女王様とペンアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 1Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/28〜07/02

●本文

 ――この飢えは何処迄続くのだろう。
 何を食べても砂を食むように味気なく‥‥空腹感が満たされる事がない。
 明るい陽射しから遠のき、まるで吸血鬼のように暗闇に潜み満たされる事がない飢えを抱える。

 ――食らいたい。

 その思いだけが心を占める。

 ――食らいたい。

「嫌だ、俺は人間だ!」

 血の滴るようなステーキを食らっても心が満たされない。
 ドンドンとドアを叩く友人の声。
 大学に出て来ない自分を心配して見に来てくれたのだろう。

「いるんだろう? おい?!」

 耳障りなその音を消したいという思いと巻き込みたくないという思い‥‥‥そして己の心を占めるも卯一つの思い。

 のろのろと開くドアの隙間から安堵の表情を浮かべる友人の顔が見える。
「やっぱりいたんじゃないか。心配したんだぜ、何日も来ないから?」
「ああ‥‥‥」
「やっぱり病気なのか? 顔色が悪いぜ?」
「‥‥い‥や‥‥‥そう‥なのかも‥‥」
 どこかぼんやりと、気だる気にする友人の腕を掴み部屋の奥へと戻そうとする友人。
「だったら駄目じゃないか! ちゃんと食ってないから友也はそうなんだよ」
 スーパーの袋を持ち上げて見せる友人。
「ちゃんと食って、体力つけなきゃ」
「‥‥ああ‥‥‥腹は‥減っているんだが‥‥何を‥‥食った‥ら‥いいか‥‥」
 俺をベットに押し込むと台所に向かう友人。
「本当は、こういう時は彼女が一番だけど。お互いいねぇしな」
「すまない‥‥」
「任せとけよ。こういう時こそ友達だろう?」
 背を向けて立つ友人の項から目を離せないでいる友也。
「こういう時は肉かな? がっつり血が滴るような分厚いステーキ?」
「ステーキ‥‥じゃ‥ない‥‥‥ほうが‥いい」
「当たり前だ、そんな金あるかよ。本気にされたら困る」
 背を向けたままカラカラと笑う友人に静かに近付く。
「‥‥うん‥‥‥俺が‥‥いま‥食べたいのは‥‥」

 己の腹から突然生えた腕を不思議そうな顔で見つめながら、かつて自分を友と呼んだものは動きを止める。
 全身の力が抜けぐったりとするそれを抱きかかえ、友也は笑った。
「ああ‥‥始は‥‥いい‥‥友達‥‥だよ‥‥一番‥俺に‥俺が‥‥必要としている‥‥俺に‥食われてくれる」


「どう思う?」
「どうって言わてもな」
 よしりん☆から差し出された小説を見て、鬼塚が答える。
 手渡されたそれは、後半に進む程誤字脱字が多くなる。
「人肉嗜食は余り好きじゃない」
「馬鹿ねぇ。私が書いた訳じゃないわよ」
「じゃあ、誰だ?」
「秋吉友也」
「‥‥‥おい」
 小説の主人公の名前をあげるよしりん☆。
「秋吉友也は実在するわよ。会った事があるもの」
 友也はよしりん☆と鬼塚の卒業した大学の後輩にあたるのだという。
「大学祭に行った時に教授に紹介されたのよ。それ以来、何度か小説とか送って来てくれるの」
 送られて来る度に感想をメールしているのだと言う。
「これが送られて来た後、連絡が取れなくって‥‥‥部屋を訪ねたら何かに食われた死体があったわ」
「おい‥‥」
「WEAの見解は秋吉友也はNWに憑かれたよ。消印を見ると先に小説を投函したのよね‥‥‥届いた日に私が見てやれば‥‥‥」
 唇を噛むよしりん☆。
「鬼塚、あんたの知合いにNW狩りの上手い子いない?」

●今回の参加者

 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0669 志羽・武流(21歳・♂・鷹)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa2824 サトル・エンフィールド(12歳・♂・狐)
 fa3135 古河 甚五郎(27歳・♂・トカゲ)
 fa3577 ヨシュア・ルーン(14歳・♂・小鳥)
 fa5689 幹谷 奈津美(23歳・♀・竜)

