タイトル:【Gr】Eagleマスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/23 22:29

●オープニング本文


 リスボンの南、セトゥーバル空軍基地からスクランブルした4機のF−16は、スペイン国境、つまりバグア勢力圏付近を飛行していた。
 レーダーサイトに、所謂グラナダ方面から侵入する敵機が映ったのは数分前。既にKVによる増援は要請済み、4機の任務は、あの宇宙人共の作り出した奇妙な「空飛ぶカメムシ」が、KVに叩き落されるまで、藪蚊のようにまとわり付いて時間を稼ぐ事にあった。
『オウルベア、間もなく会敵します。同高度、同緯度、相対距離60』
「了解」
 飛行隊のリーダーが、AWACの管制に答えた後、自機のレーダーと、雲の向こう、正面の空に視線を走らせる。
 鳥の群れが、こちらに向かってくるのが、雲間にちらちらと見える。が、いつもの「カメムシ」の姿は無い。
「見えるか?」
『見えないな。ブラフか?』
 4機のパイロットの誰もが、接近してくる筈の「カメムシ」の姿を目視できずにいた。
「オウルベアより広域管制、ノージョイ、目標を確認できない」
『そんな筈はない。機影10、コーション! 同高度、同緯度、相対距離20!』
 AWAC管制が危機を伝えるが、4機のパイロットは未だ機影を確認できていない。
 と、突然、ホーミングミサイルのレーダー波照射を受けた事を示す電子音がコックピットに響いた。
『くそ、どこからだ!』
『ロックオンされた!』
 パイロット達の声がレシーバーに重なる。
「各機ブレイク!」
 4機がチャフを展開しつつ、一斉に散開する。
『食いつかれた!』
 リーダーは自機を右上方に旋回させつつ、レシーバーに他のパイロットの声を聞いていた。ロックオンのアラームがHUDに赤く明滅している。
「どこに居た!?」
『‥‥鳥?』
 上昇させた機体をくるり、と180度回転させながら、自機の後方に目を走らせた。鳥。鷲だった。F−16Sより、2回りほど小さい鷲。普通の鷲と違うのは、背中にミサイルを背負っている事と、たった今自機の真横を、ヤツが撃ったのであろう20mmの曳光弾が飛んでいった事と、F−16の戦闘速度に着いて来ている事。
「オウルベアより広域管制、会敵した! ヘルメットワームじゃねぇ! 鷲だ!」
 水平に戻した機体を再び左に降下させながら捻る。キャノピーの上にミサイルの残した白線が2本見える。
『F−15? 鹵獲機か?』
「鹵獲機じゃねぇ! キメラだ! 鷲にミサイル載せてやがる! くそったれめ!」
 降下させた機体をそのままに、高度を下げる。山あいの地形に沿わせて回避するため。
『ぴったり着いてきやがる!』
 一度回避したものの、再びロックオンアラームの電子音がコックピット内に響き始めた。水平に戻した機体を、左右に大きくS字させる。
 鷲は左右の動きに釣られて、やや直線的な軌道を描いて追ってきた。
「カメムシみたいに立ち止まって振り向いてくれないだけマシだな!」
 スロットルを操作し、機体を減速させる。エアブレーキが展開して、後ろを着いてきたはずの鷲は、オーバーシュートして目の前に現われた。
『くそ! 1人何機相手にすんだこれ!』
 目の前に出た鷲は左に旋回しながら高度を上げた。再び機体を加速させ、レティクルに収める。
「向こうはピコピコ鳴ってねぇんだろうな!」
『何機、じゃなくて何匹、いや何羽、じゃねーの?』
 僚機のパイロットのおどけた声。
「マックス! ふざけてないで仕事しろ!」
『冗談! こっちだってアラーム鳴りっぱなしだぜ?』
 僚機も僚機で苦戦しているらしい。自分の機体も、追っているのとは別の個体に後ろを取られ、アラームが鳴っている。
「落ちろよ!」
 曳光弾の後を追うように、ミサイルが2本、鷲目掛けて飛んでいく。鷲は一度大きく羽ばたいた後、くるくるっと体を回転させ、それを回避した。
「くそっ! ご丁寧に見てやがるのか」
『オウルベア、間もなくKVが空域に到着する。持たせろ』
「‥‥言うだけなら苦労しねぇっての!」
 追いかけていた鷲を一時見逃し、自機を再び捻りながら降下させる。真後ろの鷲から放たれたミサイルは、F−16の翼端を掠めていった。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
パディ(ga9639
22歳・♂・FT
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD

