CLUB☆M●●Nアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 やなぎきいち
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/26〜10/30

●本文

 ブラックアウトした画面に紫の光が一筋走る。白銀の月が浮かぶ。
 切り裂かれたような直線から滲みだす紫とピンク、そして白銀の光──‥‥
 映し出されたブランデーのグラスに浮かんだ透明の氷が光を跳ね返すと、その輝きは白銀に変わり画面に溢れ──‥‥
 アングルが引くと画面の隅から闇が滲み、輝きの丸い輪郭を浮き彫りにする。
 紛れもなく月そのもののその映像に紫の光が『CLUB☆M●●N』の文字を浮かばせる。

 それがCLUB☆M●●Nのオープニング映像だった。
「ちょっと安っぽくないですか?」
「いや、充分だろう。深夜の番組に期待してる客なんていやしないさ」
 ちょっと待て、作り手側がそれってどうなの。
 しかし番組の予算はカツカツで、その予算の大部分はゲストに支払われるギャランティに化けてしまう。
 けれど、この番組の目玉は少ない予算から大盤振る舞いするギャランティとコネとコネとコネで呼ぶゲスト、そして残りの予算から支払われる少なすぎるほどのギャランティで呼ばれる売れないホストたち。
 もちろん本物のホスト──ゲスト次第ではホステス──が出てくるわけではなく、その役は主に売れない芸能人の仕事になるようだ。
 彼らが自分の得意分野──時には甘い言葉で、時には演技で、時には歌で、時には芸で、そして主に顔と体でゲストをもてなすのだ!!
 もてなされるゲストが満足すればギャランティが支払われる。満足しなければ支払われず、ギャランティは次回に持ち越し、番組的にも予算が浮けば言うことなし☆

 しかしホストたちの目的はお金──の人もいるかもしれないが、ゲストへのコネ、コネ、コネ!!
 あの大物ゲストを癒し、気に入られれば! ゴールデンへの道が開かれる!!

 ──かもしれない。

「月のように満ち欠けするのはホストも、ギャラも、何もかもだな」
 苦笑したのは誰だっただろうか。
 とりあえず、番組スタッフはあちらこちらに(予算の関係で)小さな広告を掲載した。


 ──ホスト(ホステス)求む!
 初回ゲストはあるときは小説家、あるときは恋愛指南役、あるときは辛口評論家、ヒメ・ニョン!!
 君は彼女の底なしの欲求を満たせるか!?

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0261 紅・燐香(25歳・♀・兎)
 fa0474 上村 望(20歳・♂・小鳥)
 fa0684 日宮狐太郎(10歳・♂・狐)
 fa0768 鹿堂 威(18歳・♂・鴉)
 fa0856 実夏(24歳・♂・ハムスター)
 fa1420 神楽坂 紫翠(25歳・♂・鴉)
 fa1423 時雨・奏(20歳・♂・竜)

●リプレイ本文

●シーン0
「その耳、どうにかならへんの?」
 氷咲 華唯(fa0142)の頭にぴんと立っている黒い耳を指して、実夏(fa0856)は溜息を吐いた。
「俺、普段からこういう感じで売り出してるから、いつも半獣なんだけど」
「あんまり堂々としとるとWEAから怒られるで」
 獣人たちの組織であるWEAから唯一絶対の戒律として課せられているのは『獣人の存在を世間に知らせず人類と共存していく』というもの。獣耳コスプレがあまりに増えては不自然だと実夏は思う。
「まあ、ハロウィン仕様だと言い張れば誤魔化せんこともないやろ。半獣が一人きりやと画面が寂しゅうなるけどな」
 時雨・奏(fa1423)が機転を効かせなければケイの耳を引き金にちっぽけな番組でちっぽけなトラブルが発生するところだった。
「でも、予算はかなり少ない──のですよね? 私たちがテレビなんていうメディアに出ることができるのもギャラの関係だそうですし。はい、実夏さんどうぞ」
「おお、すまんなー」
 実夏へコーヒーを淹れた上村 望(fa0474)が姿を見せた。コーヒーの香りは現状を映すように苦味を漂わせていたが、運んできた望の丸みを帯びたメガネや穏やかな雰囲気はミルクたっぷりのカフェオレを思わせ空気を和らげる。
「うーん‥‥手作りにしたら多少はお金も浮くんじゃないでしょうか?」
 愛用の湯飲みに注いだスタッフ用の出涸らしのお茶──ちなみにコーヒーは保温されっぱなしで煮締まっている──を嬉しそうに啜りながら、日宮狐太郎(fa0684)が微笑んだ。
「そうだな‥‥他にも、服はできる限り‥‥自前で準備して‥‥小物は持ち寄れば‥‥浮いた予算をレンタルに回せる、と思う‥‥」
 女性と間違えるような柔らかな印象の面持ちから、神楽坂 紫翠(fa1420)は男性の声を発した。
 言葉にしたらそれが一番良い気がしてCLUB☆M●●Nはハロウィンバージョンで開店することに決定☆
「気を使わせて悪いな」
 飄々と悪びずに言うケイ。その黒い猫耳に‥‥まぁ猫やし仕方ないか、と無理やりに自分を納得させる実夏だった。


