タイトル:自警団の町マスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/04 00:38

●オープニング本文


 軍属でも傭兵などでもない一市民にとっては、連日のように繰り返されるバグアとの戦況の誇大報道や、親バグア派の大袈裟なUPCの政策批判などはどうでもよい、という人が殆どで、例えば占領政策一つ取っても、UPCだろうが親バグアだろうが中立だろうが、日々の生活を保障してくれさえすれば、施策する側は誰でもよい、というのが本音であったりして、グラナダの要塞に居座っていた天秤座の爺などはこれまでの多くのバグア占領地域とは違って実に巧く、この手綱を握っていた。
 云ってみれば飼い犬のようなもので、別に洗脳された訳でも、妙な改造を受けて脳に小さな電子回路を埋め込まれた訳でもないのだが、この「手綱」を、緩めず締めず、程好く握られる事によって、一般市民は安心する。「日々の生活が保障された」と安心する訳だ。
 一度安心を得られた市民は厄介なもので、今度はそこから変化を嫌う。もし占領政策の母体が替わって、その保障が無くなったら?
 安心が不安に変わり、新たな母体を受け入れようとしなくなる。それが例え、宇宙人からUPCに替わるのだとしても。

 ついこの間まで、バグア側の占領下にあった片田舎の小さな町。さほど大きくない街道沿いで、モーテルとバー、レストランにガソリンスタンドが1軒づつある程度の、小さな町。
 ここがキメラの襲撃を受けた。軍は即座に、戦車1個小隊、APC2両からなる歩兵1個小隊を派遣し、鎮圧に取り掛かった。
 不運だったのが、親バグア派と呼ばれる連中が、この占領母体が替わったばかりの小さな町に目を付けていた事。
 連中は住民を巧みに口車に乗せ、5挺のRPG、所謂対戦車ロケットランチャーと、10挺のアサルトライフルを置いていった。
 住民らはその武装を手に、自ら自警団を結成し、襲い掛かるキメラに対抗を試みた。
 そして、住民らはUPC軍をも敵と認識し、その銃口を向ける。

 キメラを殲滅する気でいたUPC軍はまったく虚を突かれ、「自警団」の前になす術も無かった。親バグア派の根城であったりすれば、容赦なく反撃を試みれたが、そうではない。何せ彼らは、キメラとも戦っている。
 戦車2両、APC1両が、町の中心であるレストランの前で擱座した所で、部隊はそれ以上の進行を諦め、町からやや後退した。
 状況は、良くない。
 キメラは巨大な蠍がたった1体。大型トラック程の大きさだろうか。
 町の「自警団」による攻撃で、今はまだ踏み込めず、躊躇しているらしい。とは言え、その「自警団」に、能力者が居る気配は無い。
 2両の戦車は、ターレットから上をRPGによって吹き飛ばされ、絶望的。
 ただ擱座したAPCはまだ原形を留めていて、負傷者が残っている。

 この状況で、ULTに出された依頼は難題であった。曰く、「町の住民を傷つけず、キメラを倒し、生存者を救出せよ」と。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
シャロン・エイヴァリー(ga1843
23歳・♀・AA
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
終夜・朔(ga9003
10歳・♀・ER
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
アセット・アナスタシア(gb0694
15歳・♀・AA
神浦 麗歌(gb0922
21歳・♂・JG
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN

