タイトル:らん・どっぐ・らんマスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/19 22:39

●オープニング本文


●私服組
「済みませんね忙しい所。形式的なものですから、すぐ済みます」
「本当よ。こないだもやったじゃない」
 マヘリアが噛み付く。目の前に座るのはD中隊第1小隊、デルタワンと呼ばれる諜報部門のエドワード大尉。ウチの隊内で所謂「私服組」ってやつだ。
「申し訳ないですね、お2人は当事者なもんで」
 そうだ。私とマヘリアは当事者。10月23日の夕方、飲みに出かけた所を拉致された。
「えっと、どこまで話しましたっけね?」
 正直私はエドワード中尉が苦手だ。有能な人ではあると思うんだけど。マヘリアはもっと露骨に嫌いらしい。「喋り方が鼻に付くのよね」と怒っていた。
「ヨーロッパ開放同盟とかって親バグア派を名乗ってる、て所くらいまでは‥‥」
「ふむ‥‥」
 マヘリアはそっぽを向いているので私が答える。けど中尉のこの勿体ぶった感じが苦手。
「シリング少尉、お2人が巻き込まれた事件のすこし前、ULTに妙な依頼が出されたの、覚えてます?」
 まだ大尉は核心を話す気はなさそう。ちょっと長くなりそうだな、と私は思った。

●追跡
「どうも、シリング少尉の顔は割れているようでして」
 葉巻を咥えず、掌で弄びながら、ベックウィズは黙って話を聞いていた。エドワードの顔は見ていない。
「少尉を襲ったリーダーは、彼女の記憶通り、イベリアの風と呼ばれた親バグアグループのリーダー、ハビ・ビクトル・ニニェスに間違いないと思われます」
 そう言った後、わざとらしい呆れ顔を作って「尤も本人は何も喋っていませんが」と付け加えた。
 エドワードのそういった所作に痺れを切らせたベックウィズが、少し声を荒げる。
「エド、掻い摘んで話せ。ヨーロッパ開放同盟の話は聞いた。それと、少尉と、ULTの依頼と、どう関係がある?」
「正直、現時点では何も解りません」
「‥‥それで、少尉を餌にするのか」
「餌などとは‥‥ただ、顔が割れてますので、また接触がある可能性を考慮したい、というだけの話です」
 ベックウィズは眉間に皺を寄せて、葉巻に火を点けた。味方を欺くのは紳士的ではない。しかし、この有能ではあるが狡猾な男の提案以外に今は手懸りも無い。
「情報が、欲しいんです。ベックウィズ中佐」
 事件に係わる情報なら喉から手が出るほど、ベックウィズも欲しかった。しかしエドの提案にはいささか嫌悪を覚えた。
 エドの能力と才覚は愛すべきものである。しかし、その性格とやり口はベックウィズにとって生理的に受け入れられない類のそれであった。
「エドのチームでやるのか」
「身内だと、少尉に顔が割れていますので‥‥」
 この男はULTから傭兵を引っ張ってまで、彼女を囮にして情報を得ようとしている。
「中佐」
 ベックウィズは黙ったまま横を向き、葉巻の煙を吐き出した。「好きにやれ」という事だと判断したのか、エドワードは一礼すると、執務室を出て行った。

