SSS−Advertisementアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 やなぎきいち
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.1万円
参加人数 10人
サポート 1人
期間 06/12〜06/16

●本文

●ラジオ企画とインターネット
 Rは久しぶりにそのロゴと向き合っていた。『SSS−A』と踊るロゴはSSSこと『Sound Source Station』のホームページ限定企画の呼称でもある。
 SSSはアイベックスのユニット、『ケットシー』がDJを務めるラジオ番組である。その番組内で、CMソングを作るというリスナー参加企画が持ち上がったのは数ヶ月前のことだ。一次審査を通りスタジオに招待された数名のリスナーたちがスポンサーの前で自前の曲を披露する。気に入られればCMソングとして採用されTVやインターネット、ラジオなど様々な媒体を通じ世間に流れていく──上を目指す駆け出しミュージシャンにとって登竜門たる企画とあって、応募は徐々に増えつつあった。
 しかしCM撮影の方が追いつかなかったのはスポンサー‥‥いやいや、言葉に出来ぬオトナの事情というものだ。
「またこのロゴと向き合うとは思わなかったな」
 皮肉気に口にするが、RはそもそもそのSSS−Aをお蔵入りさせる気など毛頭なく、オトナの事情の行方如何では他局に持ち込むことも検討していた──というのはここだけの話。
 アイベックスの新曲を中心に耳になじむポップスを流すSSSは相も変わらず聴視率を維持し、放送から一週間限定で流れた曲を視聴できるというサービスが受け入れられ、インターネットサイトのアクセス数も緩やかな右肩上がりを示している。
「しかしまあ、よく四ヶ月も前の曲を引っ張り出す気になったもんだよな。忘れられちまってんじゃねぇの?」
 放送されたのは2月下旬、足掛け四ヶ月も暖められてしまったのはデイリー・ドリンクの新商品『ノワール』のCMソングである。
 どんな曲だったかと、Rは応募されたMDをデッキに掛けた。ケースには几帳面な文字で『碓宮椿』という名と、『Bitter You』というタイトルが記されている。

 少々暗い印象の、簡単なコードで構成された曲が流れ出した。

♪初めての時 合わないって正直 思ってたわたし
 回りの皆も 合わないって本当 噂をしてた♪

 見栄やプライドが邪魔をする、大人の恋心を歌う曲は後半に差し掛かり徐々に明るい曲調に変わっていく。

♪優しい言葉  かけられぬあなた だけど
 不器用なこと 知っているわたし ほらね

 ありのままのあなた 分かるには少し 時が必要だけれど
 ありのままのあなた よさは本物だよ
 ありのままのあなた 苦さも愛してるから♪

「スポンサー様のご意向もあるし、これはこれとして一本作ってもらうべきだな。対抗してもう一本作って欲しいところだが」
 大人のブラックコーヒー、ノワール。香りを大切にすっきりとした後味、酸味は少なめでブラックコーヒーながら女性にも飲み易い味である。
 他の曲も聞いてもらうべきかと2月25日放送分のテープを用意し、SSS−Aのコーナーを修正し始めた。

●今回の参加者

 fa0017 緑野・夏樹(21歳・♂・狸)
 fa0244 愛瀬りな(21歳・♀・猫)
 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1170 小鳥遊真白(20歳・♀・鴉)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2492 アマラ・クラフト(16歳・♀・蝙蝠)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa2684 藤元 珠貴(22歳・♀・狐)
 fa3635 甲斐・大地(19歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

