●リプレイ本文
●Cleard Runway
エレナ・クルック(
ga4247)の持ち込んだジーザリオがタワー真下のタキシングウェイを飛ばして16番滑走路に向かっていた。運転は兵士に任せ、自身は荷台へ。UNKNOWN(
ga4276)と揺籠(
ga5583)もジーザリオの背中に身を預けている。
「早くキメラを退治しないと飛行機が下りてきちゃうですよ〜」
わたわたするエレナの横で、UNKNOWNは黒の帽子を右手で押さえていた。黒で揃えたコートがはためく。
「‥‥まずは16番だったな?」
広い空港を見渡す。滑走路の先に掃討中の地上部隊が見える。揺籠の鼻歌が風に乗って散っていった。
「タワーよりスカイアイ、ウェイポイントベータ通過後高度6,000にて周回待機」
『スカイアイ了解。高度6,000にて周回待機する』
「よし、待機させたぞ?」
『給油機を16番へお願いします』
司令の無線に、周防 誠(
ga7131)から返事が届く。周防はマリア(
ga9180)と空港所属のジーザリオに乗り込み、給油機の護衛を行っていた。
「すまんが、このチャンネルは繋いだままにしておいてくれ。タワーから逐次情報を送る」
『了解です』
タワーから見下ろすと給油機がプッシュバックされている。給油機の離陸と、大型輸送機の到着までの十数分の混乱を、司令は周防の立てた作戦に賭けた。
『グランドコントロールよりマザーグース、ランウェイ16へタキシング許可』
『マザーグース了解。ランウェイ16へタキシングを行う』
給油機がエンジンの回転を上げ移動を始める。長い十数分はまだ始まったばかりだった。
「飛行機の邪魔をするなんて許せませんです!」
エレナのエネルギーガンがキメラを次々と仕留めてゆく。
「‥‥はっ!」
揺籠のS−01も続き、地上部隊は16番を半分ほど制圧しつつあった。見遣ると、タワーの下から給油機がタキシングウェイに姿を現す。
「‥‥周防、あとどのくらいだ」
『2分くらいでしょうかね』
「もう少しだ、押し広げろ」
UNKNOWNの声に、地上部隊の攻勢も強まる。
「タワー、クロスロードまで空ければ、離陸は可能だな?」
『ああ、4,000あるから、16番から離陸を始めればクロスしてる場所の前には機体は浮く』
「了解した」
彼の咥え煙草の煙が風に揺らめいた。
周防とマリアは給油機を護衛しつつ16番へ移動していた。周防がスナイパーライフルで狙撃し、網を抜けた相手をマリアのバスタードソードが対応する形を取っていた。
ライフルのスコープから眼を外し、周防は無線機を取る。
「戦闘機を、16番へ」
給油機に続けて離陸させる戦闘機を移動させる。
『グランドコントロールよりメデューサ3、ランウェイ16へタキシング許可』
『メデューサ3、了解』
戦闘機が給油機の後を追うように移動を始める。給油機は、既に16番滑走路に近づいていた。
「とりあえず、火薬庫が離陸してくれれば一安心、ってね」
通信チャンネルを開けたままの管制無線を聞きながら1人ごちる。
『グランドよりマザーグース、タワーコントロールへハンドオフ』
『了解。マザーグースよりタワー、アンダーユアコントロール』
「16番の状況は?」
司令がタワーから見下ろす。管制官も釣られて身を乗り出した。
『クロスロードまでは、綺麗にした。ここは私が確保する』
UNKNOWNが無線に答える。見ると、地上部隊は22番方面へ動き始めていた。
「OK、デカいのが行くから、飛ばされるなよ」
「タワーよりマザーグース、離陸を許可する。南風20m、ウェイポイントアルファを通過後高度6,000にてスカイアイと接触」
管制官が給油機に指示を出す。
『離陸直後に給油なんて初体験だがな』
「ごちゃごちゃ言ってないで飛べ!」
インカムに苛立つ司令の声。
『マザーグース了解、離陸する。南風20、ウェイポイントアルファ通過後6,000にてスカイアイに給油』
「そろそろ、輸送機がコンタクトに来るな」
司令が覗き込む航空レーダーには、早期警戒機と同じ経路で近づく機影が映っていた。
『モビーディックよりコントロールタワー、アプローチ許可を求む』
インカムを握り締めたまま、「来たな」と司令が呟く。
『そのまま、16番へ降ろしてください』
周防の声。管制官が素早く指示を出した。
「タワーよりモビーディック、高度4,000からILSランウェイ16に進入許可」
『了解。ILS誘導にてランウェイ16に進入する』
大型輸送機が、空港に刻一刻と近づく。
周防とマリアが給油機から離れ、再びジーザリオに飛び乗る。2発のジェットエンジンが回転数を上げて、大きな機体を加速させてゆく。機首が上がり、UNKNOWNの立つクロスロードの手前でランディングギアが地上から離れた。黒いコートが、ひときわ大きくはためく。
『とりあえず第一の問題クリア、ですかね』
レシーバーから周防の声。エレナと揺籠が指示を仰ぎに来る。
「あんのんお兄様!」
「2人は、16番をそのまま確保だ」
「了解だ。楽しませてくれよな?」
ジーザリオが16番滑走路の奥へと向かう。入れ違いに、戦闘機が離陸し、UNKNOWNのコートに再び風がはらむ。
彼はスコーピオンを構え直し、くるりと周囲を一瞥した。
「さて諸君、ここは通行止めだ」
●Contact Tower
