Sound source stationアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
やなぎきいち
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
難しい
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報酬 |
2.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/01〜02/05
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●本文
●SSS収録スタジオ
夜とは縁もゆかりもなさそうなエンディングテーマが流れるなか、パーソナリティーの青年は手元のスイッチを切り替えた。
「さて、今週もそろそろお別れの時間なんだけど。ここで僕から1つ、素敵な報告があります!」
ポップス界の新星と売り込まれていた青年はコンスタントに売れる曲を歌う、ケット・シーのヴォーカル、JCことジュエリーキャット。ギタリストのグリマルキンとは仲が悪いという触れ込みだが、真相は謎。リスナーはグリマルキンはスタジオにいるが、極度に無口なためラジオでは存在が判らないだけだと思っているようだ。ちなみにケット・シーはアイベックス所属のユニットである。
「この番組にも目玉コーナーが欲しいよね、ってさっき話してたよね? あれを聞いてたうちの部長がポンッと企画を出してくれたんだ」
「‥‥番組内で、プロアマ問わずCMソングを募集する。その中から最もイメージに合っていた曲を採用して、CMを作る‥‥」
「うわっ!? グリマルキンいつから居たの!?」
「‥‥‥‥‥」
こんなことがあるからそこにいるのかいないのか判らないなど言われるのだが。
それはさておき、行動力溢れる『部長』のコネと根回しと後押しでとりあえず試しに1回開催されることになったようだ。
「それじゃ、テーマの発表だよ、じゃじゃーん!! 記念すべき第1回目の商品は『花』です!! スポンサーは『花エンジェル』さんです、ありがとうございまーす!」
「花だけに、華々しい曲‥‥‥そんな下らない解釈はいらない‥‥」
「そうだよね。一番売り出したい花とか、どんなシーンで贈る花なのかとか、色々考えてみてね」
商品イメージを損なわず、できることならイメージアップを図り、商品を印象付け、なおかつ曲も印象に残し、そして規定の日数で仕上げなくてはならない‥‥CM用の曲は作詞も作曲も酷く難しいのだ。
「あ、忘れるところだった‥‥。審査員は『花エンジェル』のCM担当者さんと僕らケット・シー、それからリスナーでもある我らがアイベックスの『部長』です! それじゃ、曲の応募もスポンサーへの立候補も待ってるからね、また来週〜♪」
「この番組で扱うのはポップスだと言うこと‥‥忘れずに」
ボソッと呟いたグリマルキンの言葉は基本でありとても重要なことだったようだが‥‥果たしてマイクが拾っていたのかどうか、それは二人には判らないことだった。
●リプレイ本文
●SSS−収録−
『Sound source station!!』
エコーの掛かったジュエリーキャットことJCの声が響く。グリマルキンの声がないのはいつものことである。
「さて、先週の番組ラストで募集した『花エンジェル』さんのCMソングなんだけどね、いくつか応募が来ました! 一通もなかったらどうしようかと思ってたんですよね、僕も一安心だよ、良かった〜」
所々ですます口調でなくなるのは、おそらく其方が素の口調なのだろうと自然にそう思える。取り繕った感のあるのはやはり丁寧な口調であったからだろう。
「で、折角だから応募者にスタジオに来てもらいました! ‥‥あ、そうは言っても一人だけ18歳未満の子がいたから、その子だけは残念ながら録音にさせてもらったんだけどね。14歳未満の子が出歩いていいのは18時まで、18歳未満の子が出歩いていいのは22時まで、ってね」
