最後の贈り物アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
有天
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
07/12〜07/16
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●本文
――画面に読経が流れ、仏壇が写る。
遺影は影の薄そうな男(鈴木太郎)である。
通夜の席である。
無くなった鈴木太郎の死を悼む者がいない寂しい通夜の席である。
ある者は生前の鈴木太郎を馬鹿にしたように、ある者はこれのお陰で楽しみにしていたコンサートのチケットが無駄になったと文句を言っている。
そんな中、弔問に訪れた女2が文句を言う。
「鈴木さんは、そんな方じゃありません! たしかにちょっと影が薄かったかもしれませんけど、立派な方です! 給湯室に飾ってあるお花を毎週買って来てくれたりや皆が出しっ放しにしたまま帰っちゃう資料だって全部元に戻してから帰られるんです!」
「ちょ、ちょっと‥‥」
一緒に弔問に訪れた派遣仲間が袖を引っ張る。
――画面は切り替わる。
霧が立ちこめる灰色の石がゴロゴロと転がる殺風景な河原に鈴木太郎がぽつんと一人立つ。
(「どうして自分はここにいるのだろうか?」)
「それはあんたが死んだからだよ」
黒い服で身を包んだ『渡し』が答える。
「私が死んだですって?」
「そうだよ。ここは『賽の河原』、あの世とこの世を繋ぐ場所。あんたはここで自分が死んだ事を学んで理解した後、あの川を渡る」
『渡し』の指差す方に黒い川が流れる。
「ここの石を投げてみな」と『渡し』は鈴木太郎に促す。
鈴木太郎が投げると黒い水面に波紋ができる。
そこに上司に文句を言われる鈴木太郎の姿が写し出される。
「そうやって石を投げるとあんたの過去がどんどん写る。見て、納得がいったら川の水を飲む。川の水は現世の嫌な事‥‥まあ良い事も忘れちまうが、転生をするに必要無い記憶を捨てちまうんだ。んで、川のあっちに渡って、転生迄魂の傷を癒すって訳だ」
「そんな、困る! 私にはまだやる事があるんだ」と鈴木太郎。
「大体はそういうんだよね」
『渡し』は腰に着けた閻魔帳のような古めかしい綴りを開く。
「えーっと、あんたは『鈴木太郎』さん、交通事故による腹部裂傷および頭部打撲ににより即死。ああ、居眠り運転のダンプカーに轢かれているよ。家族には保険が出るから住宅ローン返済の心配もなし。ちゃっちゃと石を投げて、川を渡ろう」
「そんな事が納得出来るか! それに私にはやることがあるんだ。家族の元に戻せ!」
「えー、お父さん、結構頑固者? 顔と似合わないねぇ」
面倒臭そうにいう『渡し』。
「何を揉めているの?」
『渡し』と顔見知りの女が言う。
「このお父さんが帰りたいって言うんだ。体はもうないのにね」
「そう‥‥‥」
女は暫く考えた後、こういう。
「あたしの体で良かったら貸すわよ?」
●ドラマ「最後の贈り物」あらすじ
死亡した鈴木太郎は女1の肉体を利用して現世に舞い戻って来た。
女1(鈴木太郎)が家に辿り着いた時、鈴木太郎の体は火葬が済み。小さな骨壷に修まった後だった。
愕然とする女1(鈴木太郎)だったが、死亡時に鈴木太郎が持っていた家族へのプレゼントがないことを知る。
家族からは不審者と思われ、家を追い出される女1。
女1を病院から追い掛けて来た女1の知り合いに女1は取り押さえられる。
女1と女1の知り合いが揉めている所にやって来る女2。
女1に名前を呼ばれ驚くが、女1に鈴木太郎を感じ、話を併せて女1を自宅アパートに連れて帰る。
女1(鈴木太郎)は最後の日に買ったプレゼントをどうしても家族に渡したいのだと言う。
鈴木太郎の記憶は、段々と死が進む為に薄れて行く。
女1と女2は協力し事故当日の鈴木太郎の足取りを追う。
家族の元にプレゼントは届くのであろうか?
