タイトル:【D3】Delta3マスター:あいざわ司

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/14 15:58

●オープニング本文


●後任
「ウッドラム大尉の後任?」
「なんでも、中佐がまだ前線に居た頃の部下だった人らしいわよ? イイ男かしらね?」
「イイ男って‥‥」
 マヘリアはすぐそういう風に言うんだから。男の人の価値は見た目じゃないよ! ‥‥あれ? でもなんで後任人事が私のとこに連絡来てないんだろ?
「とにかく、独身なのは確実よ。だって私が事務処理したんだから。あんたもチャンスじゃないの!」
「チャンスって何の! やめてよね‥‥」
 マヘリアの所でもう処理するほど話進んでるんだ‥‥全然知らなかった。
「明日着任だって。今日は市内で観光でもしてたりしてね。‥‥あ、銀行に行ってるか。口座用意してってお願いしたし。‥‥アニー、あんたほんとに知らなかったの?」
「うん‥‥」
 中佐に、確認してみようかな。それとも、私が知っていい情報じゃないのかな。

●ハワード・ロッフェラー
「いらっしゃいませ」
 毎度毎度の事だが、銀行員と云う人種は実に慇懃だ。今目の前に居て、俺に訳の解らない金融商品の説明を始めたこいつもそうだ。どうも鼻に付く。俺の偏見だとは解っているのだが。
「――情勢が情勢ですし、為替商品などをお求めの場合は誠意を持って相談に――」
「いや、いい。口座を開きたい」
「左様で御座いますか、少々お待ちを」
 余計な事はいいから早く済ませて欲しいものだ。今日中に済ませておきたい予定はまだ沢山ある。
「お名前を」
「ハワード・ロッフェラー」
「ご職業は」
「会社員」
「どのような業種で?」
 会社員と言っているし、そう作られた身分証も見せているのだから、そのまま書けばいいだろうに! UPCの特殊部隊隊員です、とでも答えれば2分で口座開いてくれるのか?
「‥‥サービス業だ」
 バグア相手のな。嘘は言ってない。
「では、こちらにご本人の署名を――」
 このいけ好かない銀行員が、俺に契約書とペンを差し出すのと同時に、店内の非常ベルがけたたましく鳴った。
 入り口を振り返ると目出し帽で顔を隠し、マシンガンを抱えた連中が、見たところ6人。
「銃を降ろせ!」
 警備員が静止するがそれは逆効果だ。案の定、連中はマシンガンの発砲で返答とした。他の客や行員から悲鳴。あまり刺激しない方が得策なのだが‥‥。
 目出し帽共は手分けして端から何かを聞いた後、人質として床に伏せさせてゆく。いずれ俺の番にもなるだろう。この状況では何も出来ないのがもどかしい。
 と、とうとう俺の前に現われた。頭にマシンガンを突き付けられるのは気持ちのいいものじゃない。腰のハンドガンが見つからないように、それを願いつつ、この強盗犯の眼を見た。
「ハワード・ロッフェラーか?」
 強盗犯は、ただの強盗犯じゃないらしい。俺の名前を、知っていた。

●機密
 私とエドワード大尉は揃ってベックウィズ中佐の執務室に居た。
 武装グループが人質を取って銀行に立て篭もった、と連絡があったのが5分前。うちに連絡が来たのは、犯人の要求に問題があったから。
「グラナダからの、UPC軍の即時撤退を要求しています。1時間以内に回答が無い場合、銀行内にキメラを放つ、と」
 当然、そんな要求は呑める訳もなく、今銀行を取り囲んでいる市警察の一存で判断できる事でもないし、ましてうちが交渉できる問題でもない。
 鎮圧に出る以外の選択肢は無く、ウッドラム大尉は出撃の準備をしている。
「‥‥シリング少尉、君はウッディと先に出ろ。市警察には余計な事をするなと伝えておけ。‥‥いや、あの給料泥棒のワーナーに電話を繋いだら回してくれ」
「了解しました」
「調査はどうなっている」
 中佐はちらっと私の顔を見た後、すぐエドワード大尉と話し始めた。後は私の話じゃないので、部屋から出る。
「人質の中に、ロッフェラー大尉が居ます」
 ドアノブに手を掛けた時に聞こえた、エドワード大尉の声。マヘリアから聞いた名前。ウッドラム大尉の後任の人だ。何で?
 何でウッドラム大尉の後任の人が居たのか。私が捕まった事件と関係はあるのか。頭の中がぐるぐるしたまま廊下を歩く。ふと、ブリーフィングルームの扉が開いてるのに気付いた。何の気無しに覗くと、マヘリアとエヴァンス軍曹の姿。
「アニーには私が話したわよ! そもそもそんな事聞いてないじゃない!」
「では、シリング少尉はロッフェラー大尉の所在を知っていた、という事ですね?」
「そんなの知らないわよ! 何? アニー疑ってんの? あんたいい加減にしなさいよ!」
 ‥‥疑われている? 私が? 何で?

