「7」お嫁様大作戦アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
有天
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
8.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/26〜06/30
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●本文
古い運河沿いの鉄工場跡地を改装して作られた作られたライブハウス「7(セブン)」。
厳ついコンクリートの外壁と大きな赤錆が浮いた鉄の扉が印象的で、来る人を拒むように聳え立つ。唯一ライブハウスである証拠と言える物は、ネオン看板ぐらいであるこのハウスでまた怪し気な企画が計画されている。
「店長、『披露宴』で使用する花嫁衣装確保しました♪」とベテランアルバイト・モモが喜々と言う。
「そうか‥‥‥」と店長の浩介は生返事をする。
モモは近くの被服デザイン学校と学生達が課題で作ったウェディングドレスをステージ衣装として借り受ける事をとりつけてきた。
『披露宴』と名付けているイベントであるが、実際仲間内に披露したいと考えるカップルが来ないかも知れないのでファッションショーというかお得意のコスプレイベントにしてしまえ。と言う事であるらしい。
「人目を忍ぶホモカップルさんとか、歳の差カップルさんや性別の逆転カップルさんとか、入籍(挙式)したけど披露宴はまだなカップルさんがいるとは限りませんから」
先日の強気は何処にいったのであろう。
「‥‥まあ、今回の6月イベントはモモに任せているからな。俺としては本当にカップルが来た場合、ケーキを作るか、どうか位だからな」
どことなく投げやりなのは、何かを察知しているからなのかも知れない。
店長室を出ると辺りを確認して何処かに電話をするモモ。
「あ、クラウンさんですか? コスプレの計画ばっちりですよ♪」
『本当? 親父さんや浩介ちゃん用の服もばっちり?』
「ええ、勿論です♪ 今回はメイド服もウェディングドレスもどちらもOKです」
ベテランスタッフは燃えていた。
今度こそ、親父女装を成功させるのだと。
その為、浩介と親父さんが警戒を解くまでじっくり間を開けたのである。
「専門学校の生徒さんもノってくれていますのでばっちりです。後はどれだけ協力者がいるかです」
こうして怪し気な計画は、こっそり好きものたちにメールされるのであった。
●「お嫁様大作戦」協力者募集
ライブハウス「7」にて親父さん&浩介店長の女装化計画賛同者を募集します。
表向きは給仕スタッフとして参加頂きます。
服装はギャルソン服とメイド服から選択できます。
使用後に返却頂きます。
●リプレイ本文
「学生時代は色々してたんだけどね。接客のアルバイトは久し振りだなぁ。制服は‥‥ああ、これだね」とメイド服を手に取るRickey(fa3846)。
「男性用はギャルソン服があるぞ」
何故、ナチュラルにメイド服を取る。と浩介。
「3月3日に行ったメイド祭りが好評だったって話だもんね。俺の友達とかも『すっごい行きたかった!』って言ってたもん。それにメイドの給仕で集客率大アップ間違いなし!」
「あ、ああ‥‥‥」
集客率アップ、経営側の永遠の課題である。
単なるライブ活動だけではなく、今時の客層は更なる+α(付加価値)を求めて来る。
王道のハードロック専門では「7」もやっていけず色々企画を毎回考えているのは確かである。
和楽器奏者による和製ロックイベントと同じ位コスプレイベントは人気があるのも事実であるが、今回のテーマはジューンブライド、披露宴である。
結婚をチャカすようで、女装は不味くないだろうか?
