タイトル:【D3】Simulationマスター:あいざわ司

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/13 23:36

●オープニング本文


 軍隊とは便利なもので、何らかの理由で損耗が出るや、残された人間の感傷などはまったく意に介さず、再び前線へと送り出すための手筈を整えられる。それは、再編成であったり、欠員補充であったり。
 デルタの場合は、その性質上、志願制かつ選抜試験制であるので、前回の作戦での損耗は欠員補充によって充てられた。
 さらに、分隊指揮を担当できる人員が欠員となったため、グレシャムが先任曹長に、ジーニーが曹長にと、一つづつ階級が上り、分隊指揮担当となる。
 ほぼ全滅と言える損失は、だいぶ以前にエコーが経験しているが、損耗率が高いと揶揄されるそのエコーでさえ珍しい事で、デルタには初めての試練であった。

 ブリーフィングルームにベックウィズとロッフェラー、それからアニーが揃う。
 欠員補充に来た新メンバーは、能力的に全く申し分は無かった。
「問題は連携です。6名の連動が重要です」
 そう言うロッフェラー自身も、彼ら新メンバー3人より少し加入が早かった程度で、それも1、2週間程度の差である。
 個人の戦闘能力は一般人にしては水準以上だが、作戦行動の際の効果的な連携と云う点では、新メンバーと同じく疑問が残った。
「この間のような敵だと、厄介か?」
 ベックウィズは、敵に能力者が居る場合を言っている。一般人相手だとか、長距離偵察であるとかは今このまま出発しても問題無いメンバーである。
 ただ、前回のように、確実な罠に飛び込む場合、さらに能力者が敵に居る場合となると、話が違ってくる。
「新チームは、より強固なチームにする事が急務ではないかと思っています。‥‥彼らのためにも」
 ロッフェラーは目を伏せた。
 あの作戦は成功でいい。捜査資料なんかもある程度確保できた。今エドワードのチームが全力で仕事中の筈だ。
 けれど流石に、あの損失は想定していない。
「それでですね、プランですが――」
 アニーが会話に割り込む。
 新メンバーとの連携訓練のため、実戦形式のシミュレーションが計画されていた。
 目標に能力者が居る場合を想定して、の訓練。
 アニーの伝手で、犯人役を務めてくれる傭兵を募り、4車線の道路が交わる交差点に建つビルに立て篭もっていただく。
 ビルの構造は単純で、1階はテナントが入るガラス張り。2階から5階はエレベーターが通じるオフィスフロア。全てパーティションなどは無く、ただ広いフロアだ。
 そこに、好きに細工していただいて――好きに、と云っても限度はあるが――、立て篭もり作戦をしてもらう。
 新生デルタの出番はその後。制限時間内に周囲の情報を収集し、突入作戦を立案し、突入を成功させる。
「目標内に能力者が居る事を想定しますので、覚醒などの制限はしない予定です」
 何枚目かの資料を2人に手渡しながら、アニーが言い添える。
「ここの所の作戦では、傭兵をチームに加えていたが、それは?」
 ベックウィズがロッフェラーに疑問をぶつける。ロッフェラーが着任する随分前から、チーム内に傭兵も加わってもらって、共同して作戦をこなしていた。グラナダの頃からだ。
「まずは、デルタ内部から、です」

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
OZ(ga4015
28歳・♂・JG
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
優(ga8480
23歳・♀・DF
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
遠倉 雨音(gb0338
24歳・♀・JG

●リプレイ本文

●犯人役
 落ちない籠城、と云うのは基本的には有り得ない。過去成功した籠城戦は大概、攻撃側に手落ちがあったりするもので、普通に籠城戦が行われれば、守備側は退路も補給線も絶たれ、敗戦は時間の問題となる。
 では、籠城側が能力者で、攻撃側が一般人の場合どうだろうか。