●メイキングVTR
「おはよーございますっ」
「はよッス!」
 大先輩たちとの共演とあって張り切る甲斐・大地(fa3635)はAD緑野・夏樹(fa0017)へ元気良くご挨拶☆ 夏樹もぺこりと頭を下げて挨拶を返す。おはようというのは、芸能界では一日中使用する挨拶だが、今は実際に朝である。
 といっても、さほど早い時間ではない。駅前の撮影も含まれるため、通勤通学ラッシュの時間帯は避けている。
「おはようございます、愛瀬りなです。よろしくお願いします♪」
「あ、りなさん。動かないでくれるかな‥‥ごめんね」
 ロケバスに乗り込むと、愛瀬りな(fa0244)が視線を上げた。人手不足のために裏方を買って出た藤元 珠貴(fa2684)がメイクとヘアスタイリストを兼ねて、本日の撮影の主役を仕上げている。
 友人で仲間で、憧れの姉でもある愛瀬のメイクを飽きもせず眺めていた角倉・雨神名(fa2640)は、申し訳なさそうに微笑む珠貴へ尋ねた。
「珠貴さんは、準備はいいの?」
「うん、今日はこのままだからね」
 カットソーに夏用のジャケット。下はジーンズにサンダル、髪は手早くまとめて白いピンを刺して留めている。
「あの‥‥ラフすぎませんか?」
 姫乃 舞(fa0634)が控えめに声を出す。珠貴は確かに美人の部類に含まれるが、その格好では一般人に埋もれてしまうのではないかと心配になったようだ。
「ぴゅ? でも珠貴さんは今日はギャラリーに紛れて撮影するんだし、あんまり気合の入った服装だと逆に不自然だと思うなー」
 ベス(fa0877)の言葉に、それもそうかと姫乃も頷いた。その時である。
「あの石頭っ」
 珍しく声を荒げた小鳥遊真白(fa1170)に驚いたうかなが目を瞬いた。
「どうしたの?」
「せめてメイキングでは自分達が演奏した音楽や自分が歌った同じ歌詞の歌を使ってもらえるようにディレクターに頼みに行ったんです‥‥」
 アマラ・クラフト(fa2492)は小さく溜息を吐いた。その反応を見るに、色よい返事は貰えなかったのだろう。
 何と言うべきかと言葉を探す大地に、月見里 神楽(fa2122)は一生懸命微笑んだ。
「歌は、SSSで優勝したものを使わないと番組の意味がないから駄目なんだって」
 CMソングを選考するコーナーで選ばれた曲である、応募者が作曲家や作詞家ででもない限り、本人の歌を流すのが番組としては当然である。スポンサーと応募者との間に交わされた契約などを考えれば、ますます首を縦に振ることは難しくなる。
「でも、今回使おうとしてる曲はボーカリストの人が応募した曲だから、楽器だけならOKって言ってもらったんだよ〜」
 ミュージシャンとして頑張っている神楽やギタリストとして修行中のアマラにしてみれば、歌も楽器も自分のものが使えるというのがベストであろうが、仕事は仕事である。ベストよりベターを取って、撮影に挑むこととなった。


●ブラックコーヒー『ノワール』CM、Part1
 駅前でストリートミュージシャンのアマラ、神楽、真白が演奏をしている。ギター、ショルダーキーボード、ベースが楽しげに響き、ノワールを飲もうとした珠貴が足を止める。その脇を通り過ぎ公園へ向かう女性、愛瀬。
 初夏の日差しの中、缶に汗をかく冷たいノワールを手に噴水の縁に腰掛け、公園の時計を見上げる。
 カメラは公園、愛瀬、手に持ったノワール、それぞれ秒数かけてゆっくり見せる。

♪初めての時 合わないって正直 思ってたわたし
 回りの皆も 合わないって本当 噂をしてた

 睫を震わせて瞼を伏せる愛瀬。缶についた水滴が涙のように地面に落ちる。
 思い悩む彼女の前をセーラー服のベス、うかな、姫乃、大地の4人娘がアイスクリームの乗ったクレープを手に楽しげに駆け抜けていく。
 簡単なコードの少し暗めの曲調が、明るい雰囲気の曲調に切り替わる。
 溜息を飲み込み、つられるように微笑んでノワールを一口、口に含んだ。

♪優しい言葉  かけられぬあなた だけど
 不器用なこと 知っているわたし ほらね

 ノワールを含んだ視界が待ち人を捕らえる。満面の笑みを浮かべて立ち上がる愛瀬。
 女性よりやや高い男性の目線で、カメラは噴水を徐々にアップにしていく。愛瀬は手に持っていたノワールを噴水の縁に置いて、ゼブラ柄のワンピースをひらめかせカメラに向かって走り出す。少し照れたような、けれど嬉しさを溢れさせて、愛瀬はカメラの下をすり抜ける。

♪ありのままのあなた 分かるには少し 時が必要だけれど
 ありのままのあなた よさは本物だよ

 噴水の縁に残されたノワールがアップで映し出された画面に、商品ロゴが挿入される。

♪ありのままのあなた 苦さも愛してるから

 静止した画像に、アマラのナレーションが入る。
「ブラックなのにまろやか、力強く優しい味。貴方に安らぎと魔力(ちから)を与えてくれる、缶珈琲『ノワール』──新発売」
 デイリードリンクのロゴ画面に切り替わった。