●リプレイ本文

●歪な町
 酷く、違和感のある光景だ。小さな町の真ん中で、戦車が2両、大破している。そのすぐ横に、擱座したAPC。APCの周囲にはまだ負傷者が居る。けれど、救助の手が伸びる気配は無い。
 大破した車両のすぐ近くに、小さなレストランがある。違和感の元の一つは、ここにあった。入り口に、臨時救護所と書かれた看板があり、住人らしき負傷者が出入りしている。つまり、目の前に救護施設があるのに、APCの負傷者に誰も見向きをしない。
 それから、街中を小銃を抱えた人間がうろうろしている。二つ目の違和感の元である。彼らは正規の軍人ではない。なのに、町のそこかしこに歩哨として立っている。
「なんつー厄介な事態だこりゃ‥‥」
「自分達の身を守るためとはいえ、同じ人間同士で傷つけ合う理由はないよ‥‥」
 アンドレアス・ラーセン(ga6523)は溜息を吐き、その横で月森 花(ga0053)がAPCとレストランを交互に見遣る。彼女の場合、過去に辛酸を舐めさせられた記憶がある。それが僅かに、月森の顔を歪めさせた。
 両手の中のぬいぐるみを抱きしめ、終夜・朔(ga9003)は目を赤く腫らしている。
「何で‥‥皆‥‥仲良く出来ないの?」
 純粋で小さな彼女は、その光景に大きな疑問と、悲しみを見ていた。
 同じ疑問は、終夜だけが抱えている訳ではない。
「複雑ですね‥‥。人類共通の敵はバグアのはずでしょう?」
 神浦 麗歌(gb0922)が零す。その神浦を、終夜はちょっと見上げて、また目を潤ませる。
「正義はぶつかりあうもの‥‥お互い自分が正しいと思うから戦争をするんだよね‥‥だけど誰かが傷つくことは良いことじゃない」
 終夜と変わらない年と背丈のアセット・アナスタシア(gb0694)は、もう少し理論的に考えを口にした。けれども、その疑問の根は終夜と変わらない。
 耳が元気なく垂れた終夜と、アセットの綺麗なツインテールを、シャロン・エイヴァリー(ga1843)の両手がくしゃくしゃと撫でる。
 何かを言い掛けていた叢雲(ga2494)だが、そのシャロンの姿を見て、言葉を飲み込んだ。
 終夜とアセットも傭兵であり、志願してこの現場に来たとは言え、子供と言っていい年齢の2人にさせていい想いではない。だから、戦争に振り回された町の現実なんてこんなものだ、と言いかけて止めた。
 交渉役は鯨井昼寝(ga0488)と柿原ミズキ(ga9347)の2人。鯨井は交渉だけに注力する気で、装備類を持って来ていない。柿原も、鯨井に合わせて武装を解いてゆく。敵意は無い、と分かり易くアピールするためには効果的な方法だが、危険も伴う。
「交渉、上手く行けばいいな‥‥」
 普段の、男勝りな柿原の性格には似合わず、ともすれば気弱とも思える呟き。
「あんま堅くなんなよ。足元見られるぜ」
 アスが聞き逃さず、声を掛けた。柿原は一度振り向いて、彼女らしい笑顔をちょっと見せた後、また真剣な表情に戻る。
「何とか、なってくれるといいんですが‥‥」
 2人の背中を見送るフェイス(gb2501)の煙草の先から、灰が冬の風に舞って、落ちた。