 手酷く負傷していると云うのに、昔の血が騒ぐのか、翠の肥満(ga2348)は誰が見てもやる気に見えて、あと足りないのは人質だなぁなどと零しつつ、現場に着くなり作業を始めた。
 優(ga8480)が事前に申請したロッカー、デスク、それからカーテンは、既に各フロアに配置されていた。後は、自分達で使いたいように模様替えするだけである。
 流石に食用油とローションは無かった。オリガ(ga4562)が申請したものだが、無くてもまぁ仕方が無いか、と諦めた。そもそも普通に考えれば、ただの雑居ビルには、非常階段に流しておけるほどの量の油やローションは無い。
 1階は、8人全員一致で、捨てる事に決めていた。なにしろガラス張りで丸見えで、しかも階段やエレベーターといった手段を取らずに侵入できて、危険極まり無い。
 開始とほぼ同時にヘリが上空をひっきりなしに飛び交い、外に集まる車両も数台見えたが、そのまま神撫(gb0167)はカーテンを閉めた。
 同じように、遠倉 雨音(gb0338)もカーテンを閉め、それっぽい罠があるようにデスクを配置してみたり、ロッカーを遮蔽物として置いてみたり。
 4階と5階は、カーテンが掛けられた上に、窓際に遮蔽物としてロッカーやデスクが移動された。外からの狙撃を警戒してのものである。遠倉と、須佐 武流(ga1461)も手伝い、それから翠が怪我を推して作業しようとするのを、優に止められた。
 OZ(ga4015)は面白い所に目を付けた。
 エレベーターの現在位置を表示するインジケーターを端から壊して回ったのである。確かに、こうすれば、外からエレベーターの現在位置は把握できない。
 肝心のエレベーターは、5階で止めてある。

「テロリスト役ってのも珍しい経験だよなぁ」
 などと言いつつ、アンドレアス・ラーセン(ga6523)は負ける気は無い。怪我をしているのにやる気が溢れて止まらず、非常階段に牛乳をトラップとして流してきた翠に、彼に代わって力仕事を請け負った優と、それからオリガが非常階段上に設置していったガトリングの、撃ち下ろしの射線を確認している神撫が5階に。
 そのオリガは、遠倉と共に4階に潜伏し、遊撃担当。さらに須佐とOZが加わり、この4人で3階から4階をカバーする。
 照明は落とした。薄暗くなった室内。ヘリのローター音、それから車両の走行音が響き続く中、8人の籠城戦は始まった。

●新生デルタ
 前回の作戦を踏まえて、デルタはチーム全体として新しい戦術を確立する必要に迫られていた。つまり、目標内に能力者が居る場合の対処、である。
 現状ではチーム内に一般人しかおらず、今まで通りの、順番に全てのエリアをクリアリングする手法では、対処しきれない、と考えていた。

 向かいのビルの一角から、5階と非常階段を出入りする翠と神撫の姿を、グレシャムはスコープ越しに見ていた。報告だけして、まだ発砲はしない。
 念入りにカーテンが閉められているのを確認して、再び非常階段を見る。オリガが運び出したデスクを3階の踊り場に、通路を塞ぐように置くのが見える。
「大尉、3人目です。4階」
『まだだ』
 予想通り、彼のボスの回答は「待て」だった。

 非常階段にトラップを仕掛けるのを、アニーは攻撃許可を出さずにそのままにさせていた。そのままにさせて観察を続け、彼らの出入りするフロアを特定する。
 拠点とするフロアを特定し、そこを1度のアタックで制圧する。それがアニーの考えていた作戦であった。
「4階と5階を中心に仕掛けます」
 広げられた各フロアの見取り図を中心に、何名かのメンバーが集まる。グレシャムと、それからビルの死角となる位置から観測をしていたジーニー、さらに斜向かいのビル内から観測をしていたマイクと呼ばれた新任の伍長の報告によって、彼らの出入りの動きは、おおよそ4階と5階に集中している。
「侵入経路は? エレベーターは押さえられている」
 見取り図のエレベーターを指して、ロッフェラーが訊く。
「階段側から行きます。2分隊に分けて、ジーニー曹長とマイク伍長が下から。釣り出せたら、ラペリングで大尉と、ミラー軍曹とウィルソン軍曹が」
 部隊の動きを、アニーが指し示す。階段に罠を仕掛ける、という事は、階段を昇ってくる事を彼らは想定している。
 ならば、階段を昇って、ドアから引き摺り出してやろう、と考えたのだ。昇り始めるのと同時に、別のチームをラペリング降下させる。4階か、5階か、昇るチームに釣り出されてくれれば後背を衝ける。出て来なくても、両方の階を同時にクリアリングする事で不意を衝ける。
「良い案だ、シリング少尉」
 アニーをファーストネームで呼ばない大尉殿は、彼女と見取り図から視線を切ると、部下に指示を与え始めた。

