−ザ・DOG−外伝アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 有天
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 07/20〜07/24

●本文

●深夜ドラマ『潜入捜査官−ザ・DOG−』外伝「ゆかり」
 男はエアコンで冷えきった腕を照り返す暑い陽射しに伸ばす。
 部屋に籠ってパソコンの画面を見続けるのに飽きた男は、昼飯の為に公園に来たのだった。
(「‥‥‥暫く来ないうちに味付けが変わったな」)
 そんな事を考え乍らもう一口弁当を頬張る。
 薄い水色のワンピースを着て走って来た少女が男の目の前で転ぶ。
 少女は膝を擦りむいた痛みに顔をしかめるが声をあげない。
 転んだはずみにに男の足下に飛んで来た煤けた青い熊のぬいぐるみを男は拾い、少女に差し出す。
 少女は怯えたように男を見つめ乍らも差し出されたぬいぐるみを受取る。
 離ればなれになってしまった半身を抱き締めるように強くぎゅっ。と抱き締める。
「待て、血が出ている」
 再び駆け出そうとする少女を止める男。
 ごそごそとズボンのポッケを探るとかわいらしいうさぎの絵が付いたピンクの絆創膏を取り出す。
 先程、書類で手を切った際に派遣の女性から貰った物だった。
 裏紙を剥がし、少女の膝に絆創膏を張る男。
「よし、泣かずに良く頑張ったな」
 少女の頭を撫でる男。
 少女は笑顔を浮かべる。
「ああ、スミマセン!」
 何処かの施設の職員らしい女が駆けて来る。
「ありがとうございます。この子、目を話すとすぐどこかに行ってしまって‥‥」
「名前は?」
 男はなんの気なしに尋ねる。
「‥‥‥名前は判らないんです」
 少女は保護された時、身元が判る者を持っておらず、保護されて以来全く口を開かないのだと言う。
 うちの施設では「海ちゃん」って呼んでいますけど。と女は困ったように笑う。
「大きな手術痕があるので警察が調べているんですけど身元が判らなくって‥‥」
 少女はじっと男を見つめている。
「そうか‥‥早くパパとママに会えると良いな」
 男は女に手を引かれ公園を後にする少女の後ろ姿を見送る。
 少女の髪を撫でた手を‥‥子供の髪の感触を懐かしむように見つめる男。

 翌日、男は再び公園に来ていた。
(「来るとは限らないのに‥‥‥」)
 男は苦笑を浮かべる。
 何処かで見張っていたのだろうか?
 男がベンチに座ると何処からともなく「海」がやって来た。
 海は黙ったまま、ずい。っと男に手を差しだす。
 ピンクと水色のキャンディーが握られていた。
「俺に?」
 頷く海。
 施設にいる海がお菓子を気軽に貰える訳でもなく、オヤツを我慢して男の為に持って来たのだろう。
 海が握って来たからなのか、それとも気温の為なのかベトベトになっていたが男は気にした様子もなく一つ受取り、口に放り込む。それを見た海が残った一つを口に放り込む。

 ――男は昼、海と会う楽しみが出来た。
 陽に焼けた自分等、何年ぶりだろう。日焼けした己の腕を見て笑う男。
 そしてこんな安らいだ気持ちになる等‥‥‥。

 公園に遊びに来ていた海を施設に送りに行ったある日、男は再び牙を振う日が来たのを思い知らされる。
「逃げて‥‥早く‥‥」
 血を流し、床に倒れる職員の女が必死に言う。
 施設の奥からは悲鳴が聞こえ、外国語を話す男の声が聞こえる。
 海を抱きかかえるように逃げる男。

 男は海を自宅に連れて帰り、匿う。
(「あの男何処かで‥‥」)
 ちらりと奥から見えた男の姿を思い出し、男はデータベースを探る。
 警察の手配中の外国人リストに該当を見つける男。
「宝石商の強盗殺人犯の一味か‥‥‥まてよ?」
 男は関連記事を探る。
「海ちゃん、君は‥‥‥ゆかりちゃんって言うんだね」
 施設を襲った男が関わる殺人強盗事件の6時間後10km離れた所で発見されたとある一家の皆殺し事件。警察は強盗殺人の現場にたまたま居合わせたゆかりの家族が目撃者として拉致され、口封じに殺されたと見ている。その唯一の生き残りがゆかりであると言う。
 だが男の家から離れた祖母の家に引き取られたと記事は結んでいる。
 続けて調べる男はゆかりの祖母の家と思われる家が放火により全焼し、主である老女もまた殺害されたという。
「幼い孫は行方不明‥‥‥」
 ゆかりをまるで追い求めるように、外国人強盗団は次々に殺人を犯す。
 男は机に置いてある写真立てを振り返る。
 男と幼い男の娘が笑う姿が写る。
 独り生き残った時、何故だと世界を恨み。闇に潜む悪を狩れればと『犬』の道を選んだ。
 だが‥‥‥。