それではゲームセンターの店内放送である。‥‥と、それはさておいて。
「それじゃ、早速応募者の紹介をさせてもらおうかな。まずは、今回の応募のためにユニットを組んだという2組から、自己紹介をどうぞ!」
「L&Cヴォーカルの、愛を謳いロックを歌うココロの調律者LUCIFELだ。曲は感謝・友情・親愛・情熱など『幸福』や『大切な想い』をイメージしてみた」
LUCIFEL(fa0475)は簡潔に自己紹介をすると豊城 胡都(fa2778)へとマイクを譲った。
「花って‥‥人をそういう気持ちにさせるって僕は思いますし‥‥気持ち良く演奏できればいいなって思います。同じくL&C、楽器担当の豊城胡都です。よろしくお願いします」
「陸琢磨だ。普段はダンスヴォーカルをしているんだが、今回はレオンと組む事になった。作詞は俺が、作曲はレオンがしている。歌自体は二人で歌う感じだな‥‥っつ!」
小さく声を上げたのは、陸 琢磨(fa0760)の脇を小田切レオン(fa1102)が抓ったからだ。
「琢磨、ユニット名が抜けてるぜ? 『BALMY BREEZE』で同じくヴォーカルをする小田切レオン、CMテーマソングのオーディションなんて初めてだけど、全力で頑張るぜ‥‥です!」
ユニット名が抜けている、ではなく言葉に気を使えと言いたかったようだがレオン自身もあまり敬語を使い慣れてはいないようである。しかし黙っていられない辺り、面倒見が良いというかなんと言うか。
「男性のツインヴォーカルか、アイドル以外じゃ珍しいかもしれないね。どんな歌か楽しみにしてるよ。後は皆ソロなのかな? じゃ、一人ずつ順番にどうぞ」
「森守可憐と申します、どうぞよろしくお願いいたしますね。月並みですが、想いを秘める方々へ‥‥言葉にも、文章でも伝える勇気が無くて、花言葉に思いを添え、奮闘している心境をイメージしてみました」
マイクを手渡された森守可憐(fa0565)が丁寧に頭を下げながらまず挨拶を述べた。『レディにはアプローチしなきゃ失礼』が信条のルシフはたおやかなカレンに声をかけたくてうずうずしているようだが、そこは場面を弁えてグッと堪えている様子。気付かず会釈するカレンもある意味なかなかの大物かもしれない。
「野村承継、作曲家を生業としている。この企画に興味を惹かれて一曲手がけてみようと思った次第だ。正直ロートルには荷が重いかもしれんが自分なりにやらせて貰うとしよう」
野村 承継(fa0237)は片眼鏡の奥で目を細めた。企画の運営側であるケット・シーの2人や自分の子供といった年代の応募者たちを半ば見守るような心境もあるのだろう。
「不破響夜、普段は駆け出しのヴォーカリストをしてます。‥‥あの、演奏楽器はアコースティックギターを使用したいところですが、演奏スタッフはお願いできるんでしょうか?」
普段の口調とは違い敬語らしいものを滲ませた不破響夜(fa1236)の言葉に、JCはガラス越しにプロデューサーと困惑の視線を交わし、ヘッドフォン越しの指示を受け言葉を選びながら慎重に対応する。
「うーん‥‥ラジオの一企画だからね、そこまでは用意してないんだ。一応、完成した曲での応募という形にさせてもらっているからね」
同じく人手の足りないL&Cは、事前に胡都が他パートの録音を済ませている。この番組自体がCMソングを作るという番組であるならいざ知らず、番組の1コーナー、しかも試験的な初回に期待をかけるべきではないと‥‥そこまで考えていたかどうかは謎なのだが。
「あとは、録音で対応させてもらった麻倉千尋ちゃん」
『麻倉千尋です! 皆さんと一緒の場所で演奏できないのは残念ですけど、一生懸命頑張って歌うですよ♪』
録音されていた麻倉 千尋(fa1406)の声が流れる。
そんな自己紹介が終わるころ、花エンジェルの広報担当者がスタジオに駆け込んできた。ガラス越しに訪れた男に気付き、グリマルキンがJCに合図を送る。
「花エンジェルの工藤さんも見えてますし、早速はじめましょうか。まずは──‥‥」