●サー
 犬の散歩、と云うよりは犬に散歩させられている、と云うほうが正しい。道行く人々からはそう見えた。
 白地に黒の美しい毛並みを持つイングリッシュ・セッターが、元気に飼い主のリードをぐいぐい引っ張っている。
 引っ張られている飼い主はアニー。オフらしく珍しく私服である。セッターと同じ白のワンピースに、淡いピンクのカーディガンを羽織って、壊れたメガネは蔓の所でセロハンテープぐるぐる巻き。髪型はいつものお下げ。マヘリアに見つかったら、「あんたは少し外見を気にしなさい!」と怒られるに間違い無い格好。
 で、60cm程のセッターに引っ張られ、お下げがぴょこぴょこ揺れている。
「ちょっと! サー! 止まりなさいって! 待ってよー!」
 セッターの名前はサーと云うらしい。イギリス出身の彼女でサーといえばSir、つまり爵位のことだが、なぜこの名前なのか、由来は誰にも教えていない。
 サーはアニーが13の頃から一緒に暮らしていて、人間で言えばもうおじいさん犬なのだが、何故か散歩に連れ出すとはしゃぐ。自宅ではアニーの言う事を良く聞く、忠実な犬であるのだが。
 子犬の頃から、サーはよく人見知りをしていた。サーが気に入る人物は、大抵アニーに良い影響、あるいは利益を与えていて、サーが吠え掛かるような人物は、大抵アニーにとって良くない人物であった。もちろん、幾つかの例外もあったが。
 最も直近の例外はマヘリアだ。知り合ってから4年、アニー宅にマヘリアが遊びに来るたび、ひとしきりワンワンと吠え掛かる。多分マヘリアお気に入りのベルガモットの香水の柑橘系な香りがサーは嫌いなんだろう、とアニーは思っている。
 アニーは壊れたメガネを直すため、店へ行くついでにサーを散歩に連れ出した。ここ最近忙しくて碌に散歩させていなかったせいか、今日は特にサーははしゃいでいて、アニーをぐいぐい引っ張っている。
 アニーもアニーで、引っ張るサーに律儀に付いて行くものだから、ちょっと小走りになっていて、彼女のミュールは実に走りにくそうな音をカツカツと立てていた。

 サーのリードがくるくるっと店の立て看板に巻きつけられて、その横っちょにお座りのまま、彼は車道を見つめていた。彼の飼い主は店内にいる。どこにでもある、チェーンのメガネ店。
 マヘリアはいつも「コンタクトにしろ」と言うのだが、目の中にモノを入れるのが怖くて、結局今回もメガネ。
 殴られた左頬にガーゼが当たったまま、左の蔓は折れていて、レンズは少しヒビが入っている。結局買い替えを勧められ、結構な出費になる。
 ちょっと痛いお財布に溜息を吐きながら、壊れる前と同じような飾り気の無いフレームを選んでいる時、アニーはふと外を見た。
 車道を行き交う車。歩道を歩く人々。戦時中である事を忘れそうになる、平和な光景。店の立て看板がくるくると、LEDの広告表示を変える。そしてその脚に巻きついたリード。リードだけ。
 リードだけ?
 サーが居ない!
 慌てて店外に飛び出して、大声で呼んだ。
「サー! どこ行ったのー! サー! 出てきなさーい! サー!」
 返事は無い。アニーはきょろきょろしながら、駆け出した。
 取り残されたメガネ店の店員が、アニーの後姿を呆然と見送る。

 アニー・シリング。23歳。これでも少尉である。これでも、UPC欧州軍第33SRP連隊D中隊の作戦士官である。

●参加者一覧

ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
ロジャー・藤原(ga8212
26歳・♂・AA
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
マヘル・ハシバス(gb3207
26歳・♀・ER
鳴風 さらら(gb3539
21歳・♀・EP

●リプレイ本文

●接近遭遇
 銀色のお下げがぴょこぴょこと揺れる。時々立ち止まっては、きょろきょろと周囲を見廻す。人の流れに逆らうようで、少し邪魔そうに見える。
「アニーさんは色々な意味で魅力的な人ですね」
 美環 響(gb2863)が揺れるお下げを見て微笑む。が、横で聞いている神撫(gb0167)は真剣な表情でアニーの姿を追っていた。
 護衛と言うがまるで尾行だ。こうして気付かれないように彼女の動きに合わせて、獲物が餌に掛かるのを待っているようで、神撫は気に入らない。
 道を挟んで反対側から彼女を追っているマヘル・ハシバス(gb3207)と鳴風 さらら(gb3539)はもう少し割り切っていた。
 ウィンドウショッピングでもする風に歩いているが、アニーには気付かれてはいないらしい。
「アニー少尉が対テロ部隊の人って以前に聞きましたけど‥‥彼女が捕まる事件で、身内にスパイが居る可能性も警戒しているってことですよね」
「敵を欺くには味方からって事ね。これで、もし二重に私たちまで欺かれていたらどうしましょ? なんてのはまぁ冗談よ」
 口ではそう言うものの、アニーの犬が逃げるという事態は想定外であり、不自然にならないように彼女を追うのは一苦労だった。