そう思う浩介だった。
41の親父は意外とロマンチストなのである。
「今回は給仕で入ったんだ。給仕も一度やってみたかったから‥‥」と頃合いを見計らって浩介に話し掛ける織石 フルア(fa2683)。
「ああ‥‥この前はメイド服だったが音響だったな」
「今回の『披露宴』、意外と大掛かりなイベントなんだな。専門学校生の協力まで得て実際に花嫁衣装まで着られるとは」
「目的ホールを目的に改築したからな。なんでも毎年学生達によるファッションショーと言うのがあるのはあるらしいだ。なんでも今年は適当なステージが取れなかった時に、たまたまウチに遊びに来て着た学生が思い出して、連絡して来たらしい」
自宅から持って来たらしい段ボール箱を抱える浩介。
「‥‥それにしても折角ここまでやってるんだ、インパクトがあるイベントの象徴的な何かがあっても良いのではないか? 上手くいけば口コミ効果でイベントの集客UPにも繋がるんじゃないだろうか」
「インパクトね‥‥」
「例えば店長自らが花嫁衣装を着てみるとか」
フローの言葉に転びそうになる浩介。
「おいおい‥‥」
「店長は店の代表だろう。だからこそ効果があると思う。それに‥浩介さんならきっと似合う」
きっぱりと真顔で言うフローに苦笑する浩介。
「あれは女性が着るからこそのものだろう? 俺が着るよりは‥‥‥フローが着たかったのか?」
浩介的にはフローはコスプレが好きと認知されているようだった。
「それは駄目だ。未婚女性が予定も無い時に花嫁衣裳を身につけると婚期が遅れるというから」
「ふむ‥‥」
若いフローの口から都市伝説の類いが出るとは思っていなかったが、以前幽霊が出た際盛り塩したいと言ったのを思い出した浩介。
「まあ、フローがそう言うのなら仕方ないな」
「メイド服とケーキ、選ぶならどちらがいいですか?」と『遥特製激甘チョコケーキ(甘さ2倍の5号サイズ)』を示しながら天羽遥(fa5486)はスタッフルームで思い切って口火を切った。
「ケーキだな」と親父さん。
ハルの激甘ケーキは花見の際に食べている。覚悟を決めればなんとかなるかもしれない。という選択らしい。
(「さすがに学習していますね‥‥なら、これならどうです」)
要望書を見せ乍ら、再度チャレンジ。
「収益率も上がるし、遥、店長さんのメイド服姿が見てみたいんです‥‥お願いします」と上目使いのウルウル目でお願いするハル。
「ハル、君もか‥‥」
大きく溜息を吐く浩介。
「これが完成予定図でーす」
ジャーン♪ と青いメイド服を着て出て来るパイロ・シルヴァン(fa1772)とピンクのひらひらが着いたミニスカメイド服の琥竜(fa2850)に一瞥をくれる親父さん。
「元々パイロは女顔だから似合うのは当然だな。俳優である以上、必要があれば女装も必要だろうしな」と親父さん、口髭を撫でる。
あっさり撃沈してしまうパイロ。
「‥‥‥何となくヨーロッパのお祭りに行った時の事を思い出すね」
リッキーとこたは、しっかり新井久万莉(fa4768)と雫紅石(fa5625)にメイク迄して貰っている。
「勿論、親父さんや浩介さんもこの制服を着るんだよね?」
「冗談じゃない」と親父さん。
「ヤンのおいらだって、カワ系メイドになれたんだし、ここは一緒に女装しようぜ? オヤジさんのカワ系すんげー見てみてぇなぁ」
うるうる瞳で親父を見上げるこた。
「断る」
にべもなくすっぱり言う親父さん。
「えー? 男性がこう言う形状の服を着るのって、全然おかしくないよー? 中南米に多いポンチョや、スコットランドのキルトはこう言う形だよ?」
スカートの裾を持って言うリッキー。
「阿呆抜かせ。キルトもポンチョもスカートとは意味が違うだろうが」
「日本のkimonoだってそうでしょう?」
「喧嘩売っているのか、お前は?」
親父さん的に役者や歌手等といった職業を持つ人物が仕事で女装するのはしょうがないとして、遊びで女装をするのは女性に対しての冒涜だと思っている節がある。
「あら、違うわよ。無理に『男』が『女』を目指す必要は無いの。女装は『自分が憧れる女性像』を演じて楽しむ事が一番大切なの♪」
だからこんなにこたちゃんが可愛いレディになるのよね。とティア。
「俺は芸人でも芸能人でもねぇ。ただの爺が可愛くてどうする」
「それは、親父さんが『恥ずかしい』って思うから変になっちゃうの! 歌舞伎だって能だって女装をやるけど、凛として素敵にみえるでしょう? それは自分のもう1つの姿を心から楽しんでいるからなのよ!」
ティア独自の女装観を力説するティア。
「この素晴らしい女装の楽しさや素敵さを、私は是非皆様に教えてあげたいのよ!」
親父女装と微妙に違う世界に行ってしまったティアをややあっけに取られ乍らも感心したように見る浩介。
一方、
「酷い‥‥おやじさんはコタの事嫌いなんだ‥コタ、頑張って可愛くなったのに‥‥」
部屋の隅でイジイジと床に「の」の字を書くこた。
「頑張って脛毛もお手入れしてツルツルのピカピカお肌にしたのに‥‥」
「グダグダ言ってんじゃねぇ、叩き出すぞ!」