●シーン1
 ADの合図で暗闇にスポットライトが落とされる。暗闇に浮かび上がった紅・燐香(fa0261)は目を細めて用意してきた口上を述べた。
「毎回選りすぐりのスタッフがお客様に甘美な時間をご提供する、夢と現の間に存在する店‥‥それが『CLUB☆M●●N』。果たして今夜は、どの様なお客様との出会いがあるのでしょう?」
 流れるように紡がれた言葉に内心ガッツポーズ☆ 練習の成果はバッチリ♪
「お客様をお迎えする前に──今宵皆様にひと時の愛と夢をお届けいたします、当店自慢のホストをご紹介いたしましょう」
 ライトが消える。この空白の時間にスライドが合成されることになる。ポラロイドにそれぞれ手書きで名前を書いたものだ。
 ADの手が再び数字をカウントする。合図と共に銀色の光に照らされた男性が歩みを進めた。直前、6枚目のスライドで『自称・愛の伝道師』という走り書きと共に白い歯を煌かせていた鹿堂 威(fa0768)だ。
「ステキなお嬢さん方、ようこそ当店へ。ゲストと貴女のためのおもてなしを心ゆくまでご堪能ください‥‥」
 黒い翼を持ったアキラが優雅に一礼すると店内は暗転。そして控えめなライトが燈された。照らされる店内、古城を思わせる石壁は紙か布か。ソファーにはオレンジと黒の──予算の都合でナイロンの布が掛かり、アキラを中心にハロウィンの仮装をした5人のホストがずらりと並んでいた。黒い衣装が多いのは店の性質とホストたちの本来の姿の都合であろう。
(「黒とオレンジでハロウィンか。イメージの立っとるイベントは楽でええなぁ」)
 苦笑する奏はセットを眺める側。これからが腕の見せ所★
 重厚なクラシックを邪魔にならないよう徐々にフェードインさせていく。
「本日のお客様は、あるときは辛口コメンテーター、あるときは恋愛指南役、世の女性を鋭く斬り美しいものをこよなく愛する風流人‥‥世を席巻する小説家、ヒメ・ニョン様です、どうぞ!」
「ヒメ姉様、店内は暗いですから足元に気をつけてくださいね」
 愛らしいヴァンパイア少年に手を引かれご満悦のヒメ・ニョン、ご来店!! そのままちゃっかりゲストの隣を陣取るコタ、さすがである。
「安っぽい店ねぇ。まぁ、ホストクラブの真価はホストだけどね」
「それは‥‥これからゆっくりと‥‥」
 事前に好みの銘柄を調べたワインを出し神楽坂が微笑んだ。ワインだけで予算が大幅に吹っ飛んだが、ヒメに妥協したもてなしは許されない!!
 白シャツ、ネクタイ、黒のスラックスに革靴、そして忘れてはならないバックレスベスト──いわゆるバーテンのコスチュームに身を包んだ神楽坂は仲間を立てることを選択したのだろう、画面から外れるように身を引いた。
(「‥‥これで45歳? どう見ても‥‥30代‥‥ああ、化粧が厚いから‥‥か?」)
 ある意味ナイトウォーカーより手強い相手との戦いの火蓋が切って落とされた!!