●出演予定配役(●は必須)および用語
●女1 20代:鈴木太郎と体を共有する女。
三途の川のほとりで知り合った鈴木太郎に身体を貸す女。
海外協力隊に参加している婚約者が現地ゲリラに拘束、殺されると言う報道を聞き自殺を図るが一命を止めるも植物状態になって、入院中。鈴木太郎が入った為に親父(人前で食後のゲップ)のような行動をする。
鈴木太郎が女に話し掛ける時は、胸を向いて話しかけるか、眠っているような状態になって魂同士で会話をする。
鈴木太郎 40代:うだつの上がらないサラリーマンのお父さん。私、さん、ですます調。
自分の死んだ事に納得出来ず、三途の川を渡る、渡らないと「渡し」と揉めていた所、女1と知り合う。
「渡し」から特別に7日間だけ地上に戻る事を許される。
家族からも部下からも馬鹿にされる万年係長。
家族との記念日に轢かれる。(尚、家族は記念日である事を忘れている)
●女2 20代:鈴木太郎が勤める会社の派遣。霊感が強い
鈴木太郎にチカンから救って貰った事をきっかけに鈴木太郎に関心を寄せるようになる。
女1に鈴木太郎の魂が宿った事を信じ、思いを遂げさせてやろうとサポートする。
●鈴木太郎の家族:妻、子(複数可)など。
鈴木太郎を馬鹿にしている。
●女1の知り合い:女1の家族、女1の婚約者の家族、女1に恋心を描く男など。
女1が別人のようになってしまったのは、婚約者が死んでしまった為だと思っている。
三途の渡し:三途の川の渡し
先代の「三途の渡し」から川(霊)の管理を任される。
口が悪い。
●リプレイ本文
「何なのあんた! 遺産目当ての人? 親父は万年係長だったんだから、金なんかあるワケないじゃん。とっとと帰ってよ!」
家の前で押し問答している陽子とみく。
「『いや‥‥私は』」
どう説明したら良いのだろう? 自分が鈴木太郎だと。
自分だって、この状況にならなければ信じられない話である。
「私が説明しましょうか?」
困った太郎の代りに陽子が出て来る。
「いました! こっちです!」
どやどやとタクシーで鈴木の家の前に乗り付けた一団が降りて来る。
「なんで病院からいなくなったりしたの? もういなくなったりしないで!」と恵麻が陽子にしがみつく。
「よくこんな所まで動けたな。体の具合は大丈夫なのか? 早く病院に戻ろう」と遠野が陽子に言う。
「何、あんた知り合い?」
「お騒がせして申し訳ありません。私は彼女の上司で遠野と申します」
遠野は陽子が病院から抜け出して来たのだと告げる。
「錯乱しているようで御迷惑をお掛けしました」
「悲しんでる時にすぐ側に居れずに、すまなかった。お願いだからこんな悲しい事は二度としないでおくれ」
涙を流す剛鉄郎。
「‥‥お父さん」
ここで陽子に変わって太郎が出て来る。
「『私が判らないのか? 父さんだよ!』」
みくに頭を下げる遠野を余所に剛鉄郎に羽交い締めにされた陽子(太郎)が騒ぐ。
その時、トイレを借りていた麗菜が戻ってきた。
「鈴木係長‥‥?」
陽子の姿に太郎の姿が重なって見える麗菜。
「『稗田さん、私の事が判るんだね! 皆に説明してやってくれ、私が「鈴木太郎」だって言う事を!』」
「え???」
「『体は陽子さんのものだが、心は「鈴木太郎」なんだ!』」
「えっと‥」と麗菜。
「君は?」
「稗田って言います。彼女とはメル友で‥‥」
しらじらしい嘘である。
「『そう、そうなんだ! あ、いや、そうです。稗田さんとは前から知合いなんです。私、稗田さんの家に行こうと思っていたのに、なんでこんな所にいるのかしら?』」
よよっ‥と怪しい”しな”を作って倒れる陽子。
「こんな所にいないで早く病院に帰ろう」
「『え? わ、私は稗田さんに用事があるのよ』それにもう平気よ」
