森の音楽会アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
若月瑠乃
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/08〜03/11
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●本文
「何だこれっ!?」
スタジオに入るとティッシュの山が‥‥ゴミ箱からも溢れ出している。
「不覚だわぁ‥‥今迄発症してなかったのに急に発症するなんて最悪よぅ」
鼻の周りを真っ赤に染めてティッシュの箱を抱え込んでいる者も数人いる様だ。
「葉山‥‥もしかして、花粉症?」
「そうみたい。風邪かと思って医者に行ったら花粉症ですね、だって」
「どーすんだよ! これじゃあ公演出来ねぇじゃないか!」
「鼻詰まらせてクシャミしながらコーラスする訳に行かないじゃん! 全員これでも注射でマシになったんだからねっ!」
「ちょっと待ていっ! マシになってこの状態なのか?」
「このゴミ箱の状態見たら判りそうなもんでしょ? 皆川は罹ってないから関係ないかもしんないけ‥‥っふぁ‥‥この状態で出ろって言えないわよ‥‥っくしょい!」
壁には1枚のポスターが。「第×回母と子のふれあいコンサート〜森林浴と音楽の夕べ〜」と書かれてある。どうやら観客参加型の野外コンサートの様だ。
「とりあえず、コーラスメンバーだけ探してよ。あたしは伴奏だから注射で何と‥‥っくしゅっ!」
「あいつら出ないつもりかよっ!」
「会場、山奥の野外じゃん‥‥あんな場所へ注射で押さえて行っても意味無いっつーの! 花粉飛んでて余計悪化す‥‥ぇっくしゅ!」
●補足
コーラスパートはソプラノ、メゾ、アルト、バスの4種・男女混合です。
指揮と総合司会は皆川草太、ピアノ伴奏は葉山絵里の2名ですが、葉山は花粉症でたまにクシャミをするかも知れません。
●リプレイ本文
「聞きしに勝る状態だな‥‥用意して来て良かった」
ゴミ箱の惨状を一目見て、鞄から何かの薬が入っていると思われる瓶を取り出したのはUN(fa2870)だ。
「何ですの、それ?」
「希釈竹酢液だが?」
「まぁ‥‥私はお茶を持ってきたの。確か花粉症になっちゃったのって皆川さんでしたっけ?」
スタジオの隅に置かれているポットからお湯を注ぎ、ハーブティーを入れ始めたのは谷渡 初音(fa1628)。
「いや、俺じゃない。こいつの方だよ」
ぐしゅぐしゅと鼻を鳴らしながら、伴奏の練習をしている葉山の頭をティッシュケースでパコンと小突く。
「うるさいわねぇ‥‥あんたもなってみればわ‥‥っくしゅい!」
「注射で押さえ込んでその有様では、少し舞台で伴奏は苦しくないかの? 自動演奏か録音という手も考えても良いと思うが‥‥」
葉山のくしゃみを目の当たりにして提案したのは冬織(fa2993)。
「普通の演奏会だと何事もなかった様に歌うのが普通ですけど‥‥」
「でも今回は観客参加型だし、進行に支障をきたすのもどうかと思いますよ。やはり、自動演奏付きのピアノを使うべきかと」
とおるの意見に通常の演奏会での対応を説明したのがアジ・テネブラ(fa0160)、賛同したのは妃蕗 轟(fa3159)だ。
「自動録音だと子供達に合わせて中断出来ないだろ?」
「ふむ、その通りだのう。わしが伴奏を横で手伝うというのはどうじゃ? 無論、コーラスにも参加はするが」
「うちらは子供達をリードする役割っぽいから、配置次第で不自然に見えんようには出来んかな? 楽しぃ歌える配置が一番ええんやけど」
とおると皆川の話を聞きながら舞台見取り図に目を通しているのが金糸雀(fa3121)。
「私は本職ではないから詳細は判りかねるが‥‥配置でやはり変わるものなのか?」
カナリアが手にしている見取り図を覗きこんで質問を投げかけたのが天羽司(fa2618)だ。
「今回の場合はどうだろ‥‥演奏がピアノだけだからな。他の楽器が無い分、クシャミしちまうと目立つんだよ。代りにスペースは空き放題だから自由に配置出来る強みはあるけど」
