Sound source stationアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
やなぎきいち
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
2.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/25〜03/01
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●本文
●SSS収録スタジオ──On Air
夜とは縁もゆかりもなさそうなエンディングテーマをBGMに、パーソナリティーの青年、ジュエリーキャットことJCは手元のスイッチを切り替えた。
「さて、例のCMソング企画、CMが撮影に入りました〜!! 近いうちにインターネットサイトでメイキング映像を配信する予定なので、そちらもチェックしてみてくださいね♪」
ポップス界の新星とアイベックスより売り出し中、コンスタントに売れる曲を歌う男性ユニット、ケット・シー。JCはそのヴォーカルである。ギタリストのグリマルキンとは仲が悪いという触れ込みだが、真相は謎。リスナーはグリマルキンはスタジオにいるが、極度に無口なためラジオでは存在が判らないだけだと思っているようだ。
「さて、無事に第1回を放送して、CMも撮影に入ったところで‥‥じゃーん! 第2回が決定しました〜!!」
「‥‥物好きは、いるものだな‥‥」
「失礼だよグリマルキンっ。──とまあそんな訳で、2回目を実施することになりました〜。内容は前回と若干違うよ、気をつけてね。まず、テーマ‥‥というか商品に合った曲を作ってもらい、応募してもらいます。これは変わりません」
手元の資料に目を通しながら流暢に纏めるのはやはりプロに数えられる所以であろう。
「応募はプロアマ問いません、これも同じです。ただし、一時審査として事前に贈ってもらった曲──これはテープでもCDでもMDでもどんな形態でも構いません、この曲を番組スタッフで事前に審査します」
「‥‥それだけ応募があれば良──‥‥」
──ガッ!!
僅かに聞こえた音はJCのブーツがグリマルキンを容赦なく蹴り上げた音のようだ。僅かに表情を歪めるグリマルキンと涼しげな表情で説明を続けるJCの姿は、残念ながらラジオの向こう側のリスナーには届かない。
「で、一時審査を通過した方に事前に集まってもらって、スポンサーさんを交えて番組を作成します。つまり、このコーナーだけ録音になるわけだね」
でも応募者が18歳未満の時も一緒に審査できるし、スポンサーさんにも深夜のスタジオに来てもらうなんて迷惑かけなくても済むしね──JCは朗らかな声でそう続けた。
言うまでもなく、実際は獣化を防ぐためである。全力を尽くすという姿勢が悪いわけではないが、他の参加者が人間形態で勝負している場面では些か卑怯な印象を抱かせる事実は否めず、実際にスポンサーの眼前で演奏することになった場合は自分の首を絞めてしまう。
また、番組としても極端な実力差を示されると応募総数が減りコーナー事態の寿命が短くなるという危険性を秘めているのだ──もっとも、そんな番組的な裏事情はリスナーに明かされることはないのだが。
「それじゃ、今回のテーマの発表だよ、じゃじゃーん!! 第2回目のスポンサーはデイリー・ドリンクさん、商品はなんと、デイリーさんの新製品、大人の味のブラックコーヒー『ノワール』です」
「まだ、発売前の商品だそうだ‥‥二次審査の席で試飲ができる」
「でも作品を作る段階ではイメージだけだからね、大変だよ〜? ブラックコーヒーからイメージを膨らませるのは難しいと思うけど、頑張ってみてね。2次審査の審査員は『デイリー・ドリンク』のCM担当者さんと僕たちケット・シー、それからリスナーでもある我らがアイベックスの『部長』です! それじゃ、曲の応募、お待ちしてます!」
明るい声でタイトルをコールし、JCは手元のスイッチをオフに切り替えた。
●リプレイ本文
●控え室
「おはようございまーす! エミュアだよ、今日はライバルだけどよろしくねーっ」
溢れる元気を惜しげもなく振り撒いて、エミュア(fa0755)が控え室の扉を押し開くと、20分前にも関わらず、一次審査をパスしたのだと思われる数名が安物のパイプイスに腰掛けていた。
穏やかな笑みを浮かべる女性はエリーセ・アシュレアル(fa0672)と名乗った。
「作曲家らしい仕事がいただけるのは本当に久しぶりなので‥‥頑張らせていただきますわ」
ええ、もう娘に『ママのお仕事はなぁに?』って聞かれる切ない日々と別れてみせますとも、ええっ。
穏やかな微笑みの後ろから滲み出る並々ならぬ気配を感じ、葵・サンロード(fa3017)の背中に冷たい汗が流れ落ちた。
──こう言うところで仕事をやらないと、俺みたいな新人はなかなか目立てないからね‥‥がんばろう!