 司法の犬である限り、狩れぬ悪がある事実に打ちのめされていた。
 男にあの男は言った。

『――時を待て』と、
『闇に潜み。再び牙を振う迄待て』と――。

 実際、総纏達の潰し合いは、闇に身を隠した男の耳にも入って来る。
「政界に出るって聞いたが‥‥」
「2度刺されて‥‥3度生き長らえたなら次は国の為になれと言う。まあ、私の場合は司法にも明るい。刑法の見直しは政府の課題の一つだからね」
 嘗て男の上に立っていた『犬飼』であった男(橘 正三)が言う。
「あなたが『総纏』になるのか?」
「どうかな? 今はそのつもりがないが‥‥政治家になるのも悪くない等『犬飼』になったばかりの私には思いつかない事だったからね‥‥」
 男に父親の命乞いをした女は男をサングラス越しに睨み付けているのが判る。
「何にせよ。君には借りが出来たな‥‥」
 男の前に短銃を置く正三。
「気に入らないだろうが‥‥イザと言う時に使いたまえ。私は不屈のヒーローとして今はマスコミに守られている。だが君は一般人だ。件の件もある君の命を狙う者も出て来るだろう」
 渋る男に短銃を押し付けていった――。

 男は少女を守る事ができるか?


●製作ノートより −概要−
 犯罪組織撲滅の為にだけ組織されている司法の犬たち。
 元死刑囚や犯罪組織に肉親を殺された家族たち等で構成されている潜入捜査官。
 警察機構に属さず、逮捕権等一切ない『非合法』の組織。

●用語
「犬(DOG)」潜入官、サポーター、リーダーによって構成される実働潜入捜査チーム(部隊)。
「犬飼(ブリーダー)」複数の犬チームを纏める人物。複数いる。
「総纏(そうまとめ)」非合法な組織「犬」の最上層部、公安や警察、閣僚経験者や経済界等良識者多数(円卓)で構成される。
 現在、内部抗争により犬組織全体が活動停止中である。

●登場人物解説
 男‥‥元犬メンバー。犬の守る『正義』は『人』の為にある。と考える人物。

 ゆかり(外見10才前後)‥‥外国人強盗団が宝石商を襲った際、偶然家族と居合わせた少女。
  その際、強盗団の盗品を拾ったらしい。らしいというのは少女が度重なる殺人に遭遇した為、心的ショックにより口が聞けなくなっている為。いつも青い熊のぬいぐるみを持っている。

 外国人強盗団‥‥私利私欲の為に組織内で勢力拡大を計画した総纏(処分済)により日本国内に入り込んだ海外シンジケート。ゆかりが拾った盗品を取り戻すべく、ゆかりをつけ狙う。行動は残虐にして残忍。

●今回の参加者

 fa1414 伊達 斎(30歳・♂・獅子)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa5054 伏竜(25歳・♂・竜)
 fa5256 バッカス和木田(52歳・♂・蝙蝠)
 fa5541 白楽鈴(25歳・♀・狐)
 fa5559 黒羽ほのか(20歳・♀・鴉)
 fa5627 鬼門彩華(16歳・♀・鷹)
 fa5629 式部さやか(17歳・♀・猫)
 fa5719 相麻静間(8歳・♂・獅子)

●リプレイ本文

●CAST
 篠塚弘毅‥‥‥伊達 斎(fa1414)
 田上慶次‥‥‥伏竜(fa5054)
 鴎木正克‥‥‥バッカス和木田(fa5256)

 高田円‥‥‥‥白楽鈴(fa5541)

 香川ゆり子‥‥草壁 蛍(fa3072)

 ロバート‥‥‥マサイアス・アドゥーベ(fa3957)

 鴉宮‥‥‥‥‥黒羽ほのか(fa5559)
 ミケ‥‥‥‥‥式部さやか(fa5629)
 銀猫‥‥‥‥‥相麻静間(fa5719)
 鬼門‥‥‥‥‥鬼門彩華(fa5627)