 遠倉 雨音(gb0338)はアニーから離れたビルの屋上に居た。ここからなら、商店街をまっすぐ縦に見通せる。
 スナイパーライフルのバイポッドを立てて、双眼鏡を取り出す。丁度、ファファル(ga0729)がアニーに声を掛けている所が視界に入った。
「――とはいえ。正直なところ、顔見知りを監視するような真似はしたくないのが本音ですが‥‥」
 サーの姿も見知っている彼女は、かのおじいちゃん犬の行き先を探すように双眼鏡を動かした。

「ん? アニーか、久しぶりだな」
「あ、ファファルさん! こんにちは」
 アニーがぴょこんと頭を下げる。微塵も不思議には思っていないらしい。
「近くで仕事があってな‥‥終えたので休暇がてら散策していたんだ」
 言ってから、ファファルは失敗したと思った。聞かれていないのにべらべら喋るのは疑われるかも知れない。
「そうなんですか? 奇遇です。あ、済みません、えっと――」
 杞憂だったらしい。サーが逃げて手が離せないとか説明を始めている。そんな事は知っていた。
「逃げた犬を捕まえるのは私の方が適任だろう」
 苦笑いでそう告げると、申し訳無さそうな顔で「よろしくお願いします」と返ってきた。ファファルは元々そのつもりだったのだが、アニーは知らない。

●サーと尾行と
「どうしましょうか‥‥」
「どうすっかね‥‥」
 アニーがサーを探して走り出した時に、綾野 断真(ga6621)とロジャー・藤原(ga8212)はさっと横道に入った。
 入って、白地に黒の美しい毛並みのセッターと目が合った。セッターは2人を気にも留めない風にすれ違い、そのまま表通りに出て、アニーの居る方向とは反対に走っていった。
「とりあえず、ファファルさんに連絡を」
 綾野がそう言って携帯を取り出す。が、同時にロジャーも携帯を取り出したのを見て、彼は携帯を胸ポケットに戻した。

 双眼鏡の端にちらりと、見覚えのある犬の影が映ったのを遠倉は見逃さなかった。追いかけて中心に捉えると、やはりサーだった。商店街を、人の流れに紛れててこてこ歩く。
 丁度同時に携帯が鳴った。ロジャーからメール。お姫様の犬を見つけた、と、それだけ。
 お姫様の愛犬ならこちらも見つけている。その愛犬が吠える相手は要警戒。そして、彼女の視界の中で、その愛犬が吠えている。
 遠倉は双眼鏡をライフルに持ち替え、スコープからサーの姿を覗った。細い路地に向かって吠えている。何に吠えているのか、ここからでは確認できない。

「もう少し、先に行ってみるか」
「そうですね‥‥」
「地理は疎いから、お前が先導してくれ」
 ファファルは遠倉からメールを受け取り、それとなくアニーをサーが居るほうへ誘導する。吠えているらしい。追っ手がいるなら、辿り着く前に対処してもらう。出来なければ、また違う方向へそれとなく誘導する。
 犬を探す手伝いをしているだけだと云うのに、えらく神経を使う仕事をファファルはこなしていた。

