花妖アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 若月瑠乃
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 0.8万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/11〜02/14

●本文

 ある国に、中々結婚しない王が居た。
 どうにか后を迎える気にならないかと、大臣は国一番と評判の魔法使いに相談した。
「その種を大事に育てると良いでしょう。ただし、決して花を絶やさぬ様に・・・・」
 渡された種を持ち帰った大臣は、城の庭で育てる事にした。

 それから程なく、王に縁談が持ち上がった。
 今迄は全て話を耳にしただけで断っていた王が、今回は相手に会っても良いとの返事。
 顔を合わせた王は余程気に入ったのか、トントン拍子に話は進み婚礼を挙げる事となる。
 翌年には二人の間には王子が生まれ、大臣は息を撫で下ろした。

 更に十数年後、その王子も成人し、隣国から花嫁を迎え入れる事となった。
 ところが式の時刻近くになって、王子の従者が血相を変えて大臣の元に駆け込んできた。
「王子の姿が見えないのですが」
「判った、王の元へは私が知らせよう。この事は内密に」
「承知しました」

 従者が居なくなった後、不意に背後から声がした。
「約束を破ったからですよ、花を絶やさぬ様にと言った筈なのに」
 その言葉に振り返った大臣が目にした物は、式場にいる筈の后であった。
 あれを御覧なさいと、窓の外を指差す。
 窓の向こうには教会に向かう花嫁の頭上に、見事な花冠を載せようとする従者の姿が見える。
 手の中に見覚えのある花が・・・・あれは、貰った種から咲かせた花!
「約束が破られた以上は、それなりに罰を受けて頂かなければ」

■花は色々あれども・・・・
「花の博覧会場での会期中上演ねぇ。で、肝心の花は何?」
「まだ決まってないです。どんな花が良いかなと思いまして」
「博覧会に並んである物なら、出展スポンサーが提供してくれるな」
「大臣に与えた罰も、花と一緒で迷っている最中です」
 脚本家とプロデューサーは台本を隅々まで検討した結果、役者が選んだ花とアイデアによって期間中の演出とエンディングを考えようという結論に至った。

<募集>
・大臣
・后(魔法使い)
・王
・王子
・隣国の姫
・従者(若干名)

※留意点
 花は種からとありますが、両手で持ち運び出来る程度の鉢植えまでの大きさなら、どのような物でも構いません。花を付ける植木でもOKです。
 ただし、枝をハサミで切る事が出来ない枝の物はNGです。

●今回の参加者

 fa0095 エルヴィア(22歳・♀・一角獣)
 fa0769 凜音(22歳・♀・一角獣)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa1609 七瀬・瀬名(18歳・♀・猫)
 fa1683 久遠(27歳・♂・狐)
 fa2044 蘇芳蒼緋(23歳・♂・一角獣)
 fa2684 藤元 珠貴(22歳・♀・狐)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

 舞台中央、スポットライトが差す先には、二人の男が縦横に歩き回っている。王(久遠(fa1683))と大臣(蘇芳蒼緋(fa2044))だ。王はどこか人事のような顔で、のらりくらりと大臣と視線を合わせないようにしている様子が伺える。その王の後を付いて回る大臣、二人のその姿はまるでかるがもの親子の様だ。
「王、一体何時になったらお后様をお迎えに? このまま独身と言う訳にもいかないのですよ」
「私も何も考えていない訳ではないぞ、気が乗らないのは確かだが。今はそれよりも他にすべき事が沢山あるだろう、政優先だ」
「ご結婚も政の一部ですよ! ‥‥その関心をもう少し、お后様の事に向けて下さいませ」
 大臣は心底疲れ果てた顔で、王に嫌味を一刺し。
「まぁ、魔法でも掛けない限り無理じゃないか?」
 ニヤニヤと笑いながら返って来た王の返事に、がっくりと肩を落としながら舞台右に向け退出する大臣。
「ふむ、冗談も少し度が過ぎたか‥‥」

