Ultimate Zoneアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
やなぎきいち
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.4万円
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参加人数 |
12人
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サポート |
0人
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期間 |
03/01〜03/06
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●本文
『それ』は遠く南の国から、嵐と共に訪れた。
──飛行機に乗って。
『それ』は遠く南の国から、仕事と共に訪れた。
──数名のスタッフを連れて。
『それ』は遠く南の国から、喧騒と共に訪れた。
──機材が届いていないと騒ぎを起こして。
「日本は寒いね、チャーちゃん!」
「バカだな、こっちはまだ冬だって言っただろう?」
スタッフの騒ぎを他所に更に騒ぐ二人組みは日本かぶれを売りにした芸人二人組。遠く南の国からやってきた──オーストラリア人である。
実は彼ら、今回とある番組の1コーナーを貰える事になったのだ。バラエティに属する『Ultimate Zone』という番組である。担当することになったのは、視聴者投稿コーナーである。投稿されたネタを検証し作成された再現VTRを紹介する‥‥『日本のこんなこと、教えてほしい』というコーナーである。
今回のお題は、日本人の好きなサスペンス。
「日本のサスペンスっていえばアレだよな、湯煙温泉殺人事件!」
「うーん、定番だね〜」
「家政婦は殺った!!」
「家政婦が殺っちゃうんだ!? しかもサブタイトル見ただけで犯人バレバレだよ!?」
「バカだな、犯人のミスを笑う新手のサスペンスさ。しかも犯人がわかってるから視聴者は安心してトイレに行けるだろう? 我慢は身体に悪いからな!」
「なるほど〜、視聴者思いのサスペンスだね。さすがチャーちゃん!」
こんなノリ──もとい、経緯があり、『湯煙温泉殺人事件、家政婦は殺った』というVTRが作成されることとなったのだ──トラブルでオーストラリアを出発しなかった機材をレンタルしつつ、出演者も現地調達で。
『それ』の名は、ゴールドジパング。チャーチルとジョーンズの二人組みである。
─────急募─────
◆俳優・女優、演技力不問。
・家政婦(メイドでも可)
・雇い主
‥‥‥他
◆スタッフ
・カメラマン(危険手当別途支給)
●リプレイ本文
●街頭アンケート
『ゴールドジパングの、よく分かるニッポン!!』
バラエティ番組『Ultimate Zone』内、ゴールドジパングのコーナーが始まる。進行はもちろん、ゴールドジパングのチャーチルとジョーンズだ。
「今回はシドニーのジョニーからの疑問に答えるぜ!! まずは日本人の嗜好を知るため、いつものとおり調査から始めるぞ!!」
「OK! それじゃ、街頭アンケートいってみよ〜っ!!」
◆
インタビュアー伝ノ助(fa0430)とカメラマン一二三四(fa0085)のペアは新橋の広い通りに面した交差点付近でインタビューを実施中。
伝ノ助がマイクを向けると、ふみが足を止めた中年男性へとカメラを向ける。伝ノ助が写りこまない角度を取るのはインタビューの形式に寄るものだ。
「日本のサスペンスで良く出てくる役といえば?」
『ジャガジャン!!』
編集で挿入された効果音の後、酔っ払いの中年サラリーマンは豪快に笑いながら答える。
「無能警官だよ、これがないとサスペンスにならないね〜! 謎を解くのはやっぱり、美人のお姉ちゃんじゃなくちゃ!」
──それは趣味の問題でやんすよ!!
突っ込みたい衝動をぐっと堪え、伝ノ助は次の質問を口にする。
「で、では、貴方がサスペンスと聞いてイメージするものは?」
「やっぱ温泉でしょ〜! 湯煙温泉殺人事件、定番中の定番だよ!! サスペンスっていや、2本に1本は温泉が出てくるしね」
──2本に1本なんてことはないですから!!