陽子と鈴木太郎が焦る。ここで病院に連れて戻されたら話にならない。
「そうなのか? まぁ、何ともないなら良いんだが‥‥」
「あの‥‥良かったら彼女をうちで預からせて頂く訳にはいきませんか?」と麗菜が言う。
「そう! それがいいわ。私、彼女の家に泊まるから安心して」
「それならあたしも彼女の家に泊まる!」と恵麻。
「そんな、恵麻迄いなくなったらパパは寂しくて死んでしまうよ」と剛鉄郎。
「安心して、何かあったらちゃんと電話するから」
みくは陽子を『変な人』だと思ったようだった。
「ったく。ああ言う奴って何処から沸いて出て来るんだから!」
怒って清め塩をまき散らすみく。
麗菜のアパートにやって着た陽子(太郎)と恵麻。
「『稗田さん、信じてくれてありがとう』」
がっちりと両手で手を握られ陽子(太郎)感謝される麗菜。
「私昔から霊感が強いって言われていて‥‥何だか貴女の言う事が信じられる気がします」と麗菜。
胡散臭気に麗菜と陽子を見比べる恵麻。
「それに鈴木係長には以前助けられた事がありますから、その恩返しです」
「『助けた‥‥稗田さんを?』」
太郎は忘れているようであったが、以前通勤電車で痴漢にあっているのを助けて貰っていたのだった。
「恵麻、私の中に『鈴木太郎』さんっていう人がいるのよ。賽の河原で知り合ったの。どうしてもやり残した事があるって体を貸しているの」
「こうしているといつものお姉ちゃんだよね」
恵麻の目の前にある珈琲に7杯砂糖が入っている。
「お姉ちゃんはそういう事しなかったし‥‥その『鈴木』さんって人がいるのを信じる」
太郎の足取りをまず追う事にしたが、太郎が轢かれたその日は平日であった。
ならばと太郎の会社に麗菜と共に出かける陽子と恵麻。
「古海課長です」と麗菜が紹介する。
「お時間を取らせて申し訳ありません。鈴木さんが亡くなったあの日、何か大事な物を無くされたとお聞きしまして家族に代わって探しています」
ぺこりと頭を下げる陽子。
「そうですか、大変ですな。あの日は‥‥そう、確か昼飯を食べた時に彼は『今日は「家族旅行の記念日」だ』と言っていたな」と古海。
「『家族旅行』ですか?」
「そう。お前らしい変わった記念日だと笑ったら『最初で最後』の家族旅行だからと言ったので、俺は家族旅行なんかはこの後も何度も行けるだろうと言ってやったんだが‥‥」
残念そうに溜息を吐く古海。
「鈴木さんは何処かに行くとか言っていませんでしたか?」
「そうだな‥‥あの日は帰りに写真展に寄ったはずだ」
「写真展?」
「なんでもたまたま街で見かけて、あの日が丁度最終日だからと写真を貰う約束をしたと言っていたな」
古海はそういうと一度奥に引っ込み、チラシを持って戻ってきた。
陽子にチラシを見せる古海。
「これ、おねえちゃんの個展だよ」と恵麻。
陽子がかけ出しの時に撮った家族写真を思い出す。
風景を撮りに来たが気に入った物が撮れず、偶然居合わせた家族の写真を撮った事がある。
「ひょっとして‥‥あのパネルの事?」
アパートに戻る陽子。
展示されていたパネルは展示期間を終え、画廊から戻って来たのだった。
「やっぱりないわ‥‥」
「鈴木さんがお姉ちゃんのパネルを持って帰ったとしたら‥‥でも普通だったら体と一緒に家族の所に戻っているはずだよね」と恵麻。
おそらく破損したか何処かに事故の際に飛ばされたのだろう。
アパートにはネガがある。ネガを焼き直すのは簡単だが――。
麗菜のアパートに戻る陽子と恵麻。
陽子の呼び掛けにも段々出現する事が難しくなっていた太郎だが、霊的環境が良いのか麗菜のアパートではきちんと受け答えができるのである。