●交渉
 案外にあっさりと、交渉の場が設けられた事に、鯨井は拍子抜けだった。「話を聞くだけだ」とは言われたが、テーブルに着いてしまえば、どうにかなる。
 非武装で、女性2人というのが功を奏したのかも知れない。
 自警団のトップは、町長である人物で、40台半ばといった感じの恰幅の良い男だった。レストランの奥の一室に招き入れられた鯨井と柿原を、値踏みするように無遠慮に見ている。
「ボク達は危害を加えるつもりはありません」
 切り出したのは柿原だった。身を乗り出さんばかりの勢いで、訴える。
 値踏みしていた男は、表情を変えず、真っ直ぐ柿原の目を見た。
「‥‥信用できんな」
 まだ何の要求も語っていないのに、先入観から疑われている。少し厄介かも知れない。鯨井はそう思った。
「話だけでも聞いてくれるんじゃないんですか? ボク達はまだ何も――」
 柿原の訴えは、男の言葉によって遮られる。
「UPCの政策が危ういと言って、我々に武器を与えた連中も、一言目はお嬢さんと同じ事を言ったよ」
 ひとつ息を呑んで、柿原は身を乗り出したまま、黙ってしまった。
「‥‥同じことを言って、あの蠍だ。つまり、自衛しろと言う事だと、我々は判断した」
「そんな‥‥」
 力なく、柿原が呟く。
「経緯についてはお察ししますが、周囲全てと敵対と言うのは、あまりに不利ではありませんか? 見たところ、負傷されている方も多いようですが」
 横から鯨井が、至極冷静に切り出す。ちらりとレストランの表に目を遣る。キメラの襲撃により、住民にも負傷者が出ている。当然、このままこの町に置いては危険な容態の者も居た。
 任務は、軍の負傷者と、住民の負傷者の回収である。当然彼らも収容し、然るべき場所へと至急搬送しなくてはならない。
「病院なぞ、車で2時間も走ればある。そこまで家族を運ぶのは、我々がすべき事だ」
 男の返事は、取り付く島もなかった。
「家族や大事な人をを守りたいと思っているのはみんな同じはずです!」
 少し、柿原の声のトーンが上がる。
「では聞くが、お嬢さん。表の戦車に乗ってる兵士は、お嬢さんの家族か? 大事な友人か?」
 柿原は返答に詰まってしまう。これじゃあまるで子供の喧嘩じゃないか。兵士と面識なんか無い。けれどボク達は傭兵で、依頼を請けていて、何より面識は無くったって、バグアと戦う戦友に違いない。けれど、けれど。
「家族や大事な友人なら、勝手に助ければいい。それについては何も干渉しない。でも違うんだろう?」
「違いません! 彼らは戦友です!」
 柿原の声が大きくなる。
「便利な言葉だな。‥‥だが我々は、顔も知らない戦友の為にではなく、血の繋がった家族の為に自衛している。だからそれは受け入れられない」
 柿原は、黙ってしまった。何と返答していいのか、分からない。
「家族の為に自衛していて、そのために武器を与える者と、自ら戦う者と、どちらが家族を正しく愛しているとお思いで?」
 鯨井が横から助けを入れる。
「‥‥我々は、与えられた武器で、家族を守るため、自ら戦っている」
 予想通り、の返答だった。このままでは平行線で、決着は付かない。
「‥‥では、お願いを変えましょう。ビジネスです。そろそろ、時間的にもキメラが動き出すでしょう。こちらに、自衛の協力をさせてください」
「見返りは?」
「その間に、負傷者を救出します。それを見逃してください」
「‥‥面白い提案だな。UPCに着け、というのは諦めるのか?」
「それは、あなた方の考え方を尊重します。こちらは干渉しません」
 鯨井は目線を変えた。乱暴な言い方をすれば、この先のこの町の行く末を見捨てた。自警団と、住民の考え方には干渉しない。ただ、苦戦しているであろうキメラからの自衛を、協力する。その見返りとして、救出作戦を見逃してもらう。
 男は少し考えた後、厳しい表情のまま答えた。
「‥‥いいだろう。君らの仲間に連絡するといい。連絡から10分間だ。10分経ったら、我々は君ら2人を解放して、独自に行動する。それまで君らは、ここで預かる」
「‥‥感謝します」
 男の回答は過酷なものだった。それでも、鯨井は受け入れた。
「ありがとうございます。ボク達は絶対約束は果たします!」
 項垂れていた柿原が顔を上げる。目に、彼女らしい強い光が戻った。

●救出
 APCの運転は月森に任された。万が一を考えての配慮である。上部ハッチから半身を乗り出し、フェイスが即応体制を取る。町の住民を傷つける事はしない。けれども、時間を切っている以上は、救助に手間取ればまた狙われる可能性があった。いざとなれば、武器のみを狙って。そう考えていた。
 終夜が、機動力を生かして先行していた。
 彼女は真っ先にAPCに取り付くと、負傷者は3名。
「怪我‥‥大丈夫‥‥ですか?」
 おどおどと声を掛けながら、それでも甲斐甲斐しく応急処置を施してゆく。
「3人なら全員乗る。急ごう」
 3人でなくても全員乗せて帰る気でいたのだが、担架に乗せた姿勢のまま搬送できるのが助かった、と月森は考えていた。時間制限で何往復できるか分からない。そんな状況で、容態を悪化させるような姿勢を取らせたりはしたくない。
 擱座したAPCのすぐ横に付け、月森はドライバーズハッチから飛び降りる。
「戦車のほうを、見てきます」
 一言、声を掛けて、フェイスも飛び降りる。先行した終夜によって、戦車に生存者は居ないのは分かっていたが、彼はせめて、ドッグタグの回収だけでもしたい、と考えていた。
 3人を担架に乗せて、APCへと乗せる。郊外でヘリが待機している。そこまで、少しでも早く。
 交渉が成立したとは言え、条件付である。周囲にも目を光らせつつ、月森は手早く作業を進める。
 残念なのは、住民の負傷者の救助は許されなかった事だ。丁度目の前が、例の救護所に変わったレストラン。中に入って、せめて重傷者だけでも。
 月森も、終夜も、フェイスも、そんな衝動を抑えつつ、目の前の負傷者に集中した。
「お‥‥お水‥‥」
 APCの後部に乗せた負傷者に、終夜が水を差し出す。ゆっくりと動いた手が、カップを受け取った。