●闇に見初められたもの
「そう‥‥ゆかりちゃんって言うの」
 ソファーに眠るゆかりの髪を撫でる円、弘毅の部屋である。
 円が生き残ったのは偶然である。

「海ちゃん?」
 施設の入り口でゆかりを抱きかかえた弘毅とぶつかりそうになる円、遅い昼食を買いから帰ってきた所である。
「ちょっと海ちゃんをどうするつもり?!」
「馬鹿、逃げろ!」
「え?」
 入り口から返り血を浴た男が現れ、弘毅達の姿を見て何かを叫ぶ。
「いいから早く!」
 弘毅に手を引かれ、訳のわからぬまま走って逃げる円。
 その後姿を見つめる鬼門は忌々しげに部下達に命じた。
「The child escaped. Murder the men whom there was together」

「警察には行かないんですか?」
 円が弘毅に尋ねる。
「そうだな、いい手だ」
 円の言うように警察に預けるのは簡単だ。だが彼女から警察の目が離れた途端、再び襲われる可能性が高かった。
 ゆかりは祖母の家から逃げ出し街を彷徨っている所を保護され、施設に預けれていたのである。
 彼らは警察でも判明しなかったゆかりの所在を探し出し襲ったのだ。
(「単なる強盗団ではないのかもしれない‥‥」)
 分の悪い戦いだった。
 弘毅は円に言った。
「この場所からも大至急移動しよう」


●異邦人
(「‥‥一体いつまでケチな悪事の片棒を担いでいればいいのか」)
 天井に上がる紫煙を見つめながら慶次は思った。
 正克配下の犬飼指示により盗品ブローカーに潜入していた慶次は、正克の兄、鴎木憲正の死亡と同時に正克の失脚を知り愕然とした一人である。
 慶次は盗品のブローカーとして組織内部で地位を築き、情報を集めていた最中であった。
 犬組織が内部分裂を起こし捜査が頓挫したからと言って「はい、そうですか」と単純に組織を抜けるにもいかず、ずるずると現在もブローカーの仕事を続けていた。
 そんな矢先、正克より呼び出しが掛かってきた。

 香川ゆり子は、上司に言われ成田に客人、国際捜査官のロバートを迎えに来てた。
(「どうせならもっとドラマに出てくるような若いイケメン捜査官が良かったのに‥‥」)
 公安の仕事は楽しいが、ぼちぼち女の幸せ(婚期)が気になるお年頃である。
 警察学校に入った彼女を除く女性の同期は寿退社を迎えている。
「多国籍犯罪シンジケートか‥‥逮捕しがいがある外道よね。うふふっ」
 外道連中をブタ箱に放り込むシーンを想像し、ゾクゾクとする感覚に舌舐めずりをしたくなる。
 ロバートの姿を見つけ、ゆり子は声を掛けた。
「Mr.ロバート、You’re Welcome.公安の香川です。滞在中のアシスタントをさせて頂きます」
 ロバートに敬礼をするゆり子。
「そちらからの資料は見させて貰った。こちらが追っている組織で間違いないだろう」
「Mr.が飛行機に乗っていらっしゃった間に起こった事件です。公安ではこの事件も同一犯と考えています。現在、関係各所に広域手配を掛け検問をしていますが、ヒットはありません。尚、報道関係には報道管制を敷いていますが‥‥」
 ゆかりいた施設が襲われた事件資料を提示するゆり子。
「報道管制?」
「はい、この日本で大規模の外国人犯罪組織が大手を振っている等は国民に刺激が強すぎますからね」
 資料の頁を捲るロバート。
「‥‥確かに手口は似ているな」
 強盗団が少女を追いかけているのは確かであろう。
 だが、その理由はなんであろうか?
(「顔を見られた口封じにしては、リスクも手間も掛けすぎている。やつらが少女を追いかけている理由は何だ?」)
 ロバートはゆり子が回してきた車に乗り込み、こう言った。
「襲われた施設が見たい」

 ギャッ!
 ドアのノブを掴んだ男が鈍い悲鳴を上げる。
「あははっ、迂闊だなぁ。追いかけている相手から反撃されるとか思っていないんだ」
 小学生のような顔をした少年(銀猫)があからさまに馬鹿にしたような様子で笑う。
「銀猫‥‥誰もが貴方や黒猫のようには出来ませんよ」とミケが言う。
 ふん。と鼻で笑う銀猫。
「思ったより逃げ足が早いな。兄さんが手を焼いた『犬』とかって‥‥いう奴かな?」
 さあ? とミケが言う。
 自分の上司である黒猫が「犬」という組織に対峙した時、彼女はそこにいなかった。
 知らないものは、幾ら黒猫の実弟である銀猫相手でもいい加減な事は言いたくなかった。