ヘッドホンを通じてディレクターの指示が飛び、第一奏者が決定した。事前に編集を済ませたテープを準備し、フルートを用意した胡都と軽く咳払いをしたルシフがマイクの前に立った。
「L&Cで『Cross Mind』です、どうぞ!」
アップテンポなジャズを思わせる、明るく軽快な音が流れ始め‥‥全身でリズムを刻むルシフからハイトーンヴォイスが溢れ出す。
♪僕の胸にある想い
言葉だけじゃ伝えきれない♪
胡都に息を吹き込まれ、フルートの澄んだ音がルシフの声を引き立てるように重なっていく。
♪smile for you このまま
想い固まり 一つずつに 届くメッセージ♪
他人と組んでいた経験が人を引き立てる術を学ばせた。それは確かに強みである。
♪kokoro 笑顔で溢れてる
太陽が迎えてくれる 天気も何事も
All smile the highest smile♪
しかし承継先生の耳には事前に録音され編集された、恐らく半獣形態で作成されたのであろうテープの強い印象と、ボーカリストの地力の乖離が印象に残った。
「うん、僕は好きです。花エンジェルさん‥‥の感想はあとで聞きましょうか。続いて、もう1つのユニット『BALMY BREEZE』で、曲は『恋華』です。どうぞ」
アコースティックギターを構えてマイクの前に立った琢磨が切なげに口を開くと、普段より高めの音域で歌い始めた。
♪いつか紡いだ想いが 淡い風を纏う
儚い想い 泡沫の想い♪
琢磨の高めに設定した音域に合わせ、何かに祈るかの様にレオンも歌を紡ぐ。
♪そんな想いでも ボクらは紡げるんだね
どんなに儚くても 想いは消えない♪
想い焦れる様に優しく歌う琢磨と、静かに、切なく祈るように歌うレオンの声が歩くように緩やかに、andanteのテンポで重なり合う。
♪喩え枯れたとしても また芽吹くから
可憐な恋と言う華が‥‥♪
「あの‥‥これ、入学や卒業シーズンに合わせていると仰っていましたよね?」
「ええ、そう言っていましたよレディ」
同じ力量の者の奏でる曲は、そのハーモニーも耳に馴染み易い。しかし、それはどう聞いても恋の歌で、カレンはルシフに小さく尋ねた。ここぞとばかりに恭しく手を取るルシフに会釈を返す天然のカレン、彼女の耳に恋の歌に聞こえたのはその歌詞ゆえだろうか。焦がれるように切なく歌う二人の姿が尚更そう感じさせたのは間違いない。
そのカレンが次の歌い手である。カレンがマイクの前に立つとその白銀の髪と飾られた獅子宮の髪飾りに、白雪の肌と額に煌くシャムスに、整った容姿とそれを彩るスカーレットに、自然に目が惹き付けられた。
「では、次はNO TITLE、森守可憐さんです。どうぞ」
慌てることの無さそうな雰囲気で一度ゆっくり深呼吸をすると、鈴の鳴るような声で歌い始めた。
♪今日もあの花瓶に花を生ける。
『花言葉に気が付くかな?』
この想いを、
知ってほしくて 知られたくなくて♪
恥ずかしそうに、嬉しそうに、楽しそうに。恋心を女性の視線から紡ぎ上げる。
♪自分でも可笑しくて笑ってしまう。♪
軽やかな柔らかな曲。音楽面ではルシフ同様に荒削りだが流れる歌声は基礎から鍛えた歌い手のもの。
カレンの歌が途切れると、次は承継先生の出番である。
「野村承継さんです。野村さんはインストなんですね? こちらもタイトルは未定です、どうぞ!」
承継先生はピアノを希望したのだが自身はピアノを持っておらず、スタジオにもピアノは無かったため急遽キーボードを運び込んでの演奏となった──しかし、そんなアクシデントを思わせぬ演奏はさすがに年の功と言うべきだろう。
細い指が叩いた鍵盤から、軽やかに流れるようなニューエイジミュージックが溢れ出した。
──奏でられるのは花畑を渡る風を、舞う花びらを、スタジオに感じさせる曲である。
幼い少女が満面の笑みで花束を差し出す‥‥そんな風景を脳裏に描いて、ラジオを聴いていたまくらんは思わずメロディラインをなぞる様に口ずさみながら頬を綻ばせた。