葵もそんな決意を抱いていたのだが、どうやら動機は様々なれど、その熱意は誰も彼もそう変わるものではないようだ。
元気なエミュアに負けぬよう碓宮椿(fa1680)が口を開きかけたその時、扉が開いて思わず目を見張るような大柄な男性が姿を現した。
「おはよーございまーす‥‥って、あれ? 俺、まだ遅刻じゃないよね?」
他の面子とは明らかに異質な倉井 歩(fa0265)に、曲の確認をしていた谷渡 初音(fa1628)とKanade(fa2084)も思わずその手を止めた。
その雰囲気、その独特なノリ‥‥そう、彼はまるで‥‥
「って誰だ、歌手に紛れてコメディアンが居るって言うヤツ! 俺はタレントよ、タレント」
「ああ、お笑いの人か〜」
「‥‥って、お笑いタレントじゃねぇ!!」
──ズビシッ!
納得した椿へ容赦のないチョップ!! 髪の分け目へクリーンヒット!!
「いったぁ‥‥何するのよ、分け目攻撃は卑怯よ! 分け目は禿げやすいんだからねっ!!」
‥‥たぶん。
自信なくそう呟いた倉井の言葉は椿の叫びにかき消され、誰の耳に届くこともなかった。
「なんか賑やかだねぇ。控え室だからかな?」
楽しそうに投げられた声は、パーソナリティーでもあるアイベックスのユニット、ケット・シーのジュエリーキャットのものだ。
──途端に張り詰める、緊張の糸。
「ああ、緊張させちゃったかな。スタジオの準備が出来たから、手の空いてた僕が呼びに来ただけなんだけどね」
「グリマルキンさんは?」
ラム・クレイグ(fa3060)はJCの相棒であるギタリストの名を口にした。ラジオを聴いている限り、忙しそうなのは常にJCであったから。
「ん? ああ、寝てたよ〜」
寝顔は無邪気なんだよねぇ。軽くため息を吐きながらも笑って言う彼を見て、ラムはケット・シーの二人は言われているよりずと仲が良いのだと思った。
「さあ、それじゃあスタジオに案内するよ」
●収録スタジオ
扉を開ければ先ず目に飛び込む、部屋を区切る大きなガラス。やや狭い手前には収録に関連する様々な機材。ガラスの向こう側にはスタンドにセットされたマイクが2本、それから大きなテーブルが1つ。差し入れらしい菓子や飲み物が並ぶ中にカフキーと共にマイクがセットされている。人数分のパイプ椅子に腰掛けて船を漕いでいるのはケット・シーのギタリスト、グリマルキンだ。
そしてガラスの手前にいるのは番組スタッフたちと、デイリードリンクの広報担当者だ。
「僕、実は番組リスナーなんですよ。今日は仕事ですけど、楽しみにしてきました。あ、こちらCMソングの対象になる、うちの新製品『ノワール』です。是非飲んでみてくださいねっ」
須藤と名乗った男は、抱えていたダンボール箱を下ろした。缶コーヒー『ノワール』と銘打たれたダンボール箱にはきっちり24本のブラックコーヒーが入っている。
「試飲、ちょっと楽しみにして来たんだよな♪」
「これが、ノワール? どれどれ‥‥」
Kanadeと倉井がまず手を伸ばす。やはりブラックコーヒーに食指がそそられるのは男性陣のようだ。
「やははっ‥‥私には、まだ、早すぎたかもっ。でも、大人の人は、こうゆうの好きなんだよね?」
早速口を付けたエミュアの口内に広がる苦味。浮かべた困り顔に尊敬の色を滲ませて大人たちを見回す。家族の想いの篭った紅茶を飲んだ時のように、ふわりと微笑んでいるエリーセにも、尊敬は向けられた。
「ボクにはちょっと苦いかも。この味のよさが分かる人って、大人だよねえ‥‥あ、歌詞にはそのイメージもちゃんと入れよっと☆」
椿はエミュアのようにちょっと苦手な模様。ペロンと苦味の染みる舌を出している。
「コーヒーの苦味はあるし酸味は少なめでなんかまろやかだな。女性も飲みやすいんじゃないかな」
──土産にいくらか貰っていいか?