●賽を振るう者
 正克は仕事に忙殺されていた。
 兄、鴎木憲正と共に『総纏』を勤めていたが、兄、鴎木憲正は先日の円卓の内部抗争により処分されていた。
 正克は先の事件を受け法曹界を退陣、総纏も謹慎中の立場である。
 正克にとって兄、鴎木憲正の「近未来の犯罪の凶悪化と警察機構の無力化に対する懸念」と言う理想に感銘し、共に総纏を勤めていたが兄、鴎木憲正の理想は途中で歪んでしまった。
「頻発する凶悪犯罪を裁き抑制するのは、同じ武力と組織力をもつ統制化された闇の自警システムが必要です。次世代の犬を組織するしかありません。そのためなら、毒を以って毒を制すことも厭いませんよ」
「兄さんの気持ちは判ります。犬の限界、司法の壁‥‥しかし凶悪犯罪に立ち向かうのは、それでもやはり『人』なのです」
 兄、鴎木憲正は武力確保のために資産隠しや犯罪隠蔽を、挙句、国外シンジケートとの癒着を行い、粛清対象となったのだ。
 正克にとっては大事な肉親であるが、司法を陰から支える円卓の総纏として「狼」を兄、鴎木憲正に差し向ける事を決めたのは、紛れもない正克、自身なのである。

 そして正克は兄、鴎木憲正の置き土産たるシンジケート直下の強盗団に動きに注目していた。
 本来であれば「犬飼」を使って実働部隊である「犬」を差し向ける所であったが正克は立場上、沈黙を守るしかない。
 多県に渡る大胆且つ残忍な強盗団の動きに対し、警察も緊急配備を敷き、公安も動いていたが常に後手に回る。
 正克は地方版の小さな保護施設での出火を伝える記事を見つめ、溜息を吐く。
 現在の所、マスコミも報道管制の結果、一連の強盗団との関連を報道できないでいる。
 保育士や園長を始めとする多数が死傷し、挙句証拠隠滅と時間稼ぎの放火である。
 重体ながらも一命を取り留めた者もいるが、死者の数が半端ではなかった。
 時間が経過すれば、もっと死者の数は増えるだろう。
「兄さん、これが貴方のしたかった事ですか‥‥」
 偶然であるが、正克が謹慎を申し出る前に調査指示をした盗品ブローカー組織に未だ「潜入官(顎)」がいる。
 嘗て正克が「犬飼」の立場であった際、彼がピックアップした腕優りの「犬」である。
 彼ならば、眠った牙をも悪の喉元に喰らい付かせられるだろう。

「兄の招いた災いは、僕が刈らねばなりません」
 正克は窓に体を向けたまま、後ろに立つ慶次に指示を出す。
「僕は隠匿中の身ですが、それでも色々な情報が入ってきます。件の強盗団は公安と国際警察捜査官が追ってはいますが、警察DBに侵入したと思われる篠塚弘毅の残した臭いを追い、君の集めた宝物と共に狩人に渡しなさい」
 静かに慶次が出いく気配。
「司法は国を超えても悪に勝たねばなりません‥‥‥これで貴方との『貸し借り』なしです」
 応接椅子に座る正三が笑ったような気がする。
 正克の見つめる先、窓の外、ビルの間から国会議事堂が見えた。


●影
 弘毅は円とゆかりを連れ、都内を転々と逃げ回っていた。
 インターネットカフェなどから公安や警察のDBに足跡を残していく。
 警察は動いているのであろうか?
 嘗て部下であった犬メンバーと連絡を取れる状況ではなかった。
 弘毅は正三のパスコードを使用しての犬組織のサーバーにアクセスは失敗している。
 正三にゆかりを託すことも考えたが、正三が弘毅に短銃を渡した経緯を考えればアテには出来ない。
(「自分の身は、自分で守れか‥‥」)
 自分一人ならば幾らでも出来るだろう。だが‥‥ゆかりを振り返る。
 だからといって見捨てる事は弘毅に出来なかった。
(「一人で何処まで出来るか、だ」)
 自らを囮にしながら敵と味方(この場合の警察を味方と言っていいのか不安は残るが)を同時に呼び出す。
 タイミングを間違えれば、命を失うだろう。