●リプレイ本文

 幹谷 奈津美(fa5689)は秋吉友也の小説を読んだ感想を言う。
「何だって彼はこんな小説を書く気になったんだろうね。自分自身を主人公に据えて‥‥しかもこんな展開にしたんだろう」と奈津美が言う。
「執筆時点で『秋吉氏がNWに憑依された』ということだと思いますよ」
 そう語るのは志羽・武流(fa0669)。
「俺も同意見だが、それをなぞって行動ってのは低いような気がするぜ」と常盤 躑躅(fa2529)。
「よしりん☆もタケル君や常盤君と同意見です」
 自分の中の凶悪なモノを文章として吐き出す事によって心の安定化を図ろうとしたのかもしれませんね。とよしりん☆が言う。
「被害者は小説にあるように彼の友人だったのでしょうか?」
「ええ、友也君と一緒によしりん☆の家に遊びに来てくれた‥‥たしか同じサークルの人ですよ」
「実体化して人の意志なんて残ってねぇんじゃないのか?」と常盤。
「彼が人を食べた時、実体化したかは不明です。実際、死体の方はWEAの検分では、直接の死因は刺殺です。それに遺体には人の歯形も残っています」
「まだ人としての意識が残っているって言う事?」と奈津美。
「それはないと思いますよ。幾ら意思の強い人でもこんなに長い時間、抵抗力があるとは思えません」
「最後の一撃をくれてやる前に無駄かも知れないがNWに平心霊光を試すか‥‥。何か言い残したいことがあれば遺言として聞いてやれるかな?」と常盤。
「‥‥常盤君は優しいですね」とよしりん☆は微笑した。
「俺は大学関係者と自宅付近の住民から目撃情報を集めをするかな? 勿論、人の少ない場所も調べるが‥‥」と席を立つ常盤。
 暫く考えたタケルと奈津美は各々別の場所を探してみると言う。
「あたしもNWが好きそうな所を探そうかなー」と奈津美がいう。
「俺は秋吉氏の自宅に行ってみようかと思います」とタケル。
「ドアの鍵は空いているはずですよ。やーくんが先に行っているはずですから」
 秋吉友也の住所をタケルに教えるよしりん☆。
「よしりん☆先生は、秋吉氏と親しかったんですか?」
「何度か家に行ったり、お友達と遊びに来てくれたり‥‥その程度ですよ」

 3人と別れた足で警察署に行くよしりん☆。
 理由は簡単、九条・運(fa0378)の身元引き受け人であった。
 秋吉友也の立回先を調査していた運であったがキャンピングカーで移動中、警邏の職質にあったのである。一般人にも顔の知られている運であるが、職質された時の格好が悪かった。
 スカルフェイス、MR.ファルコンを顔と頭に着け、あかいすいせいの上にバックドラフトを着込んでいた。「これから撮影なんです」と言い張ったが幾ら芸能界に疎い警察官であっても、ちょっと怪し過ぎるその格好に一時御同行願ったのである。
 幸いの事に運の顔を知っている刑事がいたので身柄確保だけで、キャンピングカーの中をくまなくチェックされる事がなかったが‥‥。
「‥‥どちらだけだったら良かったのにね」
 ロビーでファンだと言う刑事に奢ってもらった珈琲を啜っていた運を見て、苦笑するよしりん☆だった。

 さて、今回殆どの面子の見解は『秋吉友也のアパートと大学周辺か、よしりん☆のマンションの周辺に秋吉友也は潜伏している』である。
 第一被害者は大学の友人。
 ならば手近な補食対象としてよしりん☆が狙われているのではないか? と考えたのである。
 大量のジャンクフードと一緒によしりん☆宅に押し掛けてきたサトル・エンフィールド(fa2824)とヨシュア・ルーン(fa3577)兄弟。
 成長期がそんな物ばかり食べるな! とよしりん☆が珍しく自費で焼肉を用意している。
「秋吉の家は当たり前と言えば当たり前だが、NWが潜伏出来きそうな本ばかりで無駄足だったな」と言い乍ら緑川安則(fa1206)は自ら持って来た新しいワインを開ける。
「しかし‥‥猟奇小説の郵送先とは、熱狂ファンの標的か無意識の救助信号先か、どっちでしょう。しかし秋吉氏も濃い趣味ですね」と古河 甚五郎(fa3135)が肉をひっくり返し乍ら言う。
「‥‥コガ君、お口のサイズが横に2倍になるのと黙って肉を食べるのとどっちがいい?」
「ねぇ、吉見さんって、よしりん☆さんが獣人だって知っていた?」とサトル。
「馬鹿だなぁ、サトル。幾らよしりん☆さんが若い男の人に弱くてもそれはないだろう?」とシュア。
 完獣化の可愛らしい姿がなかったら‥‥ひくり。とよしりん☆の頬が引きつる。