「野村さんはフルバージョンとCM用のショートバージョンを用意してくれていたんですが、演奏は放送時間の都合上ショートバージョンでお願いしました。あとは不破響夜さんと麻倉千尋さんなんですが‥‥響夜さんはちょっと音合わせ中なので、先に麻倉さんの曲を、録音で聞いてください」
アコースティックギターでの伴奏を希望していた響夜のために、急遽胡都が演奏に協力することになったのだ。グリマルキンがギターを手にして僅かなやる気を示したのだが、それでは不公平になってしまいますから、と。
さて、またしてもタイトルのない曲である。実家では普通に『家にあるもの』だった花、一人暮らしを始めてからは大分見ていなかった花。花エンジェルで買った黄色や白やピンクのスイートピーを周囲に置いて歌ったまくらんの歌だ。
マリンバのような柔らかな音がスピーカーから流れると、その場に緊張が走った。
♪算数テストでいい点取ったよ
お魚屋さんおまけしてくれたよ
なんて事のない一日だけど
ほんのちょっとだけ嬉しい一日♪
ほんわりとした澄んだ高い声。得意の民謡とは違う、アイドル的な可愛らしい歌い方。声質を理解した歌い方である。
カレンと比べて遜色のない鍛えられた歌声であったが‥‥グリマルキンは僅かに眉目を曇らせ、JCはプロデューサーと視線を交わした。それが何を意味しているのか、琢磨とレオンにもすぐに判った。
──まくらんは完全獣化をして演奏をし、歌った。そして恐らく編集までも。
人間形態でこれだけの実力があれば、もっと名が売れているはずである。
♪なんでもない日に花を買って帰ろう
なんでもない日に花を買って帰ろう
いつもよりもちょっとだけ嬉しい日だから
なんでもない日に花を買って帰ろう♪
花屋のCMとしては歌詞も文句無し、子供の好みそうな耳に残る単純なメロディーはCMソングとしては的確だ。
‥‥その演奏方法が波紋を呼ぶであろうことを度外視すれば。
曲が途切れ不意に訪れた沈黙を取り繕うようにJCが口を開いた。
「それじゃ、最後は──これも曲名未定だね、不破響夜feat.胡都、どうぞ!」
器用にもアコースティックギターも使いこなす胡都。持ち前の穏やかな雰囲気で弦を弾く。
爪弾かれる懐メロ調の音に合わせて低めのハスキーボイスが放たれた。
♪感謝のこころ 尊敬のこころ
思慕のこころ 愛するこころ
いろんな思いを その中に込め
花を贈ろう あの人に
思いを告げたい あの人に♪
響夜が作り上げた曲は、歌は、まくらんの曲と同様に耳に残るCMらしい歌だった。
歌のインパクトが同じであれば、勝敗は──‥‥
「うーん、花エンジェルの工藤さん、どうですか? 一通り聞いてみての感想は?」
「あ、花エンジェル広報の工藤です、リスナーの皆さん、初めまして。花エンジェルや花のイメージからこんないろいろな曲が聞けるとは、正直思っていなかったので驚きました。ケット・シーさん、こんな機会を設けて下さってありがとうございます」
恐縮する工藤氏へJCがにこやかに首を振る。
「こちらこそ、こんな唐突な企画に協力してもらって、ありがとうございます。──で、どうですか? CMにしてみたい曲はありましたか?」
「正直、迷っているのですが‥‥麻倉千尋さんの曲が花エンジェルらしかったので優勝にさせていただきます。ただ、CMとしてのインパクトに欠ける部分は否定できませんので、不破さんや他の皆さんの曲も持ち帰りCM用の曲を選定させていただきます」
「‥‥工藤さんけっこうハッキリ言いますね」
「いやぁ、そうでしょうか〜? まあ、CMは安い企画じゃないですからね。仕事は仕事としてお答えさせていただきました。もしもう一度機会があれば、今度はCMサイズではなくてタイアップ曲のつもりで作っていただきたいですね。その方がCMを作る時にもイマジネーションが広がりますから」
「そうだね、次回からはそうしようかな。っと、時間押してるみたいだからこのコーナーはこの辺で。またCM明けにね〜♪」
『Sound source station!!』
エコーの掛かったジュエリーキャットの声が響いた。