SSS−Advertisementアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
やなぎきいち
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
12人
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サポート |
0人
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期間 |
02/21〜02/25
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●本文
●ラジオ企画とインターネット
SSSこと『Sound Source Station』のホームページのアクセス数がここ数日増加している。
というのも、番組内の企画で流れた曲の視聴ができるからだ。ポップスを流す音楽番組であるから、リスナーも音楽に対してはアクティブなのだろう。
♪算数テストでいい点取ったよ
お魚屋さんおまけしてくれたよ
なんて事のない一日だけど
ほんのちょっとだけ嬉しい一日
なんでもない日に花を買って帰ろう
なんでもない日に花を買って帰ろう
いつもよりもちょっとだけ嬉しい日だから
なんでもない日に花を買って帰ろう♪
「なんでもない日に花を買って帰ろう♪」
マリンバのような耳に優しい心地良い音色を聞きながら、Rはサビを口ずさむ。曲をアレンジするように指がキーボードを叩く。
Rの目の前には『SSS−A』というロゴが踊っていた。インターネット上でのCM企画の仮称である。
正式名称は『Sound Source Station−Advertisement』という。Rはその担当者だ。
担当者Rはラジオ番組名のSSSこと『Sound Source Station』に対抗して『Advertisement that Attracts Attention』と名付けたかった。しかし「長すぎる」だの「センスが無い」だの「ラジオ番組と繋がっていない」だの評価は散々で、結局ありきたりのタイトルで落ち着いたようだ。
『SSS−A』はインターネットでのみ閲覧できる、SSSのオプション的な位置付けの番組だ。流すものは言うまでもなく‥‥CMメイキングである。
♪感謝のこころ 尊敬のこころ
思慕のこころ 愛するこころ
いろんな思いを その中に込め
花を贈ろう あの人に
思いを告げたい あの人に♪
ナツメロ調の曲はメリハリが効いてどこか単調で、けれど園児や小学生から中高年まで幅広い層の耳に馴染む。花エンジェルの広告担当者はこの2曲を気に入ったようだった。
「恋愛系は今のCMと重なるから断る、アニメ系もNG‥‥か。寄せ集めでどこまでできるやら」
肩を竦めてすっかり冷めてしまったコーヒーを口に含むと、肩を鳴らした。CM完成までにサイトとして見られるものに仕上げなくてはならなくて、Rは再びキーボードを叩き始めた。
●リプレイ本文
●メイキングVTR
聞かされた数本のCMソングから2曲を選び出し、その曲のイメージに沿って撮影を開始。
メイキング用の映像にと、撮影の様子はSSSスタッフがほぼ常時カメラを回している。CM撮影用のカメラを回す有珠・円(fa0388)は何処か居心地が悪そうだ。
「気にしなければいいんですよ」
「そうは言ってもな」
のんびりした大曽根ちふゆ(fa0189)の言葉に軽く溜息を吐いた有珠だが、居心地の悪さ程度ではその腕に影響は無く。
打ち合わせに沿ってカメリハが順調に行われていく。
──しかし。
「うーん‥‥」
「なになに、何か思いつかはったん? 詳しゅう聞かして?」
コンテを眺めて唸る七萱 奈奈貴(fa2812)をパッと振り返り、文月 舵(fa2899)が訊ねた。
「ううん、メッセージカードが浮いちゃうかなって思ったんだ」
メッセージカードを『日常』と分類する者は少ないだろう。それは例えば誕生日やクリスマス、母の日や愛の告白といった非日常で使うという者の方が多いはず。日常をテーマにしたCMの中では何だか浮いてしまっている感じは否めない。
「でも、花束を貰う人と贈る人の関係をはっきりさせるためには削りたくないんだよね」
「そうやね‥‥それやったら、演技で表現してもろたらええんと違う?」
それが恋人なのか、家族なのか、友人なのか──そこは演技でも表現できる箇所だ。もっとも、相応の演技力が求められるだろうが。
「カメラ割りも変わっちゃうけど、その方がいいかな。ごめん、有珠君! ちょっと修正したいんだけど──」
「こうしてどんどん煮詰められて行くんですね〜。どんなCMになるか、楽しみですね♪」
思いっきりカメラ目線の湯ノ花 ゆくる(fa0640)操る花エンジェル人形が、メイキング撮影用カメラの画面の隅で、ぽふっと両手を合わせた。