 ファファルと遠倉を除いた6人が、先回りしてサーに近づく。道の反対側から追っていたマヘルと鳴風が路地の奥を覗う。
 私服の20台半ばくらいの男が、サーに吠えられていた。
「1人だけみたいですね」
「任せましょう、すぐ済むわ」
 アニーの前後を警戒していた4人がすぐ取り押さえる。逃げられたらバックアップに入れる。2人はそう判断し、男の監視を続けた。

 路地の陰から様子を覗っていた綾野が飛び出す。ロジャーもそれに続き、男に向かう。
 不審な男は、吠えるサーに注意を削がれ、全く無防備だった。2人の後から神撫と美環も現われ、抵抗らしい抵抗もできず、男はあっさり囚われた。
「女性を強引にお誘いとは野暮ってもんだぜ?」
 うつ伏せに取り押さえられた男にロジャーが声を掛ける。と、意外な返事をした。
「放せ! 僕は味方だ!」
「味方だと?」
「妙な事をいいますね、観念したらどうです?」
 神撫と綾野が言い返すが、男は頑なだった。
「シリング少尉の同僚だ! 右のポケットに身分証があるだろう!」
 ロジャーが身分証を探り出して、読み上げる。
「UPC欧州軍第33SRP連隊D中隊、マイク・エヴァンス軍曹」
 呆れた、というような身振りを見せるロジャー。神撫は「任せます」とだけ3人に告げて、とてとて戻っていったサーの後を追うように、路地から出る。表情から怒りが見て取れた。
 神撫が路地から出ると、ちょうどサーを見つけたアニー、そしてファファルと目が合う。
「あれ、神撫さん! 奇遇ですね」
 先に声を掛けたのはアニーだった。神撫は笑顔を作りアニーの頭を1度ぽふっと叩くと、そのまま何も言わず、擦れ違ってゆく。
 何も言わずに去ってゆく神撫の後ろ姿を、アニーは不思議そうに見送った。

「何をしていたのか、教えていただけますか?」
 口火を切ったのは綾野だった。エヴァンスを囲むように綾野ら4人が立つ。美環は先に戻った神撫を追いかけ、護衛を継続している。
「君らのバックアップだ」
 エヴァンスの答えは尤もだったが、マヘルは別の疑問を抱いた。
「単刀直入に聞きます。アニーさんが捕まった事件で、身内にスパイがいるんじゃないかと疑ってますよね?」
 まいった、と言いたげにエヴァンスは両手を挙げる。
「そうだ。だからエドワード大尉から君らに依頼があった」
 身内に内通者の存在を疑っているから私達に依頼があった。ではなぜこの軍曹がここに居るのか、マヘルは納得が出来なかった。
「じゃあ、何であんたがここに? SRPってこんなせせこましい部隊だっけ?」
 ロジャーだ。以前にE中隊の依頼を受けた彼も違和感を感じている。
「身内でも信用の置けるものをサポートに付ける。別におかしくはないだろ? さ、任務に戻ってください」
 早く行け、と手をひらひらさせるエヴァンスに、4人は配置に戻る。
「気付いた? 吠えられた訳」
 エヴァンスに聞こえない程の声で、鳴風が綾野を肘で突く。
「ベルガモット」
「ああ‥‥そう言えば」
 ベルガモット。柑橘系の、ボディーデオドラントか何かの匂いが、エヴァンスからふわっと香っていた。