●静
 ヘリのローター音がひっきりなしに続く。時折ホバリングするかのように音源が止まり、その度に室内に緊張が走る。その音源が何事も無く離れてゆくと、やや緊張が緩和される。
 これもデルタのやり方なのだろう。階段とエレベーターに動きが無ければ、空から来るしかない。窓はこちらから目隠しをしたので、外の音には否が応でも敏感にならざるを得ない。
「籠城ってのは案外磨り減るもんだな‥‥」
 窓の外の様子を窺うようにしていたアスが呟く。陽は落ちて、時計は日付を変えようとしている。
「いや、連携の取れた能力者の力、十分に味わってもらいますよ」
 神撫が嘯くが、やはり少し疲労の色が見て取れる。
 交代で休憩を取っているとは云え、この状況。一般人だけならもう音を上げていても可笑しくない。
「こういうモンですよ。‥‥人質が居ればもうちょっと早く終わってたかも知れませんけどね」
 何か思い出したのか、サングラスをしたままでもそれと分かる妙な笑みを、翠が浮かべる。
「楽しそうなのはいいけど、俺は撃つなよ?」
「世の中には誤射というのがあってですね――」
 翠の軽口を、神撫が静止しようとして、全員が止まる。
 またローター音が近づく。そして、すぐ近くで音源が静止する。
 ローター音しか聞こえない天井と、非常階段のドアを交互に見遣った後、優は刀を抜いて、無造作に転がしたデスクの陰に身を移した。

●動
 階段に幾つか、各フロアから引っ張り出してきたロッカーやデスクが転がっていて、これを乗り越えるには気配と物音がする。それを想定した上で、ジーニーとマイクの2名は、非常階段を昇っていく。
 4階に陣取っていた遊撃班が気付き、エレベーターを呼ぶ。
「3階から回り込みます」
 オリガが伝え、エレベーターに乗り込む。彼女と遠倉が、遊撃のさらに遊撃として回り込む。
「まだ人数が分かってないな?」
「伝えます」
 須佐と遠倉が短い遣り取りをした直後に、ドアが閉まる。
「人数分かったら連絡入れっから」
 5階の籠城組に、OZが短く通信を入れる。須佐はドアからそれ程離れていない場所に位置取った。
 複数の気配と物音は、徐々に近づいてくる。

 ずっと止まっていたエレベーターの作動音がした、とアニーから連絡を受けたロッフェラーは、即座にプランを変更した。
 丁度、OZから5階の籠城組に連絡が入った頃。
 至近距離で大きな物音があった時、大概は反射的にそちらに振り向いてしまうか、顔を伏せてしまうものである。
 その物音はプラスチック爆弾の炸裂音で、非常階段側のドアを吹き飛ばした音だった。
 そして、訓練で日に何度となくフラッシュバンを使用しているデルタ隊員は、ピンを抜いてから、小さな缶がアルミニウムの粉末を噴出して、辺り一面を閃光に包むまでの時間を、体で覚えている。
 ドアが弾け飛んだのと同時に投げ込まれた缶は、間を置かずフロア全体を青白い光に包んだ。
 不運な事に、翠と神撫はドアの方向に顔を向け、幸運な事に、優とアスは顔を伏せた。
 顔を伏せた優が手近なデスクに身を隠すのと、アスが神撫の武器を光で包んだのはほぼ同時だった。けれど、神撫と、自作の銃座に座る翠の2人の額に、三点バーストのペイント弾が撃ち込まれたのも同時だった。
「神撫さん、翠さんアウトー」
 昔、どこかで聞いたアニーの緊迫感を削ぐコールを聞いて、相変わらずだと、優は状況判断する余裕を持てた。3人。閃光はまだ残っている。アンドレアスさんは顔を上げられていない。そのまま、出口を塞ぐように遮蔽物を伝って動く。
 20畳は案外に狭い。顔を伏せたままちらりと窓際のロッカーを確認し、陰に飛び込む。直後、アスは優の武器を、神撫にしたのと同じように光に包む。で、それで終わりだった。侵入を許した時、フラッシュバンは回避したけれど、姿は晒していた。
「アスさんアウト!」
 奴らお得意の無駄口を聞く暇も無かったが、そう云えば奴らは仕事中は黙々とこなしているな、とアニーの声を聞きながら思い出していた。