●花エンジェルCM、Part1
クローズアップされた花は柔らかなパステル系。大きなバケツに挿された沢山の花からパステルピンクの衣装と同じ色のガーベラを見つけてにっこりと微笑む瀬名 優月(fa2820)。そこから数本を抜いて花束にしたちふゆは千円札と引き換えに優月へと手渡す。
♪算数テストでいい点取ったよ
お魚屋さんおまけしてくれたよ
スキップで通り過ぎていく稲荷 華歌(fa2759)が抱える、黄色のガーベラを束ねた色違いの花束を振り返り微笑みを零す。
♪なんて事のない一日だけど
ほんのちょっとだけ嬉しい一日
木野菜種(fa1681)のギターに合わせ、楽しそうに歌を紡ぐ涼原 水樹(fa0606)。その歌を聞いた優月が花束から一本の花を抜き、菜種のギターケースへ優しく投げて。溢れた笑顔に再び歩き出す。
♪なんでもない日に花を買って帰ろう
なんでもない日に花を買って帰ろう
いつもよりもちょっとだけ嬉しい日だから
インターフォンも鳴らさず、ちょこんと脱いだ靴を揃えると、大きな声で帰宅を告げる。
おやつを用意していた手を止めて、ティーポットをテーブルに下ろして。
お小遣いで買った花束を大好きな姉、藤元 珠貴(fa2684)の手に渡す。
なんでもない日に花を買って帰ろう♪
驚きの顔はすぐ幸せな表情にその色を変えて。
ガーデニングされた庭が見えるリビングで、花瓶に挿されたピンクのガーベラに笑みを零しながら、姉妹はティーカップを傾けた。
「──色んな想い、詰め込んで。花エンジェル」
現れた花エンジェルのロゴに合わせて鏡 紫乃(fa0448)のナレーションが入り、花エンジェル人形が手を振った。
●メイキングVTR
撮影の合間に、メイキングVTR用のカメラを意識し張り切っていたのはゆくるである。
片手に花エンジェル人形、片手にメロンパン。本人は幸せそうだが見ている方は何だか慌しい気分になってくる。
「人形、ベタつきそうだな」
カメラだけは死守しなければと心に誓い、有珠は相棒の動作チェックに戻る。
──バタバタバタッ
2本目の準備に取り掛かろうとした時に駆け込んできたのは高邑静流(fa0051)だ。
彼は撮影の補助ではなく、ロケハンに掛かり切り。それでも静流の気合いと足で稼いだロケハンがなければ花屋もセットだっただろうし、そもそも役所の道路使用許可を待つだけで作成の時間が無くなっていただろう。
「ごめんっ、ぎりぎりになったけどロケ地交渉何とか成功したよっ」
「やったわね、流石よ!」
ナレーションを押し付けられて何故か敗北感を味わっていた紫乃の表情も明るくなった。
「今春で廃校になる中学校だよ。在校生や地元の人もボランティアで協力してくれるって! 高校は受験とか卒業式の準備とかでどこでも断られちゃったんだけど‥‥でも大学も押さえたよっ」
セットで構わないと思っていた者もいたのだが、日常の雰囲気を出すにはロケでないとだめだと静流が全身全霊を込めて!! 主張したのだ。その成果は確実に、出来上がったCMに現れることだろう。
「ほな、急いで移動せえへんとな」
舵の言葉に現場は再び慌しさを取り戻す。
何故って花屋は共通なのである。移動時間を考えれば、戻ってきてから撮影するほどの時間はないのだ。
「それじゃ、皆急いで着替えて! 衣装はこっちよ!」
「紫乃様、ちょっと髪型変えたいんやけど、こんなんどうかなぁ?」
紫乃の声が出演者に指示を与える。そして小走りになる出演者──の腕を、咄嗟に掴んだ。
「言い忘れてたけど──男の子はあっちよ」
ピッと指差された先を振り返ると、奈奈貴がにっこりと微笑んでいた。花のようにひらひら振られた手に引き寄せられる蝶のように、真っ赤になった水樹は慌てて駆け出した。
●花エンジェルCM、Part2
しっかりと折り目のついた紺色の制服。胸には卒業生であることを示すリボンフラワー。
鼻の頭まで真っ赤にして、涙の跡をぐしぐしっと拭った華歌は卒業する学校を見上げた。
静流、紫乃、奈奈貴、舵が撒く桜の花びらが吹雪となって風に流されていく。
♪感謝のこころ 尊敬のこころ
「──!」
呼ばれた声に振り返ると、瞳に湛えた涙を必死に堪えながら立つ後輩、ゆくる。
揃いの制服を着ることはもう、ない。
差し出された花束を華歌が受け取ると、頑張って作ったゆくるの笑顔を目薬の涙が一筋、流れ落ちた。
♪思慕のこころ 愛するこころ
黒いブーツを映したカメラはだんだんと上に移動し。
濃い緑色の袴と、蝶と花柄の赤色中振袖に身を包んだ優月を写す。
凛々しく少し古風な雰囲気の妹に、淡いブルーのスーツを着た珠貴が歩み寄る。
両手でやっと抱えられる暖色系の大きな花束と慈しむ姉の笑顔に、堪えていた涙が堰を切って溢れ出した。
♪いろんな思いを その中に込め
様々な学校の様々な卒業式を、出演者が、エキストラが、演出していく。