 ファファルとアニーは眼鏡店に居た。今度はサーもちゃんとお座りで大人しくしている。
 結局、ファファルと神撫の2人がアニーと顔を合わせた。戻ったらエドワード大尉にどう言い訳するか、考えないとならないのだが。
 が、それは一旦置いて、ファファルはアニーの眼鏡選びを手伝っていた。
「お前はもう少し着飾ることを覚えろ」
 壊れる前と代わり映えのしない、飾り気の無いフレームを選ぶアニーに、ファファルは苦笑いを向けた。
 これでいいとか私には似合わないとかぶつぶつ言うアニーの一切の抗議を無視して、ファファルは可愛らしいフレームを選ぶ。
 結局、アニーの消極的な抗議は押し切られ、ファファルの選んでくれたフレームを手にする。
 プレゼントを申し出たファファルだったが、それは申し訳ないと断った。この点だけは頑なに譲らず、ファファルも折れた。
「――また飲みにでも行こう」
「はい、また是非!」
 いい笑顔で、アニーは返事をする。その表情を見て、ファファルは少し安心した。
「今度はペースを考えてな」
「そうします」
 お互い苦笑いで去ってゆくファファルの後姿を、サーは大人しくお座りのまま見送った。

●エドワードの思惑
 ブリーフィングルーム。
 依頼主であるエドワード大尉、そして彼の部下であるエヴァンス軍曹、それから依頼を受けた8人が集められた。アニーは居ない。
「現場の判断で、接触して少尉の無事を優先したのよ。問題無いでしょ?」
「結果的にアニーさんは無事だったんですから」
 鳴風と美環が、何故接触したのか、という大尉の問いに答えた。
「エヴァンス軍曹がサポートに入っていたのを教えて貰えなかったのは何故です?」
 遠倉が逆に質問をすると、「ふむ」と、例のもったいぶった口調でエドワードが続ける。
「どなたか、エヴァンスに、『身内にスパイ疑惑があるんじゃないか』と聞かれましたよね?」
 取り押さえた現場で、マヘルが聞いていた。
「まさに、その通りです。シリング少尉の顔がどこからか犯人グループに洩れている。ですから秘密裏にサポートを付けました。‥‥この回答でよろしいですか?」
 筋は通っているが、よろしくはない。一同は納得の行かない表情を浮かべたまま。
「これ以上は、申し訳ありませんが機密に関わります」
「味方も疑わないといけないなんて軍人も大変ですね」
「‥‥ごもっともで」
 マヘルの言葉を嫌味と受け取ったらしいエドワードは慇懃に返事をする。と、ずっと黙っていた神撫が席を蹴って、エドワードの前に立った。
「これでも情報取れない場合は貴様の責任だ」
 凄む神撫に動じる様子を見せず、エドワードは「その通りです」と、一言だけ応えた。

 8人を解散させた後も、エドワードとエヴァンスはブリーフィングルームに残っていた。
「どうだ」
 エヴァンスと視線を合わせず、エドワードが訊く。
「はい。ファファル、綾野、神撫の3名はシリング少尉がULTに提出した依頼に複数回参加しています。少尉がヨーロッパ開放同盟に囚われた時も、現場に居ました。3人共、少尉と個人的な交友があります。次に美環ですが、彼も過去シリング少尉救出作戦に参加しています」
 エドワードは、エヴァンスの報告を、資料をめくりながら黙って聞いている。
「続いてマヘルと鳴風の2名ですが、この2名は先日ULTに出されたアタッシュケース輸送依頼に参加しています。この時はシリング少尉が事情聴取をしていますので、面識はあるはずです。それから遠倉ですが、彼女はシリング少尉と兵舎で個人的な交友があるようです」
「何も関係ないのは、1人だけか?」
「いえ。ロジャーはシリング少尉と面識は無いようですが、先日E中隊の依頼に参加しています」
 エドワードは溜息を吐いて、テーブルの上の灰皿を少し遠ざけた。
「つまり、全員灰色って事か。‥‥シリング少尉の身辺を洗え。個人的な交友関係まで全て。彼女自身も調査対象としろ」
 命令の意図を頭の中で認識した後、エヴァンスはエドワードの顔を見た。視線だけ動かし、資料を追っている。
「‥‥ベックウィズ中佐には、報告しますか?」
「まだだ。まだ何も掴んでいない。うちの独断でやる」
 エドワードはようやく顔を上げて、8人が出て行ったドアを見つめた。