を掛ける。
「判っています」
「力が入っている。って言っているんだ。入れるなら違う所に気合いをいれろ。いつもの山崎らしくないって言っているんだ」
 太田の手が今日子のヘルメットごと、今日子の頭を揺らす。
「いつもやっているアレ、今日はしていないだろう?」
 太田が、己の頬を両手で叩くマネをする。
「アレが足りないから気合いが足らないんじゃないか?」
 今日子は何時も出動前に気合いを入れる為の仕種をである。
「ああ、アレ、アレ。そう言えば、今日はなかった」と森本。
「森本が知ってる訳ないじゃない」と今日子。
「山崎は学校でもしていた」
「ええっ? ウソぉ」
 ヤレヤレと囃され、面体を外す今日子。
 両頬を景気よく音がなる程叩き、気合いを入れる。
「よし!!」
「山崎も気合いが入った事だし、525を頑張って探すぞー!!」
「「「おー!!!」」」


●VTR
 要救護者を抱えてショッピングセンターから出て来る今日子と森本。
 後ろに続く太田は、要救護者を担いでいる。
 この仕事に対する自分の思いや誇りを語る今日子。
 テロップの流れる中、画面右に小さなウィンドゥ。
 署員達のコメントが流れる。
『山崎小隊員は私から見てもかっこいい、憧れの存在ですね。彼女が前線で頑張っているのを見ると、私も負けてられないな、って! でも一番は火事が1件でも多く無くなる事ですから、皆さんの日頃からの火の取扱いに注意して下さいね』
 予防課に勤める榊がちゃっかり火の元注意のコメントする。
『人命救助に完成とか一人前というのはないと思うんですよ。自分も山崎も春からの新人ですが、今まで一度として同じ火はなかったですし、常に自分を鍛錬し、日々向上しなければと。でなくては要救助者だけでなく、自分や仲間の命を守れません』
 森本が緊張した顔でインタビューに答える。
『俺達、消防士は一人じゃない。お前の後ろには俺が、俺の後ろには皆がいる。それを忘れるな』
 照れたようにぶっきらぼうに言う太田。
『ここに配属されたと言うことは少なくともスキルと資質をもったスタッフであるということは間違いない。自分としては性別なんぞどうでもいい、能力があれば問題ない。それだけです』と佐々木小隊長が最後を締めくくる。
 煤の着いた顔をした今日子のアップで番組は終了した。