(「やれやれ、だな」)
 慶次は悩んでいた。
 ブローカー組織を摘発できるだけの証拠はすでに充分集めてある。
 正克の立場を考えれば、現在自分が潜入しているブローカー共々強盗団の逮捕が望ましいだろう。
 自分の属する闇ブローカーネットワークと件の強盗団は取引があり、上手く立ち回って担当者になる事が出来た。
 現在、強盗団から入手した情報によればゆかりは盗品の一部を所有しているとの事である。
「一番大きい石は単石しても1億か‥‥そりゃあ、皆殺しにしても取り戻したいだろうな」
 情報屋からはロバートという国際捜査官が来日しているのは掴んでいる。
「手がかりになりそうなものをうまく押しつけてみることにするか‥‥司法取引とか言ったら引っかかるか?」
 シンジケート全体に手は届かないかもしれないが、それは慶次の手に余る問題である。
「まあ、橘の『犬』がどれだけ動いてくれるかだが‥‥いずれにせよ、そこから先は俺の知った事じゃないしな」

 公安から齎された情報、司法取引を持ちかけてきたブローカーの話やDBに対するハッキングの報告を受けるロバート。
「ふん、気に入らないな‥‥それもこれしか今の所一番の方法がない所が、特にだ」
 不快さに鼻に皺を寄せるロバートであった。

 実際、その方法は上手くいった。
 小さな犠牲を払ってだが。
「銃口から逃れる事はできない。引き金を引いていたら、お前は、すでに死んでいる」
 鴉宮は銃口を向けたまま弘毅をあざ笑った。
「子供を渡して貰おう‥‥いや、このまま纏めて処分しまえば簡単か」
「篠塚さん、逃げてください!」
 影に隠れていた円が箒を振り回し、鴉宮を殴りかかる。
 短い舌打ちの後、乾いた銃声が響き、円の胸に赤い染みが広がっていく。
 ゆかりの甲高い悲鳴。
 鴉宮はゆかりに照準をあわせる。
「動くと撃つ」
 正三に託された短銃を鴉宮に向ける弘毅。
「銃口が揺れているぞ。‥‥お前、人を撃ったことがないな。人を撃ったことがないお前に私を撃てるか?」
 鴉宮は弘毅に照準を変え、膝を打ち抜く。
「子供が死ぬ姿を見て、後悔しながら死んでいけ」
 鴉宮が叫び続けるゆかりの頭に銃口を当てる。
「やめろぉぉーーーーっ!」
 響く銃声。


●新たなる時代
 弘毅の手の中で短銃が跳ねる。
 歪んだ微笑を浮かべた鴉宮の体が、どぅと倒れる。
「銃口を向けた時は躊躇わず引き金を引く方がいい場合もあります」
 聞きなれた声に首を巡らせる弘毅。
 正三の娘であり『鳩』の公子が短銃を構えたまま立っていた。
 顔面蒼白の弘毅から短銃を取り上げる。
「‥俺が‥殺したのか‥‥」
 答えぬ公子。
 ゆかりが弘毅に飛びつき泣きじゃくる。
 死体を確認した公子は、ゆかりの落としたぬいぐるみの中を探る。
 大粒のダイヤがちりばめられたネックレスが出てくる。
 公子はそれを持ち円に近づく。
「貴方と取引がしたい。報酬は彼女の命‥‥貴方は彼女が拾った盗品を持ち、逃げた」
 公子の言葉に目を見開く弘毅。
「はと、鳩がそんな事をしていいのか?!」
「ここにいるのは、ただの『狼』よ。鳩では守れない‥‥だから私は牙を手に入れた」
 言葉を続ける公子。
「もうじき警察が来ます。ここで強盗団の一人が盗品を盗んだ女と取引をするという情報を得たから。女に対する詳細は流れていません‥‥このまま彼女が関係していた。という事になれば、彼らはこの後も彼女を狙うでしょう」
 円の目が泳ぐ。
「‥‥ゆかり‥ちゃん‥に‥‥は‥篠塚‥さん‥が‥‥必要だ‥と‥‥思います。行って‥‥下さ‥い」
 血溜まりの中、息も絶え絶え円が言う。
 もう円が助からない事が弘毅にも判る。
「取引は成立ですね」
 公子はネックレスを地面に置き、円に短銃を握らせるとそのまま上に向かって引き金を引いた。

 ロバートは今回の結果に納得がいっていなかったが盗品は戻り、強盗団の一味は逮捕に至った。
 質問するロバートに公安幹部から帰ってきた答えは「You neednt to know」の一言であった。
「ふん、自国の捜査官ではないわしには教えられぬという事か」
 ロバートは今、空港にいる。
 経緯はともあれロバートが日本にいる理由はなくなったのである。
 ロバートの脚に青い熊のぬいぐるみを抱き抱えた少女がぶつかる。
「ちゃんと前を見て。それに空港内は走らない」
 そう言ってぬいぐるみを拾い、少女に渡すロバート。
 少女はぺこりと頭を下げると、父親らしいサングラスを掛けた男の方に駆けていった。