カメラが僅かにぶれたのは、ふみも突っ込みたい衝動をぐぐっと堪えたからに違いない。
もっとも、そのぶれはよほど腕の良いカメラマンか鋭い目を持った者でなければ気付かない程度だったが。
幾つかの質問の後、礼を述べて次のターゲットを探す──‥‥
◆
「ミャーの突撃路上アンケートニャ! カメラさんはしっかりついてくるニャ!」
森屋和仁(fa2315)の提案でメイド喫茶の前に身を潜めていた吉田 美弥(fa2968)は、折り良くメイド喫茶から現れた男に突撃インタビューを敢行★
「そこのお兄さん! ‥‥お兄ちゃんの方が良かったかニャ?」
「えと、あの、お、お兄たんで‥‥」
「まあ、何でもいいニャ。それじゃ『お兄たん』、日本のサスペンスといえば、ずばりどんな物を思い浮かべるかニャ? 温泉? 女性三人組? 家政婦? 水戸の御老公?」
「最後のは違うような‥‥」
「ミャーは大きい灰皿とか崖から突き落とすのが定番だと思うニャ。答えてくれてありがとうニャ、それじゃミャーはもう行くニャ! あ、そっちのお兄さーん、ちょっと待つニャ!!」
──吉田さん、アンケートになってねぇよ!
カメラマンとしての意地で声には出さないものの森屋はジェスチャーで必死にアピール。けれどミャーには届かない。
絶対貧乏くじだよな‥‥言葉に出来ぬ疲労感に包まれながら、森屋は駆けて行くミャーを追いかけた。
◆
丸の内のOLをターゲットにした都路帆乃香(fa1013)と郭蘭花(fa0917)。
「あちらの方に伺ってみましょう」
適当な女性を見つけたトロはランを振り返り、現れたOL3人組に声をかける。
後で出演しても不自然でないようにと気を遣った美角あすか(fa0155)のお陰で普段と全く違う雰囲気を纏っている。
けれど、万一を考えてランはトロが画面に映らぬよう、けれど決して不自然にはならないよう、カメラワークに気を配っている。
「日本で有名な『湯煙殺人事件』物のお約束な展開でまず思い浮かぶのは?」
『ジャガジャン!!』
「え? えっ? 湯煙殺人事件? お色気シーンとか、浴衣とか?」
「サスペンスってさ、無意味に事情通な家政婦とか女中さんとか出てくるよねー」
「ちょっと無理があるのよね。でも、一度見始めちゃうと最後まで見ちゃったりして!」
「あはは、あるある! そうなのよねー」
何だか勝手に盛り上がるOL3人組。打ち切るわけにも行かずカメラを回し続けたランだったが、放映に際して思い切って大幅にカット・編集を施した。
◆
「ってことで、『温泉』『灰皿』『お色気』『無能警官』『家政婦』辺りがキーワードっぽかったな」
「その辺りを踏まえて、日本人スタッフの指導を受けつつ、現地でVTRを作成してみましたー!」
「シドニー在住のジョニーからのお題『日本人の好きなサスペンス』、再現VTRいってみよう!」
●再現VTR『湯煙温泉殺人事件〜家政婦は殺った〜』
「休日は温泉に来るのが日本人よね〜♪ フライト中は温泉どころかお風呂もないし」
説明的な台詞を吐きながらスチュワーデスの制服を脱ぎ捨てるアスカ。露天風呂に身を浸し、ゆったりと手足を伸ばす。
目を見張る巨乳がなかなか沈まないが、そんなことは気にしない。なぜならそこは女湯だから!!
遠くにはCGで合成されたフジヤマが、曇り空の下にくっきりと稜線を描いている。
そんなのどかな温泉に、突如悲鳴が轟いた!! ──もとい、裏返った声が耳に届いた。
「ひ、ひぃぃー!! だ、誰かぁぁっ! 旦那様、旦那様がぁぁっ!!」
「どうしたのっ!?」
入ったばかりの温泉から上がり、駆け出すアスカ!!
──FANFAN‥‥
遠くから、パトカーのサイレンが聞こえた。
(CM)
「切腹‥‥いや、違うな。刀がない」
広がる血溜まりに現場責任者らしい刑事は顔を顰めた。血溜まりの中心には浴衣を着たままうつ伏せに倒れるHAKASE(fa2600)の姿。
その指先は、床に小さく文字を綴っている。どうやらダイイングメッセージのようだ。
「‥‥萌え‥‥。何だ、どういう意味だ‥‥?」
眉間にシワを寄せ唸った伝一は、制服を着た警官を呼び寄せた。警官役は結城 淳(fa3010)、他にも出番があるが人手不足のため少々の化粧で雰囲気を変え、出演。
「ガイシャについて判ったことは」
「はっ。財布に入っていた免許証に拠れば、被害者は山田三郎、25歳」
──若く見えるのは気のせいだ。なぜなら日本人は若く見えてしまうものだから!!