●リプレイ本文

●エンゲージ
『各機間もなく会敵します』
 広域管制からの通信。最上 憐(gb0002)を先頭に、オウルベア隊のカバー班4機は隊形をアローヘッドに整える。
「‥‥ん。空戦は。3回目。頑張る」
 速力を上げ、戦闘空域に真っ先に飛び込む最上機に、霞澄 セラフィエル(ga0495)が続く。
「機械化キメラ‥‥なかなか厄介などと言えば、彼には褒め言葉になるのでしょうかね?」
 霞澄機に続きラルス・フェルセン(ga5133)、さらにパディ(ga9639)の機体が後を追う。
 その更に後方、スプレッド隊形に揃った4機。先行したカバー班が空域突入後、あの妙な鷲キメラを攪乱する目的の4機。
「やけに多いわね、誰か鳥撃ち用の散弾銃持ってない?」
 レーダーの敵影を確認しながらラウラ・ブレイク(gb1395)が零す。
「鳥キメラにミサイル、バルカンか。バグアもよく考えるぜ」
「無粋‥‥だね」
 嵐 一人(gb1968)が誰にともなく言う。空閑 ハバキ(ga5172)の呟きは独り言だったのかも知れない。が、無線に乗って届いた。
 蠍座の撃墜に関わった空閑の言葉に、同じく関わっていた藤田あやこ(ga0204)が、大きく声を上げる。
「我らは燕の如き駿速にて華麗なる蒼穹の刺客、SMS隊長魅惑のレディ参上! 葡萄牙もカステラ好きにゃ日本の国土! バグアに渡すもんかよ!」
 声に釣られるかのように、4機が速度を上げる。気を使ってくれたのか、と感づいた空閑が苦笑いで何か呟いたが、無線には乗らなかった。

「‥‥ん。到着。煙幕装置。使う」
『煙の中から抜け出せとか無茶を言う』
「こちらが割り込みますので、一度態勢を立て直してください」
 最上の機体からスモークが展開される。オウルベア隊フライトリーダーの小さな抗議は、霞澄には聞き入れられなかった。
 上昇軌道を取ってスモークから抜け出したF−16を追う鷲キメラを、ちょうど正面に霞澄機のレティクルが捉えた。
 そのまま180度方向転換するF−16と入れ違うようにパディ機が入り、逆方向に上昇する。鳥は目標を切り替え、真っ直ぐパディ機に向かう。
 羽ばたいて上昇する鳥は、その上昇能力においてKVとの決定的な差があった。レティクル正面に鳥を捉えた霞澄機は、そのまま追い駆けてトリガーを引く。
「まず、1羽」

「そっちじゃない! お前の相手はこっちだ!」
 煙の中から飛び出してきた鷲キメラに、嵐がバルカンで牽制する。ゆらゆら滑空しながら、行方が定まらない鷲キメラを、嵐機の左から回り込んだラウラ機が捉えていた。
(「あいつら、自爆とかしないわよね‥‥?」)
 天秤座の悪趣味なキメラの自爆攻撃に巻き込まれた事を思い出し、やや躊躇する。が、次の瞬間にはもう意識を切り替えて、トリガーを引いた。レーザーの閃光が鷲キメラの翼を焼き切り、どこか誘爆でもしたのか、小さな爆発を繰り返しながら落ちて行く。
「これで、8対8ね」