基地の地上部隊は22番滑走路方面と16番滑走路方面の二手に別れ、掃討を続けた。22番は周防の立てたプランでは使用しないため、16番が優先された。エレナと揺籠を乗せたジーザリオが所狭しと滑走路を走り回る。
2人が倒したキメラの屍骸を後続の地上部隊が片付ける、という組み合わせで動いていた。
着陸予定の大型輸送機は既に肉眼でもその大きさを実感できる高度まで降りてきていて、続いて離陸予定の戦闘機もタキシングを始めている。
「早く、早くしないとまた飛行機が降りてきちゃいます!」
「やれやれまいった、こりゃしんどい」
数の多さに2人が悲鳴を上げる。周防とマリアを乗せたジーザリオと擦れ違い、マリアが声を掛けた。
「輸送機が来ます! 空けて!」
『モビーディックよりタワー、ILS誘導にてランウェイ16に進入中。なんだありゃ、トラブってんのか?』
管制塔に輸送機から通信が入る。
「トラブってるけど着陸を許可する。滑走路は空けておく」
『モビーディック了解、ランウェイ16に着陸する。おいおい頼むぜ?』
「何とかなるから気にせず降りろ」
輸送機が着陸アプローチに入るのを確認し、司令は別の無線を取った。周防と繋がっているチャンネルである。
「予定通り輸送機を降ろす! D2番通路からタキシングに入るから、そこを頼む」
『りょーかいしました』
妙に力の抜けた周防の声に一瞬不安を覚えるが、見るとD2番通路にジーザリオが待機している。
『続けて戦闘機を離陸させてください』
司令は周防に返答はせず、またインカムを握る手に力を入れた。
UNKNOWNがクロスポイントで自在に動き回り、手際良くキメラの群れを排している時、彼は16番滑走路正面に大型輸送機を見た。
「‥‥来たか」
やや機首を持ち上げながら高度を落とし、スキール音を立てランディングギアが接地したのを確認すると、彼は消えた煙草に再び火を点けた。
「諸君――もう一息だ」
彼は周囲の地上部隊に声を掛けつつ、右手の愛銃のマグを換えた。
『タワーよりモビーディック、タキシングウェイD2で右折しグランドコントロールへハンドオフ』
「モビーディック了解。‥‥なんだこりゃ、キメラか?」
輸送機の機長が呆れ声を上げる。
「‥‥キメラみたいですね。傭兵を引っ張ってきたのか」
航空レーダーには離陸直後の給油機と早期警戒機、それから戦闘機も3機機影があった。キメラの攻撃を受けながらあれ全部の離着陸を捌くのか。
「‥‥よくやる」
機長はもう一度、呆れ声を上げた。
空港上空を旋回しながら、給油機がドローグを伸ばす。漏斗状になったその口に、早期警戒機がプローブを差し込む。
『こんなとこで給油するなんて初めてだな』
給油オペレーターの声が早期警戒機に届く。
「こっちも給油受けるの初めてだよ」
『お互い初体験ってことか』
旋回待機を行う分、最低限の給油を行い、ドローグからプローブが引き抜かれる。
短い接触回線は閉じられ、給油機は機体をやや右にロールさせ、コースを変えた。
2機目、つまり最後の戦闘機が加速し、機首を上げるのをエレナはジーザリオの背中から見送った。揺籠はジーザリオから降りて敵中に切り込んでいたが、離陸の為に一時待避してそれを見ていた。
キメラの群れはだいぶその数を減らしたが、まだ完全に居なくなってはいない。
『あと1機です。やりましょう』
レシーバーからの周防の声に、2人は視線を滑走路に戻し、再びキメラの群れに切り込んだ。
●Handoff
『グランドコントロールよりモビーディック、スポット102へタキシングを許可する』
『モビーディック了解。スポット102へタキシングする』
管制塔から2本の滑走路を見下ろす。キメラの数は目に見えて減っていた。周防とマリアの乗るジーザリオが輸送機を先導するように護衛している。UNKNOWNは確実にクロスポイントを確保していた。エレナと揺籠は16番滑走路の残党狩り。
「‥‥何とか、なりそうですね」
管制官がホッとした口調になる。
「‥‥何とかなるな」
「タワーよりスカイアイ、ILS誘導にて高度4,000からランウェイ16に進入許可。待たせたね」
『スカイアイ了解、ILSランウェイ16に進入する。‥‥襲われてたにしちゃ早かったぜ?』
管制塔が、最後の着陸機に指示を出した。
「もう少しですね‥‥、マリアさん、22番に」
「了解!」
周防とマリアがジーザリオから飛び降り、22番滑走路を掃討中の地上部隊の支援に向かう。
「最後か。案外、早かったな」
UNKNOWNは煙草の最後の一口を深く吸い込む。視線の先には、16番に着陸する早期警戒機の機影があった。
ランディングギアのタッチダウン時のスキール音を間近で聞いたエレナは、兵士を治療していた手を止め、ちょっと驚いた表情を見せた。
「エレナちゃん、自分も乗ってるでしょ?」
揺籠がエレナの表情を見て笑う。
『タワーよりスカイアイ、タキシングウェイD2で右折しグランドへハンドオフ』
2人の無線機から、管制通信の声が聞こえた。キメラの姿はいつの間にか無くなっていた。
「お疲れ様でした」
司令の深い溜息に、管制官が労いをかける。
「いや、お疲れ様なのは彼らだよ。礼を言わんとな」
小さくなってゆく給油機の機影を目で追いながら、司令は呟いた。
「タワーよりマザーグース、ウェイポイントベータを通過後広域管制へハンドオフ」
『マザーグース了解。広域管制へハンドオフ。奴らに助かった、って伝えておいてくれ』
給油機の機影はさらに小さくなり、やがて管制塔の航空レーダーから消えた。