 中央のライトが大臣を追い、右端のライトがフェードイン。
 城を飛び出し町中をさ迷い歩いた大臣の前に小さな小屋が見えた。どうやらいつの間にか町外れまで足を向けていた様だ。怪しげなフード姿の女が戸口にランプを掲げようとしている。
「こんな夜分にどうかなさいましたの? とてもやつれて‥‥‥悩み事でもある様な顔ですわ。良ければ私に話して下さいません?」
 小屋の前を通り過ぎようとした大臣に声をかけるのは、魔法使い(エルヴィア(fa0095))。
「‥‥話しても良い物か?」
「悩みを抱え込んで苦しむよりは、吐き出した方が良いかと」
「実は‥‥我が主君は結婚に全く興味が無い故、血筋が絶えるかも知れん。それで魔法を掛ければその気になるのではと思い、魔法使いとやらを探している最中なのだ」
「まぁ、そうでしたの。それでしたら私がお役に立てるかも知れませんわ。少し待っていらして」
 彼女は小屋の中へ姿を消し、その手に小さな袋を持って戻ってきた。
「この花の種をお持ちになると良いわ。大事に育てると良いでしょう。‥‥ただし、決して花は絶やさぬ様に」
「‥‥恩に着る。早速帰って蒔くとしよう」
 大臣はその手に種の入った袋を受け取ると、踵を返して城に戻り庭園の片隅に種を蒔いた。
「この花が咲けば、わが国にとっては希望の種と言っても過言ではないだろうな‥‥」

 それから程無く、王に縁談が舞い込む。
「いつもの様にまたお断りなさいますか? 断れば私の悩みが増えるだけですが」
 苦々しくチクリと嫌味を投げる大臣に、王の返答は意外な物であった。
「その話なのだが、一度会ってみようかと思ってな。手配は出来るか?」
 いつもと違う返事が帰って来た為、あっけに取られて絶句。
「そんなに変か? とにかくその間抜け面を直して手配してくれ」
「かっ、畏まりました!」
 慌てて手配する最中、何か白い物が大臣の目に入った。貰った種から大輪の白い花が咲いたのだ。
 その後行われた王と縁談相手の娘との顔合わせは、かなり上手く行った様子。取り立てて美しいと言う訳ではなかったが、庭園を案内した時に花々を愛でる姿が王の眼鏡に適ったらしい。
「それで、如何なさいますか? 是非感想をお聞かせ頂きたいものです」
「あの娘なら后に迎えても良いと思うぞ。気立ても悪くない」
 暗転、そして舞台中央の大臣に合わせてピンライト。
 娶らずを貫いていた王が后を迎える、これほど国中が祝福の声で埋め尽くされる事があっただろうか。婚礼の翌年には二人の間に王子が生まれたが、世継ぎが生まれた事で婚礼の時以上に祝福の声で溢れかえった。その様子に心底安堵したのは大臣であろう。
「全てはあの花か‥‥本当に我が国の希望の種となったな。後は絶やさぬ様にしなければ」

 十数年後王子(豊城 胡都(fa2778))も成人し、隣国の姫(凜音(fa0769))と婚礼を挙げる事となった。
「明日式が終われば、この国も安泰ですな」
「后を迎える前はこのような日が来るとは想像出来なかった」
 庭園を部屋から眺める王と大臣から、花の世話をする后の姿が見える。そこに姫と従者(七瀬・瀬名(fa1609))を案内している王子と王子の従者(藤元 珠貴(fa2684))の姿が現れた。あれこれと質問しているのだろうか、庭園のあちらこちらを歩きながら談笑している様だ。
 夜が明け式の当日、国中が祝福に包まれ城の中まで城下から湧き上がる歓声が聞こえる。
 大臣が式場に向かう支度をしていると、城内が騒がしくなったのか大きな足音が聞こえ始めた。バタンと大きな音を立てて王子の従者が血相を変えて駆け込んで来る。
「たっ、大変です! 王子が、王子の姿が何処にも見当たりません!」
「何だと? 式までもう時間が無いではないか」
「式場に入って頂く為にお迎えに上がった所、何処にもいらっしゃらないので直ぐにご報告に参った次第です」
「王とお后にはこの事を伝えたのか?」
「既にお二人は式場に入っていらっしゃいますのでまだ‥‥」
「私が直接伝える故、お前達は引き続き王子の居場所を探せ! くれぐれも内密に頼むぞ」
「承知致しました」
 王子を探す為に従者が部屋を後にした直後、不意に背後から女の声がした。
「約束を破ったからですよ‥‥けして花を絶やさぬ様にと言ったのに」
「誰だ?」
 振り返った場所に居たのは式場に居る筈の后。あそこを御覧なさいとばかりに、彼女は窓の外を指差す。その先には庭園を通り教会に向かう花嫁。
「姫様、これをどうぞ。私が作ったんですよ。」
 従者(美森翡翠(fa1521))が姫の頭上に見事な花冠を載せようとしている。手の中にある花には見覚えがある‥‥あれは彼が貰った種が咲かせた花!
「約束が破られたからには、それなりの罰を受けて頂かなければ。」