●メイキングVTR
「公園押さえるよりスタジオ押さえる方が面倒ってどういうことっスかね‥‥」
 ロケバスの運転こそ運転免許証の都合でできないものの、ロケハン、仕出しの手配、機材の運搬・設置・片付け、撮影や編集の補助、などなど。スタッフの人数が少ないことがそのままAD夏樹の負担となっていた。愛瀬や藤元、真白も手伝っているが、絵コンテや脚本まで手掛けているのだから、憔悴もしようというものだ。
 スポンサーからの差し入れ、ノワールの運搬も夏樹の重要な仕事である。朝一には間に合わなかったが、撮影期間中はノワールを飲み放題である。
「コーヒーはすっきりしてて甘すぎない物が好きかな」
「それなら問題ないな。ノワールはブラックだから、こってりしていたり甘すぎたりする心配だけは皆無だ」
 珠貴の言葉に、ふ、と涼しげな笑みを浮かべる真白。そして仲間の愛瀬を振り返る。
「りなはカフェオレ派だったと思ったが‥‥ブラックは大丈夫か?」
「このCM出演が決まってからブラックを多く飲むようにしていたら‥‥ほろ苦さにハマっちゃったみたいです♪」
「苦〜‥‥でも大人の味ってこんななのかな。恋の味もこんな感じ?」
 姉のような真白とりなへ首を傾げるうかな。
「恋は、アイスクリームみたいに甘いこともありますけどね」
「りなさんは、今、恋愛中?」
「皆さん、燐さんから差し入れっスよ〜」
 国民的アイドルのスキャンダルはもちろん御法度★ 夏樹、二人の間に差し入れの紙袋をぐぐっと差し出し、強引に話を逸らす。
「ぴ! おいしい!」
 皆の様子を見ながらひと口飲んで、その味に目を丸くするベス。どうやら、以前飲んだコーヒーが濃すぎたためにブラックコーヒーに苦手意識を持ってしまっていたようだ。
「これなら焼きそばパンにも会うよね」
 友人、燐 ブラックフェンリルの差し入れた弁当から焼きそばパンを確保し、にぱっと微笑んだ。
 ノワールの缶を置いて、立ち上がる神楽。愛瀬が撮影していた噴水へ向かい、高らかにキャヴァリエを吹き鳴らした。
 聞く者を鼓舞するような芯のある音が、夏の青空に明るく高らかに響き渡る。

 〜‥‥♪
「ありのままのあなた にがさもあいしてるからっ♪」
 ベスがトランペットに合わせて、口ずさむ。メイキングVTR撮影用のカメラに気付き、猛烈アピール☆ その隣で珠貴も小さく手を振ってみたりしている。
「撮影、まだまだ続くよっ。頑張るからね!」
 でも美味しい台詞を奪ったのは、ノワール片手にポーズを決めた大地なのでした★


●ブラックコーヒー『ノワール』CM、Part2
 内から写した出窓のアップに、柔らかで、けれど弾むような曲が重なる。

 その窓が開け放たれる。服装を整えた姫乃が出窓の花に光を当てようと大きく開け放ったようだ。陽光の眩しさに目を細めながら深呼吸をすると、傍らのノワールを傾ける。花の隣にノワールの缶を置くと鏡の前でにっこりと微笑んで、鞄を手に取り部屋を後にした。どこからか、踏み切りの音が聞こえる。

♪鳥のさえずり
 新しい朝に
 香りたつ

 朝日の中、踏み切りで足止めを喰う珠貴。自販機に小銭を入れ、欠伸をかみ殺しながら買ったのはノワール。ぐいっと一気に飲み干して手にした缶を見つめていたが、電車が通り過ぎると缶を持つ手に力を込めてリズミカルに歩き出す。
 珠貴の脇を、一台のマイクロバスが通り過ぎた。

♪Magie de cafe
 始まりの合図
 幸せのおまじない

 マイクロバスに乗っているのは真摯な表情で台本に目を通している愛瀬。踏切を通過する振動で顔を上げ台本を閉じると、傍らにあるノワールに手を伸ばしゴクリと嚥下する。
 ホッとした表情を浮かべる愛瀬の手元の台本が映し出される。

♪風のさざめき
 午後のまどろみに
 ほろ苦く

 セーラー服に着替えた大地は台本に目を通す。彼女へ駆け寄った夏樹は尻ポケットに挿してあった絵コンテを取り出して最終チェック。緊張する大地にノワールを手渡し、二つのプルタブが開けられる。
 ぐっと親指を立てた二人。颯爽と歩き始める大地を見送り、夏樹は再び走り出す。残された絵コンテ、ズームアップ──‥‥

♪Magie de noir
 ひとときの休息
 リフレッシュする

 絵コンテが実写に切り替わると、机に向かい宿題と格闘するうかなが映し出される。けれど瞼は重たくて、眠気覚ましにノワールをひと口。
「っ♪」
 宿題そっちのけで思いついてしまったフレーズをノートに走らせるうかな。左手に持ったままのノワールがズームアップされ‥‥