そんなことを言い出すKanadeは人を遠ざけそうなクールに整った顔立ちに反して付き合いやすい人物のようである。実は面倒見の良い葵は口内に広がる味と歌詞との整合に意識が傾いているようで、容姿そのままに声を掛け辛い雰囲気だ。
「ああ、良かった。きっと、香りを大切にスッキリした飲み心地のいいコーヒーだと思って曲を作ったんです」
ラムもまた安堵の笑みを零す。作った曲のイメージがしっかり味と噛み合って、そういう意味でも味わい深いものがあるようだ。手に取っていたノワールの評判を聞きながら、初音は蓋を細い指で器用に引き開けた。コーヒーカップにするように、鼻に缶を近付ける。香りを嗅ぎ、ひと口含む。
「あぁ、コールドなのに口に広がる芳香(アロマ)は流石ね。深煎り焙煎‥‥フレンチブレンドに近い?」
「‥‥谷渡さん、デキますね」
にやりと笑う須藤に口角を上げ、初音は再び缶を傾ける。
笑みを交わす二人は、お互いの実力を認め合ったライバルのもの。なんだか体育会系のノリである。
「あ、普通に美味しい。最近の缶コーヒーってずいぶん良くなってるんだねぇ」
「キミ、ブラックの味なんて判るのか?」
次々に空けられ積み上げられていく缶に呆れ、その攻撃から自分の土産分を確保しつつ、Kanadeは倉井にため息を零した。
「失礼な。ダイエット中だから、コーヒーはいつもブラックなんだよ、俺は」
「‥‥コーヒーじゃないものを減らした方がいいと思うな。それじゃノワールが泣くよ」
「そんなことないですよ。発売してからもそれくらい飲んでくれればノワールも本望です」
自社コーヒーの声を勝手に代弁する須藤に、それもそうかとKanadeは苦笑を零した。
●Sound source station
『Sound source station!!』
エコーの掛かったJCの声が電波に乗り夜の街に響く。
「それではさっそく、一次審査を突破した皆さんを紹介します」
緊張した自分の手を落ち着かせるように握ってくれた初音の温もりを思い出し、葵はラジオの前できゅっと手を握った。
「クールな魅力の葵・サンロード!」
「え‥‥あ、葵です。こんばんは」
「癒し系の新星となるか、ラム・クレイグ!」
「こん‥‥こんばんは、ラムです。よろしくお願いします」
「ボーカリストの椿姫!」
「椿姫こと、碓宮椿だよ☆ リスナーのみんなっ、しふしふ〜♪」
「しふしふ?」
「新しい挨拶考えてみたんだよ〜。目指せ今年の流行語大賞!」
「あはは、壮大な野望だね。頑張って! そして今回のみの限定ユニット『ブラウンシュガー』Kanade&谷渡 初音!」
「こんばんは、ブラウンシュガーのKanadeです」
「谷渡です、よろしくお願いしますね」
「大人の魅力、エリーセ・アシュレアル!」
「作曲家らしいお仕事は久しぶりですけれど、頑張りますわね」
「リスナーにもファンがいるかな、元気いっぱいの歌姫エミュア!」
「エミュアだよ、よろしくー!」
「コメディアン代表、倉井 歩!」
「タレントですタレント!」
「一次審査を突破したのは以上の皆さんです。それでは早速、歌の方を聞かせていただきましょう。一番手は、葵・サンロード、どうぞ!」
「フォローもツッコミも無しかよ!!」
倉井の叫びを掻き消すように、重厚な管弦四重奏が流れ始める。葵の伸びやかな声が公共の電波をジャックする──‥‥
♪黒き沼に浮かびし楽園
そこにはゆとりと安らぎがある
管弦四重奏が、脳裏に雄大な大地を広げ‥‥
そして葵の声が、大地を支える泉へと導く。
♪疲れた心に染み入る水は
きっと心に響くだろう
拍手が響く中、グリマルキンが口を開いた。
「続いて‥‥エリーセ・アシュレアル‥‥どうぞ」
電波越しに、ピアノの旋律が流れる。
生演奏をするつもりだったがピアノを所持していないため録音で対応した悔しさを、愛娘の紅茶で飲み下すエリーセ。
ピアノ曲が脳裏に押し広げるのは、夏の風景。爽やかで綺麗に整えられたメロディがエリーセの心を洗い流す‥‥
♪ 〜‥‥
生活に馴染みつつある異国の言葉が、ソプラノの音域で広がる。
〜‥‥ ♪
いつしか共に歌っていたエリーセを、柔らかな手の拍手が迎え入れた。
「さて、3番手はブラウンシュガーで『裸〜〜Nudite〜』『仮面〜MASQUE〜』2曲続けてどうぞ」
♪玩具じみたアクセサリーも
うざったいレースも
媚びた笑みもいらないわ
素直な自分でいたい
Kanadeの弾くベースの音に絡みつくように、囁くような声が静かに広がる。
♪全て魅せて
どんな姿でも
かまいはしない
逃げたりしない
裸のままで
飛び込むから
貴方の全てを
見せて欲しいの
駆け引きじみたシャンソン風味の曲は続く。
♪優しい言葉と声で
プレゼントを捧げればいいの?