「直接の死因は、おそらく、頭部を鈍器のようなもので殴られたことだと思われます」
ここでランのカメラからふみのカメラへ切り替わる。
「近付かないで、はい、散って散って!!」
散らされる野次馬の中、何故か一人だけその場に残るアスカ。
「何、何? 事件? お兄さん、何があったのか教えてよう。教えてくれたらイイコトしてア・ゲ・ル♪」
ちらりちらりと覗き見ようとする彼女はとうとう色仕掛けまで繰り出した。しな垂れかかりつつ、浴衣から足を覗かせる。
そんなアスカを驚愕が襲った!
「‥‥伝一警部ぅぅ!?」
「あ、アスカさん!? な、なんでこんな所に!?」
偶然の邂逅に目を瞬く二人。そこへ制服警官森屋が家政婦トロを連れてきた。
「警部、第一発見者の家政婦です」
「お、温泉から上がってきたら‥‥旦那様が血まみれで‥‥」
「何、どうしたの? 詳しく聞かせて?」
「わ、私‥‥私、何も知らないんですっ!!」
(CM)
「俺‥‥私は何も知らないんですよ、無実なんです。信じてくださいよぅ」
のんびりまったりした温泉にも関わらず、かっちりとしたスーツを着込み、黒縁のメガネをかけ、前髪をきっちりと七三に分けた淳がぺこぺこと頭を下げる。なんだかとても腰が低いが、外国人にとっての日本人はきっとこんなイメージに違いない。
「ネタは上がってるんだ! お前、昨日ラウンジで山田三郎と口論になっていたんだろう!? ガイシャの部屋に入る姿も目撃さ・れ・て・る・ん・だ・よ!」
「確かに口論になりましたけど、あれはカメラのフラッシュが眩しいって言われて、つい言い返してしまったというか‥‥」
ドンドンドンと胸を突かれ、庇うようにカメラを抱える。大事そうに抱えたそれは外国人から見た日本人の必須アイテムだろう。
ご丁寧にも汗を拭くハンカチはアニメ柄。虎模様のビキニを来た色っぽい鬼娘がプリントされている。AD役まで買って出た森屋の努力の賜物だ。
「いや、HENTAIについて口論になっていたと、ウェイターが証言したぞ」
「!!」
ちなみにHENTAIとはいわゆる『変態』ではなく、オーストラリアにおけるアニメジャンルの1つである。日本では『18禁』と呼称されるジャンルの事だ。
哀れなほどに飛び上がる淳。そこまでバレてしまっては仕方ないと諦め、肩を落としてポツリポツリと語り始める淳。
「三郎とは大学時代、一緒に同人誌を作っていた仲間なんです‥‥でも、断じて私ではありませんっ! アリバイはきっとこのカメラが立証してくれますよっ。景色が綺麗で温泉でも写真を撮っていたんです、フィルムに時間が刻まれていますよ!」
「そんなもの、いくらでも弄れるだろう! まあいい、一応フィルムは押収させてもらうぞ」
後で返してくれと泣きつく淳に頷きながら押収したフィルム。これがもう1人の容疑者を浮き上がらせるとは、誰も思っていなかったに違いない。
(CM)
黒い手帳を片手に、住宅街を歩く伝一警部。その一角に、アスカの所属する家政婦事務所があるのだ。
きょろきょろと辺りを見回しながら歩く伝一は、目当ての建物に無事到着☆
インターフォンを押そうと伸ばされた指がアップになるが、画面には何故かもう一本の指が!