 ドアホンが鳴る。よしりん☆がドアに向かうと鬼塚が立っていた。
「なにしに来たの?」
「コガに呼ばれた。お前が狙われているそうだな。全く物好きな‥‥‥」
 ズカズカと勝手に入って行く鬼塚。
「その割に緊張感がないな‥‥」
 焼肉パーティ会場と化しているよしりん☆のリビングを見回す。
「鬼塚さん、待っていました。よしりん☆さんの猫を預かって下さい」とコガ。
「なに?」
「無理な相談ね」とよしりん☆。
「1匹、2匹なら兎も角‥‥今はちびちゃんを含めて猫は10匹いるもの」
 がらりと隣の居室を開けるとインコに梟、オウム、大型犬2匹、中型MIX1匹、チワワが3匹、成猫MIX4匹に生後1ヵ月の子猫が6匹、お行儀よく座っている。
 コガの顔を見るとチワワの1匹が怒ったように吠えたてる。
「うちのお母さん、マミちゃん。子猫の面倒をみてくれているのよ、ね〜♪」
「‥‥お前また増やしたのか」と呆れ顔の鬼塚。
「人聞きの悪い、里親が決まる迄の預かりボランティアよ。子猫は近所の公民館に捨ててあったのよ。それにね‥‥」
 にっこりとコガらを振り返って般若のように笑うよしりん☆。
「部屋の中で戦闘したら、あんた達泣かすわよ。壊したら、一生こき使ってやる‥‥」
 私のコレクションは皆、一点物だったり、ビンテージ物なんですからね。
 後ろに黒いオーラを漂わせて言うよしりん☆に思わずファイティングポーズを取りたくなってしまう一同であった。

「ところで運と奈津美はどうした?」と鬼塚。
「奈津美さんは30分前に連絡が来たきりで判らないけど、運君は近所を車で巡回しているはずだけど?」
「1Fのエントランスにタケルがいたからな。あいつ、なんで上がって来んのだ?」
「タケル君、いたんですか?」
「そういえば、途中迄一緒だった」とサトルとシュア。
「そういう事は、早く言いなさい!」
 携帯電話を掴んで、飛び出して行くよしりん☆。
「どこに行く気だ?」
「タケル君の所よ。友也君の狙いが私にしても‥‥NWにとっては、私だろうが、タケル君だろうが構わないはずよ」
 盲点だったとも言えよう。
 実体化しても人型NWは元の人間だった時の影響を受けるので『友人を食らった秋吉友也の狙う第2被害者は、顔見知りのよしりん☆』と思い込んでいた部分である。
「確かに腹を減らしたNWにとっては、単独行動している獣人は良いターゲットだな」
「それなら皆に幸運付与を掛けるぞ」
 常にパンダマスクをしている常盤が半獣化をして幸運付与を行う。
 とっぷりと陽が落ち、廊下を照らす電灯が辺りを照らす。ロの字に展開する居住スペースにエレベーターは2機。各々に階段がついているがよしりん☆の居住階は10Fである。
 エレベーターを待つ迄の間、運に電話をかけるよしりん☆。
「エレベーターはまどろっこしいな‥‥‥幸運付与の効果、アテにしているぞ。お先!」
 手摺を乗り越え、落下しながら半獣化をするやーくん。
 ブレーキ代わりに翼を広げ、下に着くと同時に半獣化を解きエントランスへと走って行く。
「無茶しやがる!」
「僕もー!」
 シュアまでもが手摺を乗り越えそうになるのを鬼塚が襟首を捕まえて止める。