暗転。

 式の時刻になっても現れない王子と后が姿を消した事は、それから間もなく王や姫に知れる事となった。大臣自身も部屋で気を失っている所を従者達に発見された為だ。
「一体何があった? 二人が姿を消した事と無関係ではあるまい」
 王の問いかけに大臣は全て包み隠さず打ち明けた。姫は花冠を戴いた事が失踪の原因と知り、悲しみの余り倒れてしまった。
 小屋に向かった従者が持ってきた知らせは、余りにも僅かな物だった。
「小屋はありましたが中に残されていたのはテーブルの上にあったこの日記帳だけです」
「読め」
「あの種は毒を糧に花を咲かす。その花の魔力で私もあの大臣も望みを叶える事が出来た。しかしその魔力が尽きた時、全てを失うのが恐ろしい。今の状況は魔法で手に入れた偽りだから。‥‥ここで終わっていますね、日付はごく最近です。花の名前は孔雀草、マリーゴールドと書いてありました」
「そんな‥‥罰ならば原因を作った私に下せば良いだろうに。王よ、かの花を探しに向かうお許しを頂きたい」
「そこまで言うなら行くがいい」
 大臣は手がかりを求め国中駆けずり回った。そして何も手がかりが掴めないままに終わるかと思われた時、従者達が大きな手がかりと思われる話を持ってきた。
「あの小屋の近所の森なら咲いているのではないかと」
「あの森は奥に毒沼があるらしいんです」
「毒を糧と言う事は、土に毒が無ければ咲かないと言う事ですよね? あの花が咲いて居た場所に何度か花を植えたけど、根付かないからもしかしてと思いましたの」
「そこまで考えたことは無かったな‥‥御苦労、直ぐにでも向かうとしよう」

 大臣は王子の従者を供とし森に向かった。話に聞いたとおり森は深くようやく辿り着いた時には、森に入ってから1週間は過ぎていた。
「大臣様、あれ! あそこに咲いている花じゃないですか?」
「見つけた‥‥」
 そこには孔雀草が沢山咲き誇っていた。
「向こうに見えるのはもしかして‥‥お后様? 王子も傍にいらっしゃる様だ!」
 慌てて二人を保護し花を根ごと城に持ち帰ると、王が心配の余りに大臣の後を追いかけようと城を出る所であった。

 二人が戻った事で婚礼はし切り直しとなった。王子が戻ってきた事で、姫もすっかり元気を取り戻す。
 再び婚礼を間近に控えてに城が沸き立つ頃、王は后に真意を問いただしていた。
「何故、姿を消さねばならなかったのだ? 日記に書いていた事がその理由なのか?」
「その通りよ‥‥私は魔法使い故に常に影の世界で暮らしてきたわ。貴方は国王、日の当たる場所でお暮らしになる方。だけど、普通なら私など貴方の傍に居る事など出来る筈もないもの」
「では始めから‥‥」
「全ては貴方に近づく為‥‥でも、やっぱり私には人に恋する資格なんてなかったのかもしれないわね。魔法で恋をさせるなんて‥‥卑怯だもの。王子と姫の二人が、羨ましいわ」
「しかし、あの花が摘まれた時点で魔法は消えているのであろう?」
「ええ、花が絶えた時点で私の力も‥‥」
「ならば、私の気持ちは説明が付かないぞ。もしその話が本当なら、魔法が切れた時点で愛情は消えうせている筈。しかし、今も変わらず貴方を愛していると言う事は?」
「元々魔法など関係なかったと言う事じゃないですか? お二人とも、さっさと式場に向かって下さいよ。婚礼と兼ねてお后様の帰還祝いも兼ねているんですからね」
 大臣に先導され式場に姿を表した王と王妃を、王子と姫を始めとする参列者達から祝福の声が上がる。
「母上、もう父上を困らせてはダメですよ」
 式場一杯に溢れかえる歓声に包まれながら、幸せそうに寄り添う二人。
 ライトがフェードアウトしていき・・・・幕。