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
優(ga8480
23歳・♀・DF
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN
マヘル・ハシバス(gb3207
26歳・♀・ER
鳴風 さらら(gb3539
21歳・♀・EP

●リプレイ本文

●突入
 御用堤燈が十重二十重、とはこういうのを言うんだろうか。市警察のパトカーが幾重にも銀行を取り囲んでいる。その隙間を縫うように、突入チームは正面入り口に近づく。
 裏口には神撫(gb0167)とセレスタ・レネンティア(gb1731)、それからマヘル・ハシバス(gb3207)が取り付いた。ドアにプラスチック爆弾が取り付けられ、フラッシュバンの合図と共に爆破、突入する手筈になっている。

「こっちは流石に爆破する訳にもいかないんで、窓を割ってください」
 銀行の見取り図を広げて、アニーが指し示す。優(ga8480)と鳴風 さらら(gb3539)は、裏口ドアと反対側の窓から侵入する。
「じゃ、私のこれでささっと穴開けましょ」
 鳴風が、自分の手の中のサブマシンガンを掲げて見せた。

「よし、こちらの準備は完了だ」
「いつでも、行けますよ」
 須佐 武流(ga1461)と綾野 断真(ga6621)が揃ってウッドラムに声を掛ける。フェイス(gb2501)は自身の小銃の装填を確認している。
「キメラが居たら、頼む。ホントかどうかは知らんが。それから‥‥」
「人質の安全を、最優先します」
 綾野がウッドラムの言葉の先を繋ぐ。
「オーケー。行くぞ」

 フラッシュバンが投げ込まれ、炸裂し、眩い閃光を放つ。
 真っ先に須佐が飛び込んだ。光の粒子の中、室内を素早く確認する。正面に3人。カウンターの向こうに1人。人質はまとまって左。キメラの居る様子は無い。
 後続の綾野が、左へ出て人質の前に立ち塞がる。フェイスは右から、カウンターの奥へ。
 須佐が最も手前の1人の懐に飛び込み、右腕のサブマシンガンを蹴り上げる。間髪入れず響いた銃声は、その男の額に風穴を開けた。
 次。犯人が立ち直るより早く、須佐はもう1人との間合いを詰める。狙いを定めず犯人が引いたトリガーからの銃弾が、彼を掠める。これも躱して、犯人を殴りつける。倒れこむ犯人に、ウッドラムは狙いを違わず9mm弾を撃ち込んだ。
 犯人が、フラッシュバンの光から立ち直りつつある。
 フェイスはカウンターの奥の1人を狙う。サブマシンガンを構え直す隙すら与えず、その銃弾は犯人を沈黙させた。
 正面の3人目が残った。須佐が正面に立つ。
「残念だが、俺に銃弾は通用しない‥‥!」
 再び殴りかかる須佐に対して、犯人は銃口を人質に向けた。咄嗟に隊員の一人が射線に入る。犯人の持つサブマシンガンが短く爆ぜた後、綾野の一撃が犯人の頭を貫いた。

 まるで正面入り口のタイミングを見ていたかのように、フラッシュバンと同時にドアは内側に吹き飛んだ。
 神撫が先頭で室内へ。男と目が合う。そのまま盾を構え、真っ直ぐ男に体ごと当たる。さらに後から続いたセレスタが顎を殴りつけると、男はそのまま意識を失った。
「ここは任せて! 金庫室を頼む」
 隊員2名とマヘルが隣の金庫室へ飛び込む。
 室内には、幾つかの旅行鞄と、無造作に詰め込まれた現金の束だけが残っていた。

 鳴風が窓ガラスを割り、優が部屋へと飛び込む。拘束された人質が1人、サブマシンガンを抱えた男が1人。優は躊躇わず、サブマシンガンの男に月詠で一撃を加えた。
 後から入った鳴風はそこを優に任せ、正面へと続くドアを開く。丁度、フラッシュバンの閃光が消え、反対側のドアから、気を失った男を引き摺る神撫と目が合った。

 鎮圧は、実にあっけなく終了した。

●検証
「5名死亡確認。1名逮捕。こちらは人質1名負傷、隊員1名負傷。うちにしちゃ大失態だ」
 ついさっき、救急車が2台走り去った。ウッドラムはめずらしく不機嫌である。
「よし、須佐と言ったな? 人質の安全が最優先だ。お前が喋っている間に、間抜けな強盗が銃口を向けるのは、お前じゃなくて人質に、だ。今後こういう依頼を受ける事もあるだろうから、覚えておけ」
 須佐に苦言を呈し、ウッドラムはさっさとチームを撤収準備に掛からせた。