●ハイ・ヨーヨー
「オウルベア! 生き延びたらこの燕っ娘にカステラを奢っとくれ♪」
 実に嬉しそうに喋りながら、藤田は自機を上昇させる。体にGを感じながら、首を捻り、位置を確認する。オウルベア隊のフライトリーダーから返事はあったようだが、聞き逃していた。視線の先には、右旋回する空閑の機体と、それを追う鷲キメラ。
『OK、そのままこっち、だ』
 空閑の声がレシーバーに届く。キメラに向けたものか、藤田に向けたものか分からないが、彼女にとってはどちらでも良かった。機体を更に上昇させつつ、タイミングを図る。
 ロックオンアラートがコックピット内に響く。空閑もまたGの中首を巡らせて、後方を着いて来る鷲キメラの位置を確認していた。
 アラートが細切れのビープ音から連続音に変わる。それと同時に、鷲の背中からミサイルが放たれたのを空閑は見た。操縦桿を倒し、機体を捻りながら下降させる。
「おおっと」
 降下中の機体を、鷲キメラの放った機関砲が叩いた。操縦桿を少し戻し、射線から逃れる。ミサイルは白煙を残して飛んでゆく。
 丁度空閑機と鷲キメラの格闘を、藤田は正面から見ていた。
「ばっちり落としてやるよ!」
 上昇させていた機体を捻り、下降に転じる。空閑機と、それを追う鷲キメラを正面に見て降下する機体は、速力を上げてあっという間に鷲キメラの後ろに取り付く。
「嘗めるのはカステラの裏紙だけにしな!」
 レティクルに奇妙な機械化キメラを捉えると、藤田は躊躇わずトリガーを引いた。レーザーが鷲の体を貫く。
「あと7羽!」
 囮役から開放された空閑機が再び高度を取り、もう一度キメラを釣り出すためにターンする。
「ただでグラナダに帰す訳にはいかないよね? 踊るよ、耶昊っ!」
 愛機のスロットルを上げて、鷲キメラを追い駆けた。

「ちっ、すばしっこいな!」
 鷲キメラは、嵐の集積砲を数度羽ばたいて交わす。ラウラ機の後ろに取り付いたまま離れない。
「もう一度、タイミング合わせて」
「了解!」
 嵐が機体を上昇させる。ラウラはアラートを聞きながら、後方を覗く。まだ着いて来ているのを確認すると、シザースの要領で機体を左右に振った。
 鷲はラウラの機体を追わず、真っ直ぐミサイルを放つ。
 相手のレティクル、尤もレティクルがあればだが、それから外れたのだろう、アラートが消えた事が、ラウラの判断を一瞬遅らせた。
 視界の端にミサイルを捉え、機体を起こす。が、ミサイルはラウラ機にヒットした。
「私の機体を狙って!」
 機体を捻り、降下させてくる嵐に声を掛け、ラウラは自機を嵐の機体と交差させるように上昇させる。鷲キメラはラウラ機の直後を上昇した。コックピット内に再びアラートが鳴り響く。
 交差する直前に、降りてきた嵐は集積砲を放つ。砲撃は上昇するラウラ機を掠め、すぐ後ろを飛ぶ鷲に直撃した。
「ビンゴ! ってな」
 ラウラは後方確認していた顔を正面に戻し、機体をもう一度ターンさせた。

●ワゴン・ホイール
『オウルベアより各機、助かった。もう一度支援に入る』
 嵐機が機関砲の掃射を受ける。「やってくれた!」と叫ぶ嵐に入れ替わるように、F−16が牽制を加える。
 追尾から逃れた嵐機は、再び上昇軌道を取る。頭を抑えられた鷲は行き場を失くし、くるっと小さく向きを変えた。