「なるほど、それでこの様な事になった訳か」
「‥‥配置が決まったとしても、私大丈夫かしら? 歌う事に没頭しちゃって葉山さんのフォローまで目が回らないかも」
エリーセ・アシュレアル(fa0672)が譜読みをしながらぽつりと不安をもらす。
「気にしなくて良いわよ。全員が私のフォローに回っちゃって、肝心の講座の方がお‥‥っくしゅん! ろそかになっても困るから‥‥っくしょーいっ! 講座に集中してくれる方が有難‥‥っくし!」
「それなら安心ですけれど‥‥」
「やっぱ、クシャミを何とかする方法考えるのが先の様な気がしないか?」
クシャミを連発する葉山の姿に、全員が皆川の意見に賛同するまで時間は掛からなかったのも当然であろう。
「とりあえず、お茶飲んで下さいな。レモンバームは花粉症に効くんですよ。甜茶も持って来てるんで良かったらお入れしますけど」
「希釈竹酢液も使うと良いぞ。何処まで効果があるかは個人差だが」
「二人とも御免ねぇ‥‥この竹酢液ってどう使うの?」
初音の差し出したカップを手に取り一口だけ口にし、アンから瓶を受け取る。
「肌に塗ったり風呂に入れると良い」
「どれどれ‥‥うわ、凄い匂いね」
瓶の蓋を開けた瞬間、焦げ臭いような匂いが当たりに漂う。
「消毒殺菌効果は高いが‥‥その鼻の頭では滲みたりしないか?」
「鼻よりも先に目に滲みるわよ」
「まぁ、鼻を労わるなら上等なティッシュを使う事だな」
初音とアンが葉山の症状緩和に努めている間、残りのメンバーは進行と配置の打ち合わせに取り掛かる。
「最悪の事態を想定したら、録音も考えるべきだけど‥‥アカペラの曲やリズミックな曲で母子一緒に演奏出来そうな物とか‥‥」
「手拍子や足踏み、ボディーパーカッションか。無難なとこだのう」
「葉山さんにあんまり無理させない事‥‥これが一番な様な気がする‥‥」
「‥‥なら、曲目としてはこの辺か?」
アジととおるの提案に皆川が幾つか譜面を広げて見せる。
「この曲だったらボディーパーカッションも出来るだろ」
「そんな曲があるのか?」
「歌詞よう見てみ? そのまんまやろ」
「‥‥確かに、そのままだな」
カナリヤが指差した歌詞の部分を見て天羽も納得した様だ。
「他にもTVやゲームで耳にするクラシックを入れても良いかも知れませんね。曲目はネットで調べてからですが」
他に並べられた譜面を見比べながら曲目リストの確認を行う轟。
「後は子供たちが楽しんでくれるかどうかかしら?」
エリーゼが初音とアンと葉山に譜面を渡す。
「野外での演奏では花粉が飛ぶから空気清浄機は必須ですよね」
「見取り図を見れば電源の場所も判りますから‥‥この辺から延長コードを引っ張ってはどうでしょう?」
轟と初音が電源の位置を確認しながら仮のピアノ位置を見取り図に書きこむ。
「ぐしゅ‥‥舞台から見えたりしないかな?」
「その辺は皆川さんに予めMC入れて頂いたらどうです? 別に見栄えを気にしないならマスクやメガネ姿でも問題無いと思いますけど」
「うーん‥‥クシャミを防いで演奏の中断を防ぐ方が重要だよな。葉山、お前マスクとゴーグル付けとけ!」
「それじゃ変質者みたいじゃない!」
「わしが半獣化を誤魔化すのに帽子を被るから、それに合わせた帽子を全員被ってはどうじゃ? 服も全員合わせておけば不自然には見えんじゃろうて」
葉山は轟の提案と皆川の命令の花粉予防のマスクとゴーグルを身に付ける事を相当嫌がったが、衣装を全員揃える事で不自然に見えない様にすればいいと言う、とおるの提案には渋々ながら承知するしかなかった様だ。
野外が会場ならば母子連れにはそれなりに気配りが必要だという初音の意見で、空気清浄機を借りるついでに小型座布団と毛布を借りて用意する事にした。
他にもトイレの混雑を防ぐ為に移動式簡易トイレ、休憩所代りのトレーラーにはじゅうたんを敷き詰めた上、会場中継用の大型液晶TVにお菓子やお湯入り電気ポットを置き、オムツ換えスペースを作ると言った念の入れ様だ。