「‥‥‥面白い。久しぶりだな、あそこ迄親父さんを怒らせる男は」とティアとは別な意味で感慨深気にこたを見る浩介。
(「不味いわね‥‥男共、撃沈じゃない」)と焦る久万莉。
「でも『男の女装を綺麗に見せるか』って言う私や雫紅石のメイクは認めてくれる?」
「久万莉やティアの腕がいいのは認めるぜ。だが、それとこれとはちがうだろうが」と親父さん。
「なら群青さんが女装したら、店長さん達もしてくれますか?」と、ロッカールームに入っていく群青・青磁(fa2670)を見るハル。
「まあ、な」と親父さん。
それに対し浩介といえば、
「俺は残念乍らそう言う理由ではしないな。他人は他人だ。他の人がしたからといって、俺がそれに従う道理はない」ときっぱり言う。
「女装するなら自分の意思でするし、人に倣えというのは俺が『7』の仕事をする限りはないな」と浩介。
「遥は店長さんのがみたいだけだから‥オヤジさん、店長さんだけでもお願いできませんか?」と親父さんに頼むハル。
ジロリ。と浩介が親父さんを睨む。
「‥‥こういうのは、本人の意思だろう」
──バタン。
ロッカールームから出てくる群青を見て、あんぐりと口を開ける親父達。
いつもの狼の覆面姿ににょっきり逞しい脛が覗く嬉し恥ずかしメイド姿である。
「群青‥お前ぇが女装なんて‥‥」
パクパクと口を開く親父さん。
その親父さんをじろりと睨み群青、
「女装だと? 馬鹿を言うな! こいつは女装じゃあねえっ! 女物の服を着た仮装だ! 結婚式の出し物で仮装をして芸をするのがあるだろう。あれと同じようなもんだ。己の身を張って仮装をし煌びやかに着飾り、愛する二人をの門出を祝福する。それが、この姿だ!!」と豪語する。
「みんなが俺達のようなオヤジにも楽しんで貰おうとサイズぴったりな服まで拵えてくれたんだ。ここまで見事な服を縫うのは大変だったろう。一度ぐらいは袖を通してやらんとな。他人の厚意を対した理由もなく断るのは最低野郎のすることだ! 漢じゃねぇ!」
もしもし? と突っ込みを入れたくなる群青のコメントであるが「最低野郎」と言われ、親父さんの眉毛がぴくり。と動く。
「心打たれるいい話しじゃあねえか。だいたい女装嫌いの俺が女装をするはずがないだろ。こいつは誰が何と言おうとただの仮装だ! やりもせずに決めつけるのは短絡思考ってもんだ。曲も聴かずにジャンルだけで避けて好き嫌いを決めるようなもんだ。やってみた者にしか見えない、わからないものがある。心で感じるのが大切だ。ハウスをやってる者ならそれくらいわかるだろう!」
さあ、どーんと化粧をしてくれ! とマスクを脱ぎ捨てる群青。
「うーん、一見説得力がありそうだが、説得力がないなぁ」と冷静な浩介。
雛祭りにメイド姿になった時の浩介の感想は、大層恥ずかしかっただけである。
浩介から見ると前回の行動が実はメイド服ではなく初めからウェディングドレス狙いの伏線だったとしか見えない群青の一言だったが、親父さんには余りにも「女装」と言われ癖々していた部分と拒否する度に凹む面子を見て、心がちょっと揺れていた部分を刺激した。
「66歳にもなって女装とは‥‥‥‥ご先祖様に申し訳が立たねぇ‥‥‥‥‥」
「だから女装ではなく、仮装だ。ピエロになるかスカートになるかの差だ。それにオーナーもぴたパンツの『バレエの王子様』よりは遥かにマシだろうが」
「群青さん、これ以上『際物コスプレ』を増長するような事を言わないで下さい‥‥」
げんなりとする浩介。
「‥‥よし、判った!」
きっ! と女装賛同者達を見つめて言う親父さん。
「いいな、これっきりだぞ! これ以上ガタガタ言いくさったら、手前ぇら全員出入り禁止だ!!」
「「「「「「親父さん♪」」」」」」
「うるせぇ、江戸っ子に二の次はねぇんだよ!! さっさと持ってきやがれ!」
斯くして世にも恐ろしい獅子頭 治樹(ししがしら はるき)66歳‥‥‥ライブハウス「7」のオーナーにして元鉄加工業者である筋骨隆々の頑固親父もとい頑固爺の女装という際物が実現する事となった。
尚、今回浩介は傍観者である。
一部の参加者にとって中ボスに逃げられたが、裏技でラスボスを倒したという所だろうだが。
「100%じゃないけど、ママーやったぜ☆ おいら頑張たぜ♪ ご褒美にママがきっとレタスいっぱいのサラダを作ってくれるー」
ここでこたに何もしていないだろう。と突っ込んではいけない。本人なりに頑張ったのである。
さて、首にはチョーカー。アイラインや眉毛の引き方、口紅で口を小さく‥‥なかなかの出来栄えであった。だが‥‥
「親父さんの口髭、どうしよう‥‥やっぱりベール? 折角ここまで綺麗にやったのにー!!」
顔が隠れたら本末転倒である。とモモが反対したのである。
『いいですか、いい歳した親父が恥ずかしそうに女装をしている。親父女装は、ある種の羞恥プレイなんです。顔を隠すのは絶対反対です! お天道様と店長が許しても、このモモさんが許しません!!』
腐れもここまでくれば立派である。
「じゃかましい! お前らがどうしてもやるっていったんだろうが、最後まで責任取れってんだ!」
楽屋に親父の罵声が響いた──。