●シーン2
「いいワイン使ってるじゃない。私だからいいけど、味のわからないゲストだったら勿体無いわよ」
 にやりと口元を歪めて笑うヒメ。どっしりした体格とどこか高圧的な態度と相まって、反論を許さない雰囲気を醸し出す。けれどその笑みを赤い瞳で真正面から跳ね返すケイ!
「そんなの、ヒメさんだから出したに決まってるだろ。喜んでくれないの?」
「ケイさん言葉遣いが‥‥」
「あ。‥‥ヒメさんだから出したんです」
「構わないわよ、むしろ清々しいわ」
 おろおろと注意した望を手で制し、ヒメは再び笑う。敬語を使わねばと気負っていたがついつい犯した失態。しかし、幸運にも気に入られ──そんな空気を本能で察したケイはにぱっと笑う。猫耳との相乗効果でその自由奔放さが正しい姿に見えてくるから不思議なものだ。
「‥‥‥」
 おもむろに無言で懐からタバコを取り出したヒメに、ホストたちが一斉にライターを取り出す。
「気持ち良いわねぇ、一度やってみたかったのよ」
「私も一度やってみたかったんですよ」
 この仕事に際してホストクラブについて少し勉強したという望をヒメの視線が射抜く!
「メガネなら白衣でしょう!?」
「‥‥すみません」
 黒いローブにランタンを掲げた望はハロウィンの仮装らしく背中に翼を付けていた。
「ちょっとこっちにいらっしゃい」
 言われるがままに進み出た望の胸をさすり、ちょっと薄いわねと不満を漏らすヒメ。小さく舌打ちをしたのを、リンカは聞き逃さなかった。不満を見せながらも、照れて真っ赤になる望の胸をさわさわとさすり続けるヒメ。
「気に入られたなら隣に座らせましょうか?」
「ええ!?」
 瞬時に目を潤ませる演技力はさすがコタ。金髪のコタの、その大きな瞳が揺らぐとヒメのショタ魂が擽られる。
「隣はコタちゃんよ!」
「姉様、くすぐったいですよぅ」
 抱きしめて頬を摺り寄せるヒメ! 白粉が移るのもお構いなし!!
 ひとしきりコタと望を弄るのを待って奏が小さく合図を送るとホストたちが立ち上がる。何事かと眺めるヒメへ司会者が微笑んだ。
「ホストたちが一曲お送りしたいと用意していたのですわ」
「それは楽しみね」
 ワインを傾け、楽器を手に取るホストたちを眺める。
 裏では雑多な仕事を押し付けられた奏が仕事を切り盛りするために獣化し、雰囲気を出すためのハロウィンの仮装だと説明したり、荷物を運んだり、ヒメが絡んでいるホストのイメージ曲をかけたりとなんだかとても忙しそうだ。
 小さな耳と尻尾を出した実夏がキーボードの前に座り、神楽坂がフルートを取る。ケイがギターを手にするとアキラもギターを選んだ。即席のギグは自分たち自身の戦いでもある。
 セッティングだけ手伝いコタと望はヒメの側に戻る。
 実夏の長い指が白い鍵の上を、黒い鍵の上を、踊るように滑り始める。1フレーズ置きツインギターが走り出す!! 方向性を与えるようにフルートが優雅で繊細な音を流し‥‥ピアノとフルートを引き立てるように控えていたギターが徐々に立場を入れ替え絡まり合う。
 ピアノとフルートを殺さぬよう気を遣いながらも、お互いに一歩前に出ようと反目し合うアキラとケイ。時には技術力で時には音量で争っていた二人のギターを調整する奏は今にも切れんばかりに神経が張り詰める。
 やがてフルートのソロとピアノのソロを経て2台のギターがお互いの実力を認めていく。二人がお互いを立てながら演奏するようになるまでの数十秒間は奏にとってとても長い時間で‥‥やがて曲が終わった時にはドッと疲労感に包まれたのだった。
 セッションの心地よい緊張感に滲んだ汗‥‥それすら店内の照明でエロティックに浮かぶ。僅かな疲労を感じさせながらアキラがヒメに爽やかな微笑みを向けた。
「ヒメさんの作品で一番好きな、中世イギリスを舞台にしたファンタジーのシリーズをイメージしてみました」
「うん、白と黒の神聖騎士が禁忌を超えて惹かれ合っていく様がとても良く出てたわよ」