●戦闘
 町の外、すぐ近くまで迫っていた蠍は、自警団の攻撃によって、その足を止めていた。尤も、蠍にしてみれば、これらを薙ぎ払うのは造作も無い事で、それが単純に厄介だと感じたから止まっているだけの事であった。実際、町の住民に負傷者が出る程度には蹂躙されている。
 それが、10分の約束で自警団の攻撃が止まった所で、動き始めた。
 入れ替わりに、殲滅班が向かう。
「背中護るんは俺だ。お前ら全員ゾンビ兵にしてやっから覚悟しとけ」
 アスの声を背中に受けて、真っ先にシャロンが飛び込む。彼女は攻撃を引き受け、他のメンバーの盾となる気でいた。
「いくよコンユンクシオ‥‥私達の敵を倒しに!」
 自身の身の丈ほどの両手剣を振り上げ、アセットが続く。彼女の剣から放たれた一撃が、蠍の鋏を弾く。
 相手によって動きを変えるのか、それとも只の気まぐれか。蠍は足を止めなかった。それどころか、攻撃が激しさを増す。
 薙ぎ払われた長い尾は、近づいたアセットとシャロンを吹き飛ばした。
 そのまま、尾の先の針で、やや離れた所で戦闘を見ていた自警団の1人を狙う。
 ところが、針を伸ばそうとした所で、神浦の矢によって尾ごと弾かれた。
「‥‥させない‥‥お前の相手はこっちです」
 立て続けに2発、3発と矢を放ち、注意を引き付ける。
 援護をしていた叢雲が、弾かれたシャロンとアセットに代わり、蠍の正面へと飛び込む。
「その罪を‥‥撃ち貫く!」
 一度、鋏を大きく振り上げた蠍は、彼の攻撃によって、2、3歩後退する。
「これは、志半ばで倒れた戦車兵の分よ!」
 立ち直ったシャロンが、間髪を入れず飛び込み、振り上げた鋏へ、その剣を突き立てた。
 たった1体のキメラ。
 町の住民にとっては大きな脅威。
 だが、幾度も戦火を潜り抜けてきた彼ら傭兵にしてみれば、たった1体のキメラでしかない。
「一撃必殺‥‥その硬い装甲、撃ち砕く‥‥!」
 アセットが振り上げた、大きな両手剣の一撃は、蠍の動きを止めた。

●歪なままの町
 天秤座が器用に手繰った手綱。親バグア派。与えられた武器。たった1体のキメラ。UPC軍。
 それらに振り回され、愛する家族を守るために歪になった町は、歪な形のまま、平穏を取り戻した。
 負傷者の回収、そしてキメラの殲滅という、目的は果たされた。
 けれども、振り回されて出来た構図はそのまま、何も変わらなかった。
「でも、あの人達の考え、分からないでもないな‥‥。傭兵になる前までのボクも、同じだったから‥‥」
 人質とされていた柿原と、それから鯨井の2人は、その後開放され、他のメンバーと共に帰路に着いた。
 交渉は成功と言えるだろう。無事に救出作戦を遂行し、キメラの殲滅も行えた。けれど、住民の想いにまでは踏み込めなかった。
「結局、俺らのやれる事って‥‥何なんだろうな」
「依頼通り、任務をこなして、成功させる事ですよ。傭兵なんだから、それがやれる事です。それ以上でも以下でもない」
 呟くアスに、叢雲が答える。
「そんな事は――」
「ええ、分かっていますよ。分かっているけれど‥‥。クソッタレとでも言いたくなる。それが人間ってもんです」
 アスの言葉は、フェイスが受け取った。