『こちらにいる時間が長くなって来たので力が弱くなっているのかも知れませんね』でもちゃんと皆さんが頑張ってくれているのを見ていましたよ。と太郎は言う。
『でも、もういいです。パネルももうない様ですし‥‥』
「違うわ。鈴木さんが本当にしたかった事はパネルを見せる事じゃなかったのよ」と陽子。
「私もそう思います。なんで折角天がもう一度くれたチャンスをあなた自身でフイにしてどうするのです」と麗菜。
「写真は無くても鈴木さんの思い出を伝える事は出来るわ。御家族を直接思い出の場所に連れて行くのよ。きっと喜ぶわ」と陽子。
『しかし‥‥』
「これ以上は私達に出来る事ではないです。此処からは貴方が自身でしかできません」と太郎に言う麗菜。
『‥‥そうだな』
太郎は明日、みくに会うと約束する。
『この後、陽子さんはどうされるんですか?』
太郎が陽子に訪ねる。
『私と違って御家族は、陽子さんが戻って来た事を喜んでいます』
「そうね‥‥」
陽子はここにいない恋人(敦)に思いを馳せる。
『俺も俺にできることをしてくるから、お前もお前にできることをしっかりとやれよ?』
「彼はそういって飛行機に乗って行ったわ‥‥私はその言葉を信じて個展を頑張っていたけど、あの日‥‥」
(回想)
朝食の用意をしている陽子。
TVから敦の名前を聞いた気がして慌ててキッチンから戻って来る。
敦が死亡したと伝えるトピックスが流れる。
陽子は手に持っていた皿を落す。
床に散らばる破片。
場面が変わり、陽が傾いた薄暗い部屋。
床には散らばったままの朝食。
ぼんやりと座り込み、一点を見続ける陽子。
部屋には見る者がいないTVの音と電話の呼び出し音だけが響く。
「親に反抗して家を飛び出し、カメラマンで一人前って胸が張れるように頑張って来たけど‥‥彼を失って、なんだかそれまで張り詰めていた糸が切れた感じで‥‥何もかもどうでも良くなって、自殺しようとしたの」
苦笑する陽子。
「でも私を心配した恵麻が部屋を訪ねて来てくれて‥‥一命を取り留めたって訳よ。そんな時よ、鈴木さんと出会ったのは」
陽子の膝枕で眠る恵麻の髪を撫でる。
『‥‥なんで私に体を貸そうと思ったんですか? 貴方には戻って来たくない場所だったでしょう?』
「そうね‥‥きっと鈴木さんが一生懸命、クフィルに掛け合っていたからかしら? そこまでやりたい事ってなんだろうって‥‥鈴木さん、言っては何だけどそういうのに執着なさそうに見えたから。でも貴方と同じで諦めたくなかったのかも知れないわ」
微笑む陽子。
「‥‥‥さあ、もう寝ましょう。明日はみくさんを口説いてあの場所迄来てもらわなきゃいけないんだから」
「またあんたなの? 金なら無いって言ったじゃん!」とあからさまに嫌そうな顔をするみく。
朝から押し掛けてきた陽子達にぶつぶつと文句を言い乍らも、ついに折れたみく。
「あたし忙しいんだから、一寸だけだからね」
陽子が太郎である事は今だ信じられないようだが、ある場所に一緒に行く事だけは承諾する。
連れられて来たのは、海の見える草原。
「ここ‥‥前に見た事ある様な‥‥」とみく。
「確か子供の頃、一度だけ家族で旅行した時‥‥そうだよ、この場所だった気がする」
「『ここでみくは青い花を摘んだ。あんまり綺麗だから母さんにあげようって。でもその花が崖に生えていたと知った母さんは「危ない事をするな」とみくを怒ったんだよ。あんまり大きな声だったから、みくは驚いて泣いてしまったけど』」
驚いた表情で陽子を見つめるみく。
「‥‥そうだ。親父が青い花を取って来て、母さんが『なんで二人とも危ない事ばかりして』って‥‥何であんたがそんな事知ってるの? ‥‥まさか、本当に父さんなの?」