 ──そんなシーンは誰もイメージしていなかったのだが。


●シーン3
「‥‥ギターに食われるかと思ったけど‥‥楽しかった‥‥良い経験だな‥‥」
 グラスが空きがちなことを気にした神楽坂、ヒメの背後に控えるように急遽路線変更。立ち姿も美しいのはモデルもこなす彼だからこそ。
 やがて話題は恋愛と小説へと移っていく。
「僕もヒメ姉様の小説大好きです。恋愛小説って夢がありますよね」
「小説みたいにうまくいかないのが現実なのよ、コタ君」
 深い溜息と共に言ってのけたのはリンカ。実感の篭った反応にヒメが反応!
「何か悩みがあるのね? 話してご覧なさい」
「‥‥恋人と長続きしないんです。お前みたいな押しの強い女とはやっていけない、ってもう10回以上毎回毎回同じ理由で振られて‥‥」
「それはあんた、リンカって言ったかしら、まだまだ押しが足りないのよ。あたしを見てごらんなさいな、うちの旦那はそんな事言いやしないわよ」
 縋るようなリンカの視線をまっすぐに受け止めて放たれた自信に満ち溢れたヒメの言葉にホストたちは‥‥正直、引いた。
「あんたに足りないものは強さよ。そんな事言わせないだけの強さが必要なの! それでたまに弱いところでも見せれば、彼氏はもうあんたにメロメロなんだからね」
「‥‥はいっ! 頑張りますわ、先生!!」

 ──リンカの恋人になる男はとても度量の大きな男に違いない。

「恋愛小説といえば‥‥俺な、耽美なんて絶対アカン。読める訳ないて思うとったけど、読み始めたら面白かったわ。ヒメさんの作品」
「気に入ったなら次は実践ね!!」
 言い放ったヒメにリンカがさっと箱を取り出した!
「こちらにあるカードを用いてシチュエーションを作っていただき、当店のスタッフに演じさせる‥‥というのはどうでしょう?」
 愉し気な笑みを浮かべたヒメは躊躇わずカードを引いた!
「‥‥それじゃ、実夏と望に演じてもらいましょうか」
 カードを確認したヒメは目に付いた二人を指名し、アキラを隣に呼んだ。
 早速、ヒメの作ったシーンが展開してゆく‥‥


●シーン4
 ピアノを弾く実夏を背後から抱く望。照れの残る赤い頬を隠すように灰色の髪に顔を埋めた。
「私の心も身体も貴方の印が刻まれているのに、それでも私を選んではくれないのですか‥‥?」
「‥‥悪い」
 ハスキーな低音ボイスに拒絶された望は僅かでも希望を見出そうと実夏の顎に触れ、顔を自分に向けた。正面から瞳を見つめ‥‥救いを求めるようにアキラを見た。アキラはヒメをぐっと抱き寄せ、演技指導するように唇を重ねる。
(「演技に徹しろ、望!」)
「‥‥実夏さん‥」
 揺らぐ瞳に演技の続行不可能を悟った実夏はヒメの台本を逸れてアドリブで切り返す。
「キスならいくらでも、望むだけしてやれる。けどな、それ以外はやれんのや‥‥」
 決して巧くはない演技のたどたどしい言葉が、却って感情を感じさせる──けれど我慢できなかった。
「僕の留守中に手を出そうなんて、甘いですよ。実夏さんは僕のものです。ヴァンパイアの血の魔力には誰も逆らえませんから。十字架でも用意して出直してくださいね」
 子役とは思えぬ演技力のヴァンパイアが乱入し望を押しのける。実夏の膝に腰掛け首に腕を回して嫣然と微笑んだ。勘良く意図を悟った実夏が小さな身体を力いっぱい抱きしめる!
「遅いやん‥‥」
「ごめんなさい。ケイさん、望さんがお帰りです」
「え? ‥‥悪いことは言わない。戻れるうちに戻れ、日の当たる場所に」
 突然のアドリブを受けたケイが飛び込み、望の腕を引いた。ピアノの前に2人を残して。
「忘れないでくださいね、実夏さんは誰のものか」
「大丈夫や。コタのいない人生なんて‥‥」
 相手が少年だということに躊躇う実夏に笑みを向け、その頬に口付けて優しく灰色の髪を撫でた。

 ──照明が落ちて、ゲーム終了。

「鬼畜ショタ、美味しいわね!!」
 アキラの腕に指を這わせながらヒメは皆の名演技を称えた。
「それじゃ、次は‥‥」
「ええっ!?」

 その日の収録は8時間にも及んだと言う──‥‥


「ヒメ・ニョンさんの直筆サイン入り最新作『上海魔都物語』を3名の方へプレゼントいたします。ハガキに住所・氏名・年齢と番組の感想をお書き添えの上、ご覧の住所まで‥‥」
 奏が急いで作り上げたヒメとホストたちを模したちま人形の後ろでリンカがにっこりと微笑む画の上を、テロップが流れていく。
 初出演した深夜番組を眺めながら、実夏は下克上を誓った。
「いつか俺も、ゲスト側に行ってやるで」