 最初に空域に突入した4機は、最上の展開したスモークのエリアを中心に大きく旋回していた。
 パディ機が円周のやや内側を回り、キメラを引きつけている。キメラの後を追うのは最上。
「‥‥ん。行かせない」
 右旋回するパディ機のコックピットに、ロックオンアラートが響く。
 パディ機の後を鷲キメラが追い駆け、さらにその後を最上がキメラをレティクルの中心に捉えようと追い駆けていた。
 最上が鷲キメラをロックするより早く、鷲キメラがパディ機の進行方向に機関砲を掃射する。
「やってくれますね」
 操縦桿を手繰り、射線から機体を離す。が、鷲キメラは第二派を用意していた。アラート音の中、顔を向けるとミサイルが近づいてくる。
 機体を上昇させ、回避機動を取るが、ミサイルの速力が勝った。
「この代償は高く付きますよ」
 パディはそのまま機体を180度旋回させ、最上機と前後を入れ替わる。キメラは旋回するパディ機の追撃を途中で諦め、オーバーシュートした最上機を追う。
「‥‥ん。回避。頑張って回避。避ける」
 今度は最上のコックピットのアラートが鳴る。が、入れ替わったパディ機はレティクルの中心にキメラを収めていた。
「‥‥こんなに大きな翼だったらじゃまになるでしょう? 引き裂いてしまおうか」
 ガトリングの弾丸が、キメラの翼に無数の穴を穿った。

 ラルス機が囮となって鷲を引っ張る。そのすぐ後ろに霞澄機が張り付く。
「狙わせません、よ」
 大きく旋回しながら、ロールを加えつつ、ラルスはキメラの放つ機関砲を交わしていた。
 ラルス機の動きに翻弄され、鷲キメラはやや直線的な動きになる。その一瞬を、霞澄は見逃さなかった。
「私とこの子の目からは逃れられません!」
 レティクルに捉え、トリガーを引く。ミサイルは正確にキメラを捕らえ、地上へ落とす。
 霞澄はラルスと囮役を入れ替わりながら、落ちて行く鷲を見送った。

●スイープ
 残り4羽に減らされた鷲キメラの群れは離脱を開始した。それぞれが格闘していた相手をそのままに、くるりと体を小さく旋回させ、グラナダ方面へ羽ばたく。
 半数を減らされた時点で撤退を始めたのは、キメラにしては良い判断と言えた。ただ、撤退が余りに唐突で無防備だったのは、キメラであるがゆえか。
 無防備に後ろを見せて逃げて行くキメラを見逃す程、お人好し揃いではなかった。

 ラルス機が速度を上げ、1羽の後ろを取る。振り切るように、キメラは体を左右に振った。
 眼鏡の奥で冷静にキメラの動きを見ていたラルスは、無駄に後を追う機動はさせず、ライフルでその瞬間を狙っていた。
「贈り物は、お返し致します」
 トリガーを引く。ライフルは、左旋回していた鷲キメラを捕らえ、その胴に風穴を開けた。

 空閑機とラウラ機は、それぞれ2羽を追撃した。キメラは離脱を諦めたのか、回避行動を優先し大きく右旋回する。
 上昇時の推力はKVの方が勝っていた。2機は機体を右旋回させつつ上昇させ、ハイ・ヨーヨーの機動を取る。
 そのまま降下し、2機はそれぞれ2羽の後ろを取った。
 空閑の機体から放たれたホーミングミサイルはキメラの胴にヒットする。
「帰るなら餞別よ、ちゃんと教授に渡しといてね」
 ラウラは容赦無く全弾をキメラに叩き込んだ。ラウラからの餞別は、カッシングに渡される事なく、空中に散った。

『もう1羽は?!』
 フライトリーダーの声。
「‥‥ん。終わった。お腹空いた。はやく。戻って。ご飯。食べたい」
 もう1羽の鷲キメラは、いつの間にか最上が落としていた。
 F−16とKV、それぞれが4機づつスプリットに編隊を整える。
 初手の煙幕はとっくに散っていた。ミサイルが残した白煙も消え、12機の残す飛行機雲が尾を引く。
『オウルベアより広域管制、クリーン・アンド・ネイキッド。目標は排除された』
『広域管制了解。リターントゥベース』
「約束どおり、カステラ奢ってもらうよ!」
「あ、俺もポルトガル名物とか教えて欲しいな」
 藤田と空閑の弾んだ声が無線に乗る。
『カステラでもバカリャウでも、何でも奢ってやるよ』