後輩や先輩や家族が花束を贈り、嬉し涙や照れくさ気な姿に、また桜吹雪が降りかかる。
♪花を贈ろう あの人に
思いを告げたい あの人に♪
桜の花びらが舞う。風に揺られ、くるくる踊る。
門出を祝福する花を抱き、門出を祝福する桜吹雪を見上げると、
ピンクの花びらの隙間から陽光が一筋の光となって降り注ぎ──‥‥
花エンジェルのロゴが現れた。
「──色んな想い、詰め込んで。花エンジェル」
●メイキングVTR〜CM試写〜
「なんだか、面接試験を受けている気分ですね‥‥」
隣の珠貴が小さくボヤいて、華歌が頷いた。二人の思い描く面接は入社試験とオーディションでシチュエーションはそれぞれ異なるが、緊張感はどちらも共通したものだろう。
「まず、1本目ですが」
じっと流れるCMを見つめていた花エンジェルの広報担当工藤はややあっておもむろに口を開いた。ラジオで聞いた声に引けを取らぬ辛辣な言葉が飛び出す。
「曲を活かしきれていませんね。花エンジェルとしては何でもない日に花を買う、という曲のコンセプトを買っての選曲だったのですが」
そう、この曲のポイントは『何も特徴のない日に花を買う』という点。この曲を作った少女も、日常生活の彩りとなる花を思い描いていた。玄関であったり、出窓であったり、卓上であったり。
「でも、風景は日常ですし、常に花が見えているのもポイントが高いです。ちょっと甘いですが、95点というところですね。充分合格点です」
笑みを浮かべぬその表情故だろう、とても褒められている気がしない。
‥‥ラジオを聞いていれば、彼にしては良く褒めていると実感が湧いたかもしれない。
「2本目は、事前にしっかり連絡しておかなかった私にも非はあるのですが、ちょっとありきたりな物になったように思いますね。この時期、卒業・入学関係のCMが多いですから、ちょっと目立たないかもしれません」
「けれど、CM自体は悪くないと思います。その欠点をアイディアで取り返している、といった所でしょうか。これであれば、そのままCMとして使うことができそうです。単品ではぎりぎり及第点ですが、1本目と合わせてみれば充分に合格点──93点ですね」
──何、その中途半端な数字。
そんな思いが過ぎったが、あえて口には出さない。オトナへの階段第1段で学ぶこと、処世術の第一歩だ。
「予算が許せば、映画館で流したいCMですね。画面の華やかさ、カメラワーク、どちらも素晴らしいです」
やっと零れた微笑みに胸を撫で下ろす。差し出された手を有珠が握り返した。
すっかり冷えたコーヒーで喉を潤し、和んだ空気に支えられ、苦労話に花が咲く。
そんな中‥‥舵が工藤に声を掛けた。
「──あの、工藤さん」
「遊びで作った3本目があるんですけど、良かったら見てもらえませんか?」
静流と奈奈貴に背中を押され、水樹はぐっと身を乗り出した。
●花エンジェルCM、SSS公式サイト限定Var.
往来の人の波を遮るように、菜種のギターで水樹が歌う。
その音に背中を押されるように、黄色いガーベラの花束を抱えた華歌が小走りに駆けて行く。
♪ありがとうと ほころんだ君の笑顔が
花よりも綺麗だと 何度飲み込んだろう
画面に移る花屋には、絶えることなく人が足を止めて。
大きな、小さな、それぞれの花束を抱えて店を出る。
幸せは巡る、花束は巡る。
贈り、贈られ、想いも巡る。
花を贈られた者たちが、贈る花を求めて立ち寄るレンガ造りの花屋。
♪君の笑顔が見たいから
ささやかな勘違いをしたいから
桜吹雪の卒業式、涙を拭い花束を受け取り。
また溢れた華歌の涙に、優月の涙に、色とりどりの花が映る。
♪花一輪の勇気 手に握り締めて‥‥
歌が終わり菜種のギターだけが響く中、水樹は仰々しくたった一人の客に一礼した。
足を止め聞いてくれた優月が、ピンクの花束から抜いた一輪のガーベラをギターケースに差し出し、にこっと微笑んで駆けて行く。
「‥‥‥」
水樹はそっとガーベラを拾い上げて。
♪君の笑顔が見たいから
ささやかな勘違いをしたいから
歌いながら菜種の髪にそのガーベラを挿した。
「‥‥‥」
視線を交わし、微笑みを交わして。
二人は絶えることなく曲を送り出す。
花一輪の勇気 手に握り締めて‥‥♪
ズームアップされたガーベラに花エンジェルのロゴが重なり、紫乃のナレーションが差し込まれた。
「 ──色んな想い、詰め込んで。花エンジェル」
手を振った花エンジェルがくるりと宙返りをして、画像が白く染まった。
そして‥‥SSSスタッフの手によるエンディングテロップが流れた。
出演
藤元 珠貴
瀬名 優月
稲荷 華歌
湯ノ花 ゆくる
涼原 水樹
木野菜種
大曽根ちふゆ
美術、衣装
鏡 紫乃
演出
七萱 奈奈貴
文月 舵
音楽
木野菜種
涼原 水樹
テーマ曲
麻倉 千尋
不破響夜
撮影
有珠・円
ディレクター
高邑静流
企画・製作
花エンジェル
SSS−Advertisement