 逮捕された1名は、その須佐と、セレスタの少々荒っぽい方法によって、目を覚まされた。男は自分の置かれた状況を確認すると、悪びれる様子も無く居直る。
「まず、お前たちの敗因は‥‥立て篭もりをしたことではなく、俺が救出メンバーにいたことだ」
 男は口をつぐんだまま、須佐の話を聞いている。
「なぜ貴様らは大尉が銀行に来ることを知っていた‥‥?」
 セレスタの問いにも答えない。
「長くなるか、骨の2、3本犠牲にするか、どちらでも好きなほうを選べ」
 再び須佐が詰問する。しかし、答える様子は無い。
「わかった。ならば、少々手荒に行かせてもらおう」
 そう言うと、須佐は男の頬を殴りつけた。

 優と鳴風の飛び込んだ部屋に拘束されていたのは、ロッフェラーだった。拘束を解かれ、私服姿のまま、思わぬ事件の当事者として、そのまま現場に残っている。
「いきなりでご愁傷様だったね。傭兵をやってる神撫といいます。以後よろしく」
「こちらこそ、よろしく頼むよ。ハワード・ロッフェラーだ」
 神撫と握手を交わす。
「何か、気づいた事とかありませんか」
「スペイン語」
「ああ」
 ロッフェラーの返答に、思い当たる節がある綾野が声をあげる。
「先程、人質の方に訊いた話でも、そうでした。スペイン語で喋ってた、と」
「リーダーも居ない、統制もばらばらな、間抜けな強盗だよ。ただ、俺の名前を知っていたけどね」

「通信機器は、持って居ない、と」
「そうなりますね」
 フェイスとマヘルの2人が、犯人グループの所持品をチェックしていた。装備であるサブマシンガンは、同じもので統一されている。但し、製造番号に当たる箇所が削り取られていた。
 その他、服装はまったくばらばら。量産品のコートであったり、フライトジャケットであったり、入手経路の特定は困難を極めるに違いない。
 そして身分証、財布の類、携帯電話、トランシーバーなどの通信機器は一切所持していなかった。
「用意周到なのか、そうではないのか‥‥」
 キメラを放つ、と警告されていた事もあり、鎮圧直後、フェイスを中心に手分けして捜索がなされた。建物内部の通風孔、外部に通じる上下水道や付近の駐車車両に至るまで捜索の手を伸ばしたが、キメラの陰は無く、全くのブラフであった。
 マヘルは銀行の監視カメラの映像をチェックしていた。犯人グループの侵入から鎮圧までのおよそ1時間、出来事が克明に記録されている。
 まず人質を取り、ロッフェラー大尉を別室へと連行する。ややあって、警報を受けた市警察が到着。ここまでおよそ10分。
 犯人グループが交渉を開始する。当然、グラナダ撤退などという無茶な要求を呑めるはずもなく、だらだらと引き延ばされる時間に、次第に苛立つ様子。これで30分。
 そろそろ、マヘルを含む鎮圧チームが到着した頃。交渉も進まず、仲間同士言い争う様子がある。そして程なく、つい先程の鎮圧劇。これで1時間。
 この間、誰も外部に連絡を取っている様子は無かった。
「タイミングが良すぎますね。エドワード大尉の予想が当たっていたようです」
「後は、大尉に面通ししてもらうしか無いですね」
 もうこれ以上は、お手上げだった。

「鳴風さん」
 エヴァンスが呼び止める。彼女は銃の発射残渣を調べるよう進言していた。
「あら、何か解った?」
「以前、シリング少尉を襲ったグループの武装とは違います。けど‥‥」
「けど?」
「鳴風さん、ハシバスさんと以前、妙な依頼受けてますよね? アタッシュケースを探して来いって」
「ああ、あれならよく覚えてるわ。関係あるならしばき倒したいくらいよ」
「あの時、受け取りの代理人と警官が2人、射殺されています」
「‥‥同じ銃、って事ね?」
 エヴァンスが、黙って頷いた。