互いに仮面を被らせて
自分を隠し続けるのかい
対になった曲に気付き、どこかで受験生リスナーが顔を上げた。
Cメロを抜けサビに掛かるとベースからKanadeの低音へターゲットを変え、初音の声が追いかける。
♪甘すぎる口づけは(ほろ苦い口づけは)
もういらない(大人の証なの?)
誤魔化しのない真実の
ホントノキミガミタイ(ホントノアナタヲミセテ)
全て魅せて
どんな姿でも
受け止めてあげるから(裸のまま抱きしめて)
余韻を味わい尽くすと、グリマルキンは次の演者を紹介した。
「‥‥倉井 歩‥‥『ぴゅあ』、どうぞ‥‥」
ひゃらり♪
声に続いてアコーディオンの陽気な音が靡く。
♪不純な男とぉ〜「みんな愛してるー」
純粋な男ぉ〜「おまえだけだよ」
好きなのはぁ、どっち♪
くすくすと堪えきれない笑い声が毀れる。
♪不純な女とぉ〜「みんな大好きっ」
純粋な女ぁ〜「あなただけなの」
好きなのはぁ、どっち♪
‥‥じゃあ、コォヒィは♪
コミックソングは疼いた心を擽るように、陽気に2番まで続いていく。
♪〜‥‥
純粋な女ぁ〜「お風呂上がりだ」
好きなのはぁ、どっち♪
「まざりっけなし、飾らない純粋コーヒー『ノワール』誕生!」
ひゃららんっ♪
ビシッとポーズをきめた瞬間、とうとう噴出したJCと皆の笑い声がラジオから毀れる。
──よし、勝った!
ラジオの前でガッツポーズを決める倉井だった。
「あはは、はは‥‥ちょ、ちょっと待って! ‥‥は〜‥‥このムードを払拭できるかな、続いて碓宮椿で『Bitter You』どうぞっ」
JCの紹介に合わせて椿の抱えたギターが音を鳴り響かせた。
♪初めての時 合わないって正直 思ってたわたし
回りの皆も 合わないって本当 噂をしてた
簡単なコードの少し暗い曲調が、後半にかかり明るい雰囲気に切り替わる。
♪優しい言葉 かけられぬあなた だけど
不器用なこと 知っているわたし ほらね
ありのままのあなた 分かるには少し 時が必要だけれど
ありのままのあなた よさは本物だよ
ありのままのあなた 苦さも愛してるから
「次はラム・クレイグで『小さな魔法』お聞きください」
濃い茶系フレアスカートにニーソックスやボレロ、黒のインナー、桃色コサージュ‥‥審査の時の衣装を再び纏い、ラムはラジオの前で居住まいを正した。
♪鳥のさえずり
新しい朝に
香りたつ
Magie de cafe
始まりの合図
幸せのおまじない
風のさざめき
午後のまどろみに
ほろ苦く
Magie de noir
ひとときの休息
リフレッシュする
柔らかに弾むようなメロディライン。厚みのあるアルトと柔らかなソプラノの饗宴。
♪貴方を少し
元気にする
安らぎの魔法
La magie que la fee cafe noir applique〜♪
拍手が静まると、ライバルの歌が始まる。
「トリを飾るのはエミュア、どうぞ!」
♪おはよ おはよっ おっはよぉ
挨拶したら ごっくんとぉ
狙ったかのように同じテーマだった二人。
エミュアは椿の顔を思い出しながら、自分の歌を口ずさむ。
♪ノワール ノワールっ ノッワールゥ
おーやすみ前は〜っ 我慢かなぁ?
でも飲んじゃうっ♪
♪今日も 一日 おつかさんっ
明日も 一日 がんばろねっ
ノワール いつも ありがとぉ
「どの曲も魅力的なんですよね、僕も困っちゃいますよ〜」
「でも選ぶのは一曲ですからね?」
須藤の一頻りの賛辞のあと、参加者たちは部屋から辞した。
つまり、結果は今日の放送で初めて耳にすることになる。
どこかで聞いたドラムロールが鳴り響き──‥‥須藤の声が結果を告げた!
「優勝は、碓宮椿さんです!」
「この歌のようにノワールに恋する人がリスナーの皆からも現れますように♪」
星の煌く夜に、グリマルキンの静かな声が染み渡る。
「チャンスの扉は、ここにある。そして鍵は、皆の手に──‥‥次回の応募も‥‥楽しみに、している‥‥」
──さて、ここで一曲お聞きください。ケット・シーの新曲で‥‥