「仕事じゃなかったら娘を連れていきたかったですわ」とはエリーセの弁である。
リズミック用の鈴とパーカッションの持ち込みと花代わりの陶器製のオブジェは、紛失や破損で怪我を防ぐ為に今回は見合わせる事にした。
さて、演奏本番である。
「えー、本日はご来場頂き誠に有難う御座います。ご来場下さった皆様は会場を見て一目でお分かりになるかと思いますが、当会場は周りが山に囲まれております。‥‥この季節柄、花粉症で苦しまれている方も多いと思われます。本日の伴奏を担当致します葉山も例外無く花粉症を発症しておりますので、本日の演奏はたまにクシャミが混ざるやも知れません。申し訳御座いませんが本日は何処に混ざるか分からないクシャミのリズムもご一緒にお楽しみ下さいませ」
皆川の開場挨拶に合わせて葉山が観客席に向かって手を振る。ゴーグルとマスク姿に気付いた観客からの小さな笑い声があちらこちらから溢れ出す。つかみのMCで緊張感を削ぐ事には成功した様だ。
簡単に輪唱から始め、子供たちが音楽に慣れてきた所で「ドレミの歌」の合唱に入る。
観客席から子供達を呼び寄せ、一度練習で歌ってみる。歌う事に慣れていないのか何人かは声が出ていない様だ。
「始めは恥ずかしいかも知れへんけど思い切って歌ってみ」
カナリヤが目線を合わせておどおどしている様子の子供達の頭を優しく撫でる。
「歌を歌って楽しい気持ちになれば、それは幸せなことだよね‥‥自然と笑顔が出てくればなおさら!」
アジの笑顔に舞台に上がった事でべそをかいたり硬くなっていた表情も和らいだ様だ。
声を出す事に慣れてきたら其々のコーラスパートに振り分ける。天羽以外は全員音楽関係の仕事をしている為か、スムーズにパート練習に移れた様だ。アンのレクチャーを子供と一緒になって聞いている。これはこれで子供達には見本として映ったらしく、バスパートの声の揃い具合は中々の物となった。
「みんな良く出来たね! この調子で楽しく歌おうね」
エリーセからの褒め言葉に喜びの歓声が上がる。
「じゃあ、次はアイアイですよ〜。お猿さんの物まね出来るかなぁ?」
初音が「アイアイ」のパフォーマンスを教えている間、舞台から観客席を眺めていた天羽の表情が暗く見えたのか、アジが「笑顔、笑顔」と声を掛けた。
そのまま「結んで開いて」「手を叩きましょう」「アブラハムの子」‥‥と体を動かしながら歌う曲が続く。「アブラハムの子」を歌う頃にはすっかり慣れたのか、ニコニコとしながら歌いながら体を動かせるようになった。
「‥‥っ‥‥っ」
伴奏の早さが何処となくばらついた気配がする。葉山の様子がおかしい。
「危ない危ない‥‥ほれ、代わるぞ」
クシャミが起きた時の為になるべく近くに居たとおるが、開始直後から使用していた鋭敏聴覚で察知。数秒伴奏が途切れたものの、ほぼ演奏のラスト近くだった為かそれほど違和感無く併奏する事に成功。事無きを得る事が出来た。
最後は観客席に戻って「茶摘」のリズムでの手合わせ遊び。
「子供の情緒安定は昨今の親には最重要課題です。クラシックやα派音楽が持て囃されていますが、子供にとって一番重要なのは母親の優しい声や歌です。本日のコンサートを機会に親子の会話やスキンシップを増やしてみて下さい」
皆川のMCでなんとか纏まりがついた形となった。音楽講座がメインとしてならこんなものだろう。
「いい感じに纏めてくれて有難う」
「本職の講師のお言葉だからね。こっちも助かったよ」
最後のMCは初音のアドバイスだった様だ。
「さて、無事済んだ事だし打ち上げでパスタでもご馳走するよ」
天羽の申し出に喜び勇んで控え室に戻りかける一同。
「控え室に戻るのは良いですけど、その前に全員花粉を落として下さいね。着替え中に部屋中花粉が飛び散っちゃいますよ?」
轟の言葉に控え室前で花粉を叩き落とした結果、ゴーグルとマスクをしたままでもクシャミが酷くなり、葉山一人だけがパスタの味が判らなかったという落ちが付いたのは御愛嬌としておこう。