●友人
「アニーさん」
「アニーさん、お久しぶりです」
 優と、それからセレスタ。アニーをよく知る2人が、彼女に声を掛けた。
「あ、お疲れ様です。済みません、急だったので挨拶もそこそこで‥‥」
 3人は、事件現場の喧騒から少し離れるように歩く。
「アニーさん、マヘリアさんの事、教えてくれませんか?」
 優が切り出すと、アニーはちょっと寂しそうな表情を見せた後、話し始めた。
「さっきも、神撫さんから聞かれました。マヘリアが私に話したのは朝一番だったので、多分8時過ぎです。ゆうに5時間はありますから、準備には充分です」
 それきり、しばらく会話が途切れる。そしてまた、ぽつりと、優が訊ねる。
「マヘリアさんとは、どこで出会ったんですか?」
「4年前だから、まだ士官学校の頃です。マヘリアのほうが2つ上なんですけど、同期なんです。学生だった頃に、彼女のお父さん、バグアの襲撃にあって亡くなってるんです。だから、進路を変えたんだって、言ってました」
 また会話が途切れる。今度は、セレスタが訊ねた。
「仲、いいんですね。彼女もイギリス?」
「いえ、マヘリアはスペインなんです。だから、この間のグラナダ作戦も、地元取り返してやるんだとかって張り切って‥‥マヘリアは事務方なんですけどね」
 えへへ、とアニーは笑ってみせる。
「この間、彼女と2人で捕まりましたよね」
 また優が聞く。
「あの時はほんとに無我夢中で‥‥2人して右だ、とか左に、とか言いながら走ってたら、いつの間にかああだったので‥‥」
 ちょっと申し訳なさそうな表情を見せる。
 どうしても、優は疑念を晴らせずにいる。話を聞く前よりは、幾分クリアになったかも知れない。アニーの友人である。信じたくあったし、信じるに値する材料もある。
 けれども、状況がそうさせずに居る。
 2人一緒に捕まれば、調査の対象からまず外されると考えられるだろう。常套手段だ。
 機密であったはずの情報をアニーに教える事によって、彼女に疑惑の目を向けられる。
「アニーさん、大丈夫です‥‥疑いはすぐに晴れますよ‥‥」
 セレスタが、アニーに声を掛ける。アニーは「ありがとう」と、ちょっと笑って見せた。
 アニーの友人に対する疑念はまだ全部消えてはいない。けれど、目の前のアニー自身は、疑う余地もない。信じてあげなくては。
 セレスタの言葉を聞いて、優はそう思い直し、一旦考えるのを止めた。そして、目の前の、ちょっと涙目になっている友人に、ハンカチを差し出した。

「脇が甘いんだよ、情報統制はしっかりやれ」
 神撫はエドワードに盛大に突っかかっていた。一時は見兼ねた綾野が止めに入るほどの勢いだった。
 彼の場合は、もう少し直感的で、一度襲われたアニーが疑われるのはおかしい、むしろ、エドワードやエヴァンスの側に、情報漏洩をしている内通者が居るのでは、と考えていた。
 尤もである。彼は襲われたアニーを救いに行ったし、まるで尾行のような護衛もこなした。彼女に、疑われる要素など無い。
 それでも、アニーとその周囲を嗅ぎ回るこの「諜報部隊」を、彼は疑わずにはいられなかった。

 過去のデータベースと、今回の犯人グループの顔を照合するも、有益な情報は何一つ得られなかった。
 犯罪者リストには上がっていない。銀行の金に手を付けようとしている。だがロッフェラーの名前を知っていた。
 そして、犯人グループのサブマシンガンは、過去に鳴風やマヘルの手によって運ばれたものである可能性が出てきた。
 そこまでで、後は「ヨーロッパ開放同盟の下部組織」とだけ自供した犯人が残った。この犯人は、もう何も話さないだろう。

●第二幕
 テレビ中継を消す。鎮圧されたとあっては、これ以上面白いニュースも、情報も手に入らないだろう。
「なかなか、手際のいい連中ですね」
 横で中継を見ていた男が呟く。
「まだまだ」
 そう言って、葉巻を咥える。
「まだまだだ。折角おもちゃを揃えてやったのに、風呂敷を広げすぎだな。ただの間抜けな強盗だったって事だ。何の参考にもならん」
 そうだ。銃も揃えてやった。SRPとか云う、厄介な連中の情報も教えてやった。なのにあのザマは何だ。手持ちのカードを一度に切るのは阿呆のする事だ。役も出来ていないのにコールするのは、ただの間抜けだ。
「ロベルト、次はどうする?」
 次? そんな事は決まっている。全てはあのデルタとか云う連中を潰してからだ。憂いは無いに越した事は無い。
「もう少し使える連中を揃えろ。逮捕されるくらいなら死んでこれる連中をだ。間抜けな強盗は要らん。カードの、切り方を知っている連中を」
 どこか、さし当たって、この間盛大に愉快な演説をしてくれた爺様あたりに取り入るにしても、こんな茶番は話にならない。
 デルタの体内に発信機は仕込んである。もう何度か奴らのやり口を探り、その後だ。
 バグアのお偉方の見ている所で、完膚なきまでに叩き潰してやろうじゃないか。