 5階の爆音を聞いて、須佐はドアを開けた。3階に降りたオリガと遠倉に、5階に回るようにOZが通信を入れる。
 ドアを開けた須佐は、丁度昇ってくるジーニーと鉢合わせた。
「‥‥俺に銃は通用しない!」
 咄嗟に引き掛けたトリガーよりも早く、懐に飛び込んで銃を蹴り上げる。そのまま、もう一度蹴りを入れ、ジーニーを倒した後、後続はそのままに5階へと飛び込む。
 マイクの銃口は素早く階段から5階のフロアに飛び込む須佐を追っていて、OZには気付いていなかった。
 グラップラーである須佐の速度は、マークスマンでも追えない。スナイパーである自分は別。ならば。
 素早くマイクの側頭部に銃口を突き付け、トリガーを引く右手を捻り挙げる。そのまま、階段へと出た。
 興味があった。こういう状況で、デルタはどう動くのか。恐らく、撃てないのではないか。
 ところが。
 向かいのビルからのトレーサーは、あっさりとOZの頭部をペイントで染めて、同時にOZがトリガーを引いたマイク伍長の頭部も、ペイントまみれになっていた。
「‥‥よくやるぜ。人道的じゃねーよ」
「悪いね、うちのボスの方針なんで。‥‥あ、民間人には人道的よ?」
 アニーのコールを聞きながら、2人はちょっと呆れたように笑いあった。

 オリガと遠倉の、遊撃組の2人が後手を踏んだのは、フロア毎順番にアタックしてくると思っていたためである。ところが、順番を飛ばして来られたため、作戦に少しズレが生じた。
 それでも、こういう状況も想定していたし、破綻しなかったのは、2人が移動にエレベーターを使用したためである。
 デルタも、エレベーターを使用される事は想定していたが、OZが階数表示のインジケーターを破壊した事もあって、まだ2人の姿を確認出来ずにいた。
 非常階段側に回り込んだ優と、4階から5階に移動した須佐に対して、ロッフェラー以下3名は攻守が逆転した状態にあった。
 エレベーター側を背に、遮蔽物に隠れながら攻撃を繰り返す。それに対して、須佐も優も隙を窺ったまま動けずにいる。
 弾幕を切らすと接近を許すと分かっているのか、銃撃が途切れない。
「横に出ます」
 優がまたデスク伝いに動く。と、その時。
 エレベーターのドアが開いた。
 盾を構えたオリガの陰に入るようにして、遠倉がトリガーを引く。
「ミラー軍曹アウト!」
 アニーのコール。デルタにしてみれば、万事休す。オリガ、それから遠倉、遊撃班の2名の所在を確認できないまま突入した手落ちである。
 籠城した8人にしてみれば、作戦勝ち。遊撃班を残しておいた事が結果となった。

●デブリーフィング
 翠は少しがっかりしていた。折角気合いを入れて設置した罠だったのに。結局ロッカーを開けてもくれなかった。
 ちょっと昔を思い出す。あの頃相手にしていた連中なら、きっと開けてくれたろうに。おまけにOZさんが人質取るとか面白い事――
 小さな発砲音で、彼の思考は途切れた。
「怪我してんだから、おとなしくしてろっての」
 背後からOZの声が掛かる。どうやら自分の仕掛けた罠を解除しようとして、失敗したらしい。
「あー、後はやりますよ‥‥」
 オリガが割り込む。翠はまたちょっとがっかりしたまま、その場を2人に任せた。

「大したものだが、これからもあまり頑張らないで欲しいね」
 須佐がジーニーに肩を貸す。いくら訓練とは云え、蹴りを直接食らって只では済まない。受けた腕は腫れていた。
「良い蹴りだったぜ。今度は貰う前に逃げるようにするよ」
 肩を借りながら、苦笑いで返す。
 結局、デルタの戦術はまだ改良の必要があり、けれど方向性は間違ってはいない、という手応えをアニーは得た。今回敵に回ってくれた彼らは、きっと助けてくれるんだ。こんなに心強い事は無い。
「俺は自分の出来ることをやって、前に進みたいと思う。過去を忘れることは出来ないし、失った人は返ってこないけど‥‥彼らのためにも前を向いて行こうと思うんだ」
 神撫さんはそう言ってくれた。アニーが信頼を置いて助けを求められる人達はここに居る。
「新しい面子、今日で覚えたぜ。あの3人の事も忘れないケド」
 アスに声を掛けられた。別段何か意識した訳ではないが、笑顔でアスの顔を見返す。
 突然、くるんとアスが背を向けた。
「悪い‥‥実は結構涙脆いんだわ。大丈夫のつもり、だったのにな‥‥」
 声が僅かに震える。
「ラーセン、泣くのはお家に帰ってからだ」
 突然アニーが妙な声色を使ったのに、思わずアスが振り向く。
「‥‥って言いますよ、きっと、あの3人なら」
 アニーの笑顔に釣られて、アスの表情も綻んだ。