「伝一警部!?」
「あ、アスカさん! むやみに事件に首を突っ込むなと‥‥!」
話をきかずインターフォンを鳴らすアスカ。出てきた柏崎 柚(fa0848)に、咳払いをした伝一が手帳をちらりと見せる。
「少しお話を聞かせていただけませんか?」
伝一警部の言葉に周囲を伺い、声を潜めるゆず。けれどそれは姿勢だけで、なぜか音量は一段階も二段階もアップ☆
「あの人ならいつかやるおもうてたんや。 うちか? うちもあの人と同じ場所ではたらいとった家政婦なんよ」
「ねえ、おばさん。ちょっと聞かせて欲しいんですけ──」
「誰がおばはんや!! うちか! どっからどう見てもおねーさんやろ!!」
「し、失礼しましたお姉さん。あの、『萌え』って聞き覚えがあったりしますかっ?」
しゃしゃり出てくるアスカに、口をへの字に曲げたゆずが首を振る。
「日本ゆうたらやっぱり家政婦やろ? メイドなんてあかん! メイドはアメリカ、家政婦が日本人や!」
この人物は何か事情を知っているようだ──伝一は身を乗り出した。
(CM)
場面は一転し、温泉を一望できる崖の上に1人佇む家政婦トロ。
眼下に広がる温泉はもちろん女湯で、レポーターだったミャーと出番の済んだゆずが入浴中。
「もう逃げられないぞ」
「来ないで下さい、もう私の事なんて放っておいて‥‥」
「何で、何でこんなことをしたの」
涙目になりながらアスカが声を張り上げる。風がアスカの、そしてトロの髪を靡かせた。露天風呂から投じたはずの凶器の灰皿も、アスカが入浴中に見つけてしまった。淳のカメラには、三郎の頭を殴りつけている家政婦の姿が焼きついていた。言い逃れできず、崖から身を投じようとするトロを、アスカが必死に止める。
「だって、私こんなにも旦那様のことを思っていたのに旦那様がメイド服にしか興味がなかったなんて‥‥」
三郎との思い出が蘇る。
秋刀魚の味を褒めてくれた三郎。
新しい割烹着に似合うようにと、誕生日には頬っ被りをプレゼントしてくれた旦那様。
瓶底メガネの向こう側ではにかんだように笑ってくれる笑顔が好きだった。煌めく出っ歯が好きだった。
毎朝、三郎の髪を七三に分け整えるのはトロの役目だった。
そんな二人を引き裂いたのは、三郎が突如取り組み始めた『メイド温泉化計画』だった──‥‥
ある日、起動したままのパソコンのディスプレイに表示されていた、恐ろしい計画。
『見てしまったんだね‥‥』
『旦那様っ!』
『見られてしまったなら仕方がない──お願いだ、このメイド服を着てくれっ』
取り出されたのはミニ丈の愛らしいメイド服。パニエも靴も純白のエプロンもカチューシャまでも準備済み☆
『そんな。私、今になってそんなメイド服なんて着れません』
『メイド温泉化計画にはメイド服が必須なんだ、ミニが嫌ならロングも用意しているからっ』
『どうして、どうしてそんなにメイド服にこだわるんですか』
『それは‥‥まだ、言えない。1つだけ言えることは──割烹着じゃ萌えないってことさ』
風に煽られ、回想が霧散する。
「旦那様とずっと一緒にいたかったんです‥‥けれど、理解してくださっていると信じていた旦那様にさえ、割烹着の機能美が理解されていなかった‥‥」
「それは違うわ! メイド温泉化計画は家政婦世界布教活動の足がかりだったのよ!」
「──え?」
アスカの言葉に戸惑いを滲ませるトロ。
「三郎さんはメイドの日本侵食に脅威を抱いたの。計画を進め、貴女にメイド服を着てもらうことで敵を理解し、そして同時にメイド温泉化計画でメイドを温泉に封じ込めようとしていたのよ。日常生活を汚染されないように!」
「何ですって‥‥」
「三郎さんはいつも主張していたそうよ、家政婦の素晴らしさを。そして‥‥貴女を終身雇用するのが夢だった」
「そんな‥‥私、私‥‥あぁぁっ、旦那様!! 申し訳ありません‥‥う、うっ‥‥」
自らが摘み取った主人の夢。自分が居ないと思っていた夢は、自分の為に存在していた。
謝ることも叶わず泣き崩れるトロの手に、伝一が手錠を掛けた──‥‥
その晩、温泉旅館の宴会場は大賑わい☆
酔いつぶれたアスカを抱き上げながら、伝一は呟く。
「好奇心はいつか身を滅ぼすぞ」
現場に近付くなという彼の言葉に隠された想いは、未だ伝わる気配はなかった。