♪時計の針刻む
 静に過ぎる夜に
 息つく温もり
 Magie de fee

 ノワールからズームアウトすると手にしている人物がベスに切り替わっている。目の前に広がるのはもう一つの本業、学生としてのベスのためのテキスト。もう一度ノワールを口に含み、唇を濡らしたノワールをペロッと舐めると、寸暇を惜しんで勉強を続ける。
 スタンドが手元を明るく照らす──

♪おつかれさまの
 一言の代わりに

 明かりの中から現れたアマラ、真白、神楽。ライブの演奏が終わり楽屋に雪崩れ込むと楽器を置き、乾いた喉に差し入れのノワールを流し込む。どこか殺気立っていた表情が一気に緩み、味わうようにもう一度缶を傾ける。
 そして、毀れる笑顔。
 アンコールの声に誘われ、『小さな魔法』を演奏しながら再び3人は光の中へと姿を消していく──ホワイトアウト。

♪貴方を少し
 元気にする
 安らぎの魔法
 La magie que la fee cafe noir applique〜♪

 白背景にノワールと商品ロゴが映し出され、アマラのナレーションが入る。
「ブラックなのにまろやか、力強く優しい味。貴方に安らぎと魔力(ちから)を与えてくれる、缶珈琲『ノワール』──新発売」
 ノワールとロゴが切り替わり、再び朝──珠貴のシーンに舞い戻る。
 改札に向かう途中、手にした缶を駅構内のゴミ箱に捨てる珠貴。

 ──空缶はゴミ箱へ。

 デイリー・ドリンクのロゴの後ろで、カランッと空缶の音が響いた。


●メイキングVTR
 出来上がったCMは、もちろんスポンサーのGOサインが出なければ電波に乗ることはない。
「1本目は『Bitter You』の、ありのままにありのままを愛する、というテーマのままに作ったんスけど、どうスかね?」
 緊張の面持ちで夏樹がデイリー・ドリンク担当者の前に立つ。
「‥‥幸せな場面にノワールは不要、というようにも取れますね」
 苦笑して言う担当者。ブラックコーヒーで幸せを演出するというのが難しいことは彼とて良く知っている。
 だからこそ、現在放映されているブラックコーヒーのCMはドラマ性のないCMが多いのだ。
 結論の前に2本目をと促され、真白が機械を回す。スクリーンに映し出されるのは少々長いCMである。
「2本目は、日常をテーマにしてみたっス。撮影に協力してくれたのは女性が多くて、皆ノワールを気に入ったんで、女性をターゲットにしたCMにしてみたっス。長いのでWEB専用にするようかもしれないスけど‥‥」
「女性を、ですか。私どもとしては、特に女性をメインターゲットに据えることは考えていなかったのですけれど」
「それは絶対に勿体無いよ! 僕もそうなんだけど、飲んだら美味しいと皆が思ったんだ。だから、女性をターゲットにするのもいいと思ったんだよ」
「カフェオレにはカフェオレの、ブラックにはブラックの味がある‥‥私も飲んで初めて気付きました♪」
 担当者は唸り声を漏らす。
「面白いと思いますがターゲット層の変更となると上の意見も聞かなければならないので社に持ち帰って前向きに検討させていただきます」
 物足りない返事だが、その表情は力強い。手応えを感じ、一同は姿勢を正して頭を下げた。
「「「よろしくお願いします!」」」

 そして翌日、デイリー・ドリンクより一台のバンが到着した。
「OK出ました、やってみましょう! ただ、飲めば解る=飲まないと解らないということですから、皆さんも、ご協力をお願いしますね」
 そう言って開けられたバンの後部座席には、ノワールがダンボールでずらりと並んでいたのだった。


●スタッフロール
出演
 愛瀬りな

 ベス
 姫乃 舞
 角倉・雨神名

 月見里 神楽
 アマラ・クラフト
 小鳥遊真白

 甲斐・大地

 藤元 珠貴

メイク
 藤元 珠貴

AD
 緑野・夏樹

撮影助手
 緑野・夏樹
 小鳥遊真白
 愛瀬りな

テーマ曲
『Bitter You』
 碓宮椿
『小さな魔法』
 ラム・クレイグ

演奏
 ギター アマラ・クラフト
 キーボード 小鳥遊真白
 ベース 月見里 神楽

企画・製作
 デイリー・ドリンク
 SSS−Advertisement