『親父』ではなく幼い頃呼んでいたようにみくの口から『父さん』と言う言葉が出る。
陽子(太郎)がにっこりと笑う。
みくの目に死んだはずの太郎の姿が見える。
――もう時間だ。
太郎は思った。
言いたい事は一杯あるが、口から出る言葉は思いの半分も伝わらない。
『ええっと‥‥旅行ももう行けなくなってしまったが、母さんとケンカはあんまりしないように。母さんだってもみくの事を心配しているんだから‥‥ああ、違う。父さんは、いつでもお前や母さんを大事に思っていた‥‥それを忘れないでくれ』
「あの時の旅行、凄く嬉しかった筈なのに。忘れててごめんね。父さんは覚えててくれたんだ。思い出したよ、父さんがいつも家族の為に一生懸命働いてくれていた事。有り難う。あたし、もう忘れないよ」
――陽子は体の中から鈴木太郎が消えて行くのが判った。
「陽子?」
陽子の後ろから声が掛かる。
聞き覚えのある声に慌てて振り返る陽子。
「敦‥‥うそ‥‥」
やつれ果てていたが死んだと思われていた恋人の敦である。
「どうしても一番に陽子に会いたくて。アパートに電話しても通じないから会社に電話して、実家の電話番号を教えてもらった。実家に電話したらココにいるって教えてくれた」
信じられない出来事に目を見張る陽子。
「‥‥心配させてゴメン。命からがら日本に帰って来たら、俺は死んでいた事になっていたんだな」
「すごく‥‥凄く‥悲しくって‥心配したんだから‥‥なんで早く戻って来なかったのよ‥‥」
「うん、ゴメン‥‥でも一生懸命戻って来たよ。俺がいなくなったらお前が泣くなから」
そう言って陽子を抱き締める敦。
「お前がいなくなったら俺も泣く‥‥もう離れない。結婚しよう」
敦の言葉に涙ぐむ陽子。
「お姉ちゃん、うちに帰ろう。パパもママも待ってるよ」と恵麻が言う。
「でも‥‥」
「お姉ちゃんが自殺を図って聞いた時、パパも凄く心配したんだよ。それに‥‥個展だってパパはこっそり見に行ったんだから」
陽子は吃驚したように目を見開く。
「本当?」
「お姉ちゃんのそんな笑顔を見たらパパだってきっと結婚だって反対しないわよ」と恵麻。
陽子に手を差し出す恵麻。
「家に帰ろう」
敦に促され、恵麻の手を取る陽子。
「そうね。家に帰りましょう」
陽子の体から出た鈴木太郎は気がつけば再び三途の川のほとり立っていた。
「現世は夢、夜の闇こそ真―――さあ、全てを忘れて零から再出発しよう。どうすればいいか、あんたはもう知っている筈だ」とクフィルは太郎に三途の川を指差し言った。
「この水を飲んだら、君の事も忘れてしまうのかな?」
「‥‥あんたの心配する事じゃないよ」
太郎の言葉にクフィルはびっくりした表情を浮かべる。
「そうか、忘れてしまうのか。じゃあ、忘れないうちにお礼を言っておかないとね。ありがとう‥‥」
太郎はそういうと川の水をすくい、飲む。
太郎の体は淡雪のように溶け、そこには1匹の魚が水面を揺らしているだけである。
すぅーっと魚は対岸に向かって泳いで行く。
「来世は、良い人生を――」
昼食に外に出た麗菜は、眩しそうに陽射しを見つめる。
同僚に呼ばれ慌てて走って行く麗菜の指に光る指輪。
陽子から送られて着た新しい写真ををそっと仏壇に添えるみく。
庭には向日葵が夏の陽射しの中で輝いていた。
●CAST
岬 陽子‥‥豊浦 まつり(fa4123)
稗田麗菜‥‥稲川ジュンコ(fa2989)
鈴木みく‥‥姫乃 唯(fa1463)
岬剛鉄郎‥‥犬神 一子(fa4044)
岬 恵麻‥‥榛原絢香(fa4823)
遠野 仁‥‥水沢 鷹弘(fa3831)
古海 脩‥‥マサイアス・アドゥーベ(fa3957)
多岐川敦‥‥榛原 瑛(fa5470)
クフィル‥‥ウィン・フレシェット(fa2029)