 ――時間は十数分前に遡る。
 エントランスのソファーに座るタケル。
 何となくよしりん☆の家に上がり込むのは気が引け、ここで待つ事をにしたが、エントランスはエアコンも入っており、新聞等の時間潰しもある。
 新聞を取ろうとしたタケルの視界に薄汚れたシャツを着た男の姿が目に入る。
 黒く変色した血の痕に混じり、まだ乾き切っていない赤い血も混じっている。
 靴も履かず素足である。
 大分姿は変わっているが写真で見た秋吉友也である。
 両手で開かないエントランス入り口のドアをガタガタと引っ張っている。
 エントランスに入るには、入り口脇のホンを使い訪問先の住民にロックを開けてもらうか、暗証番号を入れる必要がある。
 エントランスでは何時居住者が帰って来るか判らない。
 そして、かつて秋吉友也と呼ばれたソレは獣人(タケル)を認識した。
 顔があった部分の肉が割け、虫の複眼と顎が迫り出して来る。
 中からのロックは掛からない事を利用して、そのまま勢い良くドアに体当りをするタケル。
 実体化途中の虚を突かれたNWは、タケルの体当りで転がる。
 その脇をすり抜けるタケル。
 NWとの距離を確認し乍ら、人気のない場所を探すタケル。
「‥‥そうだ、あそこなら!」

 マンションに向かう運の目に走るタケルの姿が目に入る。
 後ろには着かず離れずの距離にNWが迫る。
「よっしゃあ、どんぴしゃ!」
 車を寄せ、ダッシュボードに入れたゾンビパウダーの包みを飲み下す運。
 タケルの向かった先は、居住者専用の緊急時用備蓄倉庫である。
 監視カメラがあるかどうかは賭であるが、少なくても直接的な人為的な被害は出ないであろう。
「ここなら、人は来ませんからね‥‥」
 NWを振り返り、一気に完獣化するタケル。
 そのまま破雷光撃を放つ。
 近くにカメラがあれば故障するだろう。と言うのを見越した一撃である。
「よく頑張ったな、タケル!」
 運がライトブレードをNWの後ろ、上段の構えから振り下ろす。
 予想外の方向からの攻撃に怒りの咆哮を上げ、運の方に向き直るNW。
「こっちにもいるぞ! 悪いが、腕のいい脚本家は食わせるわけにはいかないんだよ」
 上空から降下するスピードを利用し試作刀「斬鉄」をNWに向かって投げ付けるやーくん。
 斬鉄を振払い隙が出来たNWの脇にそのままライトバスターを突き立てる。
「遅いですよ、2人とも!」
「だったら携帯位持てよ。よしりん☆が『タケル君が危ない』ってヒスっていたぞ」と運が言う。
「あまり人が来ないっていっても団地の中だ。一気に決めるぞ!」
 その言葉に反応するかのようにガチガチと顎を鳴らし、威嚇するNW。
「食らいたいなら俺たちを食ってみろよ!」
 やーくんが挑発的に言い、間を詰める。
「悪いがこっちにもいる事を忘れるな!」
 やーくんが抉った脇を運の刃が更に抉る。金剛力増で大きく盛り上がった肩の筋肉が一気に弾け、NWを両断する。
 バラバラになった半身はなおも激しく暴れ、もげ掛かった腕で獣人達を狙う。
「全くバタバタと、鬱陶しい! コアは何処だ?」
 やーくんがNWの首を跳ねる。
「足の方には見当たりませんね」
「胴体にも‥‥ないな」
 ライトバスターで胴をひっくり返すやーくん。
「じゃあ、頭か‥‥‥」
 落ちた頭を掴みひっくり返そうとした運。
 がっ! 光と失っていたNWの瞳に力が入り、運の腕に噛み付く。
「ち‥‥マムシか? こいつ」
 よしりん☆に文句を言われ乍らも厚着をしていた為にその歯が運の腕を傷つける事はなかった。
 運はNWの頭をそのまま倉庫のコンクリートの壁に叩き付け砕く。
 3人は飛び散る破片の中に緑色に輝くコアを見つけ‥‥。
 コガがよしりん☆にサーチペンデュラムを出し惜しみするなとつっ突かれ乍ら場所の特定をして駆け付けた時には全てが終了していた――。
「‥‥DOGのDVD、完成後は故人に供えますか?」
 かつて人であったそれに向かってコガが言う。
「そんな物、いらないわよ。彼、動物が好きだったんですもの。うちには里親の仲介で来てくれていたのよ‥‥」
 暗い空から涙のように冷たい雨が降り注ぐ‥‥梅雨明け迄はまだ時間が掛かりそうである。